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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
閑話休題 -フォレストトーレ奪還戦争までの1か月-

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閑話休題 -32話-[リクオウの鍛冶師]

「それで時間が余ったからってこんな時間に来るか?」

「夜にはまた予定が入っていますので、

 こんな時間しかなかったんです」


 いま俺がいるのは教国のある場所。

 (かまど)やインゴットや武器防具が飾られていて、

 冬なのにめちゃくちゃ暑い場所。


「まぁ呆れはしたが娘の勤め先の上司だしな。用件を聞こうか?」


 目の前の男は鍛冶師だ。

 もちろん、ただの鍛冶師に興味ありません。

 この男はカテゴリレア以上の装備を修理出来ると噂で聞くリクオウ出身者。

 先日出会ったのは教国からの別れ際のみで、

 その時から俺の視線はこの男にロックオンされていた。

 もう!目が離せない!


「俺の剣を直してください!」


 インベントリから大事に出すは[イグニスソード]。

 壊れたのは半年以上前に行われたアルカトラズ様の試練の時。

 修理をしてももう戦いには着いてこられない。

 でも、なんだかんだでずっと一緒にここまで冒険をしてきたのだ。

 修理出来るのであれば修理しておきたい。


「こいつぁイグニスソードか・・・。

 お前さんの得物にしては幾分ランクが足りないだろう?」

「序盤を支えてくれた武器なんです。

 出来れば手放したくないですし修理もしてあげたい・・・」

「ふん・・・触らせてもらっても?」

「もちろんです」


 プロですから、とは続けられなかった。

 オタクだからと場面も考えずに言える言葉では無い。

 今シリアスな場面だから。


「手入れは素人ながらちゃんとしているな。

 この武器への愛を感じる」

「アスペラルダの鍛冶師にお古の道具を頂いて、

 手入れの方法も教えて頂きました。

 あとは属性武器なので時々魔法を込めたりと・・・」

「確かに生き生きとしているように感じる!」


 生き生きの部分で乳酸菌と続かなかった自分を褒めたい。

 剣芯の欠けた部分からは中の炎が見えていた。

 だから弱まるかもと思って火を入れる気持ちで魔法を込めていたのだ。


「ちょっと叩いて来てもいいか?

 そのまま修理出来そうならしてやるよ」

「お願いします」


 俺の剣を持って鍛冶場に引き返していくおっさん。

 そういえばリッカの父親でたぶん偉かったという事しか知らないな。

 とにかく他の鍛冶師とどのように違うのかは専門ではないので素人目にはわからない。

 調べるというのであればお願いするしか俺には手が無い。


「待つのはいいけど、

 クレアに見つからないようにどうやって隠れていようか・・・」


 別に隠れる必要はないと思う。

 でもあいつは何故か俺に懐いているからな。

 今回は極力クレア周辺の人物にも内緒にしてくれと言って教国の奥地まで来ている。

 クレアは今日もお仕事中だから集中を乱さない為にも教国兵は協力的だったのだ。


「ん?」


 鍛冶場とは別に用意された本宅の玄関先から女性が手招きしている。

 あの眼光と迫力はリッカのお母さんだろう。

 出戻りのように娘を託した男がすぐに目の前に姿を現したことでお気に触ったのだろうか?


