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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第15章 -2ndW_アルダーゼの世界-

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†第15章† -02話-[ヴリドエンデ帝国軍の戦力調査②]

評価ポイントに影響はありませんが、面白いと思った話には[いいね]を残してもらえると参考になり助かります^^

~Side Arcanche~


お兄さんが勇者様に連れられて城を出て行った。

お兄さんが居なくなった以上責任者は私一人となってしまうので窓口として城に留まるしかないのは少し辛い。クランの皆が頑張って鍛えている間、私はお茶を飲み菓子を食べるしか出来ないのだからなんとも歯痒い時間になるだろうと考えて多少憂鬱な気分になる。傍に居るのは侍女のメリー=アルカトラズ=ソルヴァ、同じく侍女のリッカ=ニカイドウ。護衛にマリエル=テンペスト=ライテウスとそれぞれの精霊達。アクアちゃんは趣味の魔法開発で時間を潰しそのサポートをクーちゃんが行い、フラム君は姉の真似をして何か魔法の開発、マリエルとメリーとリッカは黙って傍に控える為誰も相手にしてくれなくて正直暇を持て余している。


旅に出る前なら喜んで読書に勤しんだりしていたのにどうにも身体を動かしていないと落ち着かないのは何故だろう。

ヴリドエンデ国王のドラウンド陛下と臣下が優秀でも検討には時間が掛かると予想は簡単に出来る。およそ二日は暇だろう。逆にアスペラルダは私達に任せる事が多いので即断即決に近い判断をしてくれる。そういえば王女として城に詰めている間に鍛錬場に顔を出すことは殆ど無かったなぁ……。お兄さんを切っ掛けに少し気にし始めたくらいだし他国の鍛錬場は少し気になるかしら……。


「メリー鍛錬場に向かいます。許可と案内を手配して頂戴」

「かしこまりました、アルシェ様。すぐ手配をして参ります。リッカ、クーデルカ、この場は貴女に任せます」

「は、はい!かしこまりました!」

『お任せください侍女長。お姉さま、侍女業務に戻りますね』

『うんう、頑張ってね~』


侍女業務といっても客室での仕事なんてお茶を追加する程度しかない。

メリーが退室してからクーデルカちゃんは低い身長を補う様に影から伸びる閻手(えんじゅ)の掌に乗って私の背後に控えてくれる。しばらく待てば数人の足音が部屋の前にやってきた。


コンコン。

「第一王子アルカイドです。入室してもよろしいでしょうか?」

「どうぞお入りください」


扉を開いて入室してきた人物は三名。

メリーに加えてアルカイド王太子殿下と先の謁見の間にも控えていた上級兵士の一人だ。案内役は一般兵士でも構わないと思っていたけれどまさか王太子と上官が来るとは……。


「侍女殿から話を伺いました。鍛錬場に顔を出したいそうですね」

「はい。この1年のほとんどは旅をしておりましたのでジッとしているよりは時間つぶしに身体を動かしておきたいと思いまして。無理なご相談とは存じておりますがこの国の兵士の練度なども魔神族対応に際して確認したかったのです」

「陛下からは許可をいただけておりますが、正直困惑はしております……。()()()()を希望されたいのでしょうか?」

「軽い打ち合いと強者との打ち合いも希望したいです。本来は精霊と共に戦うのですが地力も伸ばしたいので色んな方と戦って経験を積みたいと考えております。時間が許すならばマリエルにもお願いいたします」


私の希望は王女や貴族女性としては異端だろう。

そもそも性別上体躯に優れる男性に有利な戦闘職である兵士に女性は少ない。アスペラルダは女性にも門戸を開いているので副将に女性を据えたりしているけれど、ヴリドエンデには女性兵士の存在は見受けられなかった。特段蔑視しているわけではなく彼らの常識に女性が戦うという認識が存在しないのだ。女性冒険者は居ても高見までは登れないと考えているくらい女性の戦闘力を軽く見ているのは必然だ。


