†第3章† -02話-[闇魔法]
昨夜は色々とあり、ベッドへ潜り込むとすぐに意識を失った。
普段は枕元に寝るクーも昨夜は俺の胸に抱えたまま寝入った。
「ふ、ふあああああぁぁ・・・んんーーっ!」
深い眠りだったからか朝からいい気分で起きることが出来た。
さて、昨夜の失敗の解決策をクーが起き出す前に見つけておくか。
「《コール》セリア、カティナ、スィーネ」
プルルルル・・・プルルルル・・・ピンポン!
〔もしもし?水無月君ですの?〕
朝一にも関わらず少し眠たげな声でセリア先生が出てくれた。
ピンポン!
〔お兄ちゃん?朝から何よー?〕
スィーネもすぐに出てくれたが、カティナはなかなか出てくれない。
もしかしたら、まだ寝ているわけではなく今寝たのかもしれない。
「2人共おはようございます。
朝から連絡して済みません。少し相談したいことがあったので」
〔何かあったんですの?〕
〔私で分かることならいいけど?〕
「昨夜クーの進化を試したんです。
核の精製には成功したんですが、
いざ進化しようとすると弾かれてしまって・・・」
〔何が原因かってこと?アクアと違う点があるんじゃない?〕
〔そうですわね、精霊が進化する際に必要な条件は、
進化するに値する基準を満たしている事。
その基本条件に加えて、私のような学者なら知識が必要ですわ〕
〔セリア様が言ってる事は理解したわ。
私なら守護者だから防御力が必要になるわね〕
話を聞く限りは理解出来る範疇だ。
しかし、クーも戦闘訓練はしてきたし、
状態異常の耐性も頑張って鍛えてきたはずだ。
〔アクアの場合は冒険者の水無月君の影響を受けたはずですわ〕
「進化するのに俺と何かを成す条件があるって事ですか?」
〔クーとはシンクロは出来てたし、精霊纏いも出来てたから、
技術的な条件じゃないと思うわ。だったら一つじゃないの?〕
〔アクアとはキュクロプスと戦ったし、
ダンジョンでもボスと戦ったのですわよね?
おそらく水無月君の精霊が進化する条件は・・・〕
「一緒に冒険する事か・・・」
冒険者は冒険するな。
これはとある小説に出てくる言葉であるが、
俺は冒険者じゃなくてもするなよ(笑)と思ったもんだ。
だからダンジョンに潜る前から地道な努力をして異世界で生きる為の下地作りをしたわけだしな。
〔言葉はわからないけど、意味は合ってると思うわよ〕
〔そうですわね。
条件は[主と共に強敵を倒す]が妥当なところですわ〕
ストンと納得がいった。
確かに攻撃が得意じゃない闇精霊のクーと、
大戦闘と言える戦いはしていない。
アクアだってクーが加入する前に戦闘があっただけで、
その後は大きな戦いは起こっていない。
「そうなると、戦闘が必要ならダンジョンに潜るのが一番かぁ」
〔いま何処にいるの?〕
「アクアポッツォに昨日の夕方頃着いたところだ」
〔アクアポッツォ・・・近場にダンジョンは無いですわね〕
「最悪王都にダッシュすれば2週間くらいで戻れますし」
〔それはクーが許可しないと思うわ〕
〔クーなら自分の為に2週間は辞退しますわね〕
しかし、この街はかなり平和な街だ。
進行形で問題も起こっていないようだし、
次のダンジョンだと国境を超えたさらに先になってしまう。
〔ギルドにはもう行った?〕
「いや、まだだけど?」
〔もしかしたら戦闘系のクエストがあるかもしれませんわね〕
「なるほど、わかりました。
今日はギルドに言って確認してみます。
2人共ありがとうございました」
〔はいはーい、じゃあね〕
〔ノイ、挨拶は?いらないの?ふぅ、アルシェ様達によろしくね〕
* * * * *
「昨夜はすみませんでした」
「いえ、こちらこそ無理を言ったと後悔しておりますので、
謝らないでいただきたい。
おそらく前準備から繊細な作業をされていたのでしょう?」
「まぁ、否定はしませんが。
せっかく楽しみにして頂いてたのに・・・」
「それはこちらの都合ですから。
水無月殿達の邪魔をしたかもと息子共々反省しております」
ペコペコと大人2人が謝り続け、ひとまず折り合いをつけた。
ライラス君は俺達に合わせる顔が無いと言って部屋から出てこないそうだ。
「黒い子猫はどうされてますか?」
「まだ影の中で眠らせてます。
一応目処が立ったので、
今日はクーと一緒に動こうと思います」
「わかりました。
姫様はメリー殿と昼から島に渡られるそうですが、
ついては行かれないので?」
「危険がないのであれば、
日を見て行きたいと思ってます。
アクアが居れば海を渡るくらいは出来ると思いますので」
「いえ、護衛なんですよね?」
「え?」
あっーーーー!!
