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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-

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†第12章† -17話-[高級シャドーインベントリ]

「どうかしら、マリエル」

〔いえ・・・、まだ砂塵と煙で見えません・・・。

 ただ、球状に広がった雷の端の部分から見て、地面や建物は消滅していると思われます〕


 お兄さんが咄嗟に命令してマリエルやセリア先生を逃がしたお陰で九死に一生を得ましたね。

 もちろん勇者様もブルー・ドラゴン(フリューアネイシア)も無事ですが、

 外壁の外からも見えるほどの広範囲超威力攻撃とは・・・。


 あの攻撃が発動して瞬間。

 戦場全域にヒィィン・・・という綺麗な音が一度だけ響きました。

 それは耳に痛くない優しい音でしたが、

 しばらくの間は戦闘音もお互いの声も通らない状況に陥り多少混乱しました。


 音は時間経過と共にゆったりと戻って来ましたが、

 城下町に発生した球状の雷はその場に残ったまま。

 だから、上空からマリエルに報告をさせているのが現状です。


「竜巻も同時に消えたのは幸いですね」

〔ですが、アルシェ様。

 消える際に舞い上がっていた瘴気は方々に飛び散ってしまいましたわ。

 水無月(みなづき)君が懸念した量ではなくとも面倒はまたひとつ増えた事に変わりありませんわよ〕


 セリア先生の言うことも一理ありますが、

 最善を尽くした結果なのだから仕方ありません。

 何より面倒の規模は確実に小さくなっているのですから無駄ではありませんでした。


「問題ありません。

 すでに各国に飛び散った瘴気の調査報告を依頼済みです」

〔流石ですわね。

 ―そろそろ収束しそうですわよ・・・〕


 こちらからは遠すぎて見えないけれど、

 風精霊であるセリア先生は微細な変化を感じ取って忠告をしてくれる。


〔極大雷球が震えて収束を始めます。

 ニルが風に吸い込まれるから身を低くするようにと言ってます〕

「全員、腰を据えなさい!!

 おそらくあの空間に存在しなくなった空気の補充で強烈な吸引が始まります!!」


 集う仲間は返事をするまでもなく直ぐさま身を低くして互いを掴み合う。

 揺蕩う唄(ウィルフラタ)で繋げているメリー達や他の味方たちも同じように体勢を整えている事だろう。


 それから然程(さほど)時間も経たず、

 マリエルの宣言通りに一瞬で極大雷球は収束して風が集まりを見せた。

 ゴォォォォォォォォ!!!!!!

