†第2章† -09話-[大滝の都ポルタフォールの水難事情:エピローグⅠ]
「では、情報展開の為の会議を開いたいと思います。
今回ポルタフォールのために奮闘された皆様には、
聞く権利があると判断してここにお呼びいたしました。
何か疑問があれば挙手にてお願い致します」
4日目のお昼過ぎに当事者たちが集まって、
今回の水難事情についての意見交換会が行われた。
当然俺達「アルシェ様護衛隊」も参加している。
「よろしいですか?」
まず、挙手したのは冒険者の1人。
「どうぞ、キマワさん」
「昨日の夕刻に現れた人物について問いたい。
あの者の正体や使った技などわかる限り全てです!」
「復讐するおつもりですか?」
「当然です!」
「手も足も出なかったのにですか?」
「それはお前が止めたからだろうっ!
止められなければ一矢報いることは出来たっ!」
『貴方はお父さまに救われた身ですよっ!
分を弁えなさいっ!』
「黙れ猫っ!お前達精霊に俺達人間の気持ちがわかるかっ!」
ここいらが潮時だな。
『《あくあぼーる》』
「ガボボゴボゴボっ!っは!っけほ、っけほ!
何しやがるっ!」
「頭を冷やせ、クーも言い過ぎだ。
情報を聞いてから一矢報いられたかは判断して貰いたい。
クー、今のはお前の一言で激化したのはわかるか?」
『はい・・・。すみませんでした、お父さま。
キマワさんも言い過ぎましたことをお詫びします』
「・・・いや、俺も悪かった。
情報を聞いてから判断することにしよう」
初っ端からこれである。
まぁ異文化交流みたいなものだと思うことにする。
「あいつはおそらく世界中で暗躍している魔神族だ。
あれでも構成員のひとりらしいから、
あれで下っ端の可能性もある」
「空を飛び、人を攫い、一瞬で焦がし、ナイフを遠投。
さらに瞬間移動ですよ?あれが下っ端ですか!?」
俺の説明にイセト氏が泡を食ったように問うてくる。
当然目撃した者は皆同じような態度を示しざわついている。
そこでまた手が上がった。
「あの、私とメリーはその人物を見ていなかったのですが、
アスペラルダで現れた魔神族と一緒の方でしょうか?」
「いや、話に聞いていた体のラインは見えなかったな。
単に装備していなかった可能性もあるし、否定も肯定も出来ない」
「その方の使われていた技?に心当たりはありますか?」
「そうだ!あいつは[アポーツ]と唱えていた!
あれはなんだっ!知っているなら教えてくれっ!」
まだ血気盛んではあるが、
まぁ俺の推測が正しいのかもわからないし、
一旦実験をしてみようか。
「心当たりは確かにありますが、
確定ではなく可能性の話でよろしければお話します」
「よろしくお願い致します」
イセト氏も情報は欲しいのか前のめりに催促してくる。
実験に必要な物は俺達では用意出来ないため、
可能性が一番高い人物に協力を仰ぐ。
「セリア先生、お手伝い頂けますか?」
「まぁ、アクア達じゃなくて私という事は風魔法なのかしら?」
「いいえ、雷魔法の方です。
得意ではないとは思いますが、
実験を成功させるにはセリア先生しか出来ないと思いますので」
「わかりましたわ。何をすればよろしいんですの?」
「まずは・・・」
* * * * *
「わかりましたわ」
「今から皆さんを対象にセリア先生がある事を施します。
人体に害がある訳ではないので安心して下さい。
では、行きますよ」
セリア先生は集中して目を閉じる。
さほど時間を置かずに目を開けるセリア先生は俺に向かって頷く。
「さて、ある事は施されました。
皆さんの体に何が起こっているのか分かりますか?」
体を触ったり互いの意見を言い合ったりとしているが、
答えにはたどり着けないようだ。
そこでまた挙手が上がる。
「私の髪の毛がふわっとしてるのは関係ありますか?」
「あるわけないだろうが、
朝のセットが上手くいった報告はあとでやれ!」
「いいえ、おそらく貴方は帯電体質なのでしょうね。
正解ですよ」
「「「「「「「「は?」」」」」」」」
「いま、セリア先生にして頂いたことは、
この会議室にある物体に雷を付与することです」
「それがなんになるのですか?」
「では、彼女に次の実験の被検体になってもらいましょう。
ご協力願えますか?」
「は、はい・・・わかりました」
「ただそこに立っているだけで結構ですよ。
セリア先生、調整は任せます」
「わかりましたわ、ゆっくり出力を上げますわよ」
手を前にしてセリア先生は再び集中に入る。
皆が息を飲んで見つめる中、ついに動き出した。
「・・・あ、あれ?なんか引っ張られてますっ!