クーの事ばかり考えててすっかり設定を忘れてた!!
一人しか護衛がいないなら離れるわけないもんなっ!
そりゃ指摘されるわ!
「かまいませんよ。
いつも付き合わせていてはストレスも溜まりますし、
用事があるなら優先してください」
冷や汗をどぱどぱ流していると背後からアルシェ一行が登場した。
アクアも起きてはいるが元気がない。
昨夜聞いた感情が流れ込んだ影響かな?
「しかし、姫様・・・」
「私個人も鍛えていますし、メリーもいますので大丈夫です。
で、今日はどうされるのですか?」
「ギルドに行こうと思う。
朝にセリア先生とスィーネに相談したら、
戦闘経験が足らないのでは?って話になってな」
「なるほど、クエストですな。
いまは何がありましたかなぁ・・・」
「アクアちゃんは一緒に?」
『あくあはまちをみてまわりたいの~』
「じゃあアルシェに着いていきな」
『あーい』
侍従を呼んで確認し始めるベイカー氏。
さほど待たずに回答を得たようだが、なにやらニコニコしている。
「いま出されている一般向けクエストはありませんな。
ですが、丁度いいクエストがありましたよ」
「つまり、一般人は立ち入り禁止の場所ですか?」
「正解です。
つまり、ネシンフラ島ですな!」
「どこだよ・・・」
「私達がお昼から行くカエル妖精の島ですよ」
結局、一緒に行くことは決定事項のようだ。
昼前に屋敷に戻って皆で乗り場へ移動することにして、
午前中は自由行動となった。
俺達はギルドで受付が必要で、ベイカー氏に一筆してもらった。
これでネシンフラ島のクエストを受けられるらしい。
アルシェとメリーは街の観光ついでに情報収集をする。
道案内にライラス君を出動させるとベイカー氏から提案があり、
有難く受け入れて、4人で巡ることになった。
* * * * *
「では拝見いたします」
各町にはやはり小さいながらギルドは存在しており、
ダンジョンがないとはいえ問題がない訳では無い。
それこそ、薬草採取からペットの迷子探し、
モンスターの討伐と色々あるが、
依頼は住人から受けるため、
必要がない時期は本当に暇みたいだ。
朝なのに俺が着いた時は、
受付に一人しかいなかった。
冒険者も2人居たが、俺と入れ替わりに出ていった。
「ギルドマスターに確認してまいりますので、
少々お待ちください」
受付嬢を見送ったあと、
人が居ないのを良いことにソファに寝転がる。
影へと手を突っ込みクーの首根っこを摘んで眉間に下ろす。
「クー、おはよう」
『・・・おはようございます』チリンチリン
ピクリとも抵抗せず俺の顔の上に乗っけられたクーは、
その後も動こうとせず尻尾を揺らす。
その動きに合わせて鈴が鳴っている。
「クーは温かいなぁ」
『・・・クーは暑いくらいです』
頭を撫でつつ世間話みたいな言葉を繰り返し、
どう話せばいいのかジャブを繰り返す。
世の中のお父さんは大変なんだな、
学校はどうだって言いたくなるのも仕方ないよね。
『クーはどうすれば良かったんですか?』
「・・・クーだけじゃ駄目みたいなんだよ」
『??』
やっと体に少しの動きが見られた。
興味を引けたらしい。
「朝のうちにな、
セリア先生とスィーネに相談したんだよ。
進化に条件はあるのかって。
そしたら、アクアとの違いを指摘された」
『出来の違いですか?』
「馬鹿・・・違うよ。
クーと契約する前にアクアとは、
キュクロプスやブラックスケルトンとかボス級の敵と一緒に戦ってる。
クーが加入してからは大きな戦いもなかったし、
それじゃないかってさ」
撫でる手にピクピクと動くクーの耳が当たる。
『つまり、契約精霊として進化の条件がお父さま・・・、
契約主と一緒に戦うことだと?』
「そういうこと。
核が造れたのは俺とクーの絆、それに加えて、
クーの頑張りの成果だよ。あとは戦闘経験だけなんだよ」
『そう・・ですか・・・グズッ・・、
じゃあ、グスッ、お父さまのせいですね』
「そうだよ、だからクーは気にしなくてもいいからね。
ギルドでクエストを受けて一緒に頑張ろう」
『グスッ・・はい』
「ほーら、泣き虫は食べちゃうぞー!」
撫でていた手を止め眉間に横たわっていたクーを再びつまみ上げると、
今度は開いた口の上に寝転ばせる。
あむあむと口を動かしたり、息を吹き込んだり遊んであげると、
クーも笑い始めてくれた。
「あぅー、お父さまぁ。
クーを食べても美味しくないですよぉ」
そういえば、結構待ってるよな?
