†第3章† -05話-[黒の柱:オベリスク道中]
「お兄さん達はうまくいったんでしょうか」
村を出てから早1時間。
途中までは皆さんが沼へ行くための道が出来ていて、
道に迷うことは無いのですが、
思った以上に悪路なのでチャージで進むことが出来ませんでした。
いま私はメリーに抱えられて目的地へと向かっています。
「どうでしょうか・・・。
あくまで姫様とマリエル様、
それに私で考え付く限りを話し合った結果であって、
正解である訳ではありませんから。
進化もそれなりに掛かるでしょうし、
もし進化が出来なかったとした場合、
そろそろ追いつく可能性もあります」
抱えられながら後ろを確認してみますが、
お兄さんが来ているような気配もありませんし、
もしかしたら本当に成功しているのかもしませんね。
周りの景色が高速で後ろへ消えていく中、
最後の沼に到着しました。
沼は大きく、所々にカエル妖精が姿を変えて、
何やら作業をしているのがわかります。
この先は道らしい道がない為、
徒歩ですすむしかありません。
メリーに地面へと降ろしてもらいながら疑問を口に出します。
「彼らは薬の材料になる植物を育てていると聞いていますけど、
沼で何をしているの?」
「彼らはカエルに姿を変えることで沼での視界を確保しています。
作業内容は主に植物へ注がれるはずの栄養分を阻害する雑草を除去しているのだと思います」
確かに沼から上がった彼らは手に持った植物を籠へと集めています。
あれが雑草?結構大きく成長しているように見えますが、
数日でそこまで育つのでしょうか?
それに彼らは道具を使わずに手で作業をしています。
「あの雑草はどんな植物なの?」
「あれは名前までは存じませんが、
多節植物の1種です。
あれらの植物は成長が早くて1日で1m伸びる種もあるそうです」
「だから毎日沼でお仕事をしないといけないのですね。
だったら根元から取ってしまえばいいのでは?
それなら雑草も生えてこないでしょう?」
「残念ながら根が頑丈なので完全な除去が出来ません。
もし行うならば沼がしばらく使えないことを覚悟することになり、
彼らは職を長期に渡って失ってしまいます」
「そうなんですね。
では、なぜ手作業なの?」
「沼に刃が取られて切れ味が死んでしまうのですよ。
ああやって手で根っこをひとつひとつ千切って除去しなければならないのに、
沼に残った部分から再生して数日もしない内に元通りになるのです」
私の質問にすらすら答えてくれるメリーは、
どこでそんな知識を蓄えたのでしょう。
でも、カエル妖精の仕事がわかって勉強にもなりました。
魔法でどうにか仕事を楽にしてあげたいところですが、
私も万能ではありませんから、
いずれ何かしらの支援をしたいですね。
「そろそろ進みましょうか。
この先はフラゲッタも出没するようですし、
気をつけて行きましょう」
「はい、姫様。
前衛は僭越ながら私が引き受けさせていただきます」
* * * * *
進化が始まって1時間が経った。
アクアの時はアルカトラズ様が話し相手になって下さっていたし、
アルシェもいて時間を潰すのに事欠かなかったが、
アクアは暇すぎて船を漕ぎ始めてからは会話は減り、
本格的に眠り始めてからは俺も流石に暇を感じていた。
しかし、クーをこのまま置いて外を歩き回るわけにもいかないし、
もし外にいる時にクーが出てきた場合、
俺達がいない事で傷つける可能性もあるからな。
先ほど寝たアクアは俺の胡座に寝転んでいるから動けないし、
座布団に座りながら出来る事といえば・・・
「《氷質を宿した大気を集め、我が願いを満たせ!・・・アクアボール》」
指で大きさを指定するように円を描く。
魔法の発動とは基本的に魔法陣が必要になるが、
本物の魔法に触れることが出来ない世界出身の俺としては、
やっぱり無詠唱で使えた方が勝手がいいと思うわけだ。
出来上がったアクアボールを意識しながら手で潰すように握り込むとアクアボールは方々に己の水を撒き散らしながら魔力へと変わっていく。
