†第14章† -12話-[ぬん!虱プレス(物理)!]
あけましておめでとうございます‼今年もよろしくお願いします‼
翌日、昼食を城下町の食堂で食べた後に水無月さんはやって来た。
男部屋の方が大部屋なのでそちらにゲートを通してもらってから来る事になっていたのでベッドに腰かけて待っていると、背に描かれた鳥居のマークが光始めたのを確認してから部屋の中央へと移動する。間もなく鳥居マークは剥がれて大きく広がっていくと中心部が歪んで無効とこちらが無事に繋がった。
「うわ、アッツイなぁ……。火の国には水の月に伺う事にしようか、アルシェ」
「ふふふ。アスペラルダに比べると暑いのは確かですね、お兄さん」
まず登場したのは水無月さんとアルカンシェ王女殿下。
久し振りに拝謁するアルカンシェ様はまた美しくなったと思った。なんかキラキラと周囲が輝いてすらいる……。
「わー、ここが火の国ぃー? スンスン……嗅いだことの無い匂い……」
「うわぁ~。こんなに気温が違うんだぁ、気温差ですぐバテそう……」
続いて猪獅子タルテューフォちゃんとマリエルさんがこちらに出て来ながらそれぞれが感想を口にした。その背後には水無月さん達と行動を共にするPTが控えていることから彼らもこちらに移動するつもりなのかもしれない。そうなると部屋が流石の大部屋でも入りきらないんだけど……。
「すまんな、どうせなら休日にして王都で好きに過ごそうって事になってな。じゃあ皆、行ってらっしゃい」
「「「「「「「お邪魔しましたー」」」」」」」
ゲートから入室してはドアから退室していく男女男男女男女達を見送り、マリエルさんも出て行って残ったのは水無月さんと王女殿下とタルテューフォちゃんの3名だけで全員観光に行ってしまった。正確には水無月さんの周りに精霊達もいるけど……。なんか……また上手い事利用されて無いか、俺。
気を取り直してタルテューフォちゃんの協力内容と許可証をお二方に説明して書類の確認もしてもらった。
「これ作成したのって宰相?」
「指示は陛下でしたけど宰相の指揮で作成していましたよ」
「これなら大丈夫ですね。タルちゃんもノイちゃんも抵抗で怪我させても問題なさそうです」
「まぁ、いざとなれば俺達も2~3日は王都に居るし多少の問題はなんとでもなるだろう」
俺達も王都の対応に乗り出すし彼らは観光に行くらしいので大通りまで見送る事となった。
「タル、しっかり働けよ。今日の分のご褒美は何かやるからな」
「わかったのだ!タルにお任せだよ!」
「ノイも、悪いけど制御を頼むな。埋め合わせは何でもするから」
『仕方ない事ですけどね……。今回は飲んであげるです』
ノイティミルちゃんとタルテューフォちゃんにそれぞれが声を掛け頭を撫で、水無月さんは頬やオデコにキスをして彼女たちとの別れを惜しみつつ俺達に身を委ねて城下町へと腕を組んで消えて行った。出来る限り本日中に王都の中に潜むシャドウラーカーを暴くのはもちろんの事、時間があれば魔法で村々を訪問して掃除も進めたい。
本日解決出来なければ一度水無月さんに返して、翌日また連れて来てもらう予定にもなっているので早めに決着を付けないと彼女たちが可哀そうだ。特に土精のノイティミルちゃん。
「やっぱり、水無月さんはこっちの世界の人なんだなぁ……」
「「え?」」
付き合っている様にしか見えないアルカンシェ王女殿下と水無月さんの後ろ姿を見送る際に俺の口からこぼれた言葉にミリエステとマクラインの二人が反応を示した。
「だってさ、物語の中では姫様と好き合う話が多かったけど、実際に異世界に来た俺は特別中の深まった女性とか惚れられた事とか無いもん。王女と腕を組んでるならこの世界で生き続ける意思を持っているってことだよね……。立場も護衛隊長なら常に一緒にいるし戦闘でも格好いいところを見て貰えるし……」
「それは……」
「ユ、ユレイアルドに長く滞在していたけれど、俺も仲の深まった女性は居なかった……ぞ?」
「あ、ごめん。特に深い意味は無いんだ。少し羨ましいとは思ったけど俺は魔王を倒したら元の世界に戻るんだから王族と仲良くなっても最終的にお互いに良い事は無いってわかってるよ?」
