†第12章† -12話-[ひと時の安らぎ]
「め・・・ま、ひ・・・様。お時間になりましたよ」
メイドが私を呼んでいる。
「んん・・・、もう・・・3時間経った?」
「はい。姫様の指示通りに起こさせていただきました。
水無月様も戻られておりますよ」
「そうですか・・・」
アクアちゃんの言う通りでしたね。
メイドに掛け布団を剥がしてもらいながら、
上半身を立ち上げて周囲を見渡すとお兄さんがそこには居ました。
隣のベッドで横たわるお兄さんは、
ノイちゃんとニルちゃんを抱いたまま眠っている。
「アクアちゃん、起きてください。
パパさんも帰ってきていますよ」
『んん~・・・ふぅあああああああああああ・・・。ぱぱ?』
私の隣で眠って仮眠を取っていたアクアちゃんを揺さぶる。
寝ぼけているのか、
あくびをしてから瞼の開いていないまま左右を見回していたので方向だけ教えてあげる。
「あっちですよ」
『ん~・・・』
ニュートラル形態だったアクアちゃんは、
アニマル形態の龍へと姿を変えてお兄さんの元へと向かっていくのを見送ると、
私は反対のベッドへと視線を向ける。
「マリエル・・・良かった。無事だったんだ・・・」
『見つけた時はとても無事とは言えない状況でしたわ』
「セリア先生・・・。どういう意味ですか?」
私がセリア先生から連絡を受けたのは、
多禍津核モンスターを将軍達と協力して討伐を進めている時だった。
お兄さんから依頼を受けて、
魔神族に遠く飛ばされたマリエルを迎えに行くと聞いていたのだ。
メイドから渡される水を口に含みながら、
天幕に入ってきたセリア先生へと言葉の意味を質問する。
『ニルと一体となる[ユニゾン]。
あれのお陰で重体にはなっていませんでしたが、
発見したときは山の斜面に深く埋まっていましたわ。
見ただけで生きた心地がしなかったのは産まれて初めてでしたわ』
「そんな状況だったんですね・・・」
布団から顔を出すマリエルの頬に触れると、
くすぐったそうな表情を浮かべ確かなぬくもりを返してくれる。
「怪我は?」
『水無月君が聖女の元へ連れて行きましたわ』
「クレアが助けてくれたのですね。
あとでお礼を言っておかないと・・・」
「セリア先生、城下町の状況はどうでしたか?」
そう言ったのはお兄さんでした。
いつの間にかベッドの上で起き上がっており、
目尻を揉みながら声を掛けたようです。
お兄さんも元気そうで良かった。
『あら、おはよう。
瘴気はずいぶんと舞い上がっていますわよ』
「勇者に連絡は入れておいたけど、そっちは?」
『ユレイアルド神聖教国の進行に全力を注いで水無月君達の目覚めを待っていますわ』
マリエルが戦線を離脱してからは、
お兄さんが勇者様と一緒に魔神族の相手をしていたはず。
上手く共闘が出来たようで少し安心しました。
それに個人だけで戦うには、
勇者様だけでなくお兄さんも、私も。
力不足は皆同じですものね。
「アルシェもまだ眠いだろうが、
魔神族の動きが読み切れないんだ。
レイスも多いからその対処も同時に進めないといけなくなった」
「大丈夫ですよ。
少しお時間は頂きますけれど」
『ぱぱ~、チュ~』
「コラ、うがいをしてからにしなさい」
『あい!』
目を覚ますのも、軽食も、準備運動も必要なので、
だいたい1時間以内かな。
ベッドから離れ、
立ち上がりながらそんな事を考えているうちに耳に届いた甘えた幼い声。
私は目を見開き、
アクアちゃんがお兄さんにキスをせがむ所を目撃した。
そうしたら、お兄さんは何と言った?
うがいをしたらキスしてくれるの?
