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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第01章 -王都アスペラルダ城下町編-
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†第1章† -15話-[死霊王アルカトラズ]

「さあ、者共!儂に附いて来るがよい!」


 右半身ボーンが気持ちの悪い動きで開いた入り口に入ろうとしているが、

 動きがぎこちないのと大き過ぎて入れないでいる。

 邪魔よ邪魔邪魔!


「おろ?おかしいのう、何で入れんのじゃ?」

「おろじゃないが、デカイからだよ。

 中は案内が必要なほど複雑なんですか?」


 巨体を這いずって無理に入ろうとする半身ボーンに声をかける。

 仮にもダンジョンの主という事も思い出して後半は敬語にしておいた。

 アルシェが若干怖がっているから本当にその動きやめて!

 無理だからっ!入れないからっ!


「そうじゃな、迷いはせんじゃろう。

 一番奥まで進むと良いからのう」

「わかりました」

「では、この体は捨てるかの。また後での」


 ドシャッ・・・

 どうやってかは想像出来ないけれど、

 魔力で体を維持していたということなんだろう。

 一気に風化して、置いて行かれたもう半身も砂のようになっていた。

 BOSSの体って消えないのか?

 このまま放置していれば1時間で復活するってことなのだろうか?

 崩れる前の魔力の繋がりがなくなった瞬間の表情を見て、

 アルシェは小さく「ヒっ!」と悲鳴を上げていた。

 意識の無くなった骸骨は怖いもんな。


「さてと、俺は進もうかと思うけどアルシェはどうする?

 怖いんでしょ?」

「いえ、先ほども言ったとおりに一番元気な私がお守りしますのでっ!」

「わかった。よろしくな」

「はい、まかせてください!」


 新たに開いた道は今までのダンジョン内と同じく、

 暗いはずなのに全く見えないという状態にはならないようだ。

 下方へ地味に螺旋状になっている道をひたすら進むと、

 丁度BOSS部屋の真下辺りで終点に到着した。

 部屋内は明るく、

 遺跡の一部なのかしっかりとした造りの装飾やらがされた部屋であった。


「おう、来たのう。こちらへ来い」


 その部屋の最奥に鎮座している何かから声が掛かる。

 聞き覚えのある声に導かれて奥まで行くと正体が明らかになる。


「がしゃどくろか。実物は初めて見たな」

「お兄さぁん・・・、

 この上半身だけの巨大なスケルトンのことを知っているのですか?」


 その鎮座していた存在は巨大な珠を抱える上半身だけの巨人の骨であった。

 恐々と聞いてくる知的好奇心の強い妹にどう答えようかと考え込んでしまう。

 なにしろ元の世界の日本の妖怪の1体とかさ、

 言われても「は?」ってなるでしょ?

 まぁ、こちらの言い方とかわからないから落ち着いた時間が取れたときに細かな事を伝えてあげよう。


「知ってはいるけど、絵空事の存在なんだよ」

「へぇ・・・」


 俺を守りたいけれど怖くて前に出られない。

 そんな心の機微がわかりやすいアルシェに癒されながら死霊王に声を掛ける。


「お招きにあずかり、ありがとうございます。

 私の名前は水無月宗八(みなづきそうはち)と申します」

「お、同じくお招きにあずかりました。

 アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダと申します」

「これはこれはご丁寧に、儂の名は[アルカトラズ]という。

 この珠を使ってダンジョンの管理をしておる。

 お主が成り損ないの主で、そちらのお嬢さんはシヴァの娘じゃな」

「少し確認をしたいのですが、

 貴方はアクアに興味を持ち、

 闇属性の浮遊精霊を操り魔法も使っていましたね?

 実際何者なんでしょうか?」

「そうじゃな。ここへ続く道を開く鍵を持っていたということは、

 大精霊の意図があってどちらにしろ出会う運命であったということじゃろうし、

 伝えるのはかまわんぞ」


「儂は闇精霊!それも大精霊じゃ!」


 おいおい、四神じゃないじゃん!五神なんだけど!?