ギルド員さんはまだかな?
「あのー、よろしいでしょうか?」
突然の声にビックリして慌てて起き上がる。
口に含んでいたクーは唇でお腹の皮を咥えられたまま宙吊り状態だ。
待機していたのは俺達だけでなく、
ギルドマスターも同じく俺達を待っていたようだ。
クーが泣き止むのを待っていてくれたらしい。
口からクーを取り出し、向き直る。
「失礼。恥ずかしい所をお見せしました」
「いえ、珍しいものを拝見させて頂きました。
契約精霊と主の絆・・・素晴らしいですね。
あ、挨拶が遅れました、
私はギルドマスターのクリスタと申します。
ベイカー町長の要請を受け、水無月様にクエストを発行いたします」
* * * * *
ー特別クエストー
詳細:ネシンフラ島にて大量発生しているヘビ型モンスター、
[フラゲッタ]の討伐。確認された個体は4m級が6体、
おそらく親となる大型フラゲッタがいるのではと睨んでいますので、
存在の確認もしくは討伐をお願い致します。
倒すと必ず額の魔石をドロップしますので、
そちらを納品した結果で報酬を決めさせていただきます。
依頼人:ベイカー=ベルクール
発行人:クリスタ=ヴァルター
* * * * *
クリスタさんはアインスさんと同じギルド員の制服に、
ギルドマスターの証である上着を着ているが、
明らかにまだ10代に見える。
「ずいぶんとお若いですね。
アインスさんやミミカさんは20は超えていたと思いますが」
「私はアインスさんと同じく妖精の血を受け継いでいますから。
彼女は風ですけど、私は土なんですよ。
アインスさんよりかなり年下なのは確かですけどね」
「なるほど、お教え頂きありがとうございました」
「いえ、こちらとしてもこの依頼を受けるに値する方がなかなか見つからず、
遠くからでも招集しようかと思っておりましたので助かりました」
「クリスタさんは島のこともご存知で?」
「まぁ、知ってはいますよ。
ただ、島には渡った事はありませんね。
あちらに行ける権限はまだないんですよ。
それこそアインスさんなら行く事も出来ますけどね」
あの人何気に凄くないかね?
俺の印象なんて気苦労の多い苦労人まじ苦労人って程度だが。
長く生きていると色んなところで尊敬されるんだな。
「内容は理解しました。
では、こちらはお預かりします。
また後日納品に伺いますので」
「わかりました、お気を付けてくださいね。
フラゲッタはランク2相当のモンスターですから」
『ありがとうございます、行ってまいります』
* * * * *
昼過ぎまで街で時間を潰す必要がある為、
色々と見回りながら屋敷に戻る事にした。
『何か目当ての物があるのですか?』
「クーの進化が順調に出来たらブルーウィスプまで予定が空くだろ?
