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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
閑話休題 -フォレストトーレ奪還戦争までの1か月-

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閑話休題 -35話-[光精王ソレイユ様との謁見]

 あと3日。


「アニマ、どうだ?」


 出来る限りの努力はした。

 必要な事というのは理解している。

 それでも精霊との調整を考えれば今日が期限とも言える。


『・・・いいでしょう。

 本当にギリギリでしたね、宗八(そうはち)

「よっし!!」


 思わずガッツポーズをしてしまう。

 いやまぁ、これから精霊との顔合わせで決めなきゃならない事も色々とある。


「《コール》クレシーダ」


 ピリリリリリリリ・・・ピリリ・・ポロン♪

「おぉ!はやい・・・」

〔はーい、どうしましたかぁ〕

「光精霊の分を稼いだ。

 ソレイユ様のところへ乗り込むぞ」

〔え”!?本当ですか!?ほとんど見込みがないって話でしたよね!?〕


 ふふふ、驚いておるな聖女様よ。

 俺だってやる時はやるんだぞ。


「なんとかした。

 俺だけでもいいんだけどお前も来たいならなんとか時間を確保しろ。

 今日中に接触しちまうぞ」

〔そんな急には・・・。

 確認してみますので猶予はどのくらい頂けますか?〕


 今はまだ朝の時間帯だ。

 それでも早いに越したことは無い。

 時間はないのだから。


「夕方までに2時間確保を念の為だ。

 答えは昼までにしてくれ」

〔わかりました。こちらから連絡しますね〕


 ピロン♪

「お話は終わりましたか?

 ソレイユ様の元へ訪問されるのですよね?」


 丁度朝の訓練終わりに先の連絡をしていたので、

 当然俺の周囲にはアルシェもメリーもマリエルも、

 ついでにリッカもその場には居た。


「今日中には行くつもり。

 第一目的は達成しているから第二第三は二の次だけどな」

「今回も私たちは置いてけぼりですかぁ?」

「ん~そうだなぁ。

 一応押しかける感じになることを考えるとお前達を連れて行きたくは無いんだよ。

 連れて行くにしてもせめて面通ししたあとになる。悪いな」

「会う資格、という条件があるかはわかりませんけど、

 精霊使いとしてお兄さんほど資格がある方もいないとは思います。

 四神と同格の大精霊との接触はお兄さんの指示に従いますよ」


 う~ん、うちの妹はちょっと従順過ぎる気もする。

 もっと我が儘でもいいんだよアルシェ。

 流石に大精霊との接触には慎重にならざるを得ないけど、

 自分の眷属を使って情報収集はしているはずだから俺の情報はすでに入手していると思う。

 門前払いで死ねピチュンとはならない事を願うばかりだ。


「マリエルもソレイユ様を見たいだけでしょうし気にする必要はありませんよ」

「姫様にはお見通しですかぁ~」

「マリエル様、口調が乱れております」

「あぁすみません、メリーさん」

「ご主人様はともかく姫様直属なのですから・・・。

 いずれご主人様にもきちんとする必要は出てきますからね」

「はぁ~い」


 出てきませんよ。

 俺は実家に帰らせて頂きますのでね。

 おいおい、アルシェ。

 そんな期待した目を向けても無駄ですよ。

 私は実家に帰らせて頂く予定なのでね。


 バンッ!!

『ますたー!ご飯だよぉ~!!』

『お姉さま!空を飛ぶのはずるいです!』


 おっと散歩組が戻ってきた。

 アクアはいつもの如く窓から飛び出して竜の姿で戻ってくる。

 クーも猫の姿で影も使いつつぴょんぴょんと姉を追って戻ってきた。

 以前までは加階(かかい)が進んで飛べなくなったアクアだけに散歩させていたが、

 クーも加階(かかい)が進んでからは一緒に散歩をさせている。

 まぁこれは今まで浮遊が出来たこいつらの運動不足解消が目的だ。


 朝練はそのまま撤収して朝ご飯をモリモリと食べ、

 その後はまた訓練をしてそろそろ昼食にしようかと話をし始めた頃。

 ピリリリリリリリ・・・


[クレシーダから連絡が来ています][YES/NO]

