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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第03章 -港町アクアポッツォ編-

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†第3章† -07話-[精霊殺しのオベリスク]

 ピリリリリリリリ・・・

[カティナから連絡が届いています][yes/no]


 連絡をしてから約1時間経ってからカティナから連絡が来た。

 生活リズムが狂ってる人はコレだから困るよな。


「はいはーい。引き継ぎが終わったのかぁ?」

〔おぉ、・・がったデスヵラ!今どこ・居るん・スカァ!?

 飛・・・しても座標特定が・・なくて・・・いし、

 コー・・繋がりも悪い・・ケドォ!?〕


 先程こちらから連絡した時も確かに感度が悪かったが、

 ここまで音が飛ぶなんて事は無かった。

 もしかして、オベリスク近辺をうろついているだけで、

 揺蕩う唄(ウィルフラタ)の機能を低下させているのか?

 飛び飛びではあるが、オベリスクが有るせいで座標特定が出来ないという事なのだろう。


「場所はアクアポッツォにある離れ小島、

 ネシンフラ島にいる。少し待ってくれ!」

「カティナさんですか?」

「ずいぶんと引き継ぎに時間がかかったようですね」

「オベリスクのせいで転移の座標指定が出来ないらしい。

 コールも不調になっててやっと連絡が繋がったという感じのようだ。

 俺は一旦離れてカティナを連れてくる!アクア!」

『《氷纏(マテリアライズ)!》』

「『シンクロ!』」

「《精霊纏(エレメンタライズ)!》」


 [竜]になって一気に木々よりも高い位置まで昇り、

 ダッシュでオベリスクから離れて村近くまで来ると、

 ここまでは影響がないのかコールの音質も少しずつ回復する。


「カティナ、聞こえるか?」

〔ノイズはかなり小さくなりマシタ!

 座標はまだ乱れているデスヨォ・・・もっと原因から離れられマスカァ?〕


 すでに村に近く、空を見上げた村人の幾人かには姿を見られている。

 引きこもりのカエル妖精になら見られてもかまわないと思うが、

 島外の人に見られると余計な噂が立ち巡り巡って、

 魔神族に警戒される危険もある。


「上に昇るぞ」

『あい~』


 ぐんぐんと昇り、おおよそ5分ほど昇った辺りで転移可能となった。


〔座標特定が出来たデスヨォ!すぐに行きますカラネェ!〕

「あ、いま空にいるんだけど・・・」

『え?あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


 俺の忠告は一歩遅く、何の覚悟もないまま転移してきたカティナは、

 俺の隣に現れたと思った瞬間に落下を始める。

 急いで転回してカティナに横付けする。


「カティナ!しがみつけ!」

『アニキィィィィィィ!!』ガッシ!

「っておい!せめて腕にしがみついてくれよ!

 体にしがみつくな!動き辛いだろうが!」

『助けの要望に応じたら、

 空の上に転移させられる精霊の身になってほしいデスケドォ!!』


 俺の指示に素直に従うのはいいんだけど、

 手足を俺の体に絡みつけてしがみつくのは勘弁してくれ。

 ただでさえ精霊ってのは綺麗な造形の顔をしているし、

 カティナはそれなりの膨らみを持っているのに、

 相当の薄着に白衣・・・じゃなくて黒衣を纏うだけだから、

 かなりダイレクトに胸の圧力を感じる。

 その気が無くても気になっちゃうだろ!男なんだからっ!

 まぁ腕も含んで縛られているから不自由ってのもあるけどな。


 カティナが文句を言っているうちに減速を始める。

 一旦落ち着かせてからでないと言うことを聞いてくれなさそうだ。

 高度をそのままゆっくりと下げていき、

 地面に辿り着く頃にはカティナも恐慌状態から解放されていた。


『あちしは空が嫌いになりそうデスカラァ・・・』

「いや、本当にすまんかった。

 俺を目標に転移してくるのをすっかり忘れていた」

『セリアといいアニキといい、

 あちしの扱いがひどくないデスカネェ!』

「助けられてるし本当に感謝もしてる。

 今回はほんとうにすみませんでした」

『はぁ・・・、で?

