†第14章† -02話-[噂の地下遺跡-噂の救世主の鎧①-]
またまた評価をいただきました!ありがとうございます!
最近は涼しくなってきてクーラーともお別れかと思っていましたが体が下がった気温に慣れた事で逆に26℃のクーラーでも暑いと感じて困ってますw
長い年月で朽ちて所々崩れた遺跡の中で俺達は火を焚き交代で睡眠を取っていた。
一緒に番となった方は数日前に紹介されて同行しているだけのあまりに薄い関係の為、会話の少ない空気に火の弾けるパチパチ音とどこか遠くで水が滴るポチョン音が嫌に広い空間に響いてしまう。
「む!またゴーストが寄って来た様ですぞ、メリオ殿」
「は、はい!《エンハンスホーリー!》」
いち早く反応して立ち上がって警告を発する人物は元剣聖、セプテマ=ティターン=テリマーズ様。
先日の魔物群暴走参加後にユレイアルド神聖教国から与えられた馬車で移動している途中で水無月さんから連絡を受け、その際にしばらくの同行を提案されて受け入れた為この地下遺跡まで付いて来ているという訳だ。
エンチャント魔法で彼の武器に光属性が付与された事を確認して俺達はゴーストの群れに挑みかかった。
* * * * *
——数日前。
ピリリリリリリリ!ピリリリリリリリ!
自分達からはあまり使用しない人造アーティファクトの[揺蕩う唄]が耳元でコール音を発したので会話からその音へ意識を移すと目の前にウインドウが表示された。
[水無月宗八からの入電です][受電しますか? Y/N]
時折アップデートを遠隔で行っているらしく、表示される文章は元の世界に近くなっている。
もちろんYESに触れるとコール音はピタリと止まり代わりに水無月さんの声が届いた。
「はい、こちらプルメリオです」
〔おう!久しぶりだなメリオ!今どの辺りに居る?〕
「えっと……。ついさっき火の国に入った所ですけど……」
〔ちょっとお前の戦闘力向上の為に紹介したい人が居るんだけど今から合流しても良いか?〕
久し振りに聞いた水無月さんの声は溌溂としていた。目標を達成した喜びがまだ残っている様だ。
色々と手助けしてくれている人ではあるけど強さという視点で見れば勇者の自分よりも強いと感じているので正直対応には困る人の一人だ。けれど、善意が含まれている上に確かな効果を発揮している事も確かなのでもちろん返事は了承と伝え馬車を路肩へと止めた。
「尊師……いえ、水無月様からの連絡ですか?」
「うん。馬車で移動している事を伝えたから数分以内にゲートを繋げるってさ。(尊師?)」
「また厄介事の臭いがしないでも無いけど何か言っていたか?」
「戦闘力向上の為に人を紹介したいって。誰だろうね?」
馬車を止めながらミリエステやマクラインに報告したけれどミリエステは何故そんなに嬉しそうなんだ?