 ポチっとな。


「もしも~し」

〔お待たせしました水無月(みなづき)さん〕

「どうだった?結構ギリギリまで悩んでたっぽいけど」

〔教皇にも相談しましてなんとか午後に時間を確保しました〕

「俺達は今から昼食だけどその後に迎えに行けばいいか?」

〔お願いします〕


 急な話だったはずだけど上手く調整出来た様だ。

 聖女様はお忙しい。

 無属性のヒールでは回復出来ない内部の損傷を治せる聖女様の治療を求めて、

 毎日毎日怪我人が大聖堂に押し寄せているからだ。


「自分たちが信仰している大精霊に会いに行くわけだし、

 教皇も許可をしたってところかな?」


 あまり拘束しても悪いし早めに終われるように立ち回ろう。

 でも、今まで真なる加護持ちと大精霊の顔合わせをしたことが無いから、

 どんな反応になるのかわかったものではない。

 アルシェの場合は母親だから参考にはならない。

 加護ってお気に入りにする祝福らしいからなぁどうなるかなぁ・・・。


「本日はお誘いいただきありがとうございます」

「後ろの奴らはそんな顔ではないけどな」

「もぉ!2人ともぉ!」


 クレアは両手を挙げてぷんぷんと背後の護衛を怒っている。

 眉をひそめるのは当然クルルクス姉妹だ。


「ソレイユ様へ拝謁するなど恐れ多い・・・」

「クレア様に何かあったらただじゃ置きませんからね・・・」

「・・・たぶん大丈夫だよ」

「「水無月(みなづき)様っ!!」」


 いや、真なる加護持ちに危害を加える理由はないだろ?

 どちらかと言えば俺の方が危害を加えられる可能性が高いんだからな?


「何故ですか?」

「闇の加護持ちだからだ。

 闇大精霊のアルカトラズ様の元へクレアから亜神の加護を貰った後に顔を出したらちょっと機嫌がな・・・」


 ほう・・・と一言ね。

 元ががしゃどくろだから迫力が凄かったんだ。

 たぶん同じ事になると思ってる。

 覚悟は出来ていると言って差し支えありません。


 ゴクリンコ。


「私は大丈夫な気がしてきました」

「そうですね。水無月(みなづき)様が対象になるなら」

「私たちも安心して送り出せます」

「おい!」


 そういう俺も安全を確認する為にアルシェ達を連れて来てないわけだし。

 安心安全はどうにか確保したいよな。


「連れて行くのはクレアとハミングだけでいいか?」

「その予定です。

 正直言うと何が失礼に当たるかもわかりませんから、

 加護持ちの単身で行くのがベストだろうとの判断です」

「まぁそれが良いだろうな」

水無月(みなづき)さんこそ精霊は連れて行かないのですか?」

「アニマはいつも俺にくっついているし、

 あっちと渡りを着ける為に光精霊を使うから」


 クレアがコテンと首を傾げる。

 眉も寄っている。

 何かおかしな事を言ったかな?


「契約はしていない精霊が言うことを聞くのですか?」

「そりゃ聞くだろう」

「聞くんですか・・・」


 なんでそんな不思議そうな顔をしてるんだよ。


「うにゅ」


 ドカ!バキッ!

 ちょっとした悪戯心でクレアの頬を潰したら、

 可愛らしい鳴き声と共に無礼を働いた俺に暴力が振るわれた。


「調子に乗らないでください」

「次にやったら殺します」


 殴るよりも貴女たちなら腕を掴めたでしょうに・・・。

 逆に危害を加えないとわかった上で泳がせるのも護衛としてどうなんですかね。

 一瞬「うにゅ」って言った時の顔を横目で凝視してたの知ってるんだからな。

 クレアの可愛い反応が見たいなら自分たちでやればいいのに面倒な姉妹だよ。


「じゃあもう一生しません」

「・・・半殺しでいいですか、姉さん」

「・・・そうね、妹」


 欲望に忠実ならもう手を出さないで頂きたい。

 さて、遊んでばかりも居られない。

 光大精霊ソレイユ様の元へ行く為に精霊を用意しよう。


「わぁ!」

「どうされたのですか、クレア様?」

「光精の浮遊精霊(ふゆうせいれい)水無月(みなづき)さんの周囲に集まっています」


 俺が用意したのはスライムの核。

 それを掌に乗せて魔力を込めれば浮遊精霊(ふゆうせいれい)共が反応するのは当然だ。

 だが、ここで契約をしてしまうと親が俺に変わってしまい、

 ソレイユ様に召喚(サモン)してもらえないので名付けもしない方が良い。


「《光輪(こうりん)(まばゆ)く瞳は()ける、人には()やしを敵には浄化(じょうか)赤光しゃっこうを持って事を成せ、()(もと)()よ、不死(ふし)成る存在を殺せ!精霊加階(せいれいかかい)()よ!》」


 スライムの核が詠唱に反応して1度強く光る。

 これは精霊を受け入れる準備が完了したという反応だ。

 続けてさらに強い光を発した。

 これは浮遊精霊(ふゆうせいれい)が核に触れて強制加階(かかい)が成った反応。


「トーニャ、治まりましたか?」

「もう大丈夫ですよクレア様」


 加階(かかい)の光に目が眩んだクレアがトーニャの声に従ってゆっくりと目を開く。

 その視線の先には先ほどまであった核の代わりに俺の掌に乗る光精に注がれていた。


「その精霊が水無月(みなづき)さんの契約精霊ですか?」

「いや、契約はしていない。

 お前が案内役って事でいいのか?」

『どーも、貴方が水無月(みなづき)ですか?

