†第15章† -08話-[特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来た理由]
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数日後。
アーグエングリンでお世話になっている間。俺達が称号稼ぎをしていた数か月でフラムとベルは2度目の加階を果たし三歳児ほどの大きさに成長していた。そして他の子供達よりも成長が遅い無精アニマが妹と弟に遅れる事ひと月ほどで2度目の加階を果たす運びとなった。このひと月は小さい姉をベルとフラムが可愛がっている光景を何度か見ていたけれどそれもしばらくはお預けだな。
「そろそろ生まれそうだな」
加階中の卵が魔力へと解けて行く。末っ子’sに身体が追いついたアニマが俺の胸の中で瞳を開く。
『お父様。改めてお話出来る事が出来ました。これはギュンターとナデージュにも聞いてもらいましょう』
体は子供でも大人びた表情と口調で告げるアニマに俺は頷く。
「それは良いけど、アルシェも一緒でも良いか?」
アニマは肯定した。
『お父様とアルシェは一蓮托生なのでしょう。構いませんよ』
アニマは転生した事で多くの記憶を失っている。
幼い身体に引き摺られて精神も幼くなってしまってはいるが無精王だった記憶は残っているので少しおませな女の子になってしまった。今でこそ姉弟にも軟化した態度を取っているけれど以前はツンツンとしていたものだ。失った記憶は加階する毎に思い出す様子なので今回も精霊王時代の自分をまたひとつ取り戻したのだろう。
俺はさっそくアルシェと共にアスペラルダへ移動して重要な話がある旨をギュンター陛下とナデージュ王妃に伝えお時間を頂くことが出来た。
「今回は他の者に聞かせる内容ではないとの事だから私室に来てもらったが宜しかったでしょうか、アニマ様」
アニマが陛下への返答をする。
『感謝します。シヴァも時間を取ってもらい申し訳ないわ』
ナデージュ様は微笑みながら首を振る。
「その様な事を仰らないでくださいアニマ様。貴女様が大事な話があるというならばこの世界において重要な話なのでしょうから」
ギュンター陛下、ナデージュ王妃の隣にアルシェも座り、俺とアニマと子供達はその対面に座って話し合いは始まった。
アニマがここまで人を集めて伝えたい内容とは何の事だろうか? 以前の可能性の実についてはここまで大事の雰囲気で情報を教えてくれたわけでは無かった。アニマは一瞬俺の顔を見上げた後、目の前に座る3人に視線を戻して口を開いた。
『今回思い出した内容は水無月宗八についてです』
耳を澄ませ聞いている全員がピクリと反応を示す。
『簡潔に言いますと水無月宗八をこの世界に呼んだのは以前の私になります』
その言葉にアルシェが反応する前に素早くギュンター陛下が割り込んだ。
「以前のとは、初代勇者召喚よりも遥か昔という事でしょうか?」
アニマは肯定する。
『その通りです。私が各精霊王たちに世界を任せ消える際に施しました。勇者召喚の魔方陣とは違い、私の分御霊を私の魔力全てを注ぎ込み別世界へと送り出した別種の召喚術です』
勇者召喚とは別種の召喚術。
その言葉に一番に反応を示し誰の割り込みも許さなかったのはアルシェだった。怖い位に真剣な表情で勢い良く立ち上がったアルシェは静かに、しかし緊張に力んだ声音で問い掛ける。
「それは……っ!魔王を倒してもお兄さんは元の世界に帰れない、という事……でしょうか?」
アニマは少し考え込みゆっくりと答える。
『アルシェ、落ち着いて。説明はしますから座って下さい』
自分の焦りとは他所に落ち着き払ったアニマの言葉に釈然としない表情を浮かべながらアルシェは改めて座り直した。
