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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第16章 -勇者 VS 魔王-

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†第16章† -31話-[ハイエルフ移住計画②]

2025/8月-お知らせ-

各話の文字数が多すぎて修正できない為、【新約:特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。】の投稿を開始しました。遅々とした執筆で更新して行こうと思います。

https://ncode.syosetu.com/n2550kx/

 おめかししたパメラの案内で宗八(そうはち)とプルメリオとパスカルの三人にパメラを加えた四人で町の外れに移動した。

 勇者PTと子供達は向こうに残ってもらい、ある仕事の頼んでいる。唯一青竜(フリューネ)だけが肩に乗っている。

 不幸にも飛び出して来た魔物はプルメリオの近接とパスカルの弓攻撃で片っ端から討伐されていく。

水無月(みなづき)さんは……」

「手出しせんのじゃな」

 二人からの攻める様な視線を一身に受けた宗八(そうはち)は何故か堂々としていた。

「パメラを守る最後の砦だ。任セロリ」

 真顔でお茶目をかました宗八(そうはち)に二人の胡乱な視線が突き刺さる。

 子供達や嫁ならなんらかの返しをしてくれるのに……。


 やがて、パメラが足を止めた事で追随していた三人も足を止め周りを見渡す。

「この辺りなら森になっても村の者は誰も困らないと思います」

 後ろを振り返れば、高低差が少ない土地だからか地平線の先にパメラの村が見えた。

 距離としては4~5kmといったところだ。

 村の近くはなんだかんだで生活をする為の採取や伐採の影響が出るからと、ここまで離れた場所を案内された。

「パスカル殿、如何でしょうか?」

「如何も何もなぁ……。本当にここに森が移動出来るのであれば十分な広さ、としか言えぬな……」

 問われたパスカルは後頭部を掻きながら何もない原っぱを見回す。

 特に平原で出くわす魔物を脅威にも感じなかったパスカルとしては、特段問題は見つからず言葉を濁す。

「強いて言えばここも含めて最近魔素濃度が低くなって息苦しくはあるな。そこが改善すれば完璧と言えよう!」

 人族でいう魔力濃度。これをもう一歩踏み込んだ理解から魔族は皆、魔素濃度と呼ぶ。

 魔族領でもオベリスクは発見されているが見つけ次第破壊を進めているので、その魔素濃度もゆっくりではあるが改善し始めているはずだ。しかし、魔族領全てに魔素が満たされるまではかなり時間が掛かるだろう。


