閑話休題 -91話-[ナユタの民の新天地③]
電撃殺虫機のおかげで毎日コバエが死んでいく。それでも目の前を飛んでいくコバエ。
コバエって絶対に無から産まれてるよね……。
あ、ブックマークありがとうございます!
場面は進み、ナユタの民や世界樹の麓村の映像が流れた。
そしてナユタは完全体へと至る。
「うわぁ……」
「これ……本当にあった出来事なのですか!?」
「………(ガタガタ)」
世界樹から禍津大蛇が抜け出てナユタが完全体へと姿を変えたところで部屋の方々から先の声が上がって来た。
この世界は映像という技術は広まっていない分新鮮で、俺たちが流す映像は俺達目線の物ばかりなので尚更リアルに感じてしまうのだろう。異世界の絶望的な状況だけでも息を呑み表情を暗くしていた面々も俺とナユタの戦闘に至っては手に汗握って画面に見入っていたというのに……。
巨大化した完全体ナユタを観た途端に再び絶望に心を支配された。
「完全体……。これは我々の世界では起こらないんだな?」
「はい。あくまで魔神族個人の故郷となる世界でのみ発生します」
そんな中でも巨大な敵に関してはフォレストトーレ旧王都で一度見た経験があるからかラフィートは落ち着いていた。
とはいえ、目の前で恐怖映像が上映されている中で確認されたその事実は誰の耳にも届かず皆恐怖に包まれたままだった。
最初の砲撃、サンダーフォール時の絶体絶命感。そしてナユタが消失して禍津大蛇を消滅させるところまで上映されて、ようやく異世界の出来事の報告が終わりを告げた。
『《解除》』
クーが映像と夜を終わらせた事で上映会が終了したと認識したのか、夢心地な雰囲気の各々が一息吐いて手元のお茶に手を付けている。
結局、ちゃんと映像に合わせて資料を確認出来ていたのはラフィートとゲンマール氏の両名だけだったな。
皆が落ち着くのを待ちつつクーとベルの二人に労いの言葉とナデナデで感謝を示す。改めて文官と近衛たちが資料を捲って先ほどの衝撃映像を思い出しつつ内容を読み漁り終わるのを待って言葉を掛けた。
「以上が魔神族。霹靂のナユタの世界攻略の記録です。
このような活動がアスペラルダの至宝、アルカンシェ様と私を筆頭に各国の王族並びに腕に覚えのある一部の人々が秘密裏に解決しようと藻掻いている破滅対策と呼ばれる作戦の最新情報となります」
「フォレストトーレは大打撃を受けたから協力らしい事はあまり出来ていないが、彼らのクラン[七精の門]にはフォレストトーレ出身の冒険者PTが二組所属している」
「王族が主導では無いけどこれ以上求める事も出来ないから出来そうな事を相談している状況だな。あと風精には普通に協力してもらっている。ちなみにギルドにも連絡網などで助けてもらってますし、ユレイアルド神聖教国は光精とアナザー・ワンの提供。アーグエングリンは土精と拳聖エゥグーリアの派遣で協力いただいています」
各国の王族。協力者の存在。多くの人に支えられているとはいえ少数精鋭での現地活動。
フォレストトーレ旧王都の件は資料と現地の残骸を見る事でしか知らなかった想像も出来ない大きな事件だったけれど、今まさに映像資料を元にどのような事が世界で起きているのか。どのような敵を相手にしているのか。どれほどの高難易度に挑んでいるのか。
今までただの無礼な男としてしか見ていなかった壇上に立つ男がいまは崇高な使命を帯びた勇者にも見えて来る。
「あ~、勘違いしないで欲しいのですが…。
我々は聖人でもなければ勇者の様に多くを救う為に活動はしていません。魔神族を相手する時も勝てずとも負けない事が前提であるし、救えないとと判断すれば切り捨てる事もあります。現にフォレストトーレ旧王都でも一部生存者を見捨てていますし異世界でも残ると選択したナユタの民を見殺しにしています。
何が何でも助ける、なんて高尚な意思は持ち合わせていません。助けられれば助ける程度の認識でお願いします」
「……。見捨てたと言っても生存が絶望的だった事と少数精鋭での救出劇だった為、二次被害を防ぐ意味でも取捨選択しただけだろう。
貴様の言う通り当時勇者と聖女は続行を希望したそうだが、貴様たちの選択が罪であるかの様に言い張るのは止めろ。助かった命があり命辛々撤退した事も事実なのだろう。伝えるならば最後まで状況を伝えろ馬鹿者が……」
「そうですな……。出来得る限り手を貸してくださる。
此処ハルカナムも水無月殿達のおかげで多くの者が助けられました。倅の件は残念でしたがどうしようも無い事まで背負う必要は無いのです。少なくとも私も陛下も貴方の苦悩を理解しているからこそその傷口を責めないのです。事情をある程度知り、貴方方と関わった者は皆、責めない。それはそう言う事です」