い、いいえ。ダメよアルシェ。
そういう即物的な行いをしては淑女として恥ずかしいわ。
お母様にも怒られてしまうもの。
私はお馬鹿な考えをはね除ける為に頭を振って、
足を前に進めて邪な考えを置き去りにする
『アルシェ様っ!淑女が走ってはなりませんわよっ!!』
「走ってはいません!早歩きというのですっ!!」
『アルシェ様っ!!』
* * * * *
相手は子供だし俺の魔力も含まれて成長した契約精霊だ。
遺伝子上というか、魔力上は確かに可愛い娘達だし俺も子供の頃は親とキスしていたからこんなもんチュッチュッと終わらせる。
というか、アクア達はどこでこの知識を覚えてきたんだろうな。
もしも、王様と王妃様が原因だったら子供の前では弁えるように注意しておかないと。
「それで、なんでアルシェもキスしてもらえると思っていたんだ?」
『なんでぇ~?』
「アクアちゃんにはうがいをすればしてくれるって言っていたじゃ無いですかっ!」
『言ってたぁ~』
そりゃ子供だからキスくらいどうということはない。
菌が怖いから口内を洗浄させただけだし。
でも、アルシェは違うじゃん。
妹とは言っても血の繋がりは無い異世界のお嬢さんだもの。
口にするわけないじゃん。
「頬かおでこならやってやるぞ?」
「んもぉ!!とりあえず、両方してくださいっ!!」
「はいはい」
チュッチュッ。
これで満足するんだから可愛いもんだ。
「マリエルもニルもまだ辛いだろうけど、頼りたい。無理させるぞ」
「聖女様の治療もあってか、身体に問題はないので大丈夫です」
『ニルも元気ですわー!』
よしよし。
ユニゾンも扱えるようになったから戦力としても期待は高い。
レイスの対処についても[Omegaの視界]が使えるニルが居ないとちょっとどうしようもない。
「セリア先生はこれからどうする予定ですか?」
『戦闘以外に調べ事があれば請け負いますけれど、
特にないのであればアルシェ様のPTに加わろうかと考えていますわ』
「瘴気の動きを妨害したいので、
少しでも効率良く浄化する為にニルに[ウインドホール]を教えてもらって着いて来てください」
『わかりましたわ。
ニル、時間もありませんしさっそく教えてくださいな』
『かしこまりーですわー!』
あとは聖女クレアも連れて行きたいところだけど、
クルルクス姉弟が邪魔するだろうな。
魂の救済に関しては肉体が無くなっているから、
とにかく成仏してもらわないと本当にキリがなくなる。
「《コール》クレア」
連絡先はもちろん、聖女。
復活魔法である[リザレクション]は光魔法だ。
やはり、ヒントは聖女が掴んでいると信じて連絡をしてみる。
ピリリリリリリリ、ポロン♪
〔はーい、次はどうされました?〕
「今から城下町の対応に手を付ける。
ただ、レイスの群れが多いから成仏について助言をもらいたい」
〔目に見えない霊体を肉体に戻す[リザレクション]すら概要を理解していないんですよ?
霊体を成仏させる方法なんて文献でも見つかりませんし考えつきませんよぉ・・・〕
「はっ、つっかえ」
〔使えないとはなんですかぁ!?
そもそも霊体の認識なんて今までしたこともなかったのにいきなりやれって無茶振りですからねぇ!〕
それもそうなんだけど、
コイツも俺に対して遠慮が無くなってきたな。
霊体の認識は雷属性の中でもチャンネルを合わせられる制御力が必要だった。
その上で極論アスポーツを使って空高くへ飛ばしても成仏とは言えない。
現世と幽界はチャンネルが違うだけで同じ場所に存在していると考えれば、
ある意味異世界と言えなくも無い。
じゃあどうすれば異世界に飛ばせるか?
「アルシェ、セリア先生。
勇者を召還した魔法陣のどの部分が異世界から喚ぶに大事だった起動式かわかりますか?」
「今ならおおよそ分かりますけれど、
複合的な起動式だったと思いますよ?」
『時空、雷、光の3つを重ねた起動式でしたわね。
ですが、飛ばす世界の情報も魔法陣に含めなければなりませんわよ?』
そうだった・・・。
勇者を喚んだ魔法陣にはこの異世界の情報も書き込まれていて成功している。
なら、今回は成功させる為にもあの世の情報を記述しなきゃならない?
んな無茶な。なんだよそれは。
『僭越ながら、宮廷魔道士として進言致しますわ。
魂を救おうとする水無月君とアルシェ様の意思は尊いものですが、
考えておられる魔法理論は数十年考察を経て答えが出るレベルの代物ですわ。
とても今回の戦に間に合うとは思えません』
確かにセリア先生の言うとおり、
魂の成仏を強制的に行う魔法を開発するのは知識も経験も検証する時間も何もかもが足りていない。
実際は魂を雷で破壊してしまった方が早いという事は早期から分かっていた。
アルシェ達は俺の指示に従う方針をブレる事無く従っている。
それでも多くの魂を輪廻の輪から消すという諸行に、
俺がGOサインを出すに出せていない事が原因ではある。
〔全員が全員、浄化後に成仏しないとは限らないんですよ?
