†第11章† -07話-[聖剣エクスとの対話]
「で?なんで、貴方方がいるんですか?」
サーニャに引かれたソファに座ると同時に、
目の前のエクス以外の呼んでもいない二人組に確認をする。
「私達は立ち会いと内容の説明役をするために同席させていただきます」
「勇者側が下に見られていないという証明役にもなっているんですよ、水無月さん」
「いやいやお前も呼んでねぇよ」
ガンッ!
二人組の正体は勇者PTの魔法使いの女性と弓使いの男であり、
確かフェリシアとヒューゴと言ったかな?
そして先の打撃音は俺とエクスの間を取る形でテーブルを囲うもう一人の幼児。
クレアに無礼な言葉を使った罰に椅子を調整し終わったサーニャに殴られた音だ。
ちなみにアクアは座る段階で腕の中に収まっていたため助かった。
「私は・・・緩衝材ですかね?」
「何故疑問系なんだよ。
これは精霊面談を目的にした話し合いなんだから緩衝なんぞいらん」
「一応第三者の立場で立ち会うだけで口は基本的に出しませんので」
二者面談をするのに第三者が何人居座るねん。
まぁ話に介入するつもりがないならもう勝手に始めちゃうもんね!
「アニマ、二人の無精から裏付けの話を聞いておいてくれ」
『今日はワタクシもそれなりに疲れていますが、
我が眷属との対話は大事ですからね。仕方が無い、です』
「そっちの無精共、王様がお呼びだぞ。
主人は待機しているだけだからお前らはこっちに来い」
壁際に突っ立っている二人組に向かって魔力を込めた声音で命令すると、
ポンッと体から抜け出してきた無精二人はアニマが待つ一画に駆けて行った。
その光景を見納めると、
改めて正面に座る勇者の契約精霊、聖剣の正体である光精エクスへ向き直る。
「お久しぶりです、エクス」
『日中にも会いましたが、
そちらに合わせてお久しぶりと言っておきましょうか、精霊使い』
「さっそくですが、メリオとの関係はどうなっているのでしょう?」
『どう、とは?』
「模擬戦で我々のように互いの力を合わせて戦っているようには見えなかったと言っているのです。
我々からすれば勇者は魔王を討伐する為に強くなっていると思っていたのに、
全然手応えを感じなかったのです」
確かに強かったには強かった。
剣速は早いし、魔力を乗せて加速も出来ていたし、
魔法だって大したものだと関心出来るレベルであった。
しかし、本来想定していたその戦力にエクスの力が乗っていない事は戦闘を始めた時点から俺にはわかっていた。
『・・・』
「力を温存しているのかと思っていましたが、
バインドから助けた時以外は剣の姿のまま勇者に力を貸していませんでしたよね?」
それこそニュートラル形態を取った時。
互いに視線を合わせていないというか、
義理で支え合っているかのような気まずさすら感じたほどだった。
「勇者の仲間からはメリオが劣等感を持っていると伺いました。
もう一度聞きます。メリオとの関係はどうなっているのですか?」
俺のテンションは言葉を重ねる毎に上がっていき、
徐々に前のめりになりながらいつの間にかテーブルを指でタンタンッと叩き始めるほどだ。
それも単に魔神族を勇者になすりつける計画が頓挫しかねないからだ。
『端的にお伝えしますが、
現在メリオの心は闇に囚われています。
私とのシンクロも出来ないほどにそれは進行しています』
「・・・ふ~」
背もたれへと前のめりとなった体を沈ませながら長い息を吐く。
シンクロも出来ないほどに信頼度が離れているだぁ~!?
じゃあ模擬戦の時は魔法の補助程度しか出来ず、
念話も出来ていなかった可能性が高い。
だから[天狗]の時点で本当は終わっていたのに、
助ける為にエクスはニュートラル形態を取らざるを得なかったってのかぁ~!?
