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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第02章 -大滝の都ポルタフォール編-
30/430

†第2章† -06話-[大滝の都ポルタフォールの水難事情:3日目前編]

 朝が来た。怒涛のポルタフォール3日目の朝だ。

 この2日でそれなりの進展はしたんじゃないかな?

 今日中に確認したい事ややりたい事を考えながらベッドから出る。

 脇を見るとアクアとクーがそれぞれ俺の左右に陣取って寝ていた。

 夕御飯を食べてからの就寝は熟睡するに足るリラックス効果を産み、

 俺は一切途中で目覚めることもなく今まで寝ていた。

 それにしても部屋が暗いのは、

 ポルタフォールが大穴から脱していない証拠である。

 こんな暗い朝を迎えては街に住む皆が引き篭もっても仕方ないだろう。


「アクア、クー。朝だよ。起きなさい」

『『く、はぁ〜〜あ・・・』』


 2人して大きな欠伸をする。

 属性が違うくせにだんだん仕草が似てきてないか?


「もう起きるから2人も食堂に移動するぞ」

『あ〜い・・んむ』

『お姉様、寝る前にせめてお父様にくっつきましょう・・んむ』


 もぞもぞふわふわと俺に近付いて、いつもの定位置に着地する。

 クーは俺の影に入って二度寝するつもりらしい。

 2人を連れて洗面所で顔を洗う・・前に頭上のアクアを先に洗う。


「ほら、アクア目を開けろ。

 水で眠たいと言ってくる目ん玉を起こすんだ」

『んむぅ〜。じぶんでやるぅ〜』


 無詠唱で小さいウォーターボールを出して、

 ペシャペシャと顔を洗いだすのを確認してから自分も洗う。

 顔をタオルで拭いてアクアを見ると、

 終わらないペシャペシャを続けている。

 まだ寝惚けているようだ。


「アクア、顔拭くから水は洗面所に流しなさい」

『あい〜』


 擦らないようにパンパンとタオルを当てて水気を拭う。

 タオルで顔に刺激を受けた影響か、やっと目を覚ます。


『クーもおこす?』

「食べ終わってからでいいよ。食堂に行こうか」


 食堂に顔を出すといつも通り俺達が1番のようだった。

 主人に声を掛けて朝食の準備を始めてもらう。


「おはようございます、旦那。

 朝はがっつり食べますか?軽くしますか?」

「おはようございますご主人。

 がっつりでお願いします、

 この娘は軽い方の半人前で」

「わかりました」

『たりるかな?』

「足りなかったら俺の分けてあげるよ」

『あ〜い』


 15分も待てば主人が俺とアクアの朝食を持ってきた。

 すごくいい匂いがするので、おそらく匂いに吊られて女性陣も出てくるんじゃないかな?


「おぉ、美味しそうだ!」

『おいしそうだ!』


 いわゆるバイキング式ではあるが一人用に調整されている。

 パンに好きな具材を挟んで食べていくタイプだ。

 香辛料が効いているようで肉なんかは凄い俺の鼻を刺激する。

 主人がプレートを持ったまま近くのテーブルに設置してこちらへ目配せしてくる。


「食べたいお肉を指定していただければすぐに焼きますので」


 なんということでしょう。

 目の前で焼かれた肉を食べられるとは!


「ありがとうございます。では・・・」

「『いただきます!』」


 食べ始めればなんと美味いことか!

