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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第03章 -港町アクアポッツォ編-
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†第3章† -04話-[クーデルカの進化]

あけましておめでとうございます!

今年も本当によろしくお願いします!

 ドドドドドドドドドドドドドドドドド!


 凄まじい勢いで射出される勇者の剣(クサカベ)を、

 私は回避をしながら見極めていました。


「(普段、私やアクアちゃんが使用する勇者の剣(クサカベ)と違う。

 これは細くなっているから、

 射出速度に制御を回しているんだ・・・)」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドド!


「《アイシクルウェポン》シフト:ランサー!」


 手の中に馴染みの槍が精製され、

 そのまま自分に向かってくる勇者の剣(クサカベ)を弾く。

 カァィィン!

 と音を鳴らしながら自分の横を流れていく氷の槍を見た。


「(形が普段相手にしている物と違うから、

 弾いた先も指定しづらくなってる・・・。

 基本は足で捌いて、乱れそうなのだけを弾こう)」


 ドドドドカァィィンドドドドドドドドドドドドカァィィン!!


 しばらく避け続けていたアルシェの体は、

 その短時間の酷使により徐々に精細を欠き始める。



 * * * * *

「アクア、魔力は?」

『ほとんどなくなったよぉ〜』


 まだ5分程度だけど、かなり無茶な運用をしたから仕方ないか。

 今後の課題としよう。

 形の形成もほどほどにして、

 速射を優先させての勇者の剣(クサカベ)は、

 大きさもひと回り以上小さい魔法になっている。


「クーはどうだ?」

『纏って移動しているだけですし、

 時々転移してますけど、魔力は十分にあります。

 どちらかと言えば肉体の方が辛いです』


 受肉していない精霊でも、

 纏って居る間は俺に依存する為肉体疲労も起こる。

 閻手で木を握っては勢いを殺さずに縮めて飛ばす。

 いわゆるひとつの立体機動というやつ。

 これを繰り返せば流石に筋肉痛になるだろうな。

 本当は噴射機構も真似がしたかったけど、

 それは風精霊と契約してからにしよう。


「アルシェも限界が近い。

 クーがバインドを掛けたらギブアップするから、

 アクアは合わせて水に変えてくれ」

『わかりました』

『あ〜い』



 * * * * *

「ギブアップです!」

 バッシャアァ・・・。


 こちらも限界が近かったこともあり、

 魔法を解いてすぐにアルシェの真横に姿を現す。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「ありがとうな、アルシェ。お疲れ様」

「ぃえ。はぁ、はぁ、はぁ。

 個人は数に適わない・・・それが実感できましたから。

 はぁ、はぁ、はぁ、魔法使いが動き回ると強いですね、はぁ、はぁ」

「アルシェ様、拭きますので動かないでくださいね」

「あはは、動けないですから、大丈夫ですよ、メリー」


 いつの間にかメリーが倉庫からタオルを引っ張り出し、

 アルシェへと駆け込んできていた。

 夏だし風邪は引かないと思うけど、

 俺もかなり体力を消耗している。


『くー?だいじょうぶ?』

『はい、お姉さま。

 少し疲れて眠いだけですから大丈夫です』

「あとは寝るだけだし、クーは影に入って寝てな。

 あとで寝床に移してあげるから」

『わかりました、あとはお願いします・・』


 クーはそう言い残して俺の影へと入っていった。

 アルシェも拭き終わったようだし、

 クールダウンのストレッチをしてから家の中に入ろう。

 クーの魔法もそろそろ解けるしな。


「ぎゃあああぁぁぁぁ!!目がぁ!目がぁ!」


 家の中から女の子?の断末魔のような叫びが上がる。

 そういえばウルミナさんとマリエルがいないな。


「2人はお風呂を沸かしに行ったぞ。

 多分魔法が掛かっている事を忘れてマリエルが目を開いたんだろ」

「ありがとうございます、カインズ様」

「いやぁ、凄いものを見せて頂きました!

 これを話の肴にして息子とまた話ができますよ!」

「それは良かったです、うっ!お兄さん・・少し強いです」

「痛気持ちいいくらいが丁度良いんだよ。

 ベイカー氏はこのまま帰るんでしたよね?