「こんばんわ、隊長さん」

「奥さん、こんばんわ」


 時間的には夕方だけど冬だから暗くなるのも早い。


「今日はどうされたのですか?」

「リクオウの鍛冶師は腕がいいと噂を聞いていたので、

 修理不可と判断された武器の修理をお願いしにきました」

「それはそれは・・・。主人はなんと?」

「ちょっと叩いてみてやれそうなら修理すると」

「では時間がどのくらい掛かるかはわかりませんね。

 お暇でしょうし中へどうぞ」

「え、あ、ありがとうございます」


 元は教国出身の奥さんだが完璧な大和撫子を習得していらっしゃる。

 主人の前では一歩引いて背後からの眼光で脅しつけていたが、

 実際主人が居ない状況で話してみると良く喋る。


 中は和室だった。

 しかもコタツがあるよ。

 畳も異世界にもあるんだね。

 もしかしたら、い草の枕とかもあるかも。


「どうぞ」

「あ、おかまいなく」


 出てきたお茶はほうじ茶の色をしていた。

 さらに出てきたお茶請けはきんつばに見える。

 俺は知っている。

 このコンボは最高なんだと。


「どうぞ」

「ありがとうございます、いただきます」


 触り心地の良い畳。

 暖かいコタツ。

 日本の心、和菓子。

 そして熱いお茶。

 ズズゥ・・・


「・・・ほあ」


 もう、死んでも良い。


「おう!水無月(みなづき)殿居るかぁ!?」

「こちらに通していますよ」


 玄関口からの声が聞こえたかと思えば、

 奥さんの返事からすぐに(ふすま)を開けて顔を見せるご主人。


「気ぃ抜けてんなぁ・・・。叩いて調べてみたぞ」

「いかがでしたか?」

「修理は出来るだろうが、ちといつもと違うんだ。

 俺の勘と経験が水無月(みなづき)殿の剣が生きていると感じているんだ。

 ともかく鍛冶場まで見に来てくれるか?」

「わかりました」


 あぁ、ゆっくり食べたかった・・・。

 異世界の和菓子職人と奥さんの優しさに感謝しつつ、

 惜しまれながらも残る大きな欠片を口に放り込む。

 最後の抵抗にお茶はゆっくり嚥下(えんげ)して味わった。


「参りましょう」

「お、おう・・・。

 また来たときに食わせてやろうか?」

「お願いします!」


 当然その優しさに甘えます。

 職人が教国にいるのかな?

 それかリクオウとまだ繋がりがあって秘密裏に輸入してるのかも知れない。

 ご主人に着いて行くと先の鍛冶場に案内された。

 金床の上には俺の大事な大事なイグニスソードが鎮座ましましていた。


「それで、生きているとはどういうことでしょうか?」

「俺も鍛冶師は長いことやっている。

 だから武器がどのような扱われ方をしていたかとか、

 使い手はどんな奴かとかがなんとなく感じられるんだ」


 それは職人病か?

 FPSプレイヤーがここから敵が来ると予測出来るように、

 経験が裏付けする何かなのではないか?