「それは素晴らしい考え方です。希望であるならば叶えることは吝かではありませんがもし怪我を負ったとしても当方に責が及ばないとお約束いただけますか?」

「もちろんです。怪我を負う予定もなければ負けるつもりもありませんもの。逆に怪我をさせてしまったり精神的にダメージを受けても私やアスペラルダに責を要求しないでいただけますか?」

「そのような恥知らずな事は出来ませんよ。それでは移動の前に彼を紹介させてください、私の護衛騎士でカリガッソです」

「カリガッソ=アデールと申します。殿下の武勇伝は我が国にも届いておりますのでお会い出来て光栄です。以後お見知りおきを」


近衛騎士の方でしたか。

王太子が城の中を歩き回るにしても本来は1名だけという事は無いはずですが、女性である私を侮っての采配なのか判断に困りますね。特にこちらを見張る様な気配もありませんしあまり気にしても仕方なさそうです。


「カリガッソ殿ですね。貴方とも打ち合える事を楽しみに致しますね」

「さっそく移動しましょう。ご案内いたしますよアルカンシェ様」

「よろしくお願いいたします。アクアちゃんとフラム君、行きますよ」

『ん! あ~い♪』

『わかった』


床に座り込んで指でラクガキする様に何かを描いていたアクアちゃんを呼ぶとすぐに龍玉(りゅうぎょく)を出現させて搭乗した。

スィーっと私の横に来たのを確認してからアルカイド王太子にアイコンタクトで準備完了と合図を送ると精霊に興味深げな視線を自制して無理やり引き剥がしつつ先頭を切って廊下を歩き始めた。彼と私の間にカリガッソ殿が壁となり、私の後ろにはメリーとクーちゃんが付いてくる。遠くから聞こえていた鍛錬をする兵士の掛け声や剣戟音が徐々に大きくなっていく中、私達は廊下を進み階下へと降りさらに廊下を歩き続ければ真正面の出口から掛け声はより大きく聞こえてくる。


「こちらが我が国が誇る鍛錬場です。今日は都合良くカリガッソの父君が将軍をしている第三帝国軍なので私が話を通せば参加に問題はありません」

「我儘を言ってしまい申し訳ありませんが重ねてよろしくお願いいたします」


無理を通していますと言われた気がしますけれど、どこまで()()()()()()判断材料は欲しいのでここで退く気は一切ありません。感謝と遠慮なく頼らせていただく旨を伝えると困った眉毛をした王太子殿下は鍛錬場へ招き入れてくださったので甘えさせていただく。兵士達は王太子が入って来た事に気付き、その手を止めて敬礼で出迎える。その中でもひと際立派な鎧を纏った人物が王太子の前へ進み出て改めて敬礼で出迎えた。


「アルカイド王太子殿下!お待ちしておりました!本当に……王女殿下をお連れになられたのですね……」

「知らせを向かわせておいて諦めさせようとするなんて悪い方ですね。殿下」

「他国の姫君に怪我をさせない様に細心の心遣いをしたつもりだったのですが、アルカンシェ殿下は想像よりも強情でした」

「まぁ!無駄な心配をさせてしまって本当に申し訳ありません。この借りは模擬戦で払拭するしかありませんね、ふふふ」


片や紳士的に女性を切った張ったの世界から遠ざけようとする王太子。

根底にはアルカンシェの武勇は誇張されて伝わったものでありその多くは護衛隊と称される近衛が成した武勇に尾ひれが付いた程度と考えている為である。片やどこ吹く風といった様相で嬉々として模擬戦を希望する王女殿下。根底には仲間との魔神族を想定した苛烈な訓練が武力に秀でた火の国と言えど負けるとは思えない自信、そして間もなく来たる魔神族戦で使えるかどうかの判断がしたいだけ。