 仰るとおり王からの命令で加階(かかい)をさせていただきました。

 私はこの後何をすればいいのでしょう?

 王からは加階(かかい)のチャンスで飛び込むようにとしか聞いていません』


 俺の手の内は知ってるって事か。

 光は世界中に届くからチラホラと町中でも見かける。

 おそらく情報収集において光精以上の分布はないだろうしな。

 ソレイユ様はずいぶんと世界情勢に詳しそうだ。

 それに比べて闇精霊は引き籠もっているからなぁ・・・。


「背中を向けろ。魔法を付与する」

『わかりました』

「本当に精霊が言うこと聞いてる・・・」


 ゲートを光精の背中に描く横で、

 クレアがポカンと口を開けて俺に尊敬の眼差しを向けてきている。

 ふふふ、俺も頑張ったからな。

 ここまで出来るのには一年も掛かったんだぞ。


「よし、ソレイユ様に祈って召喚(サモン)されてくれ」

『わかりました』

「なんと言いますか・・・」

「こう見ると貫禄がありますね」


 失礼だな、言葉をつつしみたまえ!

 君たちは精霊使いの前に居るのだ!


「よっし、これでソレイユ様へ謁見出来る準備が整ったぞ」


 掌に乗っていた光精は姿を消した。

 無事にあちらへ召喚(サモン)された様だ。


「ではトーニャ、サーニャ行ってきます」

「行ってらっしゃいませクレア様、ハミング様」

水無月(みなづき)様も何かあればクレア様をお願い致します」


 クルルクス姉妹の言葉にクレアも俺も頷きで答える。

 ハミングもクレアの胸元から姿を現して2人に手を振っている。


「アニマも何かあったら助けてね」

『(無精に出来ることは少ないですけれど、

 名前で圧力を掛ける保険程度の心積もりで居る様にするですぅ)』


 それだけでもずいぶんと心に余裕が産まれる。

 さぁ!行きますか!


「《解錠(アンロック)アサイン:光精》」



 * * * * *

 足を踏み入れた先はやたら眩しい空間だった。

 空からは天然の光が降り注ぎ、

 周囲の岩場からは白く光る水晶が数多生えていてそれが光源となっているようだ。


「クレア、ハミング。おいで」

「失礼致しま~す・・・」

『失礼致します・・・、

 ここ・・・懐かしい感じがしますね』


 アルカトラズ様やティターン様の所と同じ構造かな?

 おそらくここは受付、その後はあの洞窟の先に進む必要があるっぽい。

 とりあえずまた来ることも考えてゲートだけは設置しておこう。


「クレア、どこかわかるか?」

「空気が薄くて雲も近い。

 そして山頂に近い位置の形状から[霊峰シルナヴェール]ですね。

 参拝として途中までは登山することもありますが、

 半分を越すと空でも飛ばなければ登れなくなるのです」


 なるほど。

 人に荒らされてないから貴重な魔石も大きく成長して綺麗に残ってるってわけか。


「ここは聖地なので水無月(みなづき)さんでも魔石を回収するのは許しませんからね!」


 黙って周囲の魔石群を見ていたらクレアが何を勘違いしたのか、

 人差し指を立てて俺に注意をしてくる。


「いらないよ。

 天然魔石より欲しいのは龍の魔石だからな。

 くれるって言われたらもらう位だよ。

 待たせた、案内してくれ」

『こちらへどうぞ』

「あ、待ってくださいよぉ!」


 外出用のクレアはモコモコな格好で俺の後を追ってくる。

 案内先は洞窟の中の様だ。

 ってかスタート地点からどうやって来るかわからない構造の山頂だし、

 そこからの洞窟ってことは・・・。

 ナイツオブラウンドを取得する島みたいな感じかな?


