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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第16章 -勇者 VS 魔王-
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†第16章† -14話-[魔王イクダニム、出動]

ご来場いただきありがとうございます。

読み終わり『続きが気になる』『面白かった』など思われましたらぜひ、

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よろしくお願いします。

 足止めどころか、このまま集まった禍津屍(マガツカバネ)を殲滅しそうな勢いで攻勢に出ている仲間を見下ろした宗八(そうはち)は、一部に撤退を指示する。


「ゼノウPTを残して撤退!足止めを優先して安全の確保をしつつ、下がりながら戦ってくれっ!」

 宗八(そうはち)の言葉が聞こえた面々は、視線を交わして撤退のタイミングを図る。

 いくら彼らが優秀な集団とはいえ、数が百倍違えば簡単に囲まれるのは必然だ。この状況から三つのPTを逃がす術は……。

「≪闇縛り(シャドーバインド)!≫」

「≪氷縛り(アイシクルバインド)!≫」

 ゼノウとフランザがすかさず詠唱する。

 禍津屍(マガツカバネ)の影から出現した複数の闇の手が、一人一人にまとわりついて動きを阻害する。ただ、これだけでは当然止まるほど弱くはないので、続けて足元から下半身までを分厚い氷が生えて来て数秒の足止めが完了した。

 禍津屍(マガツカバネ)のポテンシャルと、その背後から押し寄せるパワーで長くは持たない。

「全員!高く飛べっ!」

 魔法に集中する二人の代わりにライナーが大声で指示を出すと、仲間たちはすぐに従い溜めた脚力で高く飛び上がる。

「≪上昇の矢(ハイペリオンアロー)!≫」

 トワインが放った複数の魔法の矢は、無茶苦茶な軌道を描くが、狙いは違わず仲間たちの身体を、宗八(そうはち)が待ち受けるゲートへと弾き飛ばした。

 ゲートまで跳び上がれるのは、風魔法で脚力を強化できる者に限られる。それほどの高度にゲートがあった。

 着地は各々に任せた乱暴な手段だったが、勇者PTや拳聖(けんせい)たちも含めた全員を手早く帰還させた連携は流石と言える。文字通り転がり込んで来た仲間たちを、宗八(そうはち)は受け止めては次の邪魔にならない様に放り投げていく。


「緊急事態があれば[揺蕩う唄(ウィルフラタ)]で呼んでくれ!」

「了解っ!」

 ゼノウの返事を確認した宗八(そうはち)は、ゲートを一旦閉じた。

「あの数を四人だけで大丈夫なのかい?」

 パメラが心配そうな声音で訪ねてきた。

 宗八(そうはち)の仲間たちが強い事は理解している。それでも数が数だ。いずれ、疲れから負けてしまうのではないかと心配しているのだろう、と宗八(そうはち)は思った。そして、何でもないように答えた。

「大丈夫だよ。危なくなっても、ゼノウが全員を連れて逃げることも出来るんだから」

 時間は掛かるだろう。しかし、負けるとは微塵にも思っていない宗八(そうはち)の様子にパメラの不安も落ち着いていく。


「マリエルは囮だ。地図の目印を巡りながら、禍津屍を引きつけろ。各所にはゲート経由で足止め要員を送る」

 危険に相応しい宗八(そうはち)からの信頼。それだけの信頼を感じながらマリエルは頷く。

「現地には、確実に光魔法を扱える者を残す必要がある。セーバーPTにはアネスが居るから問題ないが、セプテマとエゥグーリアのチームには継続してサーニャに入ってもらう。リッカもここだな」

「「かしこまりました」」

 こっちで即応出来るのは、ゼノウPTを含めても三ヶ所だ。

 勇者PTは、パメラと宗八(そうはち)と共に各地の魔王との顔合わせに同行してもらう必要がある。この下準備を怠ると余計な戦闘が各地で起こり、魔王オーティスの討伐が遅れ、魔族領の人口が更に減ってしまう。

 魔族も自分達の首を絞めるなんて道化を演じたくも無いだろう。


 * * * * *

 命令が行き渡ると、マリエルは即刻魔族領の空へ飛び立った。

「ジラフ殿、この度はご協力ありがとうございました」

 数時間とはいえ、魔族の村に放置してしまったジラフとアナスタシアだが、思いの外家族の時間を楽しんでいたらしい。

 宗八(そうはち)の感謝に遠慮しながら朗らかに応える。

「いやいや、こちらこそ最近はめっきり減った娘との時間をいただき感謝しております。また、何か協力出来る事があればお声がけください」


 ジラフはお役御免となりアスペラルダに帰したが、アナスタシアは足役としてもう少し付き合ってもらう事にした。

 その後の残り二ヶ所に仲間たちを送り込む役目は闇精クーデルカに任せて、宗八(そうはち)は予定通りに占い師パメラと勇者PTを連れて直近の魔王領に移動した。アナスタシアは宗八(そうはち)達と分かれ、そのまま次の魔王領にゲートを設置する為にアナスタシアは迷いなく駆け出し、黒い風のように姿を消した。