これがアクアならば詠唱もなくアクアボールを作れるだろう。
それが制御と呼ばれる精霊が使える魔法の1種だ。
感覚としてはシンクロを通してわかる部分もあるが、
結局のところ一部は一部でもどの程度の一部かわからない。
魔法の真理を解ければ余裕なのかねぇ。
そんな事を思い浮かべながら人差し指と親指を擦り合わせると、
徐々に水気を帯びてくる。
うっすら濡れている程度から結構ビチャビチャになるまで擦り続け、
濡れた人差し指で渦巻きを作り、
すぐさま人差し指と親指で輪を作ると、
その輪の間には水の膜が出来ていた。
「俺の制御力はこの程度」
質の上がった精霊使いは制御が個人で使えるようになるらしい。
アクアポッツォまでの道中で無詠唱を目指し、
色々試していた時に発見した制御力。
アクア達のように即集めて即形成なんて事は出来ないけど、
これくらいは出来るようになった。
水の膜に優しく息を吹き掛けると、
息は水の膜に包まれ次々と輪から生産される。
粘着性もない水なのにしっかりと俺のイメージした通りに浮かび上がる玉。
「魔法のシャボン玉だぞぉ」
部屋の中がシャボンに包まれ、
窓から入る朝日に反射してキラキラとしていた。
『ん〜?ますたー、なにしてるの~?』
目を擦りながら2度寝娘が起きて来た。
『ふぁ〜!!すごいね、ますたー!きれいだね!』
フワフワと浮かび上がりシャボン玉の間を飛び回るアクアの起こす風でシャボン玉は動きを乱されあちらこちらへと飛び散り、
いくつかがお互いにぶつかり割れてしまう。
「こら、アクア」
『ごめんなさ〜い、わるぎはないの~!』
軽く注意をするとシャボン玉に身体をぶつけて割りながら、
俺の顔面に飛びつき謝ってくる。
この破壊者めが!俺も子どもの頃割りまくってたら怒られたからな。
あれ?あの時の俺はこいつと同じ思考回路なのか?
謎のショックを受けているとシャボン玉に囲まれながら浮かんでいたクーの卵がこちらへと寄ってきた。
「そろそろ進化が終わるかな」
『ますたー、もっとたまだして!くーをかんげいするの!』
「はいはい」
再び息を吹き込みシャボン玉は割れた数よりも多く生産される。
破壊者はまたうずうずしているが今度はデコピンが飛ぶとわかるのか俺にしがみついて浮かび上がるシャボン玉を眺めていた。
やがて、ほどほどまで数を増やしたシャボン玉を眺めながら待っていると。
アクアの時と同じく、
徐々に大きくなっていたクーの卵がゆっくりと輝きだし、
天辺からゆっくりと花が開くように咲いていく。
クーも3等身の人型を選択したようで、
艶やかな毛並みは艶やかな黒髪ツインテールになっており、
根元が膨らんでいるが肩口程の結び目から一気に長細くなっている。
可愛らしい顔も御目見した。
何処と無くアクアに似た風貌に形成されているけど、
属性違いの姉妹を謳っているだけあり似ていてもおかしくはない。
しかし、アクアは誰を意識して顔を形成したのかな?
もともと人型だったし、その時は俺がイメージしたから・・・。
元のクーは瞳が紅かったけれど、
今回の進化で黒目になっている。
服装は予想通りメリーを意識してはいるものの、
俺の記憶の片鱗からこちらの世界のメイドテイストを取り込んだオリジナルメイド服を着用していた。
ここまでは普通の日本人に見えなくはない。
問題は、耳の部分が猫耳になっており、
お尻には尻尾が生えている点であった。
最後まで卵は綺麗に咲き誇り、
キラキラと光るシャボン玉に囲まれたクーはとても綺麗であった。
卵の花は輝きを徐々に失っていき、一瞬で霧散する。
『お父さま、お姉さま。
クーデルカは只今加階を終えました』
「あぁ、お疲れ様」
『きれいになったねぇ~!』
綺麗なカテーシーを披露しながら、
堂々とした佇まいで俺達に挨拶をする。
クールはここまでで、
クーもまだ宙に浮けるのか、
すぃーっと俺の胸元に飛び込んで来た。
『お父さま!これでもっとお父さまにご奉仕できます!
