†第15章† -26話-[VS神人アルダーゼ②]
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神力が[神の心臓]から供給され始めると徐々に[精霊の呼吸]で浸透していた高濃度魔力が血が入れ替わる様に上書きされて行きステータスを高まっていく。ナユタ戦の際は彼の攻撃を次女クーデルカが吸収して高純度の神力で無理やりブーストして戦いになっていた。そのおかげで戦いが終わった後は反動が大変だったこともあり、必死に神力を自家発電出来る様に試行錯誤をした結果、今回の戦いに自身で供給する術を間に合わせる事が出来た。
ただし、吸収と異なり自家発電の効率はまだまだ相当に悪いので今のステータスは高濃度魔力浸透時にくらべて少し高くなった程度に収まっている。ここから徐々に以前の超ステータスに近づいていくまでに時間が掛かる。丁度良い塩梅で魔神族達が現れてくれれば楽なんだけどなぁ。
アルダーゼも同様に制限を解除して剣の嬰児は大型の包丁へ、盾の嬰児はエプロンへと姿を変えた。
「本当に女将だったのか……」
アルダーゼの地獄耳が宗八の呟きを拾い求めていない返答が返って来る。
『そうだよ。普段は家で主人の帰りを待つ主婦だけど近所の宿屋で料理人もしていたのさね!剣は不得手だけど包丁なら誰にも負けないよっ!』
大剣並みに大きな包丁は中華包丁に見える。包丁の種類をそう知らない宗八でも中華包丁は理解出来た。そして、先の剣の姿があれだけ自由自在に変形していた事からも複数種類の包丁も使いこなすのだろうと宗八は警戒度を高める。骨などを切断をする事を目的とした手の添え方で独特の構えをするアルダーゼは準備が完了したのか視線で確認をして来た為宗八も構え直しで答える。
『行くよっ!《せん切り!》』
先ほどまでの素人然とした体捌きは見る影もない見事な踏み込みと跳躍力で大包丁を振り下ろすアルダーゼを見極めて半身で避ける。が、地面を裂く威力の振り下ろしはその一撃に終わらず宗八を追って宗八にも認識出来ないほどの攻撃速度で何度も地面を裂きながら宗八に迫った。半身に避けた所為で持ち手の位置が悪く防御も間に合わない。
『《聖壁の欠片!》』
展開された自在障壁と大包丁が接触すると連続した単音が短過ぎてガアアアァァァ!という工事現場の様な音がした。数秒の間に千回の振り下ろしが約1m程の範囲を刻みながら移動する。竜眼を持ってしても視認出来ない常軌を逸した神族の攻撃速度に宗八は驚愕しながらも反撃に繰り出した。
「《氷竜聖剣!》」
『《大紅蓮包丁!》』
攻撃が交差してギャリギャリと音を立てつつ互いの後方に爆炎群と氷柱群が発生する。連続する剣戟は移動しながら激しく切り結ばれ、戦場は氷と炎が渦巻く地獄と化しながら戦域は広がっていく。凍霧の世界と灼熱の世界が入り交じった戦場の真ん中で宗八とアルダーゼが斬り結び続ける姿はとても高次元で、神秘的で。仲間によっては見失う程に素早く動き回りながら戦っている姿についつい目を奪われてしまっていた。
『《三枚おろし!》』
アルダーゼの横振りの剣身がブレ、炎の刃が二枚となって迫る。
「《氷柱舞!》」
踏み込みに合わせてバックステップで距離を開けた隙間に氷柱群が盾となり塞がり、しかし防ぎきれずに宗八は身を反らす事で回避を選択しバク転でさらに距離を稼いだ。距離が開けばやる事はひとつ。互いに得物を引き絞り突撃の構えを取る。
「《水華蒼天突き!》」
『《柳葉押切り!》』
いつの間にかアルダーゼの包丁も中華包丁から変化した炎を纏う長包丁の切っ先と宗八の水流を纏う剣先が寸分の狂いもなくぶつかり、高威力同士の衝突で発生した衝撃波が先の剣撃で発生した氷柱群と炎を粉々に吹き散らした。押し負ける感じは全くないのにこれ以上押し切れる感じもない。
「質問なのですが、あと何回変身を残していますか?」
衝撃波が消え去った後もギチギチと剣と包丁が拮抗している最中で宗八は問い掛けた。ナユタの時よりステータスが上がっているというのに人型の時点で力が拮抗など冗談では無いからだ。計算ではまだまだステータスを伸ばす事は可能なのだが地道過ぎる上に天井が見えている為、神人にも魔神族の様に完全体があるのであれば聞いておきたかった。
