†第14章† -07話-[火の国王都ヴリドエンデ]
深堀り予定は無いので会話も軽くテンポ重視で進めております。
救世鎧リッチという強敵と相対してから約3カ月が過ぎた。
その間もアナスタシアさんの同僚の方々が現在地周辺の噂やダンジョンや迷宮の情報を俺達に周知してくれるのでその情報を元に調べれば村に近づく魔物の集団を発見したり、数日前から行方不明になっていた冒険者PTを助けることが出来たりと多めのイベントを消化してようやく王都ヴリドエンデへと辿り着いた。
途中でレベルが100に到達してこれ以上ステータスを伸ばせなくなりどうしようかと悩んだ事もあった。
ミリエステは言うには世界樹の苗木と呼ばれる低木から採取できる木の実がレベルキャップの限界を突破する為には必要らしい。その話をクライヴさんも知ってはいたが実物は見たことが無いとの事で今はどうしようもないと結論付けた。
——翌日。
朝からメイドさんが訪問してきて[可能性の実]という貴重な木の実を人数分渡して姿を消すという珍事が起きた。
どうやら水無月さん達が確保していて俺達の分を分けてくれた様だ。セプテマさんは知っていて知らない振りをしていたと後から教えてもらった。
まぁ、貴重も貴重な木の実だ。水無月さんやアルカンシェ王女殿下のご厚意とはいえ、もらえて当然みたいに考えられても困るという事なのだろう。本当は苦労する事実を認識した上で渡されれば感謝しないわけには行かない。
「あれが王都……!」
「他国の王都とはずいぶんと様相が違いますね。何と言うか……」
「要塞……だな」
小高い丘の上から見えた火の国の王都はミリエステとマクラインが続いた様に煌びやかな他国の王都では考えられないほどガチガチに守られた要塞然とした王都だった。魔族との小競り合いも多いと聞くし他4カ国が火の国に足りない物資を援助する代わりに魔族領からの侵略行為に対して一手に引き受けているのが火の国だ。そりゃ守りに重点を置いた街づくりにもなるというものだろう。
王都へ足を踏み入れた日に兵士が勇者到着の知らせを城へ届け、翌日の朝には宿屋に謁見を行うという知らせが俺達に届けられた。
そして。
「勇者プルメリオ様ご一行!入場!」
簡単には開かないのか、両開きの扉を兵士が一人ずつ配置されズズズ…とゆっくり開いていく。
守りを意識し過ぎて重すぎる扉を設置したのか毎日この作業を何度もしていると思われる兵士の身体はムキムキだ。
謁見の間を進み既定の場所で戦闘を行く俺が膝を着くと続いて入室したマクライン、ミリエステ、クライヴが膝を着いて首を垂れる。
セプテマさんは登城せず土精ファレーノと共に城下町の観光中だ。
「面を上げよ」
この国の礼儀では一度の許可で顔を上げてはならないらしい。
諜報メイドさんがもたらす情報は多岐に渡り至れり尽くせりに等しい。
「よい、面を上げよ。よく我が国へおいでくださった。勇者殿」
「ご拝謁叶いまして光栄です。ヴリドエンデ国王、ドラウグド=ユグノース陛下」
ユグノース。そう。この国は力を示せば王になる事も出来る国。
初代王家ヴリドエンデの思想や意思や国柄は受け継いでいるので何度も交代している王家とはいえ国名は初代国王の名を残しているそうだ。ユグノース王家で7代目になる。
王に成らんとする者が名乗りを上げなければ世襲でユグノース王家は存続するが名乗り出た場合は王家対名乗りを上げた者の一族で戦争を行い勝った一族が王家となる。どこまで行っても絶対至上武力主義なのだ。
傍に立つのはドラウグド様の長男で王太子のアルカイド様と宰相の2名のみで王座から離れた壁際には大臣や将軍の一部が控えている。
それにしても謁見の間にしては人員配置が少なすぎる。
「謁見を急いだのには理由があってな。関所を超えるまでで良いのだ。手を貸して欲しい」
「それは……影の噂。いえ、殺人事件についてでしょうか?」
「勇者殿は耳が早いな。農村だけでなく規模に関わらず町中でも事件が後を絶たなくてな……。
まず対象の身内や近しい関係の者が殺され、最後に対象が内側から爆発したかのような凄惨な死体が発見される。当然目撃者は居ない。聞き込みを重ねた所で誰も彼も自分と同じ顔の人物を見掛けたという話を周囲に言い触らしてた事ばかりだ」
「私にも話を持ち込むほどに手詰まり、という事ですか……」
よくよく視線を動かせば一人一人の距離が普通とは違うように見える。
まるで互いを疑っているかの……いや、疑っているのか。本人が狂ったのか噂に出て来る同じ顔の人物と入れ替わるのか事実がわからないから。実際に聴取した内容は[自分と同じ顔の人物に会った]だが、現実的な思考回路なら自然と影を見間違えただの白昼夢だのとシフトする。だから影の噂と言えばこの話と皆が理解する程に。
「調べた限りでは今のところこの国だけで発生している様でな。事が起こってから調べたのでは今の状況から抜け出せそうにないから外部からの視点で調べられる優秀な者の協力が欲しかったのだ」
「戦闘面では自信はありますけれど調査などはその辺の冒険者とあまり変わりは無いと思います。
ですが、自分達の協力者にアドバイスを求める事に許可を頂けるなら助けになれるかもしれません」
「他国の者か? 少人数で口が堅くこの国の者でないならば許可しよう」
「ありがとうございます。集められた情報を頂き次第動いてみます」
その後は宰相と別室に移り聴取や現場の状況など話を伺い、紙面の資料の写しもいただいた。
うちのPTでINTが高いのはミリエステしか居ないからメイドさんを通して水無月さん達にも協力を求めようと考えて下城する為に案内の兵士さんの後ろに付いて廊下を歩いていると前から偉そうな男女が姿を現した。
現在の城に滞在している王族は三男と長女の双子。そして、水無月さん達が最も警戒している問題を持ち込みそうな危機感を持ち俺に人物像の調査まで依頼して来た要注意人物。
というか、俺って良いように使われ過ぎでは?