水無月さんはフォレストトーレの問題を背負いすぎだと思います〕
揺蕩う唄からもクレアの声が俺を説得する。
俺は責任を持ちたくは無い。
そういう立場に立ちたくは無い。
だが、フォレストトーレで俺はかなり自己中心的に話を進めたように思う。
状況がそれを手助けしていようとも、
風の国の王族を排してここまで干渉してしまっては、
その責任を取って最善を尽くす必要がある。
「その責任はお前が背負うべきものではないぞ、水無月宗八!」
その時、レイスの対処に悩む俺に大声が掛けられた。
聞き覚えのない声だが、
偉そうな物言いには覚えがあった。
「何故、こちらにいらっしゃるのですか・・・?ラフィート王子殿下」
そう。そこに居たのは、ラフィート王子殿下。
2ヶ月前、俺が両手の骨を粉砕してハルカナムで静養しているはずのフォレストトーレ正統後継者の最後の生き残りだ。
「何故?逆にフォレストトーレの問題に俺が出てこない理由があるのか?」
「いえ、そうではなく。
王子殿下はハルカナムで身柄の安全を確保していたと思うのですが・・・」
「ただの栄養失調で身体が動かない程度だ。
無理をしないよう移動は馬車で少しずつ進んだ結果、今日!
この場に間に合ったというわけだ!」
当時は邪魔だったからという面と、
死んでは困るから隔離するという面が合わさり骨を砕いたのだが。
確かに殿下がこの戦に介入する可能性は考えていた。
でも、本当にこんな前線に出てくるなんて・・・。
「そんな事よりも、時間が無いのだろう。
アルカンシェ姫、
我が国の臣民の事を真摯に考えていただき感謝に堪えぬ。
だが、これ以上他国に迷惑を掛けるわけにはいかないのだ」
「ですがっ・・・!」
「しかしもかかしもない!
国の王が許可をしているのだぞっ!責任は俺にある!」
戴冠式はまだのはずだが。
責任を取ると言っている王族が出て来た以上、
俺が意地になって悩むのもなんか違うよなぁ。
いや、こういう場面はアルシェだろ。
「甘えて良いか?」
「えぇ、当然です。
お兄さんがいつでも使える権利ですから」
「すまんな。
マリエル!着いて来い!」
「は、はい!」
俺の悪い癖が出ていた。
自分の頑固な部分はちゃんと理解している。
基本的には即断即決を行うようにしているのだが、
それに失敗すると今回のように答えがやってきたとしても俺に回答は出せない。
そういう時はアルシェに任せる事にしている。
セカンドオピニオンって奴かな?違うかな?
俺はマリエルを連れて天幕の外へと出て行く。
「どのような状況で?
