†第15章† -22話-[神人アルダーゼと双子の嬰児]
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聖獣イグナイトとバルディグアは世界樹へ向きを変えて再び頭を下げてアルダーゼの顕現を待つ。
宗八はその間に[俺式サンクチュアリフィールド]を広範囲にバラ撒き上空には極大の[スターライトピュリフィケーション]を設置した事で世界樹周辺の瘴気は完全に取り払われ、神族が顕現するに相応しい舞台は整った。
ボボッと二つの火の球が出現する。
ユラユラと宙で踊る様は神聖な儀式の様にも見え、宗八は黙ってその様を見守った。やがて光がどこからともなく火の間に集まり人の形を取り始め、ぼやけていた輪郭がはっきりとした頃にカッ!と輝いた瞬間には神人アルダーゼは顕現を果たしていた。
『やあ、アンタが子供達が報告に来た異世界人だね。バルディグアはいつも助かってるよ。イグナイトはまた顔を見れて嬉しいよ』
『ありがたき、お言葉』
『おめおめと戻る事となりました』
宗八にひと声かけた後に聖獣との会話を始めたアルダーゼ。その姿に宗八は呆気に取られた。何故なら宿を経営していそうな一般人の格好をしていたからだ。前掛けまでしている。火の球はいつの間にか赤子の姿に戻っていた。
「お初にお目に掛かります、神人アルダーゼ様ですね。私の名は水無月宗八。ご存じの通り私達の世界を守る為にこの世界を滅亡する為に参った次第です」
どこまで状況を理解しているのか不明だが宗八の言葉にアルダーゼは悲しそうな、それでいて嬉しそうな複雑な表情を浮かべた。
『もうこの世界の先が短い事は理解しているさ。魔神族とやらも何度も襲撃に来ては追い払ったんだけどね……対処出来る人員がアタシ達三人だけしかこの世界には居なかったんだよ。だから出来る事と言えば世界の延命だけだったのさ』
以前の宗八達も似た状態だったが精霊使いは増やすことも出来たので今は攻めに転じることが出来ている。この違いは大きかった。片や滅亡寸前の虫の息、片や異世界に乗り込んで滅亡を企てている。アルダーゼは正しく理解出来ていると判断した宗八は話を続けた。
「我々は魔神族の一人、霹靂のナユタの世界を滅ぼし討伐に成功しております。この世界の神人が魔神族に変容していないのであれば敵が増える前に世界樹を破壊したい所です」
この言葉にバルディグアは再び殺気を宗八に向けるがアルダーゼに睨まれると殺気は治まった。少し瞳を閉じて考え込んだアルダーゼは答える。
『その考え方は正しいだろうね。瘴気の侵食を抑えられている世界なら兎も角ここまで追い込まれた世界ならいつ魔神族の手に落ちてもおかしくはない。打てるうちに手を打つのは当り前さね』
アルダーゼは続けた。
『複数人の気配がする……。それだけアンタの世界は戦力が整っていてアタシ達の世界よりは希望があるという事だ。アタシもね、このまま世界を守れるなら守り続けたいけどさ、他の世界に迷惑を掛けるくらいなら世界樹も滅亡を喜んで受け入れてくれるだろうさ。でも、最後に満足させてほしいんだよ。最初で最後の神人アルダーゼの願いだ。聴いてほしい』
宗八は頷き了承の意を示す。
「その間の世界樹の守りは任せてください。ただし、聖獣戦の審判はアルダーゼ様にお願いしたい。でなければ命を奪うまで諦めなさそうな者が居るので……」
赤子も含めた全員の視線が聖獣バルディグアに向けられ多少居心地が悪そうに彼は身動ぎする。その様子にアルダーゼは大笑いをして了承してくれた。
『あっはっはっは!そうだね!二人の時はアタシが審判を引き受けてあげようかね!アタシは引き際も分かっているから勝てないと判断したら潔く身を引こうじゃないか。アンタもちゃんと引き際を誤らないで欲しいところだけどね……』
「うちはダブルリーダー制を採用しているので俺が戦う時はもう一人が負けを判断しますのでご安心ください」
『なら良かったよ!あっはっは!』