「うわ~、綺麗ですねぇ」


 洞窟の中は天然の天窓もないから魔石の光だけが頼りのはずなのに、

 十分に光量が確保出来ていた。

 俺達の世界にも水晶洞窟はあるけど、

 ここまで明るいのは異世界ならではだろうな。


『もうそろそろ王の間です』

「緊張してきました・・・水無月(みなづき)さ~~~ん!」


 出会う前に緊張がピークに達したクレアが俺にすがりついてきた。

 こういう時は頭を撫でてやればいいと俺は知っている。

 うりうり。

 アルシェや娘達とどれだけスキンシップを取ってきたと思っているのだ。

 幼い子供相手ならお茶の子さいさいよ。


 しかし、俺の緊張は別の所にあった。

 ソレイユ様が男か女か、という緊張だ。

 男でも女でも問題を・・・とある病気を患っているのは想像に難くない。

 その対処法も特に変わりは無い。

 クレアを近づけない。この1点を守れば良いのだ。

 問題は心の準備が出来ないという事だけだ。


 さあ!どんと来い理不尽!


『ようやく、来たか』


 謁見する空間に辿り着くとすぐにクレアを伴って跪く。

 響いてくるのは中性的な声。

 顔を上げるのは許されてからになるので性別の判断は出来ない。

 と、クレアの腕を引っ張りここで挨拶をしろと指示を出す。


「お初にお目に掛かりますソレイユ様。

 加護を授けていただいておりますのでご存じかと思われますが、

 改めて名乗らせて頂きます。

 クレシーダ=ソレイユ=ハルメトリと申します」

「私も改めさせて頂きます。

 水無月宗八(みなづきそうはち)と申します」

『面を上げなさい』


 声だけでは宝塚を彷彿とさせる。

 だが世界には両生類と呼ばれる声音を持つ人間だっているのだ。

 どっちだ・・・。

 クレアと共にゆっくりと面をあげる。


「(オスカルっ・・・だと!?)」


 アニメは見たことも無い。

 漫画も見たことも無い。

 だがビジュアルは知っている。

 それくらいに有名な作品のオスカル様が目の前にいる!


 バサバサの睫毛(まつげ)

 王子様の様な男装!

 威風堂々足る態度!

 それでも女性らしさを感じさせる・・・なんていう髪型よコレ!

 ゆるふわウェーブの掛かった髪が右肩前方のみに垂れ下がっている!


『やっと顔を合わせる事が出来たね、クレシーダ。

 もっと近くに寄って顔を見せてくれ』

「は、はい。失礼致します」


 どこで見繕ってきたのかは不明だが豪奢な椅子に座ったままソレイユ様がクレアを誘う。

 まだだ、まだ様子を見るのだ宗八(そうはち)よ!

 ソレイユ様の顔をよく見て観察をするのだ!

 クレアはゆるゆると小さい歩幅で前に進んでいく。

 この観察時間を稼ぐ為にかなりの距離を残してわざと跪いたのだ。

 あの顔はどうだ?


「(アニマ、どう思う?)」

『(恍惚の顔に見えるですぅ)』


 やっぱそうだよね。

 これは決まりかなぁ?

 俺はそう判断するとイヤラシい顔をしてクレアの到来を今か今かと待ちきれずに一歩前に足を出してしまったイヤラシいソレイユ様の魔の手から純粋なクレアを守る様にして引き戻す。


『ぐへへ・・・あっ!?』

「わあっ!?」


 抱き留めたクレアは何がどうなっているのかわかっていない。

 いきなり後ろに引っ張られ俺の胸の中で抱き留められたのだ。

 胸元からの視線は口にしておらずとも「どうしたのですか?」と疑問を浮かべている。


『精霊使い、何をするんだい?』

「失礼致しましたソレイユ様。

 ただ、その大精霊らしからぬ顔をしてクレアを近づけるのは、

 保護者として同席している手前これ以上は危ないと判断致しました」

『嫌だねぇ。

 私はそんな顔をしていたかい?』

『時々クレシーダを想う時の顔をしておりました』

『あれがイヤラシい顔ならばその通りかと』


 アルカトラズ様のところのクロワ、クロエの様に、

 ソレイユ様にも2名上位精霊が側に居た。

 その2人も幼さの残る顔立ちをしている。

 流石にスィーネよりは体が大きいから上位精霊だと思う。


『すまないな、クレア。

 もう大丈夫だから、さあ。こちらへおいで』

「あの、私は・・・」

「申し訳ございませんが恐れ多い為クレアはこれ以上前に進めないとの事です」

『さっきから何故邪魔をするんだいっ!

 せっかくクレシーダが私に逢いに来てくれているのに!

 クレシーダを見つけてからというものずっと想っていたのだよ!』


 想い方が歪んでるだよなぁ。

 いくらクレアが可愛くても俺も納得出来ないことがある。


「では、お聞き致しますが。

 何故クレアに真なる加護を与え聖女にしたのですか?」

『適性があって好みだったからだよ』

「ここまで幼い聖女は初めてだと伺っておりますが、

 せめてもう数年待つことは出来なかったのですか?」

『待っては失われてしまうものもあるんだ。

 数代待って待って待ってやっとクレシーダと出会えたんだよ?

