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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第12章 -廃都フォレストトーレ奪還作戦-
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†第12章† -11話-[魔神族戦]

 全力で自身を弾き飛ばし、

 現場を離脱後すぐに直角に方向転換してメルケルスの後を追う振りをすれば。


「行かせるわけねぇだろうがっ!」


 こうやってナユタが釣れるうえにメリオとの戦闘域を離すことも出来る。

 今の俺の前に現れるにはそれなりの速さが必要なはずだけれど、

 空を不自由なく動き回れると言ってもナユタの奇襲攻撃の神髄は[アポーツ]だ。


「それが[雷神舞踏(らいじんぶとう)]って技か」

「お前に見せた覚えはねぇけどなぁ。まぁいいか」


 ニルから聞いていた通りに雷と一体化する技らしい。

 魔法先生ネギ○で見たことあるし、驚くほどでも無い。

 まぁ、ネ○先生の方が格好良かったけどね。


 俺にぶつくさと言いながら、ナユタは雷神舞踏を解除する。

 おそらく短時間ブーストをするための技なんだろう。


「解除していいのか?

 それってアポーツ以外の高速移動手段なんだろ?」

「っ!もうその口を動かすなっ!

 人を馬鹿にした感じがシュティーナにそっくりでクッソ苛つく野郎だなっ!」


 それは嫌だね。俺も嫌だよ。


「失礼。どうもお前の印象は正々堂々と戦う感じに思えないからさ。

 本来はアポーツで人質でも取るタイプなんじゃないの?」

「ふざけるなよっ!

 魔神族に名を連ねる俺は、そんな手を使わなくてもお前くらい一瞬で殺せるんだよっ!

 つけ上がるなよっ!雑魚がっ!!」


 直情タイプとは正にこの事だな。

 ニル達が戦って集めたナユタの情報は有効に使わせてもらおう。

 こうやって盤外戦術(ばんがいせんじゅつ)が見事に刺さって優位に戦う準備が整っていく。


「《ミョルニル!》」

『《聖壁の欠片(モノリス)!》』


 ナユタが掲げる手の平へ雷がどこからともなく落ちてくる。

 その雷は逃げていくことなく留まって、ハンマーの姿へと整っていく。

 こちらもノイが防御の為にオプションを呼び出したけれど、

 風に比べれば雷はまだ相性がいいものの、

 勇者の盾を潰した威力を考えればどこまで持つかわからない。


『(マスターの資質が上がったからか、ボクのオプションも強化が進んでいるです。

 信頼を全部預ける必要はないですが、

 それなりには期待していて欲しいです)』


 おし、じゃあ行くかっ!


「おりゃあああああっ!!」

「っ!!」


 とはいえ、実際にナユタと戦うのは初めてだ。

 百聞は一見に如かずと言うし、

 まずは敵情報を肌身で味わうとしよう。


 鎚の振り下ろしは早いにしろ見えないわけでは無い。

 見えないわけでは無いが、完全回避には厳しかったらしい。


 身体を半身にして回避を図ったが、

 肩に当たるほどの差で打ち込まれる鎚をノイのオプションが重なり合って弾いてくれた。


『ぐっ!重いですね・・・』

「まだ来るぞっ!」

「避けるなぁ!!!」


 右、左、そのまま回って左、上。

 攻撃速度は速いけど、2撃目からは回避は出来ている。

 耳元から聞こえる風切り音にはバリバリと帯電する音が聞こえる。

 回避を続ける間に、ノイはオプションに[《硬化(スチール)]を掛け続ける。


「っ!んあっ!おらっ!」


 こうして身近で戦うコイツを観察するとわかる。

 強力な力を与えられてそれに振り回されている只のクソガキじゃないか。

 滅消(めっしょう)のマティアスのように巌の如し安定感が無い。

 苛刻(かこく)のシュティーナのように飄々と楽しむ心がない。

 氷垢(ひょうく)のステルシャトーのように口が荒くなっても最後の一線は冷静さを保てる余裕がない。


 いままで出会った魔神族に比べれば、俺も必死さに欠けるな。


 回避に専念していまの所はまだ鍔迫り合いや武器同士の接触はしていない。

 そろそろ攻撃に転じたい。


「《銀世界》セット:お魚さんソード」


 そう考えて、右手に持っている[お魚さんソード]に魔法を込めていく。

 使う魔力はもちろん龍の魔石から溢れる高濃度魔力。


「はああああああああああああ!!」


「この、大振りっ!」


 シャイィィィィィィィンッ!!