『まず、私に当時の分御霊の記憶は残されていませんから正確な情報をお伝えは出来ません。しかし、予想していた部分からある程度補足しながらの説明は可能です。確実な部分としては勇者メリオと宗八は生きていた時代が異なる点です』
アニマは続ける。
『水無月宗八という人間は異世界の住人です。世界とは創造神が自身を昇華する為にその身の一部を星にばら撒き魂が育てば収穫する事で廻るシステムを指します。彼は地球という名の星の人間でありその世界の創造神の分御霊とも言える人間を世界消滅の危機に瀕してもいない限り他の世界へ転移させるなど許可をするわけもありません。勇者はリースという形で一時的に転移しているだけですが宗八はその点が違っています』
アニマの説明を子供たちも含めた全員が聞き入っている。
勇者召喚は勇者の得難い経験で魂を磨く代わりに異世界の創造神に勇者に選ばれた人間を一時的に借りる契約を施すものだった。創造神の許可が出たので勇者は召喚され、魔王を倒す事で契約は履行され勇者は元の世界へと帰還する。同じ世界の神ならばヤハウェの事だろう。三大宗教が祈りを捧げる神が別名なだけで同じ神を指す事は意外と知られていないらしい。日本を例に出せば神力書き入れ時が初詣でありその時に回収出来た神力で土地神なんかは担当する土地の魑魅魍魎や瘴気を祓って守護してくれているが、毎日50億人以上から複数回祈りを捧げられ神力が得られる立場の神が何を守護しているかと考えれば地球であろうと考え付くのは道理である。
『魔方陣が契約書となり帰還まで約束された勇者召喚と違い、宗八は帰還出来る保証が無く許可を頂けなかったことは容易に想像できます』
「でも、俺は召喚されたって事は代替案があってそれで何とか帳尻を合わせたって事か?」
俺の質問にアニマは首肯する。
『創造神から許可が下りない事は想像していましたので分御霊は自身を代償に水無月宗八をコピーする選択を取ったのだと思います。水無月宗八は元の世界で天命に召され、ここに居る宗八は水無月宗八を模造し記憶を再現した一代限りの存在です。魂から身体まで無精王アニマの分御霊が自身を魔素まで分解し再構築した、死んでも輪廻転生に入る事も出来ない。魔力となって身体も残らない存在が水無月宗八のコピー体……それがお父様。——宗八の正体です』
絶句とも違う沈黙が場を支配した。
そんな中、俺は戸惑いもなくストンと心に納得が行く音が聞こえていた。穴だらけで戻らない記憶、精霊や動物から異常に好かれる性質、召喚時の不可思議な状況。記憶が朧げなのは完全にコピー記憶を再現出来なかったから…。精霊や動物が良い匂いがすると寄って来るのは人と違って魔素で構築された肉体だから…。一人きりの召喚は召喚陣を用いずに精霊王の分御霊が介入していたから…。
子供達が何故か堂々とした態度を取っている中、目の前の3人が俺に視線を送って来る。そこには心配する気持ちが溢れていた。水無月宗八のコピーと知らされた俺の心情を慮る優しい視線だ。膝の上に乗っているアニマは申し訳ない様な表情を浮かべる始末だ。
「俺も自分の正体については常に考えていた。だからこそ驚きはしたけど色々と納得が出来る内容である意味安心したくらいだ。アニマは世界を守る為に俺を必要としてくれたんだろ?そんな顔をするんじゃないよ」
俯くアニマを撫でて言葉を続ける。
「メリットを考えれば元の世界に待つ人は居なかったわけだから誰も不幸になった人は居ない。俺も破滅の対応をアルシェ達に任せてリタイヤせずに最後まで付き合う事が出来る。子供達の成長を見守れる。良い事尽くめだ、デメリットは無いに等しい」
俺が世界に残るなら懸念していたほとんどが払拭できる。俺の言葉にギュンター陛下がアニマに問いかける。
「アニマ様。宗八は水無月宗八という人物のコピーと言われましたが、召喚されて本日まで人間と遜色無い様に見受けられました。何か違いはあるのでしょうか?」