こ、これは大丈夫何ですかっ!?」
「大丈夫です、そのまま踏ん張ってください。
なんなら周りの冒険者の方も彼女を抑えてあげてください」
ガタガタと立ち上がる男達に若干の白目が向けられるが、
男達の反応を見て目の色を変える。
「お、おい!マジかよっ!!」
「なんだよこれっ!?引っ張られる!」
「本当に大丈夫なのかよっ!!」
タタラを踏みながら徐々に前進していく彼らを見て、
全員が異常を理解した。
その顔を確認してからセリア先生の肩をポンッと叩くと、
彼らは踏ん張っていた分後ろにひっくり返る結果となった。
「い、いまのは何ですか?」
「今のは磁力です。
言ってしまえば雷の派生系の力だと認識してください」
「磁力を操れば人が引っ張られる事はわかりました、
では浮いていたというのは?」
「この磁力とはプラスとマイナスの2つが基本構成になっている。
いま、みんなにはプラスを軽く付与してもらった。
そして、セリア先生の掌からはマイナスの磁力を出していた」
「つまり、プラスとマイナスは引っ張り合う性質を持つのですね?」
「そうだ、アポーツとは引き寄せ能力のこと。
魔法なのか能力なのかわからないから、魔法の方で再現したわけだ」
賢いアルシェは俺の簡単な説明で理解して、
なおかつ噛み砕いた内容を口にして皆に伝達する。
「じゃあ、同じプラス同士、マイナス同士ならどうなるかな?」
「反発し合うってことか?
それが奴が浮いていた理由ってか?」
「初めに注意したけど、これは仮説の域を出ないからね。
えっと、俺達が立っているこの地面はマイナスの磁力を帯びている。
もし、磁力の制御が出来るやつなら空に立つことも出来るだろう」
「セリア先生、実践してもらえますか?」
「いいですけれど、貴女と貴女。協力してくださるかしら?
まず成功しないから支えててくださればいいので」
セリア先生は自分と同じ程度の身長をした女性冒険者を2人指定して両脇に立たせて、風ではない浮遊に挑戦する。
皆が見つめる中セリア先生はつま先が浮き上がった直後に態勢を崩して倒れそうになる。
先に支える役を仰せつかった女性2人が慌てて支える。
「俺達には何が起こったのか分からないんだが、
失敗したって事でいいのか?」
「そうですね、失敗です。
ではなぜ失敗したのかわかりますか?」
『足だけで浮こうとしたからよね』
「賢いなスィーネ。
今のはボールの上に立とうとした時と同じ現象です。
力があちこちに逃げてしまって立てなかった」
「なるほど・・・」
これはすぐにどうこうしなければならない話ではないし、
どちらかといえば[アポーツ]をどうにかしないといけない。
「これが出来る奴はそうはいないはずです。
その難しい制御をしながら、
先ほどの磁力による引き寄せを高速で行う技量、
貴方はこのバケモノを相手に向かおうとしたんです。
我々全員の命と引換に自己満足を得ようとした」
俺の言葉に男を含むパーティは一瞬憤る気配を見せるが、
すぐに怒気は治まった。
これが現実なのだ。この異世界の。
「この能力をフル活用すれば、
確かに皆殺しをするのは容易いだろうさ。
おそらく範囲攻撃も出来る隠し玉はあるだろう」
「わかりました、
魔神族の件は引き続きポルタフォールでも調査を致します。
報告はギルドでよろしいですか?」
「お願い致します。
キマワさんもひとまずはあいつの事は置いてください」
「・・・わかった」
引き摺るなとは言えないが、
今は飲み込んでもらわなくてはいけない。
俺たち全員が力不足だったという意味を理解してもらわないと。
「では、次にポルタフォールの水嵩なのですが、
昨日の件で溢れるまで回復しております」
明るい話題になったので、
伏せ目だった皆の顔にも笑顔が戻る。