「なっ!?」


 どこを当てても高威力を持ちそうなミョルニルを捌かれたのが余程驚いたのか、

 間抜けにも俺を相手に隙を作ってしまったナユタ。


 その一瞬で十分!


「《氷結衝(ひょうけつしょう)っ!!》シフト:波動(ブラスト)


 引き絞った腕を槍の如く高速で突き出し、ナユタの胸に当てられる。


「っ!?なっ!んだっ!?」


 肉体には高濃度魔力が常に巡っており、

 氷結衝(ひょうけつしょう)の威力はもちろん上がっている。

 それに加えて波動(ブラスト)だ。


 魔石込み一閃には劣るものの、

 単体で出せる技で魔神族にダメージを入れられる可能性が高かった攻撃が効果を発揮したのを確認した。

 やっぱり、攻撃が当たらなければ押せるところまで、俺は来ている。


「《来よ!》《水竜一閃(すいりゅういっせん)っ!》」


 波動(ブラスト)からの流れをとぎらせる事無く撃ち放つ。


 流石に波動(ブラスト)を打ち込まれた後の攻撃となる為、

 ミョルニルで防御されてしまった。


 それでも一閃は瀑布の如くナユタを飲み込み、

 彼方へとその身をこの戦場から離していく。


 チャキッ!


 左手を伸ばし掌を前に広げ、

 右手は引き絞りつきの構えを取る。


 ナユタを飛ばした先は廃都城下街。


 そこには誰が居るかな?


『マスター。まるで魔王みたいな顔してるですよ』


「一石二鳥の顔と言いたまえ」


 運良く2人まとめて死んでしまえっ!!



