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特に呼ばれた記憶は無いが、異世界に来てサーセン。  作者: 黄玉八重
第11章 -休日のユレイアルド神聖教国-

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†第11章† -03話-[百人組手という名のナニか]

「ああああぁぁぁ~~・・・ぁぁぁぁぁああああっ!!!」


 人が空を飛んでいる。

 いや、実際のところは飛ばされているのは分かっている。

 自分の隣にはアスペラルダの姫で有り友達でもあるアルシェとその側近の女の子が座り、

 その反対には教皇が真剣な表情で眼下に広がる100人組み手会場を見つめている。


「クレア様。そんなに心配そうなお顔をせずとも、

 あの程度であれば怪我はありませんよ」

「しかし、クレチア。

 組み手は始まったばかりですからあの兵士はレベルが低いのでは?」


 100人組み手とは名ばかりの組み手は、

 レベルが低い者から相手をし始め、

 最終的には我が教国自慢のアナザー・ワンと枢機卿が水無月(みなづき)さんのお相手をすることとなっている。


 組み手は今まさに始まったばかりで、

 水無月(みなづき)さんの攻撃を受けて空を舞っていたのはまだレベルの低い兵士のはずだから心配しない訳にはいかない。


 だというのに、クレチアは問題ないという。


「クレア様は戦闘に詳しくないので今の戦闘を見てもわからなかったと思いますが、

 水無月(みなづき)様は掌底(しょうてい)を放ちましたが実際には当たっておりませんでした」

「当たっていない?ですが、彼は空に飛ばされていましたよ?」

「クレア、お兄さんは精霊使い。

 その属性は水・闇・風・土の四属性に加えて、

 氷・時空・雷・重力の裏も併せて八属性を制御力の許す限り扱えます。

 今のは重力と風を合わせた魔法を使って飛ばしただけなので、

 実際のところダメージはほとんど無いはずです」


 アルシェが優しい顔で解説してくれた水無月(みなづき)さんの動き。

 話を聞いても精霊使いというイレギュラーな存在があるだけで意味がわからない。


「制御力についてはわかりますか?」

「はい、ハミングから聞いています。

 人間が扱う汎用魔法ではなく精霊が扱う形の決まっていない魔法の事ですよね?」

「そうです。

 一応私たち加護所持者もある程度扱えますが、

 精霊使いはその質が上がる事で制御力の扱いがどんどんと上達します。

 あの制御力は風と重力の併用で吹き飛ばしただけで、

 実際彼が負うダメージは落下した時の衝撃くらいです」


 アルシェの説明であの場で何が起こり、

 教国兵士が幾人も空を舞う理由は理解出来ましたけれど、

 今のところ水無月(みなづき)さんの行動は回避を優先にして隙を誘ってからポンポンと兵士を飛ばしているだけに見えます。


「アルカンシェ姫。

 彼は剣を使うと聞いていたのですが篭手も使うのですかな?」


 教皇様がアルシェに質問した内容は、

 確かに私も気にはなっていました。

 フォレストトーレで見た水無月(みなづき)さんの戦闘は魔法剣を用いたものだったはずです。


「基本的には剣を使っておりますが、

 先日の魔神族との戦闘でメインの1本が傷ついてしまいました。

 それも理由のひとつだとは思いますが、

 訓練ということをしっかりと認識しているからこそ、

 今のところ2番目に慣れている戦闘方法で対応しているのだと思います」

「ふぅむ、精霊が居らずともなかなかだと思わんか、クレチア?」

「ひと月で身のこなしが洗練されて回避に無駄が無くなっておりますね。

 制御力も今のところは八属性のうち二種しか使っておりませんし、

 まだまだ準備運動の範囲かと」


 クレチアの解説に教皇様は白い顎髭を撫でつつ頷きながら舌鼓を打ち、

 アルシェは笑顔で返答に応じている。

 たぶんだけど、回避の件で教国で一番強いアナザー・ワンに褒められた事が嬉しく、

 準備運動の件も正解を引き当てた事に対する笑顔なのかな?