 問題の代物はどこデスカ?』

「あ、あぁ。じゃあ連れて行くな」


 今度は以前メリーに試してもらった、

 尻尾の付け根に乗って行く方法を敢行したところ、

 カティナは生粋の研究者ということがわかった。

 なんと、バランスを取ることが出来ず、

 尚且つ乗っているだけなのにすごい早さで疲れを訴えてきた。


『拷問に次ぐ拷問デェス・・・』

「体力ないんだな・・・」

『あちしは研究一筋の研究精霊デスケドォ!

 運動なんて出来なくていいんデスカラァ!

 歩かなくても転移すればいいんデスカラァ!』

『ますたー、どうする~?』

「お姫様で行くしか無いだろ」

『お姫様?今度はどんな移動法デスカァ?』


 連れて行くだけでこの苦労はなんなんだろうな。

 お互いの都合が合わないと、ここまで噛み合わなくなるのか。


 面倒だからヒョイッと抱え上げて飛び上がる。

 後ろに乗せていたときは俺に風が当たってカティナまで届かなかったが、

 お姫様抱っこにすると俺より前にカティナが来るため、

 速度は先程とは違いゆったりとした速度で進める。


『おぉ~!これは良いデスケドォ!

 首も腰も楽ちんデスカラ!

 ただちょっと寒いデスネww』


 薄着に黒衣だからな、そりゃ寒いだろうが、

 こちらとしては一刻も早い解明をしていただきたいのだ。

 我慢していただこう!



 * * * * *

 お兄さんはカティナさんを迎えにオベリスクから離れていきました。

 アクアちゃんで向かったのはまだ日中と言うことで、

 クーちゃんと精霊纏をすると体が焼けるからですね。

 クーちゃんもそれがわかっているのか、

 声を掛けられなかった事を特に気にしている様子がありません。


『あの小僧が新しい精霊使いか・・・』

「ヴォジャノーイ様も契約をされていたのですか?」

『そうじゃな・・・儂も含めて今の大精霊は皆、

 契約を交わしたことがある者達じゃよ』

「代が変わっていないテンペスト様もということですか?」

『そうじゃよ。

 でなければ、大精霊になんぞ就かんじゃろうな』

「???」

『フフ・・・わからなくとも良い。

 お前達はいまの生活を繰り返して幸せになってくれればな』


 なにやら世界の秘密について含んだ言い回しをされました。

 確かに人数という意味で見れば、

 この世界は人間が回しているように見えますが、

 その実、四神に据えられているのは精霊種だし、

 人間の冒険や生活を影で支えてくれている妖精種の存在も欠かせません。

 同じく獣人の中にもミルクやお肉を世界に出荷して、

 食生活の面を支えてくれている。


 やっぱり、まだ私達が知らない情報がありそうです。

 おそらく魔神族はその部分に近付こうとしている、

 もしくは既に情報は入手していて、事を起こそうとしている?


