†第11章† -04話-[百人組手上級者編]
「枢機卿戦から全力でやる?」
「はい。クレチアの指示ではありますが、
アルカンシェ姫殿下にも許可をいただいております」
大司祭戦が終わり、
だいたい170人くらいを相手にした頃合いに、
クルルクス姉妹が組み手会場に降りてきて全力戦闘を告げてきた。
一応視線だけ送りどうなのか?と確認を込めてアルシェを見ると、
にこっと笑って頷きが一つ帰ってきたことから本当なのだろう。
あちらには精霊達が待機しているし、
アルシェ自身も魔力濃度の高まりには気づいているのだろう。
ここまでの組み手はまともな1撃を食らえば退場というルールだったが、
ここからは戦闘力がまた違う国の上位者達との一騎打ち。
「マリエルから借りたガントレットじゃ厳しいか・・・」
組み手に手を抜いて剣を使っていなかったわけでは無く、
俺もマリエルとの訓練を重ねることで素手での戦闘は同列に対応できるのだ。
その上で素手用の技も創ったし、
片手剣との兼ね合いも今後の戦闘方法として検討しているので、
試験も加味して今回の組み手を利用していただけ・・・。
本来の肉体や技術だけでは大司祭3人なんて相手は出来なかったけど、
俺の目覚めたスキル[精霊の呼吸]。
これのおかげで筋肉の繊維を補強することが出来、
体に取り込む量によって2周り以上レベルの高い相手でもどうにか上手いこと捌けたし攻撃を当てることも出来た。
まぁ、散布に時間が掛かり吸い込むにも時間が掛かるから、
戦闘開始直後にその強さを手にすることが出来ないという欠点もあるにはある。
「こっちも手加減は出来ないぞ?」
「承知しております。
こちらも全力の指示は受けておりますので今までお見せしていない技を受けてもらうことになるかと・・・」
アナザー・ワンの技・・・ねぇ。
極大剣を与えられメイドと同じ業務に枢機卿に並ぶ戦闘力。
そこからさらに技とまで来れば、
通常の攻撃力の高さからもまともに受ければやばいのは予想できる。
お互いが負けるのはお前だと笑顔で伝え、
揃って組み手会場へと戻る。
「水無月様、ここからは手に馴染んだ戦闘をされた方がいいのでは?」
「いまの状態は[グラキエスブランド]以外との相性が良くないし、
壊れかけていて戦闘には使えない」
「ですが・・・」
なおも言い募る妹の方。
俺だって使いたいけど風雷属性の剣[アウルカリバーン]は、
水氷属性の高濃度魔力に覆われたこの場だと濃度差で威力が激減してしまうのだ。
俺にはそこまで教えてやる気は無い。
そこで組み手会場に詰めていた人間が、
枢機卿戦に向けて邪魔にならないよう周囲に設けられた席に座り始め、
会場内は結構空いていた。
「少し見ていてください」
「「?」」
今、俺の周り・・・いや会場内は、
俺の魔力で造られた魔石から高濃度魔力を散布して充満している。
つまり、俺の制御力を持って剣の形を意識すれば・・・
「嘘・・・」
剣を握るように軽く握った拳。
そこに魔力が集まり蒼い剣の形を成す。
「非常識です・・・」
2人の失礼な感想は置いておいて、
これも俺が頑張って訓練を重ねてきた成果の一つだ。
しかし、これ・・・一合したら霧散してしまう欠点がある。
所詮は魔力の集まりということだな。
逆に言えば剣を避けて肉体に当てればダメージに繋がる。
そして俺の戦闘の真骨頂でもある魔法剣だが・・・、
こっちは振るえば制御力を割かなくとも周りの魔力が勝手に纏わり付いて一閃が発動する。
無造作に振るった魔力剣から発動された一閃は、
誰もいない壁へと向かって行きぶつかった壁は広範囲に渡って凍りづけになった様にまたクルルクス姉妹は引いている。
「やっぱり威力だけ見れば魔石を割った時の方が良いか」
魔神族戦を想定してまだまだ龍の魔石の欠片はいくらでも在庫はある。
使える剣がないから武器をどうにか見繕うか色々と対策を考えないといけなんだけどな。
「とりあえず、今日は徒手空拳をメインに時々これも使いますので」
「わかりました。
あと、今更ですが敬語はもう結構ですよ」
「昨日の時点で地が見えておりましたし、
どうせ姫殿下にも同じ態度なのでしょう?」
「逆に敬語で同じ事を言われた方がムカつきますし」
「姉に同意です」
なんか会うたびに無口キャラではなくなっていくなぁ、この姉妹は。
クレアの手前あまり喋らないようにとクレチアさんに指導を受けていたのかもしれない。
離れた際が一番よく喋ってるし。
「わかった。今日俺の相手もするんだろう?よろしく頼むよ」
クレアの護りを勤める2人組のアナザー・ワンの実力は、
一応フォレストトーレで直に目にしてはいるものの、
あれからこちらも実力が上がっているしどこまで近づけたのか試す良い機会だ。がんばっていこう!