 その場には煙と砂塵を巻き上げながら風も収束する。

 各所で悲鳴が上がり、伝達の間に合わなかった兵士と瘴気モンスターが大地を転がっていく中。

 やがて、風は収まりはじめた。


「これなら動けますね」

〔空からはまだ視界を確保出来ませんが・・・〕

「その程度なんとかするでしょう? ―お兄さん」



 * * * * *

「なんとかと言われてもなぁ・・・」


 あの視界が目映さに包まれ聴覚も失った瞬間。

 正に間一髪というタイミングで愛娘クーデルカが機転を利かせ、

 シンクロを強制的に敢行した挙げ句に野宿の際に利用していた[安全地帯セーフティーフィールド]を使用することであの超威力の攻撃を回避することに成功した。


 それでも亜空間に逃げ込んだというのに凄まじい振動に見舞われ、

 改めてガチになった魔神族のやばさが身に染みた所だ。


「この場に居たらクーを撫で回して褒めちぎるところだが、

 残念なことに今は出来んな」

『(無事に帰ったらお願いします、お父様!!)』

『こんな状況でも相変わらずです。

 で、実際ここからどうするですか?すぐに動いた方が良いですよね?』


 鼻息荒く興奮気味なクーが用意に想像出来る勢いと、

 尚も冷静なノイの言い様に笑みがこぼれる。


 瞳を閉じて光に包まれた時の感覚を思い出せば、

 瞼の暗闇の先にナユタのシルエットが浮かんでくる。

 これは直前に受けた強烈な殺気を利用して気配を追っているに過ぎない。


 本当に空間を隔てた目と鼻の先に居るかも知れないし、

 すでに離れていないかも知れない。


 お魚さんソード(アクアズブレイド)を突きの構えに持ち上げ、

 左手の平を前に出して狙いを定める。


「《来よ・・・》」


 全身を軋ませる程に力を込めて腕を引き絞る。

 そこに居ろよ。


「《―氷竜一槍(ひょうりゅういっそう)!!》」


『(解除(パージ)!)』


 状況が動き出せば一変した。

 視界はナユタの攻撃が発動する前の状態で保存された安全地帯から、

 一瞬で辺り一面が地面すらボッコリと失せた戦場へと変わる。


 そして目の前にはナユタ。


 視線はやや下向き。

 肩や胸を見れば呼吸は深く、

 先ほどの攻撃はナユタにとっても負担の大きい攻撃であったことが分かる。


 高濃度魔力を纏いながら突き出された剣は、

 吸い込まれるようにその呼気により大きく前後する胸元へと伸び。


 そのまま突き刺さる。


『《―っ!!金剛(こんごう)》!!!!』


 一槍(いっそう)が発動して防御の姿勢も取っていないナユタを飲み込むのを視認すると同時に、

 俺の視界外から相打ちの一撃が左腕を強打してきた。


「がああっ!!?」


 高濃度魔力による槍がナユタを城下町の奥へと運び、

 俺はノイが軽減したとはいえ直撃したミョルニルの一撃で別方向へと大きく吹き飛ばされ家をいくつか破壊してようやく身体は瓦礫に埋もれて止まってくれた。


『(お父様!!ご無事ですかっ!?)』

「あたた・・・。

 衝撃で痺れてるけど腕は無事、かな?