「属性武器は属性によって補修も修理もやり方が異なる。

 当然完全に元に戻すことは出来ない。

 属性一致の魔石が必要になるし純度によって修理後の品質も多少上下する」

「とりあえず使えるようになればかまいませんが・・・」

「こいつの属性は火だろ。

 環境としても普通の鍛冶場をそのまま使えるから比較的楽なんだが、

 修理しようと火を入れて・・・ハンマーを持ち上げると」


 (かまど)にイグニスソードを入れて炙り熱量を上げ、

 剣身が真っ赤になったところで金床に寝かせられる。

 欠けた剣身の隙間から見える芯にある炎は元気があるらしく、

 もりもりと溢れている。

 その炎がおかしな動きをするのだ。


「ハンマーに反応しているんですか?」

「そうなんだ。

 ハンマーの方向に火が強まるんだ。

 こんな事は今まで起こったことがなくてな」


 ハンマーを動かすご主人に合わせて、

 あっちにボボボ、こっちにボボボ。

 確かに見た感じ生きている。

 そう表現するしかないと思う。


「試しに魔法を込めるってのをやって貰えるか?」

「お安いご用です。

 《ヴァーンレイド》セット:イグニスソード」


 俺の詠唱によって側に現れた火の玉は、

 その姿を全て寝転がるイグニスソードへと吸収されていく。

 剣身は全体的に火で炙られた時に比べてもっと赤く染まり、

 息を吹き返したように中から漏れる火もまた活性化した。


「どうでしょうか?」

「やはり、違うな。生きていると明確に感じる」

「直せそうですか?」

「直せはするがな・・・。待てよ・・・。

 そういえば勇者の武器[エクスカリバー]は精霊って話だったな。

 じゃあコイツも精霊なんじゃないか?」

「それはありません。

 この武器を手に入れる手段は敵からのダンジョンのドロップですから、

 精霊武器が手に入るわけがないんです。

 そもそも精霊武器は今のところエクスしか確認されていませんし、

 エクスは元が精霊で剣に姿を変えているだけです」


 つまり剣が精霊になるとはにわかに信じられないのだ。

 属性武器だから可能性はあるのかもしれない。

 だがだがしかし、だがしかし。

 そんな話はギルドにもアスペラルダと教国の書庫にもなかった。


浮遊精霊(ふゆうせいれい)が成長してイグニスソードになったわけじゃない」

「じゃあコイツは何だ」


 異世界の鍛冶師にわからんのなら俺にわかるかいっ!

 しかし、俺がこの1年近くずっと魔法を込めて補修してと続けてきたのは確かだ。

 物神、いや九十九神と考えても期間が短すぎる。

 そこを精霊化と仮定した現象が短縮したのであれば・・・あり得るか?


「あんた精霊使いなんだろ?何か感じたりしないのか?

 試せることはないのか?」


 試せることねぇ・・・。

 浮遊精霊(ふゆうせいれい)共に命令するときの声とかか?


『お前は本当に精霊になったのか?

 もし反応が無ければ精霊化していないと判断してこれ以上はお前に構うのはやめる。

 感傷でこれ以上持ち歩くのは女々しいからな。さよならだ』


「・・・不思議な感じの声音だ」

「魔力を込めた言葉です。

 浮遊精霊(ふゆうせいれい)程度ならこれで言うことを聞くんですよ」


 どうだ?本当に精霊なのか?

 俺の魔法でってことは俺の魔力が精霊になったのか?

 なんか思考がごちゃついてきた。


「「・・・・・」」


 漏れる炎は強くなったり弱くなったりと強弱を繰り返す。

 生き物の行動と考えれば力んだり脱力したりを繰り返し、

 俺の言葉に応えようと頑張っている様に見えて可愛く思える。

 これが精霊では無かった場合はただの勘違い野郎だが。


『がんばれ、姿を表せ!』


 俺を勘違い野郎にしないでくれ!


「ん?」

「何をキョロキョロしているんだ?」

「遠くで声がした気がして・・・。

 奥さんが晩ご飯にご主人を呼びましたか?」

「いや、まだ夕方だし飯には早いぞ」


 気のせい?いや、お前か?

 ならもうちょい頑張ってくれ。


『・・・ぅぅ~』

「おぉ!俺にも聞こえた気がするぞ!」

「静かにしてください・・・」

「す、すまん・・・」


 頑張れ、頑張れ、頑張れ。

 俺の応援に反応するように漏れる炎がどんどんと強くなっていく。

 そしてついに・・・。


『・・・ぅぅぅぅううううお置いてかないでぇぇぇぇぇ!!!』

「ウッ!?」


 ポンッ!と音がしたと認識した瞬間に手の中にあった剣の感覚がなくなっている。

 代わりに騒ぎながら胸に飛び込んでくる小さな弾丸が鳩尾にぶつかり一瞬息が止まってしまった。

 胸元を見れば未だに騒ぎながらも顔を擦り付けながらジタバタとしている赤い精霊がそこには居たのだ。



 * * * * *

 突然だが俺の魔法耐性はかなり高い。

 それでもずっと炙られればそりゃ肌だって赤くもなるさ。


「本当に生きていたとはビックリだな、初めて見る現象だ。

 水無月(みなづき)殿はあまり驚いていないのだな」

「俺も驚いてはいますよ。

 自分の魔力でまさか精霊が産まれるとは思っていませんでしたからね」


 胸元はなおも熱い、いや暑い。

 胸に体全体で抱きついている赤く小さな精霊。

 原因はこいつだ。

 契約はしていないし子供だから精神面も幼くてコントロール出来ていないのが原因ではある。


「おい、もう置いていかないから少し離れろ」

『・・・置いていかない?』

「置いていかないから落ち着きなさい。

 とりあえず顔を見せてくれ」


 ようやっと離れた幼い精霊は浮遊して俺の顔の高さで止まった。

 うちの娘達と比べるとおどおどしているのが印象的な火精(かせい)

