†第16章† -12話-[集団共闘]
ご来場いただきありがとうございます。
読み終わり『続きが気になる』『面白かった』など思われましたらぜひ、
広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると執筆の励みになります。
よろしくお願いします。
パメラのもとへ向かいかけた宗八は、ふと何かを思い出したように足を止め、振り返って仲間たちに声を飛ばした。
「こっちで相談している間は、禍津屍と遊んで感触を確かめて後で報告してくれ。アネスとサーニャはいつもの要領で光魔法で仲間を護ってやれ!」
指示と同時に視線がアネスに向けられる。
つまり、精霊使いの先輩としてサーニャをサポートしろと言う事だ。頷き、了解を伝える。
「サーニャ様。シンクロ後、精霊を通してご一緒に聖域を広範囲に展開しますよ」
宗八の指示通りに仲間達は、二人が動き出し魔法を展開するのを待つ。
「「≪シンクロ!≫」」
アネスは光精ミャンクーと。サーニャは光精ベルトロープと意識を一つとした。
精霊同士、人間同士が手を重ねると、空間が淡く輝き始めた。
二つの光が共鳴し、やがて一つの魔法へと姿を変える——。
「「≪聖域展開!≫」」
集まっていた禍津屍は再び山となって我先にと、高い位置にあるゲートに近づこうと足掻く異様な姿に、地獄の底が口を開いたような錯覚を覚える。
その山の中心から瘴気の鎧を剥がし、瘴気ウイルスを殺す輝く魔方陣が広がっていく。その様子を確認した七精の門の面々は、嬉々として飛び降りた。その中には元・剣聖セプテマ、拳聖エゥグーリアも混ざっている。
最後に残った勇者PTが宗八に視線で伺いを立て、宗八が小さく頷くと、勇者PTは無言で飛び降りた。
天と地を繋ぐ戦場に、ついに二つの英雄陣営が揃った——。ここに、“共闘”が始まる。
* * * * *
宗八が「遊び」と称した通り、七精の門のメンバーにとっては、倒し方が限定される以外、大した違いはなかった。
攻撃的な凄い数の敵に囲まれる事は、魔神族の世界で何度も体験している。
「前衛はその場を死守! 一体ずつ確実に心臓核を叩いてッ!」
戦場に弓使いトワインの声が響く。
ゼノウPTは、今までリーダーのゼノウが指揮も取っていたが、主武器が短剣であり闇精使いという点からも、戦場を攪乱しながら敵を減らす役割を熟すと、指揮者の視点を持つことは不可能だった。
故に後衛の弓使いトワインと魔法使いフランザは指揮を学び、戦力としてのゼノウを解放してあげたのだ。
禍津屍は前に仲間が居ても、我先にと前進しようとするので、隙間を潜ろうとする個体をトワインの矢が弾き飛ばす。その間にゼノウは素早く動き回り心臓を一突きで破壊していく。
同じくPT前衛のライナーも魔法で風を纏い、行動すべての速度を上げて固い皮膜など気にも留めず心臓ごと斬り捨て数を減らす。
残るメンバーは魔法使いフランザだ。
彼女は後方からどんどんと押し寄せようとする禍津屍の対処をしていた。
「≪氷茨束縛!≫」
フランザの詠唱とともに、青白い冷気が奔り、真ん中の層に絡みつくように氷の茨が噴き出した。
一瞬にして禍津屍たちの足を絡め取り、押し寄せる波を真っ二つに引き裂く。
これで足を止めた敵が防波堤の役割も果たし、外側の集団の足を鈍らせる事が出来る。
「≪捻氷柱覇弾!≫」
それだけでは心許ないので、大量の魔力を消費して捻氷柱弾をばら撒き他PTも支援する。
狙いは荒くなってしまう点から心臓核を穿つ事は出来ない。しかし、頭や四肢を吹き飛ばす事で敵集団全体の動きを鈍らせることが出来る。
「フランザの支援が入りましたよ!楽になった分、討伐速度をあげてくださ~い!」
ゼノウPTの隣で戦うセーバーPTの司令塔。魔法使いアネスが指示を飛ばす。
こちらもサブリーダーであり、前衛を務めるノルキアが本来の司令塔も兼任していたが、ゼノウPTと同じ理由で後衛が司令塔となる方針に転換していた。
その後衛には、弓使いモエアも居るのに残念ながら候補にすら上がらなかった。何故なら28歳児と揶揄されるほどに奔放な性格が、司令塔には不向きだと即刻仲間内で判断されたからであった。
「モエアは火魔法を使わないでね。フランザの拘束が緩くなっちゃうから……」
「≪モーメントブレイズ!≫」
アネスの隣で、貫通性の高い火の矢を撃ち放ち、心臓核を的確に破壊しつつ、後方の複数体にもダメージを負わせていた大きな子供に注意の言葉が投げられた。
「は~い。じゃあ……」
モエアが仕事を探して視線を彷徨わせる先で、セーバーとノルキアとディテウスの前衛組が、危なげなく接敵する禍津屍を屠っていく姿が映る。
「防御力の高さには目を引くが、苦労するって感じじゃねぇなっ!」
セーバーが嵐を宿した大剣を振り下ろすと、空気が震え、複数体の屍がまとめて吹き飛んだ。
斬撃というより嵐そのものだった。
風の力で剣速が上昇し、雷の力の破壊力を持ち合わせる一撃は、固い皮膜をやすやすと斬り裂き更に固い心臓核も斬り裂いた。