「兵士の練度が変わりましたね」

「先ほどまでは司祭、ここからは司教の兵士となります。

 とはいえ、レベルと技術が上がった少し上がっただけですから、

 水無月(みなづき)様であれば苦戦はしないでしょう」


 下町に住む構成員を抜けば、

 先ほどまでの司祭ランクは兵士の中でも最弱。

 クレチアの説明通り私の知る水無月(みなづき)さんの強さならアナザー・ワンにも匹敵すると知っています。

 けれど、精霊と共に戦う姿を見たことがないので、

 実際のところどのくらいの強さを秘めているのか教国は理解していない。


 今日、見れたりするのでしょうか。

 ちょっと楽しみです。



 * * * * *

 お兄さんの100人組み手はどんどんと苛烈さを増していき、

 司祭兵士では準備運動に徹していたお兄さんの要望に答える形で、

 司教兵士の途中から急遽人数を増やして三対一で100人組み手が再開されている。


 この時点で100人じゃないです。


「それでも回避に加えて両の篭手で剣を捌いて危なげ無いのは流石ですね」

「・・・大司祭のレベルはどのくらいですか?」


 教皇のオルヘルム様はお兄さんの戦闘力を褒めてくださいますが、

 いつも訓練をしている私とマリエルにはわかっています。

 お兄さんが遊び始めているのを。

 まぁ、楽しんでくださるなら問題はないのですが、

 時間が一戦毎に時間が掛かるので見応えのある戦闘までかなり時間を要する事になるでしょう。


「大司祭のレベルは60~70に達しており、

 枢機卿に認められた強さを身につけた者となります」


 70だとクレア付きのシスターであるクルルクス姉妹と同じ程度?

 でも、彼女たちはかなり特殊な印象だし、

 強さも我が国の将軍より・・・強いと感じました。


「それはクルルクス姉妹と同等の強さという認識で良いのですか?」

「流石にアナザー・ワンに選ばれる者とレベルが同程度でも、

 強さは段を飛びますから彼女たちの強さは90台とお考えください」

「精霊の契約もなくそれは凄いですね・・・。

 では、兵士がレベル通りの強さなら・・・」


 う~ん。お兄さんどこまでやるかなぁ?


「(アクアちゃん。お兄さんはどこまで出すつもりか確認してもらえます?)」

『(ちょっと待ってねぇ~・・・、

 見た目にはわからないだろうから呼吸まで試すって~)』

「(ありがとう)」


 そういえば昨夜に出来上がった魔石を使うと言っていましたね。

 なら・・・


「大司教までは3人で大丈夫です。

 その上の枢機卿からは一対一が良いですね」

「かしこまりました。そのように指示を出しておきます」

「アルシェ。水無月(みなづき)さんのレベルは現在いくつなのですか?」

宗八(そうはち)は先日の戦闘で51まで上がりました」


 戦闘時間が私よりも長かったおかげも有り、

 少しだけ低かったお兄さんのレベルは私達に追いついた。

 それでもまだ最大レベルの半分ですし、

 お兄さんはいつもの如くジェムを振り分けて居ませんから、

 今後もまだまだ強くなりますよ!


 スキルも独特ですし、私達他の精霊使いとはまた違いますから、

 精霊使いとしての質はやっぱりお兄さんは一線を画しているのでしょう。


「レベル差が約20ある相手を3人ですか?」

「流石に訓練にもならないのではないでしょうか?」


 私の発言に驚きの声をあげたのはクルルクス姉妹。

 クレアの後ろに控えては居たので今ままでの話も全て聞いていたので、

 訓練の域で行うことでは無いと言ったのだ。


「魔法が無ければ無理でしょう。

 ですが、魔法がありその上制御力の扱いに長ける精霊使いですから、

 そのくらいしてもらわなければ私の護衛隊長も勤まりませんよ」


 キリッとした作り顔で堂々と発言しているけど、

 心の中ではお兄さんの心配と応援で結構複雑ですよ!

 護衛として残るマリエルも心配はしていなさそうだけど、

 隊長大丈夫かな?とちょっと疑問が顔に出ちゃってる。


「ん?あ、私は心配していませんよ。

 姫様と同じ気持ちです!

