†第12章† -15話-[アルシェ&アクア VS 赤鬼]
ドレスアーマーと言っても、
本当にドレスに氷の装飾品が付いた程度のものだった。
それが近接戦を見据えた新しい衣装は完全に違った。
氷の手甲は肘近くまでカバーしていて、
ノイちゃんの土精霊纏とは違い、
龍の鱗を意識してか細かな鱗で光を反射している。
それに指も竜のような爪は付いているけれど。邪魔になっていない。
衣装の基本はドレスだけれど、
サマードレスに変わっていて肩の動きから膝の動きまで布は少なくなっている。
上半身に下半身も、
可動の邪魔にならないよう、でも防御面はしっかり考えられているのがわかる。
「これ、一人で考えたの?」
『うんう、結構ご本も読んだし話も聞いたし実際に見せて貰ったりもしたよぉ~?』
「凄く龍を意識してるね」
『成長すればこれが似合う女になるんだ~♪』
未来を見据えて色々と考えてこれを造り上げたんですね。
『注意点をお伝えしま~す』
「は、はい!」
注意点?お兄さんの娘だしなんか嫌な予感もするなぁ。
鎧に注意が必要っていうのもよくわからない。
『アクア達って魔法使いってジョブだから、
基本的に力が武器に乗りづらいかもしれないんだって~。
だから、全部位に[氷の波撃]が込められてるよ~』
「全部位?腕や足だけじゃなくて・・・?」
『緊急回避とかも考えて鎧にも組み込んだんだぁ~♪』
すっごく楽しそうだけど、鎧には必要無いんじゃない!?
『ニルが「ニルはこうなってますのー!アクア姉様もお揃いにしましょー!!」って。
妹のお願いに、アクア弱いの~。
腰のリボンが[氷の波撃]の出力先だよ~』
マリエルから聞いたアレの事かな?
風を含んでブーストを掛けるって言ってたなぁ。
あっちは持続的に噴出するみたいだけど、こっちは魔法で瞬間を加速するから、
別物と思った方が良いわね。それこそ緊急回避かな。
『足りない筋力はクーの[闇精外装]を採用~!
新しく創った[水精外装]で補ってま~す』
「これもお願いな訳ね」
『ぴんぽ~ん♪』
そして、尻尾はアクアちゃんの好みって事ね。
攻撃と・・・もし体勢を崩された時の最後の手段ね。
完全に趣味で付けた感があるのに威力はなかなかっと。
『実際の性能は戦ってからだねぇ~♪
おいで《龍玉》』
「怖いなぁ~。アクアちゃん謹製のとっておきかぁ・・・。
《氷属性武器精製シフト:ランサー》」
アクアちゃんが呼び出した龍玉を氷の槍でスパッと斬る。
これで先ほど敵に向けて撃ち込んで失った槍剣が戻ってきた。
「先ほどよりもしっくり来ますね」
『ん~♪良かったねぇ~♪
アクアも慣れてないから戦闘しながら調整しようねぇ~♪』
近接戦闘の準備が整った。
そんな矢先に後方で取り巻きモンスターを魔法で撃ち殺していたフランザから連絡が入る。
〔すみませんアルカンシェ様。
兵士たちが追いついて来たのですが、どう致しましょう?〕
「率いている将軍は誰ですか?」
〔アセンスィア卿だそうです〕
「オーガは私が相手をするので大きく迂回をするように伝えてください。
ただ、抑えきれずに兵士に向かう可能性は十分にある事は伝えるように」
〔かしこまりました〕
さて、仕切り直してどこまで変わるか見物ですね。
「前に進みます!全員あとに続いてください!」
「「「了解!」」」
「『突喊!!』」
普段の出力とは違う速度で急加速発進した身体は軋みつつも負けていない。
ドレスアーマーのままだと体勢を保つことも出来なかったでしょうね。
視界には赤鬼がすでにこちらに駆け込んでくる姿だった。
先の攻撃が通っていたらしく、
赤鬼の顔は硬い表皮で兜のようであったのに一部砕けていた。
「はああああっ!!」
「GAAAAAAAAAAAAッ!!!」
斬り込む刃を赤鬼が手の甲で捌き、
もう片手で貫手をこちらに向けるのを長い柄で下から弾き上げる。
『回転に加速~!』
「《水竜一閃!》」
そのまま身体を回して胴体を狙うが赤鬼も両手が使えない状態。
当たるかと思ったが、これは酷い身体能力だ。
赤鬼は高く飛び上がって刃も一閃も回避してしまう。
『後退~!』
「っ!」
私の身長の低さ故に成功した回避に続けて赤鬼は中空で体勢を整えてかかと落としを敢行する。
それをアクアちゃんの機転で一度下がって回避。