「イクダニム。どうにか出来るかしら?」

 なんでも振る様になってきたパメラが宗八(そうはち)に水を向けた。

 パメラには一切思いつかない方法でも今回もこの男なら……と、信頼の裏返しでもあった。

「出来るぞ」

 もちろん、信頼には答えられる。

 宗八(そうはち)が横薙ぎに腕を振るうと、背で浮いていたカレイドハイリアが七本の木剣に分かれ、地面に突き刺さった。


 パメラは気付いていなかったが、パスカルは宗八(そうはち)と出会った時点で、この剣から精霊樹と同じ匂いを嗅ぎ付けていた。

 つまり宗八(そうはち)が精霊、または精霊樹と深い結びつきを持つ人物であると看破していた。

 その彼の背で浮遊する剣がハイエルフの里に辿り着くや否やパスカル等が信仰する精霊樹の下へひとりでに飛んでいく様は得も知れぬ神秘性を感じたほどだった。


 一本だった剣が七本に分かれると、属性が明確に感じ取れるようになった。

精樹界(エレジュア)解放!」

 宗八(そうはち)の掛け声に合わせ各剣が滂沱とあふれ出す魔力が空気を震わせ噴出し始める。

 瞬く間に魔剣にしても異常な魔力量が。剣一本一本がその魔力を放出する現実にパスカルはおろか、プルメリオも唖然とする他ない。

 魔法に卓越した魔導師でなくとも、濃度が高すぎて万人に視認出来る七色の魔帯が空へと昇り空気に溶けていく。


「これでしばらく待てば、この一帯の魔素濃度は回復するだろう。パスカル殿、問題なければ移転を始めるがよろしいか?」

 宗八の声が、呆然としたままのパスカルの意識を現実へ引き戻した。

「あ……あぁ。いきなりか? 試す必要はないのかの?」

 戸惑いながらも確認をするパスカルだったが、内心では聞くだけ無駄だろうという考えが過ぎる。

 この短い時間でわからされた。

 何かを成すたび、揺るぎなき自信が彼の泰然とした佇まいに滲み出ていた。

 当たり前のように事を成す姿は、人族だというのに神々しくもあった。

 ———そして、今も。


「試す、この程度で? 子供達も居るし、大丈夫ですよ」


 ほら、これだ。

 大事を小事と捉え事も無げに、その身を大きく変化させた竜と共に空へと舞い上がっていく。

 その視線、その表情、その動作すべてが物語る。訴える。これは()()だと。

 あの竜も、里で連れていた精霊の子らも。彼の者に全幅の信頼を置き、疑う事無く成せることを前提で行動している。

「これは……。飲まれてしもうたようじゃな……」

 出会って間もないのに妙に納得してしまう。

 彼の者は只者ではない。それは疑いようのない事実であり、短い間に目の当たりにして来たのだ。

 その存在感は、もはや語ることさえ畏れ多い。いと高き者。


「≪神の心臓(ディバインハート)≫」

 空の上、元の姿に戻った青竜フリューネアネイシア。その巨体の頭上に、宗八は静かに立っていた。

 心臓を強打し叩き起こしながら魔法を発動すると、文字通り胸の奥から神力(エーテル)の生産が始まる。

「≪シンクロ≫」

 ハイエルフの里に残した子供達には、とある仕事を任せていた。

 全員とシンクロした事で視界共有が成され、ハイエルフの森の全容が脳裏で結び付く。

『(お父様。こちらは姉さま、弟妹も含め準備万全でございます。いつでもどうぞ)』

 森の空に散らばった子供達の視界から、ハイエルフが里と認識する範囲を指定する。

 宗八(そうはち)の2箇所で重なる視界には、森と平原に光り輝く境界線が引かれ準備が整った。


「始めるぞ」

『(始めます)』


「『———≪置換(ちかん)≫』」


 ———一瞬だった。

 瞬きをしたわけではない。

 それでも脳が、見間違いだと理解を拒むほどに———非現実的過ぎた。

「我らが……里……」

 パスカルの漏れ出た声には、本当に驚きが込められている事が窺えた。

 宗八(そうはち)のやる事にある程度慣れたプルメリオは、これが出来るなら無理に避難の呼び掛けせずとも、いつもの如く全て強引に町や里を辺境に移転させることが出来たのではないかと呆れながらにその光景を見つめる隣で、パスカルは言葉を失い茫然としている。

「いや、それこそ自分達と魔族の顔繋ぎの為、か……」

 このひと手間も自分が関わっていると思えば、なんだかんだで面倒で遠回りな手段に心を砕いてくれていることは分かる。

 改めて、デタラメでありながら心強い味方なのだと認識し直したところで宗八(そうはち)達が風を巻き起こしながら降りて来た。

 遠くの空からは、精霊の子供達もフヨフヨと浮遊しながら宗八(そうはち)の下に集まって来る。


『パパ~♪』

『お父様、お疲れさまでした』

 弟妹を出し抜き、いの一番に宗八の下へ飛び込んだのは、長女アクアーリィと次女クーデルカであった。

 勢いのまま抱きつき、その後に続く弟妹も次々と宗八(そうはち)に抱きつく。

 瞬く間に子供達磨となった宗八(そうはち)が二人の側に寄って来た。

「これで終わりです。パスカル殿は同胞の下へ向かわれた方が良いでしょう。メリオも森の中で仲間が待っているから行くと良い。俺はパメラ達のところで時間を潰しているから後で来てくれ」

 旅をさせていた勇者PTは今回の件で辺境に来てしまっている。

 旅の再開をするにしても向こうにまた送り届けなければならない為、声を掛けた宗八(そうはち)は返事も聞かずに立ち去っていく。


「あ、イクダニムっ!? 」

 視線だけで追随の指示を飛ばして来た宗八(そうはち)の勢いに押され、パメラも後に続く。

「すみませんパスカル様、私もこれで戻ります。勇者様はまた後程お越しください」

「う、うむ。案内(あない)ご苦労だった。またいずれ感謝に赴こう!」

 その声に自失から復帰したパスカルは慌てて何とか返事を返した。

 やる事をやり終えたとばかりに去る宗八の背へ、一度だけ視線を送った後にパスカルの視線は勇者プルメリオと絡まる。

 自分と同じ様に勝手に指示だけ出された彼は苦笑していた。

「とりあえず、森へ入りましょうか……」

 その苦笑に応える様にパスカルの口角も上がる。

「お主も大概苦労しておる様じゃな……」

 宗八(そうはち)との共有点が、共感が二人の垣根を低くした。

 二人は並んで森の奥へと歩み出す。

 夕陽を背に受けたその背中が、ほんの少しだけ疲れて見えた。

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