 もしかしたらヒビくらいは入ってるかもってくらい痛いわ。

 クーはやることがあるだろ、今はそっちに集中しろ」

『かしこまりました。

 では、ノイ姉様にアニマ。後はよろしくおねがいします』


 クーはそう言い残すとシンクロ解除して気配を消した。

 ズキンズキンと受けた腕は肩や首にまで痛みが伝播するほど深刻らしいが、

 また聖女クレアの元に顔を出すには早い気もする。


「アニマ、HPは?」

『今の一撃で4割、住宅破壊ではほとんど受けていませんね。

 流石は土精ノイティミルと言わざるを得ない成果です』

『奇跡的に金剛(こんごう)が間に合ったです。

 腕で受けられたのも大きいですね』

「どっちにしろ上手く生き残れた。

 クーとアクアも魔法を発動させたな・・・」


 瓦礫から立ち上がりもう夕暮れを越えそうな暗さの中。

 城下町の外で空へと落ちる蒼天(そうてん)色のティアドロップが見える。


 それは雨を降らせ続ける曇天へ落ちると、

 波紋を広げて空が雷とは別の光を数秒放つとそのまま光は失せていく。


「よしよし、これで見やすくなった」


 条件が厳しいけれど、

 雨に乗せることで発動出来る広域視覚魔法[猫の黒雨]。

 クーが使う[猫の秘薬]は暗闇を日中のように視界を確保する魔法だが、

 これを水精アクアが協力して雨に付与することで広域の人間に同様の効果をもたらす。


 代わりに光に弱くなるので俺の一閃とかは目の毒だろうけれど、

 黒雨(こくう)というだけあって雨は黒くなる。

 近距離ならともかく、遠距離から見える分には目に優しくなるだろう。


『同じ属性同士ならともかく、

 姉弟ならではの別属性同士の合わせ技とは恐れ入りますね』

「アニマもベルと力を合わせれば完全な回復魔法とか創れそうじゃ無いか?」

『その前にワタクシとベルの成長が必要ですけれどね』

水無月(みなづき)さん!!大丈夫ですかっ!?〕


 おっと、空から見えていたのか。

 勇者メリオの焦りの滲む声音が揺蕩う唄(ウィルフラタ)から響いてくる。


「一応生きてるよ。多分左腕がおシャカになったけど。

 そっちは全員無事か?」

〔マリエルさんもセリアさんもブルー・ドラゴンも全員無事です〕


 回避はギリギリかと思ったけどなんとか逃げ切れたか・・・。

 皆の無事な報告ホッとしつつも、

 先のナユタの一撃で空いた空間の瘴気を浄化するべくすぐに動き出す。


「ナユタはどうなったか見えたか?」

〔いえ、水無月(みなづき)さんと相打ちになったところまでは見えたんですけど、

 魔力に飲まれてからは行方を追えていません〕

「もう一人、叢風(むらかぜ)のメルケルスは?」

〔同じくナユタの一撃から見失ったままですけど、

 その後再び瘴気を巻き上げる行為は行っていません〕


 ナユタに入った最後の一槍(いっそう)が良い感じに効いているなら、

 メルケルスも前衛が居なくなったことで退いてくれるかも知れないな。

 とはいえ、完全に無効化出来たと確認出来る問題でも無いか・・・。


「マリエルとセリア先生は城下町の外壁付近まで下がって兵士の支援を。

 ブルー・ドラゴン(フリューネ)は魔力量次第だけどどんな具合だ?」

〔あー、あー、これで聞こえてる?