だから、何か時間潰しが出来そうな物を見つけたいんだよ。
いつもいつも訓練じゃお前達にも悪いからな。
子供の内は楽しい事を優先させてやりたいし」
子供は風の子とも言うし、
色んな刺激を受けてほしい。
人間みたいに大人と子供の境目がわかるわけじゃないから、
見た目が小さい内は色んな体験をさせたいと思う。
「クーは進化したら何かしたい事とかあるのか?」
『お父さまの見立て通りにクーは攻撃に向いてませんし、
お父さまやお姉さま、皆さんの手助けが出来ると嬉しいです。
だから、えっと、メリーさんの仕事に興味がありますね』
「メイドかぁ。まぁ、陰ながら支える感じはクーに合ってるかもな」
なるほどな。
最近時間が余るとメリーを見てる気はしていたが、
そういうことだったのか。
まさかメリーに憧れているとは思わなかったけど、
あぁやって戦闘以外のサポートも出来る人がいるのは正直助かるし、
クーがやりたいと思える仕事なら、
時間を作ってメリーに仕事を教えてもらうのもありかもな。
おっと、この店はもしかしてもしかするかもな。
店の看板は魚の絵が入っている。
窓から覗くとカウンターに顎を付いている店員はいるけれど、
お客さんの姿はないようだ。
まぁ、今はブルーウィスプ観光期間だから、
釣りも禁止されてて客足が遠のいてるのかもしれないな。
『こちらのお店は?』
「釣り道具を売ってる店、かもしれない店だ」
『釣りですか?』
「道中の食事に魚を追加できるかもしれないからな、
2本くらいは持っておきたいんだよね」
店へと足を踏み入れると、
店員さんはこちらへと顔を向けてキョトンとしている。
「い、いらっしゃいませ・・・、
申し訳ございませんお客様。
もし釣りが目当てであれば、
ブルーウィスプが現れる時期なので、
街周辺での釣りは禁止されておりまして・・・」
「あぁ、いえ、旅の途中の食料調達に使いたくて。
どういった竿がありますか?」
「なるほど、そうでしたか。申し訳ございません。
基本的にはロッド、リール、ライン、ルアー。
この4つの部品をお選びいただきます。
用途によっても種類が変わりますけど、
お客様はどちらで使われますか?」
基本のセレクトは俺の世界と同じようだ。
流石にロッドにカーボンは入ってないし、
ラインもカラフルではない。
旅をしている間に使う予定なのは間違いないので、
万能竿と友達が言っていたエギングロッドが欲しいところだ。
「イカとか釣れる竿はありますか?」
「イカ?知らない魚ですね」
あぁ、やっぱり!
魚?の名前が違うんだ・・・。
「足が10本あって、一般的には白いこんな頭をした奴です」
「それはイカじゃなくてデビルフィッシュですよ」
「え!?じ、じゃあ足が8本の赤くて丸い頭をした奴は?」
「そりゃタコですね」
なんじゃそりゃ!
俺の世界じゃどちらも同じ蛸の事を指すのにどういうことだ?
デビルフィッシュの由来は地球上の生き物の姿じゃないと恐れた人が付けたと聞いた気がするけど。
「デビルフィッシュの名前の由来はありますか?」
「大きい個体が船を沈めて海の深い所へ連れて行かれ、
地獄のような壮絶な死に方をするからですよ」
「・・・」
まぁ異世界の話だしな。
最後の説明は割とそうかもなと思ったわ。
ひとまず、イカが居ることはわかったし、
それ用の一式を揃えてもらおう。
元の世界でも友人に誘われたからやり始めただけだし、
夏とかに島を渡って釣りに行く時以外はやらなかったから、
特に詳しいわけじゃない。
「デビルフィッシュが釣りやすいロッドはありますか?」
「あちらの角に揃えてあるのがデビルズロッドになります」
「ありがとうございます」
誘導された角のに立て掛けられた竿を見ると、
やはり俺達の世界とは違うことがわかる。
手で触ると金属は一切使われていない事が窺えた。
「ふぅん、木で出来てるように見えると思ったけど、
やっぱり木なんだな」
『お父さまの世界だと違うのですか?』
「詳しくはないけど、
曲がりやすさとか硬さとか違ってて、
それに合わせて長さも素材も違ってたよ」
目に入った竿を手に取り確認すると、
構造は2ピースロッドと3ピースロッドがあった。
どちらも触ってみたが、
長さはほどほどに欲しいから3ピースの竿にしようかな。
「木以外の竿はあるんですか?」
「いやぁ、今も昔も木製ですよ。
木の種類や職人の工夫で種類はそれなりに増えましたけどね」
「どれくらい使い続けられますか?」
「どれも手入れさえすれば数年使えますよ。
ただ、複雑な構造の竿だと手入れが大変ですけど。
お客様が持っているタイプなら1種類の木から出来てますので、
手入れは簡単ですよ。
あ、もちろん防腐処理はされてますからね」
毎日1時間程度出来れば良いからこの竿でもいいけれど、
他の竿も振ってから選ぼうかな。
以前は機能ではなく名前で決めていたからな・・・。
アルデバラン欲しかったなぁ。
その後もエギングロッドだけでなく、
投げ竿や他の釣りグッズを見回り、
俺の竿と椅子などの小物も決めることが出来た。
「竿は決まりました」
「はい、ありがとうございます。
その竿に合うリールとラインはこちらでいくつか用意しました」
俺しか客がいないからか、
サービス過剰気味の店員さん。
まぁ、こだわりはないから気に入った色や形でリールを選び、
ラインもオススメを購入することにした。
「合計で4万8428Gでございます」
おっほ。
やっぱりこの世界でもそれなりの値段がするよね。
心の涙を流していると足元のクーが2ピースの短い竿を見つめていた。
「これは子供用ですか?」
「はい、そうです。
全て揃って玩具より実用的って程度ですが・・・。
部品も小さいので耐久性に難がありまして、
10センチを超える魚が掛かると釣り上げるのに竿が悲鳴をあげます」
「糸は今買った物と同じやつでも?」
「ですね。あくまで竿の耐久性に問題があるので」
まぁ、一人でやるのもいいけど、
誰かと一緒にするのもありかな?