 闇精霊と予想していたとはいえ、まさか大精霊とは思わなかったな。

 この世界の住人であるアルシェは固まってしまっている為、

 俺が話を進めよう。


「シヴァ様とお知り合いなのですか?」

「まぁ、知っておるよ。

 ついでに言えばお主も知っているはずじゃぞ。

 時にそこな娘をもう少し良く見ても良いかの?」

「はえ!?」

「かまいませんが、危害を加えたら滅しますので。

 あと、怖がっているので目隠しをさせていただきます」

「心配せんでも危害なぞ加えんわい。目隠しでもなんでもするが良い」


 それはそれは大きな髑髏(しゃれこうべ)に見つめられるのだ。

 恐ろしいことこの上ないだろう。

 戦闘力や姫という部分を除けば13歳の女の子、

 中学に入学したてでデカい頭蓋と見つめ合う・・・いや、

 見つめられるとは思いもしないだろう。


「ふむふむ、やはり精霊時代のシヴァにそっくりじゃな。

 懐かしいわい」

「加護を受けただけで似るものなんですか?」

「はぁ?似るわけないじゃろ。

 似ているのは娘じゃからじゃよ」

「「は?」」


 娘じゃと?そんなわけがあるまいよ。

 見よ、アルシェの顔を!

 初耳ですよお兄さんと言わんばかりに目と目が合った瞬間好きだと気づかずにブンブンと顔を振って否定される。


 違うそうじゃない!

 この反応はお兄さんの事なんか好きじゃないですという意味ではなく、

 母親がシヴァであるということについて私は知らないですと訴えて来ているのだ。

 そうに決まっている。


「なんじゃ?

 娘ですら知らされておらんとはなかなか厳しい教育をされておるんじゃな」

「王妃様がシヴァ様なのですか?」

「まぁ、正確に言えば分御霊(わけみたま)を人に転生させて子を成したという事なんじゃが。

 本来の分霊は偵察とか情報収集に使うもので、

 長らく自分から離すというのは稀な事じゃ。

 儂だって先程お主と戦ったスケルトンに憑依させただけじゃしの」

「体は人間だけれども魂が神、大精霊ということですか?」

「さよう。そこの娘は魂の一部を受け継いではおるが、

 シヴァ本人との繋がりまでは持たなかったようじゃのう。

 親心として加護を与えてはいるみたいじゃが」

「・・・・・」

「俺が出会っている大精霊というのがシヴァ様の分霊。

 あの王妃様はシヴァ様本人と連絡が取れるということですか?」

「さよう。肉体はただの人じゃが、

 魂の繋がりで連絡や力の譲渡などは可能なはず。

 鍵を渡したのも譲渡で宿したのじゃろ」

「なるほど、城を出る前にギルドカードを触っていたのは鍵を宿していたからか。

 アルシェ?大丈夫か?」

「は、はい・・・、

 ちょっと自分の出自に自分が知らない情報が登場して混乱していますけど、

 大丈夫です!城に帰ってからお母様に話を聞きたいと思います」

「そうだな」

「そうじゃ、精霊使いよ。

 あのなり損ないはどこに居る?すこし様子を見たいのじゃが」

「アクアならアルシェの帽子の中で寝てますが、起こしますか?」

「いや、寝たままで良いから見せてくれれば良い」


 再びアルシェの目を隠し、

[アルカトラズ]は頭に乗っかり丸くなっているアクアを凝視している。


「なるほどのう。最近のこやつに異常はなかったかのう?」

「あります。疲れやすくなったのかよく眠るようになりました。

 核の魔力は常に満タンを維持しているのですが・・・」

「ふむふむ。

 これはな、核の耐久度がアクアの力に耐えられなくなってきておるのじゃ。

 核に使われておるアイテムは本来アクアの一部ではないため、

 消耗していくのじゃ」

「核を交換すればまた元気になるということですか?」

「いや、このなり損ないはすでに浮遊精霊の枠からはみ出して、

 誰もが知らない精霊の道を歩き始めておる。

 じゃから、核を新品に変えたところですぐに同じ現象が起きるぞい」

「そうですか・・・」


 愛娘が不治の病に罹ったと聞かされた父親はこんな気分なんだろうか。

 死ぬ訳では無いがそれは生きていると言えるのか?