 1割も使ってないよ~、まだまだ戦えるけどどうする~?〕

「俺の位置がわかるならその上空で瘴気モンスターを駆逐してくれ。

 メリオは俺と合流して浄化を進めよう」

〔〔〔〔了解!〕〕〕〕


 なんかメリオもうちのメンバーみたいに普通に「了解」とか言ってるけど、

 自分のところのPTに戻ってもちゃんと引っ張っていけるのか不安だな。


「《光竜一閃(こうりゅういっせん)!》」


 大穴の縁まで到着したのでひとまず浄化を開始したのだが・・・。

 瘴気が漂っていて正確な被害状況がわからないな。

 吹き飛ばされる前に見た景色は瘴気も家も地面も無くなった空間というものだった。


 もしかすると数㎞レベルでこの大穴が空いているとすれば、

 復興がさらに面倒な事になるな。


 ラフィート王子に手を合わせる。

 なんか、すみません。


 幸い多くの瘴気モンスターが巻き込まれて志望したらしく、

 空がちゃんと拝める程度には掃除がされていた。


「これ何割くらい浄化進んだのかな?」

『城下町も広いですが戦闘をしながらそれなりに浄化を進めたです。

 だから・・・1割くらいは終わっているんじゃないです?』


 ほぼ終わってねぇじゃん。

 まぁ、浄化した端から瘴気が流れ込んでくるので本当に浄化が出来ている範囲というのは分かりづらい。

 やっぱ成果あってのヤル気ですよね。


 さて、ここまで戻ってきても魔神族の気配は感じられない。

 このまま明日も変わらず出てこなければ、

 勇者にはPTを率いて王城に乗り込んで貰おうかな。

 勇者なのに手柄らしい手柄がないんじゃ困る。


 せめて元凶の隷霊(れいれい)のマグニと相対して、出来れば倒してもらいたいものだ。



 * * * * *

 結局2日目はそのまま夜に突入。

 朝になるまで浄化を進め、

 途中からはメリオとも分かれて俺はアスペラルダ方面を重点的に浄化作業を続けた。


 ―そして、夜が明けた。


水無月(みなづき)殿、貴方はもう休まれていいですよ」

「・・・あとはこちらで対処出来る」


 大きくあくびをして目に薄く涙が浮かぶ中で聞こえる声の主はすぐ隣に居た。

 俺と勇者メリオが浄化を進めた甲斐もあり、

 目の前の地面を覆っている瘴気は戦闘開始直後に比べれば若干薄まっている。


 発生する瘴気モンスターも平均して1ランク下がった事も確認が取れたという事で、

 朝方に合流したアスペラルダ軍の将軍であり顔見知りでもあるフィリップ卿とアセンスィア卿は俺に眠れと進言してきた訳だ。


「しかし、瘴気モンスターはともかく魔神族はその後の行方がまだ・・・」

「全部を水無月(みなづき)殿がやられてはうちの軍の面目が潰れてしまいます。

 この2日は仮眠しか取られていない事もこっちは把握しているんですよ?」

「・・・腹が減っては戦は出来ん。睡眠不足でも満足な戦は出来ない」


 彼らは確かに軍に所属して長いし現役の将軍だ。

 しかし、だからと言って魔神族の相手ははっきり言って畑違いな感じが否めない。

 いくら無精と契約している精霊使い(見習い)とはいえ、

 この局面で睡眠をする為に退くというのはどうにも納得がいかない気がする。


「眠いかと言われれば3割くらい眠いですが」

「それは眠いのだ。

 戦闘が続いて忘れているだけでやがて幾ばくもしないうちに身体に支障をきたすぞ」

「・・・我々は精霊の助けもあって大きな被害は被っておらん。

 水無月(みなづき)が数時間居ない程度で崩れるような鍛え方もしておらん」


 う~ん、おっさん達は意固地だな。

 俺は瞼が重い程度で眠くないと言っているのに。

 全く信じていないのか何故かこのまま共闘することを許してくれない。


『はぁ、マスター。

 お二方が仰る事も道理では無いです?

 自分の左腕が折れて使い物になっていないことは理解しているです?』

「・・・すっかり忘れていた」


 そうだった。

 結局最後にナユタから受けたミョルニルの一撃は魔法による防御やスキルによる防御、

 そして無精達の鎧を向けて骨に達していた。


 思い出したら痛んできた気がする。


「休める時に休む。

 これも戦場で戦ううえで大事なことです」

「・・・ついでにその腕も治療してもらえばいい」

「アルカンシェ姫も一度こちらに合流されるでしょうし、

 その時まで出張っていたら怒られますよ?」


 城で働いている分、俺とアルシェの関係を良く知っているな。

 持ちつ持たれつで互いの足りない部分を補い、時には注意をして止める。

 そういう会話を城の各所で目撃しているのだろう。

 確かにアルシェが合流する頃まで戦っていれば怒られるかも知れない。


「ご主人様っ!!」

『お父様っ!!』


 あっ!!

 侍女と次女にバレた。


 兵士の集団の中から現れたメリーは俺に駆け寄るとクーデルカと分かれた。

 胸の前に差し出した両手の足場の上に猫の姿でクーが姿を現す。


「クーデルカ様がまだ戦場に居られると仰られるので来てみれば・・・。

 何故休まれていないのですか?

 将軍達はずいぶんと前から外壁にたどり着いておられましたよね?」

「え~と・・・浄化に夢中で?」

『アルシェ様は朝食を食べられている最中ですが、お父様はお食事どうされていますか?』

『それが非常食で食べ繋いでいるんです。

 クーからも強く言ってあげるですよ』


 ノイに促されるとクーのお目々がキッ!と強くなった。


『どうせなので、

 お姉さま達と交代する際にクー達とお食事をしてから睡眠を取りましょう』

『クー・・・貴女・・・』

『昨夜のファインプレーを褒めて貰う良い機会なんです!!

 ノイ姉様は黙ってくださいませっ!!』

『はいはい』


 メリー達はPTから先行して来ていたらしい。

 遅れて兵士の間から続々とメンバーが顔を出しては、

「わ!マジで居る!?」とか「宗八(そうはち)・・・少しは味方を信用してくれ」とか言われる始末だ。


 信用はしてるけど、

 役割も違うんだしちょっと出張ってもいいじゃないか。

 こちとら久しぶりの戦場じゃい!

 興奮して頑張り過ぎちゃっても仕方ないと思わない?