 朝からここまでがっつり料理を食べる気になる匂いに釣られてどんどんと肉を注文する。

 アクアもパクパクと食べ進めて、

 途中から俺の最後のひと欠けをアーンのポーズで大口構えで待っている。


 女性陣も次々と現れては主人に朝食を頼む。

 1人で大丈夫なのかと思いきや、奥から女性が登場した。

 なんでも当初は奥に引き篭もっていたが、

 イセト氏の演説と主人の説得により気を持ち直したらしい。


 軽い方を頼む女性陣。

 だが食べ終えるのはやはり早く、まだまだ食べ続ける俺達を眺め始めた。


「お兄さん、朝からいっぱい食べますね」

「これすごい美味しいからな」

『おいしい〜』

「さっきからアクアが可愛すぎますわね」

「同感です」

『ボクも受肉しないと食べられないんですね・・・』

「ノイは土魔力を食べれてないから闘技場以来、

 まったく成長していないんじゃないか?」

「ですわね。水無月(みなづき)君が加護をもらっていれば・・・」

「大精霊になんてなかなか会えないし、

 加護持ちに知り合いは居ませんから。

 アクア、まだ食べるか?」

『まんぞくした〜』


「「「「『ご馳走様でした』」」」」



 * * * * *

「今日はいかがしますの?」

「俺は冒険者に合流しようかと思う。

 パーティ組んで、エクソダスで少しずつ街に戻そうかと」

「じゃあ一旦私達と分かれるんですね」

「1番にはアクアとクー、

 スィーネもいるから、護衛はまたアルシェに任せる。

 メリーはアルシェについててあげて」

「わかりました」「かしこまりました」

「私はどうしますの?」

「それなんですけど、セリア先生って空を飛べますかね?」

「まぁ、風を使って飛ぶことは出来ますわ。

 何かの調査ですの?」

「カティナを連れて街の上空を調べていただけないかと・・・。

 そこさえ何も無ければ俺も空を気にする必要がなくなりますので」

「人を連れてであれば少し難しいですわ。

 私だけならばかなりの高度まで上がることが出来ますけれど」

「重量さえなんとかなれば可能と?」

「え、えぇ。でもそれってノイにって事ですわよね?」

『え?重力なんてまだ使えないです!』

「セリア先生は重力魔法の知識とかないですか?」

「流石に土魔法ならいざ知らず、重力は使えませんわよ」

「ん~、クーなら連れて行けますか?」

「まぁクーなら問題ありませんわ。

 受肉もしておりませんし、まだ小さいですから」

「広範囲に先生の限界高度までお願いします」

「今日一日掛かってしまいますわよ?」

「安全を確かめるためですから。

 これ以上は気にしても対した成果が出るとも思いません。

 いいかな、クー?」

『大丈夫です、お父様。今日はよろしくお願いします』

「こちらこそよろしくお願いしますわ、クー」

『ボクはどうしますです?』

「ノイは俺と重力について考えようか、お互い暇だしな」

『まぁ、出来ることが増えるのは良い事ですし、

 元マスターと一緒にいますです・・』


 これで3日目の動きが決まった。

 アルシェ・メリー・アクア・スィーネが1番水源。

 セリア先生・クーは空。

 俺・ノイ・カティナは時間があるので、

 カティナには俺のお願いを優先してもらって、

 俺とノイは少しでも重力魔法が使えるように頑張る。



 * * * * *

ー8:45


「スィーネさん、おはようございます」

『あら、早いわね。お昼頃に来るかと思ったわ。

 今日はそちらのお姉さんも一緒なのね。メリーさんだっけ?』

「おはようございます、スィーネ様」

『はい、おはよう。

 じゃあさっそく始めましょうか、アクアーリィちゃん?』

『きょうはよろしく~』

『あら?昨日とは打って変わって機嫌がいいわね』