『んにゅ、んにゅ、ます、たー、アクア、禿げちゃう~』
「あぁ、ごめんなアクア。これでいいか?」
『あい』
俺は湧き上がるこのイライラからなるストレスの癒やしを求めて、
無意識に膝上に座るアクアを撫で回していたらしい。
アクアからのクレームで自分の過ちに気が付いた俺は、
改めていつもの可愛がりへと切り替えるとアクアの険しい顔も和らいでいく。
「単純な戦力であれならアナザー・ワンに依頼をした強化は成功している。
なら、あとは精霊使いとして成長すればその戦力幅はかなり広がる。
ちなみに俺が実例だ」
『それは戦った私がよく知っています。
精霊使いとは噂で聞いてはいましたが、これほどの物になるのかと・・・。
それも契約精霊はそのように幼い』
『あのねぇ~!姉妹の長女として言っちゃうけどね~!
小さくても努力を続けたからなんだからね~!』
「はいはい、どぅどぅ。
俺だけで無く精霊達が幼い故に伸びしろも大きかったというのはあると思います。
逆に言えばエクス自身は大部分の成長は終えているのですから、
契約者と力を合わせれば俺たちよりも当然強くなる」
エクスは光精の中でも上位精霊。
位階が上に成ればなるほど扱える制御力も魔法力も上がるのだから、
こいつクラスに成ればアクア四人分くらいの潜在力はあると思うんだがなぁ・・・。
いや、エクスカリバーの姿を取っていたのであれば自身で戦う術は思いの外少ないのかも?
「メリオとエクスが俺たち並みに一体で戦う術を使えれば、
魔族や魔王なんぞ敵じゃ無いと想定している。
その力を先に魔神族にぶつけて帰還後の対処を楽にしようと計画していたのに、
お前らが不甲斐ない所為で台無しだよ!」
『その話は私たちは了承をしていなければ、
まして聞いたこともないお話ですね』
「言ってないからな」
「水無月さん、口調が・・・」
おっと、いやもういいや面倒くさい。
そもそもエクスは勇者の契約精霊ではあっても地位的に偉いわけじゃ無い。
この場も密会に近い形で対話をしているんだから、
喋りたいように喋ったるわい!
「本来の勇者召喚は魔王を倒すまでが契約だが、
それとは別に破滅が存在するのであればいずれ異世界人のみで対応する必要が出てくる。
魔王の強さは知らない。だが魔神族の強さは知っている。
おそらく勇者の召喚は本来破滅を対象に行わなければ成らなかったのに、
呪いで状況の認識がズラされたんだ・・・。
極力最強になり得る戦力を利用しない手はないだろう?」
「「・・・っ!?」」
「あぁ、あんた達は勘違いしないでいただきたい。
勇者を魔神族相手にぶつける計画は俺の独断に近く、
うちの王族はアルシェ以外その事をしっかりと把握していない。
あくまで共闘出来ればいいという程度だ」
『何故独断で動くのですか?』
「世界を守る為だ。
使える物はなんでも使って極力被害を抑える為に人を動かす。
自分達で出来ることはやるが、
出来ないことは出来る奴に押し付けてでもやらせる。それが俺だ。
独立部隊でもある護衛隊を利用して秘密裏に破滅の調査と対処、
加えて戦力を揃えるのが仕事なんだよ」
計画では倒せはしなくとも足止めまでが俺の役割で、
倒すまでが勇者の役目と定めて勇者強化に口出しまでしたってのに、
まさか抜いているとは思わないだろ・・・。
『メリオと私は精霊使いの駒では無いです』
「当たり前。駒にすらなってねぇじゃねぇか!
こっちは魔法剣士を増やす為の計画も進めていかないと瘴気の対処も出来ん。
この世界で精霊使いがどれだけ今後必要になるかもお前らわかってねぇんだろ?マジでいい加減にしろよおい」
「・・・・そうですね。
破滅や精霊使いについての資料を提出しているのはアスペラルダのみで、
他国でも同じように諜報役を任じているのに全く進展はありませんし、
破滅関連で精霊使いの情報は今のところ出てきていない状況です」
『この世界を守る事に私を使うのはかまいません。
ですが、今までは勝手に使われるだけであったのに急に契約して共にと言われましても、
私にとっては新しいことで何をどうすればいいのか・・・。
それにメリオは挫折してしまいました。
私の呼び掛けも響かなかった・・・』
知らんね。
「勇者が悩んだり苦悩したりするのは成長するのに不可欠だからだ。
レベルだけが成長して精神面がまだまだ勇者として未熟だから、
心が折れる前に本来は仲間や!「「ビクッ!?」」周囲や!「「「ビクッ!?」」」パートナーが!『ビクッ!?』支えてやらなきゃならないんだよ!
