†第1章† -16話-[エピローグⅠ]
「宗八っ!姫様っ!
入ってから1時間以上も出てこないから心配したぞっ!」
「姫様っ!ご無事ですかっ!?」
「怪我はしてないようだけど、
方々に心配をかけたんだから事情を聞かせて欲しいな」
BOSS部屋から出てきた所を、
先に挑戦して倒した顔見知りのパーティが俺達を見つけて駆け寄ってくる。
ずいぶんと心配をかけたみたいで、
女性の方はアルシェに敬語で話しかけてはいるが体のあちこちを触って無事を確認していく。
残り男2人も説教くさい台詞を吐いてはいるが、
心配をしていたとわかる程度には焦りが見える。
休憩所の付近には俺達の後に控えていたパーティもちらほら顔を出している。
彼らにも不安を与えてしまい申し訳ないことをしてしまったな。
しばらくは新人冒険者の間で不安をあおる悪い噂が流行るかもしれない。
「心配をかけて申し訳ない」
「心配をお掛けしてすみませんでした!」
『もうしわけー』
『・・・・』
「まぁ、無事ならいいんだけどさ。
元から10分くらいで出てくると考えていただけに、
1時間以上出てこないってのはな・・・。
入ってから5分くらいで、
何かが連続して突き刺さるような音が聞こえたあとに少し静かになったから、
「あー10分持たなかったな(笑)」って笑ってたんだけどさ、
それからまた戦闘音が聞こえてきて、
「また模擬戦してるのかな?(笑)」ってそこまでは笑ってたんだけどな」
「それにしてはどこかおかしい足音・・・いや、
大きい振動がするから何かが起きたんだと皆で仮説を立てたんだ。
そしたら・・・」
「戦闘音が止んでも2人が出てこないから、
緊急事態かと思いまして霧に突入しようとしたんですけれど、
入ることは出来なくって。
管理人さんが生きているから入れないと言われたから出てくるのを待っていたのよ」
説明されればされるほど霧の外で待っていた人たちの焦りようが想像できた。
俺達を知っているこいつらはともかく、
他の冒険者は笑ってるこいつらをみてそれほど難しくは無いと思って、
次に焦りだすこいつらをみて不安に駆られた事だろう。
「いや、本当に心配をかけてしまってごめんなさい。
BOSSは無事に倒したんだけどね、
闇精霊が合体して暴走しちゃってさ、
それもなんとか倒したんだけど。
アクアの進化が始まったから待ってたんだよ」
皆の視線がアクアに向かう。
『おはずかしいー、もうしわけー』
「精霊ってそこまで変わるものなのか?
人間の子供みたいじゃないか・・・」
「まぁ、その年でもう子連れになったのね」
「そこは受け入れているよ。
もう、そうした方が騒ぎも無く済みそうだし」
「謎の達観をしているな」
挨拶もそこそこに、
休憩所に詰めていた冒険者達と管理人に心配を掛けたことを謝罪して、
今日は撤退することにする。
たかが2~3時間でフラフラになるなんて、
まだまだ駆け出しって感じで自分の様子にクスリと笑ってしまう。
今日は宿で休んで明日の朝に謁見して報告出来れば良いなぁ。
* * * * *
「では、この黒い子猫が闇精霊という事ですか?」
ギルドを経由して新しい核で召喚しなおしたクーを連れて宿に戻ると、
メリーがすでに戻ってきていた。
なんで俺たちが帰って来たことがわかっているかのようにスタンバイしてるんだろ。
もしかしたら発信機とかそんな感じの魔法を独自に造り出して使用しているのかもしれない。
『新たに従者に加わりました、クーデルカ=シュテールと申します。
アクアーリィお姉さまの妹分になります。
気軽にクーとお呼び下さい』
アクアの妹分と名乗る割にはアクアの頭頂部に座るクー。
アクアは俺の頭の上に正座しているし、精霊は頭の上が好きなのか?
