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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第01章 -王都アスペラルダ城下町編-
22/424

†第1章† -17話-[エピローグⅡ]

 翌日、城下町最後の朝食を食べてから、

 アルシェとメリーが、

 女将さんにお世話になった旨の感謝を言い終えるのを待ち出発する。

 3ヶ月か・・・アメリカの夏休みくらいの期間だな。

 あっちは期間が長いのに宿題がないらしい。


「準備できたか?」

「はい、大丈夫です」

「こちらも問題ありません」

「じゃあ城に行くぞ」

『れっつごー』

『・・・(チリィン)』


 影に入っている間は特に言葉を発しないクーが、

 返事の変わりにしっぽの鈴を鳴らして反応する。

 昨日の夜に枕元に丸まって寝ていたはずのクーは、

 いつの間にかお腹の上で眠りこけていた。

 契約をしていないけれど生態は家猫そのものなので愛着はすぐに沸いちゃうなこりゃ。


 アクアも俺に抱きついて寝ていたけど、

 あいつ涼しいから寝苦しいどころか寝やすかったなぁ。

 すいすいと登城を果たして、

 謁見の間にも話が通っておりそのまま入室することが出来た。


「お久し振り、と言うのでしょうか?(笑)」

「まぁ、たった4日で攻略してくるとは思わなかったけどね」

「おはようアルシェ、宗八(そうはち)、メリー」

「おはようございますお父様、お母様」

「おはようございます」

「さっそく報告からでよろしいでしょうか?」

「あぁ、よろしく頼む」

「俺とアルシェは予定通りに[死霊王の呼び声]を計4日にて攻略。

 無事にBOSSも倒しました」

「1週間くらいは掛けるかと思ったんだけれど、

 ずいぶんと駆け足だったね」

「これでも囲まれた時の戦闘や1対多の訓練もしたんですよ。

 アルシェがこの国に残るならほどほど戦えるようにしておこうと思いましたので。

 ま、俺に付いて来るらしいですがね」

「ははは、もう聞いていたか。

 理由は報告を全て聞いてからにしようか」

「わかりました。BOSSを倒したあとに、

 ダンジョンの主である闇大精霊[アルカトラズ様]に会いました。

 そこで情報交換をして、

 王妃様がシヴァ様の分御霊(わけみたま)であることも知りましたよ。

 それに関しては今日アルシェからお話があると思いますので」

「久し振りにその名前を聞いたな。

 大精霊[アルカトラズ]様か・・・お元気だったかな?」

「はい、十分に元気だったかと。

 大精霊らしくアクアの不調改善をしてくださり、

 闇浮遊精霊を預けてくださいました。

 クー、少しの間でいいから出ておいで」

『はい、マスター』


 影から飛び出して俺の隣に座るクーを見て王様が目を丸める。

 やはり奥さんが大精霊の分御霊(わけみたま)でも、

 闇精霊という存在はなかなか見る機会がないのだろう。

 話を聞いていた通りだな。


「報告は受けていたが、その子猫が闇精霊なのかね?」

「はい、日中は基本的に影に入っておりますが、

 夜であれば話をすることも可能ですのでこの場はこれでご勘弁ください」

「うむ。では今夜よろしく頼む」

「クー、ありがとう。戻っていいよ」

『はい、マスター』


 城の中とはいえ天窓がある謁見の間は日光が良く入り、

 クーにとっては辛い環境である。

 夜に王様の好奇心を満たして差し上げよう。


「報告としては以上になります。

 私からも王妃様に質問があるのですがよろしいでしょうか?」

「あいわかった、報告感謝する。質問くらいお安い御用さ、なぁ?」

「なんでしょうか?」

「貴女は何度転生したのでしょうか?