『あまり考えすぎるな。いまはまだ言えないことも多い。

 じゃが、いずれ時が来たら誰かが口を開くじゃろう。

 あのテイマーがマスターになるかどうかものぅ・・・』

「精霊使いに種類があるんですか?」

『そりゃそうじゃ。小僧のようなタイプは初めて見たが、

 世界には精霊使いが幾人かおる。

 とはいえ、お互いが出会うには難しいとは思うがのぉ』

『テイマーとは何でしょうか?』

『お主は浮遊精霊の内から契約しておるから知らぬか・・・。

 テイマーとは精霊と契約を果たした者の事で、

 マスターとはその中でも1番精霊との絆が深い者のことじゃな。

 質というのはわかるかの?』


 精霊使いの種類の話になると、

 クーちゃんが質問を挟みました。

 彼女たちが普段口にするマスターと、

 ヴォジャノーイ様がいうマスターは違うもののようです。


『わかります。

 前の町からお父さまは浮遊精霊が見えるようになりました。

 それをスィーネさんは精霊使いとしての質があがったからと仰っていました』

『さよう。質とは人間の冒険者のみに影響するものでな。

 剣士は剣を握ったときの動きが変わっていくし、

 魔法使いなら魔法の扱いが息をするようにスムーズになる。

 そして、精霊使いも精霊との絆が深まれば、

 契約している精霊の力を解放していける他に、

 自身も本来精霊しか持ち合わせない制御力も操れるようになる』

「力の解放と制御力・・・力の解放はクリアしておりますね?」


 メリーがいうように、見た限りでは、

 お兄さんとアクアちゃん達の絆は深くなっていく一方ですし、

 マテリアライズや裏属性魔法の開発、そして精霊纏。

 力の解放は進んでいるように見えます。


『制御の方も魔方陣や詠唱なしに魔法を使われておりました』

「いつですか?」

『クーが加階した時、

 周囲にお父さまの魔力で編まれた泡がいっぱい浮かんでいて、

 とても綺麗でした』

「私それ見た事無いですぅ」

「姫様、私もですよ。仲間はずれではありません」

『ふむふむ、なかなか順調に精霊との絆を築いておるようじゃ。

 契約精霊が幼い事以外は、まぁ他の精霊使いと良い勝負じゃろう』

「他の精霊使いとお会いになられた事が?」

『いやいや、儂はあまり人前に出てこないからのぉ。

 時折知り合いと話をするときに聞いた事がある程度じゃ。

 とはいえ、どのテイマーもそれなりに成長した精霊と契約を結んでおるがのぉ』


 別に勝ち負けではないと理解はしていますが、

 お兄さんの柔軟性とアクアちゃん達の絆の力は負けてないと思います。


 鼻息を荒くしているうちにお兄さんが戻られたようです。

 何故かカティナさんをお姫様抱っこしているのを見て少し胸がムカッとしました。



 * * * * *

「待たせたか?」

「いえ、雑談をしていましたから問題ありません」

「内容は落ち着いた場所で改めてお伝えいたします」

「わかった」


 カティナを抱えて地面へと降り立つ。

 アルシェがいうように雑談をしていたようだが、

 なんでアルシェはフンスフンス鼻息を荒くしているんだ?

 カティナを地面に降ろし、アクアとの精霊纏も解除する。


「お疲れ、アクア」

『つかれてないよ~、だいじょうぶ!』


 アクアの頭を撫でて、ヴォジャノーイへと向き直る。


「お待たせしましたヴォジャノーイ様。

 あの黒い柱を調べにきてもらったカティナです」

『娘の言ったとおり雑談をして居ったから待ったという認識は無い、

 気にしないでいただこう。

 して、そちらの闇精霊ならば黒の柱をどうにか出来るのか?』

『出来る出来ないはまだわかりませんデスガ、

 調べた結果をお伝えすることは可能デスカラァ!』

『わかった、よろしく頼む』

「俺たちにしてほしい事があれば協力する」

『魔道具をいくつか持ってきているデスカラ、

 大丈夫だとは思うデスケドォ、

 もし不調になったら協力お願いしますデスネェ!』


 調べると言いつつ、

 何故かきょろきょろと何かを探すように足下を調べている。

 何を探しているんだ?


『ところでクーはどこにいますカ?』

『アネゴ、上ですよ』


 カティナは俺より低いので、

 俺の顔のそばまで寄ってきていたクーが視界に入っていなかったようだ。

 そして、進化したクーの姿をいま、初めて確認したのだ。


『おぉぉぉ!!クー!

 進化できたのデスネェ!とっても似合ってて可愛いデスカラ!』

『ありがとうございます。

 時間があれば今夜にでもお話ししましょう』

『デスネ!ならば、とっとと調べちゃいますからネェ!』


 いまさらながら、

 おとなしいクーと騒がしいカティナが話しているところを見ると、

 クーがカティナに懐いているのがよく分かるな。

 時々コールで話をしている事はわかっていたし、

 親戚のような扱いでカティナはクーを可愛がっている。

 俺達以外にもうちの精霊を大切に扱ってくれる人が居るというのは良いものだなぁ。


『話は軽く聞きましたデスケド、

 まずは魔力測定からデスカネ・・・おぉ、見事に0デスネ。

 周辺魔力は・・・これまた低い数値デスカラァ・・・。

 これなら転移も出来ない理由としては十分デスケドォ・・・』


 温度計に見える小さめの棒をオベリスクに当てたり、

 ブンブンと振ったりしてぶつぶつ独り言を喋っている。

 研究者はこういうところがあるからな、

 わかってるからな、

 変質者とは思わないからな。

 その棒を口に咥えながら、別の魔道具を取り出した。


『次は減衰量デスケド・・・ほうほう、なるほど。

 これは・・・・こうなるわけデスネェ・・・ははぁ・・・。

 では柱の有効射程は・・・・うーん?広がってるデスカ?

