†第1章† -14話-[死霊王の呼び声 VSブラックスケルトン]
「トドメ任せちゃってごめんな・・・」
「いえ、それは大丈夫なのですが。
私の予想よりもやっぱり敵が脆いみたいですね。
お兄さんが言ったようにパーティ人数で強さが変わるのかもしれないです」
「今度あいつらが暇してたらパーティに誘って5人で来ようか。
BOSS部屋に入ったら隅で大人しくしてもらってさ(笑)」
「なんですかそれ、流石にひどいですよ(笑)」
『なにかたのしいことあったー?まっくらだよーだしてー!』
[アラクネボーン]を倒し終えた俺達が反省会?をしていると、
アクアが目覚めてアルシェの帽子を内側から叩いて自分も混ぜて欲しいとアピールしてくる。
「遅よう。
残念ながら楽しいことはないまま[死霊王の呼び声]のBOSSは倒したよ」
『そっかー』
「ならば、もう一つ上の戦いを用意してやろう!」
「「えっ?」」
突如として響いた声に驚きの声を漏らすのも束の間、
氷に射し貫かれてまともな形の骨が残っていなかった[アラクネボーン]に骨の破片が集まり始める。
同時に黒いオーラを纏ったスケルトンが何体も部屋内に湧き、
ノーマルの鈍い動きではなく俊敏な・・・いや、
かなり綺麗なフォームで[アラクネボーン]へ突進していく。
どんどんと突っ込んでいく黒いスケルトンはまるで亜空間に飲まれるようにすぐ手前で次々と消えていく。
「ほうほう。何やら精霊に似た気配を感じたが、
面白いやつがいるようだのう。
それにそちらのお嬢ちゃんからも精霊の匂いがするのう」
「何が起きてんだ、
こんな第2ラウンドがあるなんて話は聞いてないぞ?」
「それはそうじゃろ、儂はいま目覚めたばかりじゃしの。
精霊の気配に反応して目が覚めたら、
なにやら不満そうな奴が居るし、
どうやら精霊と契約している珍しい奴みたいじゃから、
儂が直々に試してやろうと思ってのう」
「お兄さんっ・・・!」
「お前は誰だ!」
「何を言っておるか、儂のダンジョンに入ってきて誰もクソもあるかっ!
ほれ、そろそろ準備が出来るぞ。
精霊使いよ、やる気があるならお主と契約精霊だけで倒してみよ。
もちろん無理そうなら、そこの娘と共に戦っても良いぞ?」
考える時間がなさすぎるっ!
アクアはいつの間にか俺の頭に乗り移っているし、
アルシェも突然の宣言に戸惑いを隠せないでオロオロしている。
そうだ、こういう時こそクールだ。
そう、クールが1番カッコイイんだから。
敵は[アラクネボーン]を基礎に、
黒いスケルトンを吸収して再構築されていく。
生まれ変わったBOSSはアラクネ感はなくなり、
大きくとも見た目はスケルトン。
ただし、色が黒いし何やら黒いオーラも纏っている。
自称:死霊王は俺とアクアの力を試したいようだし、
俺も暴れ足りないというのは確かにある。
利害の一致とは違う気もするが見た目の割に悪い印象を受けないので危機意識がアラートを鳴らさない。
「アルシェ、俺達だけでやってもいいか?」
「かまいませんよ。
もともとお兄さん1人で攻略する予定の冒険に無理矢理着いてきたのですから、
これ以上のワガママは申しません。存分にどうぞ」
「ありがとう、アルシェ」
『あるー、みててねー』
あちらの[ブラックスケルトン]も準備万端のようで、
体のどこにも先ほどまであった欠けが見当たらない。
見事な光沢を放つ体はダンジョンの暗さと相まって認識が遅れる。
なのにオーラの軌跡が見えるからなんとか遅れずに済みそうだ。
強さは未知数、だが明らかに[アラクネボーン]よりも存在感がある。
「よぉーしよし!やる気はあるようじゃな。
では精霊使いよ、その成り損ないとの絆を示してみよっ!