御者をしてくれているクライヴさんには馬車に残ってもらい、俺達は少し開けた場所へと移動したところで俺に張り付いていた闇魔法で描かれた鳥居が剥がれて大きく展開する。これが水無月さんが開発した長距離移動魔法の[ゲート]と呼ばれる代物だ。
誰かに描くことでその人とすぐに合流する事が出来る。すごい便利だ。
ゲートから出て来たのは水無月さん。そして見知らぬ袴姿のご老人と土精。
「おいすおいす!勇者PT全員元気そうで何よりだ!」
「お、おいす? お久しぶりです。ナユタを討伐したと聞いていますよ!おめでとうございます!」
「あはは~、ありがと。おかげで改善したい所も見つかったから今は休暇を理由に色々試行錯誤の毎日だよ(笑)」
まだ強くなろうとしているのか……。
挨拶もそこそこに水無月さんは初めて顔を合わせるご老人の紹介を始めた。
「こちら、セプテマ=ティターン=テリマーズ氏。え~と……剣がとっても得意なお爺さんです。
メリオだけじゃなくてマクラインの剣術向上の指南役としてしばらく同行をお願いしようと思って連れて来た。あと、土精ファレーノ。セプテマ氏の契約精霊だ」
「指南役? 同行をお願いってちょっと色々と唐突なんですけど……」
紹介ってそう言う事? というか、いきなり同行って緊急事態でもないのに受け入れ難いお願いなんだけど……。
それにこのお爺さんに関して名前しかわかっていない所も二つ返事で了承する事にブレーキを掛けていた。
困惑する俺達。笑顔の押し売りをする水無月さん。何故か楽し気なお爺さん。どう返事するのが正解だろうか……。
「え!? まさか剣聖かっ!?確か……セプテマ=テリマーズっ!マジかっ!えっ!?」
そんな空気間の中で凄く大きい声が後方から響き渡った。振り向けば念の為馬車の見張りとして残ってくれたクライヴさんが興奮しながら駆け足で走り始めるところだった。「マジか!?マジか!?」とずっと小さい声でボソボソ言いながら駆け足の速度は興奮と共に上がっていく。当然視線はセプテマさんに固定されていた。
「ほ、本当に剣聖かっ!? 七精の小僧!お前が連れて来たのかっ!?」
「え、えぇ……そうですけど。クライヴのおっさんの食い付き凄いな」
「そりゃそうだ!高速剣のセプテマって言やぁ俺ら世代なら誰でも知ってる有名人だぞっ!今までどこに隠れてやがったんだっ!?」
「剣聖……どうりで聞き覚えがある名前と思えばそう言う事か……!」
クライヴさんが水無月さんに詰め寄っている横で会話を聞いていたマクラインが思案顔から納得顔へと変わって言葉を溢す。お爺さんの正体を水無月さんの代わりにマクラインが語った内容としては、十数年前に剣聖の称号を得た剣士が居たがその後行方知らずとなった為やがては剣聖の名前もここしばらく耳にしなかったのですぐに結びつかなかったらしい。
マクラインは剣に通じていたので覚えていたけれどミリエステは魔法使いなので全く聞き覚えが無かった。
そんな大物が何故水無月さんと知り合いで何故俺達に同行するという話になったのか……。
「水無月殿、同行と先ほど言われていましたがセプテマ様は精霊使いとは言えクライヴ殿よりもお歳の様に見受けられます。旅に付いてくるには厳しいのではありませんか?」
「騎士殿。体力に関してはここしばらくリハビリに付き合ってもらったので問題は無い。
病気になればぽっくり逝くかもしれんがソレはソレで十分とも考えている。今回は恩ある水無月殿が勇者の剣の技術を磨きたいと打診して来たので頷いたに過ぎない。君たちが断るなら水無月殿も強要はしないものと考えている」
「昔の記憶だから俺もはっきりセプテマ様の力量を覚えてねぇが今のお前達よりも剣術に関しては強かったように思う。
こいつらの判断材料に俺と模擬戦を軽くしてもらえませんか?」
「あいわかった。それで良いかな、水無月殿?」
その後の模擬戦は凄かった。スキルや魔法は禁止のルールではあったけど動きも速く攻撃力の高いクライヴさんが有利に進めると安易に考えていた俺をガツンと殴るかの様な強烈なイベントだった。
