†第15章† -20話-[勇者の奮闘]
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「時空の亀裂が入り始めたそうだ!急ぎ戦闘準備を整えろ!」
未来の軍団長ラッセン第二王子の鋭い指示が響き渡る。闇精より間もなく異世界と繋がると通告があった為だ。
異世界開通を阻止することは出来ない代わりに閉じる時間を短縮することは出来る。その間に望まむ来訪者を出迎える為、兵士は走り回り軍団長とラッセンはいち早く現地に到着した。
その時、背後から駆け寄って来る複数人の気配を感じて振りかえると協力してくれている勇者PTが駆け込んで来る姿が見えた。
「ラッセン殿下!話を伺い参上しました!」
「来たかメリオ。何度も手伝わせて済まないな」
プルメリオはその言葉を否定する。
「その様な事は気にされないでください。この数か月で以前とは比べ物にならない程ステータスは伸びましたし一層仲間の絆が強固なものになりました。お世話になっている以上出来る限り手を貸すのは当然ですから」
真面目なその物言いにラッセンは笑みを浮かべる。どこぞの男とは大間違いだ。強くしてやるから自国は自分で守れ、だからな。
「さっそくだがいつも通りの手筈で頼みたい。やはり戦闘力に大きな違いがある以上大物はメリオ達に、小物は我々で相手取る方が被害も少なくて済むからな」
プルメリオは頷いた。
「お任せください。力の限り早急に討伐してみせます!ではっ!」
プルメリオはそう言い残すと仲間を伴って指定の位置へ移動を始める。その後ろ姿をラッセンは見送ったあと兵士たちが整ったと知らせが届いた事で思考を切り替え戦闘準備を始めた。
異界の亀裂が確認されてから数か月経つ間に数度の開閉が行われた。
その間も勇者プルメリオはヴリドエンデの為に協力を惜しまず亀裂が閉まっている間は各地のダンジョンに赴き、亀裂が開けば兵士はおろか軍団長でも討伐が難しい大物を宗八と同じく精霊と共に戦う仲間達と共に討伐するのだ。兵士との連携は無く適材適所として自分達だけで街を守りたい兵士にはアルカイドとラッセンの両殿下が言葉を尽くして雑魚狩りに専念するように厳命した。
何故なら街中での戦闘の場合、囲んで倒すという基本戦法を用いる事が出来ない為どうしても各個撃破という構図になってしまう。もちろん数が多いのは魔物の方だ。瘴気の鎧は光精が剥がしてくれるとはいえすべての魔物が我先にと生者に群がるので培ってきた戦い方は通用しないからこそ怪我人を出しつつも小物を倒すことにヴリドエンデ軍は専念せざるを得なかった。
「臨界!来ます!」
補佐の言葉に各軍団長が神経を尖らせた。一般人は逃がしたとはいえこの場から逃がせば被害は甚大になるほどに狂暴なのだ。
皆が見つめる先の空間からガラスが盛大に割れる様な音が響くと舗装した道路が融けるほどの熱と瘴気が降り注ぐ。瘴気は素早く光精が浄化するが熱はどうしようもないので空気を冷やす為だけに魔法部隊が中級魔法[ホワイトフリーズ]を撒き出来る限り常温に近づけて戦場を整える中、大きく開かれた亀裂から魔物が次々と降り立ち兵士に群がっていく。
勇者プルメリオ達は役目が来るまで待機する間に小型の魔物が一気に押し寄せては討伐されて行く。
嚙まれるだけ、引っかかれるだけで火傷のデバフを負わせる攻撃を防ぐ盾には[エンハンスフレイムシールド]の魔法が掛かっており、単純な勢いと膂力だけに集中する盾役は動きを止めた所を水氷魔法の[エンハンスアクアウェポン]が掛かった武器で滅多刺しにする。少しでも討伐速度が遅れればその一点から瓦解を始めるので複数グループが壁となって住民が住むエリアへ抜かれない様に自分の番を待っていた。
「大型!ラバーゴーレムが出現します!」
亀裂を監視し次の魔物情報を伝える兵士の声がプルメリオの耳に届いた。勇者PTは建物の屋根から飛び降り兵士たちが集まるエリアの反対側で大物が落ちて来るのを待つ。一番近い生者の方向へ飛び込んでいく習性を利用して大型の魔物だけを自分達の方へ引き付ける戦法だ。
「【コンバットエンゲージ!】」
対象に狙いを定めた戦技が粘り気があり気泡が湧く赤いゴーレムへと完璧に決まる。生きたマグマと表現しても遜色ない大型魔物は勇者PTの騎士マクラインに狙いを定めて自分達に向かって移動を開始した。
『《エンハンスホーリー!》』
「【天翔光剣!】」
光精エクスのエンチャントで輝くエクスカリバーをプルメリオはラバーゴーレムに突き刺し一気に縦に引き裂く。しかし巨体のラバーゴーレムを完全に切断出来なかった背中側は回り込んでいた元剣聖セプテマが斬り付けて1匹の大型ラバーゴーレムは2匹の中型ラバーゴーレムに分裂した。
ラバーゴーレムのランクは9+。溶岩と融けない岩石で構成された上半身しかないモンスター。