 あれくらいなら私も飛ばすことが出来ますし!」

「マリエルのは当てているでしょ・・・。

 拳ならともかく精霊石を外した状態で蹴り上げたら司祭なんて骨折れちゃうわよ」

「あははは、嫌ですねぇ姫様ぁ~。

 精霊石があっても全力でやれば骨くらい折れますよ~」


 そうじゃない。

 私の親友は出会った時や再会したときは利発だという印象だったのに、

 この1年で幼い精霊達と関わり、考える事は私とお兄さんが担当していたからか、

 なんだかだんだんとお馬鹿になってきた気がする。


 口内に流れてきたため息を口元に力を込めて堰き止め、

 指をくるんっと振って前を向いていなさいと指示を出すと、

 マリエルは素直にお兄さんの戦いに視線を戻した。



 * * * * *

 くいくいっ。


「ん?どうかしましたか、ハミング?」


 テーブルの上に乗って一緒に観戦していた契約精霊のハミングが、

 私の袖口を掴んで何度か引っ張ってきた。


『クレア。一帯の魔力濃度が上がっています』

「魔力濃度?」


 私は聖女であり契約精霊が居ても、

 魔法に関しては素人ですので、

 ハミングの言う濃度が上がっているという言葉の意味もよくわかりません。


『正確には水氷属性の魔力がこの一帯を満たしています。

 その上で濃度が上がってきているんです』

「アルシェ。申し訳なのですが、

 説明をお願いしてもよろしいですか?」


 ハミングの声は私だけでは無く、

 静かに観戦していた隣の教皇にも、

 私たちの後ろに控えるクレチアやトーニャとサーニャもアルシェを見つめている。


 100人以上組み手はもう半分を過ぎていて、

 教国の兵士もどんどんと強くなっていてさらに三対一。

 それでも水無月(みなづき)さんは未だ危なげなく回避を繰り返している理由をみんなも知りたいのだと思う。


「あれは報告書にも書いていた魔石で増幅された魔力と、

 宗八(そうはち)のスキルの力です」

「魔石・・・。

 確かそちらで寝ておられる龍から排出される高純度の物でしたね」

「その魔石に魔法剣と同じく魔法を込めて増幅。

 高濃度になった魔力を周辺に排出しているから一帯の魔力濃度が上がっているのです」


 報告書とは昨日昼食を一緒にした際に渡された物で、

 夜の空いた時間に私も目を通しています。

 でも、魔法の基礎知識が光魔法に集中している私には、

 報告書の文字を読むだけではよくわかりませんでした。


 あ、水無月(みなづき)さんの主な戦闘方法が魔法剣を用いる事というのは知っていますよ!


「感覚は私もよくわかっていないのですが、

 龍の島で高濃度の一閃を使った後は魔力がばらまかれた状態となるのです。

 その状態の戦場で宗八(そうはち)とアクアちゃんが[竜]の姿で戦いを始めたのですが、

 スキルはその時点で獲得していたようです。

 高濃度魔力を水精と同じ呼吸方法で摂取すると、

 筋肉の隙間に魔力が通って密度が上がるそうです」

『アクアと一緒なら魔力に乗れるからもっといっぱい動けるんだよぉ~』


 わかったのはすごく難しいことをしているっぽいという事。

 魔法だけでは無く筋肉の密度なんて言葉が出てくると、

 もう本当にどういうことかわからない。


 隣の教皇は私よりも理解が及んでいるのか、

 顎髭を撫でながらほぉほぉ言っている。

 でも私はわからないんです!

 もっとアルシェと水無月(みなづき)さんの事を知りたいんです!


 視線を自慢の護衛に向ける。


「こう・・・なんと言うのでしょうか・・・。妹っ!」

「えっと・・・、とっても力持ちになった・・・という事かと」

「???」


 そうでした。私の自慢の護衛の姉妹は言葉数が普段少ないので、

 こういったかみ砕いた説明は下手くそなのでした・・・。


「貴女たち・・・聖女のアナザー・ワンが2人共って・・・。

 代わりに私が説明いたしますが、

 彼の見た目の筋肉量がこの・・・片手剣とします」

「はい」

「しかし、密度が上がると・・・実際はこの[グラム]のようになります。

 筋肉が足りなければいざという時に体が動かないのですが、

 これほどの筋肉が有り体の扱いに長けていれば、

 無理な運用も動かす速度も全く違ってきます」


 なるほど。

 見た目は確かに細身の水無月(みなづき)さんですから、

 回避に特化していると伺っています。

 その体の筋肉量が見た目と違って上がっているのであれば、

 確かにSTR極振りの相手でも引けを取らないのかもしれません。


「本領を発揮するのは[竜]の姿ですし、

 あのスキルもどの程度の条件や上限があるかもわかりませんが、

 今わかっていることは濃度の薄い魔力では意味が無いと言うことです」

「薄い魔力では意味が無いのはなぜですか?」

「詳しいところはアニマ様しかわからないと思いますが、

 おそらく精霊使いとして体が精霊に近くなっているのだと考えています」


 またアルシェの話がわからなくなりました。

 アスペラルダは魔法の研究がすごく進んでいるのでしょうか?