「《来よ!》《氷竜一槍(ひょうりゅういっそう)っ!!》」



 強化された肉体から放たれる突き。


 その切っ先では魔石の欠片が砕かれ、

 溢れ出した高濃度魔力を取り込んで急激に進化した魔力の槍が生成される。


 魔力の槍は極太のレーザーの如く空から城下町へと振り下ろされ、

 邪悪な町並みを破壊し凍り漬けにしていく。


「これで死んでくれると助かるなぁ」

『ちゃんと防御の型は取っていたですよ』


 そうなのだ。


 メルケルスは性格なのかゆっくりと街に降りて行く姿が見えていた。


 その背に向けてナユタを落とし、槍も降らせた。


 2人の姿は遠くなっても視界に捕らえて攻撃を加えた為、

 直撃する直前の姿もまた俺達は認識している。


「畳み掛けるっ!!」


 ヒィィィン。

 アクアから預かったお魚さんソードを腰に押しつけると接着面が凍てつき固定される。


 両手を上下に重ね合わせて速射を意識すると、

 体内に精霊の呼吸(エレメンタルブレス)で蓄えた魔力が急激に手の中に集まる。


「《高濃度魔力砲(ドルオーラ)っ!!》」


 3の矢は魔力砲。


 速射の関係で収束が間に合っておらず、

 無駄に太い魔力砲が凍てついたフォレストトーレの町並ごと魔神族を撃ち穿つ。


「龍の魔石様様だな。

 高濃度魔力をこの頻度で使ってもすぐ回収出来る」

『これが土精霊纏(エレメンタライズ)だからボクと一緒でも扱えるです。

 もし[ユニゾン]だったらアクアじゃないと扱えてないです』


 羨んだ力だと、

 先の高威力を連続使用も出来なかったというのは酷い皮肉だ。


 腰の剣を再び手に取り、ナユタとメルケルスの動向の観察に入る。


「勇者の加勢に入りたいところだけど、

 背後を取られてもいけないからな」

『うぅ、このびりびりするの好きじゃないですね。

 ずっと指先が痺れているような気になるです』

「ニルみたいに磁界を広く作れれば良かったんだけどな。

 精霊使いの質が上がったとはいえ、

 俺の限界は自分の表面を覆うだけだ。

 アポーツが防げればいいな、って程度だよ」


 さてさて、身体の駆動に問題は無い。

 本気かどうかはともかく、空中で地上のように戦えるナユタを相手に、近接戦で1撃ももらわずにあしらえたのは僥倖(ぎょうこう)だ。


 まだ覚醒した[精霊の呼吸(エレメンタルブレス)]の力を御し切れたとは言い難いけれど、

 使いこなせるようになれば本当に2人相手に時間稼ぎが出来るかもしれないな。



 * * * * *

「あっは!イクダニムは凄いわねぇ!」

「くっ、うっ、はっ!」


 苛刻(かこく)のシュティーナが笑いながら水無月(みなづき)さんを褒める。

 こっちはエクスの支援もあってなんとか空間を超える刃を避けるのに必死で、

 水無月(みなづき)さんの戦況なんて見る余裕はなかった。


『(この女はナユタやメルケルスとは別格ですね。

 微かな光の反射に反応して避けているのに押し切れない・・・)』


 以前は水無月(みなづき)さんと2人で防いでいた攻撃も、

 今は俺達だけでなんとか凌いでいる。

 だけど、それだけだ。


 攻撃をしても防がれるし、

 何より俺や水無月(みなづき)さんの成長を喜んでいる。

 いまも以前よりも鋭い切り込みをしつつ致命傷に至らない攻撃が続いていた。


「やあああああっ!!」

「ほい♪ほい♪」


 魔神族との続く戦闘はいずれも激しく、

 エクスの魔力がすでに厳しい状況になっている。

 それもこれも自分が未熟故に負担を掛けていることが原因というのも理解している。


「(あとどのくらい戦える?)」

『(今よりも魔力を抑えれば膂力に負けてしまう為、片手剣にも戻れません。

 このまま遊ばれている限り1時間も持ちませんね)』

「(自然魔力の吸収をしても変わらないか?)」

『(変わらないどころかこの一帯は水氷属性の高濃度魔力に満ちています。

 精霊使いが散布しているのでしょうけれど、

 それが災いしてまともに吸収出来ない状況です)』


 水無月(みなづき)さああああああん!!!


 っていうか、

 それならあれだけの魔力を使用していて水無月(みなづき)さんこそ魔力が少ないんじゃ?

 一緒に居たのは土属性の精霊だった。

 さっきから使用しているのは水氷属性だ。

 だったら使っている魔力は水無月(みなづき)さんの物のはず。


『(精霊である私が見た所、精霊使いの魔力はほとんど変わっていませんね。

 専用スキルでも取得したのでしょうか。

 私たちも光属性の魔石があれば同じように常に全力で戦えたでしょうが・・・)』

「(龍がどこに住んでいるのか知らないって!)」


 一人で焦ってごちゃごちゃになっていた脳内は、

 エクスとの念話で落ち着きを取り戻せた。


「ねぇ、勇者さん。ひとつ質問よろしいかしら?」


 その隙間を突いて魔女が話しかけてきた。

 妖艶さも含んだ嫌に寒気のする笑顔だ。


「・・・俺に質問?」

「えぇ。イクダニムはあれから私たち魔神族に効果のある力を手にしていますが、

 勇者は私たちを楽しませることの出来る力は手に出来ましたか?」

「手の内を敵であるお前に教えると思っているのか」


 無いわけじゃ無い。

 だけど魔力も心許ない今、使う場面じゃ無い。


 そう考えて何を馬鹿な事を、と言外に伝える意味でもそう答えた。

 しかし、今まで楽しそうな笑顔を浮かべていた魔神族は、

 俺を回答を聞いた途端に表情を変えた。


 ゾクッ!

「う・・・」


 その視線を浴びた途端身体が震え始める・・・。


 寒気や怖気じゃない・・・。


 殺気だ。ホンモノの殺気。


 前にも浴びたことのあるゴミを見るような視線。


「虚勢を張ってもわかるわ。

 息づかいに身体の強ばり、目の挙動。全てが物語っている。

 自分はいま以上の戦闘が出来ないと・・・」


 気を張ってシュティーナを睨んでいたつもりだったが、

 こいつにとっては俺との戦いは児戯と同じなのか・・・?


「イクダニムッ!!!

 これじゃあ話が違うんじゃ無いかしらっ!!?」


 怒りの篭もる大声で水無月(みなづき)さんを呼ぶ。

 その身体からは怒気に呼応してか、

 瘴気にも似た(もや)が漏れ始めていた。


「勇者は大器晩成型なんだ。

 そもそもあれから2ヶ月しか経っていないのに人間がそこまで劇的に強くなるわけがないだろ」

「貴方は強くなっているじゃないっ!!?」

「そりゃタイミング良くスキルを手にしたからだし、

 何より最後の引き金を引いたのはお宅のナユタだ。

 怒りをこっちに向けられてもお門違いだよ」


 殺気が水無月(みなづき)さんに向いて圧迫が弱まった。

 その瞬間、俺は息を知らず知らずの間に止めていたことに気が付く。


「は・・・っ!はぁ、はぁ・・・・」


 あの殺気を水無月(みなづき)さんも受けているのだろうか?

