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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第16章 -勇者 VS 魔王-

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†第16章† -20話-[契約精霊の斡旋②]

「続けて、地精ウォルベズ。タルテューフォ」

「『はい』」

 名を呼ばれて前に出て来る二人を見つめながらアルカンシェは回想する。

 宗八(そうはち)達と関わりのある地精はもう三名居た。

 地精王ティターンの指示で宗八(そうはち)を捜索していたパラディウムとネルレントの二名に、禍津核(まがつかく)モンスターの素体となっていた地精を後々宗八(そうはち)が名を与えたヴィルトゲン。

 契約者となる”タルテューフォとの関わり”と限定すると、地竜の島で世話になったウォルベズに軍配があがったのだ。


 ウォルベズが3mを越える巨体で膝まづく際にズシィィィンと床が揺れた。

 隣のタルテューフォは逆にアルカンシェやマリエルよりも小さい体躯をしているので、その落差が顕著な組だった。


「ウォルベズ。ポシェントとの模擬戦は如何だったかしら?」

 以前、宗八(そうはち)と出会った際にウォルベズは同じ遊撃の役割を担うポシェントとの手合わせを口にしていた事を伝え聞いていたアルカンシェが水を向ける。

『はっ。時間があるとの事だったので存分に互いを理解する事が出来、楽しい時間でございました』

 宗八(そうはち)もウォルベズと顔を合わせるのは久しぶりだったが、無骨な見た目に反した紳士的な言葉を口にする相変わらずな姿に微笑みを浮かべる。この辺りもポシェントと同じ空気を感じられて嬉しくなる。


「タルテューフォも、ウォルベズと手合わせしたのでしょう? 彼はノイティミルとは違う成熟した精霊であるのだけれど、貴女の眼にはどう映ったのかしら?」

 アルカンシェの問い掛けに礼儀の叩き込みに失敗したタルテューフォはただただ嬉しそうな表情を浮かべて答える。

「めちゃ強くて楽しかったんだよっ!ノイとの打ち合いは許されなかったからウォルベズとの手合わせは血が滾ったのだっ!」

 鼻息荒く語るタルティーフォ。

 子供達の一人である地精ノイティミルは加階を重ねてきたとは言えまだまだ三歳児程度の体躯なのだ。タルティーフォも小さいと評される体躯だが、それでも小学高学年程度には大きい。そのうえ【猪獅子(ヤマノサチ)】というゴリゴリの戦闘種族という点も加味すればノイティミルとの手合わせを許可する者など誰も居はしない。


「気が合いそうで良かったわ。ところでタルテューフォはノイティミルとユニゾン出来る様になっていたわよね?」

「最近、やっと出来る様になったところだったのだ!」

 ほぼ同時期に仲間となったリッカに比べて、魔物であるタルテューフォは精霊使いとしての成長はかなり遅かった。

 精霊使いとしてのジョブレベルと精霊との信頼関係が重要である【ユニゾン】を扱うには自由奔放が過ぎたのだ。そして、最近になりようやっとユニゾン出来るようになったものの活躍の場は訪れないまま精霊交代となってしまったわけだ。

「ごめんなさいね、悪気があったわけではないのよ……。でも、相性は良さそうですしジョブレベルも育っているところからの再スタートだから、以前ほどユニゾン出来る様になるまでの時間は短縮できるはずだから頑張って頂戴」