折れた後に何を言われようが強者の戯言程度にしか受けとらないのは当然だろ」
『ではどうすれば良いというのですか?
精霊使いの言うとおりならば既に手遅れと言うこと』
「折れた後は自殺するのをとにかく防いで、
自力で乗り越えるのを待つしか無い。
周囲が手を出したところで碌な結末にはならん」
そもそも俺は折れた事が無い。
ストレスは感じている事は確実だがそれも超が付く鈍感なので、
ふと気が付いた時に溜まったストレスで胃に穴が空くような奴だ。
壁にぶつかったとしてもとりあえず気にしない。
実際気にしなければいつの間にやら超えていたりするものが壁だからな。
だから一般的っぽい事しか対処方法も思い浮かばない。
「100歩譲って言い訳を肯定するなら、
エクスは目が覚めたばかりだから現代に慣れる為にコミュニケーションが取りづらく、
他国や教国は立ち寄ったり泊まったりする程度の協力はしても多干渉は立場もあって難しい。
じゃあ、勇者が旅立ってから為人を知ったり叱咤激励したりと支える役目は誰が担うべきかは自ずと絞られるよな?」
「・・・・」
「「・・・・」」
『・・・・』
「俺達がアイツを駄目にしたって言いてぇのか?」
「それはいくら何でも責任転嫁ではありませんかっ!?」
責任転嫁ならまだ情状酌量の余地がある。
だが、アスペラルダを出てからというもの、
大した活躍も見せずずっとダンジョンでレベルを上げては次の街へと動き続け、
あげく辿り着いた教国であの様じゃあ教国サイドがお前らを見つめる意味もわかるだろうが。
「あれは元から駄目だった可能性もあるが、
決定打はほぼ確実に仲間である貴方たち四人にあると思いますよ?
どこでどのような気持ちを持って仲間に加わったのかは存じませんけれど、
勇者ももちろん仲間にも覚悟が足りていない。
まだ勇者の現状に後悔が出来るマクラインとミリエステの方がマシか?」
「じゃあ旅の課程なんか何も知らないって事じゃ無いの?
それで糾弾するなら間違っているわよ」
「勇者がアレなら仲間はさらに弱いって事でしょう?
その程度では足手まといにしかならないんですよ。
仮にも世界を救うために召喚された勇者ご一行の仲間が大したことも無いって事実が危機感を持てていない理由になる」
勇者の仲間といえば、
一騎当千に近い実力を持ち多彩な戦闘をこなす必要があるとイメージしている。
それは魔神族のようなマルチな敵にもそれぞれがフォローしあってでも対処出来たり、
時には勇者を先に行かせるために敵幹部と一騎打ちしたりするもんだろう?
「ひと月前のフォレストトーレでの戦闘を見た限りじゃ、
異能は何も持っていないのでしょう?
全員人間でしょう?上位精霊と契約もしていないのでしょう?」
畳みかけるように特別感のないお仲間様に言葉を叩き付けていく。
アナザー・ワンよりも弱く、
アルシェより魔法を扱えず、
獣人のような気を扱えるわけでも無く、
武器がアーティファクトであるわけもない。
「勇者の仲間にただの冒険者は必要ないんです。
世界を救うというのは簡単に成せる事では無い。
勇者を支える事も出来ず金魚の糞のように付きまとって一年間を無駄にした貴方方は、
俺から見れば足を引っ張るために勇者に近づいた破滅側の刺客と一緒ですよ?」
「なっ!?お、おい!!それはいくらなんでも暴論が過ぎるぞ!!!
たかが一国の姫を護衛する部隊の隊長が口にするにゃ度が過ぎる!」
「は?何を言ってるんですか?