 神と言われる大精霊が一柱のシヴァ様。

 その・・・分御霊(わけみたま)とはいえ、

 人の体には収まらないと思うのですが・・・いかがですか?」

「そうですね。宗八(そうはち)の言うとおり私の魂は人の体には大き過ぎたことでしょう。

 ただ、何度も転生した事は確かなのですが、

 回数まではわからないのです。

 ずっと古くから神格を落としながらの転生だったもので、

 私の人生が来るまでに相当数の転生があった、

 としか私には言えません。ごめんなさいね」

「いえ、参考までに聞いただけですので。

 今はシヴァ様と魂が繋がる程度の神格を残していると言うことで良いのですか?」

「そうですわ」

「質問は以上です」

「私からはアルシェが旅に付いて行く説明をさせてもらおう」

「おねがいします」

「君に依頼した内容は世界の諜報。

 異世界人の目線でこの世界の異物を見つける事だ」

「はい、そのとおりです」

「もたらされる情報は各国へ通達するが諜報員は隠すべきと判断した。

 その本来の目的を遂行する為に、

 隠れ蓑としてアルシェのボディーガードという役職を与えようと思う」

「確かに、国王はともかく国内で繋がりがある連中がいた場合、

 諜報員の情報漏洩だけは避けないと仕事に支障が出ますからね」

「君が先日に謁見の間を退室したあとにアルシェから言われたんだよ。

 納得の行く話しだったしね」

「各国の城へ登城する時もアルシェが居れば入り易くもなるだろうからな。

 王族という特権を存分に利用したまえ。

 それだけの価値を私達は見出している」

「私もこの世界の住民としてお兄さん達、

 異世界人だけに救世(くぜ)をまかせるつもりはありませんので、

 精一杯の協力をさせてください」

「わかりました、アルシェを連れて行かせていただきます」

「メリーも居た方がいいかな?」

「是非に」

「わかった。では、メリー=ソルヴァに命ずる!