「魔族領は魔物のランクも高めだと思うんだけど、あのメイドは大丈夫なのかい?」

 勇者プルメリオ含め勇者PTの多くは、宗八(そうはち)の命令に忠実なアナスタシアを気にしていたのか、パメラの言葉に反応して宗八(そうはち)に視線が集まる。

「う~ん……」

 魔族の文化を知らない宗八(そうはち)は悩んだ。

 プルメリオ達への説明であれば冒険者ランクB級の戦闘力は持っていると言えば良い。だが、魔族のパメラにどう答えれば分かりやすいかと考えたのだ。

「まぁ……大丈夫だよ。村の自警団相手ならアナスタシア一人で村を制圧できるくらいには強いから、大丈夫さ。流石に真正面から魔物と戦う訳でも無いしね」

 彼女たち諜報侍女隊は、全員が闇精と契約している精霊使いでもある。

 闇精使いの特徴は軽業を得意とし、トリッキーな魔法で隙を突いた一撃で敵を倒していくスタイルだ。魔物の群れにぶつかりそうなら中距離転移(ミディアムジャンプ)で回避すればいい。

 宗八(そうはち)の命令は、次の魔王領へのゲート設置だ。最優先事項を理解しているアナスタシアが、危ない橋を渡ることは無いと宗八(そうはち)は侍女隊を信頼していた。


「おっと、忘れてた。≪幻外装(トランスフォーム)≫」

 アルカンシェと会う段階で解除していた魔法を再度唱え、煙に包まれた宗八(そうはち)が姿を現すと、額に立派な角が生えている。

「お前さんは魔族のフリをするのか? 俺達はどうするんだよ」

 勇者PTの拳闘士クライヴが宗八(そうはち)の考えを読み確認して来た。

「俺の立場は、無名の魔王だ。娘二人分の魔力もあるから、普通の魔王からすれば驚異的な存在だろうな。そんな俺が危機感を持って他の魔王の下に赴いたとなれば、魔王側も真剣に話を聞く耳を持ちやすくなる……、といいなぁという計画だ」

「……最後の言葉は自身を持って言って欲しかったな」

「……尊師はこのように仰っていますけれど、計画としての成功率はどの程度なのですか?」

 続けて騎士マクラインと魔女ミリエステが言葉を紡いだ。

 その視線は、この場にいる唯一の魔族であるパメラに向けられていた。

 パメラ自身は、現状に対する危機意識をしっかりと持ち合わせている。その為、宗八(そうはち)が勝手に連れて来た勇者PTから意見を求められたと思い普通に答える。

「魔族は角で魔力を計れる。水色の精霊が合流する前でも魔王を上回る魔力を持っていたってのに、今は更に増えて、息苦しいほどの圧がある。正直、傍に立つだけで膝が震えるね。これだけの魔力を持った自称魔王が訪問すれば、十分な説得力を持つと断言出来るよ」

 パメラの意見を聞いて、全員が納得した空気となる。

 人間である勇者PTは、宗八(そうはち)がどれだけ子供達と一体化しても強者の覇気を感じるがそこまでだ。しかし、魔族は魔力濃度が高い魔族領で独自進化した存在であるので、魔力に関しては敏感なのだ。言葉通りに宗八(そうはち)の隣に居るパメラは、彼に視線を向けることも避けている様子だ。

 ついでに言えば、共に居る精霊達は宗八(そうはち)の魔力量を理解はしていても、精霊同士で争うことなど皆無なので『凄い!』と思うだけで脅威とは考えていなかった。


「さっそくおいでなすったな……え?」

 魔王が治める町には歩いて入るはずの予定が、何故か武装した集団が明らかにこちらに向けて町中を進んで来る。

「多分だけど、住民か兵士がアンタの魔力を感じて、魔王に報告したってところかね……。基本的な会話は私が行う、で良いんだよね?」

「頼む」

 宗八(そうはち)は堂々とした態度を崩さないだけでいい。

 向かって来た武装集団は町の入り口前に展開した。しかし、パメラが言うように、畏れ多いのか……。

 無言のまま展開した魔族たちの列は、宗八(そうはち)の放つ魔力の瀑布の前に言葉を失ったようだった。

 手が震える者、額に汗を浮かべる者、全員が宗八を見ながらも視線を合わせようとはしない。先頭の魔族はパクパクと口を動かしては声を発さない。出方を伺う宗八(そうはち)達も、その魔族の言葉を待つ形でその場で待機を続けた。


