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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第14章 -勇者side火の国ヴリドエンデ編-
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†第14章† -10.5話-[一方その頃。|水無月《みなづき》編③]

評価いただきありがとうございます!

2~3日前には20℃とかだったのに、いきなり4℃とか身体おかしくなるわ!

 初夏も過ぎてそろそろあの計画を進めなければならない。

 この世界の鍛冶師は正直言って腕が悪い。武器のレアリティも生産出来るのは普通(ノーマル)までで時折優良(ファイン)が生産出来る程度。修理なんて持っての外。だから低ランクの冒険者は店売品やダンジョンで入手した普通(ノーマル)武器や防具を普段使いして優良(ファイン)以上はボス戦でのみ装備変更する貧乏な運用をしている。可哀そう……。

 高ランク冒険者になればステータスでゴリ押し出来るので周回して複数入手したりすぐ次のダンジョンに行って新たなレア装備を手に入れる事も可能だ。使い潰す前提の運用も可能になるが結局お気に入り装備は修理が出来ないのでインベントリの中で眠らせる事となてしまっている。こっちはまだマシだな。


 俺が発案したあの計画とは、腕が悪いアスペラルダの鍛冶師を夏の間の期間限定で研修させるという計画だ。

 鍛冶師の親方たちはアスペラルダ国王のギュンター陛下の命令で不承不承で不機嫌であろうとも参加を強制してもらい、講師としてはユレイアルド神聖教国の大教会で鍛冶師をしているリッカ=ニカイドウの父親であるマサオミ=ニカイドウ氏をアスペラルダに招致する事で合意を得ている。代わりに暑いので夏の間、奥さんとの避暑を希望した家族思いな一面からこの計画は実行に移されたのだ。


「というわけで受け入れ準備が整ったので報告に来ましたよ」

「わざわざ水無月(みなづき)殿が来ることはないんじゃないか? アンタ大将をやってんだろ?」


 今では勝手知ったるユレイアルド神聖教国の大教会を我が物顔で通過して奥まった鍛冶場に到着して早々にマサオミ氏から怪訝な顔をされてしまった。忙しいのは事実だが約束を反故にするわけにも行かないしアスペラルダの鍛冶師を鍛える機会は一応国を挙げての政策の一環だから手は抜けないのだ。


「まぁ話を持ち寄った責任者ですからね。気温も上がって来てますしマサオミ氏と奥方の準備が整い次第アスペラルダへお連れしますよ」

「いつ話が来ても良いように旅支度は整えてある。ルビディナもそのつもりだから休暇届を出して鍛冶場を片付ければ直ぐにでも行けるぞ。急げば明日には動ける」

「なら改めて明日伺いますね。今日のところはこれで失礼します」


 話しが早くて助かる。今日は定休日と称して休みを貰っている日なのでのんびりと今後を考えたりしながら魔力制御の訓練でも普段は行うのだが、今日はラフィートからお願いを受けているのでこの後フォレストトーレに行かなければならない。

 俺は足早に踵を返して立ち去ろうとした矢先に背後からマサオミ氏の声が届く。


「あ、キンツバあるけど食っていくか?」

「いただきます!」


 踵を再び返してマサオミ氏の背中を追って邸宅にお邪魔する。

 在宅だった配偶者のルビディナさんにマサオミ氏が声を掛けお茶と茶菓子を出すように伝えると家の奥から返事が聞こえたのを確認してマサオミ氏は鍛冶場へと帰って行った。


「あらあら、いらっしゃい隊長さん。例の件で来たのかしら?」

「はい。明日には出発できるとマサオミ氏から聞いているのですが大丈夫ですか?」

「もちろん大丈夫ですわ。娘に会う機会も楽しみにしています。さあさ、居間へどうぞ」

「お邪魔します」


 相変わらずの楚々とした立ち居振る舞いに感動しつつ案内された居間に行くと以前あったこたつは分解されてテーブルだけになっていた。傍には井草のクッションが積まれていたので遠慮なく拝借して胡坐をかく。


「アニマ、出ておいで。皆には内緒で美味しいもの食べよう」

『お父様は仕方のない人ですね。そこまで言うなら一緒に食べて差し上げます』


 相変わらずのツンデレだけど美味しいものに釣られて素直に出て来てくれるのだから可愛いものだ。

 茶菓子とお茶を分け合ってアニマとのスキンシップをパパ取っちゃうぞぉ!

 アニマと話しながら待っているとトストストスと微かな足音が近づいて来た。


「失礼しますね。お茶菓子と粗茶ですが……よろしければどうぞ」

「ありがとうございます。ありゃ? 子供の分も用意してくださったのですか?」


 ルビディナさんがテーブルに出したのは二人分のキンツバとお茶。

 もちろん彼女の分かと思ったけれど明らかに俺達の前に二人分が給仕されている。何故に?


