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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第02章 -大滝の都ポルタフォール編-
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†第2章† -03話-[水源調査という危険な賭け:2日目前編]

 泥のように皆が眠った翌日、

 アクアとクーを抱えて部屋から出ると俺が食堂一番乗りであった。

 昨夜はこちらの都合で夜食を遠慮してしまったので、

 お詫びを入れようと思い誰もいないカウンター向こうの扉へ声を掛ける。


「ご主人はいますか?」

「へい、旦那。こちらに」

「おはようございます。昨夜は折角食事を用意してくれていたのに申し訳ない。朝食に回す事は出来ますか?」

「へ、へい。それは構いませんが、あのぉ・・旦那の態度が昨日と違い過ぎて対応に困るのですが・・・」

「アルカンシェ様が姫である事と俺がボディガードというのは間違いありませんけど、普段からあんな高圧的な態度じゃないですよ。昨日は街が異常な状態だったので話を強引に進めるため、あんな態度だったんです。不快な思いをさせたのであれば、すみませんでした」

「いえ、私どもにとってはお客様である事に変わりはありませんし、アルカンシェ姫殿下が泊まったとあれば箔が付くってもんでさぁ。食事はすぐ温め直せますがどうしますか?」

「皆が揃ったらお願いします」

「かしこまりました。街がこんなじゃなけりゃ、姫殿下にも楽しんでいただけたんですがね・・・申し訳ありません」

「ご主人のせいってわけではないし、いま冒険者と協力して解決に向けて動き始めてますから。安心とまでは言いませんが、希望を持っていてください」

「・・・へい!この街をお願いしますです」


 宿のご主人と会話をしている間にメリーとアルシェ、セリア先生が起きてきた。もちろん身なりは整えているけれど、疲れは抜けきっていないのか動きが気だるげに感じる。


「お兄さん、おはようございます」

「昨夜はよく寝られたんじゃないのか?なんでそんなに元気が無いんだ?」

「・・・お腹が空いてまして」

「・・・私もですわ」

「私はアクアーリィ様と昨夜食べましたので」


 俺もお腹と背中がくっつきそうな程空いているさ。

 みんな揃ったし朝食の用意をご主人に頼み、今日の予定をみんなに伝える。


「午前中の内に俺とセリア先生は町長邸に行って治安回復の演説の手伝いをしてくる」

「人使いの荒い方ですわね。それで、誰が演説するんですの?」

「町長秘書のイセト氏にしてもらいます。本物の町長は穴の外に避難しているそうですから、このまま帰ってきても本当に街のために動けるイセト氏に支持を集めておかないとまた同じような事になりかねませんから」

「私はどうしますか?」

「別に休んでいてもいいんだけど・・・アクアと水嵩の調査でもするか?」

「あぁ、水源のモンスターを倒したからですね。あれ?そういえばセリア先生はなんで追われていたんですか?」

「水源の泉にあの大きなスライムが浸かっていましたのでこっそり近づいていったら小さいのに見つかってしまい、あぁなりましたわ」

「じゃあ、やっぱりアレが元凶の一体だったか・・・しまった!!!言われて思い出したけど利用されてた浮遊精霊を保護し忘れていたな」

『にぁ〜あぁぁぁ。いえ、お姉さまのお願いでクーの影倉庫(シャドーインベントリ)に保護していますよ』

「あらあら、大きな欠伸ですわね」

「その子たちをいまこちらへ招待することは可能ですか?クーちゃん」

『可能ですけど、話が出来るのはお姉さまだけですから・・・』

『ZzzzzZzzzz』

「とりあえず、朝食を食べている間に起きたらってことでいいかな?」

「そうですね。昨日は疲れたでしょうし」

「御飯も食べていたのですわよね。本当に受肉しているなんて・・・」

「メリーは今日どうしようか。昨日みたいに人数がいるわけじゃないからなぁ」

「必要ないのであれば情報収集をしながら、イセト様方をお手伝いしようかと思います」

「わかった。午後からは目的地に移動して、水源の浄化をする。出来れば今日中に解決できればいいんだけどね」

「水嵩が増えていればいいんですけれど」


 朝食は昨日の夜に食べていなかったこともあり、各々それなりの量を平らげた。アクアも途中で起きたが、夜に食べた分はすでに消化したのかこいつもかなりの量を平らげる。腹も満たされ、頭も回りだしたので、いよいよアクアとクーが保護した浮遊精霊と対話を試みることにする。