「闇属性の大精霊がダンジョンの最奥で、
ダンジョンコアを守っているとは思わなかったけどね。
まぁ、アクアにしてみれば親戚の子供を預かったという感じだろう」
「お兄さん・・・ダンジョンコアって・・・」
「・・・コアだけこの場で教えようか。
俺の認識が正しいわけではなく、
もとの世界の書物から来た知識という事を前提に話すけど。
[ダンジョンコア]とは対応するダンジョンをコントロールする為のアイテムで、
モンスターをリポップするのも宝箱を再配置するのも、
死霊王があのコアを使ってしていたんだよ」
「それは無制限にですか?」
「いや、おそらく冒険者がダンジョン内で戦うことで失う、
体力や精神力がエネルギーとしてダンジョンに溶け込みコアに蓄積するんだと思う。
そのエネルギーを使ってるんだ。クー、おいで」
『はい・・・マスター』
ダンジョンコアの説明をしながら、
宿へ帰る途中で購入した鈴をクーへ付ける為に呼ぶ。
まだ信頼関係はないんだけど、
クーとはまだ契約はしていないので呼び方が安定しておらず、
クー自身も呼び辛そうだ。
好きに呼ぶように言ってるんだけど、
姉貴分のアクアがマスターと呼んでいるから真似をしているみたいだ。
掌へ音もなく降り立つクーのどこに鈴を付けるべきか迷う。
首輪にするか?尻尾の先に付けてオシャレにしようか?
「大精霊様が直々に冒険者を育てるお手伝いをしているということでしょうか?」
「いやぁ、あのアルカトラズ様は本物じゃないよぉ?」
「え?」
クーの首と尻尾の先に鈴を当てがっては悩み、
アルシェの質問にもしっかりと答える。
「俺に加護を授けるときの詠唱文に[分御霊]って口を滑らせてたよ。
あのアルカトラズ様は[死霊王の呼び声]を管理する為の個体なんだろうね、
もし本体なら加護が亜神じゃないはずだもん。
[ブラックスケルトン]に入っていたのはそのさらに欠片ということじゃないかな?」
「それであの強さですか?
やはり大精霊はすごいですね・・・あ、
私は尻尾の先が可愛いと思います」
「私も同意見です」
「やっぱりそうか・・・クー、尻尾を立ててくれ」
『はい・・マスター』
チリィン・・・リン・・
「はい、これでどこにいてもわかりやすくなるだろ」
クーデルカこと闇精霊[クー]は、
陽の光が苦手なので日中は誰かの影に溶け込むことになる。
基本的には亜神の加護を持っている俺の魔力が成長補正が高いので、
俺の影に入る事が日中は多いだろうけど、
日が沈めば影から出てきて活動できる。
まぁ、しばらくはアクアの後を付いて回る光景が見られるだろう。
そもそも、姿が猫の時点でアクアと違う。
アクアの場合は水精霊はこうあってほしいというイメージがあった為人型になったが、
ノイやクーは属性を意識しただけなので動物の姿になったらしい。
特に能力に影響するわけではなく移動に浮遊も使えるらしいし、
進化するときに人型になりたいと精霊自体がイメージすれば姿を変えられるとの事。
「体も小さいし人に慣れていないからね。
迷子になることがあるかもしれないし、保険で付けておこうね」
『はい・・・ありがとうございます』
鈴をつけてあげると、
尻尾を動かして数度鳴らした後すぐにアクアの頭に戻ってしまう。
喜んでいるのかわからないけど、
今も何度か鳴らしているみたいだし様子見をしよう。
闇属性の浮遊精霊は数が少なくて、
発生するのもダンジョン内がほとんどなので街中だと仲間が少なくて寂しいのだと思う。
確かに俺についてきてくれた浮遊精霊もいるみたいだけど、
いままでのような囲まれた生活とはかけ離れた新生活になるはずだから、
慣れる様に色々とコミュニケーションを取り続けるつもりだ。
「明日謁見されるのでしょうか?」
「その予定だよ。
メリーも報告はしていただろうし他の人達もしているだろうけど、
やっぱり俺からもアルシェからも直接話したほうがいいでしょ?」
「そうですよね。
メリー、何時頃から謁見は出来そうですか?」
「明日であればいつも通り朝一番で謁見は可能です」
「なら、明日はその予定で動こうか。
次の街に行く為の資料を読みたいし」
「かしこまりました。そのように伝えておきます」