 ふーむ、あちしの魔力は・・・おぉ、マジデスカァ!』


 その後も独り言を喋りながら調査を進めるカティナを黙って見守りながら、

 時折聞こえる言葉をみんなでどういう意味なのか、

 こういう事では無いのかと予想を立てながら結果を待った。


「ご主人様、姫様。今のうちにお腹に入れておいてください」

「あぁ、すっかり忘れてたな。ありがとう、メリー」

「いただきますね」

『あくあもたべる~』

『お姉さまはこちらの食器を使ってください』


 いつの間にか背後で先程と同じように食事の準備を、

 メリーとクーがしていたようだ。

 手渡された肉と野菜が入ったスープを食べながら待つことにしよう。


 そして・・・


『さて、アニキ達が発見したこの黒い柱デスケドネ、

 予想通りというか想像以上にヤバイ代物でしたデスカラ』

『説明を頼むぞい』

『まず、この黒い柱・・・えっと、[オベリスク]デスカァ?

 これには魔方陣などはなく、鉱石としての機能が魔力霧散。

 オベリスクを構築する鉱石は天然の物では無く誰かが造った物になるデス。

 魔法減衰の効果はもともと弱い効果だったようデスケド、

 近くの生物が微量に持っている魔力と、

 付近にいた浮遊精霊の魔力を散らす事で経験を積み、

 今も徐々に効果範囲を広げているデス』

「それって俺たちが居る事によって効果が上がっていってるって事か!?」

『デスネ。ただ、急いで離れたとしても、

 もう島全体まで広がっていますデスケドネ』


 じゃあ、俺たちがオベリスクを調べに来なかったら、

 効果範囲はこの辺一帯の狭い空間だけだったって事か?

 不用意に近付いて不利になる事に手を貸していたとか・・・。


『話を続けるデスカラ。

 オベリスクの霧散効果は人間や精霊が放つ魔法を打ち消すだけで無く、

 魔法生物からの直接攻撃も無効化するようデスネ。

 ヴォジャノーイが防がれたのもこれが原因デスカラ』

『なるほどのぅ、ではこれが壊せるのは人間の物理攻撃だけという事かのぉ』

『早い段階のオベリスクであれば、

 強い魔法で壊す事は可能デスケド、

 すでにこの場にいる者では強力な魔法か物理以外は効きませんデスカラ。

 精製魔法の魔法武器も当然効果で強度が下がるデスヨ?』


 つまり、セリア先生が使う加速魔法[ソニック]も、

 アルシェの吶喊も普段の効果は発揮できないし、

 竜のアクアブレスも効かないって事か?

 俺はSTR特化じゃないし、武器も物理寄りの物は持っていない。

 しかし、いまこの時にもカエル妖精の内蔵魔力は拡散を始めているという。


「お兄さん、どうしましょう・・」

『ますたー・・』

『お父さま・・』


 考え方を変えよう、

 魔力霧散はオベリスクに近ければ近いほど効果が上がり、

 ギリギリの範囲ではまだ、霧散ではなく拡散レベルという事。

 効果は広域空間だが、魔力霧散はオベリスク周囲のみ。

 カティナやヴォジャノーイ、アクアとクーが何も訴えないという事は、

 効果が即消失レベルでは無いという事になる。

 だったら、その霧散する空間を超えて威力のある攻撃を打ち込むしか無い。


「どこまで破壊すれば良い?」

『おそらく半分から折る程度すれば停止するデスケド』

「即消失範囲は?」

『ないデスネ。あくまで拡散から霧散までデスケド、

 オベリスクに到達した頃には折る威力はなくなってるデスネ』


 仲間達に振り返り、

 俺の考えを伝える。


「カティナは魔法がすでに効かないと言っていたが、

 それは霧散領域があるからだ。

 その霧散領域を突破さえすれば魔法攻撃で破壊は可能になる」

「具体的に!」

「アクアの竜玉を外殻膜状バリアで包んで打ち抜く!

