†第1章† -13話-[死霊王の呼び声:最下層【 後編】]
翌朝のアルシェはそれはそれはよく食べていた。
今日ないし明日にはボスへ行こうと思っている事を伝えると、
「わかりました」と頷いていた。
朝食後に1杯のお茶を飲みながら、
昨夜に聞けなかった報告をメリーから聞くことにする。
「メリー、魔神族関連で新しい情報はあったか?」
「いえ、魔神族については新しい情報はありませんでした。
というよりも聞けた話がどうにも要領を得ないのです」
「例えばどんな話ですか?」
「いきなり世界が赤く染まり、[オーク]に囲まれるとか。
でも、すぐに元に戻るらしいのです」
「どこで起きた話になっている?」
「そこまでは・・・、信憑性も低いので情報も集まり辛くて。
申し訳御座いません」
「他にはどんな情報があるんですか?」
「とある空間に亀裂が入っていて、
全く見たこともないモンスターの群れが出てくるとかですね」
「空間の亀裂?世界が当たってるのか・・・?」
「お兄さん世界が当たっているというのは、どういうことですか?」
「この世界の他にも世界があることは、
俺が居る時点で理解はしているな。
その周りに存在している世界がこの世界と融合しようと衝突している可能性だ。
その衝突が原因で空間に亀裂が出来て、
別世界のモンスターが流れ出てきた、と考えれば・・・」
「ご主人様の仮定を聞いても、
やはり私には荒唐無稽にしか聞こえませんね。
王様に報告をして判断を仰ぎます。
赤く染まる件については何かありますか?」
「すぐ戻るということから、
何かの実験をして失敗に終わったら戻っているんじゃないか?
[オーク]に囲まれるというのがダンジョンへ転送されているのか、
もしくは・・・」
「もしくは・・・なんですか?」
「幻覚を見ている可能性だ」
「幻覚・・・ですか?
つまり、その赤く染まった地域の住民は、
お互いが[オーク]に見えるようになっていると?」
「あぁ。これが最前線で起こった場合こちらの陣営は瓦解するぞ。
お互いが本当に仲間なのかわからないんだからな」
「・・・・」
「・・・・」
「早めに2つの情報の発生地域は確認したほうがいいな」
「かしこまりました。急ぎ報告をして対策を検討してまいります」
「私も行った方がいいですか?」
「いえ、今はこちらを優先されてください。
報告などは私達の、検討は王の仕事ですので。
では、お先に失礼します」
俺の予想を聞いてから血相を変え城へ報告に向かうメリー。
今の話がただの予想で現実に起こらなければ良いんだけどな。
「じゃあ、今日は昨日の続きをしながら進もう。
午前の成果次第で続けるか進行を優先させるかの判断をしよう」
「わかりました、がんばります!」
エクソダスの転移門を通って昨日までに進んだ通路に戻る。
昨日よりは捌けるようになったが、
如何せんVITが低いのでダメージを受けたら小まめに回復をする。
俺も魔法系のステータスが高い訳では無いのでMPは低いし、
回復量もほどほどだ。
回復魔法が[ヒール]なのもあり、騙し騙しで2時間が限界だな。
午前のあと1時間は本来の役割で一気に進める場所まで駆け抜ける。
最低限を倒しながらだと、
追いかけてくるのは[レッドバット]のみなので、
アルシェが[勇者の剣]で撃ち落とす事で対処する。
急いだおかげで午前のうちに62%まで潜れた。
今日の目標は俺が記録している82%まで進む事だ。
あぁーどこかにアルシェより弱く、
アルシェに全力で斬りかかれる3人組とかいないかなぁ。
そうしたら、ダンジョンじゃなくても訓練出来るんだけど。
俺もアルシェと訓練をするが、やはり1対1にしかならない。
モンスターは遠慮なく打ち込んでくることを考えると、
今の所はこれが1番成果が上がるな。
お昼ご飯を食堂で食べながら考えを巡らす。
今回メリーは城から戻れないらしく、
ギルドの職員から伝言を受け取り2人で食堂へ来た。
「午後はどうしましょうか?また2時間ほどを訓練に使いますか?」
「ここからは敵が変わらないから正直どちらでもいいんだけどね。
[エクソダス]が唱えられなくなる可能性を潰す為に、
念の為MPポーションを1つ持っていくし」
「では、予定の深度まで一気に進んでから訓練を始めましょう。
