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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
閑話休題 -破滅対策同盟《アルストロメリア》大報告会-

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閑話休題 -115話-[獣人国の加入]

 全力模擬戦が一通り終わったバーゼラルドPTの面々はアルカンシェの前に整列していた。


「お疲れさまでした。皆さん、出来る限りの手札を使って模擬戦いただき現状を理解致しました」

 アルカンシェの落ち着いた声音と雰囲気からよくわかっていないが不合格であったことを理解する。

「えっと……、そもそも俺達は宗八(そうはち)の指示で活動はしていましたがアルカンシェ様達が結局何を目的にどういう活動をしていたなど具体的な状況を理解していないんですけど……」

 戸惑い気味にバーゼラルドが仲間を代表して発言した。

「もちろん存じています。何より私達が自分達の活動を公表していないのですから、貴方達だけでなく今回の鍛錬ダンジョンに参加した多くの兵士や冒険者は七精の門(エレメンツゲート)の事を疑問視しているでしょうね。ふふふ」

 本当に面白そうなアルカンシェの笑いだが、事情を呑み込めていないバーゼラルド達からすると反応に困る。

 そんな彼らの反応は当然予測出来ていたアルカンシェはすぐに気を取り直して今後の話を語った。

「あと数か月もすれば宗八(そうはち)から説明もあるでしょう。その時は有名な冒険者も同席する事でしょうから、恥かしくない様に堂々とした姿を見せてくださいね。それまではステータス増強を優先して行動してください」

 鍛錬ダンジョンでの計画は短期間に多くの冒険者を送り込み遊撃戦力の強化を目的に行われた。実際、各国で五つほどのクランが対象として選ばれ、兵士も含めれば総勢数万人規模の戦力を整える破滅対策同盟(アルストロメリア)肝いりの一大プロジェクトだった。

 完了までは少なくとも3カ月程時間が掛かるだろうと想定している宗八(そうはち)達は、この計画に掛かりきりで魔族領や獣人国の状況把握に動けない為、魔族領には勇者PTが。獣人国には諜報侍女隊が潜入して情報収集に努める運びとなっていた。

「アスペラルダ出身の冒険者として恥ずかしくない実力と姿をお見せできるように努力いたします!」

 気負った様子のバーゼラルドの姿の笑みを浮かべながらアスペラルダ国民としての誇りを持っている様子に嬉しくなるアルカンシェ。

「クランへの参加には至れませんが、宗八(そうはち)が目を掛けている以上貴方達の活躍には期待しています。特にリーディエ」

 名指しされた魔法使いリーディエは息を飲む。

「貴女はセンスが良いですね。希望すれば全力で貴女を鍛える事を約束しましょう。ただ、仲間と足並みを揃えたいのであれば無理強いはしませんので良く考えて希望するなら侍女に伝えてください」

 強さや技術力で言えばまだ発展途上という印象の四人に不合格を言い渡す。無理強いを通す事も出来る立場であり戦力増強は七精の門(エレメンツゲート)にとっても必須事項である。ただ、夫婦二組の四人PTという特殊性からアルカンシェは自由選択を提示した。

「ありがとうございます。仲間とも話し合い検討させていただきます」


 目的である宗八(そうはち)が気に掛ける四人との模擬戦を行い満足したアルカンシェは、メリーと選手交代して本来のお役目を終えると後続として合流したモエアとディテウスに引き継ぎアスペラルダへと帰って行った。


 * * * * *

 破滅襲撃に備えた各国の戦力を整える政策に宗八(そうはち)達は結局二ヶ月ほど付き合わされることとなった。

 序盤こそ七精の門(エレメンツゲート)のメンバーが役割を担わざるを得なかったのだが、中盤からは優先して鍛錬ダンジョン攻略に従事していた将軍や副将軍が徐々に宗八(そうはち)達と交代してくれたので政策の規模に比べて早い段階で手を離す事が出来たのだった。


