†第15章† -36話-[エピローグ①]
台風のおかげで涼しくなったと思いきやまた熱くなって来た……。
アルダーゼの世界からの脱出は日数を要した。
元の世界との時間の流れに差がある為、基本的には宗八達突入組が冒険中はゲートを繋げっ放しであったが脱出する為に一時的に閉じ、再接続する間に流れた時間の差は五日。更にアルカンシェ達が脱出後に再度ゲートは閉じられ、次に接続されるまでに一ヵ月以上の日数が進んでいた。そして最後に脱出して来た宗八は、敵から直接攻撃を受けたわけではないのに取り込んだ高濃度神力による自傷で半死半生の状態でアルカンシェ達に回収され意識不明のまま二日が経った。
「んん………ふああああああああああ~…………」
目覚め直後に大きな欠伸をする宗八のベッドの隣ではリッカが控えていた。その他にも注目すべきは精霊の卵が7つ浮かんでいるという事だ。宗八の側に浮かんでいる点と7つという点から子供達であろう事は簡単に辿り着くことは出来たが、本来今の時期に加階する予定なのは四女無精アニマだけのはず……。
宗八が目覚めた事にすぐ気が付いたリッカが水をコップに注ぐと起き上がる宗八に手渡してくる。
「どうぞ、ご主人様」
「ん……」
起き抜けで喉の渇きで声を発し辛かった宗八は何とか言葉ではない声を出すだけで返事をする。
差し出された水を大人しく飲んでいる間にリッカはアルカンシェにコールで連絡を入れていた。窓から漏れる光の加減から昼前くらいだろうか。連絡が終わったリッカがベッド脇に置かれた椅子に座り直すのを確認してから声をかける。
「どのくらい経ったんだ?」
「アルカンシェ様が脱出されてから一ヶ月と三日、更にご主人様が脱出されてから二日が経ちました。フラムキエ様方は聖女クレシーダ様の元へ担ぎ込まれた際に混交精霊纏を解除してご主人様から分離致しました。その後間もなく皆様卵になられました」
普段は慌てる場面が多いからか吃音気味だったリッカも穏やかな昼下がりに目覚めたばかりでテンションの低い宗八しか居ない状況が功を奏したのかスラスラと報告を口にする。ゆっくり水を飲んでいると部屋の外が騒がしくなって来た。
——コンコンコン。
三回のノックにリッカが反応して招き入れた人物はアルカンシェとアルカイドとラッセンの王族たち。その後ろにはメリーやマリエルを始めとした各々の側近が続いて入室して来る。
「お兄さん、ご気分はどうですか?」
「問題ないよ。腹が減ってるくらいかな」
アルカンシェの質問に答えた宗八の返答に王太子アルカイドが素早く指示を出して軽食の用意を手配した。リッカが空けた椅子にアルカンシェは座り王太子アルカイドと第二王子ラッセンが前に出て来る。
「久しぶりだな宗八。なかなか歯痒いひと月だったぞ」
アルカイドは宗八の戦闘力を理解している。そのうえでこれ程に時間が掛かりベッドで弱った宗八を見て心底安心した様子で声をかけてきた。先に戻ったアルカンシェ達も今回ばかりはそわそわしていた一ヵ月なのだ。協力者代表としては王太子アルカイドも第二王子ラッセンも悪い予感が付き纏う期間だった。
「兄上も俺も宗八の強さに疑問は持っていなくてもアルカンシェ様から話を聞いて不安だったんだぞ」
第二王子ラッセンも同様の様だ。二人の視線と言葉を受けて宗八は無事を伝える為に悪ガキみたいに笑った。
「心配かけて悪かったな。まぁ今回もヤバかったけど情報は持ち帰れたし失ったものも無いし上々の報告は出来るから待っててくれ」
その後は一言二言会話を挟んだだけで王子達は側近を引き連れて退室して行った。なんだかんだで宗八は二日も眠り続けるほどに疲弊していたのだ。病人相手に無理を強いる彼らでは無かった。
「もう2~3日は安静にして休んでください。身体はクレアが治してくれましたけど違和感などがあれば休んでいる間に調整しておいてください」
「わかった。それと子供達が卵になっている理由は何か聞いているか?」
ついに気になっていた件をアルカンシェへ問う。この間加階したばかりの末っ子’sも含めた全員が卵になっている理由が宗八には一向に思いつかなかったのだ。
「アニマちゃんから聞いた話になりますが……。今回お兄さんが利用した炎帝樹の高濃度神力は本来、お兄さんも精霊も濃度が高すぎて吸収する事も扱う事も出来ない代物なのだそうです。それでも利用出来たのは偏に七精霊使いとして魔力に耐性が付いていた事、順々に濃度が上がった魔力に触れて来た事、それを七人の子供達も共有して一蓮托生だった事で奇跡的に高濃度神力の吸収運用が出来たそうです」
神力ですら自己発電も満足に出来ず、自身の身を焦がすエネルギーの運用をする事でしか抗えなかった。だが、それを行ったのは宗八もアニマと同様の考えを持っていたからだ。どんなデメリットになるかは読めなかったが吸収運用は出来るだろう、という考えだ。