ポーションも使ってMPギリギリまで使った時点で帰りませんか?」
「そうしようか」
午後は食後ということもあり1時間は普通に進み、
残り予定踏破率まで走り抜ける。
試しにアルシェへ[アイシクルエッジ]をフロア全体に出来るかと聞いたら、
MP30程度で可能だと思うって返ってきた。
4層に降りたらすぐに使ってもらい進んでしまおう。
「《アイシクルエッジ!》《アイシクルチャージ!》」
『《あくあちゃーじ》』
BOSS部屋が最後の5%を持っているので、
95%踏破すれば自ずとBOSS前となる。
今、4層の敵を蹴散らしながらアルシェを抱えて滑って進んでいる。
アルシェにはギルドカードの踏破率を見てもらっており、
踏破率が上がれば正しい道に進んでいる道標にもなる。
2人パーティならではだけではなく、
[アイシクルエッジ]と[チャージ]が無ければ、
いちいち守る奴も確認する奴も大変だ。
俺達はならではの連携でどんどん進んでいく。
「踏破率90%です」
「5層に降りてから割とすぐだな。このフロアが狭いのかもな」
『つかれたぁー』
元々の予定であった踏破率はすんなり通り過ぎて、
4層から5層へ降りて何部屋か過ぎた矢先にアルシェから踏破率90%の報告が来た。
アクアもこんなに長く[アクアチャージ]を維持したことがなかったので疲れを訴えてくる。
「アクアちゃん、こちらへどうぞ」
『あるー、ありがとー』
アルシェが帽子を脱いで頭の上にアクアを誘う。
最近あの娘はアルシェの頭の上で寝てばかりな気がする。
体調とかあるのかな?
セリア先生に精霊の体調とかについて聞いていればよかったな。
「あと1時間を目安に訓練しながら進もうか。
BOSS前に着いたら少し早いけど今日は上がろう」
「はい、わかりました!」
駆け足ではあったけれど経験値も程ほどに入り、
俺はレベルが1つ上がってLev.20になり、
アルシェは2つ上がってLev.18になった。
もう少し先の武器を目標に振り分けたいからと溜め込んでいたGEMも18にまで貯まった。そろそろ振り分けてしまいたいなぁ。
アルシェのステータスは魔法使いのビルドだけど、
槍が使えるようになっているからDEXとVITを上げたいみたいだ。
[アイシクルウェポン]は自分が使える武器しか精製出来ないらしくて、
彼女は剣だと[ショートソード]、
槍だと[スピア]しか精製出来ない。
割と使い勝手が悪いけれど、
本数や強度に変化を持たせられるし属性が本来付かない武器でも水氷属性の武器になる。
ゆったりと進んでBOSS部屋の前に到着したが、これは・・・。
「霧・・・ですね」
「霧・・・だな」
ギルドにある[インスタントルーム]の入り口が禍々しくなった感じの大きな扉があった。
誰が通る事を想定して作られたんだよこの大きさは。
時間も時間なので今日は帰還して予定通り明日はBOSSと戦う事にしよう。
あの大きさの霧の扉を見た後だと、
本当にソウルなゲームを思い起こすなぁ。
「じゃあ、帰ろうか」
「はい、お兄さん」
『Zzzzz』
アクアはずっと寝ている。
魔力は使っていないから減ってないはずなんだけど、
本当にずっと寝ている。
声をかければ戦闘に参加はしてくれるんだけど、
終わればすぐに寝始める。
少し心配になるレベルで。
こう、魔力が少ないから消費を抑える為に寝ているような、
でも素人目に見ても核に減りはない。
BOSSを倒したらセリア先生に相談しよう。
早上がりで昨日よりも疲れを残さなかったのか、
アルシェはご飯を食べる元気を残していた。
メリーと合流してからお風呂へ入り、
さっぱりしてから晩御飯を注文する。
「さて、報告を聞こうか」
「王の対応をお伝えいたします。
魔神族についてですが、
四神に確認して神なのかどうか確認したところ違うとのことです」
「え?王様って四神に知り合いがいるの!?」
「私は知りませんが」
「私もお父様に四神に知り合いがいらっしゃるなんて知りませんね」
「ま、まぁ神に近い大精霊が言うんだから信じて正体を探ろう」
「次に赤く染まる件についてですが、
魔法ギルドに確認を致しました。
回答は光属性と炎属性で何かしているのではと」
「光属性って実際どんなものの事?