水無月宗八がアルカンシェ様の護衛隊で実権を握っているのでは?」
「基本的にはそうなのですが、
お兄さん・・・宗八が煮詰まっていましたので代わりに私が答えを出すことになりました」
* * * * *
それにしても、
まさかあのラフィート王子が戦場まで出てこられるとは思っていませんでした。
「先の話ですが、死んでいるとはいえ臣民です。
私も王族として自国でこの騒ぎになれば同じようにするでしょう。
王子のご英断、心中をお察しします」
「同じ轍は踏んでくれるなよ姫」
「ご忠告痛み入ります。
ところで、先日顔を合わせてからずいぶんと変わられましたね」
「色々とあってな。
主に姫のお気に入りの関連で国の情報が耳に入って来て、
認識を改め心を入れ替えざるを得なかった・・・。
重ねて迷惑をかけた」
本当に変わられた。
昔から高圧的な方であったけれど、
今はその態も潜んできちんと国の非常事態を早期に治める為の判断をなされている。
他国の事でもその非情な判断は精神的に厳しい。
それが自国ともなればなおさらです。
「本日中に1度状況は動くと思われます。
魔神族は今のところ戦場で4名確認されています」
「倒せそうなのかね?」
「戦いにはなっているようです。
いずれも宗八、マリエルの2名しか視認はしていません。
他には勇者メリオ様ですね。
1名は撤退、2名は城下町で画策中、1名は居所不明といった感じです」
「聞く限りでは良いとは言えない状況だな」
まぁその通りですね。
隷霊のマグニの居所はおそらく城でしょうけれど、
まだそこまで近付くことも出来ない状況。
城は安全の為に中心に寄せているから、
お兄さんが気にするレイスはどうしても対処してしまわないと城へは入ることが出来ない。
「こちらで準備出来る限りは行いました。
各陣営が休憩を上手く回して敵を抑えて浄化を進める事が出来れば、
あとは私たちでなんとかする予定です」
「行き当たりばっかりにしか聞こえないが、
やらざるを得ないという事なのだろう。
私は戦力にはならないのでこのような非公式の場で申し訳ないが、
アスペラルダの姫君アルカンシェ様へ正式に依頼をする。
我が国フォレストトーレを救って欲しい」
「水の国アスペラルダは同盟国フォレストトーレの為、
事の収拾に全力にてお力添えすることをお約束致します」
これで勝手に主導しての戦争ではなく、
フォレストトーレ王族からの依頼を受けた結果の大義名分を得た。
互いの了承を得て約定が成った。
王子殿下も私もこれで堅苦しい空気から解放される。
「これからどうされるのですか?」
「パーシバルを頼ることになっている。
ギルドマスターの繋がりでアナザー・ワンも一時的に借りることにもなった」
パーシバル=アイナー。フォレストトーレ王都のギルドマスターですね。
確かに頼りになり頼る事の出来る伝手は、
彼女以外に王子殿下には残っていないでしょう。
今も後ろに控える身の回りの世話をしていたシスターは教国の者でしょうし、
以後はアナザー・ワンの誰かと交代になればひとまずの身の安全は問題なさそうですね。
「全く、様子を見に来るだけのつもりが、
水無月宗八の弱い部分を叱咤する事になるとはな・・・」
「お兄さんも人間ということです。
善良な心と知識があれば必要だとしても事を成すには抵抗がありますから」
「それでは俺が善良では無いように聞こえるな」
「少し前までは善良とは言えませんでしたが?」
「あの兄にしてこの妹ありだな・・・」
私の皮肉を聞いても微笑むラフィート王子。
憑きものが落ちたような顔は再び引き締まって別れの前の会話が続いた。
「アルカンシェ姫。
もしフォレストトーレが解放された際、
俺は国の安定を図る為に時間を取られるだろう」
「はい」
「婚約候補の役は下ろさせてもらう」
「王にはそのように伝えておきます」
「ではな。また会おう」
王子はそのまま翻して天幕を出て行った。
私も同じく翻してお兄さん達が向かった方向へと歩き出し合流を目指す。
『良かったですわね、アルシェ様』
「何がですか?」
ずっと側に控えてくださっていたセリア先生が、
嬉しそうに身体を弾ませて話しかけてきた。
たゆん。
目指すべき胸の大きさに目が奪われる。
『婚約解消の件ですわよ』
「あれは納得のいく話でしたし、
王子殿下は適齢期を考慮されて自ら外れたのです。
良かったも悪かったもありません」
出入り口を潜るとお兄さんがマリエルの背に触れており、
マリエルの身体からは白い光が輪郭を強調していた。
『あと、何名いましたかしら?』
「一応土の国と火の国も候補として伺っていますが、
どちらも積極的ではありませんでしたね。
土はともかく火は強い女性を好む傾向にありますから・・・」
『では、火の国に行った際は気をつけなければなりませんわね』
「何故ですか?」
私は受け流していた話に興味が沸いてしまい立ち止まる。
一緒に立ち止まり変わらず微笑むセリア先生は面白そうに口を開いた。
『今やアルシェ様の強さはそれなりに広まっているお話ですわ。
それも各地での活動にアルシェ様の名前を利用して身を隠す水無月君の所為ですけれど。
きっと、火の国の王子殿下と姫殿下は干渉してきますわよ』
「王子殿下は分かりますが、姫殿下は何故出てくるのですか?」
『アルカンシェ姫の護衛隊隊長はとても腕が立つらしい、と・・・』
なるほど。そういう噂も一緒に流れているというわけですか。
「名前は?」
『出ておりません。
王子達が知るのは姫様達が火の国の城へ登城する時でしょう』
「心に留めておきます。ご忠告ありがとうございます」
私の素晴らしすぎるスルースキルと無難な返答にセリア先生はつまらなさそうな顔をする。
ふふん!