 自分の無力をこんなところでも味わうとはな。


「この核よりも上位の核は持ち合わせてないのかのう?」

「いえ、持ってはいるのですが。

 上手くアクアと同調出来なくて・・・」

「あの黄色いスライムの核ですね」

「おぉ、アレの核か!よく手に入れたものだな。

 冒険者共は核ごと破壊しないと倒せるやつがいなかったというに!

 それがあればなり損ない用の核を作る事が出来るぞい!」

「本当ですかッ!?どうすればいいのですかっ!?」

「ま、まぁ落ち着け。

 核というのは本来精霊には必要ないものじゃが、

 お主と契約したそこのなり損ないは逆に核があるおかげで成長が促進されておる。

 しかし、その成長も核によっては出来ず仕舞いになるのじゃ。

 いまから儂がその核の内部にある本来の主の情報を消しさってやろう、

 その後お主の魔力を注いで主を上書きして作り替えるのじゃ」

「魔力は注ぐだけでいいのですか?」

「良い訳あるか馬鹿者が!

 なり損ないの核にするならお互いを想い合う絆が必要不可欠になる。

 お主となり損ないは繋がっておるのじゃからお主だけでなく、

 なり損ないの魔力も混ぜ込みながら均等に魔力を満たせ」


 聞いているだけで無理じゃないだろうかという言葉が頭を掠める。

 俺は魔法や魔力の制御が苦手で、

 (もっぱ)らアクアに任せていた。

 それを俺ひとりでやり切らなければならない。

 当然アルシェに手伝って貰えば成功率はあがるけれど、

 これは俺だけでやらなければならない。


「どうじゃ、やるか?」

「失敗してもアクアに何か悪影響があるわけではないですよね?」

「当然じゃ。なり損ない自体になにかする訳ではなく、

 専用の核を作ろうとしておるだけじゃからな」

「お兄さん、また私は応援しか出来ませんが。頑張ってください!」


 失敗してもアクアが無事ならやってやろうじゃないか!

 インベントリからMPポーションを取り出して、一気に飲み干す。

 疲弊していた頭がはっきりとしてきた。

 よしっ!アクアと引いては俺の為にもがんばりまっしょい!


