†第15章† -07話-[この世界の魔法を解説します]
この辺りから「アルマーク」の影響を受けた会話文章に変わっております。長々と会話だけの文よりは描写が挟まる事で想像しやすくなるかと思って導入しました。まだ不慣れです。
「この世界の魔法を解説します」
この世界の魔法は魔導書と呼ばれるアイテムを使用して習得する必要がある。
本来魔法とは魔法式を組み上げて魔方陣に仕上げ魔力を注ぐ事で発動する事象を指す。魔法ギルドが製本した初級魔導書が店売で入手でき、中級と上級はダンジョンの宝箱からレアドロップでしか入手出来ない。水氷属性で言えば初級アイシクルエッジ、中級ホワイトフリーズ、上級アクエリアスの3種だけで他属性も同様なのでこれ以上の研究の仕様がない底が見えたものとして扱われ続けて来た。
それは精霊との付き合い方を知らない人々が長い時代を使って固めて来た常識であり、今まさに魔法の進展が必要な大戦が迫ったこの時代に現れた水無月宗八によって精霊との繋がりは表面化して新たな魔法が数多く生み出された。
「なんでここに居るんだミリエステ。あんたは称号稼ぎに行ってこい」
用意されたゲートから旅立ったはずのミリエステが戻って来てドヤ顔で解説を喋り始めた。
「すみません尊師。それでは行って参ります」
宗八はそそくさと去っていくミリエステを訝し気な視線で見送った後、改めて目の前で座って並ぶ面々に向き直る。
「彼女が説明した様に今は魔法を色々と開発している状況で皆さんが使用するには精霊との契約が重要となっています。精霊によって使える魔法にも違いは当然存在していまして、ひとまずは皆さんには無精との契約をしてもらう事になります」
ヴリドエンデに用意してもらった一室に詰め込まれたのは劇場版霹靂のナユタとの戦いを観た選抜メンバーとそのメンバーが選んだ部下複数人。これから無精との契約作業に入る前に魔法と精霊についての説明をする為、子供達は俺の傍に付いてもらい他のクランメンバーは相変わらず自己強化に励んでもらっている。
「改めて伝えておきますが私は王女殿下の護衛隊長としてではなく、各国が参加する破滅対策同盟を代表して指導に当たる立場としてここに立たせていただいております。軽視するなとは言いませんが仲間や住民が大量に亡くなる事態に陥ったとしても無駄死にしない様に得られる物は全て吸収する心積もりでよろしくお願いしたい。よろしいですね?」
ぐるりと見回して最後にはこのグループを纏めている王族2名に水を向ける。
「水無月殿の立場は言い含めている。我が国所属で無いとしても貴方の言葉は真に受け止める事を誓おう」
代表としてアルカイド王太子殿下が返事をした。
王太子殿下の隣では弟のラッセン殿下が同意するように頷いている。
彼らや選抜メンバーはまだしも部下の方々は口には出さずとも子連れの男をジロジロと胡乱気な視線を向けて来る。しかし、男の背中には美しく大きな剣が浮かんでいるし傍には青いドラゴンが寝そべっているのを見るとどうも只者ではない事は理解出来るので何も言わずに黙々と王族の命令に従っている様だ。
「ちなみにうちの子供達の情操教育に悪い発言や気配を出す者は容赦しませんのでご理解ください」
皆が一瞬発された殺気に気付き表情を改めラッセン殿下が宥めすかす。
「大丈夫だ。彼が我らの敵ではない事は兄上だけでなく俺も保証する!真面目に教えを請えば力に成ってくれる」
「ラッセン殿下の言う通りです。こちらも時間を割く必要があると判断していますし同盟からの依頼もあって陛下から許可も出ています。少ない時間を有効に利用してくださればと思います。さっそくですが今後貴方方が使用する魔法に付いての説明に移らせていただきます」
ニッコリ笑顔で場を制してから話を続ける。
俺は水精アクアと火精フラムを題材にしてこの世界で普及している魔法と俺達が使用する魔法の違いをひとつずつ説明していく。ウォーターボールとファイアーボールを二人に出してもらいこれはほぼ同じ魔法式で組まれており属性が違うだけと説明する。彼らはそもそも見たこともない魔法に釘付けであったが興味は引けたらしくその後も様々な魔法を見せつつこれからは色んな魔法を使いつつ戦う必要がある事を重ねて伝えた。
アクアタワーとフレイムタワー、ブレイズダンスとフリズドダンスなど2属性だけだった説明が3属性4属性と増えて行けばおのずと一般的に手に入る魔導書の魔法も別属性で出来るのではないかとアルカイド殿下が気づき指摘する。
「つまり精霊を通せばアイシクルエッジを風属性でも土属性でも再現は可能という事だな?」
俺は肯定して頷いて見せる。
「その通りです。人相手であれば弱点属性は無いですが、魔物や魔族は属性に特化している者も居るでしょう。自分が使い勝手のいい魔法を複数属性扱えれば戦闘は有利に運ぶことが出来ます。異界の魔物で言えば火属性であろう事から考えれば……」
水を向けられたアルカイド殿下は続けて口を開く。
「水氷属性の魔法を多く扱えれば状況に応じて臨機応変に対処は可能になる……か。素晴らしいな」
まぁ火の国が弱点属性となる水を操るなど本当は御免被りたい内容だろうけど背に腹は代えられないと王太子は理解している様だ。
