閑話休題 -105話-[破滅対策同盟大報告会⑤]
挙手をした者は思ったよりも少なかった。VRみたいな世界に没頭出来る点を宗八は評価して凄い魔法になったぞ!と勝手に盛り上がっていただけに表情には出さないものの宗八は落ち込んでいた。実際、王族や将軍は一部が参加し、ギルドは筆頭ギルドマスターのみが参加。精霊と竜は全員参加となっている。宗八は大雑把に挙手者を見ていたので分母が多い兵士が挙手しなかった為に少ないと感じただけの話だ。
ちなみにクラン[七精の門]と青竜フリューアネイシアも強制参加となっている。
「じゃあ挙手した方々には更に強力な魔法でアルダーゼの世界へご招待いたします。その前に残られる方々の為にスクリーンを用意いたしますので少々お待ちください。クー、ベル。頼むよ」
周囲を見回しながら説明を行い傍に控えていた闇精クーデルカと光精ベルトロープに言付ける。
『お任せください、お父様!《夜の帳》』
『ベルも頑張るよおおお!《ミラーコート》』
クーデルカの魔法が発動すると上空に黒い球体が出現し風呂敷きが解ける様に範囲が広がり、天幕が降りるが如く帳が訪れ会場を闇に包み込む。瞳が闇に慣れてくると空には夜空が広がっていた。続けてベルトロープが発動した魔法が映画館並みに巨大なスクリーンを出現させる。
『『《戦歴再生》』』
最後に再びクーデルカとフラムキエが時空と幻の複合魔法を施せばスクリーンに映像が流れ始める。今流れ始めたのは宗八とアルカンシェが初めてアルダーゼの世界に乗り込んだ際の戦闘風景なのだが、当時は二人しか突入していないのに何故か第三者目線で宗八とアルカンシェ双方の戦いぶりがスクリーンに映し出されていた。
もともとの[戦歴再生]は闇精クーデルカの時空魔法により宗八もしくはクーデルカもしくは副契約者メリーの視点で記録した映像を流す魔法であったが、そこに火精フラムキエが幻魔法でアプローチする事で視覚から得た情報を元にアルダーゼの世界を再現し別視点からの映像へと昇華させたのだ。
「では、先ほど挙手していなかった方々の魔法は解きます。以降は瞳を閉じても瞼裏に映像は流れませんので正面のスクリーンで確認をお願いします。また、先ほどの赤竜戦の時は単純な私の視界情報の共有でしたがその場にいるかの様なリアルな幻を流しますので暴れない様にお願いいたします。あくまで過去の出来事をリアルに感じられる魔法と言う事をご理解願います!」
宗八の宣言通りに一部の者は幻の映像が瞼裏に流れなくなった。慣れない感覚を味わった後だからなのか、そういう者ほど目を擦っては瞬きを繰り返している。七精の門のメンバーも残留組はアルダーゼの世界を突入組の話でしか知らないので瞼を閉じて異世界案内へと旅立って行った。
* * * * *
スクリーンと瞼裏で流れる映像に合わせてアルダーゼの世界の解説が宗八の口から伝えられる。
元々火の世界なので気温も高かったアルダーゼの世界は魔神族の侵攻により生態系が壊滅し人間の数も減り世界樹が出現した。聖獣二匹と神族アルダーゼが破滅に抵抗して魔神族と争っていたが瘴気を浄化する術が聖獣の能力しか無く、徐々に追い込まれ人間だけでなく生きとし生きるモノは全滅。生き残った聖獣と神族アルダーゼは尚も抵抗を続けていたが世界は順調に瘴気に覆われ濃度も濃くなっていき、この世界の限界を感じた神族アルダーゼは世界の終わらせ方を考えて世界樹のエネルギー消費を抑える為に自ら眠りに付いた。
そして、大猿の聖獣バルディグアは世界樹とアルダーゼを守護する為に戦いを続け、大鳳の聖獣イグナイトは自分なりの終わり方を考えて離別した。
説明と共にダイジェストで流れて行く映像はついに炎帝樹へと辿り着いた。