「まずは核を両手で握りこんで、集中するのじゃ。

 核に意識を向けると、

 わかるかのう・・・核の内側に異物があるのを感じるか?」

「はい・・・俺が干渉しようとすると弾いて抵抗してきます・・・」

「よしよし、そこは認識出来るんじゃな。

 今からその異物を消すからの、

 消えたら目を瞑ってイメージはしっかりと持て。

 黒い円にお前の魔力と、

 お前と繋がる成り損ないの魔力を混ぜ込みながら注いでいくのじゃ」

「・・・ふぅ」


「≪イレイズ≫」


 黒い円は空の杯のイメージ。

 中央に存在していた異物感はなくなりすっかり空洞になっている。

 右腕から俺の魔力が伸びていく。

 左腕からアクアの魔力が伸びていく。

 自分の魔力色はイメージが全く出来ていなくて色が次々と変わっていくが、

 アクアの魔力は深い青色をしている。

 当然、色が定まっていない俺の魔力とアクアの魔力は上手く混ざり合わず、

 杯に開けた穴からそのまま注いでいくけれど、

 二つの魔力が混ざっているため制御が難しく、

 魔力を零しながらも杯を満たしていく。

 全てを注ぎ終えたとき、イメージの杯は割れてしまった。

 目をゆっくりと開き、

 両の手で包んでいた核の違和感を感じながら開いてみると、

 やはりこちらも割れていた。


「・・・失敗、ですね・・・」

「・・・はぁ・・」

「ふむぅ・・・お主にはまだ早かったのかも知れんのう。

 もう少し制御が出来んと・・」

『ますたー?なにしてるのー?なんかきもちわるいよー!』


 核の書き換えに失敗してみんなが意気消沈しているその時、

 俺の下手糞な魔力制御に不快感を感じたアクアが起き出して来た。

 アルシェの頭の上を飛び立ちフヨフヨと浮遊して俺の頭に乗っかってくる。


「アクアちゃん、

 お兄さんはいまアクアちゃんの新しい核を作ろうとしていたんですよ」

「まぁ、失敗しちゃったんだけどね。ごめんなアクア」

『なんであくあをのけものにしたのー!』プンプン

「アクアは疲れて寝ていたし、

 これは俺一人でやらないといけなかったからだよ」


 失敗したことにショックを隠しきれない。

 いつも助けてくれるアクアに恩返しをしたかったのに、

 俺の力不足で新しい核が完成しなかったのだから消沈も大きい。


「あー、ゴホン・・・その、すまんが・・・。

 別に一人でする必要はないんじゃぞ?」

「「え!?」」

「いや、そのな、

 まさかそんな勘違いをしているとは思っていなかったんじゃが。

 成り損ないが眠っているから1人でやると意気込んでおるものとばかりのう・・・」

「わ、私がお手伝いするのはいいのですか?」

「シヴァの娘、あーアルカンシェじゃったな。

 お主ではいかんのじゃよ、絆のある精霊と人間でないとな」

「そうですか・・・」

『あくあもいっしょするー!』

「でも、もう書き換え用の核がないんだよ」

「え?お兄さん。あとひとつ回収してませんでしたか?」


 いつもの亜空間から取り出すのではなく、

 ギルドカードからインベントリを確認すると確かにもうひとつ[スライムα(アルファ)の核]が存在した。え!?いつ回収したの!?


「覚えてないんですか?

 ほら、-12話-[死霊王の呼び声:最下層【 中編】]で2つ回収してますよ」

「お、おう・・・。メタ発言は世界観を壊すからやめろ」


 すっかり忘れていた俺にアルシェが懇切丁寧にいつ頃回収したか教えてくれた。

 必死に記憶を巡らすと、

 確かに昼食を食べた後に2体目と出会っていたな。

 アルシェのラックの高さに感謝せざるを得ない。


「もうひとつあるなら、今度は2人でやってみるといいじゃろ」

「これで成功させればいいんです!二人が揃えば出来ますよ!」

『ますたーがへたでイガイガするから、せいぎょはあくあがやる!』

「最後の挑戦なんじゃから、

 役割はしっかりと分担しておくが良いぞい」


 そこからは散々アクアに怒られるという珍しい光景が繰り広げながらも、

 しっかりアクアと話し合って分担を決めた。

 俺はアクアの魔力のイメージと杯の制御、

 アクアが俺の魔力のイメージと魔力を混ぜる制御。

 アクアは定位置の頭上に仁王立ちをして俺と同じ態勢で2人で息を整える。


「空気が澄んでいく感覚がありますね」

「そうじゃな、良い集中じゃ。それに、良い主従じゃな」

「はい」

「始めるぞアクア」

『はい、よろこんでー』


 アルカトラズに目で合図をする。


「≪イレイズ≫」


 お互いのゆっくりと流れ始める魔力を感じながら魔力量を調整する。

 制御やイメージがあべこべなのは、

 自分の事は自分が一番知らないという俺の人生観から決めたことだ。

 実際に俺は自分の魔力色を思い浮かべることに失敗している。

 俺が想うアクアのイメージは、

 青を基調にのんびりとした中に子供らしい感性を加味した結果、

 光を当てると中心が水色に見える[瑠璃色]だった。

 やはり、1人であれこれしようとするよりも明確なイメージが出来ている。


 右腕から流れていく俺の魔力は、

 アクアがイメージしているからか俺には光って見えるだけだった。

 俺の魔力色をアクアは何を基準に考えたんだろ、

 これが終わったら教えてもらおう。

 ゆったりと2つの魔力が流れて行き、

 杯の上で混ざり合う為に球体を作リ出す。

 そのまま球体の中心に進むまでの間に混ざりきった魔力は、

 杯の真上から注がれていく。

 1人でこの制御やイメージをするのはそりゃ至難の業だよな。

 アクアに感謝しながら作業は滞りなく進んでいき・・・トプンッ!