[ヒール]は意外にも無属性だし」
「そうですね・・・聞いた話では遠くにいる対象を見ることが出来るとか」
「私もその程度の知識です。
あまり光属性って一般的じゃなくて・・・すみません」
「いや、広まっていない属性なら仕方ないさ・・・あれ?
勇者って光属性の魔法が使えたりするもんじゃないのか?」
勇者といえば光、勇者といえばチート。
魔導書なんて読まなくても初めから1つや2つくらいの魔法が使えてもおかしくないんじゃないか?だって勇者だもん!
「いえ、あの方は・・・」
アルシェがなんかすっごい微妙な言葉に出来ない顔で唸る。
なんだよ、その態度は。
「勇者様は割りとすぐにダンジョンを踏破されて、
お仲間の冒険者と次の街に行かれたのでよくわからないのです」
「目はついてるんだろ?
どこまで行ったとかレベルはどれくらいとかないの?」
「・・・今はランク3ダンジョンの3層付近で、
レベルは32。武器はご主人様と同じ片手剣です」
「なんでメリーもそんな顔になるんだよ。
あと、俺を引き合いに出すなよ」
「勇者様は破天荒な方で、
まぁ、その・・・色々と疲れるんです」
「なるほどね。武器はやっぱり聖剣なの?」
「いえ、今は【レアリティ】レアの[ルーンブレイド]を使われています。
聖剣は教国が保管しているのですが要求ステータスが高いので・・・」
「勇者なんだからステータスの壁を壊して装備するかと思ったら、
無理なんだな。乙!」
「何ですか?今のおつって」
「お疲れ様って意味だよ。
俺達の世界は何かと言葉を短くする傾向にあるからね」
「なるほど・・・おつ・・おつですか・・・」
俺のざまぁ!という気持ちを込めた乙!に、
アルシェが真剣な表情で考え込みぶつぶつ言っている。
真面目だから明日にはおっはー!とか言ってくるかもしれないな。
「光があるってことは闇属性もありそうだな」
「そちらは本当に不明なんですよ。
情報を集めようとしたこともあるんですがなかなか・・・、
適正がないと使えないという話もありまして」
「情報が流れてないなら仕方ない、次行こう」
「はい、亀裂に関してですが。
これは情報が少ないうえに事態が大き過ぎて検討すら出来ないと」
「そりゃそうだ(笑)意味不明すぎて無理だろう。
世界とか頭おかしいし(笑)」
「お兄さんが言った内容が本当だった場合は、
私としてもどうにかしないといけないんですけど・・・」
「遭遇するか、情報が集まらない限り動けない。
現状は情報収集に専念だな」
「かしこまりました、引き続き情報は収集いたします。
報告は以上です」
「よしっ!じゃあ今日はさっさと寝て明日に備えるぞ」
「はい、おやすみなさい。お兄さん」
「では姫様、部屋へ参りましょう。ご主人様お休みなさいませ」
「はい、おやすみ」
俺も明日に備えて寝ましょうかね。
アクアは今日もアルシェと一緒だ。パパ寂しい。
* * * * *
「午前中に回復アイテムを買っておこう。
今日はBOSSを倒すのが目的になるし、
いつ戦えるかもわからないからな」
「遊び道具とかも持っていきますか?」
「遊ぶくらいなら俺と軽く打ち合った方が良くないか?」
「それはそうですが・・・」
今日はいよいよ[死霊王の呼び声]のBOSSと戦う日だ。
低レベルから始まった冒険者も、時間をかけてここまで来たのだ!
長かったなぁ!異世界に来て半年くらい経ったかな?