 だが男だ。

 髪は綺麗に赤から黄色のグラデーションで彩られて良く映えている。

 だが男だ。


「こいつが浮遊精霊(ふゆうせいれい)とやらかい?」

「いや、浮遊精霊(ふゆうせいれい)はもっと馬鹿で形も整っていないんです。

 この子は人型、体の大きさ、浮遊しているという3点で1度進化した位階でしょう」

『進化?位階?』


 可愛らしく首を傾げる火精(かせい)

 手を差し出せばゆっくりと掌に降り立ってきた。


「お前はいつから存在していた?」

『んと、わかんない・・・。

 はっきり分かるのは、自分は、貴方に置いて行かれたくないということ』


 姉妹と同じなら浮遊精霊(ふゆうせいれい)からスライムの核を用いて強制加階(かかい)させている。

 だがこの子は現時点で自然進化しているのだ。

 だったら覚醒してからかなり長い時間が経っているはず。

 俺も娘達もアルシェでさえ誰もこいつの覚醒に気付いていなかった。


「剣の姿に戻れるか?」

『んと、たぶん出来る。ちょっと待って』


 無愛想な言葉使いだけど一生懸命さは伝わってくる。

 掌で祈るように脱力して目を閉じ集中する火精(かせい)

 1秒、2秒、3秒と待てば、

 火精(かせい)が光に包まれその光は剣の姿へと形を変化させた。

 光が治まった頃には手の中に綺麗に修繕されたイグニスソードが納まっていた。


「修理せずとも勝手に直ってやがる・・・」

「意識はあるか?」

『ある』


 う~ん。

 ちょっとご意見が欲しいね。


「アニマ、どうしようか・・・」


 こういう時のアニえもん。

 ニルとほぼ一緒のタイミングで契約したのに、

 まだ加階(かかい)をしない頼りになるけどよくわからない精霊王様に助けを乞おう。


『どうしようとは、どういう意味ですぅ?』

「おぉ!また新しいのが体から生えてきた!?」

「生えたんじゃ無くて無精の鎧から分かれただけです。

 この子はやっぱり俺の魔力を栄養に成長したってことで間違いない?」

『それは疑いようがないですぅ。

 加護もなく栄養になる火属性魔力もない状況ですから。

 ただ、契約は待った方がいいですぅ』

「なんでだ?精霊との契約はした方がいいんじゃないのか?」

「いまは俺の資質が足りていなくて契約出来るなら大戦で役に立つ光精とするべきなんです。

 火精(かせい)は嬉しいですけど契約は出来ない」


 今回は流石に計画を立てた行動では無く完全なイレギュラーだ。

 普通に修理に来ただけだ。

 嬉しいイベントだけどちょっとタイミングがなぁ・・・。


『ですが、この火精(かせい)宗八(そうはち)を主と認めていて、

 ご飯になる魔力もこの子が剣になれるのであれば加護が無くても解決ですぅ』

「契約が無くても武器として扱えるし加護が無くても飯の心配も必要ないか」