 本当にそうなら、何故あぁも平然と答えられる?

 近さの差があるにしても自分と何がそこまで彼と違うのだろうか。


「お前が出てくるのが早過ぎるだけだ馬鹿が・・・」


 そのうえ、相手を挑発する余裕すらある。

 魔神族もだが、水無月(みなづき)さんも底が知れない部分が怖い。


「そう・・・、なら仕方ないわね。

 でも、残念だけれど、私が早いのではなくて貴方達が遅いのよ?

 もっと本気にならないと後手後手になって飲まれて消えるのは貴方たちの大事な人や世界だって事、ちゃんと理解しておいた方がいいわよ」

「ご忠告どうも。

 破滅の脅威を世界に知らせるのが難しいことはお前らが良く知っているんじゃないか?」

「知っていても抵抗がないと私たちは何を楽しみにすればいいのかわからないじゃない?」

「それこそ俺達には関係ないな。

 お前達を楽しませる為に強くなる訳ではないし、

 世界が成熟する前に壊している立場で言える台詞じゃ無いだろ」

「ま・・・そりゃそうね・・・。

 勇者さま、八つ当たりをしてごめんなさいね。

 私はギリギリまで待ってみるから、

 出来うる限り世界が終焉を迎える前に強くなってくれると嬉しいわ」


 2人の会話は俺がいないところで話しているような。

 ふわふわとした意識の中で聞こえていた。

 水無月(みなづき)さんは俺が強くなることをずっと望んでいるし、

 この魔神族も俺が強くなることを望んでいる。


 勇者として召還されて1年。

 剣を握ることもない、魔法もない世界から来てこれでも頑張ってきたつもりだ。

 レベルも80を超えた。

 剣術だってアナザー・ワンに鍛えてもらった。

 魔法も仲間やエクスに教えてもらった。


 それでも、勇者でもない水無月(みなづき)さんとの、この差はなんだ!?

 勇者ってなんだ!?

 魔神族ってなんなんだよっ!?


 俺は魔神族と戦う為に喚ばれたんじゃ無い!!