 愛を伝えないことなど出来ないっ!』

「せめて聖女の制度からは外すことは出来なかったのですか?」

『聖女にしないなどあり得ないっ!

 私はクレシーダがいいのだよっ!』


 うへぇ~。

 愛が倒錯している。

 オスカル怖い。


「えっと、ソレイユ様。

 水無月さん、何の話をされているのですか?」

「お前さんが男の娘になった経緯を問い詰めているんだよ」

「男の子?確かに私は男ですけど・・・」


 そっちじゃない。

 漢字が違うんだよなぁ。

 こんな純粋な子に妙な十字架背負わせやがって!


『精霊使い、男の娘とは何だい?

 響きとしてはなんとも心地よい感覚だよ』


 そりゃそうでしょうとも!

 俺も一時はハマった事があるジャンルだ。

 まぁ、ブームが来る前に俺の熱は冷めたけど、

 家には雑誌の付録で手に入れた赤いブルマが残っていたりする。

 でも実際に目にすると正直キツい。

 クレアのように自分の状況がわかっていない幼子のトラウマにならないかと他人事ながら心配するレベルだ。


「助けて!アニえもん!!」

『妙な呼び方しないでください!

 光精王、貴女も一度落ち着いてもらえますか?』

『ん、無精?

 幼い精霊にしては威厳を感じますね。何者かな?』


 えぇ~い!控えぃ控えおろう!

 この方をどなたと心得る!

 恐れ多くも今はこんなちんちくりんな態だが、

 その昔四神が世界の守護をする前に世界の守護者(しゅごしゃ)として君臨されていた大精霊様であらせられるぞ!


『お初にお目に掛かります、光精王。

 無精王アニマと申します、以後お見知りおきを』


 アニマが丁寧な挨拶をする。

 その姿は小さい体ながらも十分にその存在が特別なのだと肌で感じるほどの威厳がある。

 空気が変わった。


『む、無精王アニマ様っ!?であらせられますかっ!?

 ご尊顔を知らず申し訳ありません!

 御身の前での見苦しい態度、申し訳ございませんでした!』


 (かしづ)くソレイユ様。

 流石ですアニマ様!

 いいぞいいぞ~!

 あの変態ゴホンゴホン、あの欲望にまみれたソレイユ様が大人しくなったよ!


『まぁ、ワタクシが力を取り戻すには相当に掛かりますから、

 今の世にそこまで干渉する気はありません。

 ですが、自分の欲望に光精王は忠実過ぎると思うですぅ』

『は、はい・・・。申し訳ありません・・・』

『世界の守護をしているからと言っても、

 彼らも生きているのですよ?

 愛を伝えるのはかまいません。

 しかし何事にも限度というものがあることを忘れてはいけません』

『はい、しかと心に刻ませて頂きます』


 チラリ。

 これでいいですか?とアニマが俺を見てくる。

 そうだなぁ、クレアへの対応と今の状況わかってんのぉ?って言ってくれ。


『最後にクレシーダへの態度は普通にすること。

 ハミングも初めての里帰りなのですからもう少し眷属へ目を向けること。

 そして情勢を理解しているのであれば宗八(そうはち)の話を極力聞くことをお願いします』

『かしこまりました。

 誠心誠意アニマ様のお言葉を守ることを誓います。

 不甲斐ない姿をさらしてしまい申し訳ありませんでした!』

『じゃあ、後は頑張るですぅ』

「ありがとう、アニマ」


 役目を終えて俺の体に消えるアニマを見送り、

 改めて立ち上がり始めたソレイユ様に目を向ける。

 しかし、彼女の視線は相変わらずクレアに注がれている。

 そして、もの凄い悔しそうな顔。


「あの、水無月(みなづき)さん。

 もう大丈夫ではありませんか?」

「そうだな。

 クレアがいいと思うんなら近づいて差し上げろ」

「わかりました」


 肩を落として椅子に戻ったソレイユ様は今のところ反省しているように見える。

 そこで鞭だけではなく飴を与えてお願いを聞いて貰いやすくする為にクレアをけしかける。


「あの、ソレイユ様。

 アニマ様はあのように言われておりましたが、

 その・・・・触られます?」

『いいのですか?』

「もちろんです、ソレイユ様」

『あ、ああああ・・・・クレシーダ・・・。

 なんて尊いのでしょう・・・』


 駄目だこの光精王、早くなんとかしないとっ!