『今後の事を考えれば契約は早いに越したことはないですけどねぇ』

「なんで?」

『聖剣エクスカリバーは精霊が剣になったですぅ。

 この火精(かせい)は剣が精霊になったですぅ。

 じゃあこの子が成長したら?』

「剣も姿を変える・・?」


 確かにそれはありえる話だ。

 エクスも元はナイフ程度の短剣で、

 そこから聖剣と呼ばれるまでに成長した前例があるじゃないか。

 そうなるとアニマが言うとおり早めに契約して核持ちにしたい。

 今の状態では普通の精霊の成長率とほとんど変わらないだろうから、

 次の加階(かかい)は数年後・・・。


「ど~しよ~もねぇ・・・。

 いつになったら余裕が産まれるんだ・・・」

『努力が足りてないとは言えません。

 ですが、手が足りていないというのが現実ですぅ。

 圧倒的に状況と成長度が合っていないですね』

「精神と時の部屋計画を急がないと」

『その計画を聞いたときは馬鹿な計画だと思ったものですが、

 改めて考えると時間が如実に足りていないのがわかって笑えないですぅ。

 ともかく、火精(かせい)は保護に留めるですよ宗八(そうはち)!』


 そう言葉を残してアニマは再び鎧の仕事に戻っていった。

 とりあえずアニマの言葉通りこの子は連れ帰るとして、

 契約がないとはいえ名前くらいはないと不便だな。


「精霊の姿に戻ってくれ」

『わかった』

「で、その子は連れて帰るんだろ?」

「えぇ、生んだ手前責任もありますからね。

 名前も付けるけど何か希望はあるか?」

(あるじ)に任せたい』


 掌でもじもじしとる。

 今は小さくて可愛いからいいけど大きくなってきたら男らしく教育しないとな。

 俺自身もとち狂って男の娘に育てないように気をつけないといけない。


「じゃあ、お前の名前はフラムキエ=メギドール。

 愛称はフラムだよ」

『ありがとう、(あるじ)

 自分も捨てられないように頑張る』

「捨てないから安心しなさい。

 ひとまずは俺の頭の上にでも乗っていてくれ」

『わかった』


 フワンと浮かび上がったフラムは指示通りに頭の上に着地した。

 フォレストトーレが終わったら土の国からの獣人領土に行くつもりだったけど、

 こりゃ先に火の国に突入してどこぞの火精(かせい)と出会った方が良いかな?

 そこで振り返ると俺の顔をじっと見つめるおっさんが一人。


「用事がなくなったんじゃないか?

 元はイグニスソードの修理に来たんだろ?」

「そうでした・・・。

 鍛冶師って修理と武器防具を作る以外に何をしてくれるんですか?」

「そりゃ強化とかだな」


 強化?アスペラルダやフォレストトーレで見た鍛冶屋はそんな仕事してなかったぞ?

 もしかしてアナザー・ワンに強化を頼むんじゃ無くて、

 リッカの父親に各地の鍛冶師を鍛えてもらった方がいいんじゃないか?