お姉さまも、これからは戦闘もサポート致しますのでよろしくお願いしますね!』
『くー!たよりにしてるよ〜!』
尻尾に付いた鈴がチリンチリンと鳴り響き、
耳は以前と変わらず気持ちのいい毛並みの猫耳そのままであった。
お互いが抱き心地を堪能してから、
改めてクーを両手で脇から持ち上げて質問してみる。
「クー、どうして耳と尻尾は猫のままなんだ?」
『それはこうする為です』
途端に手の中のクーが全身黒に染まり溶け落ちる。
ビックリして手を開くとその溶けたクーは地面にシュタッと着地する。
見れば、いつの間にかクーは猫の姿になっていた。
それも子猫ではなくちゃんと成長した若い猫の姿に進化している。
「ど、どうしたのかと思って心配したぞ。
ビックリさせないでくれよ・・・」
『申し訳ございませんお父さま。
お姉さまには話していたのですが、
引き続き猫の姿を取れるように耳と尻尾を残させていただきました』
「アクアに?」
アクアを見れば両手で口を押さえて転げ回っている。
俺の驚く姿を見て爆笑しているらしい。
イタズラ娘の影響をクーが受けてしまったのか・・・、
とりあえずデコピンの刑じゃ。
『本当は耳だけあれば出来ると思っていましたが、
尻尾にはお父さまが下さった鈴が付いていますから・・』
「そこまで気に入ってくれていたのか、素直に嬉しいよ。
でもなんで猫の姿を残したんだ?」
『いつかお父さまを背に乗せるという目標と、
猫の姿を取った方が役に立つ場面があるかと思いまして。
武器はいくらあっても困りませんよね?』
「ポルタフォールの入口で言ってたアレかよ。
まぁ、猫の姿を取れたり人型で猫耳や尻尾が残るのも愛らしいし問題ないだろうさ」
『はい、これからはメリーさんに師事してお父さまとお姉さまを私生活も戦闘もサポート致しますからね!』
* * * * *
メリーは森の中を走っていた。
もちろんこんな障害物だらけでは全力は出せないけれど、
囮になっている以上は速く走る必要は無い。
走り抜けた後から、音もなく何かが這って追いかけていた。
「《アイシクルエッジ!》」
前方からメリーを待っていたアルシェは槍を前へと突き出し、
口からは魔法名を詠唱する。
途端に、アルシェの足元から前方20m程の地面が凍りつき、
肩幅ほどの広さは十分にメリーの背後にいる生物を捕捉できた。
足元が凍りつく前にメリーは飛び上がりアルシェを飛び越えた先で綺麗に着地した。
それなりの速さで追い続けた生物はいきなり凍った地面に驚き、
自身の体の動きが鈍くなるのを感じた。
それは冬の月に自身と仲間に襲い掛かる眠気から来るものと酷似していた。
とにかく、この氷の地面から逃げ出す為、
動きを開始した直後に地面から氷の刃が生えてきて生物は、
お腹の柔らかい部分を串刺しにされる。
しばらくメリーとアルシェが見守る中、
大量の血を流しながらもまだ生きようとする生物に手を合わせる。
今まで相手にしたのはスライムやゾンビやスケルトンだっただけに、
今回初めて生き物という部類に入る敵を殺したのだ。
ようやっと絶命したのか、
額の魔石がころりと氷の地面に落ちて来た。
カシャンという音と共に地面も刃も砕け散り、
再び世界を暑い空気が支配する。
「怪我はないですか?」
「問題ありません。これで2匹めですねアルシェ様」
「相性がいいとは聞いていましたが、
特にフラゲッタは属性がないはずですよね?」
お兄さんからは相性が良いと聞いていましたが、
フラゲッタが火属性という話は聞いたことがありません。
沼でも知識を披露してくれたメリーに期待を込めた眼差しを向け、
答えを待ちます。
「私も詳しくは知りませんが、
こういった質感の肌を持つ生物は寒いのが苦手なのだとか」
ひっくり返ったフラゲッタの死骸の皮を撫でながら答えるメリー。
これが宗八ならば「爬虫類だからだよ!」と答えるが、
この世界に生物学者はいないし、
戦争が長く続いている為、分類なども曖昧であった。
フラゲッタも産まれた時は普通の蛇であるが、
魔石に魔力を蓄えるとフラゲッタという魔物に変化する。
その変態は体の構成をも変えてしまい、
魔法にも強く、剣も通りづらい皮へと変貌させていた。
だが、所詮は蛇。
普通の魔法使いのアイシクルエッジでも効果はあるが、
アルシェの場合は適性もあり、ベクトルも操作できる為、
効率がまず違うのであった。
「そうですか。お兄さんなら知ってますかねぇ・・・」
「おそらくご主人様であれば知っておられますよ。
アルシェ様と相性が良いと言われたのはご主人様ですから」
落ちた魔石を回収してインベントリへ収納する。