互いが相手を侮った戦いだが、互いに貶めたいわけでは無い戦いが今始まろうとしていた。


「申し遅れました、私はヴリドエンデ帝国第三帝国軍軍団長のファフスター=アデールと申します。見目麗しいアスペラルダの美姫のご挨拶出来て光栄です」

「アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダです。鍛錬場に来たのだからお堅い挨拶はそこそこにして軽い打ち合いから始めましょうか」

「いや、強さはともかく身分的に他国の姫君であらせられるアルカンシェ様のお相手は私しか勤まらない。心得はあるそうなので訓練用の剣を用意してくれ。アルカンシェ様は本来の得物があるならばそちらを使われてくださって構いませんよ?」

「本来の得物? それは……鍛冶師が打った市販品のアイアンソードをアルカイド様が用いるならば難しいかと……」


アルカイド様が指示して兵士が持って来た武器はアイアンソード。

使い潰しの出来る訓練用の武器としては一般的ですが、本来の得物を使うとなると流石に武器の格が違い過ぎてまともに打ち合う事は出来ない。言葉を濁している間にアイアンソードを数振りして握りを確かめたアルカイド様は私の言葉の最後だけを拾ったのか困惑顔で私を見つめてくる。


「難しい、とはどういう意味ですか?」

「そうですね。理由をお見せいたしますので武器を構えてお待ちください」

「???」

「起きなさい、グラキエスハイリア!」


質問されたアルカイド様から離れ程よい距離を開き振り返る。

私は武器を()()()為に左太腿の辺りをパンッと叩くと文字通り叩き起こされた武器がスカートから飛び出し、連結された3つの部品は私の周りを飛び回りながら一本の武器へとその姿を変えた。お兄さんのカレイドハイリアは象牙色の本体に虹色のラインが入った装飾だけれど、グラキエスハイリアは水氷属性のみで作成されているので白縹(しろはなだ)色の本体に青と水色のグラデーションを持ったラインが入っている。

浮き上がった一本の槍を握り込み構えると見慣れない武器の出現に驚いた兵士の面々はハッと意識を引き締め直しアルカイド様も驚きつつも武器は構えたまま待ってくださっている。


「それでは武器に打ち込みますからそのまま飛ばされない様にしっかり握っておいてください!」

「りょ、了解した!いつでも構わない!」

「行きますっ!」


十分に離れた位置から足に力を入れて駆け出すと一息に槍の届く範囲に鉄剣が入った。

基本は突いているけれど今回は目的が違うので最後の踏み込みで軽く回転しながら飛び、遠心力を含めて槍を振り抜くと——ッィインという音だけが響いて少しの間の後に——カラァァァンカランと鉄剣の先端が地面に転がった。アルカイド様も護衛も兵士の方々も驚きの表情で斬り裂かれ宙を飛び転がった剣先を視線で追っていき、最後に槍を振り切った私の姿を見て改めて瞳が大きく開く。


「あの……、使い古しではなく新品を持って来てもらったんですけど……」

「私達の武器は希少度が伝説級(レジェンダリー)ですし要求ステータスも最上級ですからそもそもの出来が違うのです。物によっては精巧級(エラボレイト)でも斬り飛ばしてしまうので基本的にこの子を使用する場合は身内しか打ち合えませんの」

「そう…なんですね……、へぇ……。それでは同じ希少度のアイアンスピアを用意させていただきますね……。ファフスターとカリガッソは少し来てくれ……」


武器の回収に来た兵士へ私の武器と代わりのアイアンソードの手配を指示したアルカイド様は一旦軍団長と近衛騎士の親子を鍛錬場の隅へと連れて行ってしまった。役目は終えたとばかりに自身を三つに折ったグラキエスハイリアは私のスカートに潜り込んで早く留め具を閉めてくれとばかりに太腿に当たって来るので固定してあげた。代わりの槍が来るまでの間にアルカイド様と二名は円陣を組んで何かを話していらっしゃる。