 そんな情報は無かったと思いますし、

 あったとしたら同盟国となっている教国に教えているはず。


『アルシェ様、クーが説明してみてもよろしいですか?』

「お願いします」


 そこへ私たちの会話を静かに聞いていた小さなメイドさんが説明に立候補した。

 アルシェの許可をもらったクーデルカちゃんは、

 足下から生えてきた黒くて角張っている大きな手に乗り目線を合わせてくれる。


『冒険者の職業は続けていると質が上がっていきます。

 戦士は剣速や身のこなし、魔法使いは発動速度や同時発動などです』


 うんうん。それは勉強した中にあった。

 私の場合はどちらでもないけど、

 どちらかと言うと魔法使いに属するらしくて、

 回復速度や効果範囲の上昇が見込めると先代からは聞いている。


『精霊使いの場合は、

 本来精霊にしか扱えない制御力を扱えるようになり、

 契約している精霊と共に新しい魔法の開発など一般的な職業とは色々と違います』


 あれ?私もハミングと契約しているから一応精霊使いだよね?

 新しい魔法の開発って昨日アルシェと水無月(みなづき)さんに脅さ・・・、

 依頼された奴の事だよね。

 私の状況だと二重職業になると思うんだけどどうなるのかな?


『お父さまは現在クーを含めて5人の精霊と契約しています。

 これは一般的な精霊使いが純粋に成長した喋ることの出来る精霊と契約するのに対し、

 核を用いた強制加階(かかい)をさせた浮遊精霊(ふゆうせいれい)と契約しているから成せる数なのです』


 ほぇ~。ハミングと契約するときも言われるがままに核を使いましたけど、

 私も精霊使いとして成長出来ればもっと多くの精霊とお喋りするとこと出来るようになるのでしょうか?