さて、死体をどうするか?そこが先程も問題として浮上した。
お兄さんは村に持ち帰りウルミナさんへ渡したようですが、
いまクーちゃんが進化に入っているようで、闇倉庫は利用出来なかった。
ひとまずは全身を水洗いして氷漬けにしてその場に放置した。
「今回もこれでいいですかね?」
「仕方ないと思いますから、割り切りましょう」
「ですね」
ピリリリリ
[水無月宗八から連絡が来ています][yes/no]
足を踏み出そうとした所でお兄さんから連絡が入りました。
そういえば、村を出発して既に3時間が経過してますし、
進化も終わっていると考えて当然でしたね。
メリーにも同じく連絡が来ているのか、
イヤリングが淡く光っています。
目配せを終えると二人揃ってyesを押します。
〔もしもーし、2人とも無事か?そろそろ合流しようかと思ってるんだけど〕
「問題ないですよ。フラゲッタもメリーと協力して2匹仕留めました」
〔そかそか。こっちも村を出て2匹仕留めたから、
これで討伐依頼は終わりだな。結局2人にも手伝ってもらっちゃったな〕
「パーティなのですから問題ないかと。クーデルカ様の進化は無事終えられたのですか?」
メリーが代表して聞いてくれました。
今回だけはどうせならお兄さんではなく、
クーちゃんからの連絡の方が嬉しかったかもですね。
すぐそばにいるようで、小声で何かやり取りを向こうでしているみたいです。
〔どうせなら、進化した姿で驚かせたいからまだ話せないってさ〕
「左様ですか」
「仕方ないですね、楽しみに待ちましょう。
いま私達がいる辺りを伝えますね」
私達は最短√で進んでいましたが、
何分このような道無き道を進む事に慣れていないので、
距離を稼げていませんでした。
お兄さん達は私達が回っている方向とは逆を回っていて、
目的の柱まではほぼほぼ同じ程度の距離のようです。
遠回りをしているのに私達より速いなんて、
多分クーちゃんの魔法か何かで移動力をあげたのでしょう。
あと30分ほどで柱に着く前に合流出来そうなので、
そこで合流する事にしました。
* * * * *
「おーい、アルシェ!メリー!」
『ある~!めり〜!』
目的地の手前でアルシェとメリーを見つけたので声をかける。
この辺は本当に人の手が入っていない為、
植物も育ち放題で、雑草も俺の肩ほどまで成長していた。
木々も太く高いものが多く、お互いの葉が重なり合い、
地面に陽の光はほとんど入らない密林となっていた。
当然小さいアクアとクーは俺の頭の上を目指すが、
進化したクーは猫になってもそれなりに大きくなったので、
二人は大人しく両肩に座る事で落ち着いた。
もちろんアルシェも俺の肩より小さい。
メリーがギリギリ頭の頭頂部が見える程度だったが、
この辺でそのサイズで動く生き物は俺達以外いないと分かっているから先に声を掛けて方向を教える。
「お兄さん達ですか?どこです?」
「声はあちらからですから、
足元に気を付けて進みましょう」
アルシェ達は俺達に気付いて近づいてくるつもりの様だが、
何方かと言えば俺達が近付くのが安全だろう。
「こっちから行くから動くなよ!
クーの閻手が草の間を進んで道を作るから!」
「わかりました!」
『では、行きますね』
『ごーごー!』
手を合わせたように2枚の閻手がアルシェ達の声がした方向へと突き進む。
一応先端に触れると危ない為、
ゆっくりと進ませている。
おおよそ50mくらいで1度道を作る事にした。
2本の閻手を開き、雑草を左右に分けていき、
地面まで寝かせたら。
『《あいしくるばいんど》』
中央以外の茎部分をアクアが地面と結合して、
道を無理やり作る。
踏みしめて歩けばバインドが解けてもそれなりに道として残る。
草程度なら水竜一閃で根こそぎ切り払うことも出来るけれど、
木に切り傷とかあまりしたくないし、
もし生き物が居たら殺してしまいかねない。
だからこうして地道に面倒な方法を選んでいる。
2度目は50mも要らずにアルシェ達に届いた。
* * * * *
クーちゃんの閻手によって切り開かれた道の先には、
お兄さんとアクアちゃん、
それに見知らぬ小さな女の子が居ました。
でも、他の候補なんて全く頭には浮かばず、
私はすぐに駆け寄り抱き上げました。
「クーちゃん!」
『お久しぶりです、アルシェ様』
「アルシェでいいんですよぉ、クーちゃん。
大きくなりましたねぇ、見違えましたよ!」
『いえ、クーは生きる道を決めたので、
ここは譲ることが出来ません。
これからはアルシェ様と呼ばせていただきます』
頑な!