目の前で立ち止まる自分と相違ない年齢の双子に合わせて背後から続いていた団体も足を止めた。
さらに案内役の兵士さんも廊下脇に控えた為、俺達と双子が相対する事となる。とりあえず膝を折っておこう。
「面を上げよ」
「お初にお目に掛かります。ハカヌマ=ユグノース王子殿下、マリアベル=ユグノース王女殿下」
国王ならびに王妃には2度目の許可を頂く必要があるけれど、殿下たちには1度目で顔を上げる。
瞳に映る二人の表情は勝気そうな好奇心旺盛といった印象か。
「ふん。貴様が勇者プルメリオ……と、後ろの者共がPTメンバーか」
「まぁまぁまぁ!精霊!精霊ですわ、お兄様!私、火の精霊が欲しいですわ!」
「む。俺様が今から譲る様に命令するつもりであったが仕方ないな……。おい、そこの魔法使い!火の精霊をマリアベルへ譲れ!」
「それは……」
出来るわけがない。ミリエステと火精フォデールは契約をしているし何より仲間なのだ。
話しは聞いていた我儘王子と王女そのままなのだが実際に対面するとその痛さが精神に来る。後ろに控える面々も取り巻きなのか譲って当然という顔をしているのも漫画の世界を体験しているかの様な時間に困惑する。
「申し訳ございませんが精霊といえど仲間ですし貴重な戦力なのでお譲りは出来ません」
「なんだと!?貴様!勇者だからと調子に乗っているのかっ!俺様に譲れと言われれば差し出すのが筋だろう!」
「お兄様が欲しいと言ったのですよ。譲るのが道理でしょう? 早くしてください」
「答えは変わりません。魔王討伐には火精の力は必要なのです。ご容赦ください」
俺が会話の矢面に立っているとはいえ王族からの強請りにミリエステの顔色は青く変化している。
殿下たちが吠えると取り巻き達も吠え始めた。その中で最も傍に控えている騎士と魔法使い然とした2名は声を合わせず静観している様子に彼らがお目付け役、もしくは監視役なのかと返事をしながら考える。
情報どおりならばこの後の流れは……。
「ならば、国の慣習に従い決闘だ!この国に入国したのであれば当然受ける覚悟は出来ているであろう!」
「どうしてもと言われるのであれば受けましょう」
「では、広い訓練場へ移動致しましょう!ルールはそうですねぇ……剣と火の魔法、精霊と……Sランク冒険者を禁止の集団戦といきましょうか!」
つまり、取り巻き含めた殿下達VSクライヴさんを抜いた俺達3人という決闘。
実力主義の火の国の王子達がこれでいいのか? 国王と王太子はどのように考えているのだろうか?
俺とマクラインは剣を封じられ、ミリエステは得意とする火属性の魔法を封じられた状態で複数人の人間を相手するなんて初めての経験だ……。それでもこの程度の困難くらい俺達3人なら超えられる。
歩き始めてしまった王子殿下達に付いて足を踏み出した俺達に案内役の兵士は「陛下からの伝言です。多少痛い目に合わせる分には目を瞑るとの事です」と伝えて謁見の間へと駆け出した。つまりボコっても良いわけだ。というか国王は予想済みだった訳?
若干フォレストトーレで頑張るラフィートを彷彿とさせる双子だがラフィートの方がかなりマシだったように思う。いや、同じくらいだったか?
ひとまず、一番ヤバい水無月さんにボコられる前に俺達が痛い目を見せれば彼らが訪問する頃には丸くなっている可能性もある。これは、火の国ヴリドエンデを守る為の戦いだ!絶対水無月さんなら王城を半壊させる程度の事はしてしまう!あの人は子供達が大好き過ぎるのだから!
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