†第15章† -24話-[VS大鳳の聖獣イグナイト]
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小さくなったとはいえ普通のゴリラに比べれば大型のバルディグアは回収され、今は神人アルダーゼの側で宗八が造った完全浄化エリア内で力の回復を行っている。その隣で破られた鼓膜を回復したセーバーとフランザもマナポーションを飲みながら次の戦争の開始を待っていた。
バルディグアが抉った地面も宗八が補修してクリーンな戦場を用意した。七精使い様様である。
すでにスタンバイが完了している大鳳の聖獣イグナイトはすでに空を舞っており開始の合図を待っていた。そして、トワインとリッカも準備完了している事を確認した宗八は再び開始の花火を空に撃ち上げた。
* * * * *
仕掛けたのは両者同時だった。
『(我は貴様らを過小評価していない。まずは戦場を支配させてもらうぞ!)』
「《フレアライド》」
大空を舞うイグナイトが羽撃くと翼から炎弾が降り注ぐ。言葉の通り容赦は無く戦場一体に着弾した炎は消えず残り続け移動に制限を掛けた。そんな状況を気にも留めずリッカは跳んだ。ただのひとっ飛びでは届かない高みで見下ろすイグナイトに向けて。
「《上昇の矢!》《銀世界!》」
地上からリッカの元へ一筋の矢がトワインの手元から放たれると、同時に足元から大地を凍てつかせる波動が広がり燃え盛る大地を白銀に染めて行く。が、炎の方が優勢なのかすぐに氷は溶かされつつあった。
リッカの足裏に着弾した矢は炸裂し更なる高みにその身を打ち上げる。届かないと踏んでいたイグナイトは驚き、まだ続くであろう上昇を止める為にリッカに攻撃を集中させる事に決め先ほどの炎弾を再び撃ち放つ。
「二階堂流虚鞘抜刀!【猩花!】」
その次の攻撃を予想していたかの様にリッカは腰溜めの態勢のまま移動をトワインの矢に全てを任せた上で炎弾を高速で斬り裂いていく。爆発しようと剣圧で凌ぎどんどんと高度を上げて来るリッカにイグナイトはいつの間にか釘付けになっていた。
「《——氷結矢幕》《氷結弦音》《瞬乱氷弓》」
空で爆発音が連続するその間にトワインは矢の嵐を放ちまくる。上から降り注ぐ矢幕、正面から撃ち込まれる不可視の矢群、下から迫り上がって来る矢群。全てを制御してリッカが巻き込まれない様に制御する辺りは流石宗八の弟子と言えた。
あくまで[盾役]として抜擢されたリッカは存分にその役割を謳歌していた。
空を自由に飛べない人間が空に攻め入り攻撃されても落ちずに自身のテリトリーに侵入して来る。これほど警戒心を煽る行為は無い。もちろん火属性に高い抵抗を持っている火精使いとはいえ多少の火傷やダメージは通ってしまう。直撃しないからこそこの程度で済んでいたがリッカの土壇場で発揮される異常な胆力と攻撃に、完璧なサポート仕事をこなすトワインの魔法技術があっての代物だ。
『(っ!? いつの間に!?《煉燐守護!》)』
分厚い炎の魔法障壁がイグナイトを包み先発で届いた矢は悉くが打ち消されて行く中でリッカが迫る。
「《ファイアーブレイク!》」
物理にも防御耐性のあった守りに刃が中ほどで止まりその僅かな間に裂け目が修復されて行くのがリッカの眼に映った。
「フラム君!二階堂流仙の型!【蕾仙!】」
『(もう一度。《ファイアーブレイク》)』
上等!とばかりにリッカは剣を引き戻し構え直した上で戦技を使用した。一撃の重さに主目的を据えた強撃は見事に障壁を斬り裂き全体にも綻びが広がる。そこにトワインが破壊の一射で撃ち抜く。
「《モーメントフラッシュ!》」
貫通させる事に特化した一射が矢幕よりも速く駆け抜け障壁に穴を空けるだけではなく完全に瓦解させ矢幕の嵐は今度はイグナイトに直接襲い掛かった。
『(ぐあああああああああああああ!!)』
近くに居たリッカは[上昇の矢]で安全な道へと吹き飛ばされ自然落下に入っていた。