「ねーねぇがタル達の安全を考えてっていうのは説明されたからわかってるのだ!大丈夫なんだよ!」

 理解あるタルテューフォの言葉に安堵の息をアルカンシェは吐いた。

 心苦しい事に違いは無いのだ。精霊使いになれる様に支えてくれた地精ノイティミルにも同様に申し訳なさも覚える。


「(実際、ノイはどう思っているんだ?)」

 タルテューフォからの了承を得ても晴れないアルカンシェの表情から心情を察した宗八(そうはち)が念話で確認する。

『(……それなりに長く一緒に居たですからね、寂しくないと言えば噓になるですし、戦場が違うだけで普段から顔は合わせられるのですから気にする必要はないです)』

 宗八(そうはち)が多忙にしていたその間も、ノイティミルはしっかりと絆を深めていたのだ。

 砂トカゲの姿で膝の上にいるノイティミルをそっと撫でながら、宗八(そうはち)は改めて子供の成長を噛み締める。


「タルテューフォはまだ精神的に未熟な部分があるわ。ウォルベズ、そこを上手く支えてあげてください」

 アルカンシェの柔らかな言葉に、ウォルベズが黙って深く頷く。

「では、二人は控えて頂戴」

 指示に従い、タルテューフォとウォルベズも組成立列へと加わった。

 最後に残ったのは火精フラムキエと副契約しているリッカだ。そして、精霊の列に残ったのは宗八(そうはち)ですら見覚えのない女性型の火精が立っている。


「——火精バティスカーレ。リッカ=サラマンダー=ニカイドウ」

『「はい」』

 二人が並び立つ姿に、宗八(そうはち)は静かに目を細める。

 その佇まいは、まるで鏡写しのように似通っていた。

 リッカは、母譲りの白銀の髪を高く束ねたポニーテールが軽やかに揺れている。

 対するバティスカーレは、炎のような赤髪をひとつに束ね、烈火のごとく揺れるその姿は、まさに炎の化身然としていた。

 ただの容姿の話ではない。着ている衣装もまた、どこか“リクオウ”を感じさせる武家の凛とした装いだった。


「わざわざリクオウから呼び出してごめんなさいね、バティスカーレ。この国の気候はあなたに合っているかしら?」

『アスペラルダの至宝と謳われるアルカンシェ様の御噂は海を隔てるリクオウにも届いておりましたので、このような機会をいただけて幸甚にございます。気候についてはまだ慣れず肌寒い時もありますが、アルカンシェ様が気にされる必要はございません』

 ——髪型も、服装も、出身地までも被っている。

 どこか過剰にも思える一致ぶりに、宗八(そうはち)は自然とアルカンシェへ視線を向けた。

「……何をしたんだ」と、口には出さずとも目が語る。

 しかし当の本人は、その視線に気づかぬふりをして、ただ上機嫌に微笑んでいた。


「貴女もポシェントやウォルベズと同じく遊撃の役割で国中を見て回っていたのでしょう? ウォルベズにも聞きましたが仲間として我々は貴女の眼鏡に叶ったかしら?」

 アルカンシェの質問に少し考えるそぶりを見せたバティスカーレだったが、少し笑みを浮かべながら回答する。

『はい。とても個人の練度がとても高く、お二方は尊敬に値すると評価します。人間の方で私が知るのはアルカンシェ様とメリー様ですが、お二方には手も足も出ませんでした……。お仲間が同等の強さであれば私が足を引っ張らないかと今から心配をしております』

 ポシェントたちの事は嬉しそうに同志を語っていたのに、アルカンシェ達の事になると少し落ち込んでいた。

 魔力量から見て精霊としては中位階なのだろう。肉体も得ている事から人の町にも紛れながら武を磨いてきたところでアルカンシェ達が接触して力の差を思い知らせた、というところか……。


 精霊とは、魔力が集まり意思を持つことで生まれる精神生命体の総称である。

 人間のように、戦って肉体が鍛えられるわけではない。強くなりたければ、長い年月をかけて魔力を練り、加階していくしかない。

 つまり、彼らの“ステータス”は基本的に魔力依存だ。

 たとえ人間の姿をとっていても、ムキムキな肉体を持つには、それだけの魔力量を保持していなければならない。

 ただ、バティスカーレのように“遊撃”を担う精霊たちは、純粋な魔法だけで戦う者とは異なる道を選ぶこともある。

 ——武器を扱い、戦いの中で技を磨くという、人間的な成長の手法だ。

 ステータスで言えば、「INTやMNDを犠牲にし、STRやVITを優先する」構築といえるかもしれない。


 そして、アルカンシェはもちろんメリーもS級冒険者をも凌ぐステータスに強化されているので、中位階の遊撃程度が相手になる訳がなかった。


「リッカ。バティスカーレはサラマンダー様から選抜された精霊の中から私が選んだ貴女のパートナーです。出身は同じくリクオウで戦い方についても武器は長剣、防具も近しい物を装備しているから共通点や相性は良いと判断しました。リッカから見てバティスカーレの印象はいかがでしょう?」

 次に話を振られたリッカは、慌てて答える事無く隣で同じ様に膝まづく火精に顔を向ける。

 バティスカーレも恥ずかしがる事無く向かい合うように視線が絡み合う。

「まずは、私のために彼女を選んでくださったことに感謝します。第一印象は──フラムキエと比べれば、よく喋る方だと感じました。立ち居振る舞いや佇まいからも、自己研鑽を重ねてこられた方とお見受けします。確かに、私との相性は良いと感じました」