「ですが、神力に続いて高濃度神力をお兄さんと共に運用した事で子供達の核が成長したそうです。まぁ、元々精霊に核はないのでお兄さんの系譜の精霊たち。その中でもお兄さんの子供達限定の特殊加階という事なのでしょうね」
「ふ~ん。強くなるなら気にしなくてもいいか……」
もしかしたら神力運用が楽になるかもしれない、と期待しつつ宗八はアルカンシェに言われた通りにそれからキッチリ三日間ベッドに縛られた。抜け出そうとすればアルカンシェの命により監視しているメリー、リッカ、サーニャのいずれかがすぐに察知してまず口頭で戻る様に伝えられる。抵抗すれば最終的にアルカンシェが出撃して来てベッドに戻されるので彼女の迷惑にならない様に残りの日数は大人しく惰眠を貪った。
——宗八がベッドから解放される日。
早朝、目が覚めた宗八の周囲を卵から孵った子供達がそれぞれ身体に抱き着く様に囲い眠っていたのだった。どこに誰が居るのかを手探りで探し当てると再び瞳を閉じて、誰かが起こしに来るまで眠る事とした。
* * * * *
「神格を得た?」
目覚めて早々に一番詳しそうな無精アニマと宗八はベッドの上で向かい合って報告を聞いていた。
『正確には、私達精霊が神に足を踏み入れたわけではありませんが、精霊としては有るまじき神力を扱える様になる為にこの胸の核が特殊成長して【神核】となりました。私も初めての経験なので細かい事はわからないですが、核の名前が少しずつ違うようです。ちなみに私は無纏核』
第一長女の水精アクアーリィに視線を送る。
『辰閃核~♪』
続けて順々に地精ノイティミルが【竜剛核】、闇精クーデルカが【猫網核】、風精ニルチッイが【卯闘核】、火精フラムキエが【戌欺核】、光精ベルトロープが【午裏核】と視線を送る度に各自から答えが返って来た。
『これにより、神力を扱える精霊と一体となる[精霊纏]と[ユニゾン]時にお父様や各副契約者は神格位を得る事となります。これが今後どのような変化をもたらすかがわかりません。いずれにしろお父様に引き摺られる形で私達子供達は必要に迫られ核が成長しましたが、子供達経由で神格位を得る副契約者達はお父様とは違い[精霊の呼吸]のスキルを持ち合わせていませんから少し慎重に事を進めるべきと進言します』
アニマの忠言に己の身に起こった惨事を想起して考え込まされる宗八。
そもそもこの世界に神の名は伝わっていない。
だからこそ精霊王として名の伝わっている大光精ソレイユを信仰する神聖教国が存在するのだ。無神論者、いや。付喪神を信仰する宗八からしてみても都合が良すぎる展開に神の介入を疑わずにはいられなかった。
実際、無精アニマの言う通りに必要に迫られたという言い分には宗八も心当たりがあった。それは敵の強大さを目の当たりにして更なる力を欲した向上心。そして、高濃度神力を吸収した副作用で自身の身を文字通り削りながら戦わざるを得なかった父の姿を心配する気持ちを宗八は[シンクロ]を介して理解していた。
確かに精霊自身の加階に経験値は必要だ。更に子供達を筆頭に核を用いた加階をする精霊は独自の加階をすると大闇精アルカトラズにも言われていた事である。同時に核も経験値を貯め込み成長する事も教えてもらっていた。ただ、自分達が初めての実例なだけに核の成長がいつ発生するのかはわからないまま1年と半年が過ぎ、今頃になって核が成長するなんて夢にも思っていなかった。実際、格の成長など宗八は覚えても居なかった。
「まぁすぐに次の戦場という訳でも無いし、調整は追々やっていくよ。色々教えてくれてありがとうな」
感謝のなでなでをする宗八に無精アニマは何も言わずに受け入れる。契約したての頃に比べてずいぶんと丸くなった。
しかし、そのご褒美に不服を申す子供が当然の如く現れる。
『お父様、今の説明はクー達も出来ました。ですが、アニマが『ここは精霊王足る私が説明した方が説得力がある』と豪語した為譲ったのです。決してアニマだけの功績ではありません。なので……』
闇精クーデルカがおずおずと頭を差し出してくる。露骨な撫でてアピールに笑みが漏れた宗八は希望通りに撫でる為に手を伸ばすと宗八に抱き着いていた者やベッドの上で各々寝転がったりしていた者が我先にと宗八にアピールを開始した。
「はいはい、順番な。お前達も怖かっただろうに良く一緒に頑張ってくれたな、ありがとう」
年功序列で第一長女水精アクアーリィから始まり、第二長女地精ノイティミル、次女闇精クーデルカ、三女風精ニルチッイ、長男火精フラムキエ、最後に五女光精ベルトロープと頭を撫でた。その後は迎えが来るまで子供達との時間をベッドで過ごした宗八の部屋にノック音が響くのであった。
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