『きづいたら、すいげんにたまがあって、ちかづいたらスライムといっしょにすいこまれたって』


 片付いた卓上に2体の浮遊精霊が招待された。アクアを通して事情聴取をし始めた。


「今回はスライムも一緒だったから大きいスライムになったのでしょうか?」

「そもそも、精霊加階とは違う」

「ですわね。キュクロプスのときは加階だと思いましたが、よくよく考えれば、どちらかと言うとモンスターの生成か進化を目指しているように思いますわ」

「キュクロプスは亜種となり、武器精製を行った。今回は本来の大きさを逸脱した巨大スライムに進化した」

「では、魔神族の目的とはモンスターによる無差別災害ということですか?」

「いまの前線がどうなっているのかわからないけれど、街中にいきなりキュクロプスやあの大きいスライムが出ればそれなりの混乱は訪れるし、安全であった街中も危険と隣り合わせになれば、徐々に疲弊するだろう」

「本格的な被害が出る前にその魔神族をどうにか捕まえたいですわね」

「他の水源に関して情報はないか?」

『ふたりはみずのそうさをしていたからだけだからわからないって』

「操作って何をしていたんですか?」

『わいたみずをほんらいのながれからべつのほうこうにゆうどうしていたって』

「それだけではこの水害の説明がつきませんわよ?」

「どう思いますか、お兄さん」

「・・・情報が足らないな。セリア先生は昨晩水源の調査までは出来なかったんですよね?」

「えぇ、何にも調べておりませんわ」


 ここまでの話を整理すると。

 1.大穴の水嵩は減り続けている

 2.モンスターが凶暴化している

 3.水源に凶暴化の原因がいる 

 4.湧いた水は片っ端からどこかに流れている

 5.浮遊精霊達がしていたのは水の誘導だけ

 6.4体の元凶を倒せば解決する?


 あの大型スライムも焦りはしたがそこまで強いわけではなかった。

 どちらかといえばランク1~2程度の敵だったろうから、

 冒険者のみんなでも面倒ではあるが倒せるはず。

 他の水源を確認できていないから何がいるのかわからないが、

 全てあのスライムなら冒険者だけで解決は可能。

 問題点さえわかれば簡単に解決できてしまうことに引っかかりを覚える。


「水源の水はどこに行ったと思う?」

『わかんなーい』

「あの量を隠すとなると・・・ちょっと思いつきませんね」

「別の水脈に繋がる道がある・・・とかかしらね」


 3人はわからない、もしくは別口の水脈に水を流しているのではと答える。


「メリーとクーは?」

「・・・・・亜空間でしょうか」

『同意見です。あの量を格納出来るとすれば亜空間しかないと思います』

「じ、じゃあ敵に闇精霊がいるってことですか!?」

「そこまでは何とも言えません。何せ魔神族の正体が一切わかっておりませんから」

「俺も2人と同じで別空間が怪しいと思う。ただし、大き過ぎるんだよな・・・闇精霊が造った空間だとして魔力の維持が並大抵ではないはずなんだ」

『ですね。アルカトラズ様でもあの量を数ヶ月となると・・・』


 そう、クーの影倉庫(シャドーインベントリ)は中身の重さで常時消費MPが増える。

 あの水量では無駄に魔力を使うだけにしかならないし、

 流れを操作していただけなら亜空間の口が開きっぱなしになっている・・・はず・・・。


「そうか・・・空間の亀裂か・・・」

「アスペラルダで聞いた噂ですね」

「でも、あれはモンスターが湧くという話ではなかったですか?」

「噂だから尾ひれがついても仕方ないと思うし、噂とは別の亀裂かもしれない」

水無月みなづき君の仮説は?」

「この街一帯に空間の異常が発生、のちに亀裂がいくつか発生。それに目を付けた魔神族が水源に浮遊精霊を利用したモンスターを配置、これの理由は不明。水源から近い亀裂へ水を誘導し水嵩が激減。ここからが問題なんだが、まず俺達が来なかったとして水源が怪しいと気付いたのはセリア先生のみ、それも到着から随分と経ってからだ」