「お兄さんと朝から仲良しでしたから」

「ともて仲睦まじかったですから」

『ははぁーん。まぁ、空気が悪いよりはマシね。

 魔法の指導も頼まれているし、仲良くしましょ』

『ますたーはあげないけど、なかよくしましょー』

『・・・』

「・・・」

「あ、私は周辺を探索してきますね」

「メリー、ずるい!」



 * * * * *

ー8:45


「では、着替えも済んだし調査に行きましょうか」

『セリア先生。その格好はお父さまのイメージにある妖精のようです』

水無月(みなづき)君の世界はどうなっているのかしら。

 これは[精霊の衣]といって、

 ある程度成長すると家族から貰える伝統の衣装なのですわ。

 私のは風精霊仕様ですが、

 クーやアクアもいずれ貰えると思いますわ」


 それは体のラインを出す薄い服と、羽の装飾があるブーツに、

 体の動きを阻害しない上着の二枚重ねの衣装であった。

 背中には穴が四つあり、セリアが魔力を上着に込めると。


『ふわぁー!羽根が生えましたぁ!』

「精霊といっても成長するにしたがって人に近づきますわ。

 ですので、大人になるとこの衣が無いと空を飛べないんですの」


 四枚羽根は穴から少し離れて発生した魔力の羽根。

 半透明ながら緑色のクリスタルのような美しさを持ち、

 風を常に纏っている。


「さぁ、そろそろお空へ行きますわよ」

『はい、セリア先生。よろしくお願いします』



 * * * * *

 ー8:48


「アレはセリアデスネ!あちし達の衣は地味デスカラ、

 空を飛べるのは風精霊だけなんデスケドォ」

「もっと近くで人が飛ぶところを見たかったなぁ。

 帰ってきたらクーに感想聞こ・・・」

『衣ってなんです?』

『成長が一定に達したら一人前として扱われるデスネ、

 そしたら受肉組が[精霊の衣]をくれるデスカラ』

「ノイは地元に帰るからいずれ貰えるだろうけど、

 アクアとクーはどうなんだろ」

『こういうのは親交のある奴が渡す慣わしデスカラ、

 クーはあちしか爺ぃがあげることになるデスケド、

 アクアはわからないデスカラァ!』

「まぁ、すぐの話じゃないならいま気にしても仕方ないだろ」

『そうです。ボクは成長しない事には意味の無い話です』

「じゃあカティナ、

 頼んでたやつを先に用意してほしいんだけど」

『準備はしてるデスケド、

 片方はミナヅキのアニキ達に本来追加しちゃいけないデスカラァ』

「無理言ってるのはわかってるよ。

 出来ることには協力するからさ」

『任せてクサイ!

 あっちが駄目でも、もうひとつはあちし達の作品デスカラ、

 確実に手配をしマスカラ!』


 俺達は世界をあちこち動く必要がある。

 特に破滅の呪いが本当にあった場合、

 [異世界人]の称号持ちが動き回らないといけなくなる。

 どこでもとは言わないが、

 行ったことのある街くらいには転移できるようにして欲しい。


 もうひとつは遠方との連絡手段。

 カティナがクーと連絡を取り合う為に提供してきた魔道具で、

 これはカティナ自身がアーティファクトを解析して造ったらしい。

 まぁ、正確にいうとカティナを頭に据えた研究チームの成果だそうだが、

 これから仲間に交渉するそうだが、俺もタダでしてくれとは言えない。

 人様の財産を分けて貰おうと言うのだから出来る限りのことはする。

 クー用の魔道具は首輪だからと、

 俺達用に造形を造り直してから渡してくれると約束してくれた。

 今日は手が空くので一旦魔法ギルドに帰って、

 明日改めて顔を出してくれるらしい。


「じゃあ、明日な。

 こうなるなら昨日の夜のうちに帰ったほうが良かったか?」

『あっちはベッドが使えないデスケドネ!