アルダーゼの大笑いは一気に鳴りを潜め真剣な表情で宗八に注意を告げた。
『さっさとやるよ。アタシが目覚めたことはあっちはとっくに察知してるだろうからね。この世界に起きた変化を確認しに死神が来ちまう前に決着をつけてしまおうね』
苛刻のシュティーナならやりかねないと宗八も同意をする。仲間に連絡を取り聖獣と役割を一時的に交代した宗八は事情を説明し聖獣と戦うメンバーを決める相談を始めた。
「アルダーゼは俺が戦う。残りの大鳳イグナイトと大猿バルディグアは誰が戦い、世界樹を誰が守るのかを決めるぞ」
宗八の言葉に真っ先に挙手で戦う意志を示したのはセーバー。
「俺が大猿と戦う。ありゃどう見ても攻撃力特化だろ!俺がやる!」
やる気満々のセーバーへ宗八はひとつの質問を投げる。
「セーバー、一人でやるか?こっちは攻め込んで来た側だからそこまで義理立てする必要は無いんだが……」
「当然一人でやりたい!だが、遊びじゃねぇ事もわかってるからそこは宗八に任せる」
セーバーは冷静だ。宗八は顎に手を添え悩み答えた。
「フランザとペアだ。ただし満足が出来るラインまでは一人でやっていい。もしお前よりもバルディグアが上手だったらフランザが参戦する」
「あぁそれでいい!任せろ!」
フランザにも視線を送ると頷き了承を示した。
残るは大鳳の聖獣イグナイトだが……これには意外な事にトワインが立候補した。奴は空を飛べるので遠距離攻撃が出来るトワインが相手取るのは良い選択だと思う。だがしかし、セーバーほどタフでも攻撃力があるわけでもないのでペアとなる仲間次第で負けも有り得る、と宗八は考えた。
「やれるのか?」
トワインは真剣な表情で頷く。
「私を守る盾役を立てていただければ必ず勝利をもぎ取ってきます」
やる気はセーバーに負けず劣らずだ。とはいえ防御に優れた地精使いはこの場に居ないので防御性能で考えると一人しかいないな。
「リッカ、お前が盾だ。トワインを守り切れ」
「か、かしこまりました!」
命令すれば無理難題でもとりあえず了承するのは悪い癖だぞリッカ……。だが審判役にアルカンシェ、いざという時に割り込める機動力を持った風精使いは自由にしておきたく、残る弟子のディテウスは聖獣相手にはまだ出せない。魔神族の乱入警戒を解く事は出来ないのでペア以上に人数を裂けない事情もある。やはり人数制限を受けるとかなり辛いなぁ……。
対戦カードが決まった事を報告する為にアルダーゼの元へ向かった宗八は炎の赤子を可愛がる姿を目撃した。
そういえば、あの炎の赤子の正体もよくわかっていない。人数に含まれるのであればまた人を裂かなければならないと考え、祈りながらアルダーゼへと声を掛ける。
「アルダーゼ様。質問なのですが、そちらの赤子は精霊なのでしょうか?」
慣れた手付きで赤子二人を抱き上げたアルダーゼはにこやかに微笑み頬づりしながら答える。
『この子達はアタシの子供達さ。妊娠中に世界樹に選ばれちまったからね……。アタシが神人になる際にこの子達も炎の肉体を得たってわけさ。ただ子供らしく知能はまだ低いからアタシと一緒に戦う様にしているよ。こんな風にね』
彼女の腕に抱かれていた二人が勢いよく燃え上がり子供の姿から形状を変えて盾と剣になってアルダーゼの両手に収まる。神人の一部として顕現したと言ったところか、と宗八は納得した。
「なら対戦カードに変更は必要ないですね。こちらはいつ始めても構いません」
『こっちはもっと前から準備は出来てるけどね!じゃあ邪魔が入る前にこの世界の存続を賭けた戦争をおっぱじめようかね!』
アルダーゼは力強い足取りで二匹の元へと移動を開始した。宗八は改めて戦闘に参加しない者に周囲の警戒と邪魔が入らない様に魔物を間引く仕事を与え、この異世界の滅び方を賭けた三戦が始まろうとしていた。
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