これは光精エクスと精霊使いの会合であり、
貴方方はただの立ち会い人で不必要な事はこの場から持ち出すことは出来ないんです。
幼い無精すら扱えない人間が場違いな言葉を吐かないでください」
「・・・・」
そう。この場では横に聖女クレアが座っては居るものの、
実際の頭は俺とエクスの二人。
分を弁えている騎士マクラインと魔法使いミリエステは現在不在だが、
現在進行形で俺と話をする為に勇者の元を離れたエクスのフォローをしている事だろう。
ここまでこの二人に厳しく言ったのも、
この場を離れて勇者と合流したときに言葉の取捨選択や言わない方がいい話題を選択出来るかを見極める為でもある。
さて、そろそろ本題に戻ろうか。
「シンクロは出来るようになっていたはずだが、
あれからどのくらいの頻度でやっていた?」
『初めは覚えたてという事もあり一日に何度かやる機会がありました。
その後集中が切れたりすれば解ける事はありましたが、
徐々にシンクロの継続時間も短くなるにつれメリオの積極性は失われ、
最近では三日に一度あるかないかという程度に収まっています』
「シンクロタイムのリミットは?」
『調べては居ません。長くて10分程度は持ちました』
10分でどうやって魔神族と戦うんだよ・・・。
数時間は継続して戦わないと自分の命はおろか契約精霊も、
果ては守るべき対象も死ぬことになりかねないんだぞ?
どこで俺は間違いを犯した?
あまり干渉をするべきでは無いという判断で、
しつこく訓練内容については直接触れていない代わりにアナザー・ワンにフィジカルは任せた。
魔法剣関連は魔力砲まで出来ていたし本体はエクスなのだから、
細かな訓練をしても付け焼き刃と考えていたんだっけか?
それにしても10分・・・・。
今からみっちりするにしてもシンクロ不全を起こしている現状じゃ、
ちょいと次の大戦に投入はしづらいかぁ~・・・。
「最悪勇者を切って俺と契約してもらう事にするか・・・?」
「それは・・・っ!そもそも可能なのですか!?」
「クレアの懸念は色々あるだろうが、
使えない勇者に最上級光精を預ける意味が無い。
今度の戦場での最大戦力になるエクスを腐らせるには惜しすぎる。
契約に関しては解除方法はもちろん知っているし、
アクア達の契約を解除すれば受け入れることは出来るだろう」
「それではアクアちゃん達の立場はどうなるのですかっ!?」
「サブマスターに権利が移る。
アクアはアルシェに、クーはメリーに、ニルはマリエルに。
アニマとノイは無契約精霊になるけどしっかりしてるししばらくは大丈夫だろうさ」
元々異世界からの帰還を考えてアルシェ達サブマスターは存在している。
一時的に前倒しする程度問題にもならない。
『それは確かに可能でしょうね。
でも、私は精霊使いの契約精霊になるのはお断りです』
「何故?」
『一時とはいえマスターを奪う行為ですからね。
その娘達全員から反感を買いたくないというのが素直な気持ちでしょうか』
優しい口調ながらはっきりと断るエクスの視線は俺を見ておらず、
代わりに膝に抱えているアクアに注がれていた。
その当のアクアの顔は不満そうに頬を膨らませて若干俯き気味だ。
「こいつらの事は気にしなくていい」
『理由はもうひとつあります。
私はメリオと本契約を交わしていますから、
彼が死なない限りは裏切り行為をするわけには行きません。
気持ちとしては水精の娘は理解出来るでしょう?』
『わかるよ~。でも~、ますたーの言う事は正しいと思うよ~』
『確かにフォレストトーレのあの状況から2ヶ月後の大戦。
瘴気は濃くなっているでしょうし浄化も広範囲で行う必要があり大変でしょう。
それでも離れるわけには行きません。
それが精霊にとっての契約の重みなのですから』
アクアは元が浮遊精霊だからお気に召さなくとも、
俺が契約解除すると言えば渋々従うだろう。
しかし、純粋に成長した精霊から捉える契約という行為は、
死が二人を分かつまで共に居るという誓約でもあるわけだ。
エクスの瞳から伝わる真摯な意思を正面から受け、
俺の中にあったもどかしさが少しだけ解かされたような気がする。
エクスに中てられて落ち着きを少し取り戻した後に、
自身でも深呼吸をはさんでさらに自分のテンションを下げきってしまう。