そのまま精霊に付いての説明と加護に付いての説明を合わせて伝えて行く。自分は精霊王と接触していて現在の祝福事情はある程度管理している旨を伝えた時は流石にご意見が多くあったが知った事ではない。
出会えたのは運もあるが自分が行動した結果だし祝福の操作も直接交渉して精霊王が理解を示したからこそ成り立っている。それを精霊への信仰心だけで何もしていない奴が騒ぎ立てたところで屁でもないわ。寝言は寝て言え。
「頻度の高い属性の威力を上げるならば精霊の属性もそれに合わせる必要があります。火属性魔法を好んで使用していた先のミリエステは火精と契約していますしアルカンシェ様であれば水精のアクアと契約しています」
これには選抜メンバーに選ばれた魔法軍団長の女性が反応を示す。
「水無月殿はその精霊達全員と契約しているのですか?」
俺は肯定してみせる。
「精霊使いとしては自他ともに認める第一人者ですからね。顔を見せていない無精の子も合わせて七精と契約しています。もちろん加護も全属性を祝福いただいております」
選抜メンバーと魔法関係者は俺の返答に羨望の眼差しを向けて来るが兵士の方は多くの祝福をいただいた俺に言語道断だとでも言いたげだ。
「私達人間は食事を食べますが精霊は基本的に受肉しない限り魔力しか摂取しません。無精ならば人間が本来持ち合わせている魔力でいいのですが他の子達は精霊に合った属性の魔力が必要になります。その魔力を生み出す方法のひとつが加護という事になります」
ラッセン殿下が手を挙げてアピールしてくる。
「水無月殿が七精の加護を祝福いただいている事はわかった。では、何故アルカンシェ様は水精の加護しか祝福されていないのですか? 精霊王と懇意にしているのであればその他の属性の祝福を頂くことも可能なのでは?」
良い質問ですねと前置きして俺は答える。
「加護には2種類あります。ひとつがアルカンシェ様が祝福された真なる加護、そして私が祝福されているのは亜神の加護です。真なる加護は精霊王からしか受けられませんが亜神の加護は真なる加護を持つ者もしくは上位精霊から受ける事が出来ます。他にも真なる加護はその属性特化で複数祝福される事はありませんし対になる属性魔法の威力が弱まるなどのデメリットがあります。亜神の加護はステータスの上昇値などが低い代わりに複数属性の祝福を得られます」
前のめりになっていた面々はなるほど、と椅子に深く座り直し思案顔になる。
魔神族、精霊が関わるならば加護の取得は必須になる。
その後も精霊使いとしてジョブレベルが上がれば真なる加護ならば[ユニゾン]、亜神の加護ならば[精霊纏]の技能を得るので運用方法が違う事も併せて説明を続けた。
「水無月殿、そろそろそちらの竜との関係を教えてもらいたいのだが……」
ひと段落付いたところでずっと気になっていたのかアルカイド様が質問して来る。
「あぁ。コイツの名前はフリューアネイシア。アスペラルダに巣を持つ青竜になります」
ガタガタッ!と竜を知る皆が立ち上がった。
「それはファイアーワイバーン等の魔物とは違うのですか!?家畜化は無理だと関係各所から報告が……」
狂暴な魔物の例を出して眠りこけるフリューネに警戒心が一気にクライマックスに振り切った面々。
「理性ある王の一匹です。他にアーグエングリンの黄竜、ユレイアルドの白竜、フォレストトーレの緑竜とも知り合っています。彼らは対魔神族には欠かせない存在なので出向いて協力関係を結んでいます」
あんな狂暴な竜種と協力関係!?というドン引きの表情を全員がしていた。失礼な奴らだな。
どうやら初めから俺の隣で丸まっているフリューネの存在には気が付いていたけれどアルカイド様とラッセン様が質問しなかった事で映像を観て俺という存在を認めた選抜メンバーは気にしない方向にシフト。その様子を見た部下たちは質問出来なくなった様だ。
仕方ないので君たちが知る魔物と我が友人は違うのだと証明する為にフリューネを起こして挨拶させる。
「フリューネ、起きろ。ちょっと挨拶してやってくれ」
眠気眼のフリューネは体を起こすと猫の様に欠伸をする。
『く、ぁぁぁぁぁあああああ……。何?挨拶?』
姿を小さくしていたフリューネは俺の身体を登って来て周りを見回した後に言葉を発する。
『僕はフリューアネイシア。人とは隔絶した島に巣を構える氷竜の王である。宗八は魔神族に殺されかけていた僕を助けてくれた命の恩人であり盟友だ。あまり困らせない様にしてくれ。これでいい?』
首を傾げて可愛げを見せるフリューネ。
「ありがとう。また寝るか?」
『いいや、目が覚めたしこのまま起きてるよ。舐めた態度を取る奴がいたら僕がひと睨みしてあげるよ』
魔物ランクで言えば聖獣ヤマノサチと同ランク帯にあるだろう青竜が睨めば泡を吹いてしまうかもしれないのでそこは窘めほどほどにしてくれと伝え頭を撫でる。その様子に本当に目の前の人物は規格外なのだと理解をしたのかその後の解説については皆が必死に耳を傾けてくれたのは僥倖だったな。
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