「ふぅ・・・。構えに違和感がありますね」
『槍でも剣でも無いからねぇ~。
近いのは薙刀だと思うよ~?』
薙刀は参考までに触らせてもらった程度で実際に使って戦ったことはないですね。
しかし、当時を思い出して中段の構えを下段の構えへと移行させる。
これは防御の構えだから慣れるまではこれで戦おう。
「ギチチ・・・GEHAAAAAAAAッ!!!」
虫みたいな音を鳴らして再び突っ込んでくる赤鬼を迎え撃つ。
重い踏み込みは見える。
これは飛びますね。
予想通りに回転しながら飛び上がった赤鬼の回し蹴りを回避。
足が長いから鞭のようにしなるそれをしっかりと目で見据えながら避けると、
また中空で回転して今度は足の爪を振り下ろしてくる。
これは防御しましょう。
動きの速さはメリー達よりも少し速いくらい。
機敏さや威力はマリエル達よりも完全に上。
鋭さはお兄さんと同じくらいでしょうか。
それでも基本的に回避を続け、
避けきれない攻撃は防御で受けて威力偵察に努める。
流石は高ランクの瘴気モンスター。
連撃に衰えは発生せず、
息をも着かぬ蹴りと拳と貫手の連続。
「っ!ふっ!はっ!!」
『ちょい!ちょい!ちょ~い!!』
突き、薙ぎ払い、殴り、一閃、一槍、一槌。
それぞれを赤鬼もガードや回避を繰り広げ、
戦闘はこのまま繰り返された。
「押し切れないっ!!」
『でも被弾は無いよぉ~?ちょっと暗くなってきてヤバいけどぉ~』
左腕を斬り飛ばしてからは赤鬼の手数も減り、
切り傷は格段に与えられるようになった。
でも、相手は禍津核瘴気モンスターだから切り傷は意味が無い。
その場で急速に修復されてしまう。
あの左腕だっていつでも回復出来るはず。
なのに修復しない。
それも謎なんだけれど、
アクアちゃんも気にしている暗くなってきた問題がある。
今の状況でお兄さんの負担で明かりを確保することは出来ない。
そして、空には雨雲が集まって小雨も降り始めた。
条件的には・・・そろそろメリー達と合流しなきゃ・・・。
『もしかして、ハルカナムの守護者かなぁ~?』
今まで戦った中での経験からアクアちゃんは推測した内容を口にする。
確かに禍津核モンスターに関して見れば、
複数の浮遊精霊を用いた場合、
強いモンスターとなりはするけれど巨体になる傾向にある。
アスペラルダのキュクロプス然り、先の複合瘴気モンスター然り。
それでもここまでの強さはなかった。
いや、ランクという事であれば先の複合瘴気モンスターの方が上だったし、
厄介さで見れば確実にそれは間違っていない。
今回は個体が小さい人型の為、
一対一で対応しているに過ぎないけれど脳裏にはその可能性が何度か過ぎっては振り払ってきた。
だって。
「赤鬼はランク8のモンスターで、瘴気も加わって推定ランクは8+。
守護者の禍津核モンスターはお兄さんの予想でランクは14~16。
私が言うのもなんですが、赤鬼では弱すぎますね」
『そっかぁ~』
でも考えの方向性は正しいですよ。
「おそらく精霊自体は1人。
ただし、ハルカナムの守護者よりも位階の低い精霊ですね」
『つまり~、新種?』
「新種というか、魔神族の技術が上がってきているという事でしょうか・・・。
コンスタントにこの位階の精霊を確保出来るようになると厄介以外の何者でもありませんっ!」
槍剣の構えは攻撃を重視した物へと変更していて、
先ほどは見事に片腕の切断に成功した。
それでも尚、攻撃を当てるには足技を多用し始めた体術をかいくぐらなければならない。
「ふっ!!」
赤鬼への疾駆を開始し正面から駆け込む私たちを横蹴りで対処しようとしてくる。
『じゃんぷ~!』
飛び上がった足先を轟音を伴う赤鬼の脚が通り過ぎると、
こちらも槍剣で弧を描いて兜割を図るが半身ズラされて回避された。
次に視界の端で無事な腕がブレる。
こちらはまだ中空にいる状態で取れる選択肢は少ないけれど、
すぐに槍剣の柄で赤鬼の拳を防御。
「ぐぅぅっ!!」
重い拳を受けてもヒビも入らない槍剣を構え直し、
追撃されないように吹き飛ぶ方向を調整してランディングに入る。
『アクセ~ル!』
加速でノックバックを殺しすぐに前へ移動。
逆袈裟に構えて斬り込んだ。
もちろん失われた腕の方向から!