「あの大猿が聖獣バルディグアです。先ほど映像に移った小鳥も正体は大鳳の聖獣なので本来はアレと同じ巨大な存在なのです」
映像は宗八達を俯瞰しており、仲間達の遥か奥に炎帝樹と大猿の聖獣バルディグアの姿が映し出されていた。
続いて場面は七精の門VS聖獣の戦闘シーンが映し出され、ゼノウPTとセーバーPTはそれぞれ仲間が出場している事もあり食い入るように瞳を強く閉じて戦闘を見守っている。
VSバルディグアでは開幕すぐにバルディグアに殴り飛ばされたセーバーの姿に絶句した空気が漂ったが無事な様子が映されると各所で安堵の息が漏れ、また殴られて地面に叩きつけられた場面では何名かが立ち上がるまでに興奮していた。
その後もフランザの援護やバルディグアの咆哮、空に打ち上げられるセーバーと激しい戦況の変化に全員が手に汗を握って戦いの行方を見守る中でセーバーとフランザが聖獣バルディグアに勝利した事で大きな歓声が上がった。
「……なんか楽しそうだな」
『まぁ普段は目で追う事すら出来ない兵士が魔法のおかげで戦況を見逃すことなく付いて行けるのですから……。盛り上がるのは仕方ないかと』
戦闘に皆が集中している間に宗八はブレイクタイムを挟んで水を飲んでいた。そんな時に歓声が上がるのだから人の苦労も知らないで……と、少し零れた愚痴にクーデルカが苦笑交じりに慰めの言葉を添える。
続く二戦目もすぐに始まり、興奮冷めやらぬ中でVSイグナイト戦に彼らの興奮は引き継がれた。
イグナイトの足場を潰す戦術とリッカ・トワインによる空中機動は当時観戦していた宗八達からしても素晴らしいセンスだと感じざるを得ない。そもそもトワインが放つ[上昇の矢]は風魔法なので宗八達のクランで使用するとすれば宗八やマリエルを含めて六名のみ。その六人のうち五人が最前線で戦う前衛なのだから機動サポートとして放つあの魔法を撃つ機会が無いし、空で戦う必要があれば各々が精霊と協力して相応の成果を叩き出すのが宗八達PTの強みだ。
ただ、トワインとリッカも単身で十分な強さを持ったうえで今回の相手が空の王者だったからサポートする一手を打ったのだ。リッカは空を飛べずトワインは威力不足。それぞれの短所を解消する方法がトワインがリッカをサポートしてイグナイトを地面に落とす方法だったのだろう。
「このレベルの弓使いはそう居ないな……。ブロセウス、冒険者に心当たりはあるか?」
ラフィートが顔も向けずに背後に位置取る元冒険者の親衛隊長に声を変えた。
「流石にこのレベルの冒険者が居れば噂になっていますよ……。そもそも普通の弓使いは普通の矢しか射る事は出来ないので引き入れるよりは育成した方が現実的かと思います」
「なら、宗八に準じる精霊使いに教導してもらいたいところだが……。しばらくは無理か……」
この戦闘光景を見て弓使いの評価を改めたのはラフィートだけではなく各国の王族や将軍もトワイン級の弓使いが欲しいと思ってしまった。そんな中で筆頭ギルドマスター達は冷静な目でトワインを評価していた。
確かにこのレベルともなれば遠距離攻撃のエキスパートと言える。だから、いざ魔物群暴走や戦争が始まった時のことを考えれば兵士の消費を抑えられる点も踏まえて王族たちの意見は間違いではない。だが、ギルドとしては一騎当千よりも皆が協力して平等に評価される機会を設けるべきと考える為、こんな強力過ぎる冒険者は持て余すだけだと欲しなかった。