 魔道具そこらへんに落ちてマスシネ!』

「掃除しろよ・・・」

『善処しマスケド・・・でわ、明日デス!』

『また会いましょうです』


 別れを告げてそのまま転移門の向こう側へと消えていった。


「さぁ、俺達も水源に移動して冒険者を回収するぞ。

 ついでに重力についても色々試して感覚を掴むぞー、おー!」

『おーです。ボクは土に適正があると思うですけど、

 その辺はどうなんです?』

「今までの経験上は確かに精霊は表属性に適正が多いな。

 まぁ、全く使えないわけじゃないみたいだから、

 重さの軽減くらいは出来るように頑張ろうや」

『乗りかかった船です。

 やりますけど、元マスターに関わると大変な目に遭いますです』

「俺のせいじゃないと思うんだけど・・・。

 スィーネに一旦送ってもらって3番水源の冒険者と合流しよう」



 * * * * *

 ー9:00


 1番水源に[エクソダス]で到着すると亜空間入り口の脇にアルシェが体操座りしていた。

 亀裂からは2つの放水が行われており、勢い良く放物線を描く方向と、

 勢いの弱い方向に居る2人が排水作業をしながら会話をしているようだ。

 遠くから見ると13歳の女の子という本来の姿を思い出させるアルシェが、

 集団からあぶれた様に見えて少し心配になる。


「どうだ?順調か?」『お疲れ様です』

「お疲れ様です、お兄さん、ノイちゃん。順調と言えば順調ですよ。

 スィーネさんの態度に、アクアちゃんが様子を見ている感じですね」

「まぁ、一日も付き合っていれば慣れるだろ。

 アクアにしてみればいきなり現れた遠縁の親族だしな」

「私も待ってるだけでは何ですから、少し[水纏マテリアライズ]を研究してたんですけど、

 やっぱり人間向きの魔法ではありませんね」

「あれは精霊にとっては装備に値する魔法だからな。

 魔法生命体である精霊は服まで自前の魔力だから、

 魔法で造る鎧を着るようなもんだ」

「人間だと体全体のエンチャント扱いになるみたいで、

 消費MPとか効果とか色々確認しているところです」

『あぁ、クーデルカが使っていた強化魔法です?』

「そうですよ。お兄さんがアクアちゃんとクーちゃんの2人と、

 協力して造った魔法なんですよ。

 本来は適性のないもうひと属性を纏って補う魔法なんですけどね」

『ボクだったら重力ですか・・・重くなるだけです?』

「いや、そこは工夫次第だろ」

「それで、お兄さん。なにか用事があったんじゃないですか?」

「そうそう。スィーネに3番水源に送ってもらおうと思ってさ。

 徒歩で行くには遠くて、夕方になっちゃうからさ。

 冒険者を回収する前に3番に行く手段を失念してたんだ」

「なるほど。じゃあすぐにスィーネさんを呼んできますね」


 スィーネを呼びにアルシェが亜空間に顔を突っ込んで声をかけるが、

 初めに飛び出してくるのは当然呼ばれたスィーネではなくアクアだった。


『ますたー!』

『ちょっと!呼ばれたのは私なんだけど!アクアは作業を続けなさいよ!』

「こらこら、こんなことで喧嘩するな。

 スィーネに3番水源まで送って欲しいだけなんだから」

『あくあもいく~』

「アクアは作業を続けなさい。

 この排水は必要な工程なんだから、みんなの為に頑張ってくれ」

『あい~』

『この物分りの差はなんなのかしらね』

「まぁ、出会って1日しか経ってないんですから仕方ないですよ。

 始まりも良くなかったですしね」

『あくあがんばるよ~ますた~!』



 * * * * *

 ー10:20


『だからぁー、氷魔法なら色んな造形の攻撃魔法を造れるけど、

 本来水魔法は攻撃に向いてないの。

 水の制御を鍛えてから、始めて攻撃を考えられるの!』

『たとえばー?」

『まず水を放射するでしょ。このままだと水を掛けているだけなんだけど、

 速度を速めていくと遠くに飛ぶようになる。

 さらに速度を上げて一定のラインを超えると大きいものも押すことが出来る。

 この速度を保ったまま水圧を上げて一点に縮めると・・・岩も貫通出来るわ』


 排水のついでに水のコントロールの大切さを教えているスィーネ。

 アクアもそれなりに操作が出来るため、話半分に聞いていたが、

 目の前で大岩が真っ二つになるのを見せられると、

 自分でも挑戦し始める。


『ながす、はやめる、ちぢめる・・・ながす、はやめる、ちぢめる・・・』

『そうそう、流石は精霊使いの契約精霊ね、センスがいいわぁ』

『・・むっふふ~』

『こら、集中力を保ちなさい。

 戦闘中に気を緩めてお兄ちゃんに怪我をさせる事になるわよ』

『っ!あい!』


 ゆっくりではあるが排水のために亜空間から放水していた水の軌道が延びていく。

 アルシェは亜空間の外からスィーネの声を盗み聞きして、自分でも試してみるが、

 アクアのように上手くいかない。

 適正の関係上仕方ないとはいえ、今回の排水を直接手伝えないことを気にして、

 技術向上の為に秘かに練習していた。


「放水、加速までをひとまずやりましょう!