* * * * *
「ガハハハ!そんな細い体でアスペラルダの姫様の護衛隊長を勤めるとはすごいのだな!
いや、すごい事は以前のクレチア殿との試合を見たから知っているのだがなっ!ガハハハ」
枢機卿初戦の相手は、
このガハハで始まりガハハで終わる筋肉ダルマのギュラムシオ=オクター氏。
俺の3倍くらいの筋肉を持ち、
200cmを超える長身の超人の騎士である。
「よろしくおねがいします」
「うむ!お互い全力を出し切ろうではないかっ!ガハハハ!」
よく笑う人だ。テンションも高い。俺とは縁の無さそうな人種だな。
お互い位置に着くとガハハ氏は極大剣ではなく普通の大剣をインベントリから出して構える。
あの巨体なら十分に扱えるだろうに・・・。
極大剣って調べたことは無いけどかなりレアな剣なのかな?
「準備はよろしいですか?」
「えっと、ルールだけ確認なんだけど・・・。
これが100人組み手の延長なら1本まともなのが入れば終わり?」
「その認識で大丈夫です。
枢機卿も私たちも逆に水無月様に1本入れる為に全力を出しますので、
どちらかに1本で終了となります」
「了解。準備は完了してるよ」
審判をそのままやるのかクルルクス姉妹は俺とガハハ氏の両者が観られる位置に移動し、
動きと声を揃えて手を上げる。
「「これより組み手の再開を致します」」
ガハハ氏の瞳が先ほどまでの人懐こい物ではなくなり、
強者の瞳で俺の全身を見つめている。
目で追える速度で動く敵に対しては有効だろうし、
対人戦にしても追えない速度で走るやつはまずいない。
「「始めっ!!」」
カアァァァァァ・・・ンンンン。
号令とほぼ同タイムで発せられた甲高い音の発生源は、
ガハハ氏の胸元で交差している大剣と手甲の間であった。
「ガハハハ!何をするかは予想出来なかったが、
お主の体全体に力が漲っていたからなぁ!」
「流石は枢機卿ですね。お見それしました」
開始の合図に合わせて魔力縮地で急接近した俺の拳は、
ガハハ氏の大剣で上手く受け止められただけでなく威力も完全に無効化されていた。
「ぐ、うおおおおおおおおっ!」
重力を上げて押し負けないようにと自重を増やしていたのに、
なおその状態で俺を大剣で吹き飛ばすのは流石の一言に尽きる。
だが飛ばされながらも重力を戻して、
指鉄砲の形にした指先からは、
魔力を弾丸として数発撃ち込むがこれもいくつかは回避されまたいくつかは大剣で防がれる。
その隙に魔力縮地で再度姿を消すと、
今度は上空へと位置取る。
「今度は真上か!すばしこい奴め!」
これも流石だ・・・。
動体視力で認識出来る速度ではない魔力縮地の動きに、
気配の索敵のみできちんと俺の位置を把握している。
真下では先の魔力弾を大剣で防いだが為に、
大剣の片面に大きめの氷がくっついてバランスの均衡を崩している。
つまり、振り始めのタイミングでわざと剣自体を軽くすれば・・・。
「なっ!?これはっ!?」
雷を腕に纏った俺が落ちてくる前に剣は空振り、
さらに振り切った直後に重力を増やしてやれば、
如何な経験豊富な枢機卿といえど対応が出来ないだろう。
「《雷神衝!》」
「あ・・・ばば、あああ・・・あ・・っ!!」
掌底を当てたのは肩口。
そこから体全体に広がる雷は初級魔法の[レイボルト]はおろか、
中級魔法の[プラズマレイジス]にも劣らない威力を持つ。
制御力だけでここまで高い威力に仕上がった事に俺の成長を感じるなぁ・・・。
これで終わりかと思って一瞬意識をクルルクス姉妹へと移すが、
残念ながら大司祭戦ならこれでOKであった1撃判定も、
枢機卿戦になると威力不足となるらしい。
「《来よ!アウルカリバーン!》」
雷神衝のHITでガハハ氏の動きは2秒くらいは止まるはず。
その隙に風雷属性の武器を[宝物庫]から召喚し、
ガントレットを装備したまま握り込み、
判定勝ち出来る威力であり必中する魔法剣の準備をする。
「《翠雷を砕け!雷刃剣戟・・・》」
制御力で[エリアルジャンプ]を模倣して、
風を固めた足場を蹴りバク宙後のランディングをしながら詠唱を口にする。
着地の勢いで地面の上を滑る体が止まった時、
俺は剣を真上に掲げると詠唱の最後の一節を唱えきる。
「《翠雷無双突っ!!》」
視線は片時も離さなかった。
俺が剣を振り切り剣が視界から下方へ失せた次に映ったガハハ氏は一歩足を前に出していた。