「思わん」


 思わんらしい。


「十分な食事と十分な治療と十分な睡眠をしっかり取ってまた強敵を相手取ってくれ」

「・・・あとは任せるぞ?」

「はい、こちらもこの後はアルシェ様と交代致しますので。

 また夜に戦場にお邪魔させていただきます」


 そんな別れを将軍達としてからは、

 揺蕩う唄(ウィルフラタ)でスィーネやボジャ様に光精テルナローレに指示を出して疲れなどを伺い休息を回すことにした。


 ちなみにアスペラルダはテルナローレしか光精の協力がなかったので、

 いくら睡眠が必要なく魔力も後から次々と注がれるとはいえ疲れは感じていた。

 久しぶりに顔を見せたテルナローレは精霊なのに社畜みたいな顔色になっていた。


「大丈夫じゃなさそうですね」

『私も瘴気を前にして休みという考えは浮かびませんでした。

 ですが、水精スィーネも同じ時間働いているのでは?』

「あいつは手の抜き方を心得ていますから心労はテルナローレほどではありません」


 一応俺もそれを気にして休息の提案をしてみたけれど、

「ん~、私は常に魔法を使っていたわけじゃ無いしねぇ。先に光精テルナローレを休ませてあげてぇ~」と言われた。


「休息はどちらでされますか?」

『後方の天幕近くで日光浴をさせていただければ・・・』

「光魔法で勇者のように瞬間移動は出来ないのですか?」


 それが出来ればやはり霊峰なんたらの光精王ソレイユ様の元で十分回復できそうだ。


『出来ないんですよ。

 勇者の魔法と光精が扱える魔法は違いますので、

 あのように遠距離を移動する術はありません。

 せいぜいが短距離光速移動なものです』

「霊峰までは帰れないんですか?」

『連続使用は精神的負荷が大きくて・・・、天幕までであれば問題ありません』

「わかりました、アインスさんは分かりますね?