『アタシは化け物じゃないんだよ? 変身なんて出来るわけないだろう』
「魔神族の霹靂のナユタは超巨人級に変身しました。神人はこれ以上強くなる手段をお持ちでは無いのですか?」
質問の意図に合点がいったとばかりに表情を変化させたアルダーゼは答える。
『変身は無いし武器も隠しちゃいないよ。今以上に強くなる手段をアタシは持っちゃいないから安心おし。アンタは十分以上に強いさね』
まるで母親みたいな顔で諭してくるアルダーゼに宗八は居心地が悪くなった。
苛刻のシュティーナの齎した情報から整理するに、魔神族の強さの基準は世界の成熟度合だ。
ナユタの世界は根本村を残して全て瘴気に覆われていたが生き残りが少数ながら存在していたし世界樹が食料も飲料も生産してくれていた状態だった。その代わりに聖獣は存在しなかったしナユタ自身も思った通りの強さだった。
対してアルダーゼの世界は生き残りが居ない代わりに世界樹の主導権を守り神人が魔神族に堕ちる事無く残っていた。バリアや食料や飲料に力を使わない分がアルダーゼを保つ為だけに使用され、聖獣が世界樹自体の守りと瘴気払いを担う事で尚更力の消費を抑える事に成功した、と。
それでも手に入ったのが破滅軍に支配され先兵となるか、それとも利用されない様に終焉を迎えるか……、世界の終わらせ方というのは皮肉なのかね。
『《業火躒震脚!》』
技名が分かりやすい!衝撃波と共に広がる炎を警戒して踏み込みの前に一息に下がると予想通りアルダーゼの足元から炎が吹き上がり一気に燃え広がっていく。範囲と速度が予想以上に広く速かった為、宗八は空へと逃れる。
「《天衣!》」
普段の[魔力縮地]を用いた空中機動とは異なり、腰や腕に巻き付いた天衣がフワリと身体を浮かびあがらせ振動と火焔から逃れる事が出来た。そのまま高所から左手の[青竜の蒼天籠手]をアルダーゼに向けて詠唱を口にする。
「《青竜の蒼天咆哮!》」
魔神族ではないとはいえ高次元存在の神人に只の高濃度魔力砲は効かないだろうと判断した宗八は自身の身で生産される神力を混ぜ込み放射する。
『《斬艦包丁!》』
砲撃戦を誘った宗八の思惑に乗らずアルダーゼは超巨大な包丁に変化させて炎を纏う斬撃で迎え撃った。
「なあぁぁぁんで魔法使わねぇんだよっ!」
『仕方ないだろ!おばちゃんはそういうのよくわかんないんだよっ!』
さっきの足技然り砲撃戦が出来ない然り。近接特化の神人がいるとか想像だにしないってのっ!
どうせさっきの足技が魔法の範疇では最大範囲攻撃とか言うオチだろコレ!って事はこれ以上やっても包丁デパートリーしか見る物が無いって事か!?
砲撃に注ぐ魔力と神力を止めると徐々に先細りとなってアルダーゼの超包丁に押し負けて散らされた。
戦い様はいくらでもあるがこれ以上は殺し合いでもない限り意味は無いと判断した宗八の意思を理解したアルダーゼもその振り抜いた姿勢から脱力して包丁を二人の嬰児に戻した。
この後の戦いを考えるとこれ以上の神力の消費を抑えたいのはアルダーゼも同じだ。そもそも魔神族相手に抗う手段として力の温存していたのだ。あとはいつ出て来るのか……。クーデルカは既に苛刻のシュティーナの入界を察知しているからこの戦いの終わりも見ているはず。そして、介入するタイミングを選択するのもシュティーナだ。そうだろ?
「場は温まった様ねぇ~、イクダニム」
「イクダニム……? 何?」
「暑いのだわ。さっさと終わらせるのだわ」
「え、全員知り合いっスか? 俺にも紹介してほしいんですけど……」
堂々とした登場だった。
シュティーナの操る時空の歪みが宗八とアルダーゼの前に現れると仲間達は続々と観戦席から集まってくる。因縁がある魔神族に対してはアルカンシェとマリエルが殺気をビシビシと飛ばして喧嘩を売っている。
苛刻のシュティーナ、叢風のメルケルス、氷垢のステルシャトーの馴染みの三人に加えて男が一人。滅消のマティアスも連れて来るかと思ったけれど新顔?
まぁどちらでも構わない。ここからが本当の戦争だ。
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