「私達が何らかの干渉を受けていると?」

「確かに私達が知るセリア先生ならば原因を調べるはずですね」

「言われてみれば、意識が水源に向かったのは昨日が初めてでしたわね」

「そこでさらに仮説を立てると。この世界の人間は思考のベクトルを操作されているんじゃないか?」


 その発言には誰もが口を動かすことが出来なかった。何故ならこの世界で起きている問題の対処に出ても、根本的な解決口に辿り着くことは出来ず、いずれは失意の底で問題に呑まれるということになる。


「もし、あるならだけどな。そんな呪いがあったとして、何故セリア先生は唐突に水源に足を向けたのか。タイミングは俺達が街に到着した頃にセリア先生は水源に向かっている」

「その呪いがあるとして、水無月(みなづき)君達が訪れた事でその地域の呪いが晴れたということですの?」

「異世界人という部分に意味があると過程した場合ですがね。世界が破滅に向かっているならこの世界の住民はその意思に従わざるを得ないのではと思います」

「破滅の呪いですか・・・(おぞ)ましいですね、自分の意思で決めることが出来ないなんて」


  俺の仮説は所詮仮説なのだが、現実にセリア先生が1週間以上も水源に向かわなかった事に彼女を知る俺達は違和感を拭えず、セリア先生自身も自問自答を繰り返している様子だ。

  破滅の呪い・・・メリーが言うように世界の異常に立ち向かおうとしても目から問題点が零れていくこの呪いに、自分の意思で従者をしている彼女は殊更に嫌悪感を顕わにした。


「今のところセリア先生の行動から怪しいという程度だが、とりあえず仮説が当たっているとして、俺がこの街にいる間は呪いが皆に届かないはず。この街の問題は解決出来ると思う。もし空間の亀裂が本当にあるのなら反応出来るのは闇精霊の[クー]のみ。空間に水が溜まっているなら、そこから出せるのは[アクア]と[アルシェ]の2人だけだろう。この3人には今から最初の水源に向かってもらう」

「『はい!」』

『はーい!』

「冒険者はどうしますの?もう動き始めている頃でしょう?」

「どちらにしろ、水源のモンスターは倒さないと流れの操作が止まりませんからそのままでいいでしょう。セリア先生には申し訳ないのですが、1人でイセト氏のところに行っていただいてもいいですか?今回の仮説も含めて説明と協力をお願いします」

「わかってますわ。必要なことは致します」

「これで残り3つの水源の内2つは冒険者が、空間の調査と放水をクー、アクア、アルシェが。治安の回復と対処の手伝いをセリア先生が。あ、イセト氏の所に行く前に俺をノイの所まで案内してください」

「では、私とご主人様はいかがされますか?」

「アクアがいない時点で速度のない俺は役立たずになる。ノイを回収したらメリーには最後の水源に走ってもらい、協力して大型を倒してほしい。連れて行ってくれればノイが倒してくれるからメリーは戦わなくていいよ。倒し終わったら念の為に近場の水源の戦況の確認をお願い」

「かしこまりました」

「さて、足がない俺はどうしようかな・・・2番目に近い水源に向かう冒険者に混ざって浄化をするか。アルシェ達の報告を聞いてから指示もできるし。クー、誰の管理もされていない亜空間の亀裂を開いたり、空間を除去したり出来るか?」

『流石に除去まではわかりません。でも、亀裂を大きくする事は出来ると思います!』

「よし、俺も早めに冒険者と合流して、流れを止めるから!みんなもよろしく頼むぞ!」


 * * * * *


 まずはアルシェ達3人を[エクソダス]で大穴の外へ送り届け、俺だけトンボ帰りし、セリア先生と一緒にノイがいる宿へ行き核を交換、セリア先生と別れてギルドへ走りながらノイに事情説明。