「そんなポンポンと倒されると、壁役の仕事が出来ないんですけど……」
リーダーの暴れっぷりに愚痴を溢しながらも腕盾で鋭い攻撃を受け止め、心臓核に拳を打ち込み確実に一体一体仕留めていくノルキアも、普通の冒険者からすればポンポン倒している様に見える事だろう。
「まだ二人には追い付けないかぁ……」
PTメンバーの中で一廻り若いディテウスは、棍棒を振り回して攻撃を防ぎ、脇から伸びて来る武器を破壊し、近い個体の心臓核を破壊する。
戦い方の派手さで言えば豪快なセーバーと堅実なノルキアの丁度中間といったところか……。力はついた。仲間にも支えられている。
それでも——師、宗八の背を知るディテウスには、まだこの場所すら、遠く感じた……。
ゼノウPT、セーバーPTと大活躍している戦場で、更にワンステージ高い殲滅力を発揮しているグループが居た。
「エゥグーリアよ、余り突出するでないぞ」
元・剣聖セプテマが気に掛けるのは、嬉々として禍津屍を殴り飛ばす拳聖エゥグーリアだ。
一瞬のうちに剣閃が幾重にも光ると、敵は四肢を失い最後に心臓核を一突きされて絶命していく。返還したとはいえ、剣聖らしく芸術的な技術は、尚も輝いている。
「心得ている。手前も命知らずでは無いから気にする必要は無い」
獣人由来の強面で返事をするエゥグーリアは、視線を敵から外さない。
拳聖となってからまともに打ち合える対戦相手に恵まれなかったストレスは、宗八と出会う事で払拭された。しかし、いくらでも試せるサンドバッグは終ぞ手に入らなかった。されど、今目の前に現れた事で彼は静かに興奮しながら一撃ごとに骨を砕き、瘴気が霧散する。エゥグーリアの拳は、まさに破壊そのものだった。
「こ、こちらは個々で戦うことになるのでしょうか……?」
大長刀を振るいながらリッカは隣で戦うサーニャに問いかけた。
「知らないわよ、そんなこと。リッカこそ、私よりも宗八さんのクランには長く所属しているのだから、こういう時の動き方は知っているんじゃないの?」
サーニャも元・アナザーワンらしく、高い戦闘力で禍津屍を斬り捨てながらリッカに問い返した。
七精の門に所属するリッカとサーニャはともかく、セプテマとエゥグーリアは未だに所属はしていない。それぞれが立場があるので気軽に参加が出来ない代わりに、なんだかんだと理由を付けて宗八に協力している状況が続いている。
その無所属二人をサポートする為、リッカとサーニャは自然とこのグループで戦う事となった。
前衛四人で指示を出す人も居ない。そんなバランス崩壊していても危な気ないところがこの四人の戦闘力の高さを伺わせる。
「他のPTと共闘ってなかなか無いけど、やっぱり司令塔が居るPTって安定度が段違いだね」
勇者プルメリオは多少固いと感じる禍津屍の心臓核を斬り裂きながら視線を泳がす。
防御力が高いとは宗八から聞いていたが、初撃という事で油断していたプルメリオは、その一撃で軽く手を痺れさせた。後悔しながら二撃目からは全力で斬り裂き、次々と討伐していく。
宗八は凄い。その仲間も凄い。あの誰にも頼らず戦場を支配する姿に、憧れにも似た感情を覚えながら、プルメリオは必死に剣を振るった。
「うちはまぁ……やるとすればミリエステになるだろうな……」
隣でその呟きを聞いていた騎士マクラインが、想像した結果、一人しか候補に上がらなかった。
「こりゃあ調子が良いなぁ!ステータス万々歳だっ!」
クライヴは、拳聖エゥグーリアに負けず劣らず戦場を跳ね回っていた。
指揮官? そんなもの、彼には無縁だ。
今も嬉々として、多数の禍津屍を相手にギリギリで回避したりと戦闘を楽しんでいる。
前衛三人が戦っている様子を見ながら、魔法使いミリエステと義賊プーカは後方で様子を見ていた。
「フランザさんの支援魔法が強すぎて、すこし余裕が生まれちゃったわね。プーカは大丈夫?」
全く魔法を撃っていないわけではないが、普段に比べればその頻度は少ない。
理由は、魔法使いアネスは指摘していたフランザの拘束が緩む事を懸念した結果だ。これは声が聞こえたわけでは無く、彼女自ら気付き魔法を減らしたのだった。
「私はまだステータスが低いから、あまり前には出たくない……」
精霊使いとして幼い段階で闇精と契約してはいたものの、精霊使いの可能性に気付く機会のなかった現地人であるプーカは、既存の闇魔法は扱えたが、時空魔法は扱った事が無かった。
勇者PTに参加してまだ間もなく、覚えたての時空魔法も満足に扱えず、ステータスも低いプーカは完全に戦力外。ミリエステの隣で眺める事しか出来なかった。
バラバラなれど、強力な四つのグループはその後も禍津屍を討伐していく。
その間に宗八は、占い師パメラ達と共に地図と睨めっこし、今後の動きを計画していった。その隣ではテーブルに突っ伏したまま居眠りを始めていたマリエルと風精ニルチッイの寝息が聞こえ始めている。
けれど、それでも終わりはまだ見えない。
魔族領には、なおも禍津の波が押し寄せ続けていた……。