「防御力や攻撃力を上げてくれるんですか?」

「いやいや、ステータスの増減ってのを強化するんだよ。

 他の鍛冶師は出来ないのか?」

「出来ないですね。

 レアリティも普通までしか修理も出来ませんし、

 造るのもプチレアが限度で強化までの技術はありません」

「こっちにきて籠もってたから知らなかったぜ・・・。

 やたらリッカの同僚が修理に来るとは思っていたがそういうことだったのか」


 リッカの同僚ってアナザー・ワンだろ。

 そりゃレアリティも高いだろうよ。

 修理も手入れも大変だったろうさ。


「じゃあ強化試してみてもいいですか?」

「それはいいんだけどな、

 強化したいアイテムによって金額が上下するからな。

 元の増減値を増やすからマイナスも大きくなるし」

「そんなピーキーな装備はしていないので大丈夫です。

 お金もそんなに散在する暇もなかったので結構貯まっているのでそっちも問題ないかと」

「ふ~ん、わかった。

 何を鍛えたいんだい?」


 武器と防具は更新する可能性があるから除外。

 無駄金は使いたくは無い。

 装備で言えばアクセサリの[黒の指輪]かな。

 これは序盤で手にしてからずっと装備しっぱなしだ。

 他のアクセサリの効果があまり良くなかっただけなんだけどな。


「これをお願いします」

「ほうほう、黒の指輪ね・・・。こいつは高いぞ」

「何故ですか?」

「こいつはステータスの増減がALL+2だろ。

 効果はアクセサリの中では一級品だからな。

 これなら1回目の強化で10,000Gってとこだな」

「何回が限度なんですか?」

「基本的には3回が限度だ。掛かる金も効果に比例して増額する。

 3回目はお金だけでなくジェムも1つ使う」


 ジェムってステータスに振り分けるやつだろ。

 それを装備に使うって物によってはもったいない使い方だよな・・・。

 いや、でも時々モンスターを倒した際に手に入る事があるし、

 その分を使うと考えれば損した気持ちにはならないかな。

 最終的に増減がどうなるのかで3回目を決めよう。


「黒の指輪を3回強化した場合は増減はどう変化するんですか?」

「ALL+5になる。

 水無月(みなづき)殿は2つ装備しているから両方強化すれば、

 ALL+4からALL+10なるわけだな」

「じゃあお願いしたいんですけど、

 ジェムってどうやって渡せば良いんですか?」

「そりゃ、こうだろ」


 おっさんが自分のギルドカードを掌に向けて軽く振るうと、

 コロンと青く綺麗な菱形のクリスタルが転がり出てきた。

 フリスクみたいだ。

 さっそくやってみよう。

 コロン。

 もう1個必要だどん!コロン。


「よし、金も一緒にもらっとくか。

 一つを3回強化で10,000G、15,000G,30,000Gだから、

 合計は55,000Gになる」

「こちらをお納めください」

「まいどあり。

 といっても今からじゃあ引き渡しも明日の同じくらいの時間になる。

 以降に来ればいつでも引き渡せるからな」

「わかりました。

 時間を見つけて回収しにきます。

 ちなみにうちに出向とか出来ますか?」

「うちってのはアスペラルダかい?出向ってどゆことだ?」


 もちろんわざわざここまで出向かなくてもアスペラルダで利用したいから、

 出来るのであれば鍛冶師共を鍛えて欲しいわけだが。

 鍛冶師ってそんな簡単に技術の譲渡とか出来ないよな。

 ってか専門職だし技術屋だもんね。

 ちょっと来てもらっただけじゃ無理だよね!


「鍛冶屋の親方を集めて技術を教えてもらえればと思ったんですけど」

「ん~~、1日2日でどうにかなるわけじゃねぇからなぁ・・・」


 ですよねぇ~。


「やるなら3ヶ月くらい貰わないと出来ないな。

 それに住む場所と給料、各親方から研修費もそれなりにもらうぞ」

「何故3ヶ月なんですか?」

「夏は暑いからな・・・。

 少しでも涼しいところで過ごしたいんだ・・・」


 あ、夏の間だけってことか。

 避暑のついでに教えてくれるってことか。


「3ヶ月でどの程度まで扱えるようになりますかね?」

「センスの良い奴ならプチレアの修理くらい出来るようになるだろう。

 まず時間が掛かるのは基礎の部分だから、

 完全な素人が相手でなければコツくらいは掴めるはずだ」

「わかりました、王様に伺ってみます」

「良い答えを待ってるぞ!

 ついでに娘にも会えて妻も観光が出来て最高だからな!」


 愛妻家なんだな。

 奥さんもきんつばくれたし良い人だった。

 王様が許可をくれなくてもダンジョンに1週間も潜って稼ぎまくれば、

 彼と奥さんくらい招待する金も用意出来るだろう。

 これからもお世話になる気がするし出来る限り家族旅行に協力しようじゃないか!



 * * * * *

「すぐには無理だね」


 無理だった。


「これっすか?」

「それはフォレストトーレの遠征費とかで出費はあるけど、

 国庫はまだ余裕もあるし大丈夫なんだけどね。

 技術士はプライドも高いからきちんと話を通してから心構えの準備もしないといけないんだ。

 武器の生産ラインが上がるのは私としても喜ぶべき事柄なんだけれど、

 すぐには無理だ」


 通貨がない世界なのに片手で示すこれで理解してくれた。

 流石の察し力です王様!


「来るとしたら夏の間3ヶ月を希望していました」

「夏か・・・。夏なら十分に準備も出来るね。

 鍛冶師に話を通すのは我々の仕事だから、

 宗八(そうはち)はそのリッカのお父さんに前向きに動くと伝えてくれ」

「わかりました」

いつもお読みいただきありがとうございます

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