セリア先生が居ない間に家族やどれだけの使用人からイジラレタと思っているんですかっ!
『アルシェ様ぁ~、甘酸っぱい話が聞きたいですわぁ~』
「つーん」
セリア先生のイジリを躱しつつお兄さんの元へとやってきた。
丁度マリエルの身体に白い魔力が溶けきる瞬間を見届ける。
「お兄さん、マリエルに何をしたんですか?」
「ジョブレベルの上昇で得たスキル[魔力付与]だ。
今回はニルとマリエルがどこまでやれるかに掛かっているからな・・・」
「ちょっと隊長、そんな言い方されると私も緊張しちゃうんだけど・・・」
「マリエルはやる娘ですよ。それでどんな効果なんですか?」
姫様まで・・・と呟くマリエルの隣に来ると顔を覗く。
見た目での変化は何もないみたい。
「称号に魔力付与が追加されて、
魔法関連のステータスが30上がる」
「それは凄いですね。
私には施して貰えないのですか?」
「手にしたばかりでデメリットの存在も確認出来ていないんだ。
先にマリエルともう一人で試して問題がなければ、
アルシェだけじゃなくて知り合いには付与しまくる予定だよ」
「もう一人?」
「サーニャ=クルルクスだ」
あ~。あの人ですか。
お兄さんあの人の事気に入ってますもんねぇ。
玩具にするには良い反応を返すって言ってましたし。
「他国の者なのですからあまりやり過ぎても困りますよ」
ここはお兄さんにも釘を刺しておかないと。
余所に女を作ってはいけませんよ!
そんな暇があったら私と居てください!
「クレアから許可は貰ったから大丈夫だぞ。
俺もその辺はちゃんと考慮して選んでるさ」
「・・・それならいいのですが」
ぐぬぬ・・・、クレアにも注意しておこう。
あの子もお兄さん大好きですから判断が甘くなっても仕方ありません。
私も自覚がありますから彼を責めるわけにもいかないですし。
「勝手に動いてごめんな」
うぅぅぅ。撫でるのはズルイです。
ぷしゅ~と膨らませた頬も優しく潰された。
横に居るセリア先生の視線が凄く気になりますけど、
もう触れないと決めましたので。
そんなにニヤニヤと見つめられても私は反応しませんので。
「お兄さん、息抜きもこの辺で行動を始めましょうか」
「瘴気もずいぶんと上がってきたな」
お兄さんを視界に納める背景には、
瘴気の渦が徐々に高度を上げており、
すでに本来のブルー・ドラゴン様の大きさと同じ高さまで瘴気が舞い上がっています。
「今後はどうするのですか?」
「最終的にレイスは殺してもいいってか?」
「はい、言葉は悪いですが、
死んでしまった者よりも生ある者を守るのが王族です。
1を助けるか100を助けるかではなく、
今回は0か100の話です」
「・・・はぁ、わかった。ありがとうな、アルシェ」
「お礼はいりません。
頼っているのはお互い様ですからね。一心同体です♪」
まぁ、今回はラフィート王子に助けられた形になっちゃいましたが。
あそこで王子が現れなかった場合、
他2国にも相談をしなければ判断を付けられない状況でした。
一応事前に話は付けているとはいえ、
アスペラルダだけが突出している状態というのは拙い。
せめて、ユレイアルド神聖教国と土の国アーグエングリンが足並みを揃えて城下町にたどり着いていれば話は違い、私だけでお兄さんを説得出来た。
でも実際はお兄さんやマリエル、それに勇者様が集団から飛び出し、
文字通りひとっ飛びして城下町の中心部へとアクセスしていた。
時間はないし魔神族も動き続けている状態でお兄さんが足を止めるのは問題でした。
お兄さんの心理、状況、他国への配慮、仲間の安全。
そのすべての狭間でどうしようかと考えた時にあの王子が現れて解決して去って行ったのだ。
「じゃあ作戦を伝えるぞ」
人を殺す事に覚悟を決めたお兄さんが作戦を伝え始めた。
また私たちの戦いが始まろうとしている。
いつもお読みいただきありがとうございます