ミリエステとマクラインは口を噤んだ。彼ら二人は水無月宗八が異世界人と知っている。
未だに彼も勇者メリオと同類なのだと伝えられていない状況であんな姿を見せる宗八の考えもわからないし、寂しそうな表情を浮かべて誤魔化すメリオにもどんな言葉を掛ければいいのかわからなかった。
なんとか励まそうと声を出したマクラインにも笑みを浮かべながら何でもないと重ねて口にするメリオをクライヴさんも見つめるだけで声を掛けられない。
メリオ自身もまだ若く19歳。いや、召喚されて1年が過ぎたので20歳を超えている為恋愛にも興味は尽きない年頃だ。
これから魔王討伐までどれだけ時間が掛かるかもわからない。そのうえで恋愛をした場合、残される側も残して帰る側もどちらも辛い事になるのはよくわかっているらしい。
それでも仲良くなれる娘が現れて、ちゃんと話し合いをして納得の上で愛を育むなら仲間として全員が勇者を応援する気持ちを持っていたので大人な言葉で誤魔化したメリオには何とも言えない想いが込み上げる。
『勘違いは困るです。あそこにいるのは宗八とアルシェという名の町人です』
「え? でも……」
『そういう事になっているですよ。婚約が決まるまでは自由恋愛をお爺様も推奨していたですし』
「ねぇっ!もぉい~い!? タルの仕事早く始めようよぉ~!」
子供姿の土精、ノイティミルちゃんが気になる事を言い始めたので詳しく聞き出そうとしたところでタルテューフォちゃんが苛立たし気に声を荒げてノイティミルちゃんに言い募ったのでこの場での会話はなし崩し的に終了となった。どうやらタルテューフォちゃんは認めた相手以外は興味が無い様で専ら移動先や説明はノイティミルちゃんを通じて出なければ話が出来ない程だった……。
「ん~~~~~~~っ! あっちから人間じゃない臭いと気配がする……気がする」
『気がするとは何です?』
「気配がすっごく薄い? う~ん……でも変な気配もするぅ~!何だろう?」
『変な気配ですか……。勇者たちはシャドウラーカーに直接会ったのですよね? 変な気配の心当たりはあるです?』
タルテューフォちゃんの側で取っ手の無い光る小盾に乗って浮かぶノイティミルちゃんの会話を盗み聞いている様な居心地の悪さを持ちつつ指差す方向を見渡しているとノイティミルちゃんから質問が飛んで来て少し慌てる。
「え、あ、えっと……。もしかしたらだけど、疑似餌に反応してるのかな?」
『地表に出ている人間の姿に似せた造りの囮ですね……。タル、視界にギリギリ入るところから観察するですよ』
「了解なのだぁ!」
『勇者たちは少し離れて付いて来てもらえるです? 一度掴めば以降は一緒に行動するですから』
「分かったよ。今回は任せるね」
それだけ言い残して二人は小さな身体を使って人垣をスイスイと抜けて行く。
その後を追うのは大人5人と土精ファレーノなので二人の様には人垣を越えられず距離は一気に開いてしまう。それでも懸命に後を追った結果、なんとか撒かれる前に彼女たちの足が止まった瞬間を確認することが出来た。ギリギリ視界内で彼女たちだと判断出来る距離だったのでもう少し前進してから様子を伺う事にした。
最初は道の真ん中で観察し始めたタルテューフォちゃんだったけれど、すぐにノイティミルちゃんが声を掛けて建物に凭れる事で自然体に擬態して観察を続けている。
観察を始めた二人だったが然程時間も掛けずに歩き始めたので俺達も後を追う。
彼女たちが向かう先の人波に俺達も目を凝らすがどれがシャドウラーカーなのか全く判別がつかない。
「エクスやファレーノでも判断って出来ない?」
『相手が闇属性の魔物なら感知出来ますが違う様なのでわからないですね』
『私もこれだけ人が多いとわからないわ』
「影と名前が付いていても闇属性の魔物では無いのね……」
影を扱う=闇精という印象が付いてしまっている俺達の脳内には水無月さん家の次女で侍女が浮かんでいる。
影に潜む、というよりは影に擬態している魔物ってことなのだろうか?