クーちゃんは1度決めた事はなかなか曲げません。
まるで本当にお兄さんの子供みたいにしっかりと受け継いでいますね!
まぁ、愛称で呼んでくれるのですから今はこれで満足しておきましょう。
それにしても・・・
「クーちゃんの恰好って・・・」
「私と同じ従者の姿をしておりますね。
よくお似合いですよ、クーデルカ様」
後から追いついたメリーが私の背後から声を掛けました。
クーちゃんは私の手からフワフワと飛び立ち、
メリーと目線が合う位置まで上がっていきます。
『お褒めに預かり光栄です、メリーさん。
格好からもわかるかと思いますが、加階を致しまして、
クーはこれからお父さまとお姉さまの身の回りのお世話をしたいと思っています。
そこでお願いがあります』
「・・?何でございましょう」
エプロンドレスの裾を指先で摘み上げ、
綺麗なおじぎをしながらお礼を言うクーちゃん。
私達のおじぎとは違いますから、
おそらくお兄さんの世界のおじぎなのでしょう。
耳がピンと立っているところを見ると緊張しているのかもしれません。
『お父さまからは許可を頂いているのですが・・・、
メリーさん。私の先生になっていただけないでしょうか』
「せ、先生?例えばそれはセリア様のような・・・という事でしょうか?」
『そうです。
クーはやりたい事は見つかりましたが、
何をどうすればいいかわかりません。
ですが、メリーさんのお仕事を影ながら見ていました』
「クーはメリーに憧れていたみたいでね。
時間があるときでいいんだ。クーにいろはを教えてあげて欲しい」
確かにふとした時にクーちゃんはメリーを見つめている事がありました。
あの瞳に憧れが宿っていたとは気付きませんでしたが、
お兄さんにはそういった話をしていたのか、
援護の言葉がお兄さんの口から発されました。
「そぉ、そうですね・・・。
1人でも仕事の合間は出来ますし、お教えする事は可能です。
ただ、指導するのであればお時間を確保させて頂きたいと思います」
「どのくらいだ?」
「朝の出発までと夜の宿に戻ってから就寝までの時間でしょうか・・・。
他の時間は別行動も多いでしょうから」
『お父さま・・・よろしいでしょうか』
「いいよ。大変だろうよろしく頼む」
「アルシェ様もよろしいですか?」
「問題ありませんよ。
その間はお兄さんかアクアちゃんと一緒にいればいいですし」
振り返りながらクーちゃんはお兄さんに、
同じく横に立つメリーは私に伺いを立てましたけれど、
お兄さんは初めから許可をするつもりのようですし、
私もメリーを縛るつもりはないので双方すぐに許可を出しました。
2人は再び見詰め合う形になります。
「では、今夜から私が指導に当たります。
その際、私の事は侍女長と呼んでください」
『わかりました、よろしくお願いします。侍女長』
「いえ、その指導の時だけでいいのですよ。
私もその時は侍従隊のクーデルカとして接しますので」
「わかりました、よろしくお願いします。メリーさん」
* * * * *
クーでお披露目も終わりを迎え、
メリーへの弟子入りも無事に決まった。
まぁ、もとから心配もしていなかったし、
俺はいずれ元の世界に帰ることを考えれば、
本当に悪い話じゃないと思っている。
これで少なくともアルシェ、もしくはメリー経由で居場所を作る事も出来るだろう。
『うん?なぁ~に?』
俺のすぐ傍に浮き上がっているアクアに目をやると反応を返してくる。
クーは甘えん坊だがしっかり者だし、
一歩退いた立ち位置にずっといたからメイドの仕事を早々に選んだが、
甘えん坊の長女は果たしてやりたい事とか見つけられるかな・・・。
「なんでもないよ。
さぁ、草を固めてくれ」
『あい』
この世界に来て半年・・・。
勇者君はいまどこまで進んでいるのかな。
俺達よりもかなり早いペースで前線に進んでいるようだし、
1年経たずに魔王を倒してしまうかもしれないな。
そうなると、こいつらとも強制的にお別れになるわけで、
今はまだ倒さないでいてくれると助かるかな。
物思いに耽っている間に道の開拓は進み、
まだ少し離れているにも関わらず、
木々の隙間から空に向かって伸びている黒い柱が見えている。
どちらかと言えば柱というより塔といった造形をしており、
見えている範囲では四角錐なのではないだろうか?