 見たこともない幸せそうな顔でクレアを抱きしめた後は、

 アニマに言われたとおりにハミングにも声を掛けて里帰りを歓迎していた。


『さて、精霊使い。

 クレシーダとハミングを連れてきたこと、改めて感謝します。

 それで私へ接触する目的は件の魔神族対策かい?』


 クレアとハミングは光精達の元へ向かわせた。

 精霊使いとしての資質を上げるには精霊との親和性も必要になるので、

 単純に仲良く為に対話させるのだ。


「お察しの通りです。

 もう3日もすれば魔神族が陣取るフォレストトーレで大戦が始まります。

 敵は瘴気を大量に利用しているので光精の協力が必要と判断致しました」

『他には?』

「私に眷属を1人付けて頂きたい」


 アルカトラズ様も精霊の新しい道を知りたいと言ってクーデルカを俺に付けてくれた。

 であれば対となる属性である光精側にも同じようにして頂ければ反発も少ないかなぁと愚考したのだ。


『・・・まだ契約精霊を欲するのか?』

「必要に駆られてでございます」

『本音は?』

「ここまで来たらコンプリートしたいな、と」


 今は水・火・風・土・闇と精霊は揃っている。

 加護は火が無いだけだ。

 なんだかんだで六属性が揃ってきているのでどうせならと思ってしまう。

 まぁ光属性に関しては今回の戦いで必要というのも嘘では無いが。


『私に欲望深いと説教出来る立場ですか?』

「申し訳ありません」

『状況は理解していますから協力もしよう。

 他の大精霊とも接触をしているのでしょう?』

「いずれも分御霊(わけみたま)ではありますが、

 シヴァ様、ティターン様、アルカトラズ様とは顔を合わせております」

『おや?アスペラルダにはセリア=シルフェイドが派遣されていたから、

 テンペスト様とも会っているかと思っていけど?』

「残念ながらお会いする機会には恵まれておりません。

 ただ、いずれはどうにかしてお会いするつもりではあります」


 今のところ未定だけどね。

 セリア先生に聞いてみたけど、

 テンペスト様って風属性の王様だから、

 分御霊(わけみたま)でさえ人の振りしてフラフラとしているらしい。

 俺も偶然会えたら挨拶しておこう程度の心構えに留めている。


『最新の情報はなかなか集まらないので教えて貰ってもいいかい?』

「わかりました。現状・・・」



 * * * * *

『予想よりも協力を取り付けていたんだね。

 今回は瘴気の濃度も濃くなっているから我々の浄化の力が必要というわけだ』

「お力を借りることは出来ますでしょうか?」

『・・・クレアも前線に出すのかい?』

「今のところは・・・。

 浄化が出来る者は効果も薄く染みこんだ瘴気の浄化までは出来ません。

 それを行えるのは私、勇者、聖女の3名のみですから出さないと終わらないのです」


 街ひとつとは広範囲だ。

 瘴気モンスターを倒した際に残る瘴気程度ならば他の奴でも対処は出来るが、

 街中の瘴気となれば建物や地面に染みこんだ瘴気の浄化は出来ない。


『実のところこちらでもフォレストトーレの情報は確認していた。

 既に数人あちらに向かわせてもいるんだが・・・。

 普通の瘴気じゃ無いってことは理解しているのかい?』

「瘴気の濃度進行が早すぎますか?」

『あれは何が原因だい?』

「確実ではありませんが、

 おそらくは魔神族の隷霊(れいれい)のマグニが原因かと」


 姿は女。能力は死霊使い(ネクロマンサー)