 杯の全てを満たすと、

 徐々に光り始めた杯内の魔力の輝きが直視出来なくなる程になると、

 途端にイメージの世界から弾き出されてしまった。


『めがー、めがー!』


 目を開くと俺の体から淡い水色をした光が落ちて行く。

 頭上のアクアが目を抑えて騒いでいるが、

 俺と同じであの光で目を焼かれたのだろうが、

 実際はイメージ内の魔力光を目にしただけなのだから気のせいだろ。


 先程失敗した際は違和感があった両の掌に、

 変わらぬ核の感触を感じる。

 どうやら今回は割れてはいないようだ。

 感触を確かめてから目を向けると指の隙間から光が漏れていた。

 光の治まりを確認してみんなの見守る中、手を開いてみる。


 宝玉 :アクアーリィの核

 希少度:鬼レア

 @水精霊アクアとその主との絆の結晶@


「「成功だあぁぁぁぁぁぁ!!!!」ですぅぅぅぅぅ!!!!」

『わぁーい!やっ↑たぜ!』

「ほうほう。これは見事な色合いをしておるな」


 両手を開くとそこには碧瑠璃色(へきるりいろ)をした、

 新しく生まれ変わった宝玉があった。

 これが・・・アクア専用の核。

 再度の魔力枯渇によって足の力がフッ抜ける。

 腰を地面に下ろすとその振動を受けて、

 頭上で喜びの舞を踊っていたアクアがコロンと転がり落ちてきたので慌てて核が乗った両手をそのまま動かしてキャッチする。


『おー!これがあくあのですかー!』

「アクアちゃん、嬉しそうですね・・・」

「頑張ったかいがあったよ」(*´∀`*)

「お兄さんも嬉しそうですね。(そんな笑顔、初めて見ました)」

「え?何か言った?」

「いえ、核が完成したのなら精霊加階(せいれいかかい)し直したらどうですか?って言ったんですよ」

「そうじゃのう。

 今の核も限界が近いじゃろうし、

 今のうちに交換してしまったほうがいいじゃろ」


 愛おしそうに[アクアーリィの核]を抱きしめて頰擦りしているアクアに声をかける。


「アクア、新しい核に交換するぞ」

『はぁーい』


 フワリと俺の手から浮き上がり、俺の詠唱を待つアクア。

 創り変えた際に使った魔力が核を満たしていて、

 詠唱時に魔力を込める必要は無さそうだ。


「≪氷質(ひょうしつ)宿(やど)した大気(たいき)を集め、いま一時(ひととき)(しずく)()りて、我が元に()よ、蒼天(そうてん)穿(うが)て!精霊加階(せいれいかかい)()よ!・・・アクアーリィ!≫」