 多重弾殻射撃なら突破できるはずだ!」

『何枚の膜ですか?』

「多ければ多い方が良い。作れるだけ張れ」


 俺と精霊達だけで行って失敗した場合、

 その分の魔力も経験値となって範囲が広がる事になる。

 今回はアルシェにも手伝ってもらわないといけない。


「アクア、アルシェ。シンクロを出来るようにするぞ」

『あい!』

「わ、私とアクアちゃんでですか!?

 確かに仮契約はしていますが、今まで試した事はありませんよ?」

「問題ない。お互いの絆が鍵となるだけなんだ。

 アクアが産まれてからほぼずっと一緒に行動をしているんだからな」

『おためしだよ~』

「・・・わかりました」


 アクア、アルシェ、俺の3人で手を繋ぎ輪を作る。

 スィーネとの時は俺とアクアのみのシンクロで、

 アクアとスィーネの制御というおかしな組み合わせで、

 俺はアクアを強化するブースターの役割しか出来ていなかった。

 今回はアクアとアルシェがシンクロ出来るようになってくれれば、

 外殻も張りやすくなり、アクアは竜玉に集中しやすくなる。


「『シンクロ』」


 まず俺とアクアがシンクロして、

 互いの体から瑠璃色と水色が混ざるオーラが漂い漏れている。

 アクアと繋いでいない方の手をアルシェへと出す。

 同じく俺と繋いでいない方の手をアクアもアルシェへと差し出している。


「さぁ、アルシェ」

『あくあはあるがすきだから、だいじょーぶだよ~』

「・・・・はい。よろしくおねがいしますね」


 意を決したように俺とアクアの手を握り返すアルシェ。

 次の瞬間には俺とアクアから漏れ出ていたオーラに、

 アルシェも飲み込まれ、俺にもアルシェの意識が認識できるようになる。

 シンクロは魔力総量の一本化と、

 魔法イメージをダイレクトに伝え、

 精霊の制御力も上昇する。

 もちろん契約という絆は必要になるが、

 アクアとアルシェはすでにアスペラルダにて下位契約済みだ。

 出来る証拠はあっても出来ない証拠はない。


「ん、んん。これがシンクロですか・・・。

 頭の中でお兄さんとアクアちゃんを感じて、

 とっても不思議でくすぐったい気分ですね」

「感覚さえ覚えていれば、今後も俺なしでアクアとシンクロ出来るだろう」

「わかりました」

『がんばろうね~』


 さて、これでアルシェともシンクロ出来たから、

 作戦通りにアルシェが外殻バリアを張る事が出来るだろう。

 しかし、うちのパーティはまだいる。

 レベルも練度も足りない現在は猫の手も借りたいところだし、

 猫どころかメイドの手も借りたいところだ。


「クー、メリー」

『はい、お父さま』

「なんでしょうか、ご主人様」

「お前達もシンクロしようか」

『わかりました』

「・・・私は、魔法は不得手でございます。

 それにシンクロは契約があってこそ出来る事であり、

 クーデルカ様と私の間に絆が・・・ありませんし・・」

「師匠と弟子なんだろ?

 それはお互いを認めていないとなれない関係だ。

 クーはメリーに憧れを抱いているし、

 メリーもクーをずっと見てきてくれたと思う。

 だから・・」

『侍従長、大丈夫です!