これなら安いし、壊れてもそれほど痛くないだろう。
入門編として1本持っておこうかな。
「じゃあこれも1本頂きます。
クー、好きなやつ選びな」
『え?べ、べつにそういう意味で見ていたわけではっ!?』
「俺が誰かとやるのもありだなと思ったから買うんだよ。
いまはクーしかいないからクーが選びな」
『じ、じゃあこれをお願いします・・・』
「はいはい。
すみません、これも追加で」
「まいど、ありがとうございます!」
* * * * *
約束通りに屋敷で合流し、
みんなで渡し場までやってきた。
おおよそ30分程度掛かるらしい。
「こちらが渡し屋をしてもらっている、
カエル妖精のハライクさんです」
「どうもこんちは。ハライクと申します。
短い間ですが行き帰りの船頭をいたします。
よろしくお願いします」
ベイカー氏から紹介されたカエル妖精のハライク氏は、
ベイカー氏と同い年くらいに見えた。
長年やっているのか古い事が分かる舟を使っているのに、
丁寧に手入れをして長く使っているようだ。
ハライク氏の挨拶にアルシェが代表として返礼する。
「こちらこそよろしくお願いしますね」
『よろしく~』
「そちらは水精霊ですか?
ネシンフラ島にも数人居ますので良かったら遊ばれてください。
さぁ、足元に気をつけて乗り込んでください」
『お~!よろこんで~!』
「ネシンフラ島の精霊は沼から発生しただけあって、
進化が少し特殊なんですよ。
次に進化を控えてる子が居るのですが、
フラゲッタというモンスターの魔石が必要でして」
なるほど、その為のクエストな訳だな。
元の依頼人はやはりカエル妖精の方だったか。
皆が乗り込んだのを確認してから出港させながら、
クエスト内容を口にするハライク氏。
「そのクエストは先ほど受けてきましたよ。
数日中にはギルドを通して受け取れると思いますよ」
「なんと!そうでしたか!
いやぁ、この人数で受けられるとは素晴らしいですね。
今まで協力してくださった冒険者さんは5人パーティでしたよ」
「いえ、今回私は個人的にカエル妖精の村に用があるだけです」
「私はアルシェ様の従者ですから」
『あくあもさんかしないよ!むらのせいれいとあそぶ~!』
目をぱちくりさせて、俺に目をやるハライク氏。
この街に来る冒険者はランク1ダンジョンをクリアした者だけな訳で、
そんな新米冒険者がランク2相当のフラゲッタ数体を相手にするのか?
そんな目で俺を見てくる。
「俺だけじゃなくてこの娘も一緒ですよ?」
視線は座る俺の膝で丸まるクーに移る。
「そ、その精霊と一緒に?