『ただし、その水は王都アスペラルダの水で、
本来の水はまだ亜空間にあるのよ』
「そうなんですよねぇ、そこはどうすればいいんですかねぇ」
「そのままというのはいけないのか?」
「管理者がいない亜空間を放置するのは、
自然の摂理から反していますわ。
いずれどんな影響を及ぼすかもわかりませんし」
当たり前だが、あんな大量の水をどうにかする手立てなど、
すぐに出せたら苦労はない。
もし、全て排水するだけでいいなら数日使ってもかまわないとは思う。もともと1週間程度は観光がてら訓練なんかをする期間を設けるつもりだったし。
「まぁ、その辺は我々ポルタフォールの住人と、
ポルタフォールの守護者のスィーネ様とで上手く致しますので」
『そうね、貴方達は冒険者なんだから、
次の街とか行かなきゃなんでしょ?』
「いや、急ぎの旅じゃないし手伝いくらいならやるけど」
「水嵩が減ったら排水を繰りかえることになりますので、
数ヶ月掛かってしまいます。
なので、あとは我々がやらせて頂きます」
「わかりました。
念のため王様には町長の件を伝えておきますので」
「そこは任せてください!」
「ははは、姫様が動かれるなら安泰ですね」
「他にはありますか?」
「そうですねぇ・・・」
* * * * *
会議もひとまずお開きとなり、
俺達は別室に移動して休憩中、
話題は制御の違いに移っていた。
「そういえば、
私達の制御とスィーネさん達の制御って違うんですよね?」
『貴女達の制御とは浮遊精霊に手伝ってもらって行う事で、
私達精霊は自力で出来るわ。
本来備わっている自然を操る力の事なんだけど、
もちろん属性によって制御出来るものも変わるわよ?』
「セリア先生は風精霊だから風ですよね。
私は水の浮遊精霊が多いのですが、氷の扱いに長けてますよ」
「そこは人間という媒体を通してって事なんだろうな。
いままでの傾向から精霊は表の属性に適性があるみたいだし、
裏属性に適正のある人間を通せばそれも制御出来るってわけだ」
「セリア先生は雷も操ってませんでしたか?」
「あれは雷魔法を改変させただけですわ。
操るなんて言えない代物ですから」
『そりゃ、そうでしょ。
雷に適性があれば雷も制御出来るわよ。
あそこまで操作できるだけでもセリア様はすごいのよ』
女性陣は制御の話題で盛り上がっている。
今回の騒動でも自分たちの力不足を感じる場面は多かった。
俺はもちろんの事、精霊たちやアルシェ達もだ。
「アクア、クー。行くぞ」
『はい、よろこんで~』
『いつでもどうぞ』
3人で手を繋いで輪を作っている。
スィーネとクーが入れ替わっただけになるが、
俺とクーはシンクロがいずれ出来るはず。
というかそろそろ出来ないかなぁと思っていたので、
切っ掛けになればとこの方法を選択した。
「『シンクロ!』」
俺とアクアの体から瑠璃色のオーラが浮き上がりだし、
そのオーラは俺達の繋いでいるクーにも多少伝播した。
『これがシンクロですか・・・力が湧いてきますね』
『ぜんぶはつながらないねぇ』
「この感覚を覚えたらクーもシンクロ出来るようになると思う」
『がんばります!』
* * * * *
それからもアクアはスィーネについて制御訓練。
クーは俺と吸収の考察、カティナの指導を受け。
アルシェは精霊達のアドバイスで水の制御を諦めて、
氷の制御の訓練を始めた。
セリア先生とノイは明後日には街を出てアイアンノジュールを目指すそうだ。
俺の戦力増強案で、
カティナには魔法陣の詠唱起こしを依頼しているが、
1番欲しかった[アイシクルウェポン]は詠唱の都度武器の選択が必要になり、魔法陣も変わるため詠唱に向かないと言われた。
目下属性武器がないと個人戦力が厳しい俺に出来ることは、
前衛としての戦闘力か?
