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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第16章 -勇者 VS 魔王-

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†第16章† -18話-[魔王協定締結]

ご来場いただきありがとうございます。

読み終わり『続きが気になる』『面白かった』など思われましたらぜひ、

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よろしくお願いします。

「——これで協力関係は締結です。皆さまお疲れさまでした」

 宰相アンデスヘルが代表者全員の血判が押された契約書を手に取り、最後に隅から隅まで再々再確認を行った末に労いの言葉を口にした。

 魔王ヴァルザーも息を吐き出し恙なく進行した事に安心した様子だ。

「魔王ヴァルザー、宰相アンデスヘル。改めて急な訪問、急な要望に真摯に取り次いでくれたことに感謝する。これで各地の魔族も多少は安心出来る生活が送れるだろう」

「こちらこそ。我がグリウス領によくぞ話を持ち込んでくれたと感謝したい。避難民の中から領民になってくれる者らも出て来るならばこれほど良い話はない」

 宗八(そうはち)が握手を求めると魔王ヴァルザーは快く応じてくれた。続けて差し出した手を宰相も握り返してくれる。


「さて。ではそろそろ魔王イクダニムがどうやって各地の避難民をこの地に連れて来るのかを教えてもらおうか」

 ヴァルザーの視線は宗八(そうはち)から傍に控えるメイド猫耳の闇精に移る。

 如何に魔力を持っている魔王でも、もとは人間が魔力濃度の高い魔族領で生活する中で進化した魔族だ。自分とそこまで規格外の力の差があるとは思えないヴァルザーの予想は、精霊の力が関係していると予想していた。

「……丁度仲間からの連絡が入った。地図で言えばこの辺りの集落が禍津屍(マガツカバネ)の集団に襲われたらしい。流石に数が数だから押し込まれて集落自体は壊滅的被害を受けた様だが、魔族達は無事らしい。数は278人。すぐに呼び寄せるから避難民用の区画へ案内してくれ」

 通信の主はセーバーPTだった。

 高高度まで上昇したセーバーが、配布された地図と目視情報から座標を割り出し、[揺蕩う唄(ウィルフラタ)]を用いて宗八へ状況を報告したのだ。


 魔王と宰相は一瞬、言葉を失った。まるで未来を見てきたかのような宗八の即応に、ただ沈黙するしかなかった。

「……かしこまりました。ご案内いたします」

 宗八(そうはち)の言葉に戸惑いを見せつつもアイコンタクトで宰相を促し、各々が案内に従って彼らを追って通路を進む。

 そのまま城下町に入ると、宗八(そうはち)が魔王ヴァルザーに引き攣られるように行進する姿に不安そうだった魔族達も高濃度魔力に足を震わせながらも安堵の表情を浮かべる。ヴァルザーは臣民から慕われる程度には抑止力としての戦力と治安を行っているようだ。


 人族領の王都とは違ってこじんまりとしたグリウス領の王都行進は数分も歩けば目的地に辿り着いた。

 王城に辿り着いた段階で指示を出していただけはあり、簡易的なテントが所狭しと組み上げられていた。さっそく責任者を呼び出したヴァルザーは状況の確認を聞き出し宗八(そうはち)に告げる。

「現在、二百張近くの世帯用テントがすでに設置済みだ。四〜五人家族を基準にすれば、およそ三百人までは即座に収容出来る」

「了解した、感謝する。——クーデルカ」

 名を呼ぶだけで己が成すべきことを理解する次女はさっそく空間を繋げる。

『《ゲート》《解錠(アンロック)》』


 幼い闇精が手早く鳥居()を描き、その中心に指を指し込み捻ると鳥居が急激に大きくなり空間が歪む。

 ヴァルザー、アンデスヘル、その他兵士達が見守る中で歪んだ空間が安定して来ると、向こう側には夥しい数の禍津屍(マガツカバネ)の死骸を背景に出迎えるセーバーPTの姿が映る。

「お待ちしておりました、盟主」

 宗八(そうはち)役割演技(ロールプレイ)中であると知るセーバーが膝を折り宗八(そうはち)に敬意を持って言葉を掛ける。

 背後ではセーバーPTの面々も同様に膝を折っていた。

 その姿から関係を知らぬ者でも、上下関係を如実に理解する。だが、魔王と宰相は宗八(そうはち)の仲間が戦っているという話を聞いていたが、彼らも同様に異常に高い魔力量を有していることを認識し驚愕していた。併せて、魔王イクダニムの率いる集団が本当に得体の知れない集団という認識も強める結果となる。


