†第14章† -08.5話-[一方その頃。|水無月《みなづき》編①]
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元剣聖セプテマ=ティターン=テリマーズが勇者PTに合流した頃。
水無月宗八とアルカンシェ=シヴァ=アスペラルダが率いる一行は土の国アーグエングリンの王都を拠点に休暇を過ごしていた。休暇と言っても次に異世界への入り口が確認されるまで自身を強化する為の時間としてほとんどのメンバーは考えて、時にはゲートを超えてダンジョンを巡りモンスター討伐数で付与される称号でのステータス上昇を狙ったり、拳聖エゥグーリアを筆頭にアーグエングリン軍に手ほどきを受けたり施したり。
ステータスと戦闘技術の2面の向上を目的とした俺達の貪欲さにエゥグーリアは愉快そうに、アーグエングリン軍各員は若干引いている様子だ。
『水無月君。予定通りライナーに真なる加護を祝福しましたわよ』
「ありがとうございますセリア先生。それにしてもやっぱり驚きですね……。まさか先生が……」
アーグエングリンに身を寄せてから少ししてセリア先生が訪ねて来た。
随分と顔を見ていなかったのでアルシェなんて本当に嬉しそうに茶会を開こうと熱心に誘っていたほどだ。
そんなセリア先生は小柄な老婆と共に訪問して来たのだ。
——新たなる、風精王セリアティアとして。
「まぁそのおかげで一人遅れていたライナーに祝福をして貰えたんですけどね」
『仕方ありませんわ。私はすでにマリエル=ネシンフラに祝福をしたばかりだったのですもの』
「わかっております、テンペスト様。その節は感謝してもし切れません」
『本来ならば半年以上待たなければテンペスト様の真なる加護の祝福は行えませんもの。タイミング良く私に引き継げて良かったですわ』
セリアティア新風精王が連れて来た老婆。その正体はアニマが精霊王から退いた最古の時代より今の時代まで世代交代もせずに風精をまとめていた初代風精王テンペスト様。セリア先生が姿を消してアスペラルダの宮廷魔導士の職から辞していた理由は風精王の世代交代が理由だったそうだ。
今ここに居るセリア先生も本人ではなく分御霊であって、本人は精霊界というこの世界の別位相に存在する場所に隠遁しているらしい。シヴァ様もティターン様もサラマンダー様も本体はその世界からこちらの世界に干渉しているとセリア先生に教えられた。王しか入る事が出来ない狭い世界なのだと。
真なる加護は1年に一度しか祝福出来ない。
だから、フォレストトーレでの戦闘でテンペスト様はマリエルに祝福をくださった為にライナーの祝福が遅れていたのだ。水精王シヴァ様はアルシェが幼い時に祝福したっきりだったからフランザ=エフィメールに祝福出来たし、土精王ティターン様の祝福はうちの猪獅子タルテューフォと勇者PTマクラインのどちらを優先するか検討中。火精王サラマンダー様の祝福は勇者PTのミリエステで予約中で、闇精王アルカトラズ様はうちのメリー=ソルヴァの後に制限明けしてからゼノウ=エリウスに祝福いただいた。光精王ソレイユ様は制限期間中でなければサーニャ=クルルクスに祝福を検討中だ。
「テンペスト様はこれからどうされるご予定で?」
膝上に光精ベルトロープを、肩車で火精フラムキエを抱えたまま丁度良い大きさに調整されて寝転ぶ青竜フリューアネイシアに身を預ける俺の周りは新しい魔法開発の為に光が星屑の様に複数舞っている中、俺は老婆に今後の予定を伺った。
『アニマ様との再会も叶いましたからセリアに案内してもらい各名所を巡る旅でもと考えておりますわ』
『年々力も落ちて分御霊の数も制限していましたから近年の世界情勢には疎くなっていましたの。そろそろ寿命で世界に還りそうですから、その前に私が案内役を仰せつかりましたわ』
「そうですか……。幸多からん旅になる事を祈らせていただきます」
『ふふふ。ありがとうございますわ』
老婆テンペスト様は嬉しそうにクシャッと笑うと紅茶を口にする。
場所はアーグエングリン城に併設されている訓練場。その一角をお借りして色々と子供達と試していると何故か客人が訓練場まで足を運んでくる為、応接用に土精ノイティミルに岩で出来たテーブルとイスを用意してもらったのだ。
そのテンペスト様の左右にセリア先生とアニマが一緒になって紅茶を口にしている。
ほとんどのPTメンバーはステータスアップの為に各地のダンジョンやフィールドに分かれて魔物やモンスターを狩りまくっており、ステータスだけはトップクラスの猪獅子タルテューフォは精霊使いとして運用する為の訓練を続けている。新たにユレイアルド神聖教国から連れ出したサーニャ=クルルクスも同様に魔力制御を優先しながら時折アルシェに付いてステータス向上も目指している。
その後はしばらくアニマとの話に花が咲かせたテンペスト様とセリア先生は満足したのか俺達に別れを告げて去って行った。
元風精王テンペスト様と対面するのはこれで最初で最後になるだろう。精霊に寿命や老いがある事もテンペスト様のおかげである程度把握出来たのは大きい。子供達はまだまだ幼い。これから1000年近く生き続けるのなら姉弟が居る事は良い事だし、サブマスターの子孫が共に生きてくれるだろう。寂しい思いはせずに済みそうだ。
『パパ。魔法名はどうするのぉ?』
『イメージとしては超新星、だよね?』
ベルの甘えた声とは裏腹に起伏の薄い声音で同じく興味を示すフラム。
「夜間にまた光源が大量に必要になるかもしれないから開発した[スターダスト]。これを攻撃に転用するには火魔法が相性が良いからなぁ」
まだテスト段階なので出力を最小にした星屑を周囲にバラ撒き爆発させる。
小さい爆発ながらこちらまで熱風が届き、複数爆発の影響でその温度も馬鹿にならない。
『おぉおおおお!これは[スターダストノヴァ]で良いんじゃないぃ?どぉ?どぉ?』
『カッコイイ!』
「じゃあこれの魔法名は[スターダストノヴァ]で決めちゃおうか」
この魔法は複数体の敵を相手取る時や巨大な敵の全身を攻撃することを想定した火と光属性を組み合わせた複合魔法だ。
つまり個人では俺しか使えないし精霊ならベルとフラムが協力しないと使えない。こういう魔法をデチューンして火属性だけで使用出来る様に改造するのも俺の仕事だ。
精霊は自主的に新魔法を開発しないし技能[魔導拡張]を持つのは俺だけだから俺が間に入って複合魔法の開発を行う必要がある。あとは発動のトリガーの設定なども行えるのがこの技能の良い所。
好んで使用する風魔法[弦音]は声入力は不要で指パッチンで発動させている。これも簡単な魔法に限定されて魔方陣が必要な[氷剣流星群]などは想起させてから指パッチンが必要なので使い勝手も調整を続ける必要があったりする。
「火属性だけで作り直したらミリエステの精霊に伝えてやろうな」
『うん』
『光属性だけで発動出来ないのぉ?』
「光属性はそもそも攻撃向きの属性じゃないから攻撃する場合の多くは溜めが必要だし今回はパス」
えぇ~なんでぇ!フラムだけ狡いぃ~!と膝の上でゴロゴロしながら不満を垂れるベルは撫でて宥める。
その様子を甘えん坊め、とでも言いたげなジト目で高い視点からベルを眺めるフラム。しかし、ベルの所業を見ながら俺の頭を抱く力がギュッとなったのがまた可愛いところだ。
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