『久し振りに会ったと思えば精霊使いの荒い方です、元マスター』

「人手不足なんだよ!セリア先生にお世話になったんだからその分のお返しに俺達に協力してくれ!」

『はぁ・・・で、ボクはそのメイドさんと一緒に遠くの水源にいるモンスターを倒せばいいんです?』

「そうなる水属性の敵だから属性相性的には余裕だろ?ほら、あそこにいるクールな真顔メイドがお前のパートナーとなる[メリー]だよ!」


  メリーとノイはこの時に初めて言葉を交わしたと思う。闘技場の時はメリーが哨戒(しょうかい)していたし、ノイも戦いが終わったあとはセリア先生と一緒だった。


「お初にお目にかかります。アルカンシェ姫殿下と宗八(そうはち)様に仕えております、メリー=ソルヴァと申します。本日は宜しくお願いします」

『ボクは土精霊のノイティミル=グランツァーというです。こちらこそ宜しくお願いしますです』


  傍から見れば俺にメリーが挨拶しているように見えるかもしれないが、実際は俺の手元にいる砂トカゲとメイドの邂逅である。そういえば、メリーにノイの事をもっと伝えればならなかったな。


「見ての通りのトカゲなんだが、メリーは爬虫類大丈夫?」

「触り心地によるかと思いますが、命令ならば超越します」

『もし、嫌な感触なら背中にくっつきますです。大丈夫なら首周りにいさせてほしいです。マイベストポジションなのです!』


  とりあえず、触り心地は通常の爬虫類と違ってさらさらの砂が流れ続ける何とも言えない感触に確かな重さが加わるという、特殊な触り心地である。試しに持たせてみたが、触った事のない感触のようで興味津々に撫で回していた。俺にとっては生きたビーズクッションと変わらんな。

  このペアは問題が無さそうなのでコミュニケーションは勝手に移動中にしてもらうとして、大穴の外へ送り届ける。


「じゃあ、2人ともお願いね!」

「はい、全力にて」

『元マスターもしっかりと仕事してくださいです』

「わかってるよ!諸事情により個人での戦闘力が落ちてるから冒険者に混ざってくるよ!」


  一瞬で見えなくなる2人を見送ってから、すぐに(きびす)を返して2つ目の水源に向かって走り出す。クー達が向かった先で思った通りの結果であれば問題の解決になるはず、自分も頑張らねばと気合いを入れて足を前に進めるのであった。



 * * * * *

 ー10:08


「昨日、お兄さんが作った道があるから楽ですね。

 この事件が解決したら、この倒木もどうにかしないと・・・」

『いざとなれば倉庫に入れて遠くで回収も出来ますからね』

『もうちょっとだってぇー』


 水源の調査及び水抜きが目標のアルシェ、アクア、クーの3人はアルシェのチャージで坂を駆け上がっていた。

 辺りにはもう冒険者はおらず、

 いるのは正常に戻ったスライムと水属性の浮遊精霊くらいだ。


 目的地となる水源で亜空間を探す、もしあれば口の拡大。

 ここまでがクーの仕事で、中に溜まっているであろう水を見つけたら、

 街に悪影響が出ない水量を操作して大穴へと流す。

 これはアクアとアルシェの仕事だが、

 アクアと違いアルシェは裏属性の氷に適性がある為、魔力タンクと何かあった時の戦力。

 クーも同じく索敵と役割分担はきちんと決まっている。


 あの朝食後の会議で見つかった呪いと亜空間の可能性は、

 異世界人たる兄がいたからこそ判明したとアルシェは思っていた。

 その尊敬する兄から自分たちがどれほど重要な役割を任されたのか、

 それはアルシェにとって痛いほど理解が出来ることであった。


「私達は囮ですからね。お兄さんに心配を掛けないようにしっかりとお仕事をしましょうね」

『まかせろー』

『はい!』


 アルシェは皆がバラバラになったこの状況で己が餌に選ばれたことに気付いていた。


(セリア先生は名のある魔導師とはいえ、1人だし、

 なによりポルタフォールの中心人物と一緒にいる。

 そんなところにてきが現れては戦力としては期待出来ない以上、

 街の今後は絶望的になる。

 メリーとノイちゃんのペアも同じく、大事な役割を担っているけれど、

 攻撃力不足のメリーと魔力に制限が掛かるノイちゃんではあしらい切れず、

 いずれ倒されてしまうでしょう。

 最後にお兄さんは[イグニスソード]が破損して使えず、

 いまはアクアちゃんと離れているため、

 戦力としては確かに冒険者に紛れた方が無難だと思います。

 目立たない為の一手としてお兄さんの判断は正しい。


 私達、セリア先生達、メリー達、お兄さん達、冒険者さん達の5グループには誰の担当も欠けてはならない大事な役割を担っているけれど、私達の所だけが重要度が違う。

 治安回復や流れの停止はいずれ必要となるけれど、この水源で行う行為は明らかに解決をする決定打になる。時間こそかかると思いますが、解決出来るんです)


