†第16章† -45話-[船上特有の惨状]
【新約:特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。】
【異世界と混ざった現実世界でデスゲームとスキルライフを満喫する!~原生林に飲み込まれたキャンプ場からお送りします~】
【地球消滅ENDで死んだ私は、神様の異世界救済枠に選ばれたので故人の為にも頑張って生きていきますっ‼】
・上記3作品も投稿し始めました。よろしくおねがいします。
一方その頃。
勇者プルメリオPTが大魔王城の攻略を進め、水無月宗八が仲間を連れ破滅教団の施設を探索していた時———。
アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダは仲間を引き連れて島国リクオウに向かっていた。
「アル姉ぇ!海の上走ってる!凄いんだよぉ~!」
海面を裂いて進む船上で、海を覗き込んでいた猪獅子タルテューフォが振り返りアルカンシェを呼ぶ。
すでに何度も行われたやりとりに、アルカンシェは笑顔で応える。
「海は危険で渡る事は出来ないというのが常識でしたけど、まさかこんな機会で乗る事になるとは思いませんでした」
アルカンシェの側で呟くのは、風精使いマリエルだ。
彼女限定で言えば、空を飛ぶことが出来るのでアルカンシェに付き合って乗船する必要は無かった。
しかし、マリエルが言うように海には大小さまざまな魔物が船を沈めてしまう為、渡航は出来ないのが常識として全員が認識していた。
———それを可能とした存在と繋がりを得るまでは……。
「ふふふ。これもお兄さんの導きですね……」
肌に当たる心地の良い海風が気持ちよく。
アルカンシェは瞳を閉じて船旅を楽しむ。
島国リクオウ。
仲間のリッカ=ニカイドウの父親であり、ユレイアルド神聖教国で鍛冶を営んでいるマサオミ=ニカイドウの出身国。
ただし、鎖国している封建的な国である。
君主ニカイドウ家の末息子であったマサオミは、運良く遭難して流れ着いたルビディナと出会い、リッカを授かった。
子育てをしながら鍛冶師としての腕を磨き続けてきたマサオミだったが、リッカが十歳になった頃。
当時、君主であった長男の体調不良を理由に担ぎ上げられそうになった事で出奔。
妻ルビディナの故郷であったユレイアルド神聖教国に身を寄せる事となったのだ。
では、どうやって危険な海を渡って来れたのか?
宗八が茶菓子として出されたリクオウの菓子はどうやって仕入れているのか?
何かしらの手段がある事を宗八は認識しつつも、その時は深く問うことは無かった。
アルカンシェは瞳を開き、船を先導する者に視線を移した。
———海恵丑。
陸の猪獅子と対となるとされる強力な魔物だ。
その魔物が先導する事で、船に近づこうとする魔物が悉くその身を翻す。
つい先日、魔法ギルドに訪問した宗八はギルドマスターであるボッタルガと出会ったのだが、彼の正体が海恵丑であった。
その時に魔道具製作を手伝う事と引き換えに、一族も助けて欲しいと宗八に懇願。
結果、争ってもいないのに軍門に下った。
「秘密にしていたわけでは無いのですが……、私は小さい頃に一度お世話になった程度だったので……すみません」
謝罪するリッカにアルカンシェは首を振り不要だと伝える。
「伝手を持ち海恵丑を渡航の手段に利用していたのはニカイドウ家限定の話だそうです。その縁でリクオウ周辺には海恵丑も多く暮らしていて、近海はそれなりに安全だそうですよ」
宗八がボッタルガから得た情報に、リクオウとの取引が含まれていた。
そこからマサオミに確認を取り、巡り巡って今回船に乗ってリクオウを目指す運びとなった。
同乗するメンバーはアルカンシェを筆頭に側近が揃う。
風精使いマリエル。闇精使いメリー。火精使いリッカ。地精使いタルテューフォ。
加えて、君主との折衝役にマサオミ=ニカイドウと妻ルビディナも同乗している。
この船もニカイドウ家所有の船なので関係者も複数人乗ってはいるが仕事に従事している為、アルカンシェ達はお客様として船旅を楽しんでいた。
「水が豊かなアスペラルダだとしても、遠洋に出たのは私達が初めてかもしれないわね」
船上を駆けまわるタルテューフォと保護者のようにその後ろに付いて回るマリエルの様子を眺めながら、アルカンシェが溢す。
漁師が海に出ても陸から見えなくなる程に離れることは無い。
大型で危険な海の魔物に襲われないギリギリまで出る沿岸漁業が漁師の仕事なのだ。
「海での戦闘となると、足場が船の上のみですからね。海の中の魔物の動きが分からず、近距離遠距離どちらも手出しが難しい状況では、騎士や冒険者と言えど船を守る事は出来ないでしょう」
傍に控える侍女メリーがアルカンシェの言葉を引き継いだ。
水平線に近い位置で小型の魔物が水面を飛び跳ね、その後を大きな口が飲み込む。