 舟まで送りましょうか?」

「いや、それには及びません。

 ハライクさんが家で待ってますから一緒に舟まで行きますので。

 では姫様、皆様おやすみなさい。屋敷で帰りを待ってますからね」

「「「おやすみなさい」」ませ」

『おやすみ~、またね~』


 ベイカー氏が去っていき、

 目も元に戻った頃にマリエルがお風呂の用意が出来たと呼びに来たので有難く浸からせてもらおう。



 * * * * *

 翌日、昨日の夜の疲れからかすぐに寝入ることが出来たので、

 朝も早くから目が覚める事となった。

 昨日寝かせて頂いたのは客室で、

 メリーも同じく別の部屋。

 アルシェはマリエルの部屋で寝ることに決まった。

 まだ誰も目覚めていないかと思っていたが、

 カエルの朝は早いようで部屋には朝食の匂いが流れ込んでいた。

 とは言っても呼ばれるまではあまりウロウロしても迷惑だし、

 昨夜の模擬戦について考えを巡らせる。


「(クーの適正は補助。

 闇魔法の特性は遠距離まで届かない事、

 厚く出来ないが防御力はある事。

 魔法は魔力が切れると分散して、

 届く頃にはダメージに期待が出来ないほどになる。

 分散しない戦い方は現状は閻手のみか)」


 ただし・・・


「(天狗になれば移動力がかなり高く、

 他の精霊と組めば昨夜のような圧倒的な戦闘に出来るし、

 吸収系(アブソーブ)も闇精霊のクーでないと使えないらしい。

 ダメージ量はないけれど、

 他とは違う攻撃手段があるし、

 バフデバフは今後に期待出来る。

 あとは進化していけば制御力も上がるから出来る事も増えるはず)」


「少し焦りすぎていたかな・・・。

 もともと俺の目的は戦うことじゃないし」


 枕元で丸くなるクーを見やるとまだスヤスヤと眠っていた。

 指で顎や耳の裏をこちょこちょすると両手で俺の手に抱きついてくる。


「精霊の特性はみんな違うんだから、

 無理にクーと俺だけで戦う必要はないのかな」


 アクアは確かに戦闘型の精霊に育っている。

 俺が力を求めていた矢先に契約した精霊だし、

 それに答えてきてくれた。

 でも、クーの場合は力を求めていなかったし、

 ひとまずのびのび育って欲しいと色々させてみた。

 この娘の性格も人見知りで一歩引いている。

 攻撃役のアクアがいるならそれもなおさらだろう。


「(メリーに憧れているのもそういうことかな)」



 * * * * *

 朝食の時間になっても起きられなかったクーは影に入れて、

 客間から夕食を食べた部屋へと移動する。


「おはようございます」

「おぉ、おはよう!昨夜はどうだった?」

「よく眠れましたよ。ありがとうございました」

「おはようございます、お兄さん。

 クーちゃんはどうですか?」

「いや、まだ寝てるよ。

 進化する前の眠気なら嬉しいけど、

 まだ目的を果たしてないから不安もある」


 何故かクーが寝ていることを伝えるとアルシェとメリー、

 それからマリエルも顔を見合わせた。


「それなんですけどね、お兄さん・・・」

「アルシェ様、話は食後に致しましょう。

 皆様朝食後に仕事を控えていますので」


 アルシェが何か言いかけたが、

 メリーが話を中断させる。

 まぁ、今の俺達は突然訪れた客人だからな、

 優先はこの家のルールだろう。


「申し訳ございません、ウルミナさん」

「いえ、こちらこそ申し訳ございません。

 じゃあお父さんお願いね」


 一家が手を合わせたのを見て、

 俺達も合わせてその後を待つ。


「我らが先祖、ヴォジャノーイへ捧ぐ。

 あなたの護りに感謝を」

「「「感謝を」」」

「「「『感謝を』」」」


 少しの黙祷が入る。

 ヴォジャノーイってカエルの妖精だったか?