〔あ、あの!私これからどうすればっ!?〕
「今は手が離せない。ここで深手を負わせないと勝ちは無いのよ。ギリギリになるけど風魔法で助けるから!」
矢による攻撃力は高くはない。今使用している魔法も数で押す攻撃なのでひとつひとつの攻撃は大して効いていないはず。良くて三割削れていてくれれば嬉しい位だ。トワインの攻撃はリッカを救出するまで連続して上下と側面からの矢を撃ち続けた。
「落下死するかと思いました……、ありがとうございました」
「爆発耐性があるのだから師匠の[魔力縮地]に似た魔法を組み上げれば一人でどうとでも出来るでしょうに……。さて、そろそろイグナイトも鎧を着こむ頃合いじゃないかしら。そうなったら私の近くで守って下さいね」
ギリギリまで撃ち込んだトワインは落下衝撃を抑える魔法でリッカを救出し次のステージの事を考え始めていた。
『(っ!)』
「来るっ!《アブソードサウンド!》」
イグナイトの挙動に気付いたトワインは素早く指を鳴らし振動する風の膜で二人を包む。直後にイグナイトは翼を広げて神々しい輝くと咆哮を放った。
『——クワアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
宗八達と出会って初めて鳴き声を上げたイグナイトの咆哮が衝撃波となって戦場を駆け抜ける。
先の戦いで咆哮の厄介さを学習していたトワインの魔法で守られた二人はどんな攻撃が来ても良いように構えを取る。
『《煉燐射撃!》』
開戦直後に放った炎弾。その規模も火力も上がった炎弾はトワイン達狙いではなく無事な足場を潰す為、丁寧に着弾していく。既に銀世界はすべて融けて初弾の炎も範囲を広げて周囲は火の海に包まれ二人は身動きが取れなくなってしまった。
「っ!《銀世界!》」
逃げ道を確保する為にも再び大地を氷が覆っていく。しかし火力の高い炎に負けて逃げ道の確保は出来ない。
『《煉燐嵐!》』
追撃とばかりに生まれた小さな竜巻が炎を巻き上げ成長しながら二人へ放たれる。
「ど、どうしましょう……」
逃げ場も無く迫る竜巻に焦り声を上げるリッカに対しトワインは空を舞う。
「足元の炎が消せないなら逃げながら攻撃するしかないわ。《飛翔》。私の盾になって頂戴」
「は、はい!」
風精使いみたいに自由とはいかなくとも空は飛べる。大弓に足を掛けて浮かび上がったトワインが炎上する大地を無視して移動を開始するとリッカは追従して後を追う。厄介な事に炎の竜巻も後を追って来た。
『《煉燐火球!》』
「完全な後衛魔術師じゃないっ!《アクアブリザード!》《水竜一射!》」
竜巻には吹雪を、大火球には一射で対抗した。極太レーザーの様な一射が空を駆け抜けて剛速球の大火球とぶつかり相殺に成功する。炎竜巻の方は勢いを殺す事には成功したのでひとまずは置いておくこととする。
『《煉燐突撃!》』
「させませんっ!」
間を置かずに自身よりも一回り大きな炎を纏い急加速で突っ込んで来たイグナイトの狙いはトワイン。だがしかし、直前で割り込んで来たリッカにより防がれてしまう。
今の急加速はトワインには消えた様に見えるほどだったのにリッカはその突撃に合わせて少し転がされつつも防御までした事実にトワインは驚きながらも動きを止められたイグナイトへ魔弾をお見舞いする。
「《氷竜一射!》」
『キュアアアアアアアアアアアアっ!』
空中で体勢を整えたトワインは浮遊したまま矢を放つ。イグナイトの巨体をも覆う射撃で撃ち抜きその半身を凍てつかせたうえで地面に引き摺り落とし、燃え盛る大地を転がされたその隙にリッカが突喊する。
『(《イリュージョン》)』
「メイドノミヤゲ!【龍宮炎舞っ!】」
凍てついた身体を溶かされる僅かな時間に火精フラムが実体を持つ幻影でリッカを二人に増やし、二人のリッカは接近して必殺技を発動させた。
『(《煉燐守護!》)』
