†第14章† -09.5話-[一方その頃。|水無月《みなづき》編②]
ちょっと忙しくていつもより遅れました。すみません。
さらにひと月が経った。
虱潰しにアスペラルダのフィールドやダンジョンをクランメンバーで巡って討伐数を稼いだ事で討伐系の称号獲得は順調だ。おかげで全員のステータスアップは順調に進んでいる。
懸念していた生態系の環境破壊や素材の市場破壊は各町のギルドと相談の上で上手く回して今のところそういう混乱は起こっていない。ダンジョンは死体が残らないので狩り放題だけど、フィールドはどうしても絶対数があるし死体も残る。だから死体はある程度一か所にまとめておいて狩り終わったら俺が現地に飛んでゲートで町まで送るという作業を挟む必要が出た。
その他にも色々と動いてはいるけど、まずメンバーが減った。
ブルー・ドラゴンの補佐とお目付け役兼魔石生成役で付いて来ていたフロスト・ドラゴンが住処の島に帰って行った。必要な魔石は揃ったし最近はマジで寝てばかりで堕落する一方だった為、島に残る片割れのフロスト・ドラゴンに相談したところ「了承。フリューアネイシアも成長した様だ。常に守り手と共にあるなら不要だろう」との回答を頂いたので初夏でも吹雪いていた氷竜の島に戻すこととなった。
「「《シンクロ!》」」
俺の前では火精フラムとサブ契約した[リッカ=ニカイドウ]と光精ベルとサブ契約した[サーニャ=クルルクス]が模擬戦を始める所だ。
サーニャは本契約している光精ソルティも居るので光精二人体制だけど、まだ精霊使いとしての質が低いので二人同時にシンクロする事が出来ないからとりあえず今回はベルとシンクロしてもらっている。
「い、いいい「行きます!」」
広い訓練場をお借りして俺に向かってくる二人を迎え撃つ。
子供達の力を借りずにアナザー・ワンを二人相手にするなんて普通の奴なら失禁物だが俺には技能[精霊の呼吸]がある。吸う魔力濃度や量によってステータスが上がるだけだった。
しかし、精霊使いのジョブレベルが上がった事で効果が拡張されて[身体強化]の記述が追加された。そもそもの効果が身体強化に留まらず魔力も強化されるのに今更身体強化?って考えた結果、よくある異世界小説にある身体の強化を意味しているのではと思い付いた。
「瞳に集中っと……!」
瞳から高濃度の魔力光が漏れ出る中、迫る刃はそれぞれに動きを見せる。
勇者の[輝動]に似た移動魔法で一瞬で側面に現れたサーニャが振るう剣技はアナザー・ワンらしい強烈な一撃だ。しかし、精霊の呼吸で動体視力も上がった俺にはその素早い動きも余裕で避けられるし捌ける。
手にする[七精剣カレイドハイリア]で剣を合わせた瞬間に遠距離から剣閃が飛んでくる。魔力を含まないソレはリッカが使用する【戦技】だ。一応一閃も扱えるはずだけど本家に放っても効果は薄いと考えているのかもしれない。
縦振りの剣閃は片足を引いて半身になる事で軽く回避しサーニャの続く連撃はそのまま捌き続けてリッカの到着を待つ。
全てを捌かず鍔ぜる事も挟む度に衝撃波が発生して周囲の砂が何度も、何度も舞い上がる。
「おおお、お待たせしました!サーニャ先輩!」
「遅いですよリッカ!一人ではこの化け物を倒せないので早く援護しなさい!」
「ははは、はい!すみません!」
アナザー・ワンとして認められた自分の剣技が通用しないだけで人を化け物扱いするサーニャが先輩風邪を吹かせる中、リッカも追いついたのを確認してゆっくりと摺り足で回避を混ぜつつ移動を開始。完全に挟まれると流石に完全回避は無理だからな。
リッカはセプテマ氏よりも鋭さが劣化した高速剣を扱えるから注意が必要だ。足を止めた戦闘であればサーニャより断然リッカの方が厄介だからまだ改善されていない移動戦闘に付き合わせるとしよう。
「すげぇ……」
「あれって教国のアナザー・ワンだよな……二人相手に出来る奴なんて居るのかよ……」
ざわ…ざわ…と観客となっているアーグエングリン兵士一同が何やら口々にしているがこちとら地力を上げる為にギリギリで保させてる最中だっての!。ノックバックは発生しないけれど力負けしない程度に[精霊の呼吸]で調整する。