今度思い出したら計算しとこ。
先の会話でもあったけど、遊ぶとか戦場では聞かない言葉にも意味があって、
BOSS部屋の隣の空間に休憩所がある。
そこで時間を潰す算段の一環の会話なのだが、
なんですぐ戦わないのか・・・、戦えないのだ。
BOSSは1度倒されると1時間後にリポップする。
ダンジョンの最終到達点はBOSS部屋なので、
自然と先を越されれば待ち時間が生まれる。
だから休憩所で順番待ちをする間の暇潰しが必要になる。
休憩所は時間を潰す場を提供するだけでなく、
順番を管理してくれる。
どんなに頑張っても1日最大12組のパーティしか戦えないので、
そりゃ順番守れないと今後冒険者をやっていけないほどの被害を被るだろう。
そんなわけで、軽く打ち合って時間を潰す方向で落ち着いた。
順番が来れば休憩所の管理人が声をかけてくれる。
「こんにちはー」
「応!もうここまで来たかぁ!」
「この前から潜り始めたにしては早くないですか?」
「いや、俺自身はひとりで踏破率80%まで来てたんだけど、
アルシェとパーティ組んだから改めて頭から潜り直したんだよ」
「なるー。道順がわかってればそりゃ早いか」
「いま何組いるの?」
「今戦っているのを除いて3組のパーティが待ちだな」
エクソダスでBOSS部屋前まで転送されて、脇の道に入り、
休憩所に着いたら知り合・・・顔見知りの冒険者が数人いた。
ダンジョンはわりかし広いので、
何組も冒険者がいるはずなのになかなか会う機会が少ない。
ここまで集まれるのはBOSS部屋前だけだろう。
アルシェは少し後ろで俺達の会話に入れないでいる。
「お前らに俺のパーティメンバーを紹介してやろう!」
「誰だろうなぁ(棒)」
「可愛い子がいいなぁ(棒)」
「私は男の子がいいわねぇ(棒)」
すでに知れ渡っているらしい。
ニヤニヤしながらでもやはり目に映る機会が少ない姫様の登場にワクワクもしているようだ。
「アルカンシェ=シヴァ=アスペラルダ様だぁ!!!!!」
「よ、よろしくお願いします」
「生アルカンシェ様だ!」
「やったー!自慢出来るぞー!」
「男の子が良かったわ!」
「お手を触れないでくださいねぇ、
触れたら怖いお兄さんが瀕死まで追い込んで、
回復の機会を与えないままBOSS部屋に投げ込みますよぉー」
『んー、うるさぁーい!ねれなぁーい!』
これぞ冒険者!うるさい!とにかくうるさい!
王族相手だろうが礼儀作法を知らないが故にぐいぐいとアルシェに話しかけたり、
うるささで起きたアクアに釘付けになったり。
『ますたー!なにここ!これ、だれ!』
「やっと起きたか寝坊助め。
ここはダンジョンの休憩所でこれは顔見知りの冒険者だよ」
『あくあしらないよー』
「お前が産まれる前に知り合ったからな。仲良くしなさい」
「こ、この娘が噂の精霊か・・・」
「可愛いなぁ。いくら?」
「いや、売らないし。
あと正確にはまだ精霊とは呼べない位階のはずだぞ」
『たすけて、あるー!』
「こちらへ来てくださいアクアちゃんっ!」
なんだかんだで時間は潰せそうだな。
「そうだ、お前ら何番だ?」
「俺らは3組目だ。姫様が4組目な」
「じゃあ、時間はあるな。
時間潰しに軽く打ち合わないか?」
「マジかよ!姫様が怪我するぞ!?」
「しないように訓練や戦闘を工夫してきたさ。
勝てると思うなら戦ってみるか?
回復薬は持ってきてるからどっちが怪我しても大丈夫だぞ」
「フフフ、勝ってしまってもかまわんのだろう?」
「勝てたらいいな」
「女の子相手なんだから手加減しなさいよっ!」
「え?私が戦うのですか!?」
「アルシェなら勝てるからそこまで気を張らないでいい。
力を抜いて訓練と同じで初めは弾くだけでいいから」
「わかりました」
時間を潰すために使われるとも知らないで、
名前も忘れられたモブ冒険者とアルシェの戦いが今、始まる。
「おりゃー!」
「はっ!」
アルシェは氷のスピアではなく通常装備の[ルーンスタッフ]で剣と打ちあう。
槍と違って柄が短いとはいえ、
見事な杖術で攻撃を弾いていくアルシェ。
「おやぁ!完全に抑え込まれてるが本気なのかぁ!?」
「いや、姫様マジで硬いんだけど。
なんなの!?杖であしらわれるとか始めてなんだけど!?」
そりゃそうだろ。
基本的に前衛と後衛がきっちり別れるこの世界の住人に、
アルシェの運用方法は前代未聞なはずだ。
「あれは俺も勝てないな」
「私もあれくらい戦えるようになりたいわねぇ」
「すごいだろ。うちの妹は!」
「「お兄さんの妹はすごいでちゅねー(棒)」」
そのまま槍に持ち替えずに打ち合いが終わった。
男は悔しそうだったが、