力が足りなかった。助けたかった。死ぬ覚悟が足りなかった。助けられたはずだった。責められたくない。
後悔ばかりが先行して助けられなかった事は仕方ない事と当時は切り捨てても心には傷が付く。
今以上に傷付く言葉を投げられたくなくて牽制して、必要以上にスタンスを伝える姿勢にラフィートもゲンマール氏も不快感を示した。
助けられた者の声を無視し過ぎている、と。
「……発言宜しいでしょうか」
「かまわん」
俺の立ち位置を伝え、ラフィートとゲンマール氏の言葉を受けた文官メンバーはアイコンタクトで意思を統一した後に挙手をして発言を求めて来た。それにラフィートが許可を出すと先ほどよりは落ち着いた表情で話し始めた。
「私達はフォレストトーレ国の運営をする為に国民の生活向上や立て直しの為に様々な情報を集めて働いております。
私達の活動は設立初動に国中に宣言しておりますので国民は皆、ここが国の中心となっている事を知っているのですが。
時折、旧王都から救出された方やそのご家族から形式上の献上品を頂戴する事があります。それらには感謝の言葉が添えられています」
「基本的には我々への感謝と頑張ってほしいという言葉ですが、あの時救出に尽力してくれた方々へも同様に伝えて欲しい事。
出来れば面と向かって感謝を伝えたい希望が多く書かれています」
「……私は救出された従兄を引き取り共に暮らしております。
常々誰とも知れない救出してくれた方への感謝を食事の際に口にしています。目覚めてから今日までずっとです。
貴方様の立場上表に出てこない理由を私達は知り得ませんが、アルカンシェ王女殿下に我らから伝える事も叶いませんので貴方様からお伝えください。我々を含め、フォレストトーレ国民は貴方様方に感謝をしております。隣人を、家族を、知人を助けてくれた。また再会することが出来た。また笑いあえた。これらは我らの宝物となり失いたくないと強く思う様になりました。
だからこそしっかりと我々の思いを受け止め、受け入れてください。本当に、本当にありがとうございました!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
良い援護が入ったとラフィートは考えていた。
友人となってから幾度となく言葉を交わした水無月宗八という男は変わっていた。
普通であれば功績を立てれば大々的に公表して各方面からの評価を高め、出世を目指したりギルドランクを上げたりとするのに、何故か自身を過小評価する割には強大な敵を退け街を救う。そして全ての功績はアルカンシェ王女殿下に押し付けるのだ。
文官達の申告と近衛も含めた側近たちによる感謝の言葉を受けた宗八は複雑な表情を浮かべていた。
涙を浮かべているので心は打たれているのだろう。なのに嬉しくなさそうな表情。
以前から聞いている宗八の予定では、勇者メリオが魔王を倒せば宗八も一緒に元の世界に送還される。だからこそ、その後に現れる破滅に対応するリーダーをアルカンシェ王女殿下にと設定しているのだ。自分が表立ったリーダーになると突如リーダーを失ってしまい一致団結の邪魔になるからと。
その言い分は理解出来る。
だがそれと感謝を受ける事でのあの表情は別に思う。単純に人間性なのか元の世界のトラウマなのか……。
為政者としては理解出来ても友人としては面白くない。感謝は嬉しい物だし意欲に繋がるのだ。
人としてどこか壊れているように思える宗八も子供達には父親らしい……いや、親馬鹿らしい表情もしているし、ここでバランスを取っているのかもしれない。
『お父様、クーはいつもお父様から褒められて嬉しいですよ。もっと頑張ってもっと褒めてもらおうといつも思います』
『ベルも褒められて嬉しいよおお!パパは理想が高すぎるってベルは思うなぁ。
完璧主義って言うんでしょ?でも、皆が居てそれでも完璧に出来ないって事は、もうしょうがないって思うしかないと思うよ』
『(嬉しいなら素直に泣けば良いではないですか。色々とお父様は複雑に捉え過ぎですよ)』
ほう。娘たちは宗八の歪さを分かっていたのか。
視線が三度変わった。闇精の子、光精の子、そしておそらく無精の子も二人に続いて意見をしたのであろう。
結局、宗八は涙を乱暴に拭うと「ありがとうございます。皆さんの言葉は必ず伝えさせていただきます」と言ってこの場を終わらせる様だ。宗八にあとどれだけの時間が残されているかは分からないが素直に感謝を受け止められるようになればいいとラフィートは心の中で願うに留まった。
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