身体を反らせて回避しながら回転蹴りで踵が私に迫る。
『《氷の波撃~!》』
一瞬の衝撃が身体をさらに前へと押し出し、
ダメージの高かった踵は私の後ろに流れ刃は赤鬼の胸元を切り裂く。
「浅いけれど、核の位置は捉えました」
刃に先に核へと触れた感触があり、口角もあがる。
『《アイスピラーバインド~!》』
「GUッ!?」
続く斬り返しに反応して後ろに脚を一歩下げた時。
アクアちゃんが一瞬身体能力に振り分けていた制御力を回収してバインドを掛ける。
持って数秒なれど今の状況は拙いはず。
カイィィィィィィンッ!!
赤鬼は刃を殴って核へと攻撃を防ぐ。
シャアアアア!カアァァァァンッ!!
続く刃はすぐに向きだけ変えて[氷の波撃]で無理矢理身体制御。
再び戻ってきた刃を残る腕の爪で反らして最後ははじき飛ばした。
ガンガンッ!キャシャィィィィィンッ!!!
胸が開いて隙の出来た核へ石突きで素早く二度突きで上半身の体勢を崩し、
改めて上段の構えで一気呵成に振り下ろすと。
「片手で受け止められた!?」
『片腕に力を集中してるんだろ~ね~』
アクアちゃんの言うとおり、
すぐに片足が膝を突いて状況が拮抗した。
「これ以上出力あげれない?」
『魔法にも割けないよぉ~!いっぱいいっぱい!』
「なら、仕切り直しますよ!」
『あい!』
状況の膠着はこちらとしては全くもってよろしくない。
禍津核に囚われている精霊然り、
作戦のスケジュール然り、
天候然り。
一足飛びにその場を離れると、
赤鬼はゆっくりと立ち上がってバインドが解かれると同時に飛び出してきた。
シャイィィィィンン!!
中段蹴りを刃で捌き核への攻撃に移行しようとした時、
凄まじい体感で捌いた蹴りが逆回転し、その勢いを増して改めて踵が迫る。
「しつこいっ!!」
こちらも腕を引き締め腰を捻る。
石突きで打ち合う形で迎え撃つと共に脚を諸共吹き飛ばす。
『《氷竜一槌!》』
腰の魔石から溢れる高濃度魔力を巻き込んだ一槌は赤鬼の脚と共に半身を凍てつかせてその身体を後方へと飛ばす。
地面を転がる赤鬼の凍った半身は、
地面や岩、木に接触する度に砕けては徐々に短くなっていく。
そんなボロボロの体たらくでも強靱な精神と肉体を持つ赤鬼は、
膝立ちまでしか立ち上がれずとも未だに戦意を失わず黒紫のオーラは深くなった。
「トドメと行きましょう!」
『チャージカウント~!3~!』
槍剣を突喊の構えで狙いを定める。
腰のマリエル達とお揃いのリボンに魔力が集まり力を溜めているのがわかる。
『2~!』
氷纏で装着されたパーツの数々も脈動を始め、
どことなくドルルルルゥゥと聞き覚えのない音が聞こえてくる。
『1~!』
シンクロによって何が起こるのか分かっていても初めての使用。
ちょっと怖いと思っちゃっても仕方ないよね。
身体全体が高濃度魔力に包まれ、
やがて龍を模ってひと吠えすると準備が完了した。
『「《ドラゴンダイブッ!!!》」』
一瞬だった。
高濃度魔力で模られた龍の顔と共に私は急加速した。
身体にとてつもない重力を感じ、構えを保つ事に集中しているうちに事は終わっていた。
龍はそのまま空へと昇っていったが、
私は途中で経路から降ろされて地面に着地する。
どうやら脚は地面に着いていなかったらしい。
赤鬼に攻撃が当たったのかも確認出来ずに事が終わっていた為、
すぐに振り返ると、そこに赤鬼は居なかった。
その代わりに赤い精霊が跪いて息も絶え絶えの様子で存在していた。
「赤鬼はどうなりました?」
『跡形も無く消し飛んだよ~?』
なるほど。
確かにそうであれば身体はおろか、核も破壊出来たということでしょう。
そして核から解放された精霊があそこで嘔吐いている方なのでしょう。
「必殺技としては威力は申し分ないけれど、隙だらけね」
『必殺技ってそういう物だって、ますたーが言ってたよ~?