空に打ち上がったリッカが踏ん張りが利かない状態でイグナイトの攻撃を往なし、トワインの矢幕と矢軍がイグナイトにダメージを与える。攻守はすぐさま入れ替わりイグナイトの威圧効果のある咆哮をトワインが風魔法で無効化したうえで突喊をリッカが盾となって防いだ瞬間のどよめきは凄かった。先のバルディグアとの戦闘もそうだが、相手は自分達でも脅威度を理解している猪獅子と同等もしくは上位存在を二人で相対しているのに一方的な戦いではなく攻防が頻繁に入れ替わる映像に全員が魅了され興奮の熱は上昇していく。
「(同時に顔色が悪くなる方も増えて来ましたね)」
アルカンシェは時折片方だけ瞳を開き現実の会場を見回していた。そう、自分達は強い。それでも破滅を相手に警戒度が一切落ちない姿勢を王族やギルドマスターには見せてきた。聖獣を相手に勇戦するほどの実力があって尚宗八は再三閲覧注意を伝えて来ていた事を考えればこの後に何が映るのか……と、文字通り肌で破滅という得体の知れない脅威をリアルに感じ始めていた。
「あぁ~~~っ!惜しいっ!」
やがてイグナイトの勝ちが宣言された瞬間に多くの兵士の口を衝いて出た言葉は一様に同じであった。
その後に宗八の剣が変化して明らかにヤバそうな紫色の大火球を一振りで斬り捨てた光景に自然と皆が黙り込んで宗八の背後で浮かびくるくる廻って暇をつぶして遊んでいる知性ある木剣に視線が集中した。
「続いて神族アルダーゼ戦に移りますが一旦休憩を挟もうと思います。20分後に再開しますのでそれまでに会場へお戻りください!」
気が付けば既に二時間が経過していた。人によっては膀胱に刺激を受け始めている頃合いに宗八は休憩を挟むことを宣言すると王族が兵士達に指示を出して各自行動を開始するのを確認すると宗八も子供達を連れて一旦与えられた控室に引っ込んだ。アルカンシェはアスペラルダに割り当てられた控室にギュンターやナデージュと共に付いていき、侍女組のメリー・リッカ・サーニャと護衛のマリエルはアルカンシェと共に姿を消す。
その他の七精の門も各々自由に身をほぐし始めていた。
「俺もトイレ行ってくるわ。お前らも自由にしてていいからな」
『あい!』
子供たちを代表して水精アクアーリィが返事をしたのを確認して宗八はトイレ……の前に赤竜の下へ移動した。
「赤竜。まだ暴れる気ならこのままですけど、どうしますか?」
そっと顔に手を添えながら氷の錠で身動きを制限されたままの赤竜に質問すると鼻息をひとつ吐いてから鳴き声を上げた。
『グフー(降参だ)』
「オーケー。じゃあ青竜くらい小さくなれますか?」
トイレに行くだけと言ったのに宗八の背後にトコトコ付いて来ていた青竜が赤竜の前で胸を張って威張り散らしている。あまり喧嘩腰で挑発しないで欲しい。青竜の姿を確認した赤竜は言われるがままに身体を縮めていき錠から脱出を果たした。ほぼ青竜と同じ大きさで体高を固定して宗八の前に進み出て来る。
『青竜の守り人、水無月宗八。興奮していたとはいえ舐めて掛かっていい相手では無かったな、謝罪する。俺様の名はファローザイド。貴様にはローと呼ぶ事を許す』
小さくなったクセに腕を組んで偉そうな赤竜の名乗りに宗八が知らない竜は黒竜だけとなった。
「よろしくお願いします、赤竜。他の竜達は今回の報告会の為に火の国に集まっているだけなので今回は多めに見てください」
『俺様は負けたのだ。今回は見逃すし暴れないと約束しよう』
「じゃあ少し此処で待っててください」
俺様な言葉は変わらないけれど負けを認めて宗八の意思を尊重してくれているのを感じる。これならば大丈夫だろうと判断した宗八は赤竜が寛げるスペースの準備をお願いする為に身をひるがえしてトイレとユグノース王族が控える部屋へ移動を開始した。
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