「ここまで言っておいて何ですが」
視線はクレア達、勇者の仲間、エクスと見回した後に口が動き出す。
「魔族と人間の戦争は勇者が召喚される前から行われていて、
今も大小のいざこざで人死にも出ています。
そして破滅にしても世界各地でいろんな動きをみせており、
目的を達成するための行動も起こしています」
現状大きくこの異世界を見れば、
平和の邪魔になっている事柄は魔王と破滅の2つである。
「勇者が召喚されて1年が経ちました。
他の勇者を知りませんから勝手な想像ですけど、
メリオは十分な早さで成長をし続けていると思っています」
これは勇者の仲間に向けて言った。
さっきまで喧嘩腰でふがいなさやメリオが弱いと散々口汚く罵倒していたのに、
急に落ち着きを取り戻して勇者を褒め始めた俺を見つめる二人の顔は大変複雑だ。
「だ、だったら、なんでさっきは・・・」
「時が刻まれ続けているからですよ。
確かに早いと思っては居ます、それは嘘偽りのない俺の印象です。
しかし世界は長く待てない。
前線の火の国は勇者の到来を、魔王討伐を待ちわびているし、
破滅は神出鬼没で何がどう意図した行動なのかはっきりと見えてこない」
「それは理解しているわ。
でも、力不足を感じたからこそ教国に留まってメリオは鍛えていたのよ?」
魔法使いの言葉に頷く。
こちらとて前回のフォレストトーレで死にかけたからこそ旅を止めて力を蓄えたのだ。
「俺達も力不足は感じたからこそアスペラルダへ戻り、
このひと月で手札や魔法の扱い、戦術を増やしてここに居る・・・」
これは言ってしまっていいか・・・?
同じ異世界人という部分を隠せば他は伝えても良いか。
まぁ制限はしとこう。
「今から言うことは貴方達に衝撃を与えるかも知れませんが、
メリオには絶対に伝えないように他言無用でお願いします。
相談もなしです、いいですか?」
「「・・・(コクン)」」
視線を合わせて行われた相談はすぐに回答が出たらしい。
伝えないようにとは言ったけれど、
伝えられてもメリオの精神を追い込むだけだし、
実際の狙いはこいつらの意識改革だからな・・・。
「俺はメリオが召喚されて約1ヶ月後から剣を振り始めました。
それまではナイフを持つ事はあっても剣を握ったことはない男でした。
勇者は魔王を倒す為に召喚されたのですから、
強さや成長についても特別なのではと考えておりましたが、
勇者魔法以外は普通で俺にも負ける・・・・。
召喚した国の人間としてメリオの弱さに頭を抱える私の気持ちがわかりますか?」
「「・・・・」」
「そりゃアクア達契約精霊あっての強さもあります。
制御力に関しては精霊使いになってから使えるようになったものですし、
加えて新しい魔法の開発にはこいつらは必要不可欠。
今ではメリオも精霊使いになったわけだしパートナーがエクスカリバーならひと月でもかなり化けると期待するでしょう?」
ため息が止まらない。
愚痴も止まらない。
俺は幻想に囚われていて期待をし過ぎていたんだ。
勝手にな!妄想していた!勝手にな!
今のこれも八つ当たりだって分かっている。
小説やゲームとは違う。これがリアルなんだって思い出した。
「メリオを基準に考えてれば仲間である貴方達がうちよりも弱いのが分かる。
勇者と共に世界を救おうと集まったのであれば、
最低レベルでもアナザー・ワンは超えてもらいたい。
今の時点で勝てるアナザー・ワンは居るんですか?」
「・・・無理だ。
俺は弓使いだから全て切り払われていずれ接近を許して終わりだ」
「私も魔法を撃っても回避されますから、
ダメージを負わせる事も出来ないと思うわ」
「弓使いだから、魔法使いだからと足を止めているのは貴方達だ。
その壁を越えようとあがくことが出来ないのであれば、
即刻勇者のPTから外れた方が良いです。
メリオの前で犬死にをすればまた心が折れる。
そうなれば間接的に人類全体の足を引っ張ることに繋がります」
「あ、アルカンシェ姫はどうなっ!?」
苦し紛れに言い訳を始める魔法使いに、
つい殺気立った目を向けてしまった。
アクアもプライドを傷つけられたらしく怒っているのがわかる。
「貴女とアルシェを比べるのが烏滸がましい。
熟練度、精霊使いの質、近接戦闘技術。
どれを取っても勝てる要素があるのですか?
