閑話休題 -106話-[勇者の休憩室]
~side Plumerio~
報告会が休憩に入った時点でユグノース王家からは暇を貰い別室に通された勇者と一行はソファに深く座り自分達で淹れたお茶を飲んで寛いでいる。話題は専ら先の上映で観た七精の門の戦い様だった。
「流石は水無月さん達だったね。リーダーと幹部級だけでなく全員があのくらいの戦いを出来るとは……」
メリオの言葉に反応を示したのは二人だった。重騎士マクラインと魔法使いミリエステだ。
「わかっていたとはいえ、全員精霊と契約もあるし加護も得ている様子だったな」
「精霊と一緒に戦う事であそこまで戦闘力が跳ねあがるのも驚異的ですけど、そのステータスに振り回されない戦闘技術も素晴らしかったですね」
二人は宗八の強さはストイックさと高い目標に向けて精霊や仲間が一致団結して高め合っている環境が自分達と違う事を如実に感じ取っていた。そうでなければ宗八が指導したからと言っても仲間達まであそこまでの強さを得る事はあり得ない。この世界の住人だからこそあそこまでの強さは、冒険者と言えど生きていくうえで不必要なのだから。
またもや力の差を目の当たりにしてショックを受ける二人とは別に勇者プルメリオは焦るそぶりを見せない。その対極の様子にベテランであるクライヴと元剣聖セプテマは視線を交え、代表してクライヴが話し始める。
「セーバーPTについてはクランに参加している事情は知らねぇがゼノウPTのフランザ達の事情なら聞いた覚えがあるな……。確か元々PTを率いていたのは別の人物で、魔神族が関わるとある事件で謀殺されたって話だ。情に厚い奴ならあそこまでの強さを手にする気概もあるだろうさ」
クライヴは単身でS級冒険者に登録されるほどに長い年月を冒険者PTやクランを率いてきた。
フォレストトーレの奪還作戦には自分達も参加した際に情報収集した結果、偶然知り得た情報であった。内容が内容だけに勝手に広めるつもりは無くともマクラインとミリエステが考えている様に今以上に強くなるには強い奴の事情もひとつは知っておくべきと考えて漏らしたのだ。
「以前までのメリオ殿であれば水無月殿の強さを比べていた様に見受けられたが今回は何故落ち着いているのだ?」
剣聖セプテマは宗八からの依頼で一時的に勇者PTに仮加入していたゲストだった。
後日火の国を出国する際にはPTから外れて山籠もりするか、宗八のクランに参加して血湧き肉踊る戦いの中で己が身を磨くかを考えていた。とはいえ、ゲスト参加している間は勇者PTを鍛える依頼に手を抜くわけには行かなかったのでクライヴに視線で指示を出したのだった。
セプテマの質問に心臓を跳ね上げたのはマクラインとミリエステだ。実は宗八が寝込んでいる内に勇者プルメリオにずっと隠し続けてきた秘密をついに明かしたからだ。
勇者プルメリオはこれまでのやり取りから宗八が異世界人であるとなんとなく察していたし、気の置けない仲間である二人が隠している様子も察していた。ただ、秘密の内容は宗八の出身情報とは考えていなかったので驚きはしたが、妙に落ち着いて受け止める事が出来たし二人を責める気にもならなかった。
マクラインとミリエステは言葉を重ねた。勇者プルメリオは望まれて召喚したが水無月宗八の召喚に関しては誰が呼んだか定かではない。また、自分達の相手は魔族であり魔王であるから比べる必要は無い。自分達が必要としているのは勇者プルメリオなのだと言ってくれたことも嬉しかったのだ。プルメリオも二人に感謝の言葉を伝えたものの以前の荒れ様を覚えている二人にとってはまだセンシティブな話題に触れないで欲しかった。
だが、セプテマの質問にプルメリオは落ち着いて答える。
「俺は魔王を倒す為に召喚されました。多くの人よりも強くなり、多くの人が頼ってくれては感謝もされる。気持ちよく旅を進める俺にとって水無月さんと魔神族は確かに酷いノイズでしたよ……。神出鬼没に出現しては強さを見せつけて自分との差を明確に分からされるんですから。でも、あの人がずっと俺を気にしていた事も気付いていたし、異世界人という情報も余計な乱れを作ってしまう事を恐れたからだとも今なら分かるんです。だから、水無月さんは水無月さん、自分は自分と考えれるように長い時間を掛けて考えを改める事が出来たんです」
勇者プルメリオの瞳に嘘を読み取れなかったセプテマは納得して頷く。
「それに水無月さんは……生き急いでいる様に見えます。魔神族は魔王よりも厄介な敵だと分かっているからこそ、俺が彼のノイズになってはいけないとも考えたんです。俺は自分の仕事に集中して彼がやりたい事をやらせる事にしたんです」
「メリオ殿の考えは理解しましたぞ。自分をコントロール出来る様になった点は今後の人生において君に有益に働くでしょうな」
勇者の精神も成長している。宗八に良いお土産話が出来たとセプテマが満足そうに笑みを浮かべていると、クライヴが宗八達の強さに踏み込んだ質問をする。
「セプテマ殿。貴方は彼らの強さに繋がる情報を何か掴んでいるのではありませんか? 出来れば今後の為にも共有して貰えると勇者PTの成長に繋がると思うのですが……」
セプテマは瞳を閉じて考え込んだ。宗八の考えはある程度一緒に行動する間に言葉を重ねた事で理解は出来ている。また、それを元に自身の考えを他者に伝えたところで気にする人物では無いと確信がある。と、すれば……。
「それは……」
セプテマが口を開きかけたその時。地精ファレーノが口を挟み話題を掻っ攫った。