まだ子供でしょうに・・・危険ですよ?」
「危険は百も承知ですが、こちらも進化が掛かっていますので」
「その子もですか。
フラゲッタは毒も吐いてくるので絶対に当たらないでくださいね」
「ご忠告ありがとうございます」
ハライク氏の助言を聞き届け、
しばらく静かな船旅を楽しむ。
おっと、その前に確認が必要だったな。
「ちょっとカティナに聞きたいことがあるから、コールするな」
「どうぞ。ちなみに何を聞くんですか?」
「闇魔法がどういう原理で発動しているのか」
「?」
「水魔法は液体の水でウォーターボール、
固体の氷で勇者の剣、
気体の冷気でホワイトフリーズというように理解できるが、
闇魔法に関しては何がどうなって発生しているのかわからないんだよ」
「あぁ、そういうことですか。
でもシャドーバインドとか闇纏いを創ったりしてましたよね?」
「あれはクーのセンスに助けられただけで、
俺自身は全く闇魔法の構成物質を理解出来てないんだよ。
頭が固い俺はそこが納得出来ないと先に進めないんだ」
『ますたーはがんこだから~』
「やかましいわ」
『あうっ!』
軽くデコピンをアクアに打ち込み、
カティナにコールを掛ける。
〔はいはーい、どうしたデスかァ?〕
「もう起きて大丈夫なのか?」
〔あぁ、朝のコールもアニキだったデスか。
3時間は寝たから大丈夫デスケドォ!〕
やっぱり徹夜して朝に寝始めたらしい。
挨拶もそこそこに闇魔法について確認をする。
〔闇魔法デスか?
まぁ、研究した事はありますケドネ、
自分で使う分には疑問にならなかったデスから、
あまり詳しく調べなかったデスヨぉ〕
「種族的にそれはまぁ仕方ないと思うけど、
わかった事だけでも教えてくれ」
〔アニキが言うなら教えマスが。
まず魔力で発動する点は同じなんデスが、
魔力を通してないと形を保てないデスカラァ!〕
「保てない?闇球は魔力を切り離しても動いていたぞ?」
〔あれは形を保ってない気体だからデスヨぉ。
闇魔法は魔力を流すと周りから何かが集まって発動しているのはわかりマスか?〕
「それは理解しているが、
その物質がわからないから手詰まりになっているんだ」
〔ははぁ、そこまではわかっているデスネェ。
流石は精霊使いデスカラァ!
答えを申しますと、集まっているのは物質じゃなくて、
原子精霊とも言うべき小さな生き物なんデスヨ〕
生き物?ダークマターとかの謎物質ではないのか。
〔ただ本当に小さすぎて研究はそこから先には進めなかったデスネェ。
分かったのは魔力を通している間だけ集まり固体化。
魔力を切り離すと分散していく事だけデスカラァ!〕
魔力によって固まり、消失によって気体化・・・。
似たような話をアニメで見た気がするなぁ。
なんだったかな・・・火星、夜明けの船、お兄ちゃん・・・
「そうか!神の石!」
〔なんか分かったみたいデスネェ。
じゃあ、あちしはまた寝ますんでおやすみなさーぃZzzzz〕
寝落ちしたカティナのコールを切電する。
すぐさま好奇心・・いや、
知的好奇心の盛んなアルシェが尋ねてくる。
「お兄さん、神の石とはなんですか?」
「普段は鉱石になっているが、水に触れると溶けて生き物になる石の事だ。
闇魔法は逆の原理で普段は小さい生き物として漂っているが、
特定の魔力を通すと寄り集まり物質へと変化する」
俺達の世界で言うと星の砂みたいなものだろうか?
あれもよくよく見ると生きている個体が蠢いているのを見られるし。
「闇魔法って生き物なんですか!?」
「そうらしい。でもそのお陰で自分を納得させる材料になった」
「自分を?」
「自分を?」
「自分を?」
「自分を?」
俺の最後の言葉を何故か繰り返す人間の皆様。
魔力とは世界を騙す技術と聞いたことはあるが、
俺にとっては固い頭をどうにか騙す必要があるんだよ!