 そんな彼らの危機意識が高まっていることなど露知らず、宗八(そうはち)は仲間に声を掛けた。

「時が惜しい、礼は不要だ。ひとまず避難を完了してしまおう。魔王ヴァルザー、案内人は誰だろうか?」

 宗八(そうはち)の演技に笑いが込み上げそうになるのを必死にこらえ立ち上がったセーバー達から視線を外し、ヴァルザーに問いかけると、先ほど呼び出された責任者が一歩前に出る。

「避難民の受け入れはこの者に任せるといい。それと、これが紹介状だ」

 セーバーにアイコンタクトを送るとすぐに責任者に引継ぎ作業を始めた。

 宗八(そうはち)はヴァルザーから手渡された紹介状を受け取ると、再びクーデルカに声を掛ける。

 事前に念話で状況は伝えていたので、次の指示内容をすぐに実行に移す。

『《ゲート》《解錠(アンロック)》』


 新たなゲートが開くと、出迎えたのは次の目的地に先行していた諜報侍女アナスタシアだ。

 一方、出入口のゲートは大きめに作ったというのに、避難民たちはおっかなびっくりしながら集団で固まり歩みが遅い為か避難作業は時間が掛かりそうだった。

 その様子に不満そうな表情を浮かべる宗八(そうはち)は、視線を傍に控える闇精クーデルカに戻し指示を出す。

「避難が終わるまでこっちに残ってくれ。引継ぎが終わり次第占い師の店に合流して各所の調整を頼む」

『かしこまりました。避難が完了するまで、門の維持を継続しておきます』

 残るは、今のところ質問に答える以外は付いてくるだけしか仕事がない勇者PTだ。

 ある程度の流れは事前に伝えてはいたものの、想定以上に敵の広がりに“偏り”が生まれ始めていた。

 このままでは、七精の門(エレメンツゲート)だけでは対処しきれない地域が出てくる。事態は、すでにその一歩手前まで進行していた。

 予定では、魔王行脚に勇者も連れて行く事で顔合わせと大魔王討伐に邪魔を挟まない様に釘を刺すところだったが、魔王ヴァルザーと占い師パメラ、魔王イクダニム、勇者プルメリオの血判がされた協力関係を示す書類が用意出来たことで勇者の存在はこの一枚で魔王界隈に知らしめることが可能になった。故に、無理に連れ回す必要は無くなったと宗八(そうはち)は判断していた。


「メリオ達は禍津屍(マガツカバネ)の討伐の方に回ってくれ」

 振り返り、予定とは違う指示をする宗八(そうはち)にメリオは慌てて聞き返す。

「え!? いいんですかっ!?」

 流石に唯々諾々と連れ回されて質問に答えるだけは辛かったらしい。声音に喜びが見え隠れする。

 その背後で会話が聞こえていた勇者PTも各々嬉しそうに視線を交わしていた。マクラインとクライヴの男二人は拳すら突き合って大々的に喜びあっている。


「一旦情報屋の店で占いをやり直してもらおう。それで次に危険な場所に送り込むから準備だけしておいてくれ」

「わかりましたっ!」

 見れば引継ぎを急いで終わらせたセーバー達が慌ててこちらへ駆けて来るところだった。

 宗八(そうはち)が気にせず次のゲートを開いているシーンを目撃した事で置いて行かれると思った様だ。だが、お前達は勇者と共に別ルートだ。

 追加で発動したゲートの先が占い師の店に繋がる。

「休憩も兼ねて一旦セーバー達はメリオ達と一緒に情報屋の店に帰れ。パメラ抜きで占い結果が出次第、次のゲートをクーが設置する。あと、ゼノウPTと寄せ集めPTとマリエルに状況の確認をしておいてくれ。回収と再配置も任せる」

 次々と指示を出す宗八(そうはち)に全員が胡乱な視線を向ける。

 休めと言いつつ占いにそこまで時間が掛かるとは思えない。その短い時間で魔族領に散らばった仲間たちの状況確認と回収に向けた準備を進めろというのだからそれも仕方ない事だろう。


