閑話休題 -97話-[亡命のナユタの民。新天地にて。②]
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ユレイアルド神聖教国へゲートで渡って来るといつもの通りサーニャ=クルルクスが待っていた。
「ほぉらやっぱり居たな」
「お待ちしておりました水無月宗八様。クーデルカ様とベルトロープ様もようこそいらっしゃいました。教皇オルヘルム様とクレア様がお待ちですのでさっそく移動致しましょう」
アスペラルダに寄ってからユレイアルド神聖教国へやって来た俺達を待ち構える様に出迎えたのはいつもの女性。
聖女クレシーダ(愛称:クレア)の護衛侍女の片割れ。サーニャ=クルルクスであった。
クレアには事前に伝えていたけど何時頃の到着などの直近予定は伝えていなかったけど出迎えにサーニャを寄こしたらしい。
サーニャの他にも若いシスターが数名着いて来ており、その内の一人がクレアへのプレゼントに気付いて近寄って来た。
「失礼いたします水無月様。お荷物をお持ち致します」
「ん? あぁ……。これはクレアへの誕生日プレゼントの菓子だから食後にでも出してあげてくれ」
聖女への貢物と脳内で変換されたシスターはどうするべきかと対応に困り受け取る為に手を出しているにも関わらずケーキを受け取らない。その様子に気付いていたサーニャがすぐにサポートの声がけをする。
「受け取って構いません。毒見はさせていただいて宜しいですね?」
「そう言うと思って多めに買ってきたよ。サーニャとトーニャだけで毒見したら太るから程々にしろよ」
「——独占なんてしませんっ!彼女たちもいずれはアナザー・ワンを目指す身ですし役割は回しますとも」
「それなら良いけど。じゃあ、はい。宜しくね」
「失礼致しました。お預かり致します」
クレアより年下に見えるシスターにケーキを渡してサーニャの先導に付いて行く。
精霊たちもクーがお姉ちゃんをしつつ、ベルを交えてサーニャの無精に挨拶と雑談をしている。
退屈になる事もなくサーニャに話し相手になってもらいながら奥へ奥へと進んで行くとやがて目的地へと辿り着いた。そこは以前教皇が働いていた部屋ではなく落ち着いて話し合いが出来る広い部屋だった。
「水無月様をお連れ致しました」
「ご苦労だったな。お久しぶりですな、水無月殿」
「お久しぶりでございます教皇オルヘルム=ハンブライアン様。逐次報告はさせていただいておりましたが今回は霹靂のナユタ討伐の報を伝える為に参りました」
「ギルドマスターから資料は受け取っていますが、より詳しい説明を頂けると聞いてクレチアが楽しみを抑えられない様子でしたよ。はははっ!」
クレチア=ホーシエム。教皇様の背後に控えている教皇様のアナザー・ワン。
このユレイアルド神聖教国で一番強い彼女は何事も無いかの様に振舞ってはいるものの耳が赤く染まっているから恥ずかしがっているらしい。聖女クレア、クレチアさん、クルルクス姉妹の他にも枢機卿クラスの信徒が同室に控えている事からも破滅に関する件には他国に比べて敏感な様だ。
「報告会の前にクレア様へ祝言をお伝えしたいのですが宜しいですか?」
「その程度は構いません。クレアも喜ぶことでしょう」
クーとベルが資料を配る間に教皇様へ近付き確認をする。
正式な場ではあるがこのタイミングで伝えないと報告会後だとクレアも内容に疲れる可能性があるからな。
快く白髭を弄りながら許可を出してくださった教皇様に感謝を伝え、その足をクレアの方へと向け進める。
サーニャが姉のトーニャにもお土産を俺が持ってきた事を伝えているのか二人は俺の接近に警戒する事もなくクレアの背後に控え続けていた。
「クレア」
「この度は魔神族討伐おめでとうございます水無月さん。どうされたんですか?」
「誕生日を迎えたって聞いたから俺もおめでとうって言いに来た。
ゴホン……。この度は聖女クレシーダ様に於かれましては御年を重ねられたとの事。アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダの護衛筆頭としてお祝い申し上げます。これからも我が主と同様に健やかな成長を祈りサーニャ嬢へ心ばかりの品を預けておりますので食後にでも召し上がって下さい」
「あははっ!水無月さんのそういう態度久しぶりで、嬉しいのについ笑いが。あははははっ!