アニマが答える。
『分御霊が水無月宗八の情報をコピーして破滅接近までの長い間に魔素を様々な物に変換して宗八を作り出しています。魔素で作り上げた身体とはいえ下界に合わせて調整しているはずなので身体に至っては人間と遜色ない機能を有していると断言出来ます。それだけあの時代の私は凄い力を有していましたから!』
俺の身体は人間と相違ないと断言するアニマは胸を張って宣言した。
無精王アニマの残り香とでも言うのか精霊や魔に連なる者にとっては香ばしい匂いを発する人物として好意的に映ってしまう点はあるけれど、人として生きられるなら輪廻転生出来ないとかはどうせ死んだ後の事なんて覚えてないんだから気にする必要は無い。
ギュンター陛下はひとまずの質問に納得して息を吐いて椅子に深く身を預ける。
「お兄さんがこの世界に残って下さるなら私はもちろん嬉しいです。ですが、お兄さんは元の世界に帰りたくはないのですか?」
悲喜交交な表情を浮かべながら伺ってくるアルシェに俺は視線を真っ直ぐに合わせて答えた。
「召喚されて数か月は確かに帰る事は意識していたけど、子供達が増えて行くに連れて最後まで見守りたい気持ちが多くを占めていた。破滅に対しても途中で投げ出してアルシェの隣に居られなくなる事に恐怖を覚えていたから逆に帰れない事は良い事だと受け止めているよ」
俺の笑顔にアルシェも笑顔を浮かべてくれる。その頬に流れる涙を隣に座るナデージュ王妃がハンカチで拭った。
「宗八が納得しているなら私達からは何も無いわ。ただただ、これからも一緒に居られるその喜びしか…ね。貴方が子供達を見守り続けたいのと同じように私達もアルシェと宗八を見守り続けたいのよ」
ギュンター陛下も王妃に合わせて頷く。
「これからも世界とアルシェの事をよろしく頼むよ。息子よ」
冗談めかした言葉に俺も冗談口調で答えた。
「はい、任せてください。父上」
この後は子供達も交えて喜びを分かち合った。
アルシェの気持ちが爆発し抱き着いて泣き出した時には慌てたがギュンター陛下とナデージュ王妃の優しい視線を受けてしまえば喜びに震えるアルシェを抱き締め愛を囁くことに何の躊躇もなかった。
「嗚呼、お兄さん……お兄さんっ!もう我慢しなくても良いのですよね!?」
まるで夢で無い様に、逃げない様に、強く強くアルシェは腕に力を入れた。
「お慕い申しております!愛していますっ!もう逃がしませんからっ!お兄さんは私の物ですっ!」
愛を叫ぶアルシェに応える宗八の腕にも力が入る。相思相愛であるにも関わらず長い刻を一線を越えぬ様に添い寝や抱擁が最大値で接吻は以ての外。今回の様に愛を口にする事も暗黙の了解で互いに避けて来た。それは宗八がいずれこの世界から帰還してしまうから。
国王ギュンターと王妃ナデージュは瞳を伏せ、子供達も二人に指示されて視界に入らないように他所を向いた。
「あぁ、あぁ……俺もだ。アルシェ。愛している。もうどこにも行かない。ずっとお前の側に、隣に居座り続けるよ。アルシェが嫌がってもな……」
抱擁が一段強くなりアルシェは顔だけを上に向けて来た。
「私がお兄さんを拒否する事なんてありません!私がお兄さんを隣に置き続けます!嫌がっても!」
言うだけ言うとアルシェは再び胸に顔をうずめる。
近くて遠かった逢瀬に遠慮していた子供達は流石に慣れない空気に飽いたのか徐々に俺達二人の元へと集ってきた。
これからも優しいこの家族と愛しい者と一緒に居られる望外の喜びが俺の心を満たしていく。その様子を見守るアニマは誰にも届かない声量で祈る様に囁いた。
『——ごめんなさい、宗八。——ありがとう、お父様』
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