* * * * *
『おっきぃ~!』
「これ・・・なんですか?」
「見たことのない建造物ですね」
黒い柱、もとい黒い塔の前まで来たが、
これがずいぶんと無骨な物であった。
装飾もなく黒光りする石材?で作られた四角錐の塔だった。
もっと凝った装飾がされていれば何か重要な物かもと思うかもだけど、
ここまでつるりとした表面でただ建っているだけの塔なら危険視しないのも仕方ないかな。
アクアが俺から離れて浮かび上がっているので、
クーを胸の前で抱える。
受肉したばかりのクーは体の重さを始めて感じている状態だ。
疲れやすくなっているクーが慣れるまでは、基本的に抱きかかえたりして負担を減らす必要がある。
『オベリスク・・・というものですか?』
「そうだな、それに類するものだと思うけど。
何の為に誰が建てたのかわからないなぁ。
アクア、軽めの魔法を撃ってくれ」
『あい。≪あくあしょっと≫』
アクアの指先からピンポン玉ほどの大きさで撃ち放たれた魔法が塔へと迫る。
すると、アクアショットは近づくにつれ徐々に小さくなっていき、
塔へ辿り着く前に完全に綺麗さっぱり消え去ってしまった。
「魔法が消えた?
アクアちゃん、徐々に消えるように撃ったんですか?」
『うんう、ちゃんとあてるつもりでうったよ』
「となると、あの黒い塔が原因でしょうか?」
「アクア、今の位置から色んな方向に同じ強さで撃ちまくれ」
『あーい』
皆で方々に散るアクアショットの行方を確認する。
結果的に他の要因の予想は立たず、
黒い塔、オベリスクに向かえば向かうほど、
近ければ近いほど減衰効果が高まった。
『効果はわかりましたが、これがここにある意味はありますか?』
「それなんだよなぁ」
このネシンフラ島にあるということに意味を見出すとしたら、
カエル妖精関連しかありえないと思う。
魔神族謹製の物だった場合、また何かしらの実験と称した代物の可能性が出てくる。
「触ってみますか?」
「試したい気もするが止めておこう。
クー、閻手で触ってみてくれるか?」
『はい、お父さま』
俺に抱えられたままクーが右手を前に出すと、
俺の影から閻手が1本生えてきてオベリスクへと進んでいく。
アクアショットと違い、
常に魔力を通している閻手次第正確な効果がわかるかもと思ったが、どうかな?
オベリスクに無事辿り着いた閻手が塔の下部に触れる。
『魔力の減少は確かにこの塔の効果のようです。
吸収されているわけではなく霧散していく感じですね。
お姉さま、魔力の回復はどうですか?』
『ん~、いつもよりかなりすくなくなってるね』
「魔力の分散、魔力の回復低下?
それって何の意味があるんですか?」
「この島で行う意味があるようには思えませんが・・・」
魔力の分散・・・、魔力とは精神力だ。
それを使用した後は自然回復かMPポーションで回復する必要がある。
人間はMPポーションや食事で回復するが、
受肉していない精霊はおそらく自然回復でしか回復を望めない。
だったらこれって・・・。
「アルシェ、人間は魔力が切れたらどうなる?」
「意識が混濁して気絶しますね」
「精霊の魔力が切れたらどうなる?」
「精霊は・・・そういえば知らないですね。
以前アクアちゃんが魔力を使い果たした時は、
核が壊れて浮遊精霊になりましたよね」
「あれはご主人様が用意した核の魔力を使っていたからで、
アクアーリィ様の魔力ではありませんでしたから」
「あ、そうでしたね。だったら精霊の魔力が切れた時は・・・」
「死ぬんじゃないか?」
もちろんこれは推測の域を出ない話だが、
これが建つ地域の一定空間は魔力の回復が著しく少なくなり、
いずれはっって仮定だ。
これは俺達みたいな素人が判断できる物じゃないし、
俺達がここにいるならあいつが飛んでくることも出来るだろう。
皆の反応もないのでさっさとコールを掛ける。
「≪コール≫カティナ」
プルルルル・・・プルルルル・・・ピンポン!
〔昨日に続いてどうしましたデスカァ?〕
「今俺達がいる位置に転移してきて欲しい。
精霊に悪影響を与える可能性がある建造物を発見した。
素人目にどこまで危険かわからないから専門家の判断を仰ぎたい」
〔ウ~ン、わかりマスタァ!引継ぎをしてからすぐ行きマスカラ!〕
いつもお読みいただきありがとうございます