 自身の魂を分裂させて死者を操る術を持つ。

 陽の魔力が俺達が扱う魔力なら、瘴気は陰の魔力と言える。

 もしかしたら死霊使い(ネクロマンサー)の能力で瘴気を操る事も出来るのかも知れない。

 どちらも死者を(もてあそ)ぶという点においては共通しているから。


『魔神族の詳細情報については浮遊精霊(ふゆうせいれい)だけだと集まらないからね。

 今回もらえて助かったよ。

 しかし、以外と集めているんだね』

「情報がなければ対策も取れないですからね。

 こちらとしても必死ですよ」


 敵の情報もきちんと伝えておく。

 どのくらい俺達と敵の差があるのかを分かって貰わないといけないからな。


『こんな王でも無駄死にさせたくはないのだけれど、

 ここまでさせて勝てるのかい?』

「正直に言いますが、

 光精が協力してくだされば瘴気はどうにかできます。

 ですが、問題は魔神族なのです。

 出会ったことのある魔神族はある程度対策を立ててはおりますが、

 いままでは1人ずつだったのです」

『2人以上出てきたら難しいか・・・』

「俺達は基礎から精霊使いとして戦える準備を進めたメンバーが揃っています。

 アルシェ&アクアーリィ組は氷垢(ひょうく)のステルシャトー、

 マリエル&ニルチッイ組は雷を使うナユタ、

 メリー&クーデルカ組は苛刻(かこく)のシュティーナ、

 俺&ノイティミル組は滅消(めっしょう)のマティアスと戦う準備をしていますし、

 今回は勇者とエクスが隷霊(れいれい)のマグニの相手をします」


 問題は他に魔神族が何人いるのか。

 準備が出来ていない新しい魔神族が現れる可能性。

 基本的には抵抗や妨害が出来る同属性で当てることになるが、

 滅消(めっしょう)のマティアスは属性がわからないからノイとの共闘でなんとか力比べに持ち込めるのが俺だけなのだ。

 状況によってはどうなるのか想像も付かない。


「他にもアナザー・ワンも数名おります。

 流石に魔神族の相手は出来ない仲間もそれなりに」

『そうだね、私の国の精鋭は強いよ。

 でも精霊使いの感触だと魔法は必須なんだろ?』

「確実ではありません。

 氷垢(ひょうく)のステルシャトーとの戦闘経験と、

 苛刻(かこく)のシュティーナがそのような言葉を残していただけなので・・・」


 龍の巣で事を構えた時に唯一反応が良かったのと、

 最後は確かにダメージに繋がっていた。

 シュティーナも「少し戻っている」と言っていたのが気になる。

 目的もまだ見えてこない。


『さっき言っていたお仲間は魔法の方はどうなんだい?』

「アルシェは氷竜の魔石を使えるので高濃度魔法が使えます。

 マリエルとメリーは時間稼ぎがせいぜいという所です」

『ちょっと目が見えないね。

 負けないけど勝てないって事か・・・。

 氷竜も戦力として数えても?』

「おおざっぱ過ぎて肉弾戦なら瘴気モンスター相手。

 大型なら息吹(ブレス)もありですね。

 ただ、役割のほとんどは魔力タンクです」

『龍が魔力タンク・・・エグイ事するね、君は』


 それが使えるし面倒くさがりだから適役なんですよ、ソレイユ様。


「そんな訳で次のお願いです。わかりますか?」

『光龍の居場所だろ?』


 よくわかっておいでで。

 光龍の魔石があれば勇者を底上げ出来るのです。

 ご協力お願いします。


『彼らも縄張り意識が強くてね、

 光精を紛らすことも出来ないから遠目で位置の把握は出来ている。

 それでも慎重に接触しないといけないよ?』

ブルー・ドラゴン(フリューネ)を接触させるのはどうでしょうか?」

『数の差でボコボコにされるのがオチだからやめておいた方が良い。

 協力はするから時期を待って欲しい』

「わかりました」


 フォレストトーレには間に合わないことは明白だ。

 それでも魔神族相手だけではなく魔王との相対でも勇者の役には立つだろう。

 ティターン様からもまだ連絡は無い。

 龍の魔石の加工も出来ていないから、

 俺の組んだ予定からは既にズレてしまっているのだ。


『ふぅ・・・とりあえず必要な話し合いは以上かい?』

「そうですね、必要な事は伝えられたかと思います。

 ご協力もいただけますし、龍への橋渡しもしてもらえますし、

 注意喚起も出来ましたし、クレアの件で文句も言えました」

『最後のはちょっと・・・いいじゃないか、可愛いんだし』


 良くねぇよ。

 今はまだ幼いから聖女の格好させていても違和感は無い。

 しかし、これから大きくなっていけば筋肉も付いてくるだろうし、

 声変わりもあるだろう事から中学くらいが限界だ。

 高校になれば可愛いとは言えなくなるぞぉ・・・。


「もうちょっと話を詰めましょうか?」

『もう勘弁してくれ、わかっているよ。

 大きくなる前に次代の聖女候補はちゃんと見つけるさ』


 クレアが聖女になったのはソレイユ様の神託があったと聞いている。

 つまり全ての原因はこの女ゴホンゴホン・・・ソレイユ様だ。

 元聖女としては名を残すか残さないか等は教国とクレアの話し合いになるだろうけどね。

 本人が続けたいなら続ければ良い。

 辞める道を今回は用意出来ただけで上々だ。


『最後だね。

 光精の眷属を精霊使いに託そう』

「謹んでお預かり致します」


 椅子に座ったままのソレイユ様はチョイチョイと指を動かしとある浮遊精霊(ふゆうせいれい)を誘い出す。


『お前に命ずる。

 精霊使いに着いて行き、精霊の新しい道を切り開く力となれ』


 その命令を受けた浮遊精霊(ふゆうせいれい)は、

 ふわ~と一回転だけしてソレイユ様の元から俺の前にやって来る。

 今のは了承したってことなのか?


