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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第16章 -勇者 VS 魔王-

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†第16章† -28話-[広域結界魔道具作製依頼①]

2025/8月-お知らせ-

各話の文字数が多すぎて修正できない為、【新約:特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。】の投稿を開始しました。遅々とした執筆で更新して行こうと思います。

https://ncode.syosetu.com/n2550kx/

 勇者プルメリオがハイエルフと接触し始めた頃。

 水無月宗八(みなづきそうはち)は久しぶりに魔法ギルド本部に顔を出していた。

『アニキィ!』

 ゲートから現れた宗八(そうはち)を出迎えてくれたのは、魔法ギルド所属の幹部でもある闇精カティナだ。

 宗八(そうはち)が足を踏み入れた場所もカティナを頂点とする研究室の一つだった。

「お招きありがとう。忙しいのに無理言って悪いな」

『気にしないで欲しいデスカラァ!アルシェの勧誘は泣く泣く受けられなかったデスケド、今回はチカラになりマスカラァ!』

 魔法ギルドは迷宮(ワンダリング)などから発見されたアーティファクトを研究し、市井に還元する事で生活の向上を目的とする機関である。

 加入出来る研究者も限られるため、資金繰りする時間も無い。

 アーティファクトを魔道具に落とし込み売る事で資金を稼ぐことは出来るが、どうしても研究に時間が割かれ安定した稼ぎにはならなかった。その資金繰りを投資する形で組織されたのが冒険者ギルドである。

 ダンジョンで発見された素材が冒険者ギルドで売られ、魔法ギルドで研究され、アーティファクトを魔道具に落とし込む際の材料に使用される。その研究成果がギルドが運営する売店で売買され、研究資金となる。


 そんな世界の文明を後押しする為の魔法ギルドだが、特にどこかの国が後ろ盾に存在するわけでは無い。

 始まりは研究馬鹿の長命種からであり、研究員が入れ替わってもその血が脈々と受け継がれて今も魔法ギルドは魔道具を産み出し続けている。


『お~!チビ達も皆大きくなってて、あちしは嬉しいデスヨォ!』

 今回は子供達と青竜(フリューアネイシア)も一緒に連れて来ている。

 宗八(そうはち)の周りに広がっている子供達の姿を目にしたカティナは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 特に同族の闇精クーデルカは以前から可愛がっていたこともあり、抱き上げて頬づりまでしている始末だ。


『さっそくギルド長の下へ案内するデスカラァ!大船に乗ったつもりで着いて来て欲しいデスケドォ!』

 今回は破滅(ヴィネア)対策の一つとして相談があり、カティナに無理を言ってギルドマスターへの繋ぎをつけてもらった。

 電光と見紛うほどの発光量を持った光魔石の板が天井から照らす通路を迷いなく進む。

 やがて、辿り着いた部屋は何の変哲もない扉に【ギルド長室】と書かれた看板が提げられた一室だった。

「冒険者ギルドより質素じゃないか?」

『そもそもギルド長の研究は趣味の延長デスカラ。今は運営に重きを置いて研究は私達室長に委任している形デスケド』

 ——コンコンコン。

 カティナが三度ノックを繰り返す。

 扉の向こうでは人の気配があるものの緩慢な動きだ。どうやら椅子に座ったまま眠っていたらしい。


「うぁーい……」

 寝起きと分かる酷い声音で返事があった。

 アポイントメントは取っていたはずだが、大丈夫なのかと視線でカティナに訴えるも肩をすくめ、瞳はいつもの事だと言っている。

『カティナです。入るデスヨォ』

 曖昧な返事だったのに遠慮なくドアノブを握り、カティナは扉を開いた。

 扉を潜り部屋を見渡すとギルドマスターの部屋とはいえ広すぎる事に気が付く。広いと感じたのも束の間、部屋の床にはアーティファクトの研究資料なのか紙と本が高く積まれ、いつ崩れてもおかしくない山が部屋の大半を占めている為か圧迫感ですぐに狭く感じ始める。