それに他属性魔力が満たされたこの場では発動が一瞬遅れる為、
二歩目を許す間に帯電した雷と発動前の魔法剣の雷でガハハ氏の体のあちこちから翠雷色の電気がバチバチと漏れていた。
次の瞬間。
ガハハ氏の内部から発生した上昇する雷と天から落ちてきた雷に打たれ、
先ほどよりも威力のある痺れに流石のガハハ氏も声を上げる事が出来ず動きを止めている。
「勝者、水無月宗八!」
* * * * *
ガハハ氏はその後、麻痺の状態異常に掛かり喋る事も動く事も出来ないまま、
部下の方々に担がれてこの場を後にした。
「あれでも大したダメージには繋がってないんだろうなぁ」
最後に目が合ったときに「ナイスファイトだ!ガハハハ」と幻聴が聞こえるほどに目力は衰えていなかったのだ。
「次はアナザー・ワンの中で一番歳の若い娘です」
「クレアの護衛もしてるんだし、
サーニャとトーニャが一番若いのかと思っていた」
「最近アナザー・ワンになったばかりなのです。
それに私たちが就任してから初めての就任なので、
4年振りのアナザー・ワンですね」
次の相手はリッカ=二階堂。
この世界に来て初めて目にする東方関係者の顔はまさに日本人と言わざるを得ないが、
実際のところは名前からもわかるようにハーフの女の子だ。
顔立ちは日本人なのに色彩が2Pカラーになってしまっていて、
素直に喜べない悲しさよ。
「よ、よろしくお願いします!」
「お手柔らかに」
「リッカ、クレチア様からメイドノミヤゲを使用せよとの指示です。
本気でお相手しなさい」
「え、えぇ!?ほ、本当に・・・あ、いえ。かしこまりました」
得物は予想通りに日本刀・・・か?
セフィ○スの正宗みたいにクッソ刀身が長い。
コイツの武器も例に漏れず極大剣の一角というわけか・・・、
それにメイドノミヤゲって確か以前にもクレチアさんが口走っていた単語のはずだ。
「始めっ!」
という訳で始まった組み手だったけど、
構えの時点から先ほどまでの性格は態を潜め、
目つきは真剣を通り越して圧迫感が凄まじかった為、
ガハハ氏の時とは異なり開始直後からの突進はやめておいた。
何より隙が無い・・・。
一応周囲を魔力縮地であちこち飛び回って見たものの、
流れるような動きで刺突の構えのまま着いてくる。
別に完全に着いてくる訳では無いけれど、
ひと度飛びかかれば刺突が間に合ってしまうというのが本能的にわかってしまっていた。
「ついでに言えばあの剣のランクが上位過ぎて、
マリエルから借りてるガントレットじゃ正面から受け止められる気がしないし・・・。
ふんっ!」
かといって・・・。
対象を捉えるイメージで手をかざせば、
魔力が混ざった木枯らしが彼女を飲み込み、
手の握りに合わせて氷へと変化してバインドを掛けられる。
だけど、彼女の一太刀で木枯らしの一部は消し飛ぶし、
その一瞬の隙で範囲から逃げ出すあの機動力。
「ちっ!」
間違いなく短距離だけど縮地の類いを技術で使用している。
こりゃ時間掛けていられないぞ・・・。
日本刀を使うキャラクターの情報を頭の中で急いで閲覧し直し、
串刺し・斬り返し・居合いなどおよそ可能だと想定して歩いて近づいていく。
「っ!」
刀が光ったと認識した瞬間には首が持って行かれそうになった。
反応出来たのは奇跡といってもいい。
首との距離1cmのところで改めて光る刀に冷や汗をかいているところで彼女から声が聞こえた。
「取ったと思いましたが」
「一応説明すると、
5cm四方の大きさで空間を固定した盾を造ることが出来る」
「それで防いだと?」
「じゃなきゃ首が飛んでる。
弱点は体から1cmのところにしか発動出来ないことと、
発動させた部位を少しでも動かせば盾も消える。
範囲の広い魔法を防げない等結構穴はある」
いまのが防いですぐにふた振り目に移行していたら間に合わない剣速だった。
こいつは是が非でも戦場に連れて行きたい逸材だ。
「参った」
「え?」
俺の降参の言葉に、
真剣な瞳のまま眉を上げて戸惑いの声を上げるリッカ。
「まだ一太刀ですしこれからではないのですか?」
「お前の剣速に着いていく手段はあるにはあるが、
効果時間は短いしその後組み手が続けられなくなる。
いまの制御力と技術じゃどうにもならんと判断した」
「えっと、私にも弱点があって基本待ちの姿勢でないと強くないんです・・・」
「それは察しているがお前はおそらく防衛を担当する奴だろ?
