閑話休題 -110話-[鍛錬ダンジョンのフロントライナー]
色々とリアルが忙しかったので1週休ませていただきました。読者の皆様もお体に気を付けて。。。
——約一ヵ月の期間に宗八だけではなく闇精使いのメリーやゼノウ、細かな部分のフォローに本来の業務外なのに侍女諜報隊も半数以上を投入して各国の戦力増強する為の下地を設ける事に成功した。
冒険者ギルドと王族が宗八に提出された資料を元にいつからいつまでを鍛錬ダンジョンとして機能させるかを決め、ギルドが対象ダンジョンの町で異常事態発生の告知を行い、且つ調査と称して王国軍が街の外で大規模な野営を行う。
そして、予定通り鍛錬ダンジョン巡りが各国で開始出来たのが先日の報告会から約三週間ほどの話だ。
すでに強い将軍や客将、近衛などの参加者は早々にタイムアタックで好記録を叩き出し数日以内に一つ目の鍛錬ダンジョンの討伐称号をコンプリートする目安が立っていたので、宗八達は次の町の鍛錬ダンジョンの準備を進める為に継続して働きまくっていた。
「はい、ここまで。次の方どうぞ」
そんな好記録を叩き出す参加者の中には一つ目のダンジョンの討伐系称号を早々に揃えた猛者が現れた。
兵士が自分達なりに頑張って周回している間、次のダンジョンへ移る前に上昇したステータス分身体の感覚もズレている、との言い分が複数寄せられた為、各国で念の為待機していた[七精の門]と相談した結果。
「はい、ここまで。次の方どうぞ」
それぞれが現地で組手というか、1分だけの全力戦闘に付き合う事となった。
アスペラルダはゼノウが。フォレストトーレは諜報侍女が。ユレイアルドはゼノウが。アーグエングリンは宗八が担当しているので今は同じ様に仲間達も相手をしている事だろう。
「はい、ここまで。次の方どうぞ」
丁度彼らの少し上を行く程度の戦いをしてどちらも被弾しないまま五〇秒が過ぎた頃に圧倒して姿勢を崩し首に剣を添えるだけ。将軍達はこの鍛錬ダンジョンに潜る意味をよく理解している様で、全力戦闘が終わった後に脇に避けて素振りをしている。
「よろしく頼む」
アーグエングリンで鍛錬ダンジョンが解放されてから一番乗りで突入し、一番に討伐称号を集め終えた拳聖エゥグーリアが通算五度目の立ち合いを希望して前に出て来る。
「エゥグーリア……。もう十分に身体は慣れたでしょう? 早く次の鍛錬ダンジョンに進んでくださいよ」
「そう邪険にしないで欲しい。手前と水無月殿が拳を交える機会は多くない故に少ない機会を利用したいのだ」
大型猫科の獣人である拳聖エゥグーリアが悲し気な表情で宗八を見つめる。その瞳を受けて宗八もばつが悪い気分になった。手応えのある戦闘を好むエゥグーリアからすれば宗八は好敵手であり、宗八にとっては付き合っている時間は無い。だから断ったり逃げたりしていたが、時折ギルド経由でエゥグーリアからお誘いが続いていた事実を知っているだけに少し可哀そうになってしまった。
「はぁ……。ここにいる将軍達が次に行くまでですからね……」
「——っ! では、お相手お願い申す!」
しっぽをピーンッとまっすぐに立てて嬉しそうなエゥグーリアの相手を、将軍達と共に次の鍛錬ダンジョンへと移動するまでの間に六回もさせられた。宗八としても鍛えてもらった恩もあるので相手をする程度の返礼はしたいのだが、出会った頃は自分よりも圧倒的強者だった時点でそれなりにステータス強化を進めているエゥグーリアの相手はなかなかスリルがあって怖いのだ。今のステータス差も各種200も無いと思う。ここまでくると余裕を持って少し上の戦いもほぼ全力戦闘をこちらもしないといけないのだ。
「はぁ……緊張したな……。精霊なしだと最終的には経験や技術が物を言うからな」
エゥグーリア達を宗八が見送り独り言ちている頃合いに昼食から戻って来たノルキアとディテウスの姿が駆け寄って来た。