 冒険者水無月宗八(みなづきそうはち)の旅に同行し、全力で助力せよっ!」

「はっ!全力にて承らせていただきます!」



 * * * * *

「俺はクーにどんな事が出来るのかとか確認しながら試そうかと思うけど、

 アルシェ達はどうする?」

「私はお母様の手が空くまで図書館で待つつもりです」

「私はお2人に同行する準備を致します」

「わかった。じゃあまた昼ごはんに会おう」

「申し訳ございませんが、私は次に会えるのは夜になると思いますので」

「そっか、了解だ。メリーは夜に会おう」

「かしこまりました」

「アクア、クー。行くよ」

『はーい』

『・・・・・』チリィン・・・


 2人と分かれて、俺は修練場の隅にある木陰に腰掛ける。


「クー出ておいで」

『はい、マスター』

「じゃあ君との連携も兼ねて何が出来るのか確認するよ」

『はい。まだ産まれたばかりだったので魔法らしい魔法はありませんが、

 時空よりは闇に適正があるようです』

「使える魔法は?」

『まず[シャドーバレット]。

 闇玉を射出して当たった敵を1秒ほど思考停止にします。

 限度はありますが』

「ふぅむ。

 グリム○ルのオーム・レル・エクト・ヴェル・ダーシュみたいなもんか。限度とは?」

『敵が強力だと効果がありません』

「まぁそうだろうな、けど敵の強さを測る目安にはなるな。次は?」

『次に[イレイズ]。

 これは認識した特定のモノを消去する魔法です。

 限度はありますが』

「核の異物を消した魔法だな。限度は?」

『人の拳程度の大きさに納まるものであることです。

 範囲をはみ出したりしたら消去出来なくなります』

「なるほど、クーが進化する際は自分で核を用意出来るわけだな」

『そういうことだと思います。

 ダンジョンを出る前に[アルカトラズ]様が教えてくださいました』

「親心だな。他に使えるものは?」

『以上です。今は時空を練習している最中です』

「もしかして闇魔法って開発が進んでないのか?」

『そうですね、

 今までは人と接触がなかったので魔法も原初に近い形でしか残っていません。

 一緒に開発するしかないと思います』

「わかった。一緒に考えていこう」


 どうやら闇属性の魔法はデバフ特化らしく、

 状態異常にしたり一瞬思考停止させたりする。

 効果も影が多い場所や夜戦であれば上昇するらしい。

 使いどころは確かに難しいが全く戦えないわけではないので色んな魔法を考えてみよう。


 試行の息抜きにアクアとシンクロを試したりもしたが、

 上手くいかなかった。

 こういう協力技の定番としては同じ目標を持つことが挙げられる、

 つまりあの時は[ブラックスケルトン]を倒そうとか、

 アクアの核を造ろうとか同じ目標だったからだと思う。

 戦闘になれば解決する気がするけど、

 あれになることが出来れば俺のイメージが劣化なくダイレクトにアクアに伝わるから俺のしたいように魔法が使える。

 現段階で魔法を一度使っていればアクアが個人で再現出来るようになるから、

 もう一度くらいシンクロしておきたいなぁ。


『≪闇玉(シャドーバレット)≫』

『≪勇者の剣(くさかべ)≫』


 精霊同士で試作段階の魔法を使って模擬戦をしてもらう。

[シャドーバレット]は速度がそこまで速くはない、

 訓練を重ねればもっと使い勝手が良くなると思うのでこれから次第の魔法だな。

 その放たれた闇玉をアクアが[勇者の剣(クサカベ)]で打ち落とす。

 物質として存在する氷塊が気体のような闇玉を簡単に粉砕してクーへ迫る。

 もちろん手加減はしているのでスッと避ける。


『≪闇縛り(シャドーバインド)≫』

『≪あいしくるえっじ≫』


 次に唱えた[シャドーバインド]は、

 有効範囲に制限はあるものの、

 相手の影からいくつもの手が出てきて体中の動きを拘束する魔法。

 女の子相手だと一番有効かもしれないな。

 良いとこいけば気絶するくらい怖いだろうし。

 アクアを拘束しようと闇の手が発生するが[アイシクルエッジ]の刃で全ての闇の手を切り裂く。


『≪闇纏(マテリアライズ)≫』

『≪氷纏(まてりあらいず)≫』


 アクアが対処に負われている間にクーが新しく開発した身体強化魔法を唱える。

[マテリアライズ]は自身に合った属性強化を図る魔法で、

 本来は自分の適正のない裏属性を纏うモノなんだけれど、

 クーはまだ時空を良く理解していないので闇を纏って強化している。

 弱点としては身体能力だけでなく属性も強化されるので、

 アクアは土属性のダメージが増えるし、