 マンキンでしか知らないぞ。


「では、頂こう」

「「「頂きます」」」

「「「『頂きます』」」」



 * * * * *

 食後のお茶を出してもらい、

 ウルミナさんは仕事に出ていった。

 食後すぐにカインズ氏も仕事へ出掛け、

 村長は部屋へと引っ込んでしまい、

 この場には俺達のパーティとマリエルが残っている。


「昨夜のメリーとマリエルの2人を交えて話し合いをしました。

 お兄さんの契約精霊についてです」

「アクアとクーの?」

『な~に?』

「はい。内容は進化についてですが、

 結論から言ってクーちゃんが寝ているのは、

 進化が出来るようになったからと考えています」


 確かにアクアの時も進化前は怠そうによく寝ていた。

 ただし、スライムの核を使っている現在は、

 核の消耗によっても同じ現象が起こる事もわかっている。


「お兄さんはセリア先生とスィーネさんと話をされた時に、

 精霊には進化する為の条件があり、

 精霊によって内容は異なると聞いた。

 これに間違いはありませんか?」

「間違いない」

「私達はお兄さんから話を聞いて、

 戦闘をすれば進化するという話に少し引っ掛かりを覚えていました。

 それは微かな引っ掛かりでしたので、

 メリーとも口には出さなかったのですけれど、

 契約精霊と精霊の違いがやはり気になり話す場を設けました」

「寝室で?」

「お風呂場です」


 まぁ、のんびりと頭を使うことは出来るわな。

 特に女の子は長風呂だしね。


「精霊は魔力経験値と条件による進化をします。

 契約精霊は契約者と何かを成すことも条件になると思いますが、

 お兄さんの契約方法はまた普通の契約とは違います。

 アクアちゃんしか前例がないのですが、

 絆が鍵になる所は同じだとは思います。

 ですが、クーちゃんとアクアちゃんは、

 余りにタイプが違うので他にもあるのではと1度検討してみました」

「そういえば、他の・・・えっと、

 通常の契約はどういったものか知ってるのか?」

「通常の契約はご主人様と同じですが、

 契約する精霊が純粋培養のある程度成長した精霊という点が違います」


 前にも少し聞いたような気がするな。

 誰から聞いたんだったか・・・。

 本来の精霊との契約はメリーが言うように、

 魔力を地道に吸収し、長い年月を掛けて加階して行き、

 ようやく契約するに至る。

 これが契約精霊の至る道であり、精霊達の憧れ。

 それとは別の道を歩んでいるのが俺達というわけだ。

 精霊とも呼べないほど幼い浮遊精霊を加階させ、

 話ができるようにして契約する方法は精霊の英才教育と変わらない。


 それは精霊の心も一緒に育てていく事であり、

 それは加階にも影響があるのだと。

 アルシェ、メリー、それからマリエルもそう思ったそうだ。


「俺も今日の朝に早く起きすぎてな、

 その時に少し冷静に考えたよ。

 クーとアクアは性格も適性も違うんだから、

 もっと他の方法を模索するべきだったって。

 焦りすぎて手段と目的が入れ替わっていたんだよな」

「クーデルカちゃんの話は聞いてましたし、

 昨夜の姫様襲撃事件の後にすぐ眠ったという話。

 それも踏まえて3人で考えた結果。

 恐らく、進化条件がズレていると判断しました」


 マリエルが言うに、

 同じ加階を果たした精霊でも適正はまちまちなのだとか。

 その適正によって加階手助けの方法も違ってくるらしい。


「アクアちゃんという前例があり、

 進化条件の情報も出てしまえば、

 そちらに意識を奪われても仕方ありません。

 だから、私達も一緒に悩みたかった、

 力になりたかったので勝手ながら話し合いをし、

 条件を選定しました」

「アクアの条件も違ったという事か?」

「そう思っております」

『?』


 クーの条件が間違っていたというのは俺も理解したが、

 アクアの条件はそこまでズレていないように思う。

 アルシェ達はいったいどんな結論を導き出したのか。


「お兄さんの契約精霊達の進化条件は、




 精霊を理解し、その子に合った運用を確立する事。




 これだと思います」

「つまり、アクアはもともと攻撃に適正があったから、