陸よりも不自由な海では、あの小魚のように人間は弱者だった。
「メリーは不安?」
アルカンシェも成長して、今ではメリーと視線の位置が変わらない。
少々顔色が青い大事な侍女を心配してアルカンシェが問い掛ける。
———しかし、その理由はアルカンシェとは無縁の代物であった。
「いえ、少し船酔いしておりまして……」
海に対する不安や恐怖では無く、単純に揺れに酔っただけ。
普段から水精アクアーリィの卓越した魔法操作で無茶苦茶な≪水駆疾走≫で鍛えられたアルカンシェは鍛えられていた為、メリーの症状を船酔いであるという懸念がすっかり頭から抜けていた。
可愛らしくコテンと首を傾げるアルカンシェに、侍女メリーは精一杯の笑顔で答える。
『全然大丈夫じゃないでしょ。クーほど充実はしていないけれど、影の中なら揺れも無いし少し休んだらどう?』
声を掛けて来たのは、メリーの新しい契約精霊の闇精クロエだ。
アルカンシェ達とは反対に船尾に精霊達は集まり波の行方を眺めていた。その輪から離れメリーの状態に気付いて声を掛けたのであった。
闇精クロエの言葉でようやっとアルカンシェはメリーの状況に得心がいった。
「メリー」
「……はい」
アルカンシェの視線が鋭くなり、メリーは気まずくなる。
「クロエの影で休みなさい。あちらに着いたら十全に働いてもらいます」
「かしこまりました」
厳しい口調の中にある優しさを理解し、メリーは大人しく影へと沈んで行った。
「助かりました、クロエ」
クロエの背後から水精ポシェントが顔を覗かせているのに気付きつつ、アルカンシェはクロエに声を掛ける。
水精アクアーリィと違い、ポシェントやクロエは成熟しており別行動も少なくはない。
時折こちらの様子を見に来る契約精霊に無事な姿を見せる事で、ポシェントは顔を引っ込めた。
『別に感謝は必要ないわよ。メリーは私の大事な契約者なのだから、体調を気遣うのも契約精霊の役割だと考えただけだもの……』
人間の地位を考慮しない精霊であるクロエの言葉はまっすぐだった。
単にメリーを心配しただけ。
その言葉はメリーを姉のように慕うアルカンシェとしても嬉しい言葉だった。
「ありがとう、クロエ」
先ほどよりも表情が年相応のアルカンシェに対し、闇精クロエも気恥ずかしくなる。
『だから、気にしないでいいってば。私は船尾に居るから何かあったら声を掛けて頂戴!』
頬を染めた闇精クロエが姿を消すと、次にタルテューフォと契約した地精ウォルベズがアルカンシェに近づいて来た。
『アルカンシェ様』
大柄な体系と岩を彷彿とさせる肌の大男が声を掛けて来たが、アルカンシェは泰然とした態度で応える。
「ウォルベズ、どうしましたか?」
問い掛けたアルカンシェに対し、何故か接触してきた地精ウォルベズの方が言葉を濁す。
何度か口をパクパクさせたところでタルテューフォがアルカンシェと共にいるウォルベズに気が付き抱き着いた。
本来体重が重いタルテューフォもウォルベズも重力操作で体重を軽くしている。
それでも勢いが異常なタルテューフォの突撃には、ウォルベズも身を固くして構える必要があった。
「うおー!ウォルベズ!アル姉ぇと何を話していたのだっ!?」
「ちょちょちょ、タルちゃん!? 今は離れていた方が良いと思うなぁ……アハハ」
興奮して周囲が見えていないタルテューフォに代わり、マリエルは二人が話し始めたばかりと把握していたので慌てて引き離す。
「ほーら、船尾はまた違った景色だよぉ~っ!姫様とウォルベズはまだ話し足りないみたいだから船尾に行こうねぇ~っ!」
よくわからぬまま引き剥がされマリエルに連れていかれたタルテューフォを二人で見送り、改めて視線が絡む。
また少しウォルベズの反応を待つ時間が過ぎ、ようやっと彼は声を発した。
『……船速が速すぎて船員が八割酔っています』
彼の報告に慌てて見回せば、確かに船員の表情が死んでいる。
「……っ!そういう重要な話は早くして頂戴っ!」
現在乗っているこの船は、本来なら人が漕ぐ必要があった。
それをアルカンシェが魔法で走らせていたので、本来のスピードを大きく凌駕する速度で海原を駆け抜けている。
その結果、メリーだけでなく荒波に慣れているはずの船員すらも船酔いに襲われ、船は半ば機能不全に陥っていた。
波ひとつに高く打ち上がる船が船全体に影響を及ぼし、道半ばで船員の大半がグロッキー状態だ。
その様子を冷静に見つめていた寡黙な地精がようやくアルカンシェに報告した事で、速度は常速へと落とされる。
「船に不慣れだったのは申し訳ないけれど、今後気付いたことは早めに報告して頂戴」
だから、ニカイドウ家が甲板に顔を出さなかったのか……。
赤面したアルカンシェの八つ当たりにも似た言葉に、地精ウォルベズは普段と変わらぬ顔色で返事をするのであった。
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