 中央天幕に詰めているので声を掛けてください」

『わかりました。では失礼します』


 その言葉を最後にテルナローレは身体を光の粒子へと変え、

 弾けるように姿を消した。

 瞬間移動、格好いいなぁ。


 そんな俺の心に反応して久しぶりに腰に戻ってきた炎の剣がプルッと震える。

 ずっとリッカに預けっぱなしだった火精(かせい)のフラムだ。


(あるじ)様!自分もあんな移動方法を覚えたいです!!』

「創る事は出来るかもしれないけど、

 基礎を疎かにしては絶対に使えるようにはならないからね。

 お姉ちゃん達の言うことを良く聞いてちゃんと努力すればきっと使えるようになるよ」

『はい!!』


 俺がアルシェと交代すれば再び離ればなれとなってしまう。

 それを嫌って短い間でもと俺の腰にしがみついているのだ。

 長男、憂い奴よ。


 ところで光精ベルはアクアと共にあるらしい。

 契約は出来ても一切の戦力にならないのは仕方ないとはいえ、

 ずっと俺では無い誰かに付かせているのも正直申し訳ない。


「今回の件が終わったらフラムとベルはしばらく俺と行動を共にしような」

『嬉しいです!(あるじ)様!!』

『お父様、アルシェ様が出てこられます。

 引き継ぎをしてお食事と致しましょう』

「わかった」


 もちろんしっかりと休息を取ったアルシェは、

 クーの影から出てくるや否や俺の元へとツカツカ歩いてきて・・・。


「お兄さん!!状況が落ち着いているならさっさと退いて体調を整えるのも大事なんですよっ!!!!」


 プリプリと可愛らしくお怒りになられたのだった。



 * * * * *

「おぉー、久しぶりに入ったけど今はここまでになってるのか・・・」

『クーはどこを目指しているんでしょうね』


 アニマが俺から離れるとトコトコ肌触りのいいカーペットの上を歩く。

 今、俺達がいるのはクーの影の中。

 初めは旅の装備を納めておく為に開発した[影倉庫(シャドーインベントリ)]だったが、

 今やクー自身の努力とセンスによってかなり広い空間へと成長していた。


『成長・・・ねぇ。

 空間自体が黒を基調とした部分は変わりないですけど、

 それにしては生活拠点として完成され過ぎです』


 同じく空間内を自由に動くノイは調度品のソファに沈みながらそんな言葉を零した。


「隊長、隊長!男部屋と女部屋でちゃんと分かれてますよ!!」

『倉庫には非常食と飲料がどっさりありましたわー!!』

水無月(みなづき)君!浴室も完備されていますわよ!!」

「これであの位階とは今後の成長が楽しみじゃのぉ」


 全員が全員、マリエルもニルもセリア先生もボジャ様も。

 この3LDKの空間を一時疲れも忘れて探検していた。


 まぁ、以前に比べたら1ルームに荷物置きと寝室を共有で利用していた事を考えれば、

 凄まじい成長の仕方をしているのはわかる。

 俺もここまでしなくてもと思うし、クーの負担はどうなっているのかとちょっと悩んだほどだ。


 影倉庫(シャドーインベントリ)の特徴として、

 内部に置かれる重量に比例して魔力と制御力の負担が増大する。


 基本は男女が交わるPTが多い為、

 男女部屋どちらも合わせて寝袋では無くベッドが4つずつ。

 合計8つもベッドが配置されている上に、

 荷物置き用のクローゼットも同じく8つ完備。


 ダイニングキッチンには大勢で囲えるテーブル1つと椅子が多数有り、

 一般家庭に普及している(かまど)などのキッチン用具がちゃんと設置されている。


『あ、ですがこのテーブルと椅子に使われている木材。

 丈夫で軽いプルテオの木が使われていますわ』

「ベッドもとても軽かったですよ?」

『プルテオ?確か高級木材だったと思うがのぉ。

 宗八(そうはち)坊のメイドの仕事はそんなに稼げるのか?』

「一応、将軍と同等の立場のメイドなので高給取りなのは確かですが、

 俺の金も使っているはずです」


 もちろん俺もアスペラルダに協力している立場なのでお給料をいただいている。

 危険手当を代表に色んな手当が付いて、

 ダンジョンに潜る必要もないくらいに稼いでいるのだが、

 如何せん暇はないし欲しいものも金で手に入らない物が多い。

 故に使わないので金だけ貯まっている状況だった。


 ところがある日、メリーを連れてクーが俺におねだりをしに来た。


『お父様、クーのお願いを聞いて欲しいのです』

「ん?珍しいな、メリーまで来て。

 それで、どんなお願い?」

影倉庫(シャドーインベントリ)を色々改造したくて・・・。

 利用されるお父様にも利はありますし、

 よろしければお父様にもお金を出して欲しいのです』

「いいよ」

『ありがとうございます!!』


 この時はどのくらい使うかは聞いていなかった。

 クーを信じていたし、

 うちの姉弟はコミュニケーションや話し合いを盛んに行っているので、何かクーに異変があれば誰かが気付くと踏んでいた。


 自分の貯金額を気にしなかった俺も問題だが、

 ここまでしっかりとした拠点作りをしているとは思っていなかった。


「ご主人様、食事の準備が整いました」

『皆様、席についてください』


 探検していたメンバーとは別に、

 この空間作りに関与した2人は淡々と食事作りに徹していた。


『うわぁ・・・すごい豪華な料理です・・・』

『やるからには突き抜ける。

 流石は宗八(そうはち)の娘ですね・・・』

『クー姉様はすごいですわー!!』


 引いているのはノイとアニマのみで、

 テーブルに広がる野菜に肉に魚と満遍なく各種食材を利用した料理を見て他のメンバーは嬉しそうに手を合わせている。


『『『「いただきます!」』』』


 まさかこんな戦場の前線でここまで豪勢な食事が取れるようになろうとは、

 この異世界に来たばかりの頃は想像もしていなかったなぁ。


『お父様、美味しいですか?』

「うん、美味しいよ。ありがとう」

『えへへへ、ゴロゴロ・・・』


 食事の手を止めて隣に座るクーの頭を撫で上げると喉まで鳴らして喜ぶ姿に、

 お金使いすぎだよ・・・とは言えなかった。


 食事が終わると念のためクーからこの空間の現状説明が入る。


『今の影倉庫(シャドーインベントリ)は時間経過を早めています。

 なので睡眠を8時間取っても準備運動や夜食などの時間も確保出来ます』

「交代のタイミングはアルシェ様の判断でアクア様からご主人様へ連絡を入れていただきます」

「わかった」


 腕の骨折に関しては早朝だったけどクレアに無理を言って起きて貰い、

 ちょっぱやで治して貰ってから影に入ったので風呂に入ってさっぱりしても全然痛みは再発しなかった。


 ただ、代償にクルルクス姉妹からボディブローを1発ずつ貰ったけどな。


 さて、あとは寝て体調全快で戦線に復帰するだけだ。

 腹の上にクーとニルの重みと、

 両腕にアニマとノイの暖かみを感じながら高級ベッドの中で俺は意識を手放した。

いつもお読み頂きありがとうございます!

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