初手自体は想像通りにクライヴさんが殴り掛かった。高速で殴打と脚撃でセプテマさんを後方に下げていく様を見てまず吹き飛ばない事に驚き、次に全て高速で翻る剣でクライヴさんの攻撃を受け流しながら剣を振るスペースを確保する為に前進に合わせて自分の意思で後退していた事実に驚愕した。
手と足でコンボを繋げる連撃に対して剣一本で対処した。それだけ卓越した技術を持っていることは明らかだった。
以前指導していただいたアナザー・ワン達とも違う力技ではない完全な技術の匠な技に俺は目を奪われたのだ。
「まぁここまでの技術を一朝一夕で身に付けろとは言わないけど、為にはなるだろ? メリオだけじゃなくてマクラインも」
「そう…ですね。水無月さんが剣術の指南役に抜擢するだけはあります……。俺は同行をしてもらおうと思うけど二人はどう? しばらく一緒に旅しても良いかな?」
「メリオが良いなら俺は構わない。クライヴさんは言わずもがなだろうしな……。ただ、男ばかりが増えるのはどうなんだ?」
「それは今更だわ。お爺さんが一人から二人になったところであまり気にはならないし。
私的にはセプテマさんの契約精霊が女性型なのが嬉しいわ。やっと女子トークが出来そう♪」
こうしてセプテマさんが俺達の旅にしばらく同行する運びとなった。
クライヴさんは尊敬の念を込め初めから様付けで呼んでいた為俺たちもそうすべきかと伺いを立てたところ、本人から立場の訂正として剣聖の称号は返上したと聞いた。そもそも様付けも慣れないのでさん付けでも爺さん呼びでも構わないとの事。
さっそくミリエステが土精ファレーノに話しかけて盛り上がっているところで水無月さんが俺の傍に寄って来た。
「じゃあ予定通り紹介も終わったし俺は帰るな」
「相変わらずフットワークが軽いですね。何か火の国で調べておきたい事とかあれば協力しますけど……」
いつも何だかんだで頼んでもいないのに世話を焼いてくる水無月さんの背後にはアスペラルダが居るのだろう。
それでもアスペラルダに対して俺達が出来る事は魔王を倒す事だけ。せめて実際にメッセンジャーとなっている水無月さんに何か出来ないかと話を振ったところで何者かが近くに降り立つ気配を感じて振り返ると。そこにはまた新しいメイドが立っていた。
「それには及びません。情報収集は私達の仕事にございますので。
お久しぶりでございます、ご主人様」
「ん? おぉ!確かアナスタシアだっけ?」
「覚えていただけたようで嬉しゅうございます。ローテーションの任務ですが今は私が勇者様周りで情報収集の任に就いております」
「このまま魔族領まで入るつもりか?」
「流石に野を闊歩する魔物もB~Aランクがゴロゴロ居るそうなのでレベルを上げてからになるかと……」
なんとメイドさんは水無月さんと顔見知りだったらしく会話に花が咲いている。
どうやら身を隠しながら俺達の追跡や情報収集する為に野宿もする必要があるらしく、その辺りで安全に眠れる魔法を完全制御で使用出来る様にならなければ魔族領入りは国からの許可が出ないそうだ。
今は彼女たちが収集した情報の紙束を渡された水無月さんが重点的に調べて欲しい事柄を選んでいる最中だ。
「これだな。自分の人影を見たら死ぬ。隷霊のマグニの手に似ている」
「かしこまりました。侍女諜報隊に周知しておきます」
「あと、メリオ達にもお願いしたいんだけど火の国ヴリドエンデの王族を調べてくれ。
メリオ達は実際に謁見した時の印象を教えてくれれば助かる」
「その程度でいいなら任せてください。メイドさん達だと実際に会うのも難しそうですしね」
火の国ヴリドエンデは魔族領からその他4カ国を守る立場にあるので4カ国は何か問題が発生したとしても火の国に救援を求めることが出来ない。その隙に魔族が責めて来ては元も子の無いからだ。
そして最近名が上がって来たアスペラルダの至宝、アルカンシェ王女殿下とその護衛隊に興味を持ち始めている可能性があり、無理な求婚でもされれば面倒な事になるので事前にどういう考えを持っている人物なのか知っておきたいとの事だ。そりゃ心配だよな。
無理をしない程度に探ってくれればいい。そう水無月さんは言い残し、新たにセプテマさんが俺達のPTにゲスト参加することが決定したのだった。
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