『そこから先は私が答えましょう。いいですね、セプテマ?』
「うむ。任せる」
セプテマに侍る様に控えていた地精ファレーノが代わりにクライヴの質問に答える事が決まり全員の視線がファレーノに集まる。それを確認した彼女は解説を始めた。
『<万彩>達の強さの秘密は、ズバリ。精霊の在り方と環境です』
「精霊の在り方と環境?」
メリオが反応した。他の三人も耳を傾けている様子だ。
『前提として<万彩>が開発した核を用いた精霊との契約は大変に画期的でした。特殊な加階先への分岐に加えて契約者と精霊が魔力を合わせて作成する精霊専用核により、純粋精霊との契約よりも強固な繋がりが結ばれたのです。これにより副契約者という下位存在を許容する余裕が生まれ、契約者と副契約者は契約精霊を介して互いが影響を与え合い強くなります』
「それはメリオ以外の私達も対象と言う事ですよね?」
ミリエステの言葉に地精ファレーノは首肯した。
『その通りです。私もとある件で力を失い位階が下がってしまった折に同様の核を作成して特殊個体になっています。だからセプテマもミリエステ達もやろうと思えば副契約者を据える事は可能です。ただ、セプテマは副契約者を必要としていませんし、貴女たちも同行を許せる仲間の候補は多くは無いでしょう?』
そもそも宗八達の考えとして、魔神族がオベリスクや禍津核モンスターに瘴気モンスターと質が高く大勢力で攻めて来る傾向を感じた為に積極的に有望な仲間を増やして戦力を整えている。だが、勇者プルメリオは少数精鋭で旅をする事に今のところ不足を感じていなかった。協力者も現地の冒険者などに依頼をすれば手を貸してくれるのだから尚更である。
付け加えるなら有望な人を見つけても唾を付けられた人物や国に仕えている人物では仲間に引き入れられないうえに、宗八の様に育てるという考えも時間も環境も整っていなかった。
『<万彩>は七人の精霊と契約しておりそれぞれに副契約者を据えています。同じ戦場であれば[シンクロ]を契約精霊を介して行えば副契約者も含めて各々の考えが以心伝心され無駄の無い連携も可能でしょう。しかし、魔神族が世界樹の神力を吸収して加階する完全体という姿を相手にする場合は連携よりも<万彩>に精霊を集中させて一人を強くする戦法も取れるので戦術の幅もあります』
地精ファレーノの話は続く。
『戦闘面だけでなく<万彩>は精霊やアルカンシェ王女を筆頭に副契約者と協力して新魔法の組み上げや戦闘訓練など強くなる環境が整っています。おそらく教導に関しても<万彩>は才能がありますね……。幹部級が複数育っていますしクランに所属するゼノウPTとセーバーPTも彼らからの薫陶を受けて個々人が強力な戦力になりつつありますから……」
「精霊の在り方と環境……。そう言われれば納得のいく話だな……」
「漠然としか理解出来ていなかった秘密が明確になったな。だが、真似をする事が出来ないのも事実、か……」
地精ファレーノの解説を聞いてマクラインとクライヴもその説明に同意を示した。自分達は宗八流の特殊精霊の地精オーヴィルや火精フォデール、無精グリューンと契約しているので地精ファレーノの話に納得出来たが、勇者メリオと契約する光精エクスは純正精霊なので核を用いていない為、宗八の様な戦力の拡張は難しいという事も理解させられてしまった。
「前衛も後衛も仲間が揃っていますし竜や猪獅子まで居ますからね。どうやってそんな存在を仲間に出来たのか……。でも、あそこまで強いなら今すぐ魔王だって倒せると思いませんか? 今は確かに気にしていないけど、その考えが浮かぶのは仕方ないと思うんだけど」
勇者メリオの問いについてセプテマは勇者PTに合流する前に自分も気になり聞いていたのでそれを口にする。
「それは儂も問うた事があるのでそのまま伝えますぞ」
「———勇者は魔王を倒す為に召喚された異世界人だ。魔法陣を用いた契約で魔王をメリオが倒さなきゃあいつは元の世界に帰れない。それに俺達は破滅の対処を目標に動いているから魔族領よりも人族領に目を配って掃除をしつつ魔神族を相手にする為に強くならなきゃいけない。魔王は俺達の前に現れないから脅威度がわからないけど、魔神族は度々現れるから緊急性で言えばどうしても魔神族を基準に注意を配る必要が出て魔族領まで足を延ばすのも後回しにせざるを得ない。だから魔王は勇者に任せている、との事ですぞ」
セプテマの言葉を受けた勇者プルメリオはしばらく瞳を閉じて葛藤した末に重く長い息を吐き出した。
「なんというか……。魔王を倒さない言い訳に使われている感は否めませんが言い分は理解しました。ついでに言えばあの人は利用出来るモノは何でも利用する性質なので俺達に精霊契約を推奨したのも魔神族戦に使えるようにって事の様な気がする」
マクラインは思った。
「それは……」
そうだろうな、と。
ミリエステも今までの接触を思い出して……。
「一定ライン以上の人材となれば探すよりは知り合いにテコ入れ……。尊師ならやりますね」
「強くなれるなら俺は利用されても構わないけどな!この歳で更に高みへ行けるならいくらでも利用されてやるわ!」
勇者プルメリオ、マクライン、ミリエステが少し心にダメージを受けた事実確認に対し喜ぶクライヴにセプテマも同意して微笑んでいた。その陰で話を聞いていた聖剣エクスが静かに己の不甲斐なさを恥じているとは誰も気づくことが出来なかった……。
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