ゴ、ゴホン……。祝いの言葉に祝いの品まで頂いてしまってありがとうございます。友人としてアルカンシェ殿下の素晴らしさは身に染みておりますれば、あの方と肩を並べた機会に見劣りしない様に聖女である限り。また、聖女でなくなっても精進をしようと思います」
お互いが畏まり硬い口調にて言祝いだ後は破顔して「おめでとうクレア!」「ありがとうございます!」と普段通りの俺達で改めて祝った。俺とクレアの関係性は周知されているのかクルルクス姉妹が何も言わないからなのか枢機卿たちも何も口を挟むことはなく報国会の準備がようやっと整った。
広い部屋に夜の帳が降り、大型ディスプレイに映る映像はフォレストトーレでも流したものと同じだ。
資料に眼を通す者。お茶を飲みながらじっくり映像を見つめる者。青い顔をしながらも映像から目を離さない者。文官や兵士だけだったフォレストトーレに比べればこの場に集まった者たちは世界でも高い個人戦力を有する者ばかり。
眼を逸らす者はいないが顔色が優れない者は数名確認できた。
* * * * *
「以上でナユタの世界攻略ならびにナユタの民の処遇についての説明を終わります」
部屋全体を見回しながら上映会の終了を宣言した。
その言葉に反応を示したのはこの教国の長。教皇様だったが彼の顔色がこの場で一番悪い。
「いやはや……。ふむ……言葉が無いね。想像をいくつも超えた困難だった事に……申し訳ないが酷く混乱している様だ」
「構いません。ひとまず私達の予想では先の映像で討伐したナユタが一番弱いと考えています。
今後も異世界が接触する度にこちらも迎え撃つ予定で準備を進めておりますが、まずはその接触を察知出来ない事には破滅攻略は進まないでしょう」
「アレらはやはり精霊の力が無ければ太刀打ちは出来ませんか?」
「瘴気モンスターが相手であればアナザー・ワンのような高ステータスで太刀打ちは可能です。しかし、瘴気の鎧を浄化出来ない場合ランク以上に硬くなりますので手間が掛かるでしょう。私の部下も全員が浄化の術を持つわけでは無いので私が広範囲の浄化魔法を行使致しました。
他にも禍津核モンスターなども対処は可能でしょうが魔神族は相手に出来ません。攻撃を通す為に高濃度魔力の運用が必須です。さらに言えば完全体になった際には[神力]を扱えなければ人である分こちらがずっと不利になります」
俺自身、神力を練り上げる事は出来ていない。
運良くナユタの神力を吸収して利用出来たからこそ大きな怪我も無くやり過ごせたのだ。今後の戦闘はナユタで成功したからと言って同じ手が通用すると考えるのは安直すぎる。なんとか自身で扱えるようになるに越したことはない。
「現在はあくまで破滅本体がこの星に辿り着いた際の敵戦力を削る戦いです。
光精を信仰している教国は光属性に適性のある人が多い事でしょう。破滅対人類となった最終局面できっと重要な役目を担えるかと思います。精霊使いに成れとは言いませんが多くの人々が光魔法を扱えれば大きな支えになります」
「敵の大将首は我々では荷が重いか……。クレチアはどうだ?」
「申し訳ありませんがあの規模の敵となると私でも対処は厳しいです。我々が敵と想定しているのは人。神を相手取る想定はしておりませんし戦闘方法も噛み合わないです」
「そうか……。あいわかった。光魔法の伝授ならびに瘴気モンスターを相手とした運用の見直しを行い、水無月殿が言われる最終局面に備えるとしよう。我らは瘴気の鎧を剥がす役どころじゃな……他国の兵士との合同訓練も視野に入れるとしよう」
自身のアナザー・ワンへの問い掛けもクレチアからは教国だけで対処し切る事は不可能との返しに教皇は破滅対策に関してさらなる一歩を踏み込み事を決める。自分達だけでも雑魚の対応は可能だ。しかし、物理だけではなく魔法での攻撃もあれば効率は良くなるだろう。その攻撃役を他国が担うならば長期戦になったとしても耐えられる算段を付けたのだ。
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