 手が空いた宗八(そうはち)の最後の仕事は鍛錬ダンジョン計画を完走した冒険者を集めてなんかあったら頼みます!と説明をする事と、改めてこのステータス増強する為の称号稼ぎは正攻法ではあるがこの世界で生きるにはここまで鍛える意味は無いので許可なく周知する事を禁止する旨を伝える事だ。

 ついでに必要悪の枠をギルドが用意したそうなので宗八(そうはち)が本気を出した上で手加減してボコボコにして約束を破ると一族郎党こうなるゾ♪というパフォーマンスも予定しているとか……。


 ——獣人国クレオパル。

 獣王の雪豹であるテルクシオンと宗八(そうはち)は対峙していた。

「お初にお目に掛かります。獣王テルクシオン様」

「気にするな。拳聖(けんせい)エゥグーリアの紹介が無ければ会う気は起こらなかったのだ。用件などは何も聞いていないので改めて説明してくれ」

 獣王国クレオパルは火の国ヴリドエンデよりも更に過激な戦闘民族だ。王となりたければ正面から正々堂々と宣戦布告し国内に建設されているコロッセオで一対一の闘いを経て勝てば王交代となる。その際、ハーレムの一員として数えられる城に住むの獣人女性は全員が新王のハーレムとなり旧王の男児は全員殺される。

 城の中に入る女性はハーレム人員として見做される為、獣人は基本的に王城に近寄ることは無く城の周りに広がる城下町で生活したり、細かな集落が街の周りに点在している。


「端的に言えば獣王国を調べさせて欲しいのです」

 エゥグーリアからのアドバイスで現国王は端的な回答を好むと聞いていた。だが、端的過ぎて疑問を浮かべた獣王テルクシオンが聞き返す。

「何故だ? 目的を教えろ」

「人族領では魔力を消失させるオベリスクという黒い塔が各地で発見されております。これはその資料になります。」

 正妻アルカンシェからの指示で他国デートとして同行している側室サーニャが獣人兵士に資料を手渡す。

「このオベリスクがある一帯は魔力が徐々に薄くなり、精霊を殺し妖精を殺し果ては人を殺す事に繋がりますが、人の認識能力をすり抜ける仕様から気付かないままに状況が悪化するのです」

 兵士経由で渡した資料の一部を読みながら話を聞いていた獣王テルクシオンは頷いている。

「なるほど。つまりこのオベリスクを発見する技術を貴様は持っているのだな。確かにこのような代物があるなら由々しき事態だが、捜索する代償に何を望む?」

 王の問い掛けに同じ様に資料を速読していた側近たちが顔を上げて宗八(そうはち)を見つめて来た。


「人間領の国々では最近共有された情報なのですが、我らの世界は外の世界からの侵略を受けております。その侵略の最終段階に向けて現在我々が主導で対抗する為の戦力を整えていますので、獣王国もご一考していただけると幸いです」

 サーニャが追加資料を獣人兵士に渡し、各員に配られた。

「…………ふん。ところで我が友エゥグーリアはどうしている?」

 突然の会話の切り替わりに内心戸惑う宗八(そうはち)。しかし、片や王と繋がりがあり方や我が友と言うくらい二人の関係が近いなら判断材料としての意味合いがあるのかもしれない。

「現在はアーグエングリンで客将を務めております。最近までは先の話の戦力として更なる強さを獲得しております」

 エゥグーリアの話題で会話をする宗八(そうはち)と獣王テルクシオンの視界の端で側近たちがバタバタと走り回り始めたので、これは情報収集の為の時間稼ぎなのだろうと思って会話を繰り返す。