戦闘開始じゃっ!!」
「やったるぜ!」
『やったるー!』
「がんばってください!お兄さん、アクアちゃん!」
アンデッドに特攻の[イグニスソード]を装備して切り込む。
アクアはいい顔をしないけど、
まずはやっぱり試し斬りをしてみよう。
なんか俺っていつも敵と戦うときに試してみるから始まるな(笑)。
もとの世界では[堅実の宗八]と呼ばれていた事だろう。
「どうれ、実力の程はどうかのう」
基礎となった[アラクネボーン]と同じく、
両手に同じ剣を持つ[ブラックスケルトン]と俺の剣が接触する。
剣速は基礎ボーンと同じ、
両手で交互に攻撃されてもソードパリィは可能だが膂力が段違いになっており、
真正面からぶつかるとノックバックしてしまう。
パリィの隙を突いて脚を斬りつけてみたけど、
黒い表面には傷すら付かずダメージとは言い難い。
炎属性の武器でこれなら、
あの変質した体かオーラどちらかの効果で防御属性が変わったか?
「《ヴァーンレイド》セット:イグニスソード」
本当に効果が無いのか試しに大攻撃をしてみよう。
炎が[イグニスソード]へ集まり始め、刀身が紅く輝き出す。
制御にはだんだん慣れてきて1分くらいは暴発せずに持つようになったよ!やっ↑たぜ!
「試されてばかりも面白くないからのう。剣速を上げるぞ」
「来いやっ!」
シャァン!シャンシャンシャンシャンシャンシャン!
魔法は溜まっていつでも撃てるんだが、
ギリギリ捌ける速度に上がった両の剣を片手剣で捌いていく。
いや、さり気なく左腕に[アイアンシールド]を装備してるんだけど、
最近は剣で捌いてばかりだから完全にお飾りになっている。
一応、総合防御力としての意味はあるからいいんだけどさ。
いまさら、盾でパリィしても次の防御に間に合わないのは目に見えている。
あぁクッソ!一閃するタイミングがない!
右から左へ受け流した剣が戻らずにそのまま[ブラックスケルトン]の背後に消えたように見えた瞬間、
上半身が一回転して両の剣を合わせて斬りつけてきた!
ガアァァァン!!ドゴォォォォォォォォォンっ!!!
突然の行動の変化に着いて行けずに正面から剣を受けてしまった。
面食らった俺は集中を乱してしまい、
制御が効かなくなった[ヴァーンレイド]は、
剣の中で凝縮して上がった威力を遺憾無く発揮。
俺と[ブラックスケルトン]の間で大爆発を起こした。
『《あいしくるえっじ》《あくあちゃーじ》』
「ぐうぅぅぅぅ・・・ゴホッゴホッ!
今のは危なかった。サンキューアクア!愛してるぜ!」
吹き飛ばされた俺は態勢を整えることに集中し、
足が着地したと同時にアクアの魔法で勢いを殺してもらう。
壁にめり込む未来を回避出来たのは、
単に今日のアクアの察しが良い事に限る。
今回ばかりはアクアに感謝だな。
『いやーてれますなぁー♪』
普段(アクアの悪戯を)怒ってばかりの俺から褒められてテンションを上げるアクア。
いつも悪戯さえしなければ俺も怒らないんだぞ?
「いやぁ!ハッハッハ!武器が爆発するとは面白いな!
おかげでこちらの武器が壊れてしまったぞ!」
爆炎の奥から出てくる[ブラックスケルトン]は、
確かに片方だけではあるが武器を失っていた。
こちらの[イグニスソード]は先ほどの爆発のせいでヒビが入ってしまった為、
これ以上無茶な運用をすれば壊れてしまいかねない。
今の状態ならまだ修理に出せば修る・・・修ればいいなぁ。
カットラスに持ち替えながら、
武器以外損傷がないか[ブラックスケルトン]を眺めるが欠損は見当たらない。
オーラがほんの少しだけ薄くなってる気がするけど・・・、
うーんわからんな。
「ダメージは無かったのか?」
「いやいや、効いておるよ。
この体はいまお前達冒険者と同じく守られておるだけじゃ」
『ますたー、くろいのもせいれいなの?』
まさかアクアにオーラの正体が浮遊精霊なのかと聞かれるとは思わなかったな。
アクアは曲がりなりにも精霊だ。
お仲間の土属性ですら掴んで拾ってきたのにわからないのか?