やがて、先行する二人が駆け出したので俺達も後を追うと遥か前方でまるで二人から逃げているかのように全力疾走している人が見えた。もしかしたら監視しているのを察知されて逃げ出したのかもしれない。
「よっ! ——ぬん!」
タルテューフォちゃんが地面を割りながら軽く飛び上がり敵と思われる人物に背後から強襲を仕掛けた。
肉体の方を潰さない様に上から抑え込み影の方は足で踏み抜いて地面に足が埋まっている。周囲に人々がいるもののここは既に人通りの少ない裏道であと少しのところに外壁の広い影が広がるエリアがあった。どうやらその広い影の中に逃げ込んでやり過ごそうと考えた様だ。
二人に追いつくと魔物と思われる人物は地面に押さえつけられお腹に穴が空いている事などお構いなしに肉体を変化させて鋭い爪でタルテューフォちゃんを滅多裂きにして抵抗している。当のタルテューフォちゃんは一顧だにしていない。
「これはどういう状況なのかな?」
『タルの殺気に気付いた魔物が広い影に逃げようとしたから捕まえたです。影に攻撃をしたら肉体にもダメージが入るみたいですけど、どういう原理です?』
「儂らが仕留めた肉体は輪切りにしても血を出しておらなんだ。いま腹の穴から黒い液体が流れている所からみてもダメージを負わせれば疑似餌にも影響が出るようですな」
『……タル、首を折るです』
「ぬん!」
ノイティミルちゃんの指示に従って簡単にベキッ!という音と共に押さえつけていた首を折ったタルテューフォちゃん。
だが多少抵抗していた体は依然として抵抗しているし折られて変な方向に曲がった首は今でもタルテューフォちゃんを睨み口をパクパクしている。これは確定だろう。エクスが言っていた魔物で間違いはない。本体は影で肉体は疑似餌であり武器であり防具なのだろう。
首を折っても痛がる様子はないし血も出ないのにタルテューフォちゃんが踏み抜いている足をグリグリ動かすと苦しみ痛がるのだ。
『タル、覚えたです?』
「大丈夫だよ!」
『じゃあ、止めを刺すです。テイマーがいるなら念話が出来る可能性が高いですからね。さっさと王都の中の魔物を討伐して回るです』
「了~解!えい!」
踏み抜いていた足を抜き先ほどよりも勢い良く踏みつけた一撃が止めとなりシャドウラーカーは液体へと変わり、魔石を残してその生命活動を終えた。
「何が分かったのか教えてもらえるかい?」
『この魔物の正体はスライムです」
「こいつがスライムだとっ!?」
『こちらのスライムとは完全に別物になっているのは魔力濃度の高い魔族領で育ったから亜種へと進化したと考えるです』
皆が驚いている中でも冒険者として色んな魔物と戦った経験のあるクライヴさんが一番驚きの声を上げている。
ノイティミルちゃんの説明を聞けば確かに…と思える情報があった。通常のスライムは核と呼ばれるアイテムを落とす。しかし、実際には魔石の類であることは調べが付いているので倒した後に魔石と液体が残るというのは納得がいく。また、こちらのスライムは物理攻撃でいくら攻撃しても核を壊さない限り死ぬことはないのに対し、疑似餌という物理が効く部分を得てしまった代わりに物理無効の力を失ってしまったのではとの推測も続けて教えてくれた。
『では、このまま王都を巡るです。怪しい奴がいたらテイマーの可能性もあるですから警戒はしておいて欲しいです』
「あぁ、その程度なら任せてくれ!」
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