「宗八、お疲れ様です」
「応、おかえり。丁度最初の突破集団が次のダンジョンに移動した所だから、一戦やってから俺は移動しようかな……」
ノルキアはセーバーPTのサブリーダーを務める男だ。彼らPTはゼノウPTに比べ、遅れて参入したので最初から精霊と同行し加護を取得していたセーバーだけが頭角を現す事となってしまった。それでも可能性の実を摂取してレベルは100を超えているし、戦闘技術にしても宗八達と訓練を重ねているのでその辺のSランク冒険者ですら霞むほどに強い。
特にノルキアは盾と片手剣を用いて防御に精通した戦いを好んでいたからか、グランハイリアと木精ファウナの協力で得たハイリアシリーズも他のメンバーが武器を選ぶ中で唯一盾を選択している。その為、七精の門の中でもその防御を抜くのには苦労する。
宗八の言葉にディテウスが進んでその場を離れ、ノルキアがグランハイリアから賜った盾と腕部が合体した[アイギスハイリア]を装備し構えた。
「始めるぞ」
「お願いします」
宗八よりも年上のノルキアが敬語なのは誰にでも同じ対応だからだ。
ノルキアが守りの戦いを得意としているを理解している宗八から剣を振りかざし攻撃を始める。軽い斬撃から始まった攻勢はノルキアの盾に全て防がれる。
「《グラヴィティバースト!》」
最後の一撃を重くする宗八の癖を読んだノルキアがカウンターを合わせる。剣と盾が接触した瞬間に宗八を重力球が包み込み10mほど吹き飛ばすと強力な重力が宗八を襲う。一気に変化した重力に動きが制限され鈍化する。その隙にノルキアは更に動きを封じる魔法を発動した。
「《シールドパペット!》」
地精ノイティミルのオプション[聖壁の欠片]を模倣したシールドが複数ノルキアの周囲の地面から盛り上がり出現する。しかし、宙に浮くことは無くそのまま横たわる盾が駆け出し動けない宗八へと迫る。
実際は盾に見えるだけで簡単な命令を聞くアルマジロの様な疑似生物を産み出しているに過ぎない。この魔法に出来る事は高い防御力と追尾能力による防衛と体当たりと自己犠牲による魔力爆発だけだ。
ノルキアの指示に従い地を走る盾は宗八を囲むと一斉に自爆する。同時自爆の衝撃波は凄まじく、傍から見れば模擬戦とはいえ味方に放つような威力ではない。それでも放った理由は宗八なら精霊を纏っていなくともなんとかするだろうという信頼からだった。
「まさか、アルシェの副砲を真似た魔法か?」
基本的に地属性魔法は地面を経由して発動するものが多い。地属性なのに自由に宙を駆ける地精ノイティミルの[聖壁の欠片]はオプションという別枠の魔法扱いなので気にしてはいけない。その縛りで制限されながらもアルカンシェが魔法を複数放つ際に使用する龍の姿を取る副砲にヒントを得た自爆魔法に宗八は驚き呟く。精霊と魔法を作るのは今や宗八だけの専売特許ではない。仲間内でも宗八に一泡吹かせてやろうと様々な魔法式が仲間うちで交換され秘密裏に独自の魔法が日々生まれている。
断っておくが、宗八が嫌われているというわけではなく、強いリーダーに力を認めさせたいという想いからである。
「[七精外装身]で防御力を上げておいて良かったな……」
宗八は大したダメージを負う事無く生還した。
シールドパペットの自爆が発動する前に服の下に魔法のコンプレッションウェアを発動し着込んでいた為、地属性の魔法並びに無属性の魔力爆発にも耐えきる事が出来のだ。元となった魔法は闇精クーデルカが開発した[闇精外装]という身体能力をサポートするコンプレッションウェアを参考に姉弟がそれぞれの属性で姉弟魔法を組み上げ、更にそれらを複合した魔法がこの[七精外装身]という魔法だ。