 そりゃフラムキエは無口だからな。意思表示も「うん」「わかった」だけの返答が多い。比べれば誰だってお喋りの認定を受けてしまうって……、と宗八(そうはち)は内心で呟く。

『私も、貴女のような方と共に剣を振るえるのは、光栄に思います』

 リッカの評価に好感を持ったのかバティスカーレも笑みを浮かべる。どうやら互いに似た様な印象を持っていた様だ。


「タルテューフォにも伝えましたが、ユニゾン使用可能になるまでの期間が以前に比べれば格段に短くなる事はリッカにも言える事です。これから互いを理解する努力を怠らない様に努めなさい」

「『仰せのままに』」

 今日初めて顔を合わせた二人の返答が重なった。本当に相性が良さそうだ。

「全員、中央に並んでください」

 これで全員の顔合わせが完了した。

 今後、子供達は宗八(そうはち)と行動を共にし、彼女たちはユニゾンを目指して相互理解を進め関係を深める事となる。

 各国の兵力の強化、各国有力冒険者の強化、大陸に潜むオベリスクの掃除、決戦に向けての各国の連携。そして、仲間の戦力の一新。残る問題は今も対応中の魔族領の禍津屍(マガツカバネ)と魔王の討伐、そして決戦時の魔神族の人数を減らす為に異世界への進撃。まだまだ対処しなければならない事はあるが、確実に一歩ずつ前進している感覚がある。

「私達の戦力、という意味合いではこれで完成したと言えるでしょう。ですが、敵がいつ乗り込んで来るのか分からない以上この戦力で戦える機会が訪れない可能性はあります。私達は備えねばなりません。敵は確実に人類を減らす策を取り、世界樹がこの世界に現れた時こそが勝負です。皆、いつ戦いが始まっても不覚を取ることの無いよう心がけてください」

 アルカンシェの締めの言葉に全員がそれぞれの言葉で返事をした。

 魔神族と戦ったことのある者は覚悟も相まって気迫のある返事だったが、敵を知らぬバティスカーレだけは全員のその気迫を前に少々戸惑いを見せている。

 オベリスクがリクオウにも存在していたとしても、魔神族や禍津核(まがつかく)モンスターの被害は受けていないと考えて良いのだろうか……?


「これにて閉会とします。皆、退室して頂戴」

 ——こうして、宗八(そうはち)達のもとに新たな四柱の精霊が集い、仲間達は新たな一歩を踏み出した。

 休日はまだ数日残っている。それぞれが新しいパートナーと共に退室している中、残ったのは宗八(そうはち)と子供達、アルカンシェと水精ポシェント。

「少しはお兄さんのお手伝いが出来ましたか?」

 隣の玉座から身を乗り出してそんなことを聞いて来るアルカンシェに宗八(そうはち)は感服した旨を伝える。

「手伝いだなんてとんでもない。本当にアルシェには驚かされたよ。やるべき事として考えてはいたがどうしても時間が足りなかったからな、正直かなり助かったよ。ありがとう」

「ふふふ。まぁ時間を見つけて少しずつ精霊王の下を訪れて交渉するだけでしたから苦労はありませんでした。どの陣営も”破滅(ヴィネア)”の恐ろしさは理解していますからね……」

 謙遜しつつもひと仕事を終えたアルカンシェは深く玉座に身を埋める。

 逆隣に座るサーニャは尚も座り心地が悪いのか身を固くしたままだ。代わりに光精フローライトが先ほどの空気に飽きていたのか膝上でスゥースゥーと寝息を立てていた。

 アルカンシェはのおかげで宗八(そうはち)のやらないといけないリストから一つが消化された事で今後の予定を考える。

「(アルシェは”いつ乗り込んで来るかわからない”と言っていたが、以前苛刻(かこく)のシュティーナが口にしていた”今回を逃すと自分達は完全に瘴気に飲まれ意識を支配される”と焦りを見せていた。|神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇ウロボロスが何を考えているかは流石にわからないが事を急ぐ理由はないはずだ。となると、攻め込む条件を満たす為に場を整えているのは苛刻(かこく)のシュティーナが主体となっているのだろう)」


 ――――敵の思惑はともかく、確実に自分達が戦うことになる。宗八の中で、背筋を撫でるような冷たい気配が、静かに、しかし確実に濃くなっていくのを感じていた。

ご来場いただきありがとうございます。

読み終わり『続きが気になる』『面白かった』など思われましたらぜひ、

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よろしくお願いします。

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