「平均ステータスは800を超えていますので獣人の中では一線を画したのは確かでしょう」

「アイツが王に興味が無くて助かったな……。他の獣人の冒険者はどうなのだ?」

 宗八(そうはち)は回答に悩みながらなんとか回答する。

「規模が大きい国策なので確かではありませんが2~3人は居たかと思います。もし王冠の簒奪を懸念しているのであれば宣戦布告された時点で私にご連絡ください。捻じ伏せて御覧に入れます」

「いや、それでは王の資質が問われてしまうのだ。出来ればエゥグーリア並みに俺も鍛錬ダンジョンとやらで鍛えたいのだが……。来たな……」

 先ほどバタバタと動いていた臣下が目的の物を持って戻って来たらしい。話の途中だったが獣王テルクシオンは会話を止めて寄って来た臣下が資料を手渡しながら耳元でこそりと口頭報告もしている。資料を指差しつつ行われる報告が終わるのをしばらく待つと、ようやく獣王テルクシオンが視線を宗八(そうはち)へ向けて来た。


「すまん。先の話で問題の起こっている集落や里を調べさせた結果だ」

 臣下が持って来た資料を手にぺらぺらとアピールしながら獣王国の説明が始まった。

「生産性が著しく下がったり、体調不良者が多く出ていたり、魔物の分布が変わったりしたエリアを確認させた。確かに各地でその様な報告が上がっていたが……。何故今まで我らがこの報告を重視せずに後回しにしていたのか分かるか?」

「先に渡した資料にあるとおり[破滅の呪い]の原理については解明出来ていません。ただ、精霊は認識出来ており精霊と契約した人間も認識出来る事は確認済みです。また、精霊使いが居る一定範囲の者も認識出来るようになります」

 宗八(そうはち)の回答を受けて破滅の呪いの項目に改めて目を通す獣王テルクシオン。

 しかし、突如苦しそうな表情を浮かべて眉間を抑え始めた。

「陛下っ!」

 また会話が止まり臣下と白衣を着た獣人が後宮も獣王に駆け寄る。原因はわかっているので黙っていよう。

「すまん。ここ最近調子を崩していてな……。もしや、これか?」

 獣王は頭の回転が速いらしい。宗八(そうはち)は口角を上げて肯定する。

「そうですね。おそらくオベリスクの影響を受けているかと思います。私が城下町に入った時点で呪いの影響を受けなくなった市井の方々はすでにオベリスクの存在に気付いて騒ぎになっているのではないでしょうか?」

 宗八(そうはち)の言い分が正しいのか誰にも分らない。王城から市井の騒ぎは届きづらいからだ。

 とはいえ、オベリスクが堂々と建っている姿はこの部屋からも見えているので宗八(そうはち)は皆を誘導する。

「皆様も窓から見渡せば見えるかと……」

 宗八(そうはち)がそう言うと、こぞって窓に集まり目を凝らす中で次々と「あれか!」と声が上がっていく。唯一窓に突撃しなかった獣王テルクシオンが冷静を装って宗八(そうはち)に質問する。組んでいる腕に力が入っているので必死に王として取り繕っている様だ。

「朝には見なかったはずだな……。アレの対処は壊すだけで良いのか?」

「はい。獣人ならすぐ殴り壊せるので早めに対処をお願いしますね」

 改めてオベリスク発見の為には精霊使いが必要で、索敵や移動速度に特化した集団を獣王国で活動させて貰えないかと判断を仰ぐ。もちろん、責任は宗八(そうはち)とアスペラルダの王女であるアルカンシェが取る事も伝える。


「……いずれ獣人だけで対処出来る様になるか?」

 これに宗八(そうはち)は即答出来ず言葉を濁す。

「獣人は人族と比べて魔法の扱いに長けていない種族です。精霊との相性なども今のところ詳しくない状況なので安易に回答は出来ませんが、いずれにしろ我々が破滅を倒し得るならば無理に変わる必要はありません」