触れれば火傷、囲めばマグマの飛沫を撒き散らし、離れればマグマ体に引っ付いている岩を投げて来る。最初の一体こそ倒すのに苦労したが今日までに複数体討伐して攻略方法はすでに覚えている勇者PTは強制的に分裂させる事で最大HPと各種ステータスの低下を狙った。
「うおおおおおおおっ!【剛撃漣武!】」
拳闘士クライヴが片方のラバーゴーレムの岩石部分に拳を乱打する。流体部分に触れれば余計なダメージを受けてしまう為これでも慎重に戦っている状態だ。宗八の[波動]に似た効果がある拳の打ち込みで硬い岩石を砕くと何故か身体がどんどんと小さくなっていくゴーレムに止めを刺すのは魔法使いの役目だ。
「《アクアタワー!》」
ミリエステが地面に手を置き詠唱するとラバーゴーレムの足元から水が噴出し飲み込んだ。火精の加護を祝福されている事で水氷系魔法の威力が下がっていてもここまで弱らせればミリエステの魔法でも倒す事が出来る。もう一体の中型ラバーゴーレムもプルメリオとセプテマが弱らせたところをミリエステが止めを刺して1体目は討伐出来た。
「【コンバットエンゲージ!】」
すでにマクラインは次に這い出て来た大型の魔物に戦技を撃ち込み敵愾心を買う行動に移っていた。
「メリオ殿!上位瘴鬼ですぞっ!」
「《輝動!》」
マクラインが強烈な連続攻撃を全て受けている間に嬉しそうなセプテマの報告をプルメリオは聞きながら位置取りを急ぐ。人族に瘴気精霊が寄生する事で変異した魔物が瘴鬼。その成長した姿の上位瘴鬼はSランクと同等の厄介さだ。
4mの巨体に長い手足。高所から高速で振り下ろされる八つ裂き攻撃がマクラインに集中している間に左右に陣取ったプルメリオとセプテマの攻撃を察知した瘴鬼は一息に距離を開くと魔法を展開する。周囲に浮かぶのは炎の槍が15本以上。
「ミリエステ!」
「《フレイムランス!17連!》」
プルメリオが声を発した時にはミリエステが迎撃の準備を整えていた。上位瘴鬼の炎の槍と違ってこちらは螺旋を描く炎の槍だ。互いが射出されると空中でぶつかり合いほとんどが相殺されるも貫けた一部が上位瘴鬼を穿つ。炎耐性がある為ダメージとしては弱くとも一時的に動きを止めてしまった瘴鬼の仰け反りに再接近したのはプルメリオ、セプテマ、空からクライヴの3名。
「「【高速剣!】」」
「【メテオダイブ!】」
長い手足は伸縮可能でミリエステを狙われない様に連続した剣戟で注意を引いている間に空から降って来たクライヴの強烈な一撃で上位瘴鬼は地面に沈む。あとでクレームを貰いそうな程に道路被害をもたらしてしまったがここまでしても上位瘴鬼は討伐出来ていなかった。五体投地の身体が発光し始める。
「【カバームーブ!】《堅固の盾腕!》」
自爆と見た瞬間に駆け出したマクラインが三人に拘束接近するとすぐに防御魔法を唱えた。地面から突如迫り出した岩石の腕に三人はすぐさま身を隠すと、カッ!と光ったと思えば天高く昇る炎と異世界の熱気と同等の熱が押し寄せた。
岩石の腕は爆発と熱気に溶け出すもその大きな守備範囲から四人を守り切っていた。マクラインと地精オーヴィルは必死に魔法の盾の維持に努めるも四人を通り過ぎた熱気が後衛のミリエステ、そして反対側で戦っている兵士に迫る。
「《ブレイズウォール!》」
周囲の住宅に被害が出るほどの広範囲にミリエステは炎の壁を張る。この炎によって生じた上昇気流に熱気は誘導されて無事に空気中に霧散したのだ。冷静に状況判断して魔法を選択したミリエステのファインプレイである。
熱気が完全に通り過ぎた後に四人は上位瘴鬼の様子を伺うと炎の渦巻きの中で立ち上がる上位瘴鬼の姿を視認した。
「本気出して来た。ここからは短期決戦だ!」
プルメリオの能天気な言葉にマクラインがツッコミを入れる。
「いや、全部短期決戦じゃないと処理速度が追いつかないんだって……」
プルメリオの言葉に反応を返さなかったクライヴがマクラインを急がせる。
「さっきの攻撃で敵愾心がこっち向いてるから早めに再回収してくれや」
「あ、すみません。【コンバットエンゲージ!】」
炎の渦で守りを確保したまま上位瘴鬼は腕を巨大化させて振り下ろす。クライヴを目掛けて振るわれた炎爪をマクラインの大盾が防ぐ隙に三人は再び突喊する。
「《斬鉄剣!》」
地精ファレーノとユニゾンしたセプテマの一撃は鋼鉄どころか炎を斬り裂き散らす。ただし炎は渦巻いている為一時的に散らせたに過ぎない。その間にプルメリオとクライヴが接近して留めを放つ。
「《セイクリッドセイバーッ!》」
「【デモンズフィニッシャーッ!!】」
左右に一刀両断する光剣と上下に両断する肉体言語によって暴れ回っていた上位瘴鬼は四つの塊となり絶命する。今回は暴れたといっても魔法は一度だけ。基本的にマクラインが敵愾心を引き付けてくれた為被害も無く討伐することが出来た。何度か戦った事で培われたパターンで安全に対処したプルメリオ達は次に亀裂から現れた大型魔物の相手をするべく駆け出した。
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