 手の中には案内役から回収しておいたスライムの核。

 それに再び魔力を込めてこちらも再び詠唱をして受け入れ準備を整える。


「《光輪(こうりん)(まばゆ)く瞳は()ける、人には()やしを敵には浄化(じょうか)赤光しゃっこうを持って事を成せ、()(もと)()よ、不死(ふし)成る存在を滅ぼせ!精霊加階(せいれいかかい)()よ!ベルトロープ=リュミエール!!》」


 朝と同じく浮遊精霊(ふゆうせいれい)が核に触れた。

 今度は名前も、容姿もしっかりとイメージして加階(かかい)が始まる。

 案内役とは違い、ここからは時間も掛かるから今日はこれでお暇しよう。

 加階(かかい)中の精霊は光の卵となって俺の後を追う様に着いてくる。


「では、ソレイユ様本日はこれで失礼します」

『1日くらいクレシーダを置いていかないか?』

「却下します」


 弾ける笑顔で即決却下。

 当たり前だ馬鹿野郎!

 すでに予定の面会時間は過ぎているから急いで帰らないと教国連中に何を言われるかわかったもんじゃない!


「クレア、ハミング!帰るぞ!」

「『はぁーい』」

『帰りはどうするんだい?』

「自前の時空魔法で帰りますので大丈夫ですよ」

『精霊使いは可愛くないね』


 可愛くなくて良いよ。

 こちとら成人男性じゃい。


「4年ですからね」

『わかっているさ、君もしつこいね。

 眷属は当日手前の街に集めておくからちゃんと拾ってくれよ』

「かしこまりました」

「何のお話ですか?」

「何でも無い。忘れ物は無いか?」

『何も持ってきておりませんから、大丈夫です』


 クレアに聞いたつもりだったけれどハミングが答えた。

 まぁ確かにそうだし問題はなさそうだ。

 あっても取りに来ることは出来るわけだしな。


「それではソレイユ様」

「本日はお会い出来て光栄でありました。

 また神託があればお伝え頂ける様にお願いします」

『お世話になりました』

『クレシーダもハミングも自分の里だと思っていつでも顔を出しなさい。

 私は2人を歓迎するよ。

 出来れば精霊使いは無しで来てくれ』


 は?

 クレアも離れたところに居たとはいえ、

 出会い頭からの俺とソレイユ様の関係があまり良くは無いと把握はしているらしい。

 ソレイユ様の言葉には「あはは」と濁して答えはしなかった。


 ゲートを設置した場所まで元来た道を戻る道中、

 手を繋いでいるクレアが話しかけてきた。


「水無月さん、ソレイユ様と喧嘩出来るなんて凄いですね。

 私は威厳や名前の大きさもあって信仰の対象ですから恐れ多かったです」

「ん~、クレアが威厳って言ってるのは単に保有魔力差による圧迫感だろ」


 そんなものは四神に会う度にいつも感じている。

 分御霊(わけみたま)と言ってもやはり人間如きじゃ追いつけないほどの魔力をお持ちなのだ。


水無月(みなづき)様も圧迫はありましたよね?

 ですが、王にかなり意見を言っているように聞こえました』

「アニマのおかげだね。

 もっと上の精霊から一言あったから真摯に話を聞いてくれたってのはある。

 ちゃんと話せば大精霊は理解のある方達だしな」

「満足は出来ましたか?」

「まぁまぁだな」

「まぁまぁですか」


 完璧じゃないけど必要な協力も頂けることになった。

 とりあえず今日はクレアを教国の大聖堂に届ければお仕事終了の予定だ。


「おかえりなさいませ、クレア様」


 ゲートを通って帰った先は教国内にある俺達の拠点だ。

 人は住んでいないはずなのに、

 ゲートを潜ってすぐに背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「サーニャ?」

「なんでここにいるんだ?」

「なんでここにいるんだぁ~?!?

 水無月(みなづき)様が予定の時間になってもクレア様を戻さないからですよ!

 念の為姉が出発地点に待機して私がこちらに来たのです!」


 この後めちゃくちゃ怒られた。

 まぁ俺としては聖女と他国の人間が2人して街中を歩くことになるのはどうかなぁと思っていたし丁度良かったとも言える。

 いいお土産話もあるのに・・・。


 ひとまずこれで今出来る下準備は終わったかな?

 残る日数でフラムとまだ産まれない光精をどうするかなぁ。

いつもお読みいただきありがとうございます

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