閑話休題 -03話-[ポルタフォール~アクアポッツォ道中Ⅰ]
「『水精霊纏い』」
ポルタフォールを出て少し進んだ辺りで一旦立ち止まり、
使い心地を確認する為にアクアを纏う。
「質問良いですか?」
「なんだ?」
「なんで、フードで顔を隠しているんですか?」
「魔神族と相対したとしても個人を特定されないようにだ。
俺一人の戦力だとまだまだ瞬殺の域を出ないからな」
「なるほど」
だからこそ、クーとの纏いもフードで半分を隠している。
「前は見えているのですか?」
「見えるよ。アクアの場合は水の中でも見えるし活動も出来る。
クーの場合は夜でも昼のように良く見えるんだよ」
アルシェの質問後にメリーも挙手をしてきた。
「では、私からも良いでしょうか?」
「メリーも?何かな?」
「全体的に丸っこくて、角も尖っていないのは何故でしょう」
「あー、この世界の竜の子供って見た事ある?」
「いえ、図鑑に載っている竜は成体ばかりですから、
私たちは見た事がありません」
「確か、竜が巣を飛び立つ時はすでに成体と変わらないので、
幼竜がどんな姿かはまだ誰も知らないと言われています」
「では、丸いフォルムは・・・」
「アクアが子供だからね。
イメージも自然と幼い感じになったんだよ」
成体の竜はスリムでカッコイイだろうが、
幼い竜は不格好な奴が大半だ。
角は尖っておらず、生え際から半球しかなく、
触るとプニプニして弾力がある。
「わぁ、本当ですね。気持ちいいです」
「これは癖になりそうですね」
両手も肘からいきなり大きくなるのも子供ならではで、
成体になればそこまで差はなくなるはずだ。
「尻尾?というかマントの下の方は、
どうやって動かしているのですか?」
「人間は産まれる前。
母親のお腹の中にいる時に尻尾が生えてるのは知ってる?」
「いえ、初耳です!」
「私も初めて聞きました」
「そうか、この世界に超音波とか医療関連の機械はないもんな。
まぁ、お腹の中で赤ちゃんが成長するにつれて消えちゃうみたいだけどね」
「はえ〜」
「その尻尾は人間が人間に進化する前の名残と言われていてね。
感覚としては理解できる部分があるんだよ」
「その微かな感覚だよりに動かしているのですか?」
「そうなるね。実際に動かせてるしね」
尻尾はマントの布地がヒラヒラしているだけで、
身があるわけではない。
今後の進化次第でこちらも変わってくるだろう。
「そろそろ出発しようか」
「わかりました。
私も修行の成果を披露する時ですね!」
足元を見ればアルシェのチャージもアクアを模して、
アイシクルエッジを積まなくても利用できるようになっていた。
「メリーは俺達に乗ってみてもらえるか?」
「は?乗るのですか?」
メリーが戸惑った声を上げる。
流石に主人に乗るのは抵抗があるのだろうか。
「いえ、言っている意味が分からなかっただけです」
「あぁ、なるほどね。
いまの俺達は割りと力があるし、
浮かんでいるから体力的な疲労もないわけで、
スピードテストも兼ねて色々実験がしたいんだよ。
尻尾の辺りに足を乗せて肩にでも手を置いてくれればいいから」
「はぁ、そういうことであれば協力致しますが・・・」
何やら一物ある言葉尻をするメリーに目をやるとその背後から、
羨ましそうな顔をしたアルシェを見つける。
「・・・まぁ、実験だしメリーだけじゃなくて、
アルシェにも乗ってもらおうかな」
「休憩したら交代しましょう!」
話し合いは解決を見て、
メリーに乗ってもらう。
「尻尾を動かさないでいてくだされば安定しますね」
「速度はどうしますか?」
「お互いに上げていって、限界を図ろう」
「わかりました」
「アクアも大丈夫か?」
『わかってるよ~』
「クーもそこでいいのか?」
『問題ありません』
マントの内側。
俺の背中に引っ付いている子猫に声を掛ける。
いくら陽射しに当たらないようにとはいえ他に場所はなかったのか。
「じゃあ、出発です」
「距離は前回と同じ程度ですので、おおよそ1週間ですね」
「あいよー」
* * * * *
空が黄昏て来たので、街道から外れて広い場所に陣取る。
今回からはクーも成長したこともあり、
もう一つの魔法で全員がゆっくり出来るようにした。
『《セーフティフィールド》』
詠唱に反応してその場の次元が反転する。
以前は高さ1m、横幅2m、奥行2mだったが、
カティナの時空魔法講座を受けて成長したクー。
高さ3m、横幅5m、奥行5mと倍以上の広さになっていた。
「範囲は俺とクーが調べて印を置くから、
テントを頼んでいいか?」
「わかりました」
『おおきいのでいいんだよね~?』
前回は男女で別れて2つ用意していたテントは、
この空間の広さでははみ出てしまい、
旅人や魔物に見つかってもめんどくさいという結論になった。
結果的に大きいテントを新規購入して対応することにした。
「本当は別々がいいですけど、
クーちゃん任せで私達だけが寝るのも問題ですからね」
とか言いながらテント選びをしていたアルシェを思い出す。
クーのことも大事にしてくれて感謝だな。
アルシェとアクアがテントを組み立てている間に、
メリーが食事の支度をテキパキと行う。
「そういえば、乗り心地はどうだった?」
「縦の揺れはありませんし、常に安定はしていましたね」
「人を何人か乗せることも出来そうかな?」
「出来るとは思いますが、横揺れを止めてもらわないと・・・」
それは竜として止められない動作だから。
気を付けていないといつの間にかユラユラしちゃうんだよ。
* * * * *
「このスピードなら1週間掛からずに行けそうだな」
「精霊纏いはすごいですね。
魔法さえ使わなければ1日中持つとは思いませんでした」
「それは同じ意見だな。
コンセプトが浮遊精霊の精霊の鎧だったから、
必要魔力は無いに等しいし、
飛行も身体能力の一部扱いだったから魔力は必要ないし。
あとはアクアの疲れ次第かな」
ご飯を食べ終えたアクアは早々に眠り始めてしまった。
魔力の使いすぎでの疲れではなく、
体力的な疲れみたいだ。
つまり、俺は楽だがアクアには負担が掛かっているという事だ。
もう少し使い勝手や精霊達へのフィードバックを研究しないとな。
「歯磨きをしたら私達は寝ようと思いますが」
「俺とクーは調整をしてから寝るよ。
アクアはそっちで預かっておいてくれ」
「わかりました、お気を付けて。
それから、おやすみなさい」
「おやすみなさいませ」
「あぁ、2人ともおやすみ」
『おやすみなさい』
さぁ、精霊纏い夜の部の開催だ!
いつもお読みいただきありがとうございます