さてと、ダンジョンから早上がりしたから夕飯まで時間がある。
今のうちにヒビが入った[イグニスソード]を修理が出来るのか、
アスペラルダ城下町にある鍛冶屋を回ってみようと思う。
ただ、以前に防具屋で聞いた限りでは、
鍛冶屋が作れる装備は【レアリティ】普通が基本、
プチレアはたまたま出来た物が店に卸されるらしい。
[イグニスソード]のレアリティはレアだから・・・うーん、
修理は絶望的かもしれないけれど、
街の中にいくつかある鍛冶屋に期待して歩き回ろう。
「俺はこのあと晩御飯の時間まで鍛冶屋を回ろうと思うけど、
2人はどうする?」
「私は姫様に付きますので」
「そうですね。
私は久し振りに街中の視察をしたいので一旦別行動します」
「わかった。
ボディーガードと連絡役にアクアを連れていってくれ。
宿に戻ったら一度連絡頂戴」
「わかりました」
『わかったー』
「クーは俺と一緒だけどいいかな?」
『はい、大丈夫です。お姉さま、マスターを少しお借りします』
『ますたーをよろしくねー』
「じゃあ、夜ご飯に間に合うように戻るから」
「はい、いってらっしゃい。お兄さん」
* * * * *
「じゃあやっぱり、少数派なんだな」
『はい。
精霊や妖精は自分の属性に合っている環境から出ることがほとんどないです。
その理由としてご飯になる魔力の摂取が出来ないことが挙げられます。
お姉さまは元から好奇心旺盛だったことと、
マスターが水の適正を持っていたため付いて行く事を決めたようです」
「クーはどうして付いてきてくれたんだ?」
『クーも外には興味を持っていました。
闇属性の精霊は他属性のに比べて数が少ないし、
日中は好きに動けない。
でも、アルカトラズ様がマスターに加護を与えたことで、
ご飯の問題は解決してくれましたし、
お姉さまもクーと仲良くしてくださいましたから』
「そっか・・・呼び方はそれでいいの?
好きに呼んでもいいんだよ?まだ契約したわけじゃないんだし」
『他の呼び方を思いつきませんので、ひとまずはこれで大丈夫です』
「3番でお待ちの水無月様~!
結果が出ましたので受付までお越しください!」
1件目の鍛冶屋で検査してもらっている間に、
クーは影から出て俺の頭の上に乗っていた。
鈴の音を鳴らしながら興味深そうに周りを見渡している。
そこでコミュニケーションを取ろうと話しかけてクーが付いてきた理由を聞いていた。
「はい。どうでしたか?」
「申し訳ないのですが、
私共の鍛冶技術ではプチレアまでの修理は物によっては可能なのですが、
レアともなると早々お目にかかる機会が無いのも合わさりまして、
誠に残念ながら不可能と判断いたしました。大変申し訳ございません!」
「わかりました。他の鍛冶屋も回ってみます」
『失礼します』
クーは俺が店を出る事を察してスッと頭から影へとダイブする。
しっかり者の妹を持ってアクアはもう少ししっかり出来るのだろうか・・・。
基本的に本能のまま生きているからな。
次の店でも、次の次の店でも修理不可の案内をされ、
時間的にも次が最後になりそうだ。
まぁ、待っている間にクーと話が出来るのだから俺としては悪くない時間を過ごせたと思う。
「・・・申し訳ございません」
「そうですか、わかりました。ありがとうございました」
『失礼します』
5件目も空振りに終わり、外に出ると黄昏時であった。
「クー、暗くなってきたけどこのくらいの陽の光はどうかな?辛い?」
『・・・いえ、体に動かしづらさはありますが日中ほどの苦しさはありません』
声を掛けると影から顔を上げて周囲を見渡す。
日没直前の薄暗さで体を動かせることを確認したのか、
すぐさま俺を駆け上がり頭の上に鎮座する。
まだ幼い精霊なので成長さえすれば日中も歩き回れるようになると思うけど、
せっかく地上に出てきたのに勿体無いよな。
何とかしてあげられないかなぁ。
「(アクア、そろそろ宿に戻るってアルシェ達に伝えて)」
『(はぁーい)』
『・・!いまお姉さまに連絡したのですか?』
「そうだよ。よくわかったね」
『何と言いますか・・・繋がりを感じましたので・・・』
「へぇ。そういえばノイも反応していたような気がするな」
『ノイとはどなたですか?』