 上がった速度を保ちながらの凝縮はまだ出来ませんからね・・・、

 こうかな?上がった?勢いが強くなった・・・かな?」


 自分の掌に放水をしながら微調整をして、勢いを上げる練習をしていた。


『他にも縮めないで造形を整えれば・・・≪アクアドラゴーン≫なんてねぇ♪』

『ほぉ~。かっこいい・・・』

「わぁ~。かっこいい・・・」

『でも、足元の水から尾を切り離すと途端に制御のレベルが上がるから、

 使っても水辺限定ね。

 手元から離してなおも制御するなら、もっともっと頑張らないとね』



 * * * * *

 ―10:34


「これで全員だよな?」

「あぁ、朝のうちに点呼も取ったし、

 各パーティで確認も取っているから俺達が最後だ」

「そかそか。それにしても何で在中冒険者が[エクソダス]の登録をしてないんだよ」

「知ってはいたんだよ?ただね、ここまで奥地に来ることもないし、

 王都に登録を残しておけば街道の移動もしなくていいから気軽に遊びに行けるんだ」

「そう聞くと納得できるな。

 ギルド職員が職務怠慢で説明してないのかと思ったよ」

「ははは、そんなわけないだろ。

 この街に着いた直後に説明は受けるぞ」

「そのあとは?」

「・・・・一度も聞いた事はないな」

「訪問説明から工事までの期間に初めの説明を忘れてクレームになるパターンだろ」

「え?何の話?」

「いや、こっちの話だ。あとはこっちで排水作業を行っているから、

 それが終われば解決する予定だ。

 念のために上空を調べてもらっているからそれ次第ではあるけどな」

「俺達の力不足でスマンな。

 外から来たお前達に全部任せっきりにしてしまって」

「俺1人ならみんなと変わらない程度の手伝いしか出来なかったよ。

 どれも精霊が居てこその動きだよ」

「精霊か・・・なかなか会えないと種族と聞いていたのに、

 一度に4人と会うなんて奇跡だと思うよ。

 ともかく、何か手伝えることがあれば遠慮なく声をかけてくれ!」

「はい、そのときはよろしくお願いします」


 冒険者全員を[ポルタフォール]へ送り届けるのに結構時間が掛かった。

 今までは気付かなかったが、こうして連続で使うことで新たな発見があった。

 今回9回に分けて[エクソダス]を使用したのだが、

 1回使う毎に5分程度のクールタイムが存在した。

 本来はダンジョンから帰る為に使う魔法なので気付かなかったが、

 街へ戻る→転移門から現地に戻るまでが1つの魔法で、

 その次に使おうとしたら発動しなくてすごい焦った。

 何度か時間をおいて試すと使えたから、徐々に時間を計っていき、

 おおよそ5分程度ということが判明した。


「さてと、スィーネに迎えに来てもらってから魔法の訓練しよう」

『はいです。今日中にコツを掴むです』

「俺は使えるようになるのを目標にしようかな」

『ハードルを上げないでほしいです・・・』



 * * * * *

 ―10:51


 アクア経由でスィーネに迎えに来てもらい1番水源に到着した。

 朝に見た時に比べてアクアの放水技術が向上しているような気がする。