「あいつの言葉を信じるなら欠損がない理由も浮遊精霊の鎧なんだろうけど。
アクアはあの纏わりついているのが何なのかわからないのか?」
『うーん、みたことはないよー。しらないこですねー』
「ではヒントをやろうかの。《シャドウムーブ》」
途端に目の前に居た[ブラックスケルトン]が足元に消えていく・・・。
いや違うな、あの速度なら落ちたというべきだろう。
「どこを見ておる。よそ見はいかんじゃろ?」
全て消えたのを見届けると、すぐ後ろから声が聞こえた。
「《アクア」『ちゃーじ!》』
声が耳に届くと同時に感覚に任せた緊急脱出をする。
そのまま大きく離して振り返るとまたいない。
奴は[シャドウムーブ]と口にした、ならば文字通り・・・
「レベルIV!」
『《うぉーたーぼーる》せっと:カットラス』
「水竜一閃っ!」
「うおっなんじゃこりゃ!!!!」
案の定後ろに移動してきた[ブラックスケルトン]に叩き込む。
[死霊王の呼び声]の深部雑魚だとレベルⅢで即死かギリ生き残る程度。
こいつに効くわけもないからレベルIVをぶち込む。
直近で一閃をまともに浴びた[ブラックスケルトン]は防御も取れずに押し流され、
一閃の端の部分がオーラの一部に当たったのか切り飛ばされてダンジョンに溶けていく。
「もしかしたら纏っているわけじゃなくて、
磁石みたいに体に引き寄せているだけなのか?」
つまりアレに勝つにはバリアを抜いて倒すしかない。
物理攻撃はおそらく黒い表面に殺されるし、
属性攻撃はオーラに守られる。
ただし少しずつ削れていく、か。
[ブラックスケルトン]の中のヤツは精霊との絆を試すと言ったからには水属性かアクアを混ぜた攻撃がもっとも効くのだろう。
「若い者がここまで戦えるようになるとは、
まだまだ世も捨てたものではない・・・のう!」
「こっのぉぉぉおおっ!!」
思考の隙を突かれて死角から、
[ブラックスケルトン]の腕部のみが亜空間から生えて殴りかかってくる。
[カットラス]の剣速に助けられてなんとか攻撃を直接受けずに済んだが大きく吹き飛ばされる。
黒い表面に黒い浮遊精霊、
あげくに[影移動]と来れば、
自ずと奴の属性が闇属性だとわかるってもんだ。
『《あいしくるえっじ》』
「シフト:氷鮫の刃!」
アクアの放った[アイシクルエッジ]は[ブラックスケルトン]へ一直線の氷を張り、
その氷を導線として一際大きい一本の刃を出現させて放つ。
名の如く、鮫を彷彿とさせる刃が速度を上げながら迫る。
なんだか今なら、イメージ通りに魔法が使える気がしたので放ってみたが上手くいった。
「面白い魔法を使うのう。見た目だけなのかを試してやろうぞ!」
折り損ねた剣で鍔迫り合いしようと構えているが、
如何せんその刃は本来幾重も別れて出現する刃をひとつに纏めたものであり、
到達までに加速し続けて威力も上がっていた。
およそ大きいだけの剣で凌げるものではなかった。
斬っ!
「ちっ!」
『おしいー』
もうすこし踏み込んでいてくれれば片腕ごと切り落とせただろうに、
上手く位置調整をしたようで成果はまた武器破壊のみだ。
それでも予想よりも良い威力が出たようだな。
いずれは操作できるようにしよう。
「仮にもBOSSが使っていた武器を両方とも破壊したのだから、
もう少し嬉しそうにしたらどうじゃ?」
『はくしゅっ!』(゜∀゜ノノ"☆パン
「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺達の態度に愚痴る[ブラックスケルトン]に、
水属性のエンチャントを施した[カットラス]で攻撃を再開する。
敵が無手になった事で攻撃チャンスも増え、
腕をパリィする合間にオーラを斬りつけると、
予想通りに少しずつ切り離されてはダンジョンへ溶けていく。
いちいち一閃しなくとも切り離せるなら、
魔力を無駄遣いしないようにしないとな。
俺の大攻撃は魔力の使い方がまだ荒いから。
「ほう、気付いたか。
しかし、強化された本体には未だダメージは入れられておらんぞ」
「ダメージを散らすオーラさえなくなれば、こっちのもんなんだよっ!」
『《あいしくるばいんど》』
下準備を終えたので大きく距離を取ると同時に、
アクアが[アイシクルバインド]で奴の動きを固定する。
図体がデカイからかアルシェとの模擬戦時は足首までだったバインドは下半身に及んでいた。
目に見えるオーラは周囲をフワフワと漂う程度で、
もうダメージを緩和できる程の厚みを持っていない。
カットラスをインベントリへ戻し、使い捨て用のダガーを取り出す。
『はくしゅっ!』(゜∀゜ノノ"☆パン
「追加武装!《アイシクルエッジ!》」
『せっと:だがー!』
ダガーにまとわりつくアクアのエンチャントした水属性の魔力は、
アイシクルエッジで凍りついていき、
やがて刀身がもとの約2.5倍ほどの氷の刃になる。
それでも魔法で大きくなったからか重さは感じない。
原因がアドレナリンかアクアかなんて、
もう考えられる冷静さは吹き飛んでいた。
「《蒼天を穿て!氷刃剣戟!》」
「『蒼天氷覇斬!」』
自然とハモる声を響かせて氷の刃を振り下ろす。
[ブラックスケルトン]との距離は4m以上離れているが関係ないね!