「島に着くまで色々試してみようか」
『はい、お父さま!』
* * * * *
「『シンクロ』」
まずは俺の認識をクーと共有する必要があるし、
発動は主にクーが制御するのでシンクロは必須だ。
一時的に止めて貰った舟の上に立ち集中しながらクーへ合図を送る。
「煙幕を」
『≪シャドースモッグ≫』
クーの口から黒い煙が吐き出される。
これは開発当初と変わらず状態異常を起こすことが出来ないので、
いまのところはただの煙幕でしかない。
「この煙が闇魔法の気体だな」
広がっていく煙幕に手をかざし次の指示をする。
「滑らかさを持って凝縮」
『はい』
慎重に制御を行ってもらう。
俺のイメージがクーにフィードバックされるのと同じく、
クーが行う制御も俺にフィードバックされる。
ゆっくりしてもらうことで俺の理解力も上がるのだ。
広がっていた煙幕は渦を巻きながら徐々に徐々に範囲を縮め、
やがては小さな拳ほどの球体に凝縮された。
表面はプルプルしていて流体に変化していることがわかる。
「この状態はどんな感じだ?」
『いまのクーだとこの大きさが留める限界です』
「わかった。次に形を色々変えてみてくれ」
指示に従ってクーは球体を解除してからいろんな形状に変化させる。
渦巻きにしたり、クリスタル状にしたり、薄い膜で水レンズのようにしたり。
『おぉー!くーすごい!』
「いまの状態が液体ですか・・・確かにアクアちゃんの制御と似てますね」
「これが精霊の魔法ですか。いやはや・・・」
みんなの評価は上々の様だが、俺にしてみるとやはり水とは異なる感触だった。
どちらかといえば・・・
「どちらかといえばノイの制御に近いかな。
原子精霊は固体化が得意なようだし、それであれば土魔法をイメージすべきだな」
『わかりました、お父さま』
「次に固体を頼む」
色んな形に変化していた流動体はゆったりと形を固定していく。
クーの固体魔法のイメージは勇者の剣らしい。
液体で形を形成して、端から固体へと変化させて行く。
『・・・っ』
「難しいか?」
『そう・・ですね。
技術的というよりは・・・っ』
「性質的に無理か・・・。
それは中止して面にして固体化してくれ」
今度は薄く延ばしてから固体へと変化させていく。
先程と違いすんなりと固まっていき、一枚の板へと変化した。
手を伸ばして触ってみると固い、でも板は曲がるのだ。
「これが闇魔法の性質ですか」
「確かに固体がこれでは攻撃に不向きでも仕方ないですね」
『かたいのにふしぎだね~』
「ふむ。触ったことのない感触ですな」
「でも、これならフラゲッタの牙は貫通できないですから、
防御面では優秀ですよね」
各々に触ってもらった感想はまぁ摩訶不思議だけど有用であった。
つまり闇魔法は一定以上の厚さでの固体化は出来ない、
しかし固体化したあとも柔軟性はある為有用。
クーの闇纏いの装飾は小さいから形成が可能だったし、
天狗のマントも外面だけを覆っているから利用できていたと。
此処までいくとなかなか難しくなってくる。
『お父さま、防御に優れていることは理解できましたが、
島で必要なのは攻撃力です』
そうなのだ。
午前のうちにクーには伝えたが、フラゲッタは大型の蛇らしい。
つまりは音もなく近づき、噛み付いて毒を流してくる。
何より厄介なのは蛇は防御に優れた皮にしなやかな筋肉の固まりだから、
攻撃力不足のままではイタチゴッコになってしまう。
いくつか案は考えているけれど、進化前だと複雑すぎて制御が難しいと思う。
「ベイカー氏、フラゲッタの落とす魔石は額にあるんですよね」
「そうです。なので頭への攻撃は報酬が減る行為になってしまいますね」
これが追加の問題であった。
通常の蛇であれば棒で頭を抑えて捕まえれば良いがフラゲッタは大きい。
気絶させる為に頭を殴る方法もあるが魔石によりこれも不可能・・ではないが、
報酬を捨てることになる。
これがアクアと一緒なら凍らせてしまえばいいんだが、
闇魔法の扱いは本当に大変だな。
「蛇を調理する時は頭を落としてから皮を剥ぐか、
上顎と下顎を持って割くのが主流だから・・・」
「お兄さん、一旦座ってください。
そろそろ島に向かいませんと」
「あ、あぁすみません皆さん。
ハライク氏、お願いします」
「はいはい。また何かするなら声かけてください」
詰まったのを見て取りアルシェが流れを変えてくれた。
本当に気が効く妹様だよ。
「クー、閻手は出せるか?一本で良い」
クーが隠れている影からヌッとシャドーバインドが一本出てくる。
天狗のオプション[閻手]は刺突でしか攻撃できないが、
そのスピードはかなり速い。
「形は変えられるか?」
『今は難しいです。クーの力不足ですね』
ペラペラの闇魔法で造られた手は、
指先のみに攻撃判定があり、他の部分に当たってもダメージに繋がらない。
現在のクーに合わせて完成された閻手に追加でコーティング出来れば、
対処出来るようになると思っている。
「着くまでに色々と試してみよう」
『はい』
いつもお読みいただきありがとうございます。