 クーは光属性のダメージが増える。

 まぁ、これも試作段階だからな。

 クーにはエクソダスを何度も経験させて時空の感覚を掴んでもらわないとな、

 それと変身シーン用意しないと。


『≪ブラックスモッグ≫』

『≪あくあちゃーじ≫』


 もとの速度の1.5倍ほどの動きで、

 一気に距離を詰めるクーの口から[ブラックスモッグ]が吐き出される。

 状態異常を起こすことを前提にした魔法だけれど、

 今はまだただ黒い煙なだけで効果は目くらまし程度しかない。

 何故なら、毒とか暗闇の状態異常にクーがなった事が無いからな。

 経験がないのに相手にそれを強いる魔法が構築できるわけないだろ(笑)。

 煙の発生も初めは出来なかったから、

 火を炊いてクーを煙で燻して見たらスモッグが出せるようになった。

 傍から見れば動物虐待している危ないやつで、

 元の世界であればシーシェパードに通報されていただろう。

 その煙をアクアは[アクアチャージ]で簡単に風上へ逃げる。

 ここまでの模擬戦でクーの魔力が尽き掛けるので、

 急いでクーを抱き上げて魔力供給を開始する。

 アクアも初めのうちはすぐ魔力切れになっていたが、

 進化前では結構使っても核が壊れることはなかった。

 それはアクアが成長したからと制御に慣れたからに他ならない。

 成長率にも色々あり、

 限界まで使って回復を繰り返すとただ供給するよりも成長率も高くなる。

 筋肉みたいなものなんだろ。

 確かにいくらアクアに合った高純度の魔力を持ったアルシェが供給していたとはいえ、

 ひと月程度で進化をするなんてあり得ない事だ。

 尽きてからの高純度魔力供給を繰り返すことで、

 普通の浮遊精霊の何百倍もの経験値を得ていた事になる、

 というのが俺の仮説なんだけれど実際のところはわからんよ。


 クーもこれを繰り返せば半年くらいで進化できるんじゃないだろうか。

 その前に契約してくれればもう少し楽になると思うから、

 早くその気になってくれる事を願う。



 * * * * *

 登城から早いもので5日経った。

 初日はアルシェもクーも夜まで忙しかったが翌日からは平和なもので、

 残りの4日は図書館で読めていなかった本を読み漁ったり、

 新しい魔法の構想を組み立てて試行したり、

 旅の大まかな予定を組んだりとそれなりに色々な事をしていた。

 当初、予定していたアルシェをサブマスターにする儀式も半日で簡単に成功した。


「俺の言った詠唱に続けて詠唱してね」

「はい、お兄さん」

『はーい』


「≪アスペラルダの姫たるアルカンシェが乞う。マスター水無月(みなづき)の許可を得、今新たな契約を求む≫」

『≪マスター水無月(みなづき)の契約精霊たるアクアーリィが乞う。アスペラルダの姫たるアルカンシェの下位契約を求む≫』

「≪契約精霊アクアーリィのマスターたる水無月宗八(みなづきそうはち)が許可をする≫」

「『≪その身その体は()のために・・・共に歩まん!精霊契約!≫』」


 いやぁ、やっぱり厨二な台詞が一番成功率が高いんだよなぁ。

 恥ずかしいなぁ。


 さて、一番近い町まで徒歩で大体2週間かかるらしい。

 もちろん馬車が出ており、

 馬の体調次第で5日程度まで短縮は可能らしいけれど、

 俺達の旅の目的が異物や違和感を見ることにある為、

 あえて歩いて行くことにした。

 馬車の旅ならば冒険者が交代で見張りを立てるが、

 俺達は5人しかいない。


 そこは夜行性のクーが居るので任せることになった。

 日中は俺の影で寝ればそこまで負担は掛からないと判断した結果で、

 念のため負担を減らす事を考慮して索敵魔法か、

 もしくは時空魔法で結界を張る事を目標とした。

 道中にもモンスターは出現する。

 ダンジョンのようにコントロールコアがあるわけではないので、

 そこまで頻繁に出るわけではないが、

 絶対数は変わらないと言われている。


 近場ではキュクロプスが出現したと報告も上がっていて、

 国保有の主要戦力が討伐に出ていたはずだ。

 初めは1体だけの報告に日が経つにつれて数が増えていくと以前言っていたので、

 全て討伐するのに時間が掛かっているのだろうか。

 まだ兵士達は姿を見せない。


 街道に出現するモンスターのほとんどは、

 ランク1以下と認定されているゴブリンと言われる小鬼で、

 大して強くはないみたい。

 出てきてもスケルトン程度の強さを持つホブゴブリンで、

[死霊王の呼び声]をクリアした冒険者ならば問題なく排除できる。

 イレギュラーが起こらなければ俺達の旅も安全なはずなんだけどね。