 自動的に条件を満たしていたから進化出来て、

 クーは昨夜の運用が適した扱いと判断されたから今眠っていると?」

「確実な話ではありませんけど、

 姫様とメリーさんの話を聞いた限りでは、

 この条件がどちらも満たしていると思いますよ。

 フラゲッタを倒した段階で眠そうではなかったのですよね?」

「あぁ、いつ満たすか分からないからクーの様子はしっかり見ていた。

 村に戻るまでは眠たそうな様子はなかった」


 なるほどな。

 それなら確かに2人の条件を満たし得るだろう・・・。

 正確な条件は別だが、

 わかりやすく言えばアルシェ達の言い分が正しいと思える。


「多分これが大きい条件で、

 他に細かい条件があるのでは?

 という考えも捨てられませんけれど、

 初めての試みなのでその都度悩むしか方法はありません」

「もっと姫様やメリーさんを頼った方がいいんじゃないですか?」

「結局のところはご主人様と精霊の間にある物事ですが、

 私達も一緒に悩む事は出来ますので、

 もう少し頼ってくださいませ」


 俺は他人の機微に疎いが、

 おそらくはメリーが最後に言った言葉が常々2人が思っている事なのだろう。

 俺はあまり他人を頼ろうとしない。

 それはコミュニケーションとは別に、

 人の評価が面倒だから独りで何でも解決しようとしてしまう。

 勝手に信頼して勝手に失望する他人様達は、

 ひどく相対するのが面倒で、

 自然と初めから手を抜く癖が付き、

 されて嫌な事はするなと言われて育った為、

 他人に期待することもなくなった。


「戦闘は別だったけどな・・・」


 ボソッと呟いた俺の言葉は3人に届くことはなく、

 俺は異世界に来てからの半年を思い浮かべる。

 アルシェからは遠巻きに見られていて、

 メリーからは警戒されていたあの頃はどうでもいい評価だったが、

 いまは2人の気持ちも理解できる。


「わかった、これから先も悩む事が出来たら、

 2人に頼ろうと思う」

『あくあもたよっていいからね!』

「ありがとう」


 時々、第三者視点の俺が声を掛けてくる。

「本当にいいのか?面倒になるぞ。

 冷静になれ、信用すると余計な事を起こすぞ」

 この声は本当に厄介でいつも決断する場面になると、

 俺のやりたいという気持ちとは別に本当に存在するのだ。

 自分が二重人格なのではないかと疑うくらい第三者視点の俺は存在感があり、俺を見ている。


「そうと決まればクーちゃんを進化させてあげて、

 今日中にフラゲッタ退治も済ませてしまいましょう!

 ベイカーの予想通りなら今夜にもブルーウィスプが始まりますから、

 屋台ももっと多く出ます!

 クーちゃんも一緒に回って楽しみましょう!」


 それもそうだった。

 ブルーウィスプの件もあるのだから、

 早めに解決して異世界を楽しむ事も俺の目的なのだ。

 ごちゃごちゃとうるさいもう一人の俺に1発食らわせ黙らせる。

 一時しのぎでしかないが、

 出会って半年の2人の信頼は裏切りたくないと思っている。

 出来ればもう一人の俺は出てこないで欲しいところだ。



 * * * * *

 話もひと段落したところで、

 メリーから情報の進捗が提供された。


「ご主人様が確認するように言われていた件ですが、

 この一帯に風土病はないようです。

 人魚に関しても調べてみましたが、

 人魚のにの字も出てきませんでした」

「それなら良かった。

 もしあれば早く出発しようと思っていたからな」

「どんな病気を想像していたのですか?」

「神経系の病気でな、

 体の指先から徐々に痺れていくんだ」

「それってそこまで恐ろしい事ですか?」


 マリエルはいまいち想像が出来ないのか、

 ピンと来ない顔で訝しげに聞いてくる。


「まず、ふとした時にコップを落とす。

 そのあとは歩いていると膝が曲がらずに転ける。

 転けた時に手を使おうとしても動かない、

 結果、顔面から地面とぶつかる。

 舌も痺れてきて喋ることも出来なくなる」


 まぁ、物語の中に出てくる病気だし、

 似た病気のギラン・バレー症候群はブドウ糖で完治出来る。

 ただ、この異世界は物語の中に出る事も平然と存在する場合があるから調べてもらったのだ。


「ふ、ふん!