魔神族相手にパワー負けをしても魔法と技術でカバー出来るだけのあがきはしているんですよ」
『アルがどれくらい・・ますたーを追って、
頑張って頑張って頑張ったのか知らないのに馬鹿にしないで~!』
「「・・・・」」
幼い見た目のアクアの言葉が一番ダメージが通るみたいだ。
俺の言葉の後は何か言おうと開きかけた口は、
先にアクア精一杯の怒声にパクパクしたあとはゆっくりと閉じきった。
残るのは悔しそうな顔だけ。
『今回は私と精霊使いの会合なのでしょう?
もうその辺にしてあげてください。
十分過ぎる程度には彼らの心には届いています』
「そうですね。
私たち教国も水無月さんやアルシェの事を理解していませんでした。
広い視野で今後のことも考えられる人に取って、
世界はそこまで切迫しているという事を私たちは分かっていませんでしたから・・・」
「クレア様・・・」
「これは教国の罪です。
メリオ様の召喚が成功した時点で事の推移を勝手に解決したものと考えてしまっていましたから」
おや?珍しく怒りに支配されていて周りが見えていない間に、
いつの間にやら教国の三人がしょんぼりして反省を口にしている。
エクスも話し合いを始めた時と違って、
少しスッキリした顔をしているけどちゃんと意図は伝わってるのか?
「ふぅ~、そろそろ締めくくりますに入ります」
なんか結局エクスに何か言うよりも、
仲間の方に説教をしただけで終わったような気がする。
「まず、勇者のみを育てるかPT全体を底上げするかの方針を決めましょう。
勇者は人類の救世主として召喚されていますので、
一緒に戦う人だけが頑張るのではなく、
人類が一丸となって彼らを支援する戦いをする必要があります」
「話し合いはちゃんとする」
「私たちが残るかも含めて・・・ね」
一つ、異世界人類皆仲間。でも戦うのは勇者達だから支えろ!
「次に、魔神族との戦闘は瘴気も含まれます。
無尽蔵の敵と戦う為に各国がもっと戦力を引き上げる必要があります。
クレチアさん、もしくは二位の方に各国の将軍職の方々に鍛え方を教えて欲しい」
「要相談事項ですね。
流石に教皇のアナザー・ワンを離すというのは難しいです」
「訓練方法や教練方法を伝えられれば正直誰でも良い。
だが、教えられる側よりも教える側が強くないと伝えなきゃならん部分が伝わらない可能性がある」
「それには納得致します」
「検討材料にはなりますね」
一つ、魔王を倒しても破滅戦が続くわけだし負けない世界を作る。
「最後に使える物はなんでも使う。
王族の権力も勇者も聖女も精霊も妖精も龍も何もかも全て!
魔法生物は魔神族に対しては無力に等しいけど、
人間と共に戦えば逆に戦力に加えることが出来る。
人道から外れない限りの努力や工夫は絶対に必要だ」
『精霊使いは他にもいると聞いています。
各国で確保出来るようであれば戦力に組み込めるように口説き落とした方がいいでしょうね』
『情報全く集まらないんだよね~』
「だからソレイユ様には会う事になるからな。
ハミングを使おうと思ってたけど、
契約で親がクレアに変わってるのを忘れていたから、
誰か契約していない精霊を探さないといけないけど」
「全面的に賛同は出来ませんが、
勝手に会いに行く部分は私は関知しません」
「それでいいさ」
とりあえず、勇者サイドの状況確認と説教。
この目的は達成出来たと考えて良さそうだ。
なんか意図しない教国もへこんでいたけど、
悪いことではないしソレイユ様への接触もクレアから許可ももらった。
人類というか冒険者はともかく兵士は強くしておかないと、
大規模戦闘になった場合に将軍クラスしかまともに戦えないなんて冗談では済まない。
教国の負担が大きくなるけど、
火の国以外は魔族領との接敵がないので全体的な戦力が低い。
いつどこで魔神族が活動を始めるか、
いつどんな方法で行動を起こすのか分からないなら、
せめて簡単には負けず交代で抗えるぐらいの戦力に整えておきたかった。
「さて、ここまでは俺からの意見だったわけだけど、
勇者サイドや教国サイドから何か俺達にあれば聞かせてください。
あと実際はひと月も無いですが出来る限りの協力をしますので」
全てを吐き出して満足した俺は、
リラックスした状態でソファに沈み込んだまま各員の顔を見ながら言った。
アクアもグデ~と俺に体を投げ出している。
「じゃあ俺から。
滞在期間中にそっちの仲間と模擬戦を組んで欲しい。
お前の話は理解したけど納得いかない部分もあるから、
出来ればそこを消化するために戦わせて欲しい」
「分かりました、模擬戦のは教国に手配させます」
「水無月様が勝手に手配を口にしないでください。
とはいえ・・・」
「はい、教国で手配しますのでご安心を」
「というわけで、希望の相手はこっちで指示を出します。
メインPTはアルシェとマリエルとメリー、
クランPTでゼノウ達とセーバー達もいますから選択の幅は広いです」
「わかった、明日にでも伝える」
弓使いの男のお願いは模擬戦か。
近接戦闘だとスキル次第だけど分は悪いし、
たぶん同じ弓使いの魔法弓のトワインか強弓のモエアのどちらかかな?