「まずは索敵をしてみよう」

『はい、マスター。≪影踏索敵(シャドーサーチ)≫』


 半径100Mの影に常時索敵を掛けて、

 範囲内の影を踏んだらクーに知らせる魔法になる。

 敵の数が何体とかまで細かい使用は出来ないし夜限定の索敵魔法になっている。


「・・・どうだ?わかるか?」

『はい、しっかりと伝わります』

「(アクアも影に触れてくれ)」

『・・・お姉さまも触れました』

「よし、近場の俺と範囲ギリギリのアクアの感度は変わりないか?」

『違いはありません、タイムラグもありません』

「次の街までは周りが緑で覆われているから、

 ひとまずこれで大丈夫かな。魔力的にはどう?」

『常時放出なので良くて3時間といったところでしょうか。

 マスターから供給すればずっと使い続けられます』

「じゃあ俺と一緒に居る間は常に使い続けるか・・・、

 出力とか制御の訓練にもいいだろうし、

 成長にも拍車を掛けるだろう。(アクア戻って来い)」

『(はーい)』

『わかりました』

「じゃあ次に結界を」

『はい。≪セーフティフィールド≫』


 魔法をクーが唱えた途端にクーが消える。

 この魔法はクーが居た場所から一定の空間を切り取って別時空に避難する魔法で、

 クーが消えたように見えるのは悲しいけど、

 俺とクーの繋がりがないからなんだけど、

 もしクーが人間で俺とパーティを組んでいた場合は、

 俺も空間に飲まれていたはずである。

 外から中を見れないように中から外も見られない。


 と、突然クーの前足が出現する。

 ちょいちょいと動かす前足を握って範囲を教えるという行動を何度かして、

 結界の大きさを確認する。

 途中で帰ってきたアクアに認識できるか確認してもらったが、

 何か違和感を感じはするけれど、

 何があるのかわからないとの事。

 次に前足が出てきた際にそのまま空間から引っ張り出して実験の終了を教える。

 大きさは高さ1m、幅2m、奥行き2mであった。


「今ので負担はどのくらいだ?」

『張ってしまえば魔力は必要ないのですが、

 初めの消費は40MP程かと思います』

「まぁ、まだ空間の勉強中だし、

 これも周囲が更地だったら必要になる魔法だからね。

 頑張って調整していこう」

『はい』


 実験は終わり、

 緊張に体を強張らせて本日のメインディッシュを口にする。


「・・・クー。

 しばらく一緒にいて貰ったけれど、俺との契約は考えてくれたかな?」

『・・・はい。

 色々と話をしていただいたり、

 お姉さまにもお話を聞かせていただいて決めさせて頂きました』


 ドキドキする。

 俺としては愛着がすでに沸いているこの精霊と契約できれば、

 お互いの負担も減って万々歳といったところだが、

 何事にも相性は存在して、

 クーがこの数日で居心地の悪さを感じていたら断られるだろう。

 すっごい緊張する。



『大変遅くなりましたが、クーと契約してください。マスター』



 はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 良かったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!


「わかった。これからもよろしく頼むなクー」

『はい、よろしくお願いしますマスター』


 内心の安堵を気取られないようにクール振り、クーと握手する。

 こうして新しい契約精霊のクーが戦列に加わり、

 数日の後に冒険の準備が整う事となる。



 * * * * *

「アルシェを前面に出して俺を隠すこととは別に名前も変えた方がいいですかね?」


 出発前に王様と王妃様へ挨拶する段階でそんなことを言い出す俺。

 遅くないッスかねぇ?


「たとえばどんな名前だい?」

水無月(みなづき)を俺の世界の別読みに変換して、

 それを逆から読んでソウハチ・イクダニムとかどうですか?」

「まぁ、水無月宗八(みなづきそうはち)とはなかなか聞かないタイプの名前ではあるが、

 東方に似た名前の部族がいる話を聞いたことがあるし、

 出身をそちらと言えば当面はいいのではないかな?」


 何でも東の民とか東方で済ませるのは如何な物だろうか。

 なんでいつも主人公は日本の西にいるんだよ!

 今更言い出した俺が言うことでもないけど、

 言い繕う為の情報はあるのかね。


「そこの特産とかありますか?」

「詳しい話は海を隔てているので入ってこないが、

 鍛冶が進んでいると聞いたことはある」

「そこに行くことって可能なんですかね?