 * * * * *

「アルカンシェ様の武勇伝は本当の事ばかりなのでは無いか?」

「技のキレは私ですら追うのがやっとでしたね……。おそらく誇張はほとんど無い事実なのでは無いかと思われます」

「ファフスター。カリガッソが辛うじて追える速度の槍の使い手に私は相手になるのか?」

「軽く打ち合う程度ならば問題は無いでしょう。本気の打ち合いは我ら兵士にお任せくだされば何とか耐えてみせますとも。ただ、アルカンシェ王女殿下の武勇伝の大半は魔法使いとしてのものばかりですのでどれだけ槍が強くとも本気ではないと認識を改めておくべきです」


アルカイドは王太子になる以前から剣の訓練を行いダンジョンにも潜り実践も経験した上で大得意とまでは言わないまでもそれなりに自信を持って剣の訓練に明け暮れていた。確かに王太子になる事が決まってからは勉学により力を入れ、武に関しては弟のラッセルに任せていた為訓練は現状維持程度しか行えていなかった。だが、それにしてもだ。

先の横払いの一閃は光ったと認識した次の瞬間には少し離れたところに剣先が落ちるシーンだった。距離の詰め方がエグイ。振りが見えない。それだけで場数も強さも何もかもが段違いであると理解させられた。たかが王女殿下のお遊びと舐めて掛かったが故だけでは無い驚愕があの一撃によってアルカイドから余裕を失くさせたのだ。

自分より強いカリガッソ、ファフスターの両名からもはっきりでは無くとも役不足であると告げられた。


「私の護衛であるカリガッソは私より強いよな? では、あの姫君の護衛はどこまで強いのだ?」

「想像に及びませんよ。先ほどの技量を見て私は謁見の間で聞いた話の信憑性が増したと思いました」

「あれほどの強さを得なければ戦えない相手だと!? 我らの国を我らの手で守る事も出来ないかもしれない。そういう事か!?」

「カリガッソの話を私は知り得ませんが通常は護衛の方が強い事は確かでしょう。ですがあの強さならば例外的に護衛は飾りの可能性があるのではと考えました」


アルカイドやカリガッソ、ファフスターが見た光景はそれだけ素晴らしい一閃だった。

おぉ素晴らしいと声も出ない。だが、真似出来るとも思わない。ただただ高い技術で振るわれた一撃と斬り裂かれた剣先を見た誰もが痺れ心を震わせ、不敬にならぬ様噛み締めて笑うしかなかった。故に彼らが警戒する魔神族の話も危険度も本当だろうと話を聞いた自分とカリガッソは考えを改め護衛の少女もあの強さに準じるか飾りかどちらかだと口にする。今から行われる打ち合いや模擬戦で我が国の精鋭とアルカンシェ王女殿下一行との戦力差を知るのが怖い。加えて数日後に待ち受ける霹靂(へきれき)のナユタとの戦闘風景とやらも想像を絶する内容だろうと考えるだけで我が国の行く末が怖くて仕方がなかった。


「アルカイド王太子殿下。ひとまずここを乗り越えましょう」

「我らも共に当たりますので一緒にこの難局に挑みましょう。陛下への報告もあります。しっかりと見極めてくだされ」

「それもそうだな……ここまで来て中止は出来ないな……。王太子としても評価に響くかな?」

「「それはございません」」


現状の理不尽さに諦め暗くなった瞳で覚悟を決めたアルカイドの言葉に二人はすぐさま否定した。

これまでの頑張りや功績を国王だけではなく城で働く者はもちろん国民も知って応援されたからこそ王太子として指名されたのだ。たかが他国の姫君が鍛錬場で大暴れして王太子が手も足も出なかったからと言って言い触らしたり貶める者は存在しないと二人は断じた。

たった一言の否定。だが、信頼する臣下の言葉にアルカイドは気を持ち直し、改めてアルカンシェの前へと進み出るのであった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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