「はよ行け」

「へいへい仰せのままに」

 セーバーが動き出せば彼の仲間たちもゲートを潜っていく。

「じゃあ、また後程」

「無理はするんじゃないぞ」

 人族の中では桁外れに強いはずの勇者PTにそんな声を掛けられるのは、世界広しと言えど宗八(そうはち)達だけだろう。

 むず痒い気持ちを抱きつつ勇者PTが次々とゲートを潜る。


 宗八の視線がプーカの背中に止まる。

 まだ幼い。けれど、怠けるには惜しい力を背負っている——。

「プーカ」

 ゲートを通っていく勇者PTの眺めていた宗八(そうはち)がその背に声を掛ける。

「は、はいっ!」

 勇者PTの間に緊張感が走る。

 まだ幼さの残る面立ちのプーカに対してウキウキ魔王ムーブ中の宗八(そうはち)が人の心が無いセリフを吐くのではないか……。そういう心配が緊張感となって漂った。


「いい加減ゲートを使えるようになれ。勇者の魔法は町などの拠点となる規模をしていないと使えないクソ魔法だ」

「『クソ魔法……』」

 そっと傷付く勇者と聖剣を無視して宗八(そうはち)の言葉は続く。

「闇魔法の汎用性は非常に高い。身を粉にする必要は無いが、魔王討伐直前に加入したんだ。この運命にお前がどう立ち向かうのか見物だな」

 鼻で長く息を吐き出した宗八(そうはち)の表情は「言ってやったぜ」とでも言いたげに満足気だ。

 確かにプーカの契約闇精ダスクは中位精霊で宗八(そうはち)の子供に比べれば個人で強力な力を持っている。その力をうまく利用すれば前衛のマクラインやプルメリオに負けない戦力に並ぶだろう。それだけに留まらずサポートとして優秀なのは闇精クーデルカを見れば一目瞭然の事実だ。

 だが、親馬鹿である宗八(そうはち)ですらクーデルカが特別優秀であることは理解しつつも、中級精霊ともなればその力は絶大なのだ。決戦直前の参戦とはいえ、彼女たち戦力を腐らせる理由はなかった。


 故に発破する。

「エクスは聖剣の姿をしているが古い精霊だ。未だに剣の姿で勇者を支えればいいとか考えている時代遅れの精霊にお前達が後れを取る理由は単純に怠慢だ!参考になるクーデルカや闇精王アルカトラズを前にすればいくらでも吸収出来る事は視えてくるだろう!ここが貴様の踏ん張りどころだっ!」

 見えない言葉の刃が聖剣の姿の光精エクスを切り刻む。

 ただ、宗八(そうはち)の言葉は真理であり事実でもあった。上位精霊の中でも特別な剣の姿を持つ精霊であり、以前の戦争でも魔王を討伐せしめた実績を持つ精霊。その過去の栄光に胡坐を掻いている間に宗八(そうはち)の子供達は新たな魔法を産み出し、契約者と共に新しい戦術を組み上げた。

 幼くとも契約者と共に高みを目指す彼女たちを思い浮かべれば、自分との隔絶とした差が見える。

 宗八(そうはち)の言葉はプーカを鼓舞すると同時に、決戦前になっても怠惰な骨董品の荒療治も兼ねた鋭すぎる刃であった。


「が、がんばります!」

 精一杯の強がりで言葉を返したプーカの姿に満足した宗八(そうはち)は、彼らが潜ったゲートを閉じた。

「パメラ、行くぞ」

 避難者用ゲートの回収は闇精クーデルカに、避難民の対応は魔王ヴァルザー達に任せた宗八(そうはち)はアナスタシアが待つゲートを潜る。

 後に続いてパメラゲートを潜った。

 新しい魔王の町は、ヴァルザーとはまた趣向の違う街造りがなされた良いところであった。しかし、すでにアナスタシアの魔力を察知した住人が兵士に伝えていたらしく、町の入り口は先ほども見た覚えのある人混みが発生している。

「面倒くせぇなあ……」

「高い魔力のおかげで十分なパワープレイなのだから、余計な波風を立てないで頂戴」

 出会ったばかりとは思えない軽快な会話を挟んだ二人は、新たな魔王への謁見に歩を進め始めた。

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