(お兄さんは言いました)

「俺が敵なら、決定打を叩く」


(確かにポルタフォールのウィークポイントはアクアちゃんとクーちゃんです。

 2人がいなくなれば、この事件は解決出来なくなるでしょう。

 しかし、世界のウィークポイントはお兄さん達異世界人です。

 私もお兄さんもお父様のお話を正しく理解しています。

 だからこそ、私達は戦力を分散させて王族である私を餌に使う事にしました。

 もちろんお兄さんからみんなに私を餌にするとは口にしていませんし、

 もし敵が現れた時にどうすればいいのかなんて聞いていません。

 でも、何か考えがあるからこそお兄さんはこの配置にしたのだと私は信じていますから、いまは敵が他に現れないように祈るだけです)


「ここですね。スライムも大人しいままですし、すぐに調査に移りましょう」

『あくあがきいてくるよー』

『聞きこみ中は索敵しますね』


 2人も調査と言う割りには確定事項のように行動している。

 私も出来ることをしないといけませんね。



 * * * * *

 ー10:14


「あと、3時間走れば目的地に着きます。

 このまま進みますか?それとも休憩致しますか?」

『このまま走ってくださいです。

 さっさと終わった方がボクも楽になれますです』


(ご主人様と別れてから疲れない程度の速度を維持していますが、

 まさか道中の走りがこんな所で役立つとは思いませんでしたね。

 ダンジョンならばあまり役に立てないので、敢えてついて行きませんが、

 こういう屋外でなら私もお役に立てますね。

 ご主人様が私を使ってくださる時は情報収集かアルシェ様の抑止、

 もしくは緊急事態のみですから、私も普段以上に気合が入りますね。

 特に指示をされないステータスはAGIとDEXが高くなり過ぎて前線では壁にもなれませんから、足としてでも使われるこの喜びはメイド冥利に尽きているからでしょうか?)


『よくこんな木々が生い茂った森をひょいひょいと走り抜けられるです。すごいです』

「これもメイドのお仕事ですので」

『元マスターはメイド使いも荒いです』

「荒い方がメイドは喜ぶのですよ」

『おかしな職業です!』


(私達の仕事は水源にいるモンスターの討伐をして、

 何処かに流れ続けている水を正常な流れに戻すこと。

 もちろん、それだけではないとおもいます。

 おそらく私達と冒険者の役割は魔神族への挑発も含んだもので、

 モンスターの核が破壊されれば用意した魔神族が気付くはず。

 モンスターはあとから再配置すればいいですが、

 管理をしていない亜空間はクーデルカ様が口を開けて、

 アクアーリィ様が排水することで根本的な解決を見る)


(そこに、ご主人様以外で遠近戦闘がこなせるのは、

 アルシェ様しかいませんし、

 王様からの提案を存分に使われるご主人様はひどい方です。

 世界の為にアルシェ様を危険に晒すのですから・・・)



 * * * * *

 ー10:34


「やっと着きましたわね。貴方も道案内ありがとうございましたですわ」

「いえ、仕事ですから」


(水無月みなづき君と別れてから30分以上掛かってますわね。道案内がいて助かりましたわ。

 何せ私が調査した時はこの区画だけ調べていませんでしたから、

 頭がボケボケ過ぎて自分に頭が来ますわね。

 例え本当に呪いがあったとしても気付けないし解決出来ないとは、

 世界にはもっと踏ん張って貰わないといけませんわね)


「ミミカさんはこれからどう致しますの?」

「冒険者が戻らない限りは業務もさほどないので、

 仲間内では町長代理を手伝うことになっているようです」

「貴方も貧乏くじを引いたものですわね。

 まぁ、分が悪い掛けではないのが救いですわ」

「・・・水無月みなづき様ですか?」

「いいえ、確かに彼は必要でしたわ。

 でも、彼は最終的に1人では解決出来ないと理解しています。

 正確には私達みんながこの街に集まれた事ですわね」


(もうアルシェ様達の作業は始まっているのかしら。

 水無月みなづき君の魔法で送られた先は街からかなり進んだ先でしたし、

 亜空間の解析が終わっていたとしても・・・)