「少し前に事件があってね、
その時に協力してくれた土の浮遊精霊だよ。
今頃は故郷に帰っているんじゃないかな」
『・・・マスターは色んな精霊とお知り合いなんですね』
「何でか知らないけど、
お目にかかる事が少ないはずの精霊種と話す機会が多いのは確かだね」
* * * * *
『ますたー!』
「ただいま、アクア」
「おかえりなさいお兄さん、クーちゃん」
「ただいまアルシェ。メリーは?」
「こちらに。おかえりなさいませご主人様、クー様」
『ただいま帰りました』
宿に着くと予想通り離れていた寂しさからアクアが顔に突撃してくる。
もうサイズがサイズだけに衝撃も大きいと予想して顔面キャッチは勘弁と思い、
慌てて両手で受け止める。
相も変わらずジタバタとしてスキンシップを図ろうとするアクアは、
そのまま頭頂を目指して腕から進む。
進む過程でクーがアクアに飛び移り、三段乗りの完成だ。
女将さんに確認すると風呂の準備は出来ているから先に入るように言われた。
「アクアとクーはお風呂どうする?」
「え!?私とは駄目なのにアクアちゃん達はいいんですか!?」
「そりゃまだ幼いんだし、いいんじゃないかな?」
目で女将さんに確認してみるが黙認するらしい。
父子家庭の親子が宿泊したときとかも同じ処置を取ってるんだろうな。
『ますたーといっしょするー』
『お姉さまが一緒ならばクーもですね』
「なら、私も一緒します」
「メリー」
「かしこまりました」
有無を言わせず連れて行かれるアルシェを見送って、
女将さんに俺も貸切にしたいことを伝える。
受肉したアクアはもう掴まり立ちできる程度の赤ちゃんサイズだし、
クーは精霊とはいえまだ人に慣れていない猫だからな、
いきなり裸の男に囲まれるのは些か問題だろう。
確認だけはしておこう。
「まぁ、いいですけどね。
そっちの猫ちゃんは毛が抜けたりしますかね?」
『いえ、毛という概念はないので』
「なら良いですよ。
まだ誰も帰ってきていないから男湯を今から1時間貸切にしましょうか」
「ありがとうございます」
『ありがとー』
* * * * *
「こら、アクア。走り回ると危ないからこっちに来なさい」
『ひろーい!』
『・・・・・』
今までのアクアは受肉していなかった為か、
お風呂に入れても服を纏ったまま入浴していたが、
今は受肉体になったので服の着脱が可能になった。
というか自身の魔力で作っている服なので簡単に脱ぐことが出来る。
今は元気にスッポンポンで男湯を走り回っていた。
これが本当に赤ちゃんなら走り回ることもないんだけれど、
こいつは精霊なので人間の常識は無視して走り回る。
クーは体も小さいし猫なので桶湯に大人しく浸かっている。
アクアやノイは水や砂で体が精製されていたから常に流れがある体であったが、
クーはその流れがない。
これは構成物質に違いがあるからなんだろうか・・・。
『ますたー!』
「ほら、もう大人しくしろって」
飛び込んでくるアクアをキャッチしてそのまま湯船にinする。
背丈が低く足が底に着かないので抱き締めたままにする。
今度は大人しく浸かってくれるらしい。
世の親は風呂に子供を入れるだけでこんなに大変なのか・・・クーが大人しいのが幸いだな。
体を洗って風呂に入れさせるまでに30分くらい掛かったぞ。
20分ほど浸かって2人に声を掛ける。
「そろそろ貸切時間も終わりだから、上がろうか」
『はぁーい』
『・・・・・』
返事をしたアクアが勢い良く湯船から飛び出してフワフワと脱衣所に向かう。
しかし、黒猫クーからの返信がなかった。
どうしたのかと桶のフチに顔を乗せたままのクーを恐る恐る確認すると・・・出来上がっていた。
「クー?大丈夫か?」
『・・・うぅ』
「駄目そうだな、団扇を借りてこないと。
アクア!服を着たら女将さんに団扇を借りてきて!」
『わかったー』
脱衣所にいるアクアに大声で指示をして、
タオルを腰に巻いてからクーの体を急いで拭く。
へぇ、猫ってこんな股関節してるんだなぁ。
元の世界で猫を飼う機会がなかったから、
ここまで好き放題触ったことがなかったからなぁ。
触り心地も闇を纏った猫にしか見えないのに結構な猫感ですよ?