「あー……ごほん。貴様ら!」

 ギロリ。魔力量の優位性によって、いつも通りの宗八(そうはち)がただ視線を向けただけで魔族隊長は震えあがった。

「あ、は、放つ魔力から只者ではないかと存じます!貴方がたは、何用でこの町へ参られたのでしょうか!この町は魔王ヴァルザー=グリウス様の治める町であります!」

 語尾を震わせながら何度も”町”を多用する魔族隊長の誰何には、予定通りパメラが前に出て応える。


「私はエムクリング山脈麓の里に住むパメラという者だっ!そして、こちらはっ……」

 そういえば情報屋として接触した為、正式な名乗りはしていなかった事に気が付いた宗八(そうはち)は毅然とした態度で偽名を名乗り上げる。

「イクダニムだ!」

「そして、人間のグループは人族領で召喚された勇者を筆頭にした勇者PTであるっ!」

 超魔力から発される宗八(そうはち)の覇気にはもちろん慄いている魔族達は、パメラが続けて紹介したプルメリオ達の存在に思いの外大きなリアクションを返して来た。

 ざわつく部下たちは「まさか……」「何故……」など、まさに寝耳に水といった様子だ。

「静かにしろっ!つまりは、魔王様を討伐に来た、ということなのだろうか?」

 部下を一喝した隊長は、勇者PTに視線を送った後に、魔力量が一般人のパメラに向き直ってから問い掛けた。

 しかし、これには具体的に回答できない。

 魔族隊長達の登場に町の住人が集まり過ぎていたのだ。辺境に近い今はまだ安全圏の町とはいえ、早期解決予定且つ避難先候補でもあるので、魔王の前に住人に知らせる事は無用の混乱を招く事となる。それは宗八(そうはち)達としても余計な手間だ。


「勇者の目的は、今もなお人族領に攻撃を仕掛けている大魔王オーティスの討伐であり、グリウス卿には協力を求めたく参上した!私は先代のグリウス卿が魔王を踏襲する際の試練に協力をした占い師である!此度は恩の返礼をいただきたく参った!」

 辺境の村に住むパメラが魔王とどんな縁故を得たのかと思っていたが、まさか試練の協力要請に応えていたとは驚いた。

 何かしらを入手する、もしくは何かしら魔物を討伐するなどのエリア特定だろうが、そういう平和的な利用であれば占い冥利に尽きるだろう。

「うぅむ……」

 とはいえ、目的が不明瞭な者たちを通して良いものかと判断に迷うのも当然だった。

 パメラが振り返り宗八(そうはち)を促す。自分の役割は終わりだ、という事だ。動き出した事態に対し、後手に回ってしまった自分達がもたつくわけにはいかない為、予定通りに宗八(そうはち)は歩を進め前に出た。

 一歩。また一歩と前に進む度に、ざわつき悩んでいた魔族達が静かになっていく。それはパメラが感じていた”足が震え、息苦しいほどの圧”がまさに迫って来たのだ。緊張感は嫌でも増していく。


「時間がないのだ。ここでの問答も本来は無用。貴様らが先導しないのであれば我らは押し通るぞ。疾く道を開けよっ!」

 水無月宗八(みなづきそうはち)という人物は、厳しい戦いの合間でも楽しむ要素を見逃さない。そのような愉快な面を持ち合わせていると既に察している勇者プルメリオ達の呆れた視線が、ノリノリで魔王ムーブをかます宗八(そうはち)の背中に突き刺さる。


 しかし、逆に水無月宗八(みなづきそうはち)を知らない魔族からすると、圧倒的な魔力量が放つ覇気を己の角が受け止める度に膝を着きたくなる程に恐ろしかった。自分達では判断は当然出来ない。それでも立場上から正体不明の、それも魔力量から魔王とおぼしき人物を主の前に連れていく訳にもいかない。夥しい冷や汗を鎧の中で流しながらなんとか言葉を絞り出す。

「か、かかか確認は必ず……必要なのです。私の判断で、ま、まま、町への入場は、私の一存では……とても……判断しかねますので……ぱ、パメラ殿でしたか……。そちらの方を中心に、主へ伺いを走らせていただきます。それまでこの場でお待ちいただけますか……?」

 自分で威圧しておいてなんだが……ここまで素直に怯えられると、さすがに罪悪感が湧いてくる。可哀想なほどに声を震わせる魔族隊長の姿が、やけに人間臭く思えた。

 とりあえず、話が一気に進展した事に違いはないと判断した宗八(そうはち)は尊大な態度を保ちつつ許可をした。

「行け」

「はっ!直ちに!魔王様に急ぎ伺いをっ!あまり時間を掛けられない事も確実に伝えよっ!」

 魔族隊長が指示した兵士は、魔物に乗ってきた道を大急ぎで戻っていく。

 というよりは、魔物の方が全力疾走でこの場を離れたがっているのか、乗った兵士は必死にしがみ付いているだけの様に見受けられた……。いや、見なかった事にしよう。


 その後、何故か自身の足で走って戻って来た兵士が隊長に耳打ちした事で、硬直状態だった現場が動き始めた。

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