「楽しそうなお声が聞こえてきましたから茶菓子はまだありますしお子様にも、と思い出させていただきました」

「マジっすか!? いや、ホントすみません気を使わせて……。ありがとうございます」

「ふふふ、ごゆっくりどうぞ」


 そう言い残してルビディナさんは去って行った。クールだぜ。

 残ったのは目の前のキンツバとお茶が二セット。そして釘付けになっているアニマが可愛い。姉弟には内緒で食べるお菓子は背徳感と優越感で美味しさが数倍に跳ね上がると俺は実体験で学んだから知っている。アニマは今、興奮しているのだ。父の膝の上で!

 まぁキンツバを手づかみで食べさせるわけには行かないから小さく切ってからアニマに皿ごと差し出して食べさせる。


「どうだ? 美味しいか?」

『美味しいですね。上品な甘さが口の中に広がって……お父様、お茶』

「はいはい。熱かったら冷ますから言いな」

『ズズゥ……。ちょっと熱いですけどこのお菓子の甘さに合いますね』


 そうだろうそうだろう!


『お父様が食べたがった理由が分かります』


 そうだろうそうだろう‼

 まだ入手経路の調べも付いていないから今のところはここに来ないと食べることが出来ないのだ。アニマは常に俺と一緒に行動しているからと時折ふらりと立ち寄った食堂でも姉弟に内緒で何かを口にする機会は多い。食べ過ぎて夕食が入らないなんてことが無いようにアニマもセーブしながら背徳感に浸る。

 俺も久しぶりに口にするがやっぱりキンツバは最高やなって!



 * * * * *

 ところ変わって場所はフォレストトーレの新事業を立ち上げている新しいギガファーム予定地の近く。

 蜂のモンスターと話を付けて蜂蜜の定期的な納品と引き換えにモンスターや冒険者から守ったり花壇から採取できる蜜と花粉の提供で合意に至った事で[マザーワスプ][アーミーワスプ][アーマーワスプ]が街の住人に加わった。

 街は現在拡大と開拓を進めている最中でフォレストトーレ旧王都の再建も含めて色々と忙しくしているらしい。その王様であるラフィートからの依頼は以下の通り。

「貴様、魔物や動物に好かれるそうじゃないか。今度の休日にでも周辺の魔物がどこまで戻って来ているか調べるから協力してくれ」

 と言われたから旧王都が豆粒で見え、且つ新しいギガファームの近くで良さげな大樹の下に座り瞑想をする事にした。


 まず5分もしない内に現れたのはぴーとさん。メインクーンくらいデカくてルブルムキャットという魔物で次女クーデルカに懸想している1歳♂だ。街から駆けて来てそのまま俺の腰辺りで「にゃ~ん」とひと鳴きするとそのまま丸まって寝始めた。

 その後、トットットットッという聴きなれない足音が近づいて来た。そこまで体重は無さそうな魔物が目の前に来てスンスンと鼻を寄せて匂いを嗅ぐとコイツは遠慮なしに俺の膝に乗って丸まりやがった。横から「フカァー!」とぴーとさんが起こるのも無視して眠り始めた魔物の正体を薄目で確認するとセンザンコウに似た魔物だった。


 色んな魔物が居るんだなぁと再び瞑想に入ると次に姿を現したのは四足歩行の魔物。足音は二匹分で片方がとても軽いので親子で出て来たのかもしれない。傍に親が座ると子供は近くでパタパタと駆けまわって遊び始めたので再び薄目で確認すると鹿?だった。疑問形なのは植物と混ざっている様な見た目だったからで、耳が大きく葉っぱにしか見えないけどとても薄く開いているので辛うじて耳と分かった。身体は基本色が薄緑色で蔦が生え、その蔦に桃や赤の花がところどころで咲いている為だ。可愛いなぁ。

 その後も続々と高濃度瘴気から逃げてしまった森の魔物たちが姿を見せるようになる。それなりに旧王都付近までは戻っているなら後は時間の問題だろう。


 街にはラフィートが雇った[遠見]技能(スキル)を持っている冒険者が俺達の姿を覗いてはメモを走らせる。


「うわぁ……あれAランクのロッククラウドだろ……!? なんで敵対されて無ぇの!?」

「普通は人を発見次第魔法で岩を出して空から落としてくるのになぁ~」

「他の魔物も縄張り争いもしないで一緒になって眠りこけるとか何なの?」

「だって、彼ってさ。Sランクの猪獅子(ヤマノサチ)を手懐けたって噂よ? Aくらいなら余裕じゃないの?」


 中途半端な情報が冒険者には飛び交っており、Fランク冒険者水無月宗八(みなづきそうはち)の正体は未だに謎に包まれているのであった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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