 別に少し動くのに支障が出る程度なら怖くないですね!」

「最後は床から動けなくなり、

 家族に食事もトイレも生活の全てを介護して貰うことになるぞ。

 まぁ、そこまで行く前に心臓が麻痺して死ぬだろうけどな」

「・・・な、治し方は?」

「わからないな、ブドウ糖って何で出来ているか知らないし。

 どちらにしろ無いってメリーが言うなら病気は無いよ」

「どうしてその病気を疑ったのですか?」

「ブルーウィスプに似た現象は誘火(いざなび)と呼ばれていてな、

 その誘火は幽世(かくりよ)現世(うつしよ)の境で、

 常世(とこよ)に繋がるとされている。

 その話が残る地域では人魚信仰があってな、

 人魚はあの世へ誘う存在だから、

 魅入られた者はその人魚病に掛かると言われているんだ」

「ご主人様の話は興味深いですね」

「・・・」

「マリエル?大丈夫か?」

「だ、大丈夫です・・・よ?」


 顔面蒼白になる少女を他所に、

 話は別の話題へと移る。

 どちらかといえば後半の話が俺達の旅においては重要なのだ。


「病気はありませんでしたが、

 この島の反対側に謎の黒い柱が立っているそうです」

「柱?」

「特に問題も起きないのと、

 カエル妖精が行動する場所の真反対なので、

 すっかり忘れていたそうですよ。

 心当たりはありますか?」

「うーん、黒い柱だけじゃ流石にな・・・。

 ただの鉱石なのかそれとも人工物なのかもわからないんだろ?」

「装飾はないのですが、

 綺麗な柱ですよ。

 高さは4mくらいですかね?