 前提として宗八(そうはち)達【七精の門(エレメンツゲート)】が魔神族や|神格ヲ簒奪セシ禍津大蛇ウロボロスと相対する。その他に出現するであろう破滅軍の勢力を抑えるのが兵士や冒険者の役割なのだ。もし精霊と獣人の相性が悪く生態に悪影響を及ぼすならば無理をする必要は無いと思っている。

「細かくは今後対話を繰り返す事で調整しよう。ひとまず自由に行動させたい人員は少数に定めて全員の情報を回してくれ。どの里や集落でも咎められない様に手配する事を約束する」

「ありがとうございます」

 とりあえず今回獣人国へ訪問した目的は達成できたと言えるだろう。これで諜報侍女隊が活動出来るようになる。

 宗八(そうはち)は内心安堵しているところで獣王テルクシオンが爆弾と投下した。

「ところで後ろに控える人族の女性よ。貴女は俺のハーレムに加わりたかったりするのか?」


「——私の妻になる者です。言葉遊びは御控え願えますか?」


 室内に濃厚な殺気が広がり全員がその発信先である宗八(そうはち)に牙を剥き武器に手を掛ける。

 しかし、誰も飛び掛からない。それは獣人の本能がどれだけ足掻いても倒せないと実力差を認識させられているからだ。この感覚は獣王テルクシオンも同様で冷や汗が流れる。

「いや、すまなかった。つい癖で聞いてしまったのだ……許せ」

 この場で爆弾を投下し、この殺気を収める事が出来るのも獣王テルクシオンのみだった。彼の言葉以降、警戒する様にゆっくりと殺気の濃度が下がっていき空気が軽くなるのを獣人たちは感じていた。同時に目の前の人族に対する本能が逆転して自分よりも弱いと感じる様になると途端に水無月宗八(みなづきそうはち)という人物の得体の知れなさに気味が悪くなった。

「普段から力を誇示するよりも生きやすいのですよ。他にも侮って貰えた方が膿を見つけやすいでしょう?」

 宗八(そうはち)の笑顔に頷くしなかった獣王テルクシオンは臣下の臨戦態勢を解除させ宗八(そうはち)達に退室の許可を伝える。

「今日は獣人族と人族の新しい未来が開けた記念する日だ。これにてお開きとしよう!担当の者を立てるのでその者と今後の調整を頼むぞ」

「かしこまりました。本日はありがとうございました」

 宗八(そうはち)とサーニャが退室する姿を見送る獣人たちは扉が閉まり気配が遠ざかっていくのを確認してから息を吐き出した。


「ふぅ……。人族にあれほどの爪を隠す者がいるとは思わなかったぞ……」

 獣王テルクシオンの能天気な言葉に側近が苦言を呈する。

「資料に書かれておりましたよ!平均ステータスも!精霊使いのスキルで数倍の強さになるとも!」

 忠臣が次々と苦言を呈する。

拳聖(けんせい)エゥグーリアの信用を得ているのです!不用意に刺激しても良い相手ではないと分かるでしょう!」

 まだ続く。

「あの人族の女の嗜好が獣人ならあれほど落ち着いた態度を取るのはおかしいと何故気付かないのです!?更に知らなかったとはいえ王族が多種族の妻を所望するなどっ!話が漏れれば末代までの恥となりますよ!」

 散々な言われようの獣王テルクシオンだったが先の最後の失言には肝を冷やした。臣下の言う事は全面的に納得の行く忠言だった。

「すまなかった。今後はあの者に関わりのある人族に関しては軽挙妄動は控えると約束する。しかし、エゥグーリアには水無月宗八(みなづきそうはち)の人柄や強さについて知る限りの情報を吐き出すように指示書を送れ」

 獣人の本能で宗八(そうはち)に逆らうのは得策ではないと判断した獣人は人族に比べれば説得がしやすい種族であった。この一度の謁見だけで話に乗らなければならないと理解するに至った獣人たちは、王を筆頭に情報の共有を求めつつ人族の計画に足並みを揃え始めるのであった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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