「セリア様!あれを!」


 目を向ける先は当然、アルシェのいる水源方向。

 映ったのは滝のような音を鳴らす空高くに聳そびえる水の噴水。


水無月みなづき君の予想が当たりましたわね・・・」


(そう。当たってしまった。

 これで街が助かるのは確定事項となったも同然、

 ですが敵はあの噴水に意識を向けますわ。

 願わくば魔神族が遠くに移動していてくれますように)



 * * * * *

 ー11:06


「じゃあ、あとは頼みますからね!」

「応!これで街が助かるなら安いもんだ!」

「もし敵が現れたとしても、例え一人だとしても、

 絶対に戦わないでください!何もわかっていませんから!」

「わかってるよ。俺達だって死にたいわけじゃない。

 これだけの事が出来る相手に油断や慢心はしないさ」


 ポルタフォール救済作戦を冒険者に伝えながら移動をしていた。

 もちろん魔神族が現れる可能性を考慮して、

 見た目やモンスターを使うなどの基本情報を拡散した。

 出来れば現れずに解決が望ましいが、

 愉快犯ならポルタフォールが沈む様を見たいと思うんだよな。

 なら、近場にいる可能性は高いし、どこに現れてもおかしくはない。

 誰に当たっても壊滅の危険がある。


 問題は早急な解決は少数に分かれなければ解決出来ない事だった。

 ならば挑発として一気に水源を浄化して、

 逆に戦力が高い場所に呼ぶ必要があった。


 アルシェ。俺を慕ってくれる可愛い妹分。

 俺は諜報をする為、

 常に俺という情報を残さないように行動する必要がある。

 これが魔神族相手ではなく、

 仕掛けられたモンスターなら俺も前線に出られるが、

 敵が何者なのかもっと情報が集まらない限りは、

 アルシェという盾に隠れながら動かなければならない。

 いざとなった時の準備はしているが、

 敵次第で無意味かもしれないな。


 目端に映るパーティメンバーの体力はまだ少しも減っていない。



 * * * * *

 ー11:25


「アクアちゃん、どうですか?」

『みずはここにたまりつづけてるみたいー』

『やはり、お父様の推測は正しかったですね。

 お姉さま如何ですか?』

「私も手伝いはしましたけれど、

 水自体を操作するのはかなり疲れましたし、

 使った魔力の回復はいかがですか?」

『くー、もうすこしうえにひろげてー!

 まりょくはばっちりだよー!』

『はい、お姉さま』


(亜空間はありました。

 こちらについてすぐにクーちゃんが亀裂を見つけたのですが、

 それはそれはとても小さな穴でした。

 私達からは流れる水が途中で消えるように見えます。

 でも、幾つか近くに同じような亀裂の穴があって、

 水は全てその穴へと流れ込むように水路が出来ていました。

 長い間制御された流れで作られた水路を氷で塞ぎ、

 クーちゃんが小さい亀裂を繋げて広げていくと、

 奥が見えないほどの大きな空間を見つけることができました。

 確かにこの広さならば誰かが管理するには大きすぎますし、

 魔力も無限に等しく必要になると私にも理解出来ました。

 これは本当に自然発生した亜空間なのですね)


(クーちゃんの作業中も私とアクアちゃんで少しずつ水を抜いて、

 水を貯めて球体を形成していき、。

 球体がかなりの大きさになった頃合に、中が空洞の巨大水柱を上げました。

 これは、合図。

 仲間に水を見つけたという合図。

 そして、ここにいるぞという、合図。


(あれから特に妨害は起こらず、順調に排水が行われていますが、

 空間が広大すぎて本当に減っているのかと疑問に思ってしまいますね。

 周囲が森で囲まれているから、足で来るならクーちゃんのサーチにかかるはず。

 もしくは、空か転移か・・・何事もなければ一番嬉しいのですけれどね)

いつもお読みいただきありがとうございます

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