「お兄・・さん?なにをし・・・て・・るんですか?」
「え?」
脱衣所の戸を開けて入ってきたのはアクアから呼ばれたと思われるアルシェであった。
「え?何してるって体を拭いてるんだけど?」
「いえ、私にはクーちゃんに頬ずりしているように見えますが・・・」
「え?」
そう、クーの体を拭き終えた俺は感触を楽しんでおり、
気がつけばクーを持ち上げて頬ずりしていた。
いや、本当に気持ち良いんだって!!プニプニふにょふにょでやばいんだって!!
「ひとまず、クーちゃんはこちらで引き取りますので・・・」
「・・・はい」
『ますたー、あくあえらいー?』
「せやな、えらいぞアクア」
「ご飯の準備は出来ているそうなので着替えて食堂へ来て下さいね」
若干トゲのある言葉とアクアを残して去っていくアルシェを見送り、
ようやく体を拭き始める。
1回風呂に入るだけで人はこんなに疲れるんだな。
クーを風呂に入れるときは気をつけないと、主に俺の評価に響くわ。
* * * * *
「手を合わせてください、いただきます」
「「『いただきます』」」
クーに団扇で風を送りながら少しずつ食事を口にする。
アルシェには、まぁ・・・事故のようなものだと物理的に理解してもらった。
やっぱり猫のお腹は最高だぜ!
食事を始めてからわかった事なのだが、
成長したアクアも食事を取るらしい。
受肉したのだから、
少し考えれば可能性があることくらいわかっただろうに全く思いつかなかった。
今も進みの遅い俺の食事を勝手に食べ進めている。
手が小さいから子供用のスプーンをお借りして食べさせてはいるが、
今後のことも考えて、
子供の成長過程で必要になる道具とか調べておいた方がいいんだろうか。
次に必要な物・・・靴下とか?
『う、う・・・ん。マスター?』
「お、目が覚めたか。気分はどうだクー?」
『寝転んでいる限りではそこまで悪くはありません』
「そっか。ごめんな、もっと気をつけていれば良かったな」
『あくあもごめーん・・・』
『マスターやお姉さまのせいではありませんから気にしないでください。
初めてのお湯が気持ちよくて浸かり過ぎてしまっただけですから』
「今日は寝るときどうする?俺の影に入っておくか?」
『カーテンを閉じていてくださるなら、
ベッドの空いているスペースで寝させていただきます』
「わかった。今日はこのまま寝て良いぞ。
俺たちも食べ終わったらもう寝るからさ」
『わかりました。では、後はよろしくお願いします・・・Zzzzz』
湯中りの気絶から安らかな睡眠へと移行したクーを、
寝室のベッドに寝かせてから食事の続きをいただく事にした。
食堂に戻ると1/3が減っていたけれど、
アクアの満足そうな顔を見ると小言が言えなくなる。
初めての物理的な食事に満足した水精霊は食事を終えたアルシェに抱かれて魔力供給させてもらっている。
「そういえば今回の冒険、
は許可が降りてBOSS攻略まで一緒に出来たけどこの後はどうするんだ?」
「もちろん、お兄さんに着いて行きますよ」
「マジか・・・メリーも?」
「私はまだ指示が出されていませんが、
おそらくはアルシェ様が行くのでしたら同行するのではないでしょうか?」
「そうだよな。アルシェ、一応聞くけど許可は貰っているのか?」
「はい。お兄さんが街を出ると言われて、
謁見の間を出たあとすぐに直談判しました」
「姫様なんだから無理に着いて来なくて良いんだぞ。
俺は仕事で動くだけなんだし」
「理由は明日お父様に聞かれてください。
納得できるはずですし、