『精霊使いとしての質が上がれば契約できる容量が増えます。

 そして制御力も扱える幅が増えていき、

 現在は以前よりも体が精霊との親和性が上がっているのです』


 質が上がり親和性が上がると[シンクロ]と呼ばれる技術が使えるようになって、

 ハミングの考えている事や視界などを共有できると聞いています。

 改めて話を聞くと精霊使いの数が少ない理由や異質さが、

 私だけではなくこの場にいるみんなに理解が広がっていくのがわかります。


『精霊は空気中に存在する属性魔力を吸う為の呼吸を、

 それぞれの属性に合わせて行います。

 普通は濃度が薄いので特に体に影響はないので、

 お父さまのスキル[精霊の呼吸]も普通の濃度では密度に変化はありません。

 しかし、高濃度となれば精霊でも影響を受けるので、

 お父さまも密度が上がる結果に繋がったのだと思います』

「彼に何が起こっているのはわかりましたが、

 精霊が高濃度魔力を吸った場合はどんな影響を受けるのですか?」

『精霊は体が魔力で出来ています。

 以前自然魔力の噴出スポットで魔力を吸った際は死にかけた事から、

 扱える濃度であればお父さまの様に体を強化出来ますし、

 扱えない濃度であれば毒となります』


 クレチアの質問にもクーデルカちゃんは答えてくれました。

 本当に精霊と同じ事が水無月(みなづき)さんに起こっているのですね。

 私は彼が1年前に異世界から来たと神託の本当の意味で知っているので、

 その努力も成長率も常識的ではないことを察しました。

 アルシェはずっと彼に着いて行動していると聞いているから、

 きっと彼女も置いて行かれないように努力を重ねたのだと自然と理解でき、

 2人に強い尊敬の念を覚えた。


 視線をアルシェとクーデルカちゃんの2人から離して、

 再び組み手会場へと戻すと、

 あと数組で枢機卿との組み手に進むところであった。

 今も大司祭3人を相手にギリギリの戦闘を繰り返し、

 それでも攻撃は全て回避していまのところ一度として攻撃を受けていない。


「・・・そこまでしないと魔神族とは戦えませんか?」

「そこまでしても勝てませんでした。

 先日は偶然発動したスキルでしたが、

 拮抗が良いところで勝ちの目は高濃度一閃のみ。

 しかし、武器の強度が威力に負けていて連発も出来ませんでしたし、

 反動もあってまだ扱いきれる代物でもありませんでした」

「発言よろしいですか?」

「うむ、許可します」


 クレチアの顔を見て私はびっくりした。

 いつもは戦闘も笑いながら行う彼女が見たことのない厳しい表情で、

 アルシェに魔神族の事を聞いていたからだ。


 その時、アルシェの護衛をしているマリエルがまた口を開き、

 教皇が発言に許可を与える。


「魔神族は個々が大変に強力なのもありますが、

 個体による能力が多岐に渡ることも対応に苦慮する原因です。

 アポーツ、死霊使い(ネクロマンサー)、怪力、時空使い、召喚魔法。

 能力によっては強力な手下も造り出したり召喚したり致しますし、

 魔法タイプの魔神族には騎士となる魔神族が付く場合もあるそうです」

「敵の言葉ですが、2人相手が出来ないなら逃げ回った方がいいそうです」


 マリエルさんの言葉は流石に戦いを経験した人の発言で、

 疑う余地のない真実味が理解できました。

 それにトーニャにサーニャ、クレチアの表情が優れません。


「トーニャ?サーニャ?何かあるのであれば言ってください」

「はい、クレア様。

 私たちはクレア様への態度から水無月(みなづき)様を好ましく思っておりません。

 しかし、実力に関しては認めております」

「あの戦闘力もレベル50の冒険者ではあり得ないですし、

 魔法剣の可能性にしても新しい魔法にしてもある種尊敬出来ます。

 ですが・・・・」


 途中で区切るサーニャ。

 その続きはなかなか聞こえて来ず、クレチアが代表して口にしてくれた。


「レベルは50、戦闘力は枢機卿並み、精霊を纏えばそれ以上になる。

 ここまで常軌を逸した存在である彼ですら魔神族に勝てないのであれば、

 まともに魔神族の相手が可能な者など何人いるのか・・・。

 本当に破滅からこの世界を守れるのか・・・。

 アナザー・ワンとして、強者として、

 世界の危うさを私たちは今正しく理解したのです、クレア様」



 * * * * *

 ようやく教国の強者達が魔神族の強さを想像出来る段階まで来ました。


 魔神族の強さと現状どれだけ追い詰められているのか。

 伝えたかった部分はどれだけ言葉や文章で伝えても、

 埒外の存在である魔神族や破滅がどれほど危険なのか、

 そこのところはどうしても伝わりづらい。


 本当に理解の芯に迫る為の材料が揃って本当に良かったです。

 ただ気になるのは、

 破滅の呪いが1年前に比べると弱まっているような感覚があることですね。


 お兄さんの計画で、

 勇者メリオ様と聖女クレア様には精霊使いになっていただき、

 破滅の呪いの効果外の存在になってもらいましたが、

 材料が揃ったからといってクレチアさん達が魔神族の危険性を認識したことを素直に喜べない自分がいます。


 もし本当に弱まっているのであれば、

 それは破滅が順調に進行していることに他なりません。


「アルカンシェ姫殿下(ひめでんか)