アルシェに色々聞き始める程度には余裕を持って打っていたようだ。
アルシェも人見知りが再発したように見えたが答えられてはいるみたいだ。
「俺じゃ無理なわけだわ」
「なんか分かったのか?」
「1人でスケルトン3体と戦わされてるってさ」
「鬼だなお兄さん」
「姫様に恨みがあるんじゃないの?お兄さん」
「そんなわけないだろ!?」
「そうです!お兄さんは私の事を考えてくれてます!」
「「「お、おう・・・」」」
そんな茶番をしていたら彼らの時間が迫ってきたみたいだ。
ポーションだけ餞別にプレゼントして見送る。
霧の向こうへ消える彼等の背中は先程とは違う、
冒険をする人間の背中だった。
時間にして30分ほどで霧の向こうから帰ってきた奴は言った。
「姫様の方が手強かったわ。いや、マジで」
* * * * *
「さぁ、次が俺たちの番だ!」
「これから1時間ですね。
お兄さんの知り合いの冒険者さんは3人で30分ほど、
その前のパーティが4人で40分ほど。
人数が少ない方が早いとは戦い方の違いを見たかったですね」
「まだ謎の部分はあるだろうからな、
案外パーティ人数によって強さが違うのかもな」
「じゃあ、私達は10分で倒しちゃいましょう!」
「よし来た。目標は10分な(笑)」
「いや、姫様の防御の方がBOSSより硬かったから本当に余裕だと思うぞ」
1時間も前なのにやる気満々のアルシェ、
そのやる気を削ぐような事をいう顔見知りの冒険者A。
実際にBOSSの強さの変化については、
何度も人数を変えないと変化があるのかもわからんだろうが、
出来れば緊張感のある戦いがしたい。
雑魚どもでは俺はともかくアルシェでも時間を掛ければ1人でBOSSまで潜れる程度の強さしかない。
「よし!アルシェのモチベーションを維持する為にお前ら相手をしてくれや」
「またかよ!」
「お前は俺とだ。お前らはアルシェとな」
「は?俺も?」
「私、姫様に魔法を放つなんて出来ないわよっ!」
「アルシェに攻撃を当てられたら、
BOSSからドロップしたアイテムやるよ」
「わかったわ、任せなさい!」
どうせ、プチレアの200G程度のゴミアイテムだろうからな。
とはいえ今までの思考回路のない[スケルトン]共と違って、
レベルの近い冒険者の前後衛を1度に相手するのは対処に難しく、
良い経験になるだろう。
俺は相手に[カットラス]を貸して、
攻撃速度20%UPの連続攻撃を[イグニスソード]で捌き続ける。
「武器を貸して余所見とは余裕ですねっ!?嫌味か!」
「お次お待ちの水無月様ぁ~。BOSS部屋へどうぞぉ~!」
管理人からお声が掛かり、いざBOSS部屋へ!
* * * * *
「じゃあ、行こうか」
「はい、お兄さん。宜しくお願いします」
イレギュラー以外で初のBOSS戦に緊張しつつも、
年上の威厳が顔を出しアルシェへ手を差し伸べる。
アルシェも俺の顔が少し緊張しているのがわかったのか、
微笑みながらも手を取り、一緒に霧を抜ける。
軽い反発を感じながらBOSS部屋に入ると、
円形の大きな部屋だとわかる。
その中央に闘技場のキュクロプスより少し小さい、
けれど大きな骸骨が小さく屈んで存在していた。
脚は6本、構成は全て骨。
なんというか、女郎蜘蛛の人骨バージョン?かな?
うーん、[アラクネボーン]って感じ?
ひとまずは俺が前衛を務めて動きを見極めるために前進する。
アラクネボーンも俺達を感知したのか赤く光る眼をこちらへ向けて、
ゆっくり立ち上がり構えを取る。
腕は畳まれていたので遠目から見ても確認出来なかったが、
その両手には大型の剣がふた振り。
見たことがないからここいらではドロップしない武器、
もしくはこいつ限定の武器かな?
接近する俺に右の大剣を振ってくる。
図体が大きい割に剣速はスケルトンより・・・早いっ!
「っぐ・・・!?」
「お兄さん!大丈夫ですか!」
正面から[イグニスソード]とアラクネボーンの大きな剣がぶつかり、
勢いをそのままに自分から後ろに飛ぶ。
堪らずアルシェから声が上がるけど、これは・・・
「軽いなぁ。もっと時間を掛けないといけなかったな」
「お兄さん?」
「いや、なんでもない」
やる気MAXのアルシェに野暮な事は言えなかった。
まだ俺の意識はキュクロプスの強さを覚えているみたいで、
奴の攻撃の軽さに気が引き締まらなかった。
俺と[アラクネボーン]の距離が開いたせいか、
情報通りに雑魚スケルトンの召喚が始まる。
合計8体のスケルトンがBOSS部屋全域にランダムで出現するようだ。
近場に召喚された1体を一撃斬りつけるとすぐに崩れてそのまま消え去る。
HPはオリジナルの3分の1程度かな?
