†第15章† -30話-[炎帝樹へ向かえ!]
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——宗八が世界樹の裏側へ転移してすぐに各々が戦闘を開始した。
アルカンシェは広範囲での魔法合戦になる為世界樹から離れ、セーバーは聖獣たちと戦争したその場で戦う事を選んだ。そしてマリエルはメルケルスを引き付けて一気に高高度まで急上昇して戦場を分かれた。戦場が被ると互いの戦闘に支障が出る可能性があるからだ。
そんな戦場にひと際眩しい光が空に軌跡を何度も残し、その都度重低音が響き渡る。
以前まで運用していたマリエルの高速機動は雷帝樹の力を手にした事で強化され、音速を越え光速に近づきつつあった。水無月宗八が率いる護衛隊の中で現在宗八に迫る強者は同列だったアルカンシェすら置き去りにしてマリエルが№2に収まっていた。故に本気で戦えば完全体になっていない魔神族など相手にならないのは道理。
「《翠雷帝剛突連脚!》」
さながら叢風のメルケルスはサッカーボール、マリエルが選手の様に蹴り飛ばされ転がされる。空中で何度も軌道を変えながら盾は欠け、槍にヒビが入り、鎧は砕かれボロ雑巾の如く四肢を投げ出し宙を舞うメルケルスに向けトドメの一撃……いや、連撃が叩き込まれ様としていた。
マリエルの身体から発生した翠雷が周囲に駆け散らばり十体の雷の分身が生まれる。
それらは一息の間にメルケルスの肉体を十度蹴り駆け、攻撃が終わった雷はマリエルの元へと還って行く。その僅かな間にマリエルは力を溜めており腰のリボンは甲高くもけたたましい駆動音を鳴らして攻撃準備が整ったことを主へと伝え、還った雷を吸収したマリエルの破壊力はぐんぐんと高まって行った。
「これでおしまい!」
一筋の翠雷が雷鳴と共に空中を駆けた。同時にメルケルスの最後の言葉は彼女の肉体が弾け飛ぶと同時に搔き消される。
今回で三度目となる相対にマリエルは[転送]を使う必要も無いほどの力量差で圧倒した。
戦い慣れたと言ってもわずか15分程度で討伐に至ったのはメルケルスが前衛型で近接戦を好む点も影響したのだろう。アルカンシェと相対している氷垢のステルシャトーは後衛型なので魔法の撃ち合いとなるとどうしても時間が掛かってしまう為あちらはまだまだ激しい戦闘を繰り広げていた。
「ふぅ……。ニル、隊長にどうすればいいか確認お願い」
『(ちょっと待ってくださいましー!)』
手が空いたマリエルはどこの戦場にサポートに入ればいいのかの判断を契約風精ニルチッイを通して宗八に確認を取る。ニルチッイはすぐに確認を取り回答を伝えた。
『(禍津核モンスターの討伐をリッカと交代するように、との事ですわー!リッカには交代後炎帝樹へ向かう様に伝えておくと言ってましたわー!)』
「了解!前の私と同じで世界樹との対話を確認するのかな……」
以前のナユタの世界にてマリエルだけが雷帝樹との対話に成功していた。条件付けが不明な事もあり、真なる加護持ちで火精と契約している精霊使いでもあるリッカに今回はその役目を担わせる予定なのだろうとマリエルは宗八の考えを予想しながら移動を開始する。
流れ弾に当たらない様に鋭利な魚群や氷の飛礫が飛び交う戦場を視界に収めながらリッカを探すマリエルの視界の隅に炎帝樹近くで特大剣を振るい戦うリッカの姿が飛び込んで来た。剣から飛び散る火の粉が高速で剣を振るう度に散るものだからリッカの周囲だけ火の粉が異常発生している状況だったので見つけるのは簡単だった。
入れ替わる為にも周囲を囲んでいる大量の禍津核モンスターを一旦掃除する必要性を感じたマリエルは広範囲攻撃を発動する。
「《球雷の百槍繚乱!》」
マリエルから発せられる翠雷が天を埋め尽くす雷の球を生み出しマリエルが腕を振るのに合わせて球が槍の姿を取った。そのままマリエル自身が一番槍を務めて敵陣に飛び込むのに合わせて雷の槍は禍津核モンスターの核を撃ち抜き破壊しては地面に突き刺さった。雷の槍は一定範囲に稲妻の結界を張ってマリエルとリッカが交代する舞台を守護している。魔物が結界に触れようものなら容赦なくその部分を通して核にダメージを与えてヒビ、もしくは破壊までやってのけた。