振り切った氷の刃は普通のダガーに戻っている。
では、刃はどこへいったのか?
答えは[ブラックスケルトン]の足元から生えてきた。
斬っ!!!
「ぐおおおおおおっ!!!!!
なんじゃ、これは・・・氷の刃?
いや、極大剣と言っても差し支えない大きさじゃぞ・・・」
右と左で別れを告げた黒い骨の体はそのまま地面へと崩れ落ちる。
足元から生えてきた[極大の氷刃]に体を真っ二つにされながら、
まだ喋る余裕があるらしい。
まぁ、喋ってるやつとあの体は別物だろうからな。
しかし、なんかこう、
途中からアクアに指示を出さずとも俺の意図を察したかのように・・・いや、
そんな安易な代物ではない意思疎通が出来ていた気がする。
まぁ、今はいいか!勝ったぞガハハ!
「・・・ふぅ、どうだ?試しとしては合格か?」
「うむ。文句無しじゃ!
なり損ない精霊とはいえ、シンクロまでするとは驚いたぞ!」
『しんくろー?』
「さっきの感覚がシンクロなのか?
確かにそんな感じだったけど、
アクアはさっきの戦闘中どんな感じだった?」
『ますたーにあわせるのに、ひっしでした!』ドヤァ…!
「確かに先の戦闘は精霊使いというよりは、
なり損ないに助けられる場面が多かったように思えるのう。
さて、話はこれくらいにして儂のいる所へ招待しようかのぅ」
どうやら本体がいる空間へ連れていくつもりらしい。
まぁ、闇属性の死霊王に会ってみたいというのも確かだけれど。
おい、半身だけで動くの怖いから止めろ。
「お兄さんっ!アクアちゃんっ!」
「どうだぁ、俺もまだまだアルシェに負けてないだろぉ?」
『だろー?』
「えぇ、確かに見届けました。私ももっと精進しないとですね。」
アルシェが駆けてきたので精一杯の対応をするが、
正直に申しますとアクアと俺は魔力が尽きかけていた。
魔法の発動は俺がして制御はアクアがしたりで、
お互いの消費を少なくする為に色々無意識下でやってはいたが、
そうすると勝った後は2人ともフラフラなのは当たり前だ。
「ところでお兄さん。
戦闘の途中から淡い水色の光が体から洩れていましたが異常はありませんか?」
「え?そうなの?いつぐらいかな?
それが[シンクロ]とやらの正体かもな」
「えっとぉ、スケルトンが影に消えて背後から出てきたじゃないですか。
あの瞬間からですね」
「ん~~~。あの時は必死で離れないとって思って・・・どうなった?」
「[アクアチャージ]で避難されましたね」
「あー、全然記憶に残ってないなぁ。
自分で認識できていれば今後も使えたかもしれないのになぁ」
「そうですね。
あ、そういえばあんな魔法や技?をいつから練習していたのですか?」
「いや、練習はしてない。
なんか出来そうな気がしたからやってみたら出来ただけってのが真相だな。
たぶんだけど、[シンクロ]ってのが影響していたからだろうなぁ。
死霊王にこのあと詳しく聞いてみよう」
『あくあ、ねますね。おやすみー』
さっそくアルシェの帽子に潜り込むアクア。
その時ギルドカードが突然光り輝き始め、
半身の[ブラックスケルトン]が這いずりながら向かう先にある岩壁の一部が横にズレていく。
「なんじゃ、精霊使いは大精霊と知り合いだったか」
「いや知らないけど。王様が知り合いらしい」
「ふむ。ん?そちらの娘からは知っている気配がするのう。
誰じゃったかな・・・うむ、
ひとまず扉は開いたのだから入って来い」
「大丈夫でしょうか?」
「まぁ、ここまで来たら行ってみようか。
悪いヤツって感じはしないし」
「わかりました。何かあれば元気な私が守りますからっ!」
「ありがとう」ポンポン
いざ、死霊王とご対面だ。
いつもお読みいただきありがとうございます