そこまで強さは感じないけど・・・、
アラクネボーンとの距離が一定以上を離れるとかなりの頻度で召喚を行う。
倒しきる前に呼ばれると面倒だな。
「アルシェ!雑魚は頼む!」
「はい!《勇者の剣》!」
[スケルトン]の人数分の氷が発生して頭を狙い撃ち放つ。
とはいえ、まだ距離があるので2体のみ頭に命中して残りは外れてしまった。
「『アイスランス!』」
倒し損ねた[スケルトン]も、
さらにのろのろ動いていた3体が氷の槍に刺されて崩れ去る。
俺も追加で2体を斬り捨てつつアラクネボーンに走り寄り接近する。
腕を振り回し接近を嫌がるがソードパリィしてそのまま斬りつける。
当たり前だがキュクロプスほどの硬さを感じないな、
攻撃頻度は二刀流だからかなり高いけど。
アラクネボーンの召喚する端から倒してはいるが、
合計で18体まで増えた[スケルトン]はアルシェに任せる。
先に挑戦した奴が言っていたように苦戦まではしない。
まだまだ未熟な自分の精神に叱咤して戦闘に集中しようとするが、
どうにも緊迫感が足りない。
深く考えなくとも体は勝手に動いてアラクネボーンの足元を動き回り攻撃を捌きつつ脚や胴に斬りつけて行く。
『(ますたー、まほうがくるよ!)』
アクアが俺に、魔法発動の兆候を感じ取り伝えてきた。
所詮は骨だからか声が出せず無詠唱だったのは驚いたが、
ランク1のダンジョンらしく予想通り[アイシクルエッジ]を発動してきた。
ただし、範囲は改変もなくバックステップをすれば回避は余裕。
これは本当にヤバイ。
ゲームでチートコマンドを使って重火器を手にした時くらいにつまらないな。
丁度アルシェも雑魚スケルトンを倒し終えるところが目に入る。
「アルシェ!突喊!」
「はい!《アイシクルエッジ!》《アイシクルウェポン!》シフト:ランサー!《アイシクルチャージ!》」
俺が嫌いなゲームは、
難易度を上げると体力ばかり特に上がって倒すのに何時間も掛かるタイプのBOSSだ。
コイツはそんな感覚がある。
確かにBOSSなんだけど、
正面から打ち合う時は[スケルトン]2体を相手にしているのとほとんど変わらず、
だが体力だけは異様に多い。
俺が一撃デカイのを入れてもいいが、
アルシェにも感触を確かめさせたかった。
「突喊っ!!!」
バキィィィィィイ!
「・・・え?」
大きな脚が2本空を舞う。
折れたのだ、あの巨体を支えていた6本ある脚の2本が、
アルシェの突喊で簡単に折れてそのまま足元を通過してしまう。
俺がサポートしたからと言ってこれではあまりにも・・・脆い。
「お兄さんが戦い始めた途端に、
気力が無くなったように感じられた理由がわかりました」
「わかっちゃったか。
これを恐れて雑魚とは多く戦わせて感覚を戻そうとしたんだけどな、
アルシェも感じちゃったかぁ。
俺達のレベルは確かに適正より少しばかり高いんだが、
体や魔法の使い方、技術なんかがランク1のBOSSでは相手にならないほど成長していたみたいだ」
立ち上がろうとするアラクネボーンを尻目に、
アルシェは近寄ってきて俺の感じているものを同じく感じ取ったようだ。
まだ戦い始めて5分ほどだが、
このまま倒してしまった方が時間を無駄にしないで済みそうだ。
「アルシェ・・・すまんが、頼む」
「・・・はい、お兄さん」
「《勇者の剣!》シフト:氷結覇弾!」
尖った無数の氷の塊がアルシェの周りに精製される。
BOSS戦用にアルシェと考えた魔法がこんな形のお披露目とは思わなかったな。
「シュート!」
あっけない幕引きだったが[死霊王の呼び声]の最下層でのBOSS戦は、
こうして終わりを告げた。
いつもお読みいただきありがとうございます