「マリエルさんっ!?また派手な登場ですね」
マリエルの接近を気配で察していたリッカだがこんな方法で登場するとは思っていなかった事から驚きながらマリエルに呼び掛けた。その様子がおかしかったのかマリエルは笑いながら歩み寄る。
「えへへ、雷帝樹の雷分身の力が凄い使いやすくって捗っちゃいましたよ。隊長からの指示は聞いてますか?」
リッカは肯定する。
「は、はい。炎帝樹……この世界の世界樹に接触するんですよね? 私に期待通りの働きは出来るのでしょうか……」
不安そうなリッカにマリエルは何と声を掛けようか迷う。そもそもナユタの世界で雷帝樹がマリエルにだけ反応した件だってちゃんと理由を理解出来ていないのだ。気休めは言えても芯を支える言葉を口には出来ない。
「う~ん、別に出来なくても良いと思いますよ。隊長だって炎帝樹が反応してリッカさんに何か力を授けてくれたら良いなって程度の下心で指示してると思いますし。理屈が判っていない現象を頭ごなしに怒る人じゃないんで気楽にやってみると良いですよ!」
「そんな、ものですか……?」
「ですよ。こんなので怒られる様な事が有ったら姫様にチクれば庇ってくれますから安心して行って来て下さい」
マリエルの励ましで多少緊張が解けたリッカは微笑みやってみる気になっていた。指示内容も炎帝樹に対話を試みろという簡素な物だったのでそもそも深く考えないマリエルに指示を出せば「はいは~い」と軽く答えてさっさと世界樹の元へ向かっていたはずだ。責任感が強いクセに自信が無いリッカ特有の面倒くさい部分をマリエルが上手く?サポートした事で戦場の交代は成功した。
* * * * *
「では、私は炎帝樹へ向かいます」
「はいは~い、行ってらっしゃ~い!」
リッカはマリエルに禍津核モンスターの相手を任せると[フレアライド]で炎帝樹に向かって移動を開始した。
いくら移動魔法を使用したとしても炎帝樹は巨大で全方位からの進軍を相手取る上で移動時間を考えると出来る限り距離が離れている内に討伐する必要があった。そのうち一方向は宗八の魔法剣がいまも暴れ回っているので気にする必要はなかったがサポートがあったとはいえそれでも防衛範囲が広すぎてキツイものはキツかった。
「マリエルさん、大丈夫でしょうか?」
『(マリエルは強い。リッカが気にするだけ無駄)』
問い掛けに返答したのはユニゾンしている契約火精フラムキエ。特徴のある淡々とした言葉はリッカの心配の気休めにもならなかった、が。背後から強烈は稲妻が発生してリッカよりも広範囲を暴れ回るマリエルの姿を見てフラムキエの言う通りだと納得して後顧の憂いは完全に排された。
やがて、炎帝樹の元に辿り着いたリッカの視界に滅消のマティアスと神族アルダーゼが拳と包丁で激しく打ち合う様が映った。誰かの為に戦いたいリッカは思わず参入しようと足を一歩踏み出したところでフラムキエから警告が発せられた。
『(お父さんの指示は炎帝樹との対話。あっちに加わる必要はない)』
「でも……」
フラムキエは続けた。
『(異世界の戦いで最重要なのは世界樹のエネルギーを破滅に奪取されない事。リッカが今指示された仕事が最重要。大事な事を見失わないで、お父さんを信じて)』
リッカは宗八を信じていないわけでは無い。まだ己の立ち位置を定められていないだけだ。両親の前で付いて行くと決めた手前最終的には指示に従ってはいるものの度々その足は迷いを見せていた。その都度フラムキエが冷静に事実を陳列する事で説得を繰り返して来たのだ。今回も使命感を刺激する言葉にリッカは納得してマティアスとアルダーゼの戦闘に背を向けて炎帝樹の中へと入って行った。
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