 詠唱を終えるとアクアがゆっくりと核へ降下してきて触れる。

 すると、アクアの体を構成していた水が、

 新しい核に引き寄せられるかのように足元から吸い込まれて、

 アクアーリィの核を中心に水の球体が出来上がる。

 このままいつものように手のひらサイズのアクアが産まれると思っていたが、何やら様子が違う。


「あれ?初めて召喚した時と同じくらい時間が掛かってるな」

「それどころか水球が少しずつですが、大きくなってきてますよ?」

「それはそうじゃろ。

 先程まではそこに残された核を使っておったが、

 適合率が低くて水精霊に制限を掛けておったんじゃ。

 身体を得てから質の良い魔力を餌にしていたようじゃし、

 十分に次の段階に行く成長を遂げておったんじゃろ。

 いまその球体の中では新しい身体を構成しておる」


 新しい核と入れ替わりに手の中に残った古い核を見つめる。

 確かに闘技場以来ずっとこの核を使い続けていたからか、

 よく良く見ればはじめの頃よりも色褪せて見える。

 アクアは俺の掌で再構成を始めてしまったが、

 恐る恐る手を外してみると、

 なんと空中に浮かび上がり俺の肩付近に落ち着く。

 もしかしたら、構成中でもアクアの意思はあるのかもしれない。


「さて、精霊が産まれる前に儂からお主にお願いがあるんじゃが、いいかのぉ?」

「まぁ、自分に出来る事であれば」

「そんなに難しいことではなくてのぉ、

 儂の眷属もお主の契約精霊として連れて行って欲しいんじゃが、

 どうかのぉ?進化の可能性を眷属で見ていきたいのじゃ」

「え?加階(かかい)させて連れていくのは構いませんけど、

 契約はその精霊と話をしてからでもいいですか?」

「もちろんじゃ。

 あー、その前に属性の認識について確認をしてもいいかのぉ?」

「はい、大丈夫です」

「私も一緒で大丈夫ですか?」

「かまわんよ、簡単な確認じゃからな。

 いま世に広まっている四属性の水、火、風、土とあるが、

 これらには裏の属性がある。それは何かわかるかの?」

「水は・・・」「氷ですね」

「風は・・・」「雷ですね」

「土は・・・」「・・・・」


 魔法の四属性の裏に隠れている属性。

 俺の答えを遮るように先回りして答えてはドヤ顔で振り向いてくるアルシェ。

 水は氷、風は雷。

 これは店売りの魔導書を読めば自ずとわかることだが、

 土はともかく火はちょっとわからないな。

 アルシェも土の裏属性がわからないようだ。


「土は・・・重力でしょうか」

「重力とはなんですか?」

「ありゃ、そこからか。城に帰ったら教えてあげるよ」

「ふむ、なかなか博識じゃの。正解じゃ」

「ただのイメージなんですがね。

 火がわからないんですよねぇ、幻覚、いや変質?変性?変化?」

「私も火は思い付かないですね。

 お兄さんはどうして変わる方向ばかりなんですか?」

「風や雷と同じで現象である火は性質を変える事に富んでいるんだよ。

 火を挟んだ向こう側を見ると陽炎で歪むし、

 火に特定の物質を混ぜると色が変わる。

 そういうところから考えた結果だよ」

「え?火って色が変わるんですか!?」

「そうだよ。他にも酸素が多くなれば青くなるはずだよ」

「なるほどのう。なかなか良い考察じゃ」

「では、正解なのですか?」

「うむ、合格じゃな。

 その四属性とは別に闇属性と光属性が存在する。

 その裏属性は何かわかるかのぉ?」

「私はどちらも縁がなかったのでわからないですね。

 資料も図書館になかったですし」


 ゲームとか小説とかを思い出せ。

 闇属性から派生する多くは死とか時空だろう。

 このうちこの世界で普及しているものが[エクソダス]や[インスタントルーム]、[インベントリ]、という事で闇の裏属性は時空だろう。


 光は・・・うーんわからんな。

 火と性質が似てて屈折での幻影[蜃気楼]とか、

 集めて熱を持たせるとか・・・回復は無属性らしいから違う。


「闇は時空だと思いますが、光がどうもわからないですね」

「お兄さん、何で(ry」

「お城でな」ポンポン

「闇属性は一部冒険者も使っておるからの、

 お主なら流石にわかるとは思ったわい。

 光属性はまぁ、いまわからずともいいじゃろ。

 使える者もいるのか怪しいもんじゃな」

「そうですか。いまの六属性の他に属性はありますか?」

「いや、もう無い。

 確認は以上じゃ、すまんかったな。

 ちなみに闇と光はお互いが弱点となる」


 つまり・・・

 火 → 風

 ↑ × ↓  闇⇔光

 水 ← 土  


 まぁ、予想の範囲内だな。


「次に連れて行ってもらう眷属を選んでもらいたいんじゃが、

 どの子がいいかのう」

「いえ、その前にアクアちゃんが産まれそうですよ」


 顔の横辺りを浮遊していた水で出来た卵に目を向けると、

 確かに先ほどとは大きさから違っていてギョッとしてしまった。

 というか、最後に確認したときは徐々に大きくなっていた球体は、