 放水線も勢いも良くなり、順調にスィーネから吸収しているようだ。


「ただいまー」『戻ったわよー』

「お兄さん、ノイちゃん、スィーネさん。おかえりなさい」

『ただいまです』

「アクアのコントロールが良くなってるな。ありがとう、スィーネ」

『まぁ、片手間だしね。問題ないわ。

 じゃああっちに戻るからね』

「仕事熱心な精霊だな。守護者の立場なら当たり前か」

「ですね。4つのうち3つが占拠されてどうしようもなかったようですし、

 ここが頑張り処だと思って作業をしているんだと思います」

「アルシェはさっきしてた続きをするのか?」

「そうですね。[水纏マテリアライズ]はまだ私風に改良するのに時間が掛かりますし、

 スィーネさんの講義を聞いて水の制御の特訓をします」

「わかった。

 さてと、ノイ。仮契約しとくか」

『元マスターの感覚やイメージを掴むためですね。

 ボクはまず重力を理解出来てませんです。

 初めの一歩の為に必要なら協力をお願いしますです』

「よしきた。じゃあ久し振りによろしくな、ノイ」



 * * * * *

 ―11:15


 1番水源に戻ってすぐにスィーネは亜空間の向こうへ消えていったが、

 その後すぐに入れ替わりでアクアが俺に飛びついてきた。

 スィーネから俺が褒めていたと聞いたらしい。

 アクアをあやしてから作業に戻してから、ノイと仮契約を行う。


「アルシェ。戻る前にちょっと協力してくれるか?」

「え?私がですか?流石に重力で協力できるとは思いませんが・・・」

「簡単だから頼むよ」

「まぁ、お兄さんがそういうのでしたら。

 私は何をすればいいですか?」

「今から俺がアルシェを抱え上げる。

 そのときに自分を、とある物だとイメージを強く持っていて欲しい」

「はぁー、よくわかりませんがその程度なら」

「ノイは俺の感覚をよく認識しろよ」

『わかったです』


 まずは重力を感じること。

 重さの違いを感じて理解をするにはどうすればいいのか。

 なんて考えた時に実際これしか思いつかなかった。


「まずはアルシェ。自分を鳥の羽根だとイメージして。

 鳥の体から抜けた一本の羽根だ」

「はい・・・」

「持ち上げるぞ。俺が降ろすまではイメージを崩さないようにな」


 失礼して両脇に手を滑り込ませてそのまま持ち上げる。

 うーん、軽いなぁ。イメージがなくとも良かったかもな。

 そのまま10秒ほど持ち上げてからゆっくり降ろす。


「ノイ。ちゃんと感覚は認識できたか」

『はいです』

「よし。次は自分を大樹だとイメージしてくれ。

 足の裏からは根っこが地面に張り巡らせているイメージだ」

「はい・・・」

「持ち上げるぞ・・・ふっ!」

「『っ!?」』


 先ほどと同じように10秒ほど持ち上げてからゆっくりと降ろす。

 イメージに集中していたアルシェが目を開けてこちらを見てくる。


「さっき・・・気合を入れて持ち上げましたね」

「いや、これは仕方ないことなんだよ。

 アルシェもやる機会があればわかるけど2度目は重く感じるんだよ」

「・・・?