身体能力のサポートはもちろん全属性耐性が付いたこの魔法は、魔法式を七精の門メンバーに伝えられ起きている間は慣れる為に全員が常に発動して状況となっている。全員が使える事情としては属性を混ぜると調和が発生して無属性の魔法となった為だった。
「やっぱりこの程度は効きませんか!《サンドリオバインド!》」
悔しそうに呟いたノルキアは次の魔法を発動する。
地面から砂の手が現れ対象の足を掴むと石となり地面に固定する魔法だった。これは猪獅子のタルテューフォに試した際も脱出されるまでに十分な効果を発揮するほどに強力な魔法だ。宗八も脱出に戸惑っている間にノルキアは詠唱を始めた。
「《———聖壁を宿す粒子よ、我が魔力の奉納を持って望む形で神秘を紡げ。時には土を、時には重力を、閉ざされた大地を地摺に染める。永久とは願わぬ、今一時の安寧を吹き荒れる砂粒にてもたらし示せ。奉納者、ノルキアが命じる!亭々たる我らが意思を理解し世界を守る糧と成れ!!》《——砂塵の誇り!》」
ノルキアの周囲に徐に砂塵が渦を巻きながら舞い上がる。薄っすらと発生しているだけに見える砂塵だが、目に見えるだけが全てでは無かった。
「《弦音》」
宗八から複数の音の矢が放たれる。
それらは砂塵に触れた瞬間に無効化された。その際に砂塵の砂が接触箇所で固まり攻撃を防ぐと共に再び砂となって砂塵に加わる。発動者の任意で砂塵を広範囲に広げられるので仲間への一斉攻撃をされようと防ぐ自信がノルキアにはあった。
「《火竜一閃》」
続けて火焔の一閃が放たれ再び砂塵とぶつかった。
本来は熱した対処の防御力を低下させたうえで切断する火焔の一閃を相手に砂塵は吹き荒れる方向を変える事で一閃を空の彼方へ受け流した。だがしかし、極近距離を一閃が通り過ぎた事で猛烈な熱気がノルキアの身を焦がした。
「なら、貫通系か?」
完全装備ではない宗八の左腕に[青竜の蒼天籠手]は装備されていない為、指で輪を作るとその輪に息を吹き込んだ。
「《凍河の息吹》」
容赦ない宗八が凍てつく放射魔法を放ち三度砂塵と衝突せんと迫る、が……。
「砂塵よ集まり我が身の前に盾と成れっ!」
ノルキアの言葉と共に砂塵の流れが変わり、彼自身も両腕の盾を掛け合わせて大盾を構えると息吹に飲まれた。
ハイリアシリーズの優秀な盾と魔法はノルキアに応え息吹は盾を起点に分散している。ノルキアの周囲に分かたれた奔流が地面に氷を発生させる中でノルキアの背後には一切の被害は出なかった。
「見事な魔法と盾術だな。接近戦も試すか?」
息吹を相手に盾で受けたにしては疲れを感じていない様子のノルキアは盾から顔を出すと首を振る。
「まだ片手剣を持っていた感覚を捨てきれていないので格闘戦をもうちょっと磨いてからお願いします。今の俺では皆を護る程度しか出来ません」
それで十分だと宗八は考えていた。ノルキアが神力を扱える様になれば尚更後方を気にせず宗八は神に至る禍津大蛇に突っ込んで行けるというものだ。それに両手に盾が付いているというのもノルキアが入手してからずっと面白い装備だと思っていたのだ。
「この調子で適当に兵士の相手をしてくれればいいから、しばらくよろしく頼む」
「わかりました。宗八はここ最近放置気味になっている正室と側室の機嫌を伺いに行く事をお勧めします」
まだ各国にアルカンシェとの関係が変わったことを伝えていないというのにアルカンシェが率先して動いた結果、宗八が知らぬ間に側室が据えられていた。サーニャ=クルルクス。聖女クレシーダの元側近にしてアナザーワンの一人。アルカンシェともまともなデートを大して行えていないのに側室を相手にどうしろというのだろうか……。ノルキアとディテウスに別れを告げて現場を去る宗八は必死に今まで訪問した町のデートスポットを思い起こすのであった。
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