 木々の間に時々見える程度の大きさです」


 復活したマリエルからの情報を得ても、

 具体的な対応策は思い浮かばなかった。

 何せ黒い柱なんてどれだけの作品に出てきてると思うよ・・・。


「とりあえず、クーが進化出来たら確認に向かうよ。

 場所は地図のどの辺?」

「この辺ですね」


 部屋に貼られた地図に向かい指を立てる。

 確かに村の反対だし、

 沼の範囲からも離れすぎていた。


「私達も先行して確認に向かいます。

 お兄さん達はあとから追ってきてください」

「姫様、危ないですから護衛さんがフラゲッタを倒しきってからでも」

「お兄さんの話だと私は相性が良いみたいだし、

 メリーも一緒ですから最悪の事態にはならないわよ」

「こっちも早めに合流できるように向かうよ。

 一応、疲れからか眠いという可能性もあるわけだしな」

「かしこまりました、お待ちしております」


 その後は俺とアクアは客間へ戻り、

 アルシェとメリーは謎の柱を確認しに向かった。

 マリエルは戦闘能力がないのでと悔しそうに辞退し、

 ウルミナの仕事を手伝いに悔しそうに行く事となった。



 * * * * *

「クー。クー、起きられるか?」


 影からクーを引っ張り出して部屋に用意された座布団の上に寝転がす。

 まだスヤスヤ寝ていたクーに声を軽く掛けるが、

 夢の世界から戻ってこない。

 アクアの時は割りとすんなり起きてきたと思うんだけど・・・。

 まぁすぐに居眠りを始めていたけどな。


『くー、おきて~』

『ん、ぅん・・・お、ねぇさま・・?』


 アクアがゆさゆさとクーの小さな体を揺さぶりながら声を掛けると、

 ようやっとクーも起こされているとわかったのか声をあげる。

 体を起き上がらせて、眠たげな眼で顔の毛繕いを始めた。


「クー、起きてすぐで悪いが進化を試すぞ」

『・・・へ?まだ討伐は終わってないですよ?』

『しんかできるかもなんだって~』


 突然の俺の申し出にクーは当然戸惑いの声を上げた。

 当初はフラゲッタ全滅からの進化エンドを目標にしていただけに、

 なんでこんな中途半端で!?と思うのも理解できる。


「アルシェ達が俺達の進化条件を見直してくれてな、

 話を聞いて俺も納得はしたから物は試しと思って」

『戦闘経験が足りないからではなかったのですか?』


 俺は朝の話をクーへ改めて説明をした。

 俺達の進化条件は、俺が契約精霊を良く理解し進む方向を定める事で、

 昨夜の運用がクー向きの運用だったから眠気に襲われている可能性がある。

 まだ可能性の話で確定事項ではなく、

 今後も不明な点は皆で考えていこうという話も交えて伝えた。


『つまりこの眠気もただの全力運動の疲れか、

 その進化前の眠気かわからないということですね』

「マスターとして申し訳ないが、そういうことだ」

『なさけないね~』

「いまは静かにしてて、ねっ!」

『あいた~!』


 いらない茶々を入れたアクアにデコピンを入れて黙らせる。

 この子は俺を「ますたー」と呼んではいるが、

 クーのように敬う気配がない。

 それこそ子供のように甘えているのだろうと思ってはいるんだけど、

 クーという妹分がいる手前、もう少し姉らしくしろとも思わなくは無い。


『物は試しというのは理解しました。

 お父さまが試されたいのであれば拒む理由はありません。

 メリーさん達の言い分も説得力はありますし、やりましょう』

「よし、一応成功した時のことも考えてなりたい姿とかはイメージしておけよ」

『あくあは、もうつぎのすがたをきめてるよ~』

「お前は気が早すぎるんだよ!

 あと数ヶ月は先なんだからなっ!」


 クーもやる気になったのを見てから、

 インベントリに収納しておいたクーデルカの核を取り出す。

 黒耀の深さに加えて黒真珠にも勝るとも劣らない輝きを持つ核を掌に乗せて準備を整える。

 クーも座って目を閉じて進化先のイメージを固めているようだ。

 俺のイメージでもいいけど、

 俺はいずれこの世界から去る身だから出来れば自身で決めていってもらいたい。

 この核に交換すればクーも今後は、

 核の劣化で人の手を借りることなく独りでも生きていけるようになる。

 やがて、静かに目を開いて覚悟の出来た顔でクーが俺の前へと進み出る。


『こちらも準備は出来ました。

 お姉さま、核に触れれば加階が始まるのですよね?』

『そうだよ~。

 あとはいめーじとじぶんのからだのおおきさにあわせてこうちくされるからね』


 ひらがなが続いて読みづらいからアクアは長文を喋らないでいただきたい。

 アクアがどんなイメージだったかはわからないが、

 クーはおそらくメリー寄りのイメージになると思っている。

 体に合わせての構築なら、

 イメージがメリーそのものだとしてもまだ2回目の進化になる。

 体が大きくないからデフォルメされるってところか?


 改めてクーデルカの核のチェックする。

 込められた魔力に減りも認められないし、

 傷や輝きの陰りも見当たらない。

 これからクーの核として仕事をしてもらうんだから完璧な状態で捧げたい。

 まぁ、これが完成してからすぐにインベントリに収まっていたから、

 傷や陰りが入る余地なんてないんだけどな。


「さてやろうか」

『はい』


 魔力に減りはないが、

 詠唱をして精励を受け入れる状態へ変化させないとならないので、

 恥ずかしながら、あの詠唱ももう一度唱える。


「《幽世(かくりよ)()(ひら)き、冥暗(めいあん)(まよ)わず隔世(かくせい)(まど)わず、()(もと)()よ、閻光(えんこう)(きざ)め!精霊加階(せいれいかかい)()よ!・・・クーデルカ=シュテール!》」


 核から光が漏れ出し、

 精霊を受け入れる準備が整う。


『では、参ります』

「イメージはしっかりな」

『がんばれ~』


 床から俺の掌へぴょんと飛び乗り、

 一歩、また一歩とクーが足を進めて、

 核に触れると魔力がさらにあぶれ出してクーと核を包み込む膜へと変化する。

いつもお読みいただきありがとうございます

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