『(この部屋を見るとお掃除したくなります)』

 闇精クーデルカが室内を見つめたまま念話を発する。

「(部屋が汚い研究者本人は、どこにどの資料があるか分かっているらしいから片付けると怒られるよ。止めておきなさい)」

 宗八(そうはち)の背後で立ち止まっていたクーデルカを抱き上げ視界を手で塞ぐ。

 メイドとしての教育を受けたクーデルカには、この部屋は大変にやりがいのある汚部屋に見えている事だろう。


 その間に山向こうに進んだカティナは、ギルドマスターの机に近づき意識を覚醒させようとしていた。

『ギルド長!提出した資料に目は通したデスカァ!?お客様を連れて来たデスヨォ!』

 机の上にも紙束の山が築かれ、その陰でギルドマスターは椅子に凭れたまま眠りこけていた。

 カティナが強引に揺さぶると、被っていた猫耳付きのフードがずれ落ちる。

 現れたのは、頭部から伸びる二本の触角——虹色に揺らめき、淡い光を帯びる異様な器官であった。


「まさかな……」


 この世界で聖獣と呼ばれる二対の魔物。

 一つは己が仲間タルテューフォの属する【猪獅子ヤマノサチ】。

 もう一つは海を支配する【海恵丑ウミノサチ】。

 宗八は記憶を呼び起こす。眼を通した文献にの中に記述されていた海恵丑(ウミノサチ)の特徴。

 曰く——その皮膚は色彩を纏い、絢爛なる衣のごとく見える。

 曰く——頭に生えた触角は、遥か遠方の同胞と意思を交わすための器官である。

 曰く——その叡智は、人の知を凌駕するやもしれぬ。


 その浮かび上がった特徴を今、目の前のギルドマスターが備えていた。


 更に揺さぶられ、羽織っていた白衣が床へと落ちた。

 その下に現れたのは、布ではなく、肌そのものが織りなす絢爛な衣。光を受けて艶やかに波打つそれは、まるで豪奢なドレスのようであった。

 宗八は息を呑む。

 もし、この存在が己の推測通りならば——あれは衣服ではなく、生来の皮膚のはず。つまり全裸同然。

 思わず視線を逸らす。


『アニキ、心配いらないデスヨォ。ギルド長は……男デスカラァ!』

「男おぉぉぉぉっ!?!?」

 その声は、驚きよりも困惑に満ちていた。

 確かに胸の膨らみはなく、顔立ちも中性的。しかし、皮膚の艶やかさとしなやかな肢体は、見る者を女性と錯覚させる。

 その瞬間、ギルドマスターの瞳が静かに開かれた。眠気の影は一切なく、鋭い光が宗八を射抜く。


「やぁやぁ、君がカティナを窓口に魔法ギルドで色々と勝手をしている水無月宗八(みなづきそうはち)君だね?」

 言葉は穏やかでありながら、含むものは重かった。

 ただ、組み上げた生活魔法を製本してもらったり、瘴気から身を護る為に組み上げた光魔法を製本してもらったり、クーデルカが闇魔法の件で相談を持ち掛けて時間外労働をお願いしただけというのに。

 確かに依頼を重ねてきた。しかし、それは仲間のため、世界を護るため。そして、カティナが丁度良い立場に居た為だ。


「さて、何の事か思い当たりませんね。話は代わりますが貴方を訪ねた本題に早速入ってもよろしいですか?」

 淡々と返した瞬間、空気が変わった。

 ギルドマスターの存在感が、圧となって宗八に迫る。それは、宗八が知る聖獣【猪獅子】にも匹敵する威容。

 ならば退く理由はない。

 宗八もまた魔力を瞬時に収束し、濃密な奔流を解き放つ。

 互いの眼差しが交錯し、見えぬ火花が散る。


 その背後で、二人をよく知るカティナだけが淡々と、会談の場を整えていた。


 * * * * *

「広域結界魔道具ねぇ……。<万彩(カリスティア)>としてはどの程度の規模を考えているので?」

 ここでも広まっていた二つ名に眉がヒクついた。

 魔法ギルドマスターこと海恵丑(ウミノサチ)のボッタルガの声音には僅かな嘲りが混じる。宗八は眉をひそめながらも即答した。

「町の外周から一キロは広い全体を覆う結界を希望したい。出来る限り長期的に運用出来て物理にも魔法にも対処出来れば満点だ」

 兵の戦場を市街にするわけにはいかない。

 カティナのアドバイスから長期的に発動させ防御力もある結界となると範囲が小さいだけ優れる物になる事を理解している宗八(そうはち)にとってそれは妥協の果てに辿り着いた最低限の要求であった。


「無理無理。現在の技術で張れる結界は、精々100mの円だよ。しかも物理限定だ。魔法をも遮るなど夢物語。加えて長期的な運用も魔石の問題があって容量と出力が釣り合わないんだよ」