私だってこの世界の為に動いてくださるお兄さんに協力したいんです」
「ふぅん、わかった。じゃあ今後ともよろしくだな」
「はい、今後ともよろしくです」
アルシェはアルシェで考えがあり俺に着いて来るようだし、
最初に思っていた以上に長い付き合いになりそうだ。
なら、考えてたアレを試すのもありだな。
「アルシェ、アクアのサブマスターになるか?」
「え?サブマスターってなんですか?」
「マスター。つまりは優先順位1位の主人は俺なんだけど、
サブマスターという優先順位2位を設定することが出来るかもしれないんだよ」
「そうするとどうなるんですか?」
「まず、アルシェとアクアの間に契約が必要になるんだけど、
念話が使えるようになる。
いつも俺とアクアが連絡しているやつだな。
その他に戦闘補助が出来るから魔法の制御が楽になる。
アルシェの適正は氷だけど、
アクアは水だから2人が揃えば水属性を完全カバー出来るようになるから、
さらに先に進むことが出来るかもしれない」
「メリットは十分ですねアルシェ様」
「十分仲良くなっているんだから絆だって産まれている。
魔力効率も良いだろうさ」
「・・・・そこまで言われるのでしたら、
お受けいたしますお兄さん」
「まぁ、詠唱から調べていかないといけないから1日作業になるかも。
城に戻ったら部屋を借りて試してみよう」
「はい、お兄さん」
「アクア話は聞いてたな」
『はーい、だいじょぶですー』
「もしも成功したとして戦闘中に支援できるのは1度に1人だけだと思う。
進化したとはいえ2人分の制御は無茶だからな。
俺はいずれクーとも契約したいと思っているから、
アルシェの支援中くらいなら戦えるさ」
「そのサブマスターの話って、
条件として私が着いて来ない&クーちゃんが加わらなかった場合なしだったんですか?」
「そりゃね、加護もない人だと精霊をほとんど扱えないだろうし、
アクアがいないと俺は戦えなくなるからね。
身の保身を考えれば当然だろ?」
「安全マージンですね」
「そうそう。あれ、もうこんな時間か。今日はこれで寝ようか」
「かしこまりました」
「はい、おやすみなさいお兄さん。女将さん、ご馳走様でした!」
「はいよー!おやすみなさいアルシェ様!」
「2人ともおやすみ」
『ばいばーい』
アクアを俺に預けて引き上げる2人が、
部屋へ向かうのを確認してから食器を片付ける。
女将さんにお礼を言って明日から城に戻る旨を伝える。
「そうかい、たった4日でクリアしちまったかい(笑)。
まぁ模擬戦を見ていればそのくらいの事はするかねぇ」
「俺もすでに80%越えてましたからね。
途中からは一気に降りただけですよ」
「はっはっは!ベテランが付いていればそういう攻略も出来るんだね。
攻略にどれくらいかかったんだい?」
「えっと・・・約3ヶ月ですかね。
新人としてはどうなんですかね?」
「うーん、平均より少し遅いくらいだね。
ゆっくり下ってたって話しだしいいじゃないかい。
もう街を出る日は決まってるのかい?」
「え?知ってたんですか?」
「あれだけ盛り上がっておいて何を言ってるんだろうね(笑)。
この宿は明日の朝食まででいいのかい?」
「はい、よろしくお願いします。3ヶ月お世話になりました!」
「死ぬんじゃないよ!また名前を聞けるように祈ってるからね」
「はい!じゃあ、今夜はもう寝ます。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
いつもお読みいただけありがとうございます