「私は魔法について知らない部分や差を認識しておきたいわね。
ミリエステと一緒にそちらの魔法関係者と話をさせてほしいです」
「そっちも問題ありません。
精霊も混ぜて魔法に関する知識の欠損は早めに埋めた方が良いです。
明日も書庫に引きこもっていると思いますので、
好きな時に来ると良いですよ」
フランザとアネスも明日は書庫組に突っ込んでおこう。
フランザはともかくアネスも一緒に聞いておいた方が一石二鳥で楽だし。
アネス経由でセーバー達にも伝わるだろう。
「エクスは?」
『いまのところはないです。
まずはメリオとの対話をしなければ私は前に進むことが出来ないので、
その後にメリオ共々お世話になると思います』
「わかりました。」
クレア達は何かあるか?」
「え~と、魔法を作る部分に関してはアルシェとエクス様と相談したいです。
あとは、魔法の訓練方法も教えてください」
「じゃあ、朝六時に部屋に来い」
「「却下します」」
まぁそうだよね。
朝早いしね。
「そっちではありません」
「水無月様が来てください」
「そのくらいなら問題ないけど、案内に来るんだよな?」
「滞在中はサーニャをお世話役に据えているので迎えには行かせます」
「アナザー・ワンとしては何かあるか?」
「クレチアさんも含めて本日の話はかみ砕いて伝えます」
「話がまとまりましたら、
明日中に報告をさせていただきます」
彼女たちはある意味立場がはっきりしているし、
役割もきちんとこなしていると言っても良い。
だから別に要望なんて無いとは思うんだけど、
メリー達がお世話になっているし、
いざとなれば期待が出来る戦力なだけに出来る限り恩は売っておきたい。
「了解。じゃあ今日はこれで終わりだね。
エクス、今日は有意義な会談だったよ」
『精霊使い・・・その嫌味は癖なのですか?
有意義な部分は認めますが、
全体をみれば友好的な話し合いではなかったでしょうに』
「時間もないのに遊んでいる勇者が悪い。
さっさとメリオを立て直して精霊使いとして育ててくれ。
最低でもフォレストトーレには間に合わせてくれ」
『無理を言わないでください・・・。
人はそう簡単にはスランプを超えられない物なんですから、
仲間と共にどうにか頑張りますとしか言えませんよ』
「俺も頑張れと間に合わせてくれとしか言えん」
長い会談はこれで終わり、あとは晩ご飯を食べて滞在最終日を残すだけだ。
終わってみれば会談相手に呼び出したエクスだけではなく、
立ち会いをした奴らの全員を殴っただけのような・・・。
いやいや、こっちは正論だしあっちも納得したんだから、
ある意味これもWinWinというやつだろう。
アルシェにもどんな内容だったか説明しないとなぁ。
嫌だなぁ。
お兄さん1人の独断って形を取ってまで何をしてるんですかっ!?って怒られるのが目に見えているからな。
「アクアも怒られてくれな」
『アクア、こういう時アルの側に付くって決めてるの~』
「マジかよ・・・」
晩飯の味がわからなくなるのは俺だけなのか・・・。
よし!とりあえず、抱きしめて混乱しているうちに早口で報告してしまおう・・・。
いつもお読みいただきありがとうございます