それとも皆と同じで制御力を鍛えるか?
現状で俺の強化案は精霊があってこそなのだ。
せめて、個人でも魔法剣士くらいの動きがしたい。
この世界は魔法ギルドのおかげでゲームチックな部分はあるが、
それは生活面に特化しているように思う。
特定の体の動きに合わせて剣技が発動するわけではないし、
選ぶスキル画面もないし、
気合を入れて剣を振っても何も起こらない。
スキルサポートがないからには自力でそれっぽい事を開発しないといけないのだが・・・
「近接技を使ったところで魔法を相手に出来ることはあるのかな」
ひとまず、自分のオタク知識の中から使えそうなものを選定し、
机上の空論なのか本当に可能なのか試す作業を順次行う。
今は骨駆動に挑戦中だ。
記憶も朧気だが[Lass]というブランドの[FESTA!]というゲームに登場する、
双子の女の子が使っていた体の動かし方。
通常は筋肉の伸縮で駆動する人の体を、
骨で無理やり動かす方法だ。
確か、脳信号を無視して動かせるから早いとかなんとか。
まず人体の構造を知っていれば無理だと断言するが、
異世界ならば可能にする何かがあるかもしれない。
現に意識をすれば普段より早く動かせた気がする。
ひとりで考え込んでは試す日々もこれで4日目である。
『お父さま、もう暗くなってきました。
アレをしても問題ないかと』
いつの間にか近くの木陰にいたクーが声を掛けてくる。
ここ数日はこのパターンが多くなってきており、
皆と午前の内に打ち合わせや訓練を行ったあとは、
午後からひとりで森に篭っていた。
「あぁ、ありがとうクー。じゃあアレの練習に入ろうか」
『はい、お父さま。《闇纏い》』
クーがバインドの時に出現する手に覆われたと思った時には、
身体のあちこちにユラユラと揺らめく外装を装備した姿に変わっていた。
その姿のまま俺に突撃して飛びかかってくる。
「『シンクロ!』」
「『闇精霊纏い!』」
俺とクーが触れた瞬間胸の奥を中心に闇が広がり俺達を包む。
闇は球体で収まり、俺が腕を振ればそのまま霧散していった。
出てきた俺の身体にはクーと同じ様な外装が装備されているが、
特に目を引くのは顔半分を隠す猫耳のような意匠が着いたフードに、
それに繋がって体を覆う大きなマントであった。
マントには不思議な模様が施されており、
下部にはいくつか切り込みが入っていて、
両手に一番近い切り込みは肩近くまで入っていた。
本来、人が纏えるは浮遊精霊なのだが、
この[精霊纏い]は、
進化した精霊を纏うことをコンセプトに目指したが、
最終的にいまの姿になった身体強化魔法である。
クーデルカを纏うこの姿は、
通称[天狗]と呼んでいる。
暗所、もしくは夜限定ではあるが、
若干の浮遊からの滑空が可能な事と、視界も昼のように見え、
近距離しか出来ないけれど空間転移も出来る。
さらにマントの両脇に拵えられた長い切れ端は、
バインドハンドと同じ要領で動かすことが出来る。
実はバインドハンドの構成物質は[死霊王の呼び声]で戦った、
ブラックスケルトンの表面と同じ物質のようで、
固いのに柔軟という意味のわからない構造になっていた。
試しに枝をバインドハンドで刺してもらったら簡単に斬る事が出来た。
あ、昼間に天狗を試した時は日差しで死にかけました。
「ここまでは安定してきたな。始めは酷いもんだったが・・・」
『ここからです。夜なので能力も上がりますし、
近距離転移と浮遊はクーが操作するので、
お父さまは体の具合とハンドを動かす練習をしないと』
「よし、ここから2番水源まで走るからな。
10分目指すからフォローは頼む」