 鎖国してたりしませんかね?」

「ほうほう、よく知っているね。そうだよ!鎖国中だ!」

「ちくしょー!なんで異世界にある日本はどこも鎖国してんだよっ!!胸襟を開け!!」


 まぁ、名前はこのままで良いって事にしておこう。

 そうだな・・・第三世代とか言ってればいいかな。

 そうすればどんな国なのか聞かれても行った事がないと言い訳できるし。


「国の名前はわかっておりますか?」

「リクオウと言うそうだよ」


 リクオウ?なんだっけ?引っかかるな・・・リクオウ・・・。

 まあ思い出したらでいいか。いつか行ってみたいなぁ。


「では、リクオウから移り住んだ者の末裔としておきます」

「それが無難だな」

「あと念の為なんですけれど、

 アスペラルダ王国の周辺の街や村で何か異変は起こっていますか?」

「報告が上がっているのは今のところ、

 君たちがこれから向かう[ポルタフォール]で3ヶ月前から急激に水嵩(みずかさ)が下がり始めており、

 周囲にウォータースライムが大量発生している。

 町長からは冒険者へクエストを出して対処している、

 問題ないと言ってきている」

「わかりました、他の情報もあれば連絡をください。

 俺の用事は以上になるのでもう出発しますが、

 アルシェとの別れはお済ですか?」

「あぁ、昨夜久し振りに一緒に寝たよ」

「大きいベッドで3人並んで寝たのよ」

「そうですか。

 なら、しばらくアルシェをお借りいたします。

 新しい気付きがあり次第すぐに連絡を入れますので」

「うむ、頼んだぞ」

「気をつけてね宗八(そうはち)


 準備万端のアルシェと合流。

 昨夜はささやかな送別会をしてもらい、

 知り合いにはその時に挨拶を済ませているので今日の見送りは控えさせた。

 でないと、街を出るのが夕方になってしまうことだろう。


「セリア先生のことは聞いたか?」

「はい、ノイちゃん達を届ける為に、

[アイアンノジュール]へ向けて旅立たれていると」

「俺たちが城下町に出てからすぐに出発したらしいから、

 早ければこれから向かう[ポルタフォール]に着く頃だろう」

「じゃあ上手く行けば追いついて合流も可能なんですね」

「でも、合流できてもダンジョン攻略もしながらになるから、

 途中でまた分かれては追いついてを繰り返すと思うよ」

「会えるだけでも嬉しいですから十分ですよ」

「そうだな。メリーもよろしくな」

「はい、ご主人様」

「それさ、他国で言ってたらアルシェの立場に違和感が出るんだけど」

「公式の場にはお2人で行かれれば問題ありません」

「さよけ」


 荷物はいつも冒険をする程度の持ち物で、

 野宿をする道具は一切ない。

 それらは契約したクーと開発する事に成功した新しいインベントリに収納している。


 [影倉庫(シャドーインベントリ)]の入り口は限定的で影からの出し入れ、パーティ共有、

 取出しが出来るのはパーティメンバーや契約がある者のみ、

 大きさは高さに制限はないけれど、

 広さは畳み一枚分くらいなので食料と飲料とテントでいっぱいになる。

 しかも利用中は継続MP消費になるので、

 大体3時間毎に休憩を取って取り出さないといけない。

 それでも普通に旅をするよりはずいぶんと身軽に出来るので協議の結果その程度ならとなった。


 もちろん索敵は夜だけに変更になった。

 なんだかクーに頼りきりで苦労を掛けるので、

 早めに街に着けるように努力しよう。

 さぁ、次の街の[ポルタフォール]を目指して出発だ!

 俺達の冒険はこれからだ!

いつもお読みいただきありがとうございます。

このあと2章までに2話短い話を挟みますが、

2章は書き終えてから一気に投稿しようかと思っております。

1~2ヶ月ほどお待ちいただければ幸いです。

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