 いまやアクアの直径30cmほどに成長していた。

 上から下へ流れ続けていた表面を滑る水がやがて止まると同時に、

 卵の上部から静かに水の膜が剥がれて行く。


 その中から姿を見せるのは、

 今までの掌サイズで体や衣服の構成も水で出来た姿であり言ってしまえば2頭身、

 しかし新しい姿は確かに少しだけ成長しているようで、

 体は人のそれと大差がなく見える。

 衣服は元のドレス風のままではあるが、

 端々が水で出来ているかのように飛沫を残している。

 生まれ変わった3頭身アクアはゆっくりと目を開いて、口を開く。


「ますたー!ひさしぶりなのー!」


 あぁ、大きくなってもアクアだなと安心させる相変わらずの舌足らず。

 俺に抱きついてくるアクアを両手で抱きとめると確かな成長の重さを感じる。

 もう、大きさも赤ちゃんくらいになっているし、

 髪も少し伸びているが顔の造形は面影をそのままに愛らしさを残している。


「久し振りってまだ1時間も経ってないだろ」

「わぁ、アクアちゃんずいぶんと大きくなりましたね」

『ますたー、ますたー!』


 何がそれほど嬉しいのかわからないが、

 アクアは必死に手を伸ばして俺に掴みかかってくる。

 そのまま俺の腕から肩へと移り、続けて首からよじ登り、

 定位置の頭に到着する。

 もう掌サイズではないから下半身は俺の後頭部に垂れ下がっている。

 バタバタするんじゃないよ、膝が当たって痛い。


「これは驚いたのぉ、まさかここまでの急成長をするとは。

 本来ならば何度か進化するまで先ほどと同じエレメンタル体であるはずじゃのに、

 もう受肉体になったのか・・・すごいのぉ」

「エレメンタル体って進化前の水で出来た体と服のことですか?」

「さよう。通常の精霊と違って成長が早いのは当然として、

 受肉体になるのは生活をするのに有利になるからじゃ。

 お主らの知り合いに精霊か妖精がいるなら受肉しておらんかの?」

「確かにセリア先生は風で出来た体ではありませんね」

「アインスさんも受肉していると思いますね」

「つまり、仲間以外の種と接する必要が出ない限りはエレメンタル体なのじゃ。

 人と契約したとしてもここまですぐに受肉した個体は始めてじゃ」

『あくあすごいでしょー!』


 以前にも増して活発的な娘に成長したようだ。

 下半身をぷらぷらしながらドヤ顔ですごいアピールしてくる。

 特殊な契約や上質な魔力、

 人とのコミュニケーションを経て、

 早めに受肉出来たという事だと思うし、

 ひんやりと冷たかったアクアに(ほの)かでは暖かさが宿ったのはこの娘の主人として素直に嬉しく思う。


「そうだアクア、

 アルカトラズ様が闇の浮遊精霊を1人連れて行って欲しいらしくてな。

 アクアと仲良くできる子を探してくれないか?」

『あくあにおまかせー』スイー

「そうじゃな、仲良く出来るに越したことはないわい。

 待っておる間に眷属を連れて行ってもらう報酬を渡そうかの」

「え?いや、いいですよぉ。

 1人連れて行くだけでも戦術の幅が広がるんです。

 それ自体が報酬のようなものじゃないですか」

「眷属を任せるのじゃから、このくらいはさせて欲しい。

 受け取っては貰えんじゃろうか?」

「お兄さん、ここは受け取るべきです。

 確かに精霊を預けてもらい、

 その上で報酬もと考えれば貰ってばかりで、

 お兄さんとしては釈然としないと思いますが、

 アルカトラズ様は家族を預ける行為に、

 よろしく頼みますという意味を込めて報酬を出すと言われているのです。

 どうかお気持ちを汲んであげてください」


 俺の世界で言う嫁入り道具みたいなものと考えれば、

 確かに受け取らなければ相手を(ないがし)ろにして(はずかし)める事になるのかもしれない。

 これはもう、預かった精霊を大事にしないとな。


「わかりました、その報酬。受け取らせていただきます」

「うむ、感謝するぞ。

 アルカンシェも説得に助力してくれて助かったぞい」

「いえ、お兄さんは対等を望む方ですが、

 話を理解すれば飲んでくれるとわかっていましたから」

「俺ってそんなにわかりやすい?」

「そうですね。いつも通り優しいです」

「それでは、報酬を渡すぞい。手を上向きに腕を」


 言われたように俺が出した掌に巨大な人差し指が重ねるアルカトラズ。

 重なっているのは骨の指先のはずなのに色んな想いが込められているように感じた。


「≪(われ)大精霊(だいせいれい)アルカトラズ分御霊(わけみたま)(ねが)(たてまつ)る。(やみ)星光(せいこう)(とき)開闢(かいびゃく)、彼の者に(やみ)加護(かご)(あた)(たま)え≫」


 詠唱と同時にアルカトラズの体から吹き出るように出てきた黒いオーラが、

 指先を通じて俺の手から体に浸透していく。

 詠唱から言って加護の付与をしているのだと思うけど、

 闇属性のはずなのに神聖な感じがするという不思議よ。


[称号:アルカトラズ亜神の加護が付与されました]