なら役割分担だから動かず戦えれば問題ない。
動かないお前に俺は勝てない、それで今は十分だ」
こうして、リッカとの組み手は早々に終わりを告げた。
あとから聞いた話だけど、
リッカは動かなければクレチアでも手こずる強さを発揮するのだが、
動きながらだとメチャ長い日本刀に振り回されてまともに斬り付ける事も出来ないらしかった。
それに[メイドノミヤゲ]も見れずに終わってしまったし、
他のアナザー・ワン相手に善戦出来れば見る機会を設けたいなぁ。
* * * * *
いま私よりも年上で、
クルルクス姉妹より年下の新人アナザー・ワンとの試合が終わった。
それもお兄さんが早々に敗北宣言を行ったが為だ。
「まぁ、無理ですよね」
「どうして水無月さんはあんなに早く負けを認めたのですか?」
私の呟きを隣で聞いていたクレアが聞いてきたけど、
クレチアさんはわかっているのか納得顔で頷いている。
「まずレベルによるステータスの差を宗八はスキルで埋めました。
それでもまだ届いていませんでしたが、
加えて武器のランクが違いすぎて正面からの打ち合いが出来ませんでした。
得意の捌きも武器が徐々に斬り飛ばされるレベルです」
「リッカは反応の良さが抜群ですし、
対人戦・・・特に防衛に関しては他の追随を許しません。
それにあの武器は教国で配られるアナザー・ワンの武器ではなく自前の極大剣です。
守護範囲は想像よりも広く固い」
私の補足に背後に立つクレチアさんが、
リッカさん側の情報を付け加えてくれた。
確かにお兄さんの魔力縮地に追いつく気配察知と反応はすごかったし、
短い距離とはいえ縮地を使っていたのには内心驚きを覚えました。
まぁ、最大の理由は経験の差ですけれど。
彼女はまだ若いのに乗り越えた修羅場の数だけでなく、
あの扱いづらそうな武器をほぼ完璧に使いこなしているのが良く分かる身のこなし。
小さい頃から武器を手に鍛えてきた類いの方に対し、
お兄さんはこの世界に来てから武器を手にしたので精々1年でここまで成長した。
修羅場の濃度は明らかにお兄さんが上だとしても、
数や経験はやはりどれだけの時間を費やしてきたかが芯の部分で大事になる。
「宗八だけでなく、
私もマリエルも魔法が無ければどうにもならないレベルの完成度です」
「お褒め頂きありがとうございます。
リッカへは私が伝えさせていただきます」
「あれは才もあれば欠点もある。
まだ姫君の護衛の方が色々と出来る分使いやすかろう」
「宗八であれば一点を極めた方は使い所を決めやすいと言います。
適材適所出来るだけ無能よりマシだそうで・・・」
「あはは・・・水無月さんは厳しいですねぇ」
手も足も出なかったお兄さんのフォローなのか教皇様が口添えてくださいましたが、
あれだけはっきり得手不得手が見える方はお兄さんの好みの人材でしょう。
なんだかシンクロしていないのに、
お兄さんの考えがほんのりわかる様な気がします。
「他国者ですし、アナザー・ワンですし、また女の子・・・」
クレアの苦笑を聞きながらも心はため息でいっぱいでした。
* * * * *
結局その後も数人の枢機卿とアナザー・ワンと戦う機会を得たけれど、
俺の得手不得手がはっきりと分かる散々たる戦果だった。
まず、ガハハ氏のような筋肉ダルマに見えるSTR極振り型相手は得意だ。
相手が騎士ばかりなので鎧もきっちり良い装備を配給していた為、
防御面に関しては全員信頼をおいていたので、
波動を撃ち込めば全員鎧抜きで1発KOに持って行けた。
次に魔法も扱うオールマイティ型だが、
魔法と言っても精々が中級までだし攻撃力も中途半端。
それを理解しているから良く動き回る上に剣の技術も細やかでこれはこれで面倒だった。
実際は汎用魔法の中級なんぞ今更怖くもなんともない。
氷属性ならそもそも制御力で空間を支配すれば発動出来ないし、
火属性なら周囲の魔力を集めて撃ち抜けば消し飛んでお釣りも来るし、
風属性なら周囲の風の動きを読めば回避可能だし、
雷属性なら手に電流を添えて反発するように叩けば逸れる。