 俺は・・・・。


「じゃあ、帰るわね。

 本来は様子を見に来ただけだった訳だし。

 あぁそうだ、ナユタもメルケルスも死んではいないからねぇ~」


 俺達が返事をするまでもなく、シュティーナは姿を消した。

 残るは俺と水無月さん、そして、城下町に落ちた魔神族が2人だけ・・・。



 * * * * *

 何をしに出て来たのか、

 シュティーナは亜空間の向こうへと消えていった。

 それに何故だか、戦闘の途中だというのに勇者の意気が落ちていくのを感じる。


『本当にあの勇者は・・・。

 メンタルよわよわ過ぎるですよ・・・』

「なんでいつの間にか心折れてんのよ。

 おいっ!メリオっ!!」

「は、はい!」


 これからの行動にも勇者の活躍は必要不可欠なのだ。

 シュティーナも去って相手をする魔神族の数減った喜ばしい場面で、

 気を抜くとは何事だ。


 それに魔力が希薄になっている。

 あんな状態で保ってくれたのだから感謝しなければならないな。


「メリオ、エクス。魔力切れ寸前なのはわかっている。

 そんな状態でシュティーナの相手はキツイだろうに、正直助かったよ」

「いえ、勇者として当然の事ですよ。

 倒せなかったのは悔しい限りですが・・・」


 そう無難に答えている表情は依然として暗いままだ。

 何が引っかかっているのかはわからないけど、

 今までの事から考えると強さが関係していると推測出来る。


「メリオが大器晩成型って言ったのは本心だぞ。

 ここまで魔法や体術、剣術に重きを置いても鳴かず飛ばずなら、

 一般的な訓練では勇者としての質が上がらないんだろう」

「どういう・・事ですか?」

「俺もメリオと同じように色々と手を出しているが、

 精霊使いは魔法の扱い、

 もっと言えば制御力を鍛える事が質を上げる為に必須となる。

 精霊使いは特殊なジョブだ。なら、勇者も・・・」

「特殊なやり方が必要になる?」


 まぁこれも俺の推測だ。

 いくらなんでも1年鍛えた勇者がエクスカリバーも手にしてLev.80までの強さを得て・・・。

 これは無い。

 言い方は悪いが、本当にこれは無い。


 メリオも気付いていると思うけど、

 魔神族の中にも強さの差はある。

 シュティーナはその中でも別格で、ナユタは(つたな)い。


 メルケルスやシュティーナは遊んでいた様子だが、

 ナユタは隠し球があっても技術は無い勢いだけのガキだ。

 だから、高濃度魔力頼りのゴリ押しで今の状況にも持って行けた。


「それが何かはわからない。

 技術や肉体は十分努力の跡を見て取れる。

 足りないのは勇者としての質。ジョブレベルだ。

 そこが解決すれば、お前は覚醒出来る・・・(はずだ)」

「・・・・」

「信じる信じないは意味が無いから頭の隅にでも入れておけ。

 それよりも魔力の回復を優先しないと夜まで保たないだろ。

 アスペラルダに降りてメリーと接触しろ」

「助かりますけど・・・、

 水無月(みなづき)さんは一人で大丈夫ですか?」


 現時点でお前より強い奴を心配する余裕はないはずだが?