 どういうことですか?」

『ボクも感じましたが、確かに2度目は重く感じましたです』

「1度目は羽根のイメージをしてもらった。

 これは本物を持ってみるとわかるが、ほとんど重さを感じない。

 だから、アルシェもふわふわで風に飛ばされるようなイメージだったと思う」

「そうですね。外れてはいません」

「そのイメージをしている時のアルシェの体はリラックス状態になっていたんだ。

 無駄な力が抜けている状態。[ニュートラル]と呼ばれる状態なんだ。

 体ってのは力が入っていなければ軽くなる・・、

 わけではないが、重さを感じにくくなる」

「お兄さんは1度目に私を持ち上げた時はどう思いましたか?」

「イメージがなくても良かったかな、と思うくらい軽く感じたよ」

「そうですか。なら、いいです」

『2度目は体に力が入っていたということです?』


 新感覚を経験したノイは知識欲に身を任せて俺に問いただす。


「大樹と言うのは大きい、どっしりとしている、

 嵐が来てもびくともしない。

 基本的にそのイメージに行き着くが、それだけではなくてね。

 アルシェは無意識に腰を落としてしたんだよ」

『腰です?』

「安定を図る=腰を落とすという認識をアルシェは戦闘訓練で身に着けている。

 これをするとちょっとした事では当たり負けしなくなる」

「ですね。お兄さんの言うとおりに体に染み込んでいたのでやっていたと思います」

「すると、体の硬直具合は1度目とは異なっている訳で・・・、

 逆に重さを感じやすくなる。

 アルシェという1人の重さの違いを認識できたか?これが重力の一歩目だ」

『重さの軽減と増加ですか』

「そうだ」

「お兄さんはすごい事を知ってますね」

「俺の世界だと結構知ってる人は多いやり方だと思うけどね。

 イメージの大切さを学ぶ時とかでやるんだよ」

「へぇ。ノイちゃん、今度は私が持ち上げますんでイメージしてもらえますか?」

『はいです』


 アルシェがすぐさま自分でも持ち上げられるノイに協力を仰いでいるが、

 受肉していないノイの重さはわからないんじゃないかな。

 まぁ、わからなくとも後でアクアを持ち上げればいいだろう。


「あれ?そういえば、メリーは?」

「周辺の探索に出て行きましたよ。

 こんな森の奥でも調べごとなんて熱心ですよね」

「そうだなぁ」


 多分レベル上げとかしてるんじゃないのかな?

 ダンジョンに一緒に潜っていなかったからレベルに差が出ているんだろうし、

 アルシェに努力しているところとか見られたくないとかじゃない?

 まぁ、俺の妄想だけどね。

 本当に探索している可能性もあるし。


『魔方の基礎構成は出来ましたです。

 あとは発動を繰り返して反応を確認、

 再構成ですね』

「お前らはいいよなぁ、

 魔法を自分達で創り替えることが出来るんだから」

『そんなの上級魔法まで覚えた魔導師か、

 魔法生命体だけです。

 マスターだって上級を覚えれば改変も新しい魔法も創り放題です』

「ですね。お兄さんに出会って刺激された事で新しい魔法も生まれているんです。

 私も本当ならいまもお城にいたはずなんですよ?」

「とはいっても、[イグニスソード]がなくなった今、

 初級魔法しか使えない俺の単身戦闘力が低過ぎるのは何とかしたいんだよ」

「魔法で武器が造れれば解決出来そうなんですが・・・」

「使えないからねぇ」

『・・・魔方陣を解析して、詠唱文に起こしたらどうです?』

「それってお前達の中に待機しているものだろ?

 解析するにしてもそんな事可能なのか?」

「カティナさんなら出来ませんかね?」

『そうですね、カティナ様なら魔法ギルド幹部ですし、可能じゃないです?』

「なるほどな。詠唱破棄が基本のこの世界では一歩発動に遅れるとは言っても、

 事前に使う事で[アイシクルウェポン]を用意することも出来るか・・・」

「そうすれば、[氷竜一閃ひょうりゅういっせん]を個人運用出来るようになりますね」

「土魔法も覚えれば戦術の幅も増えるな。

 う~ん、カティナに頼りっきりだな」

『新しい魔法の研究が出来るんです。

 喜んで協力してくれるんじゃないです?』

「私もそう思いますよ」

「そうだな、明日話をしてみるよ。

 今は重力魔法の構成を色々試そうか」

『はいです』

「じゃあ私はあっちに戻りますね。

 ノイちゃん、頑張ってくださいね」

『お互いに頑張りましょうです』

いつもお読みいただきありがとうございます

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