 クーと一緒にお父さまとアルシェ様のお手伝いをしましょう!』


 クーは基本的に人見知りだ。

 そのクーが自分からこんな事を言っている時点で、

 十分に合格点は出ていると思う。

 あとはメリー次第だな。


「・・・・。

 ふぅ・・・・わかりました。

 クーデルカ様との絆、大切にいたします。

 それと・・・侍従長ではなく今はメリーですよ、

 クーデルカ。フフフ」

「よし、さっそくで悪いが仮契約に移るぞ。

 手を合わせて俺の詠唱を続けて詠唱してくれ」

「『はい』」



 * * * * *

「《水無月宗八の侍女たるメリーが乞う。

 マスター水無月の許可を得、今新たな契約を求む》」

『《マスター水無月の契約精霊たるクーデルカが乞う。

 水無月宗八の侍女たるメリーの下位契約を求む》』

「《契約精霊クーデルカのマスターたる水無月宗八が許可をする》」

「『その身その体は彼の為に・・・共に歩まん!精霊契約!』」


 詠唱を初めてから2人の足下からは黒い粒子の魔力が溢れ出し、

 契約の魔力は少しねじれながらも半透明の何かを形成しつつ、

 空へと昇り始める。

 地面からは黒い茨が方々に伸びていき、

 てっぺんまで魔力の形成が済むと、

 その姿が何なのか誰が見てもわかるようになる。


『花のつぼみデスネ・・・粒子も合わさって綺麗デスヨ、クー』

『懐かしいのぉ。この魔力はオベリスクでも妨害は出来ないのだな』


 そう、魔力にも違いがあるのか、

 他の魔力と違い、この時に噴出した魔力は一切その精彩を欠く事無く、

 最後までつつがなく完了した。


 最後は綺麗な花が咲き誇り、

 茨の先端からも小さな花が咲き、

 一時的にオベリスク周辺にもかかわらず漂う魔力が回復したらしい。


「これからも」『よろしくおねがいします』


 こうしてクーとメリーは仮契約を果たした。

 しかし、これで終わりでは無い。

 ここからさらにシンクロにも参加してもらい、

 最終的には俺たち5人でシンクロを成功させられれば、

 オベリスク破壊はまず間違いなく出来ると思っている。


「手を」

『はい、お父さま。

 さぁ、メリーさんも』

「はい、失礼致します」


 アクア、アルシェ時と同様に、

 俺とクーが手を繋ぎ合い、二人でメリーに手を差し伸べる。

 メリーも侍従としてではなく仲間のメリーとして腹を括ったのか、

 スッと俺たちの手を取ってくれた。

 先程のアルシェの時は確信があったが、

 メリーの場合は確信は持てなかった。

 クーは産まれて1ヶ月しか経って居らず、

 俺とのシンクロも1週間前に出来たばかりだ。

 かなりの駆け足で成長しているとはいえ、

 時期尚早と思わなくも無い。

 成功の秘訣は結局のところ2人の絆、それなのだ。

 俺を挟むのはシンクロの感覚を認識させて、

 2人でもやりやすくする為でもある。


「『シンクロ』」


 俺とクーを黒く輝きつつも所々に銀色の光が宿るオーラが包み、

 その光は俺たちの繋ぐ手を伝ってメリーも飲み込む。


「これが・・・、すごいですね。

 魔法は不得手なので敬遠しておりましたが、

 おそらくこの感動は私しか知らない事なのでしょう」

「今回は俺が補助をしたが、

 自力で行うよりもスムーズに習得出来るはずだ。

 2人でメイド修行するときにでも色々と試すといい」

「かしこまりました」『頑張りましょう』


 これで2組のシンクロに成功した。

 5人分の制御力で竜玉の威力向上と外殻膜状バリアで、

 多重弾殻射撃を行う。

 さぁ、下準備は整った!オベリスクをブチ折ったる!



 * * * * *

「アクアは竜玉に集中、

 俺とアルシェは膜状バリア担当、

 クーとメリーも膜状バリア担当だ。

 今回メリーはポルタフォールの俺と同じで、

 制御力ブースターになってもらう」

「かしこまりました」

「今回初めての別属性同士の協力となる。

 今日まで見てきたお互いを信じろ!

 契約精霊との絆が成功の鍵になる!

 行くぞ!」

「「『はい!』」」

『あい!』


 俺の差し出す左手にアルシェ、メリーがそれぞれが、

 右手と左手を添え、彼女たちの間にクーが挟まる形で輪になる。

 オベリスクまでの距離は約30mほど。

 正直徐々に範囲も広くなり、

 霧散も早くなるならどんな距離でも関係ないと思ったわけだ。


氷纏(まてりあらいず)!』

「『シンクロ!』」

「『水精霊纏(エレメンタライズ)!』」


 俺とアクアを包むように水の膜が発生し、

 瞬時に鋭利な尻尾によって切り裂かれ、

 竜となった俺たちが登場する。


「シンクロ!」


 アルシェの声に反応して俺たちから漏れ出ていたオーラが、

 アルシェにも伝染し、同じく瑠璃色と水色が混ざるオーラを纏う。


「「『シンクロ!』」」


 メリーとクー、そして俺が声を揃えて声を上げる。

 すぐに発生した純黒ながら内部に光を宿すオーラが、

 彼女達の体から吹き上がり、俺の体からも同じく黒いオーラが出てきた。


「ぐっ・・!?」

「お兄さんっ?」

「ご主人様っ!?」

「・・・いや、気にするな。

 正直あまり保たないからさっさと壊すぞ!」


 瑠璃色のオーラと純黒のオーラは混ざり合う事はなくとも、

 自然と渦を巻き、まるでじゃれ合っているかのようにくるくるうねっている。

 いうなれば、共存といったところか?