 若さ故の甘さかな。

 いや、俺も若いんだよ。こいつとは2~3歳くらいの差だし。


「一人?ノイが一緒だよ。

 お前だってエクスと一緒だろ?」

「そう・・・でしたね。

 じゃあ、お言葉に甘えてメリーさんに接触してきます」

「応、行ってこい」

『精霊使い、また会いましょう』


 素直に俺の言うことに従って地上に降りていく一人と一本を見送り、

 俺達も改めて城下町の方へと降りていく。


『勇者の件は本当です?』

「さてな。ジョブの方向性が重要という部分はどれも一緒だ。

 剣士、魔法使い、弓使いと一般的なジョブならいざ知らず、

 精霊使いや勇者なんてそうそうジョブの本質が分かるものか」

『勇者だと・・・書物では勇気を与える者だと』

「勇気ある者だったり、単純に魔王と対となる強力な力を指す場合もある。

 他だと善行を行うとかかもな」


 普通にこの世界の人であればジョブについて考える必要はなかっただろう。

 一般職みたいにわかりやすく剣を振るえばいいなんてのとは、

 精霊使いも勇者も違う。


 異世界人だからこそ、

 ジョブや質、レベルを気にして、する必要があるのかな。


『前勇者が居れば話も聞けて全て解決したですのに』

「800年前じゃ無理だもんな。

 生きているとしたら人間じゃ無くなってるだろうさ」

『どういう意味です?』

「こっちの物語で魔剣で人じゃ無くなったり、

 神になる玉座に座らされて世界の破壊を迫られたりね」

『想像の話ながらエグいですね』


 それが無いとは言えない世界の住人が言うなっての。


「さあ、敵さんがフリューネより近い俺達に向かってきたぞ」

『やはり、ニル達が脱落しているのは痛いですねっ!面倒なっ!』


 さらっとノイは雑魚の相手をマリエル達に任せる発言をしているけど、

 俺も居たら居たでこの場は任せるだろう。


『大型ガーゴイル接近!《守護者の腕(マイストガーディアム)っ!》』

「一撃で抜く!《守護者の波動(ガーディアムブラスト)っ!》」


 ゲームであれ現実であれ攻略方法が分かれば意外と簡単に事は進む。

 人、それを効率化という。


 以前も戦った事のあるガーゴイルは禍津核(まがつかく)の位置もわかる。

 それでなくとも身体の半分を砕くには十分すぎる威力がある為、

 この攻撃で核の破壊に至れなくとも、次の攻撃で破壊するには十分に俺達は強くなっている。


『ハイハスターとドラゴンフライが各2体ずつ接近!』

「一閃じゃあ避けられるな・・・。

 精霊の呼吸(エレメンタルブレス)のゴリ押しでやるか。

 オプションで背後だけ守っておいてくれ」

『わかりました』


 ガーゴイルほどの堅さは無くとも素早さに特化した種類を相手にするには、

 俺達はあまりに小回りが利かな過ぎる。


 背後を取るドラゴンフライの攻撃をノイの聖壁の欠片(モノリス)が防ぎ、

 すかさず守護者の腕(マイストガーディアム)で殴りつけ体勢を崩す。

 その隙を剣で刺し貫こうとした瞬間、

 ハイハスターが2方向から突進をしてくる。


「このスピードでもっ!見えてる!」


 1匹は守護者の腕(マイストガーディアム)で叩き落とす。

 そして、もう1匹は剣の露へと消え瘴気の欠片が地上へと落ちていく。

「《氷魚弾(ソードブレッド)!》」


 残るドラゴンフライは何故か真正面から飛びかかってきた。

 瘴気で野生の判断も出来ない有様の敵を剣の横振りで撃ち放つ氷の礫でブチ殺す。


 アクアーリィブレイド(お魚さんソード)の特殊能力[お魚召還]。

 アクアは水の魚を出していたけれど、俺個人での運用の際は氷の魚となって敵を狙う。


 あと、氷垢(ひょうく)のステルシャトーの召喚魔法も参考にしている。


『浮遊精霊回収したです』

「よし」


 と、息つく暇も無く城下町に近付くにつれ、

 浮遊系瘴気モンスターの大群がお出迎えしてくれる。


『こいつら、例の倒しちゃいけない奴らです?』

「倒すのは後回しにしたい奴らだよ。

 人間の魂が瘴気でモンスター化してるから、

 倒してすぐに成仏させないとまた瘴気に飲まれる可能性が高いからな」

『でも、倒さないでこの数を突破するのは無理だと思うですよ』


 遠目からはよくわからなかって居なかったのだが、

 ここまで近付くことでようやく判明した事実がある。

 それは、城下町の瘴気が活性化していて壁面の高いところに届いているだけだと思っていたら、その正体は半透明のレイスへと変貌を遂げた魂の群れだったらしい。


「30万のレイスか・・・。

 浄化しないで倒してもすぐ復活するし、

 瘴気を祓って倒してもいずれ復活する、かもしれない」

『試してみるです?』


 何事も試すのは正しいと思っている。

 けれど、人の魂が瘴気によってどんな影響を与えられているか分かった物では無い状況なのだ。

 瘴気ごと消滅したら?

 瘴気に飲まれたままで魂は壊されないか?

 解放後に瘴気に飲まれるのは確定か?

 再び飲まれた場合魂へのダメージは?


 考え出したらキリがない。

 試すにしてもニルが居ないと幽霊のチャンネルに合わせる事が出来ない為、

 動向がわからないのも問題だな。


「これだけ居たら1体2体を試しに倒しても、

 増えたか減ったかなんてわからんだろうな」

『止めておくに1票です』

『(2票)』


 うちの娘は冷静だね。

 確かに目の前に広がるレイスの群れの向こうにはナユタ達が居るのがわかる。

 モンスターとは違う度の超えた殺気がビンビンと伝わってくる。

 だが、ナユタは来ない。


騎士(ナイト)のつもりかねぇ・・・」

『魔神族が騎士ごっことは、笑えないです』


 だが、本当にナユタは動かないのだ。

 後ろには守るべきメルケルスがいるから。

 俺がメルケルスも直接狙える攻撃を。

 魔神族に通る攻撃手段を持っている事を警戒している。


「一度退いて勇者と、居ればマリエルも一緒に連れてくるべきか・・・」


 魂関連はニルがいないとどうしようもないし、

 瘴気の相手は勇者が居れば心強い。

 マリエルは単純に戦力として期待出来る。


『瘴気が回っているように見えるです』

「俺にもそう見えるから間違いじゃ無いんだろ。

 城下町全域を巻き込んでいるのがすげぇ嫌な感じだけど・・・」


 俺達という餌に群がるレイス達の向こう側に漂う瘴気の海が動き始めている。

 眺めていると円を描く形で流れているから、

 その中心に魔神族がいると予想は出来る。


「アルシェの所に一旦戻ろう。

 セリア先生がマリエル達の回収もしてくれているかもしれないし」

『ですね』


 魔神族がレイスの向こうに隠れている限りここにいても出来ることはない。

 後ろ髪を引かれるとは違うのだろうが、

 魔神族を目の前にしながら退くというのは変な気分だ。


 ただ、数時間離れっぱなしの仲間の状況も気になるのは確かだから、

 ここは大人しく退いておこう。

 そう思いながら城下町上空を離れ、

 アスペラルダの天幕を目指して魔力縮地(まりょくしゅくち)を発動させた。

いつもお読みいただきありがとうございます

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