あとはアルも使い慣れないとね~』
「そうね。今回はアクアちゃん任せだったしね」
貫いたという感覚もなくあの赤鬼が消し飛んだ。
その事実から威力を察することは出来る。
必殺技もいいですけど、もう少し使い勝手の良い技もお願いしますねアクアちゃん。
「赤鬼討伐完了。
皆さん赤い精霊の下へ集まってください」
揺蕩う唄で小型を倒してもらっていたPTメンバーへ連絡を取りつつ、
私たちは空模様を気にして見上げました。
『一時間くらいで雨降るかもね~』
「少し予定が早まりますが、そのくらいでメリー達と合流しましょうか」
『あい♪』
* * * * *
一方その頃。
「この感覚は・・・濃度が上がったのでしょうか?」
『覚えのある凝縮ですね。
おそらくお姉さまが近接戦用の氷纏に切り替えたのでしょう』
なるほど。
今までは攻撃魔法に回していた魔力を全て身体能力向上に充てると、
このような密度の高い感覚になるのですね。
『クーデルカ様。同じような事は出来るのでしょうか?』
「お姉さまは戦闘に於いて、姉弟の仲でも先進的です。
魔法戦仕様と近接戦仕様を準備出来ているのはお姉さまだけですよ」
「では、私たちは如何してオーガを倒しましょうか。
幸い動きは遅いので回避や足止めで時間は稼げていますが・・・」
『黒玄翁も八重結びも抵抗が強い、とは違いますね。
印象でしかありませんが気合いで対抗しているように思います』
私たちが相対しているオーガは青鬼。
アルシェ様が相対している赤鬼と違って、
身長は4mに近く腕も足も身体も全てが太い。
見た目だけで判断すれば一撃は重く、動きは鈍重。
そして防御力が高いという予想でしたが、それはアインス様によって正解と言い渡されてしまいました。
そういう防御面に秀でた敵に対して、私たちは[黒玄翁]という打撃技を持っています。
というのに、青鬼はその[黒玄翁]を極太の拳で相殺。
さらに最新の拘束魔法である[八重結び]。
これも両足を真っ先に拘束したら大声を上げて私たちの[八重結び]ははじけ飛んだ。
『明らかに格上が過ぎますね。
お姉さまが全力戦闘をするのも納得の敵です』
「多少黒玄翁に乗せた波動でダメージには繋がっていますが・・・」
『禍津核瘴気モンスター相手に多少のダメージは意味が無いですから。
当てるなら核のある部位でないと・・・』
意味はありませんか。
会話をしながらも実際は戦闘の真っ最中。
話題に上がった拳が顔のすぐ横を通り過ぎ、剛風が身体全体を襲う。
吹き飛ばされた私たちを地面の影から閻手が伸びてきて捕まえてくれる。
その後方では、
届いた剛風によって瘴気モンスターと兵士が悲鳴を上げながら空へと舞い上がっている。
『もしも青鬼を倒すなら、
まず身体を削って核のある位置を特定して破壊しかありません。
お姉さまを参考に魔力を何かひとつに集中させてみますか?』
「であれば足止めは無意味なので削除。
打撃も核を破壊する時のみで良いでしょう。
あとは何に集中させるかですが、クーデルカ様はどうお考えで?」
『クーなら[月虹]に魔力と制御力を集中させて次元ごと斬ります』
クーデルカ様が言われている[月虹]とは、
虚空暗器の箒を使用した空間魔法。
曰く、箒は切り離すという概念には最適な道具だそうです。
よくわかりませんね。
以前、竜の島で使った際は空間を繋げる役割を担った。
その箒が今度は空間を切り裂くらしい。
やっぱりよくわかりませんね。
「あの腕や身体を切り裂くには相当に魔力を使うように思いますが、
大丈夫でしょうか?