『はい、行きましょう!』
一昨日から始まった[天狗]の練習だが、
制御が難しくて、よく木にぶつかりそうになる。
その度にクーが転移で回避するのだが、
その性で魔力消費がハンパなくて10分程度で強制解除してしまう。
アクアとの精霊纏い[竜]も練習したいところだが、
スィーネからの指導を受けられるのはこの地だけなのであちらを優先させている。
* * * * *
翌日、宿で朝食を食べ終えた頃にイセト氏が数名連れてやってきた。
「アルカンシェ姫殿下、朝も早いうちから失礼致します。
王都アスペラルダのから使者の方がみられましたのでお連れ致しました」
「ありがとうございます、イセト。
どなたが・・・あ、フィリップ将軍ですか。お久し振りですね」
「お久し振りでございます、姫様。
本日は国王からの命により参りました」
「では町長の件は間に合ったのですね。
イセトにはもう?」
「はい、伝えております。
それとは別に姫様方にお渡しするようにと預かっている品がございます」
「わかりました。
何日滞在予定ですか?」
「3日は滞在して今後の方針などをイセト新町長話し合います。
別働隊はオリヴァータ=コルンツェル一派を捕縛済みです」
「ありがとうございます、報告は以上ですか?」
「はっ!以上であります!」
イセト氏が連れてきたのは王都ではついぞ見なかった将軍様らしい。
アルシェとのお仕事会話が終わるのを待ってから挨拶しようかと思っていたが、
こうもしっかりとした将軍然とした立ち居振る舞いに緊張してしまう。
「セリア殿もお久し振りです。
精霊を住処に届ける為に城を出られたと聞いておりましたが」
「えぇ、お久し振りですわフィリップ殿。
この街に寄ったら巻き込まれてしまったんですのよ」
「なるほど、また姫様に助力いただいたようで。ありがとうございました」
「私は大したことは出来ませんでしたから、感謝はしなくてもいいですわよ」
見知った同士の会話だが、
彼は先生と言わないのだな、と思いました。
「して、姫様を連れ出したというのは貴公で間違いないか?」
「お初に御目にかかります。
水無月宗八と申します」
「うむ、話は聞いている。
単刀直入に言わせてもらうが、
私達がいない間に何処の馬の骨ともわからぬ輩に大事な姫様を任せられない、
そう考えている兵士は多くいる」
「はい。理解は出来ます」
「私は王が決めたのであればと納得できる口だが、
連れてきた兵士はの中には納得できていない連中もいる。
だから、滞在の間に少し腕試しの時間を頂けないだろうか」
「それはっ!」
「いえ、謹んでお受けいたします。
時間はそちらで決めていただいてかまいませんが、
現在は鍛錬の時間に多く割いているので前日には時間を伝えていただきたい」
「了解した。
では、明日の10時に町の西側に広い草原がある。
そこで血の気の多い何名か、あと私とも手合わせ願う」
「即決感謝いたします。
私の戦い方はどういたしますか?」
「あぁ、精霊と共に戦うのが基本戦術なんだったか。
私とだけ精霊ありきでしよう。レベル差があるだろうからな」
「ちなみにいくつなんですか?」
「52だ」
「あぁ、それなら納得ですね。了解です」
「では明日はよろしく頼む。
姫様、お先に失礼します」
まぁこれは仕方ないよね。
俺も蝶よ花よと育つ姫様を守っているという誇りを胸に頑張っていたところへ、
城を離れている間に知らない奴が連れ出したって知ったらなぁ・・・同じだったろうし。
精霊ありきだと言っても昼前ってことは天狗は使えないか。
今日は竜の調整をして過ごすかな。
「お兄さん、良かったんですか?