剣も俺と同程度という印象だったが、
波動を打ち込めるほどの隙も無かったのでクルルクス姉妹に見せた高濃度魔力のみで行う一閃を近距離で放ち終わらせた。
最後がリッカ=二階堂と同じ剣速めっちゃ速い奴。
まぁあそこまで速いのは、
技術だけで無く日本刀だから斬り返しも半端ないって事なんだけど、
普通の大剣でもSTRが要求ステータスの2倍あれば同じような事が出来る。
故に俺が苦手なのはSTR・AGI型の戦士と判明した。
技術だけであれば負けてはいないので捌けるタイミングはあるんだが、
一番の問題はやっぱり得物のランクであった。
「・・様、・・・・づき様、・・・水無月様!」
「聞こえてる」
「聞こえているのであれば反応をしてください。
もう一度お伝えしますが、最後はクレチアさんとリッカが審判を致します」
「よ、よろしくお願いします!」
ちょっと物思いにふけている間に最後の組み手の準備が整ったらしい。
組み手最後の対戦相手は勇者がする。
クルルクス姉妹が説明をしていた言葉は全て右から左へ抜けており、
話半分という程度で理解は出来ていなかった。
「水無月様はどなたか精霊お一人と共にお願いします」
精霊一人かぁ。
といっても現在の状況的にはアクア一択なんだから悩む必要はなかったりする。
「(おい、アクア。どこ遊びに行ってんだ?)」
『(中庭の空いてるところでノイに相手してもらってるよ~。
あと、ハミングも見学してる~)』
「(今から一緒に組み手に参加してもらうから2人を連れて戻って来なさい)」
『(あいあ~い)』
「こっちは少し来るのに時間が掛かる。勇者の準備はどうなんだ?」
「プルメリオ様も例のアーティファクトの準備があり少々掛かります」
「はぁ?メリオは組み手で空飛ぶつもりなんですか?」
「周りの仲間もお止めになっていたのですが、
探すように指示をした水無月様にお見せする良い機会だと・・・」
アホか・・・。
こっちはアスペラルダ側として、メリオはユレイアルド側として戦うんだから、
連携とかは全く関係ないんだ。
わざわざ見せなくても俺には何の意味も無い。
どっちかと言えば純粋な精霊使いとして、
そして勇者としての戦力を確認させてもらえれば、
その分最適な量をあいつに押しつけることが出来るってものだ。
「メリオがやりたいなら付き合いますけど、
改めて確認しますけど一緒に戦う精霊は1人なんですよね?」
「そ、その通りです。メリオ様はエクス様と共に戦うので、
み、水無月様も同じ条件でお願いします」
「わかりました。
じゃあこっちも色々とやりたいので、
組み手では無く最後はちゃんと模擬戦扱いにしてもらえませんか?」
ふと思いついた思惑を実施する為に念の為確認をしたら、
リッカ=二階堂がメリオと同じ精霊数という条件を守れば良いと言った。
なら、こっちも忘れないうちに魔神族を想定した戦闘をさせてもらおうじゃないか。
「それは・・・教皇とアルカンシェ姫に確認をしなければ決められません」
『(ますた~、アルのとこまで戻ってきた・・・)』
流石に現場だけでは決めてしまうわけにはいかない合同企画なので、
クレチアさんが困り顔で手を頬に当てて悩む振りをしている間にアクアが戻ってきたらしい。
「《召喚》アクアーリィ!」
『よぉ~・・・あり?』
「アクア、アルシェに念話で組み手じゃ無くて模擬戦するって伝えろ」
『あ~い』
「これで確認出来るし、回答はニルがエコーで声を届けてくれます」
「もぉ、仕方ないですね」
がっはっは!
「「「っ!?」」」
おっと、組み手で上がったテンションが漏れちゃったかな。
口角が自然と上がってしまった俺の表情を見て、
クルルクス姉妹とリッカ=二階堂が怯えに見える顔を覗かせた。
若いアナザー・ワンは引いてしまったが、
経験の豊富なおb・・ゴホンゴホン、お姉さんは余裕の表情だ。
口が滑った事は申し訳ないと思っているので、
どうかその怖い表情をお納めください、クレチアさん。
いつもお読みいただきありがとうございます