なんとか移動に付いて来つつ高速で振るわれるリッカの剣を正面から捌き、背後から振るわれるサーニャの重い一撃を時には回転斬りで弾き時には回避して往なす。
「流石にしぶと過ぎではありませんか?」
まだ5分程度しか経っていないのにサーニャがしぶといと褒めて来た。
サーニャもSランク冒険者に負けない膂力と体力を持っているのでこの連続で攻撃している状況でも息を切らせていないのは流石の一言だ。もちろんリッカも同様に息を切らせていないし移動しながらの戦闘も改善しつつある。それでもサーニャに比べれば軽い威力だが……。
「そろそろ終わろうか」
「では、最後にメイドノミヤゲを使用しても良いですか?」
「わわわ、私も一矢報いたいです!宜しいですか!?」
彼女たちが言う[メイドノミヤゲ]とはアナザー・ワン一人一人が所有する個別の必殺技の事を指す。
これは俺達が用いる魔力とは異なる[気力]と呼ばれる力を用いた攻撃。【戦技】とは技に応じて気力を消費して放つ攻撃の名称らしく、通常技は消耗を感じる事もない程度の消費に対して[メイドノミヤゲ]は多大な気力を消費する為連続使用は難しいと聞いている。俺もこの後行くところがあるし彼女たちの意思を汲むとしよう。
「いいけどさぁ~……」
「メイドノミヤゲ!【輝光ノ剣っ!】」
「め、メイドノミヤゲ!【龍宮炎舞っ!】」
彼女たちの判断は早かった。許可した直後に間髪入れずそれぞれが必殺技を口にしたのだ。
サーニャはそう来るだろうと予想していた俺だがリッカまでも続いて即発動するとは思っていなかっただけに冷や汗が漏れる。
サーニャの持つ剣は光属性の大剣[サンクトゥス]。元の輝きとは別種の輝きを放ったかと認識した瞬間にはサーニャの膂力の数倍の重みを持った一撃が俺の剣に叩き込まれていた。俺の身体は耐えても足は地面に沈み陥没も発生。それなりの範囲にヒビ割れも起こって周囲を囲っていた兵士達から又もや歓声があがる。
動体視力を上げていて尚追えなかった光速の一撃に耐えている横から強烈なプレッシャーが放たれる。こりゃアカン!
「《七剣開放!》」
重かったサーニャの一撃は受け切った。
サーニャも役割が終わり、続くリッカの邪魔にならぬ様にと直ぐに退いたことで俺もリッカに対し対応策を挟み込めた。
集中力が上がって目の前で赤い剣身をさらに紅蓮に染めたリッカの姿を捉えつつスローモーションにも思える時間の中でカレイドハイリアは七つに分かれた。途端に連続した剣と剣が打ち合う音が六回聞こえ、リッカの最後の一撃は手元に残った最後の一本で受け切った。
龍宮炎舞は炎を纏いながら舞う様に振るわれる連続剣だ。
付き合いもそれなりになってきたリッカも時折[メイドノミヤゲ]の情報を教えてくれていたからなんとか対処は出来たが、今回のタイミングは絶妙だった。なんとか受け切る事には成功したものの無属性の剣以外は全て俺の周囲に散らばって地面に刺さっている。
「……ふぅ~~~~」
二人のメイドノミヤゲまで受け切った事で今回の模擬戦は終わりを告げた。
リッカは溜め息を吐きながら剣を退きサーニャも不満顔で寄って来る。二人ともシンクロを解除して武装をインベントリに収納してから口を開いた。
「水無月様!メイドノミヤゲでもダメならどうすれば被弾するのですかっ!?」
「結構良い線だと思ったのですが……」
「う~ん、サーニャは今のところステータスも足りてないし必殺技しか怖くは無かったかな。実際結構危なかったけど[精霊の呼吸]の効果は二人相手でも最大には届かなかったな。リッカはかなり改善してるけどサーニャを気にして本気を出せなかったところは減点」
「「くっ……!」」
サーニャはレベルも100に足りていない上に長年聖女の側近をしていた事もあってちょっと腕が鈍っている様にも思う。リッカも俺達に慣れて来たとは言えまだまだ遠慮が見られるからその辺信頼が確立すれば本気で剣を振る事も出来るだろう。とりあえず二人ともシンクロまでは問題なく発動出来ていることからも順調に精霊使いとして成長しつつあることが伺えた。
あとの問題は猪獅子タルテューフォとノイの組だけだな……。
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