兵士はともかくフィリップ将軍は実力者ですよ」
「いや、別に死闘じゃないし、勝たないといけない訳じゃないからな。
勝つ気では行くけどレベル差があるからな。
魔神族との模擬戦とでも思うことにするよ」
「ポジティブですね」
「何言ってるのさ。見てよこの眠たげな瞳を」
「キリッとしたやる気に満ちた目に見えます」
「私も同意見ですわ」
「ですね」
「元の世界でもそうなんだけど、
面倒だ、眠たいって時の目ほどみんな真面目だとか勘違いするんだよな」
「じゃあ明日は応援に行きますから頑張ってくださいね」
「いや、アルシェは中立でいてくれよ。ややこしくなるから」
* * * * *
という訳でアドバイザーとしてスィーネをお呼びして、
2番水源に来ております。
『なんで[竜]なの?
竜って結構色んなやつがいるわよね?』
「確かに竜といえば種類も多いし、
属性も多岐に亘るけれど、
俺のいた国では水の守り神として竜が有名なんだよ。
他だとイメージが浮かばなくて纏うことも出来なかったんだ」
『なるほど。目標とは違うけど纏えてはいるんだし、
これなら善戦出来そうね』
「感覚がシンクロと違うからなんとも言えない。
制御出来ないと宝の持ち腐れだからな」
『竜玉は扱えるんでしょ?』
『かなりらくだよ~』
「制御の訓練が効いてるのと、
俺のイメージがしっかりしているお陰で竜玉なら、
俺もそれなりに制御出来る」
『それだけじゃないと思うわよ?
お兄ちゃんさ、浮遊精霊見えてるんじゃない?』
「あぁ、わかった?
実は落水の翌日から半透明だけど、見えるようになってるよ」
『多分だけど、精霊使いとしての質が上がったんじゃない?
簡単にいえば精霊との親和性が上がったんじゃないかしら?』
「アルシェは話も出来るみたいだぞ?」
『アルシェだって意識しないと姿を見る事も、
話をする事も出来ないはずよ。
あの娘は加護があってこそで、
お兄ちゃんは存在として質が上がったの。
私達の主として、成長したの』
「つまり?」
『親和性が上がったということは、
精霊と仲良くなったということ。
精霊は魔法生命体な訳だから、
仲良くなったということは、
魔法の扱いが上手くなったということよ』
「なるほど、俺の適性が底上げされたわけか。
精霊使いのジョブレベルが上がったようなもんだ」
さらに詳しく聞くと、
元々精霊との親和性が高かった為、アクアと契約ができた。
続けて進化やクーの加入、仮契約が重なり、
精霊使いとしての経験値が加算、
結果として精霊との親和性が増し、
精霊使いとして?俺という個体の質が上がったのではという事らしい。
「最終的にはどうなるんだ?」
『大精霊様をも従えるようになれば、
・・・神?』
「そこまで成長したくないわ!
スィーネの予想が当たっていた場合、
仮契約組を解約したらどうなるんだ?」
『どうにもならないわよぉ?
上がった質は戻らないわ。
私達と契約しなかったとしても、
いずれは上がっていたわけだしね』
つまり、精霊と契約する事は双方に取ってプラスにしかならず、
win-winの関係になる。
素晴らしいじゃないか!!
「じゃあ、仮契約は解約しなくてもいいんじゃないのか?」
『いやいや、お兄ちゃん達には契約容量ってのがあるの。
質が上がって確かに容量も増えたかもしれないけど、
契約が増えればアクア達に流れる経験値も分配で少なくなるわ。
戦力にならない契約は切ってアクア達に集中しないとっ!』
「そんなに怒るなよ・・・」
『お兄ちゃんが大変な事をしようとしてる事、
その障害が大きい事がわかっていれば、
貴方達を生かすために身を引くのは当然よ。
アクア達が居ないと戦えないんでしょ?』
「そう・・だな。わかった。
ありがたくその話は受けることにするよ」
いつもお読みいただきありがとうございます