「これで闇属性の浮遊精霊をお主もいくらかは纏いやすくなったじゃろ」

「報酬とか言いつつ、眷族の為じゃないですか」

「親心ですよね」

「いやハハハ、お恥ずかしい限りじゃ」

「とりあえず、ご好意としてありがたくいただいておきます」

『ますたー、きめたよー!』


 眷属と言っているからには身内として俺に預けるって事で、

 その子が存分に力を発揮するには、

 俺が闇精霊が纏いたくなる特性も持たないといけなかった。

 それゆえの加護付与。

 俺が加護をいただいている間、

 ずっと浮遊精霊の間をウロウロして話しかけていたアクアが俺の目には見えない闇精霊の卵を連れてきた。


「ありがとう、アクア。

 じゃあどうするかな・・・核のストックがないから、

 ひとまずアクアが使っていた核で召喚しようか。

 上に戻れば新しい核で召喚しなおす事ができるし」

「致し方ないじゃろ。

 そうじゃ、アクアーリィと儂の眷属が同じ成長速度では無い事を理解しておるかの?」

「あ、はい。

 アクアは産まれてからアルシェの純度が高い水属性の魔力で成長し、

 俺との絆があったからここまで早い進化に辿り着けたのですよね」

「そうじゃ。

 おそらくアクアーリィの核は今後劣化をする事がないし、

 魔力切れで割れることも無いじゃろう。

 それほどの完成度で造られておる。

 精霊としての成長は今まで通り魔力が栄養となるが、

 進化の為には核の成長も必要になる。

 お主が経験値を得れば核にも経験値が入ることになるじゃろう」

「つまりは、次にアクアちゃんが進化するには、

 戦闘経験値と魔力経験値のどちらも揃って出来るようになるということですか?」

「うむ。アクアーリィは我等精霊とは違う道を歩み始めた。

 先駆者としてしっかりと成長して欲しいと願う。

 もちろん我が眷属もいずれは同じ道に進んで欲しいがの」

「ははは、努力しますよ」

『ますたー、せつめいしたらおーけーだってさ。

 まりょくこめたらさわるって~』

「俺がいちいち言わなくてもやってくれるようになってる・・・これが成長か。

 アクア、俺の魔力が足りないからお前の魔力を使うけどいいか?」

『はい、よろこんでー』


 アクアが定位置へ乗っかってくる。

 まさか、ダンジョンの最奥で新しい浮遊精霊を召喚するとは思っていなかったのと、

 アクアに使用している核の劣化に気付いていなかったのでスペアをインベントリに入れていなかった。


 ギルドの倉庫に行けば16個は保管しているから、

 進化できるまではこの子に使うことになるだろうな。

 中古の核は今だけだから許してね。


「≪幽世(かくりよ)()(ひら)き、冥暗(めいあん)(まよ)わず隔世(かくせい)(まど)わず、()(もと)()よ、闇光(あんこう)(きざ)め!精霊加階(せいれいかかい)()よ!・・・クーデルカ=シュテール!≫」


 詠唱を終えると、

 部屋にある影と言う影から黒いモノが飛び出して核を中心に球体を構成する。

 この黒いのってなんなんだろ?

 アクアなら周囲の水分を集めたとか、

 ノイなら砂を集めていたと予想も付くんだけど。

 では、これはなんなんだろう。

 影を通して別の場所から転送されてきたのだろうか?

 じゃあなんだろ。ダークマターとかこの世界にあるんかねぇ?


 最奥での用事は全て終わり、あとはこの子が産まれるのを待つだけになった。

 初めはBOSSを倒すだけの予定だったのに[アラクネボーン]を簡単に倒したら、

 起きた死霊王が憑依して[ブラックスケルトン]になり、

 結局死霊王こと[アルカトラズ]と顔を合わせ、

 アクアの進化や闇精霊を預かることになるとは思ってなかったなぁ。

 アクアは俺の頭の上でゴロゴロして、

 アルシェはアルカトラズを質問攻めしている。

 そうやって少し時間を潰した頃にその子は産まれた。


「おはよう・・・ございます、皆様・・・」


 可愛いらしい黒い子猫が産まれた。

いつもお読みいただきありがとうございます

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