 ボッタルガは、事前に渡していた資料にはしっかりと目を通して独自に調べ直したのか、汚い机の上から数枚の資料を抜き取り宗八(そうはち)に渡してくる。

 場所を取らない様に子供達はアニマル体に、青竜(フリューネ)も小さな体躯に変身して宗八(そうはち)の周りから資料を覗き込む。


 そこには本来門外不出であろう魔道具の設計図が書かれていた。

 ①魔道具を形作る金属

 ・出力に耐えられる硬度が必要

 ・形成可能な鍛冶師が必要

 ボッタルガの言う百m範囲の魔道具に必要な金属硬度は1200。分かりやすく手書きで”鋼の硬度は60前後”と追記してある。

 その金属も迷宮(ワンダリング)から発見された金属なので、合金で近しい硬度には達しているものの完全に同じ硬度の組み合わせは未だ発見できていないらしい。

 一応魔道具として成立するが、劣化が早いのが欠点とのこと。

「鍛冶師はリッカの親師であるマサオミ氏にお願いするとして……」


 ②出力の要となる魔石

 ・無属性魔石、もしくは七属性に対応した精霊石が必要

 ・出力に見合う魔力を貯蔵出来る容量を持つ必要がある

 つまり今回必要な魔石はデカければデカイ程良いと言う事だ。

 精霊石は希少過ぎてまず見つからないし、比較的大き目の物が発見されても使い道が限られるのでその場で砕かれて市場に流れるのが常らしいので基本的に精霊石は諦める必要があった。

 竜の巣に自生する巨大魔石も竜の属性に合った魔石が成っているのでこれも使用不可。

 家庭用なら小さい魔石だったらなんでもござれで作れるのに対し、高出力の魔道具は魔石ソケットから作り始めるのでスタート地点に立つのも厳しい。

「まぁ竜魔石だろうな……」


 ③範囲や規模を決定づける魔法式

 ・どんな魔道具になるかは魔法式次第である

 ・規模を設定しそれに見合う魔力消費量を魔法式が調整する必要がある

 家庭用魔道具ならば複雑な魔法式はいらないし、そもそも元となったアーティファクトを解析した魔法式をそのまま流用できる事も珍しくないそうだ。これも大規模な魔道具となると、複雑怪奇な魔法式を組み上げる事の出来る才人が必要となる。

 これは既に隣で水精アクアーリィを中心として子供達があーだこーだ言いながら魔法式に取り組み始めたので、解決は時間の問題だろう。


 ④補助機能となる彫金

 ・鍛冶師が形成した魔道具本体に色彩や表面に模様や装飾を施し、魔力消費量を減らし出力を底上げする

 ・高硬度の金属に施せる彫金師が必要

 最初の鍛冶師と同様に質の高い技術者が必要なところがネックである。

 鍛冶師に心当たりはあるが、彫金師なる存在に今まで出会った試しがないので……。

「エルダードワーフとドラゴドワーフならなんとか出来るか……?」


 今や宗八(そうはち)の装備のほとんどは竜魔石と金属を掛け合わせたハイブリット金属で仕上げられている。

 それを成したのは竜とエルダードワーフのハーフであるドラゴドワーフであった。

 視界の端に映った「青竜の蒼天籠手フリューアネイシア・ブレイサー」には見事な装飾が施され、盾として用いてもその装飾が崩れた事など一度も無かった。これだけの硬度を持つ金属もそう無いだろう上に彫金も施されているなら可能性はあるだろう。


「な? 無理な理由がわかるだろう?」

 そう言いながら机のどこにあったのか覚めた紅茶を口にしつつボッタルガは肩を竦める。

 だが、残念ながら宗八(そうはち)にはこの広範囲結界魔道具を作る為の道筋がはっきりと見えていた。

「いや、行けると思う。金属、鍛冶師、魔石、魔法式、彫金師……。すべてに心当たりがある」

「うそ~ん……」

 宗八(そうはち)の戯言に信憑性が見いだせずカティナに視線を向けると、こちらを馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 普段から自信満々なカティナは、実際に魔法ギルドに所属してからの実績は凄まじかった。

 特に闇精霊としての立場から魔導書【エクソダス】の開発、製本に。長命種として貯め込んだ豊富な知識で無双して来た。

 人脈の一つとして以前魔法ギルドに招待された宗八(そうはち)がアーティファクトの一部の正体を見破った事でその後の作業が捗った事も記憶に新しい。

 そのカティナが疑うだけ馬鹿を見るとばかりに椅子に座るボッタルガを見下ろし馬鹿にしている。

 いや、実際”馬鹿”を見ているという表現か?


「ゴホン。そこまで言うのなら、<万彩(カリスティア)>の心当たりの話を伺わせてもらおうか」

 受けて立つ所存のボッタルガが不敵な笑みを浮かべ、宗八(そうはち)の提案を真面目に聞く態勢に入った事で本格的に魔道具製作の話は軌道に乗り始めた。

読み終わり、面白かったり気になる点があれば、ぜひ感想をよろしくお願いします。

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