 クー達とのシンクロから自分の中から何かが溢れてきそうな気配があり、

 同時にとてつもない頭痛が起こった。

 おそらく、精霊使いとしての質を超えた力の行使をしているって事なんだろう。


『ますたー、やるよ?』

「よし、いいぞ」


 繋がる左手から彼女たちの力の流れを感じつつ、

 空いている右手をオベリスクへ向ける。


『りゅうぎょく』


 アクアの呼び声に反応して出現する竜玉。

 まずは威力を上げて、速度も前回の時より速くする。


「アクア、パラメータを意識しろ」

『あい』


 威力:\\\\\\\\\

 速度:\\\\\\\\\

 消費:\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\

 精度:\\\\\\\\\\\\

 残り:\


「アルシェ、1枚目を」

「はい!」


 手から流れ込む冷たい魔力が、

 右手へと流れていき、竜玉の周囲を氷の膜が張っていく。

 次にクー達だ。


「クー」

『はい、2枚目を張ります・・・あ!』


 クーが何かに気付き声を上げた理由はすぐさま分かった。

 アルシェが張った膜がもう消えていたのだ。

 あまり厚くするとアクアの邪魔になるから薄めに張ってもらったが、

 これでは準備しているうちにも霧散されてしまう。


 パァァァァン!!

 そのとき、まるで手を叩くような音が響き渡った。

 その音が響いた途端に、俺たちを囲むように水のベールが包み込んだ。

 視線を音が鳴った方向へと向ける。


『他人事ではないからのぉ。

 準備が出来るまでは儂がお主らを守護しようぞ』

「・・・感謝します。

 アルシェもう一度!次はもう少し厚く頼む!」

「はい!」


 再度、竜玉に氷の膜が張られ、

 張り終えると同時にクーが闇の膜を同じ要領で張る。

 今はシンクロで繋がっているのでアルシェの経験した情報は、

 ダイレクトにクーへと流れているわけだ。

 それを3度繰り返し、計6層の外殻が完成した。

 本当であればもう数層張りたいところだが、

 竜玉でみんなの魔力もかなり持って行かれている為、

 ここが限界であった。


「10mで2枚保ってくれよ。アクア、いいか?」

『ハァハァ・・まっかせてぇ~!』


 ヴォジャノーイの守護により軽減したとはいえ、

 霧散の効果は続いていた。

 減るたびに補完をしていたので、アクアも結構厳しいはずだ。

 俺も辛いし、これで終わらせよう!


『竜玉!!』

「ヴァリアブル!!」

『「カノン!!!」』


 ドパアァァァァァァァァァァァァン!!!!!

 凄まじい勢いで撃ち放たれた竜玉はまっすぐにオベリスクへと向かう。

 10mを超えた時には、まだ1枚目の膜が剥がれていただけ。

 15mで2枚目が剥がれ、18mで3枚目が剥がれた。

 20mで4枚目、21mで5枚目と6枚目。

 残り10mで張っていた外殻がすべて剥がれてしまった。

 やはりオベリスクに近くなれば霧散速度が速くなるのは間違いないらしい。


 しかし、今回の竜玉はアクアと俺だけで組み上がったものではなく、

 パーティメンバーの魔力により強化された魔法だ。

 内部の魔力密度も簡単に霧散出来ない規模になっている!


 26mで撃ち放った時の90%に縮み、

 27mで75%、28mで55%、29mで33%。

 しかし、その大きさは・・・・。







「普段、竜で撃つ大きさじゃボケェェェェ!!!!」







 バキィィィィィィィィィィン!!!!

 という大きな轟音とその背後の海に触れた竜玉が起こした水柱。

 そして、影が俺たちを包み、その影を作る正体は、

 半分に折れ吹き飛んだオベリスクの上半分であった。

いつもお読みいただきありがとうございます

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