 これから枢機卿、勇者プルメリオ様、アナザー・ワンと続きますが、

 全力で行かせていただいてもよろしいですか?」

「こちらはかまいませんが・・・」

「クレチアよ、これは組み手。訓練の一環であろう?」


 そう、お題目は訓練なので全力で戦う必要が無い。

 これは模擬戦では無く、あくまで組み手。


「オルヘルム様。

 水無月(みなづき)様の戦闘力の上限を同盟国として見極めることを進言致します。

 こちらも全力で戦闘することで個々の成長度を見て、

 フォレストトーレでの配置などを変えなければならないでしょう」

「ふむぅ・・・なるほどな。

 私は事務が主な仕事であるし戦場も離れて久しい。お前に任せる」

「ありがとうございます。

 アルカンシェ姫殿下(ひめでんか)もよろしいですか?」

「えぇ、先ほども伝えた通りかまいません。

 ただし、全力で戦う事とその変更理由についてはきちんと宗八(そうはち)に話してくださいね」

「かしこまりました。

 クルルクス姉妹はクレア様の護衛を一時離れ組み手に合流しなさい。

 説明のついでに訓練も行ってきなさい」

「「かしこまりました」」


 なんだか事が一気に動き出したような感覚ですね。

 マリエルも行きたそうにウズウズしているけれど、

 流石に同盟国だからといって護衛を全て剥がすわけにもいかないし。

 信頼をしていてもクレチアさんだけで私たち3人を守るには厳しい。


 ごめんね、マリエル。


 とりあえず、ここまでお兄さんが考えた段取りに沿って話を進める事が出来ましたね。

 元の世界から言葉巧みに人を動かして楽をするのが得意だったと言うだけはあります。

 でも、組み手相手が全力で事に当たる事は流石に計画外でしたから、

 お兄さんも飄々とした顔で話を受けても内心は忙しいでしょうね。


『マスターに火が付いたです』

「ここまでの戦闘でお兄さんの体も心も解れましたからね。

 そこへ本気で挑んでくる枢機卿やアナザー・ワン、勇者が相手となればそうなるでしょう」


 ノイちゃんだけではなく、

 お兄さんの闘争心の変化には契約している全員が気がついた様子です。

 その中でもやっぱり長く戦闘を担当していて、

 お兄さんとの繋がりがもっとも強いアクアちゃんの目の色も変わっていて、

 その様子に気が付いているクーちゃんがアクアちゃんをいつでも止められるように意識を張っているのがわかります。


「アクアちゃん、駄目ですよ」

『えっ!だ、だいじょうぶだよぉ~。

 アクアは何もしないよぉ~』

『いえ、今にも戦いたいという瞳をしていましたよ、お姉さま』

『はぁ・・・、どうしても体を動かしたいのであればボクが相手をするです。

 クーはメリーの代わりにアルシェの侍女をする必要があるし、

 ニルもいざとなればマリエルと一緒に対処する必要があるですからね』


 お兄さんから守りの要としてこちらに残されているノイちゃんですが、

 ここから組み手が模擬戦の様相に変わるなら、

 お兄さんに感化されやすいアクアちゃんの幼い精神では衝動は収まらないと判断しての発言でしょう。


 一応視線をこちらに向けていいか?と確認もしてくれる。

 サブマスターでもない私に確認をする辺りがお兄さんの教育の成果が現れていますね。


「かまいません。

 アクアちゃんの相手は大変ですが、お願いします」

『オプションの[聖壁の欠片(モノリス)]がなければやるとは言い出さなかったですけど、

 マスターの成長にボク達も着いて行かなければならないですからね』

『ありがとう~アルゥ~!

 やったぁ~!ノイ、ノイ!早く広いところに行こう~!』


 子供らしくはしゃぐ様子に皆が微笑ましい笑顔になりますが、

 この後お兄さんの戦闘が激しくなる毎にアクアちゃん達の訓練も激しくなるので、

 それを見た教国のシスターや兵士の方々の心境をお察し致します。


『・・・クレア』

「どうしました、ハミング?」

『ハミングはアクアさん達の見学に行きたいです。いいですか?』

「珍しいですね、ハミングがそんなことを言い出すなんて・・・。

 アルシェ、着いていっても大丈夫ですか?」


 アクアちゃん達の空気に中てられたのか、

 貴族令嬢のようにほんわかしている光精のハミングがクレアにお願いをし始めた。

 その願いを聞いたクレアの確認が私に来たけれど、

 実際にハミングの世話をする事になるのは・・・。


『絶対ボクの近くから離れないと約束するならついでに守ってあげるです』

「だそうです」

「・・・ハミングが行きたいならかまわないと思いますよ。

 私は貴女の意思を尊重します」


 ノイちゃんのついでの部分に不安を感じた様子のクレアだけれど、

 ハミングが自分と同じで現状を打破しようと思い行動したのだと理解してか、

 最終判断をハミングに決めさせる。


『行きたいです』


 その後、クレチアさんに指示をされたシスターに案内されて、

 アクアちゃんとノイちゃん、そしてハミングは離れていった。


「アルシェ、子供達だけで大丈夫なのですか?」

「アクアちゃんは理性がありますし、

 ノイちゃんは冷静で守る事に特化した精霊です。

 ハミングも幼いながらに意思ははっきりとしていました。

 問題は無いでしょう」

「そうですか・・・」


 どうせシスターや兵士が周りに配置されるでしょうし。

 クレアはそういった采配の部分をまだわかっていなさそうですね。


 さぁ、お兄さんが枢機卿を数人倒したようですし、

 そろそろアナザー・ワンとの訓練が始まりそうです。

いつもお読みいただきありがとうございます

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