ギリギリ間に合った防御壁に炎を纏いながら舞う様に振るわれる七連斬が二人分叩き込まれる。甲高い音と火花が戦場に二回響き、続けて防御壁を力づくで割る音が聞こえてきた。その間にトワインは上空へと上がり指で輪を作っていた。
「《凍河の息吹!!》」
『(甘いわ小娘共!《煉燐息吹!》)』
リッカには体勢を変えて爪を前面に出して器用に受け、トワインには息吹で迎え撃ち二面からの攻撃に抵抗して見せるイグナイトの姿に観覧している宗八達は思わず拍手を送るほどに驚きの器用さと爪の強度で耐えきった。
トワインは無傷なのでまだまだ戦える状態ではあるが攻撃が悉く威力不足であったり相殺されたりで有効な攻撃を当てられておらず、リッカも多少のダメージを受けた程度でまだ戦えるかと思えば異常に息が上がっている状況が見て取れた。メイドノミヤゲも戦技や魔法を使わずに爪で受け切った点を考えてもこれ以上は攻めあぐねる長期戦は必至だろう。
「お兄さん、リッカは空気が薄い事が原因だと思いますよ」
「そうか。最初にばら撒いた炎弾は移動阻害だけじゃなくてこういう意図もあったのか……。トワインは途中から浮いたから影響が出ていないけどリッカはずっと地面を走ってるから影響が大きいのか……。じゃあ……」
審判役のアルカンシェとアルダーゼと宗八が同じ場所から戦況を眺めていた。宗八の言葉の続きをアルカンシェは推察し言葉する。
「——双方そこまで!聖獣イグナイトの勝利とします!」
エコーの魔法で戦場に届けたアルカンシェの言葉にトワインとリッカは動きを止め、イグナイトは上空に上がって次の攻撃準備に移っていたがそちらも止まってくれた。いや……。イグナイトの胸元で紫色の大火球の準備が進んでいた。
『[ファルブレイズ]だね。着弾後に広範囲火柱で焼き尽くす必殺技だよ。ありゃ止められないね』
とは、アルダーゼの言葉。宗八はすぐに動き出す。
「お前らは退却!イグナイト!俺に撃てるか!?」
『(目標の調整は可能だが……いいのか?)』
威力を知るイグナイトは困惑しながら確認をする。宗八は頷き手を挙げて了承の意を示すと被害の出ない位置へと移動した。イグナイトも観念して従ってくれる。
『《紫蓮煉燐火球》』
撃ち落される大火球は思ったほど射速は速くない。発射時点で方向を定め、着弾までの間に多少の誘導が可能な様だ。
イグナイト自身も着弾後の広範囲に巻き込まれぬ様に羽ばたき逃げて行く様子からも自爆するほどのダメージを負う一撃だという事が予想された。その大火球に宗八は剣一本で相対した。
「《碧水を宿す星々よ、魔力の奉納を持って我は願う。水に焚べるは、意思。水面に揺蕩う意思を我が剣に。敵は強大、なれど我が意思は決して屈せぬ。永久とは願わぬ、今一時の安寧を、断絶する碧水にてもたらし示せ。蒼天よ蹴散らせ!水刃剣戟っ‼》」
「《————水波能売》」
手に握る七精剣カレイドハイリアの姿が一回り大きくなり剣身も刀の様に細長く水飛沫を溢す美しい剣へと変わった。水氷属性に特化させた[カレイドアクア/水波能売]。
「《水神一閃》」
徐に振るわれた一閃は飛沫を上げながら大きく成長して水量を増す。水神の一閃は大火球に触れ、通り過ぎ空へと抜けて行った。大火球は爆発した。ただし、水に飲み込まれて大爆発をした為か本来の規模の威力は出なかった。さらに引力に従い大地に降り注いだ大量の水が大地を未だに焼き続けていた火も消化してしまった。
『……大したもんだね』
ファルブレイズの威力を知るアルダーゼは言葉を漏らした。その声にアルカンシェが誇らしげに返す。
「私達が頼りにするリーダーですもの」
一勝一敗。次の戦いがこの戦争の終わり方を決める。トワインとリッカに労いの言葉を掛け休憩の指示を出したアルカンシェは戦場へと降りて行くアルダーゼの背を見送り魔神族の介入に警戒を強めるのであった。
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