何名もフロスト・ドラゴン様から摂取しているはずですが・・・」
『そうは言ってもクー達はその配分の役割もあります。
他の魔法を切るとすれば、勝つ可能性のある魔法は[月虹]のみかと』
他に思いつきませんし、そもそも私は戦闘に不向き。
クーデルカ様も闇精霊なので戦闘は不得意なのにここまで戦える様になったのです。
私もサブパートナーとして再び踏ん張り所のようですね!
「わかりました。
では、その作戦で行きましょう!」
『はい。ただ、お姉さまの真似ではありませんが、
身体能力にはそれなりに割いておいた方がいいかもしれません』
「お願いします」
フゥ・・・スゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~!!!
「『行きますっ!!』」
肺いっぱいに息を吸い込み、全速力で青鬼へと駆け出す。
「箒!」
注意点を考えながら胸元へと駆け込み、
青鬼は私を掴むか殴打する為に両手を前へと出してきた。
まず、箒は剣や槍ではない。
本格的な打ち合いは出来ず、私たちにはその技術も足りない。
青鬼が相手では力でねじ伏せられるのがオチ。
ダンッ!!
素早く見切るとその身を中空へと跳躍して肩口に箒を振るう。
虹色の一閃が空間に刻まれるが、
それはわずか10cm程度に収まった。
「どうでしょうか?」
『まだまだ制御力を割かないといけないようです。
今ので三分の一程を切断出来ましたが、
奥行きはほとんど切れていません。薄皮一枚といった成果ですね』
基本身体の主導権は私が。
魔法の制御はクーデルカ様で分担し任せておりますが、
こちらも息を止める程に集中した一撃でしたが・・・。
薄皮一枚程度の傷は一瞬で黒紫のオーラが治癒してしまい、
背後で着地した私たちを裏拳にて狙う青鬼の腕を下に潜って今度は脚を狙う。
「《月虹一閃!!》」
先の一回を参考に威力調整を施して片足に虹色の一閃を走らせる。
それでも今度は皮一枚が残ってしまい、切断には至らなかった。
「しまっ・・・」
足下を通り過ぎた先から巨大な掌が待ち構えているのがメリーには見え焦る。
回避が間に合わない事を悟ると、脳裏には握りつぶされる自身の姿が浮かび上がった。
『《短距離転移!!》』
そんな未来はクーデルカの魔法で簡単に回避され、
メリーは手の甲に転移されてそのまま切り返して先ほど捕まえようとしていた腕を虹色の一閃で斬り付ける。
「はっ、はっ・・・助かりました、クーデルカ様」
『慌てなくとも大丈夫ですから落ち着いてくださいメリーさん。
お姉さまの用に戦闘特化にして戦い抜ける力はクーにはありませんが、
各種の切り替えは姉弟で一番上手いと自負しております!』
近接の為の身体強化、回避の為の魔法使用。
切り替え事態はアクアやノイであれば可能だが、
しかし支援特化と言われ宗八に育てられたクーデルカに比べればお粗末の烙印を押される差が存在した。
『《八重結び!》』
巨体のくせに素早い。
隙を見せれば今までの動きとは別格の二の次を出してくる。
トロイ動きの中に確実にこちらを殺す意思を感じる。
再び迫った拳を魔法で止めて、
その一瞬で通り抜けてしまう躱す。
躱しきると同時にブチブチッと[八重結び]は呆気なく引き千切られて青鬼は簡単に自由の身と戻ったしまった。
『っはあああああああ・・・』
「魔力の消費がやはり激しいですね。
使用せずに勝つ方法は無いのでしょうか?」
距離を置いて構え直しながらクーデルカへと問うメリー。
相対してからは基本的に碌な目に合っていない事を頭に浮かべている。
双剣で捌こうとすれば防御力に負けて吹き飛ばされ、大剣で防御すれば攻撃力に負けて吹き飛ばされ、ギリギリで回避しても拳圧で吹き飛ばされた。
元より戦えるレベルではない事は確かにあるのだが、
圧倒的にメリーとクーが相手をするには不得手な敵である事が大きく起因していた。
『トドメは[月虹]、これは変わらないですね。
ただ、核の位置を確認するだけであれば[波動]でなんとか探り当てるのは可能かと』
「では、その作戦に切り替えましょう」
覚悟を決めた2人は頬を伝う汗を置き去りにして、
メリー達は再び青鬼の胸元へと飛び込んでいった。
いつもお読みいただきありがとうございます




